空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

お受験(24)・『僕らはみんな河合荘』は必読デス!

 二次会を途中で帰る時、ミカちゃん達には挨拶をしてお礼とお詫びもしたけれど、リホさんには最後まで声もかけないままでさ。
 そしてその後も、リホさんとは二度と会うことも話すことも無いままだよ。
 けど「黒沢にとって最高の女性はリホさんだった」って思いは、今に至るまでずっと変わらないよ。ホントにどーしようもない中二病のガキだった黒沢を理解して支えてくれていたのは、ホント彼女だけだったんだよ。
 しかも顔もキレイで性格はサバサバ系、そして女のイヤな部分や面倒くさい部分も無くて、ただ彼女ってだけでなく最高の親友にも出来ちゃう、って感じ。

 いろんな女の子に痛い目に遭わされて学習も積んできた今なら、「パーフェクトじゃん、何の不満があるんだよ?」ってトコだけれど。
 なのに坊やだった昔の黒沢ときたら、そのボーイッシュでサッパリした部分を「女って感じがしねーし」みたいに思っちゃってさ。で、真逆の“女度が高くてタチの悪いの”にばかり引っかかってマシタ。
 例えばユルフワ天然系を装った、実は性悪ビッチな男ハンターとか。あるいは安野もよこさんが『花とみつばち』で描いた“長沢チャン”タイプの、地味系の可愛い外見とは裏腹に、実はかなり計算高くてシタタカな子とか。

 まーそれで痛い目にはイヤというほど遭いはしたけれど、それは黒沢に女を見る目が無かったせいで、誰を責めるワケにも行かないのだということは、自分でもよくわかってる。
 でもだからこそ、自分が失ったものの大きさはよくわかってるし、リホさんの値打ちを見抜けなかった昔の自分を恥じて悔やむ気持ちを、今もすごく強く持ち続けてるんだ。

 前にも話したように、黒沢が大人になってからギャルゲーにハマってしまったのは、「恋愛時に、自分がどう行動するか?」を分析するのが面白くてならなかったからなんだ。

 小中学生の頃に出逢った初恋の相手と両思いになって、お互い心変わりひとつせずそのまま結婚&出産みたいなのって、ある意味理想の恋愛かも知れない。
 でもそういう人達って、人間の業や人生の苦みを知らないまま大人になっちゃうと言うか、「想いは通じる、願いは叶う」みたいな、建前やキレイゴトが好きな、精神論を真顔で口に出来ちゃうちょっとウザい人になりかねないような気がする。
 負け惜しみでなく言うのだけれど、血を吐く思いをするような失恋からも学ぶ部分がある」と言うか、失恋の痛みも知っている方が、順調な恋しか知らないヤツより、人としての深みも出て来ると思うよ。
 いくら想っても届かぬ気持ちもあるし、どんなに好きで頑張っても振り向いて貰えないこともある。その現実や痛みを知っている人の方が、「信じる気持ちが何より大事で、思いはいつか通じて願いは叶う」みたいな“真っ直ぐ”なヒトより、少なくとも黒沢はずっと好きだな。

 とは言うものの、ただ普通の片想いでの失恋ならともかく、信じていた人間にこっぴどく裏切られるような失恋を繰り返すとね、その後の人間観や女性観(男性観)まで変わると言うか、その人の人間性まで主に悪い方に変わりかねないから要注意なんだよね。
 例えば「信じていた友人に、大切な彼女を寝取られる」とか。
 あるいは「本気で惚れた相手に、その気持ちを利用されて散々貢がされた挙げ句、ゴミクズのように捨てられる」とか。
 そういうリアルな恋愛では当たり前のようにある痛い失恋を、イヤと言うほど繰り返してごらん人は皆クズで、友達も彼女も心から信じたら最後、裏切られて自分が傷つくだけ」みたいな、黒くて歪んだ人間観に至ってしまいがちだよ。
 だから実際の恋愛で失恋を繰り返すとさ、その後の人生が狂いかねないくらいのダメージを受けてしまいかねないんだ。

 また逆に「自分がバカだったせいで、本当に大切な人を傷つけてしまった」みたいなパターンでの失恋でも、その後の人生にずっと悔いを残すことになっちゃうしね。ちょうど黒沢が、リホさんとのことを今もまだ悔やみ続けているように。
 けどギャルゲーなら、たとえどんなバッドエンドを出しても、誰も傷つくことは無いワケで。

何処へ行くのあの日~光る明日へ・・・~ (通常版)何処へ行くのあの日~光る明日へ・・・~ (通常版)
(2005/02/24)
PlayStation2

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 まあKID社が手がけたメモリーズオフ・シリーズとか、『何処に行くのあの日』とか『君が望む永遠』とかさ、結末によっては心がズーンと落ち込んでしまうような鬱ゲーもあるけどさ。それでも一晩寝れば、ちゃんと元通り元気になれるしね。
 それに「うわ、これはマズい、バッドエンド確定だぜ」とか思ったら、電源ボタンに手を伸ばしてリセットするという奥の手もあるワケで。そこがギャルゲーの、迫り来る辛い現実から逃れられない三次の恋愛と違う良い所なんだよね。

 その「バッドエンドでも傷つく人が(現実には)誰も出ない」って利点を生かして、ギャルゲーをバンバンやって“失恋”も繰り返してみるとさ、自分が恋愛する時のクセと言うか弱点が、ホントよく見えてくるんだよ。まるで自分の恋愛スタイルを、もう一人の自分が外から観察でもしているようにね。
 例えば黒沢で言えば、「周囲の人達とか置かれている状況とか、彼女以外のことを見過ぎるくらいの、醒めているのと紙一重の大人な対応をとりがち」で、そのくせ「喧嘩になった時に自分から誤解を解こうとする努力が足りなくて、そのまま決裂してバッドエンドに一直線」とかね。
 黒沢も自分が現実の恋愛で「彼女は出来るのだけれど、いつも長続きせずに結婚話には至らない」理由に、ギャルゲーをプレイしてみたおかげて初めて気づかされたよ。冷静で大人と言えば聞こえは良いけれど、「オレにはオマエしか見えないんだ!」みたいな情熱が足りない上に、自分が悪くなくて喧嘩した時には絶対に折れられない……ってやつね。

 ただ黒沢は現実に女の子と付き合った経験がある上で、実際の恋愛を意識しながらギャルゲーをやっているからさ。そのせいかギャルゲーマー達に人気のキャラって、大抵キライなんだ。
 特にメインヒロインに多い、「ユルフワ系でちょっと天然も入ってて、女らしくて可愛い」みたいなタイプ、どうしても好きになれなくてさ。
 まっ、ただ好みの問題と言うか、性に合わないってだけの話かも知れないけど。それでも生身の女性といろいろ恋愛してリアルに痛い目に遭ってきた者としては、「こーゆー女がもし実在したら、まず間違いなくブリの皮を被った地雷女だから」ってピンと来ちゃうからね。

 先程も触れたけれど、「ユルフワ天然系で女度の高い子は、実は九割方は男ウケを狙った邪悪な男ハンターとか、「地味で可愛い系の子は、実はかなり計算高くてシタタカ」というの、リアルな恋愛という残酷な戦場で負け戦を続けてきた黒沢の経験でも、ガチで本当だから。
 それがわかっているから、ギャルゲーのヒロインに多い「ホンワカした天然系の女らしい子」って、何か生理的に受け付けない部分があるんだよね。
 で、ギャルゲーで黒沢が気合いを入れて攻略にかかっちゃうのは、サブキャラ扱いに近い「サバサバしていて女らしさは表に出さず、普段は明るく元気でフレンドリー」ってタイプばかりなんだよね。容姿もたいてい、黒髪ショートのボーイッシュな感じで……。
 ……察しの通りだよ。黒沢は間違いなく今も、理想の女の子にリホさんの面影を追い続けているよ。

 自戒も込めて言うのだけれど、彼女いない歴=実年齢の男子の、女を見る目の無さ」って、ホント悲しいくらいのモノがあるよ。
 繰り返し言うけどさ、ギャルゲーでオタに人気のヒロイン達って、「現実にはあり得ないキャラ」と言うより、「男を手玉に取り慣れた腹黒ビッチが偽装する、典型的な“可愛い”女の子」ばかりだから。そしてこのテのヒロインに限って、ネットのゲーマーのレビューとかでは高評価なんだよねぇ……。
 あーあ、こーして男は性悪ビッチの餌食になって行くんだなぁ……って、ギャルゲーをしていて時々泣きたいような気持ちになってくるよ。

僕らはみんな河合荘 1 (ヤングキングコミックス)僕らはみんな河合荘 1 (ヤングキングコミックス)
(2011/05/30)
宮原 るり

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隣のネネコさん』や『恋愛ラボ』などで知られる宮原るりさんの作品に、『僕らはみんな河合荘』ってのがあってね、コレは年齢を問わず恋愛経験の少な目な男子諸君にぜひ読んで欲しいな。男ウケのする“可愛い女の子”の正体が、ホントによくわかるから。
 ま、話としては「河合荘という下宿屋で一人暮らしを始めることになった、平凡で気の良い高校生の男の子が、無口で読書好きなツンデレ少女や、年上のオネーサンや、可愛い系の女子大生などと同居ることになって……」という、ギャルゲーなんかにありがちな設定なんだけれどね。

 まーね、メインヒロインの律ちゃんはいかにも男性読者のウケを狙ったと言うか、「二次のセカイでは珍しくもないけれど、現実の世界にはまず存在しねーだろ」ってツンデレさんだし、ヨッパライで男を見る目ナシの麻弓オネーサンもイロモノって感じだから、黒沢的にはどーでも良いのだけれど。
 ただ残る渡辺彩花サンのキャラが、ホントに秀逸なんだよ~。見かけはホンワカ、ユルフワ系の可愛い子で、でも実は何もかも計算ずくの凄腕男ハンター……っていう。

 女子大生の彩花サンは、サークルの仲間とかと飲みに行ったりするワケ。でも「酔っちゃった」とか言ってベタつくとかの、ありがちな“安い手”は、彼女は絶対使ったりしないんだよね。
 まず目をトロンとさせて、僅かに唇も開いてぽやぁんとした顔をして。そして両手で持ったコップは、胸の前あたりに。
 そして気づいた周りの男に「酔った? 大丈夫?」と聞かれたら、ぽーっとした目で小首を傾げて、飛びきりの笑顔で「酔ってないよぅ~」って。
 そしてボディタッチをさりげなく増やし、特に立ち上がった時や靴を履く時には、ふらついて抱きついたりするのだけれと、もちろんその時には相手もキッチリ選んでね。

 ……彩花サンのこの手口、「俺ならちゃんと見抜けるし、絶対引っかからないゼ!」と言い切れる男、どれだけいるかなぁ?
 詳細は実際に作品を読んでみて欲しいのだけれど、彩花さんの凄腕ぶりのほんの一例を挙げてみれば、まあこんな感じデス。
 この彩花サンを、同じ河合荘の下宿人の麻弓オネーサンは「女郎蜘蛛」って評しているのだけれどね。今の黒沢ならともかく、十年前の黒沢だったらまず間違いなくチョロく引っかかってたと思うなー、その女郎蜘蛛サンに。

 ①彼女いない歴=実年齢かそれに近い。
 ②ちょっと天然入った、女度高めのユルフワ系の子が好き。
 ③男の子向けのマンガやギャルゲーのメインヒロインは、たいてい素直に好きになれる。
 以上の条件に一つでも当てはまる男子は、この『僕らはみんな河合荘』、ぜひ読んでみて欲しいよ。この黒沢みたいに、まんま彩花サンみたいな悪女に手玉に取られた挙げ句に大火傷して、女性不信&人間不信に陥ってしまう前に。

 黒沢みたいに恋愛でいろいろ修羅場を潜って女の子の裏の顔とか見て来た男だったら、もはや芸の域にまで達している彩花サンの裏と表の顔と態度の使い分けも、きっと「わかるわかる、こーゆータイプのオンナって案外いるんだよな」って、苦笑いしながら読めてしまうと思う。
 けど恋愛経験が浅くてまだ女の子に夢を抱いている男子たちは、多分「ウソだぁー、ありえねー、作者は女だから僻んで、モテる可愛い子をわざと悪く描いてるに違いないっ!」とか叫び出したくなるんじゃないかな。そこまで行かなくとも、「いや、これはいくら何でも、大袈裟に話を作り過ぎでしょ」とかね。
 違うね。作者の宮原るりさんは女性だからこそ、男には見せないオンナの真の姿をリアルに、そして笑いの底にちょっぴり背筋が凍るような怖さを潜ませながら描き出しているんだよ。

 まだ純な男の夢やロマンを壊すようで悪いけれど、ズバリ断言するよ。この彩花サンみたいな腹黒ビッチの男ハンターって、三次の世界には間違いなく、「そう珍しくもなく」存在するから。
 事実この黒沢も、件の「ユルフワ系を装った悪女」に遭遇して、その後の人生が変わるくらいのこっぴどい目に遭いマシタから。
 で、その女郎蜘蛛タイプの悪女に手玉に取られた挙げ句に、黒沢はただ自分が傷ついただけでなく、リホさんという最も大切な人を永遠に失ってしまいましたとさ。

 綺麗事でなく本気で思うのだけれど、恋愛で過去に自分を傷つけた相手に対する最大のメシウマの復讐って、殴る蹴るとか罵詈雑言を浴びせるとかのいわゆるDQN返しをすることじゃないと思う。それより「あの時アイツを離したりせずに、もっと大切にしていれば良かった」と死ぬほど後悔させることの方が、相手にとってももっと痛いんじゃないか……って気がするよ。
 だってさ、「何であの時、あんな真似しちゃったんだろう。俺はホントに馬鹿だった」みたいな思いって、その後もずっと自分を責め続けるじゃん。

 だからさ、ヒドい裏切られ方をしてフラれたからって、別に仕返しに行ったりストーカーまがいの真似をするとかして執着するコトないんだよ。そんなことしたところで、ただ自分に犯罪歴をつけるだけの話でさ。
 それより自分磨きに精を出して、相手に「しまった、あの時何でアイツをフッちゃったんだろ」って後悔させた方が、綺麗事でなく結果的にずっと効果的な復讐になるよ。
 現に黒沢だって、例の『僕らはみんな河合荘』の彩花サンみたいな女郎蜘蛛みたいな女の子に惑わされた結果、リホさんを深く傷つけて絆を断ち切ってしまったことを、今もまだ悔やみ続けているし。

 もしアズサになど目もくれず、ずっとリホさん一筋でいたら。
 一緒に受験勉強して、一緒に東京に出て同じ大学の同じ史学科に通って。そしてそれから……。
 もし自分に、正しく女の子を見る目があったなら。そしたらあり得たかも知れない、また別の未来が繰り返し脳裏に浮かんでは、今も胸が苦しくなってやり切れない思いになるよ。

 ところで、もしかしたら覚えている人もいるかな。幼なじみについて触れた章の末尾で、黒沢はこう言ったよね。
 次の話がもし中学時代のイタい失恋話ではなかったら、「逃げたな、このチキンめ!」と笑ってやってくれ……って。
 ハイ、お察しの通り逃げて、違う方面のコトをダラダラと書き連ねてしまいマシタ。

 太宰ではないけれど、黒沢の半生なんてホントもう「恥多きアレ」の連続デシタ。中でも中学三年生の時のアズサとのコトと言えば、それはもう黒沢の黒歴史の頂点というか、真っ暗闇としか言えないくらいド暗黒なソレでさ。
 だからその時の出来事は、まだ誰にも話したことも無ければ、ヒミツの日記にだって書いたことも無いんだ。本当にもう、できる事なら記憶から消し去りたいくらい辛い思い出だよ。
 けど黒沢の恋愛観や人間観やその後の生き方まで思い切りへし曲げてくれた一件だけに、忘れようにもどうにも脳内のHDDから消えてくれなくてさ。
 そのアズサとのことだけれど、受験の思い出からリホさんとのことまで書くうちに、何か覚悟が決まってきて、話しても良いような気持ちになってきたよ。
 で、ずっと前にも予告した黒沢の中学時代のイタ過ぎる失恋のコトを、今度こそ話すね。

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お受験(23)・生まれて初めての泥酔

 その同窓会は盛況で、一次会には三十人以上の人が来ていてさ。だからリホさんやアズサから離れて顔を合わせずにいるのは、そう難しい事じゃなかった。
 昔ちょっと仲の良かった誰かを捕まえて、「おー、久し振り。どうしてる?」とかやっていれば、会いたくない相手とは近づかずに済むし。
 アズサとは部屋に入るとすぐに目が合って、アズサは僅かに嘲るような微妙な笑みを浮かべ、そして黒沢は感情を凍らせて無表情を作って目を反らせたよ。そして背を向け、幹事のミカちゃんと話ながらその場を離れて、本当にそれっきり。
 わざと見せつけるつもりか、アズサがそう遠くない所で、取り巻きの男子たちと談笑してるのもチラリと見えたよ。けど心底「どーでもイイし、勝手にすれば?」って思ってた。
 リホさんの方は……黒沢に気づいたのか気づかないのか、スワさんとかイケヤマさんとか、昔の女の友達に囲まれてずっと話し込んでいて、黒沢の方には顔も向けなかったよ。

 リホさんについてはね、姿を見るとまだ胸が痛んだよ。
 けどアズサとのこともリホさんとのことも、今となれば過ぎた昔の話だし。それに来ちまったせっかくの同窓会の空気を悪くしたら、わざわざ気を使って呼んでくれたミカちゃんやユカさんに悪いと思ったし。
 だから黒沢は、もー居直って酒を飲みマシタよ。そしてマツオとかの昔よくつるんでいた連中ではなく、「放課後や休みの日に一緒に遊びに行ったりはしなかったけど、教室ではそれなりに喋ってた」という感じの、そこそこ仲が良かった奴らと、「よー、元気か、今どうしてるよ?」みたいな話を続けてたよ。

 傍目には、その晩の黒沢はきっと明るく楽しくやっているように見えたんじゃないかな。まあムスカ大佐モドキだった黒沢も曲がりなりにも成人して、東京でいろいろバイトとかもして、愛想の良い面白い人のフリをするのも上手くなっていたしね。
 だからその晩の一次会では、リホさんやアズサやマツオとかを除く、いろんな元クラスメートといっぱい話をしたよ。
 でもリホさんやアズサがそこにいるという事は、ずっと頭の中にこびりついていて、片時も意識から離れてくれなかった。
 だから黒沢はあえて二人を視界から外して、もー酒を飲んでは近くの誰かと喋ってばかりいたよ。ただ同じ部屋に居るだけで蘇って来るリホさんやアズサとの思い出を、忘れるのは無理にしても出来る限り遠ざける為に、ね。

 実は黒沢は、アルコールにはかなり弱いタチでね。例の「遺伝子的にアルコールが分解しにくい」ってヤツだよ。
 もうね、日本酒なら一合、ビールでも中ジョッキ一杯で真っ赤になっちゃうくらいでさ。
 そしてまた黒沢の父親というのが、飲むと人が変わって荒れてしまうタイプだったから。そういう酒乱の父親がいる家庭で、幼い頃から飲む父に怯えながら育ったものだから、酔っ払いに対するトラウマというか生理的な嫌悪感もあるんだよ。

 よくさ、「酒は飲んで吐いて強くなるものだ」とか言って、体質の問題をいくら説明しても、理屈抜きで飲むことを強要する人とかいるじゃん? そーゆー奴を見ると、肚の奥からこみ上げてくる怒りと憎しみで、本気で殴りたくなってしまうよ。
 それと、「そんなにお酒に弱いなんて、男なのにだらしないゾ」とか言う人達が、男女問わず少なからず居るよね。そういう人達に黒沢は言いたいよ、「じゃあ精神病院にいる廃人寸前のアル中患者さん達こそ、男らしい英雄さん達……ってことになるよね?」って。

 だから飲み会って、黒沢は本質的に好きじゃないんだ。酔っ払いの愚かさと醜さも、酒がいかに家庭や人間関係を壊すかも肌身にしみて知っているから、「飲まなければ築けないような人間関係なんて、所詮クズで偽物」って思うしね。
 シラフでは本音を話せないなんて、それこそ「本当に心を許して信頼してる仲じゃない」って証拠だと思うよ。
 けどその同窓会の晩だけは、どうにも飲まずには居られなかった。しかも無茶に近い飲み方をしても、何故か殆ど酔えなくてさ。
 だから「二次会、行こうか?」って声がかかった時も、即座に「おー、行く行く!」って応じたよ。

 一次会には広い部屋いっぱいになるくらいに集まってたメンバーも、二次会では意外に減っていてさ。
 そのまま帰ったのか、別のメンバーで違う店に行っていたのかは、黒沢にはわからないけれど。ただその二次会に行ったのは、幹事や黒沢も含めてせいぜい十人といったくらいだったかな。
 幸いと言っては何だけど、その十人の中にはアズサもマツオも居なかった。ただ一緒に行った中には、リホさんとその親友のスワさんもいたけれどね。

 でも別にそれは構わなかったんだ。アズサとマツオについては、思い出すだけで毒薬を舐めさせられるような苦さが口の中に広がって来ると言うか、世の中から消えてくれれば嬉しいくらいの感情を抱いていたからね。
 けどリホさんに対する気持ちは、それとはまるで違ったから。
 そのあたりの複雑な思いを言葉で表現するのは、とても難しいのだけれど。微妙なニュアンスまで伝わらないことを承知の上で、あえて言うとすれば──。
 二度と巻き戻すことの出来ない過ぎ去った時を悔いる、胸を締め付けられるような苦しい思い……とでも言えば良いかな。

 二次会の会場はそう広くもないスナックで、リホさんは黒沢の向かいの席に座ったよ。
 けどね──。
「久し振り、元気?」
 その一言が、黒沢の口からどうしても出て来なかった。
 それどころか、向かいの席のリホさんと目を合わせることさえ出来なかった。
 何故か、って? それはズバリ、黒沢はまだリホさんのことを思い切れてない、心の中は未練でいっぱいなんだ……って、一次会で姿を見た瞬間にそう悟ったからだよ。

 黒沢の向かいの席を選んだのはリホさん自身で、だから彼女自身は昔のことなど何もこだわっていなかったと思う。と言うよりむしろ、黒沢と喋ってみたいと思ってくれていたのかも知れない。
 けどもし話しかけて、リホさんが笑顔で答えてくれたら、どうしたってその後の展開を期待しちゃうよ。近況とか聞きながら、今は彼氏とはどうなのかをそれとなく探って、「やっぱりオレと付き合って」とか、きっと言い出してしまう。

 けど答えなんて、聞くまでもなくわかってたんだ。受験に専念する覚悟でいたリホさんが惚れ込んだ相手だもの、すごく良いヤツに決まってる。
 地元ではずっと黒髪ショートのスポーツ少女(美少年?)だったリホさんを、長い髪の大人の女の人に変えたのは、少なくとも黒沢ではないワケで……。
 その事実を目の前で見せつけられるようで、ひどく苦しくて辛かったよ。
 少なくともその頃の黒沢にとって、リホさんとのことは甘酸っぱい思いと共に懐かしめるような過去の話には、まだなっていなかったんだよね。

 サバサバ系の美少年風だった昔から、リホさんは勘も察しも良い子だったから。目を合わせようともしない黒沢に、「話すのもイヤなんだ」って、すぐにそう受け取っただろうね。
 でも別にそれで構わなかった。心の奥でまだ燻っていたリホさんへの想いがまた燃え上がって、そして「好きだ!」とか言った挙げ句にまた振られるのが怖かったんだよ。
 学校では「隣のムスカ大佐」みたいなヤツだった黒沢を、唯一理解して味方してくれていたのがリホさんでさ。そのある意味恩人みたいな人に、すごく鈍感で無神経なコトをして、いろいろ傷つけたりもした黒沢だよ。
 そのリホさんが良い彼氏に出逢って幸せでいるなら、黒沢などそのまま黙って消えた方が良い……って、心からそう思ってた。

 だから黒沢はリホさんへの想いを吹っ切る為にも、二次会ではとても明るく飲みましたよ? それに一次会で顔を見たアズサとマツオのことも、一秒でも早く記憶から消し去りたかったしね。
 一次会はチャンコ料理屋だったから、出された酒もビールと日本酒だった。けど二次会はスナックだったから、テーブルに並ぶのはフルーツやツマミにウィスキー……って感じでね。
 ハイ、気合いと半ば自棄で飲んでしまいましたよ、そのウィスキーをね。

美味しんぼ(70) (ビッグコミックス)美味しんぼ(70) (ビッグコミックス)
(2013/01/01)
花咲アキラ、雁屋哲 他

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 まあ『美味しんぼ(70)・スコッチウィスキーの真価』などもまだ出ていない時代の日本のことだったから、出されたのも甲種焼酎に色と香りをつけたような国産の偽ウィスキーを、水と氷でジャブジャブ薄めたような代物だったけど。
 その水割り(S社のK)を、五杯くらいまで飲んだ辺りまでは覚えてる。そして斜め前の席のミーちゃんや隣のオオノさんなんかと、いっぱい馬鹿話をしたよ。喋るだけでなく歌って踊ってノリノリでさ、端から見ればすごく楽しんでたと思う。
 おかけで昔から勉強も出来て大学も良いトコに行ってた奴らからは、「何バカやってんだよ」みたいな呆れた目で見られていたけど。でもそれ以外の連中からは、「黒沢ってノリ良いじゃん」みたいな感じでウケてたよ。

 ただ真向かいの席のリホさんだけは、ずっと何か言いたそうな、案ずるような目で見ていてさ。
 気づいていたけれど、気づかぬフリして隣のオオノさん達と喋り続けていたら。
「ね、大丈夫?」
 柔らかな声で、リホさんの方から本当に心配そうに囁きかけてくれて。
 けど黒沢は聞こえなかったふりをして、隣のオオノさんと喋り続けたよ。
 何でか、って?
 それはズバリ、黒沢がまだ「坊やだったからさ」ってとこ。

 生き残る為には、自分の感情さえ凍らせちゃえる黒沢だけれど。ただ恋愛感情だけは、まだどうしても制御不可能で。
 リホさんの顔を真っ直ぐに見て喋り始めたら、もう自分の感情が抑えられなくなるのがわかってた。
「ねえ、今どうしてる?」
「彼氏とはどうなの、どんな人でうまくいってるの?」
「夏はいつまで地元にいるの、休みのうちにまた会えない?」
「東京ではオレ文京区なんだけどさ、リホさんはどの辺り? あっちでも会おうよ」
 期待と下心を込めた言葉が洪水のように溢れ出てしまうのは、自分でもよくわかってたよ。
 だから目の前のリホさんは「居ないもの」として目にも入らないフリをして、かけられた気遣う言葉も聞き流し、マズい酒を飲んでは他の女子たちと騒いでいたよ。

 そのリホさんだけは、気づいて気遣ってくれていたけれど。
 ……ハイ、実は全然大丈夫じゃなかったデス。前にも言ったように黒沢は酒にはかなり弱くてね、体質的にアセトアルデヒドをうまく分解できないタイプなんだ。
 なのに一次会ではビール、二次会では粗製ウィスキーの水割りをグイグイ飲んでいたからさ。
 死ぬまで二度と会いたくなかったアズサとマツオの顔を見てしまって、途中まではもう「酔いたいのに、ちっとも酔えねぇ」って感じだったのに、二次会の途中でいきなりガツーンと酔いが回って来てさ。ひどい頭痛と胸のムカつきに襲われてトイレに駆け込んで、後はもう吐き通しだったよ。

 その時はもう「吐くものが無くなっても、まだ吐き気が止まらない」って感じで、ホントに胃液まで吐いたよ。それで超カッコ悪かったけど、どうにも耐えきれなくて、二次会の途中でタクシーを呼んで帰ったよ。
 頭痛と吐き気にはそのタクシーの中でも絶えず襲われていて、でも車内では何とか耐えて。けど車を降りて数歩も行かないうちに、路地裏の脇の側溝にまた吐いて。そしてふらつきながら家にたどり着いてそのままベッドに倒れ込んだのだけれど、頭痛と胃痛と吐き気はさらに続いてさ。

 洗面所に行こうと立ち上がりかけたのだけれど、下手に起き上がったのがマズかったのかも。立って一歩か二歩も行かないうちに、自分の部屋の床に吐いちまったよ。
 けど片づける元気も気力も無くてさ、そのままベッドに戻って朝まで死んだように眠ったよ。
 翌朝、経験したことの無いほどキツい二日酔いの諸々に苦しみながら、部屋の床の昨夜吐いた辺りを見てみると、ソレは胃液というより殆ど血だったよ。
 ……マジで血を吐くような、そんな酷い飲み方をしたのは、黒沢のそれなりに長い人生の中でもその時が最初で最後だったよ。

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お受験(22)・リホさんの変身

 で、その後リホさんとの仲がどうなったかと言うと、ざっくり言えば「それっきり」ってことかな。
 後になって冷静に考えてみれば、「ずっと一年も会わないでいて、その間に同じ塾で励まし合いながら頑張っていた誰かを好きになってしまうのも当然」とわかるんだけど。それに中学二年の時に同じクラスになってから後のことを考えても、黒沢は辛い思いをした時にリホさんに助けて貰ってばかりで、その逆は殆ど無かったように思う。
 だからリホさんにいつ見切りをつけられて放り出されても、「これまでいろいろありがとう」と感謝こそすれ、恨む筋合いなんて無かったんだよ。
 ただその頃は、「会いたい気持ちを我慢して、ずっと待ってたのに裏切られた」みたいな思いが強くて、もう二度と連絡は取るまい、会いたくも無い……って思ってたよ。
 怒ってたとか恨んでたとか言うより、ただ「痛い」って感じだった。リホさんのことを考えるだけで、悔やむことばかりの過去がいろいろ思い出されて心が痛い、って感じで。

 そのリホさんとの再会ですか。ハイ、ありました。たった一度だけ。
 黒沢が中学二年から三年まで居たクラスって、心地良いぬるま湯そのもの……って感じだった。特にまとまりが良いわけでもないし、勉強にも校内行事にも全然燃えないんだけれど、特に悪いヤツや問題児もいなくて、皆それぞれ気ままに仲良くやっててね。
 そのせいか、卒業後も毎年のように同窓会をやってたよ。

 その同窓会の通知は、毎回黒沢の所にも届いてはいたけれど。でもいつも不参加の返事を出して、行ったことは一度も無かったよ。
 そして大学三年の夏休みに、いつものように届いた中三の時のクラスの同窓会の通知に、これまたいつものように不参加の返事を出してさ。
 ただ黒沢は、その時だけちょっといつもと違ったことをしちゃってさ。封書に不参加の返事と一緒に会費を添えて、「事情があって今年も行けませんが、これを費用の足しにして皆様で楽しくやって下さい」と書いたメモを添えて出したんだ。

 繰り返し言うけれどまだ携帯電話もメールも無かった時代だったからさ、こーゆー通知は往復葉書でやるのがデフォだったんだよね。うん、文面の印刷はプリントゴッコで。
 何でそんなカッコつけた真似をしたかと言うと、まずは感謝のキモチかな。黒沢って中学の頃のそのクラスでは、ホント好き勝手にやってたからね。もう厨二病全開で「みんなバカばっか」って人を見下して、マジで『ラピュタ』のムスカ大佐そのもの、って感じだったから。

天空の城ラピュタ [DVD]天空の城ラピュタ [DVD]
(2002/10/04)
ウォルト ディズニー スタジオ ホームエンターテイメント

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 今になれば「オレって、もしかしなくてもアスペかも?」って自覚もあるし、今で言うKYっぷりもかなりのものがあったからね。だからこんな黒沢のことなんかスッパリ忘れて、「居なかった人」として処理してくれて全然構わなかったんだよ。
 事実黒沢は、そのクラスの同窓会に行ったことなど一度もなかったんだしね。
 でもそのクラスの人達は、こんな黒沢のことを忘れずにいて、毎回誘ってくれてさ。だから皆に「ありがとう」って心から思って、「黒沢は行けないけれど、代わりに皆で一杯やって下さい」って。

 まあその頃の黒沢は大学生でバイトもいろいろしていて、財布にも「昔はゴメン、そしてありがとう」って感謝の気持ちを示すくらいの余裕もあったしね。
 それとあと一つ、その時の同窓会の幹事の名前にあったユカさんとミカちゃんには、昔ちょいと仲良くして貰っていたものだから。その二人の名前を見たら、いつものようにただ“不参加”に丸をつけた返事を出すなんて、とても出来なくなってしまってさ。
「参加する気にはなれないけれど、素気なく断っては義理が立たない」って感じでね。

 ……とまあ、会費だけ出して不参加と、カッコつけて少しだけ良い気分でいたらさ、その幹事の一人のユカさんから電話があって、「黒沢くんもぜひ来てよ」って強く言われちゃって。
 でも黒沢には、「わかった、行くよ」とは言えない事情があってさ。
 で、いろいろ話すうちに、その黒沢が同窓会に出たくないワケを白状させられちゃったんだよね、「絶対会いたくない人がいるから」って。

 それ、リホさんのことじゃないデスよ? リホさんについてはまだ心に痛む部分が残っていたし、「どんな顔して会ったら良いかわからない」って感じだったけど、恨むとか顔も見たくないとかいう気持ちは全然なかったから。
 例の受験の時の「一年待たされた挙げ句に、すっぽかし」の件については、心中まだモヤっとはしていたよ。けどそれ以前のことを考えると、「黒沢はリホさんにいつも頼って甘えて、迷惑かけてばかりだった」って、自分でもよくわかっていたからね。
 その黒沢が「絶対会いたくなかった相手」って、これまで一度も話に出して来なかったアズサって子なんだ。ハイ、幼なじみについて語った章のラストで触れた、黒沢のその後の生き方さえ変えるくらい、大袈裟でなく「地獄を見るような」イタい恋愛をさせてくれた相手デス。

 でさ、同窓会に行かない理由にアズサの名前を出したら、ユカさんは「あー、そうか」って一発で理解してくれたよ。
 そのアズサと黒沢のアレコレって、卒業して五年以上経った後でも、同級生に「そりゃー会いたくないわ」って同情されちゃうような修羅場展開だったんだよね。
 けどユカさんは、それでもその同窓会に「来て」って言ったよ。
「大丈夫、今度の会にアズサは来ないから」って。
 で、黒沢はその同窓会に、思い切って行くことにしちゃったんだよ。

 ……そしたらしっかり来ているじゃアリマセンカ、黒沢がもう二度と絶対会いたくなかった、思い出すのさえイヤだったそのアズサさんが。
 その同窓会の一次会の会場は、市内のチャンコ料理屋だったのだけど。黒沢はもう皆がいる部屋にも入れずに、店の廊下でただ呆然と突っ立っててさ。
 で、その黒沢に気づいてやって来てくれたもう一人の幹事のミカちゃんに、疲れた顔でただ一言、「……来てるじゃん」って耳打ちしたら、すぐに察して「本当にゴメン、来ないって言ってたんだけど、寸前で気が変わったみたいで」って、本当にすまなそうに謝られちゃったよ。

 本当はね、そのまま回れ右して逃げ帰っちゃいたいくらいだったよ。けどそれでは幹事のユカさんやミカちゃんに申し訳ないし、それにここまで来て逃げ帰るのは、成人式も済ませた男として余りにも情けない気がしてさ。
 それで肚をくくって、せめてもの意地で何食わぬ顔で、作り笑顔まで浮かべて中に入ったよ。
 そしたら例のアズサだけでなく、リホさんも昔の友達に囲まれて楽しげにしていたよ。

 黒沢の知っているリホさんは、スッキリ系のキリッとした顔立ちで、ショートのストレートヘアが似合う元気なスポーツ少女でさ。男みたいと言うのとは全然違うのだけれど、見るからに美少年って感じの、女臭さのない中性的なコだったんだよね。
 だから中学で同じクラスだった時にはまるで男同士みたいな付き合いで、時には箒で叩き合ったりもしてさ。

 はっきり言って黒沢は、リホさんのこと「美人だな」とは思ってたけれど、異性としてはあまり意識してなかったよ。女の子なんだって、頭ではわかっているのだけれど、意識としては「ナカマでトモダチ!」って感じが先に立っちゃってね。
 だから別の高校に進学した後も、時々電話で話したり、二人でデートっぽいことをしたりもしたけれど、彼女を心の底から女の子扱いはしていなかったような気がする。

 でもその二十歳を過ぎた後の同窓会で見たリホさんは、ホントにもう「別人?」って言いたくなるくらい変わってたよ。
 高校を卒業するまでずっと『あまちゃん』の天野アキみたいなストレートのショートだった髪も、背の中程まで届くくらい長く伸ばして、さらに緩くウエーブまでかけていて。
 黒沢が知る制服以外のリホさんと言うと、ジーンズ姿とかショートパンツしか思い浮かばないのだけれど、その時はしっかりメークもして、長めのフレアスカートなんかつけていてさ。

 リホさんのそんな女らしい姿を見るのは、黒沢の記憶の中では初めてだった。しかもそれはその時だけの付け焼き刃ではなく、仕草から喋り方まで大人の女の人そのものだったよ。
 以前のリホさんと言えば、いかにも強気っ子らしく男子も平気でキツい声で叱り飛ばしててさ。それかやや低めだけれど落ち着いた、優しいと言えるくらい柔らかな声で喋るようになっていて。
 長いことリホさんのことを見誤っていたんだって、黒沢はその時初めて気づいたよ。まるで“美少年”にしか見えなかった短髪スポーツ少女の昔から、心と言うか本当のリホさんは女の子だったんだよね。

 そう言えば、中学二年の体育祭の時のこと。
 黒沢はマツオって悪友と、それにリホさんとその友達のイケヤマさんの四人で、競技の合間に無駄話をしていてさ。で、皆が体操着だったせいか、話題がナゼか胸の大きさのことになってさ。
 リホさんは何度も言うように見かけも美少年風だから、実際の体型はどうあれ、やっぱりこうイメージ的に“ある”ようには思えないわけ。しかも態度もサバサバ系だから、そーゆー話題でもツッコミやすくてね。

「そう言えばリホさん、胸ないよねー
 普段から軽口を叩き合い、時にはどつき合いもしていた黒沢がそう言うと、リホさんもすぐにキッと睨んで応じてきてさ。
「うるさいなー、ちゃんとありますって!」
 そのリホさんの体操着の胸を、いかにも興味なさそうに一瞥する黒沢でアリマス。
「だって80とか、絶対ナイでしょ?
「あるよっ!」
「ねーよ、そんなあるワケないって」
あ・り・ま・すッ!
「へーえ、じゃあ何センチ?
「……」
 唇をキッと結び、黙ってさらに強く睨むリホさんでアリマシタ。

 実はリホさんはツルペタでも何でもなくて、中二のその時点で胸囲81.6cmだということを、黒沢はちゃんと知っていたのだ。その時の保険委員だったマツオのやつ、女子の身体測定のデータを仲間の男子に内緒で見せちゃってたんだよね。
 胸囲って、バストトップの少し上あたりを測るからさ。だからその時のリホさん、バストサイズで言えば85近くあったかも。
 けどそこはあえて、知らぬフリを続けマス。

「80とか、そんな絶対ナイね」
「あるよっ。ブラだってちゃんとつけてるし!
 ある胸をナイと言われ続けてか、あらぬことを口走るリホさんデス。
「は? そんなん必要ねーし、つけてねーだろ」
「つけてますッ!」
 疑わしそうな目で、リホさんの胸元をまた関心なさげに一瞥する黒沢。
「そんなん、ただ言われただけじゃわかんねーよ」
 ……ホントはブラのラインが、薄くだけどしっかり見えてたんだけどね。
 黒沢のその発言に、リホさんも意地になったと言うか、我を忘れちゃったんだろうね。
いーよ、じゃあ触ってみなよ。ほらっ
 そう言ってリホさんは、キュッと唇を尖らせると黒沢に背を向けて。

 ハイ、リホさんのその背中、触らせていただきマシタ。だって本人が、触っていいって背を向けて、体も少し寄せて来ているんだし。
 と言っても、そこはDTの中坊だからね。ほんの一瞬、そっと背に手を当てたくらいだよ。エロい冗談を言っても口先大王で、じっくり触る余裕なんて全然なくてさ。
 けどその時のリホさんの背中とブラのホックの感触は、微かにだけど今でも覚えてるよ。

 ま、女の子のブラなんて、その後飽きるほど見てきたし、中身も数え切れないほど触ってきたさ。けど思春期の男子にとっては、女の子の体に触れた記憶ってホント宝物に近いものがあるからね。
 だからその時の黒沢はメチャメチャ照れて、すごくドキドキもしてた。
 そしてその照れを、黒沢はつい悪ふざけでごまかしちゃったんだよね。
 実は震えそうになる手をすぐに離して、でも表面的には平気な顔をして、大げさに首をひねって見せてこう言っちゃった。
「いや背中じゃよくわかんないし、触るならやっぱり前でないと」

 何しろ黒沢とリホさんは、日頃から平気でどつき合いをしてたし、リホさんに(ふざけ半分でだけれど)殴られたことも一度や二度じゃなくてさ。
 だから怒られてどつかれることを、覚悟の上での悪ノリだったんだ。
 けどその時は、怒られもどつかれもしなくてさ。
「ちょっ、クロサワ、スケベっ!」
 そう怒鳴ったのはリホさんではなく、その隣のイケヤマさんの方だったよ。
 で、リホさんと言えば何か本当に女の子みたいな小さな可愛い悲鳴をあげて、頬を真っ赤に染めて両腕で胸を隠してさ。
 けどそれで気まずくなるでも嫌われるでもなく、すぐ前と同じように馬鹿話を続けて、二人の間の空気は何も変わらなかったよ。

 イケヤマさんと言えば、そのしばらく後にこんなコトもあって。
 ある日の放課後、殆ど皆が帰って黒沢も校舎を出かけた時、教室に忘れ物をした事にふと気づいたんだ。それで教室に戻って、机の引き出しの中にその忘れ物を見つけて一安心して目を上げると、そのすぐ側にリホさんがいて、しかも生着替えの真っ最中じゃアリマセンカ!
 うん、下はブルマで上はブラ一枚……みたいな感じで。
 ハイ、当時は女子の体操着はまだブルマという、古き良き時代なのでアリマシタ。

 それはともかくとして、その時はもう自分の忘れ物の事で頭が一杯で、教室に入っても自分の席しか見えてなかったんだよね。そして肝心の忘れ物を回収するまで、お着替え中のリホさんにホントに気づかなかったんだよ。
「あ、ゴメン!」
 黒沢はすぐ目を背けて、駆けるようにして教室を出たよ。
 ラッキィと思ってその姿をしっかり眺めちゃおうなんて、考える余裕も無かったね。
 そしてリホさんも怒ったり悲鳴を上げたりもしないで、ただもう背を向けて俯いて……って感じで。
 でも黒沢が教室を出てすぐ、反対側のドアの方でリホさんの半泣きっぽい声が聞こえてきたよ。
「イケヤマぁ~、ちゃんと見てて……って言ったじゃん!」

 つまりさ、リホさんはその日何か事情があって、親友のイケヤマさんに外で番をして貰いながら、教室で着替えてたんだよね。
 けど教室のドアって、前と後ろの二カ所あるワケで。
 そして黒沢は、ちょうどイケヤマさんが見張ってたのと反対側のドアから入っちゃったみたい。学校の上履きって、ゴム底だから足音も殆ど響かないしね。

 昔の体操着がブルマの時代にはさ、中学生の女の子ってスカートの下にはいつもブルマをつけていたんだよね。
 で、朝と帰りの掃除の時などには、さっとスカートだけ脱いで、上はセーラー服に下はブルマって格好で作業して……みたいな。
 あるいはそのまま体操着姿で、とかね。
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 今なら「あり得ない目の保養」ってとこだけど、それって黒沢たちの頃の中学生にとっては、本当にごく当たり前の風景、だったんだよね。

 冬のある寒い日の放課後、班で話し合わなければならない用事があってさ。その時リホさんと黒沢は同じ班で、班員は他にも居たけれど、大事なコトは殆どこの二人で話して決めている、みたいな感じでね。
 リホさんは自分の席で、話し合いの要旨をノートに書き留めていて。そして黒沢はそのリホさんの脇に、片膝をつく形でしゃがんでいて。

 その話し合いを始めたのは、帰りの会と掃除のすぐ後でさ。だからリホさんは例の「セーラー服にブルマ」って、今なら萌え系の二次元かコスプレの世界にしか有り得ないようなカッコでさ。
 そのリホさんの脇に跪いていた黒沢のすぐ前には、ちょうどリホさんの生足がある状態で。
 喋りながらそのリホさんの太腿に、黒沢はつと掌を置いてさ。
 それは肘掛けに手を置くような、殆ど無意識の行動だったけど。置いた掌から伝わって来るリホさんの肌はツルツルで温かくて、じんわり伝わって来る彼女の体温の心地良さに、じいんと頭の芯が痺れるような感じだったよ。
「それ、間違いなくセクハラでアウトだから」って? 確かにその通りなんだ
 けど太腿の上の黒沢の手を、リホさんは払おうとか全然しなくてさ。むしろ少し微笑むような柔らかな顔で、ずっとそのままにさせておいてくれたよ。

「それってホントはイヤなのを、ただ我慢してくれていただけだろ」って?
 いや、それは多分ないと思う。だってリホさんは黒沢には、遠慮とか全然しない子だったから。
 って言うか、ただ怒られたどころか、ブン殴られた事さえ何度もあったくらいだし。
 一度など、箒を振り上げたリホさんに追いかけ回された挙げ句に、思い切り殴られ額を割られて流血の惨事になったこともあって。もうマジで病院に行かなきゃならない一歩手前で、手当をしてくれた保健の先生から大目玉を頂戴しちゃったよ、「何てバカな危ないコトするの!」って。

 ま、血を見るまでの騒ぎになったのはその一度きりだけれど、リホさんに殴られたり叩かれた記憶はもう覚え切れないほどあったんだ。
 だからもし彼女が怒ってたら、絶対タダじゃ済んでないって。実際、他の事ではいっぱい、怒られたり叩かれたりしてたしね。
 けど体育祭でのブラの件でも生着替えの件でも太腿の件でも、何故かまるで怒られなかったな。と言うよりむしろそんな時だけ、妙に女の子らしく可愛らしくなっちゃうくらいでさ。

 ただそれはみな中二の時のことで、続く中三の一年間は、黒沢は同じクラスのアズサって魔性の子に振り回されっぱなしでさ。挙げ句に自分もボロボロになっただけでなく、リホさんまで傷つけてしまって、一時期はリホさんと絶交に近い状態だった時もあってさ。
 でも高校入試が間近になった頃、完全にではないけれど何とか許して貰えてさ。そして志望校は別になってしまったけど、「キミが受かったら、合格祝いをあげるね」みたいなことも言ってくれて。
 ただそれを、リホさんはごく軽くさりげなく言っただけだったものだから、黒沢も「うん、わかったー」みたいな感じで、それほど期待せずに聞き流していたんだけど。
 でもリホさんは、黒沢の行く高校が決まって卒業式も目前に迫った頃、ちゃんと約束のプレゼントをくれてさ。
 それもリホさん手縫いの、ランチ袋だったよ。

 大人になっていろんな女の子と知り合って、恋愛という過酷な戦場で(主に負け戦の)百戦錬磨になった今になって考えてみれば、リホさんって昔から心はメチャ女の子だったよね。ただその女の子らしいところは内に秘めて、滅多に人には見せずにいただけの話でさ。
 二十歳を過ぎた同窓会で再会したリホさんが女らしく“大変身”していたのも、「東京暮らしと、そこで出来た彼氏のせい」ではなくて、それがリホさんの本来の姿だったのだと思う。
 でも黒沢は、そんなリホさんをちゃんと女の子扱いした覚えが、ホントにただの一度も無いんだよ。顔もキレイで性格も特上なのはわかっていたのだけれど、いつも「異性としては何か物足りない」なんて思っちゃって。
 で、見せかけの可愛さにダマされて、恋の駆け引きなら百戦錬磨の魔性系の子に痛い目に遭わされては、辛くなるとリホさんに泣きつきに行っちゃう……みたいな感じで。

 ……うわっ、こうして思い起こしながら話していても、心から思うよ、「黒沢ってサイテーな奴だよな」って。
 だから大人の女性になったリホさんと再会しても、何食わぬ顔で「その後どう? 彼氏とはうまく行ってる?」とか馴れ馴れしく近寄って、あわよくばまた言い寄ろうとか、そんなつもりには全然なれなかったんだ。
 むしろ「あれだけ不義理を重ねて、どの面さらしてまた口説けるんだよ」みたいな感じで、「今の彼氏と幸せなら、黒沢など下手に近寄らないでいるのがリホさんの為」みたいに思ってた。

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お受験(21)・理性と自分のキモチ、どっちを大事にします?

 話をリホさんに戻すと、まだガキだった当時の黒沢としては、何か騙されたような、リホさんの言葉をまともに信じてバカを見たような気がしてならなかったよ。
「受験に専念したいから」という理由で、一年後にまた会う約束をして音信不通になって。でも実際には彼女は予備校で勉強と恋愛を両立させていて、約束の一年後の連絡すらくれなかったワケで。

 ただリホさんにしてみれば、それらはすべて“結果論”なんだよね。
 地元を離れた時点では、彼女はホントに受験に専念するつもりでいて。
 そしてその一年間、黒沢だけでなく家族以外の誰とも、中学時代からの一番の親友とも連絡を取らずにいたのも事実でさ。
 で、進路が決まった後に約束の連絡をくれなかったのも、「大事な彼氏がちゃんといるのに、他の男と連絡を取るなんて良くない」って判断なんだろうね。

 バカだよお前は、「合格するまで連絡しない」とか言われたくらいで、何でハイソウデスカと引き下がるんだよ。ホントに好きだったらそれくらいで諦めないで、もっと粘って連絡先を強引にでも聞き出しておかなきゃダメだって。
 そんな風に言う人、きっとかなりいるだろうね。でもそこで強く出なかったことを間違いだったとは、黒沢にはどうしても思えないんだよ。

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 例の『モノクローム』で黒沢がどうにも納得できなかったのが、ズバリそこなんだよ。
 例のA子さんルートのラストで、A子さんが頑張ってスランプを脱して、もっと大きな世界に羽ばたいて行こうとする時に。彼女の意志を尊重してそのまま行かせるか、それとも「ダメだ、オレと一緒にいろ!」と迫っちゃうか……ってのね。

 あのさ、リホさんに「全寮制の予備校に行くから、受かるまで誰とも会わない」と言われた時、感情のまま「イヤだ! せっかく同じ東京に居るのに会えないなんて、絶対納得できない!!」って粘る方が、黒沢にとってもずっと楽だったんだよ。
 だって知り合いなど一人もいない街に行って暮らし始めるんだよ? 何年も前からの付き合いで気心も知れているリホさんに「会いたい、側に居てほしい!」って、心底思ったさ。

 なのにヘタレで素直にそう言えなかったとかじゃないんだよ。だって当時の黒沢って、「キミの為なら死んでもいい」なんて恥ずかしいコトまで、本当に好きな女の子にはマジで言えちゃってたからね。
「好きだから会って!」と言ってしまいたい気持ちをあえて我慢して、リホさんの意志と将来を優先させたんだよ。

 だってさ、現実に凄い秀才でも受験のエキスパートでもないただの大学生の黒沢に、「気持ちの問題じゃなく具体的に」何が出来たと思う?
 ただ会って側にいるだけでも……って、結局それは黒沢のエゴじゃん? あえて全寮制の予備校を選んで友達全員と縁を切ってまで、一分一秒も惜しんで勉強したいリホさんにとって、それって迷惑にしかならないと思うし。

 黒沢ってガキの頃から妙に醒めたヤツでさ、何かする時には、自分のキモチはとりあえず脇に置いておいて。そして「どうしたら結果を出せるか?」ってことを第一に考えて行動してきたんだ。
 だって黒沢は小さい頃に東京から地方に引っ越したせいで、育った町では「日本語はできるけど、地元の言葉を喋らない異邦人」だったし。
 そしてチビで病弱で、外で体を動かすより部屋で静かに本や図鑑とかを読んでる方が好きだったし。
 これでバカだったら、ただの「冴えない陰キャラの子」として目立たず地味に過ごせたんだろうけど。ただ異常なくらいの本好きだったおかげで、勉強もかなり出来ちゃいまして。それも教科書に載ってないことや先生が知らないことまで、サラッと言えちゃうようなタイプでさ。

 ハイ、絵に描いたようなイジメのターゲットだよね。
 さらに自分なりにどれだけ頑張っても、優等生で外面の良い姉と比べられて「出来損ないの弟」って言われ続けてさ。
 だから厨二病が最も重症だった頃にはね、「教師も同級生も親戚も姉も全部テキで、親も味方ではなく、たった一人で世の中すべてと戦ってる」って、マジで思ってたよ。

 そうやって周りの全部と戦った結果、デスカ? ハイ見事に全敗、ってとこ。そしてそういう子供時代を過ごした結果、「いくら正論を吐いて頑張っても、数の力の前ではボロ負け」って現実が、骨の髄まで染み込んでるんだよねえ。
 日本人が大好きな“人の思い”なんかじゃ、物事や現実は一ミリも動かないんだよ、現実にはね。
 岩をいくら必死に睨んでいても、それだけじゃ穴なんて開くワケないよね。現実に岩に穴を開けたきゃ、ドリルとかそれなりのモノを持って来なきゃダメだろコレ常識。

 そう、だから国を護るのに必要なのも武力と外交的な駆け引き(←汚い手段も含む)であって、自虐史観の左の人達が呪文みたいに言う「平和を願うキモチ」も、日本サイコーの右の人達が大好きな「大和魂」も、どちらも現実の前では正直ゴミみたいなモノって思ってる。

 自分は間違ってない、でも周りは全部テキで勝てる筈もない、けどぜってー屈服したくねー。
 勝つのはムリ、それはガキで厨二病の自分にも判ってた。けど勝てないまでも少なくとも負けないで集団から半独立した自分を保つ為に、黒沢が黒沢らしく生きる為に全力で闘ったよ。
 その為に黒沢がまずしたことは、自分の感情を凍結すること。そして客観的に戦況を眺めて、自分自身も将棋の駒の一つのように扱って、圧倒的に不利な中でも負けないように手段を選ばないで闘うの。

 まず黒沢は頭デッカチな博士クンだから、それを生かして口喧嘩では絶対に負けないようにして。
 幸い黒沢には、姉という天敵が居て下さったからね。外での人当たりの良さとは裏腹に、実は身内には毒舌と皮肉とあてこすりの名人なんですな、この姉上さまが。
 家ではその姉との口喧嘩が絶えなくて、時にはテキは姉&母の連合軍になることも珍しくなかったりしてさ。

 よく「女を殴る男なんてサイテー!」とか言われるけど、女って男よりずっと口が回るし毒のある言葉も吐けるからさ。その言葉の棘に心を抉られてキレかけたことのある人って、男には少なくないと思う。
 でも男は、その女の毒舌に傷つくことさえ許されないんだよね。男が女に何か酷いことを言うと「サイテー、オンナノコにそんなコト言うなんて!」って鬼畜扱いされる。けどその反対に女に酷いことを言われてどれだけ心を傷つけられても、「何よ男でショ!」って感じで、むしろ傷つく方が情けないみたいな言い方をされる
 うん、それが今の日本の男女平等wの現実。だから日本の女権論者って、腹の底では冷笑されてまともに相手にされないんだよね。

 でさ、黒沢は常日頃から姉&母の女二人と口論をして、特に姉の方にはさんざん嫌味や当てこすりを言われても、一度も手を上げないで、言葉だけで応戦してきたんだよ。年上の女二人にそれだけ鍛えられて(?)いて、同級生相手の口喧嘩なんかに負けるワケないじゃん。
 当然、言い負かした相手にはキレられたり恨まれたりするし、殴られそうになるとかもあったよ。けどね、そこでビビると後はナメられっ放しになっちゃうから、殴られたら殴り返さなきゃ絶対ダメだよ

 怖いとか殴られたら痛いとか勝てる筈ないとか、そーゆーのは関係ないんだよ。DQNのドレイ&クラスの皆の笑いものになりたくなければ、たとえ負けようが「やられたら絶対やり返すぞオレは!」って姿勢を見せるのが大事だから。
 喧嘩を避けられない時には、それこそ死にもの狂いで全力でやる。ただその時にはできるだけ大勢の人が居る場で、教師などが止めに入って来ざるを得ないように派手にやることも忘れずに。
 ほら、DQNの軍団にボコられる時って、体育館裏とかトイレとか人目に付かない場所に連れ出されてやられるじゃん。だからそんな場合には、連れ出されそうになったらもうその場(自分のクラスとか廊下とか)で揉めて騒ぎを起こしちゃうの。
 うん、学校の帰り道とかもさ、人気のない場所をうっかり一人で帰ったりしないように気をつけてもいたよ。

 日露戦争の時の日本の指導者たちって、ホントにもう知謀の限りを尽くしていたんだよね。日本の国力では勝てないということを、感情は抜きにして客観的な判断で(←ココが大事)ちゃんと判ってて。
 だから実はもう最初から「目指せ、判定勝ち」って腹で、そして日本が戦場である程度勝ったらケンカを止めに入ってくれるよう、アメリカとかにコッソリ外交使節(金子堅太郎)を送って交渉してたんだよね。そうそう、明石大佐って秘密工作員をヨーロッパに派遣して、ロシア国内の革命派に武器を送って、ロシア政府の足を引っ張ってたりもして。
 戦いは全力でやる、けれど陰ではしっかり自分の限界も認識して、喧嘩の仲裁役も頼んでたのが日露戦争なんだよね。で、そうした実力の差を認めた上での負けない為の工夫を一切しないで、「気合いだァ!」と精神論のみで突っ込んじゃったのがあの太平洋戦争、というワケ。

 小学校の時の同級生に、まあイジメっ子ってやつがいてさ。始末が悪いことにソイツは格闘技マニアで、休み時間とか放課後になると黒沢を捕まえては、覚えたいろんな“技”を試すワケ。
 もちろん合意の上での遊びなんかじゃね~よ~。黒沢はイヤだって何度も言ってるんだけどさ、聞く耳持たネェって感じで無理矢理“格闘戦”を仕掛けてくるんだよ。
 いや、しばらく適当に相手して勝たせてやれば満足するとか、そんな甘いもんじゃなくてさ。こっちが痛がろうが苦しがろうが、何度ギブアップしても“技”をかけ続けて黒沢を痛めつけるワケ。
 そんなに格闘技が好きならさ、同じ格闘技マニア同士でまともな“試合”をすればいいじゃんか。でもソイツは他の強いヤツとはやり合わないで、イヤがる黒沢にばかり“格闘技”を挑むんだよ。

 断言する。話の通じないケダモノみたいなヤツって、ボクたち同じ人間の中にも絶対にいるんだよ。
 良識派とかリベラルっていうのかな、いわゆる“良い人”たちって「人にはみな良心がある、本当に悪い人なんか誰もいないんだよ」とか言いたがるけどさ、人間の本性が善か悪かについて語るなら、まずその前に試しにちょっとググってごらん。
 

 綾瀬の女子高生コンクリート詰め殺人事件。
 市川の一家四人殺し。
 光市母子殺人事件。
 

 こうした事件の加害者のクソガキどもってさ、人の皮を被った悪魔でも化け物でもないんだよ。コイツらも間違いなく我が同胞で同じ人間(←基本的人権アリ)だから

 でも例の「本当に悪い人なんか誰もいないんだよ」って言いたがる“良いヒトたち”って、そういうクソガキを同じ人間にカウントしたがらないんだよね。現実にどんなヒドい事件が起きても、ただ「ヒドい、そんなコトする人がいるなんて信じられないッ」で終わり
 いや、こーゆーヒトたちって「信じられない」んじゃなくて「固く信じてる」んだよ。例の「人にはみな良心があって、本当に悪い人なんか誰もいない」っていう、ご自分の美しい人間観をね。「目の前で起きている現実より、自分の胸の中にある理想の方が大事」っていう、どうにも話の通じない精神論者たちなんだよ。

 この種の“良いヒトたち”って、自分の価値観に合わない現実は頑として認めないんだよ。だから受け入れたくない事件が実際に起きると、「信じられないッ!」って切り捨てて拒むことで、そのお花畑脳の中のキレイな幻想を固く守り続けるんだよね。
 でも黒沢は、「性根の曲がった悪いヤツは間違いなく存在する」って思ってるから。でなければ、なぜ子供の頃に自分がイジメられたか理解できないし。

 チビで見るからに弱そうなヤツに大好きな格闘技の技をかけて、痛がって降参しても許さないで苦しめるのが楽しい。ガキの頃からそういう感覚でいたワルが、間違いなく存在するんだよ。
 この世の中でまずモノをいうのは、正義でも正論でもなく力だよ。だってそうでなければ、黒沢が過去にイジメられたことも、今もあちこちの学校や職場でイジメが絶えない現実も説明できないし。
 イジメに遭って泣いてても、現実には正義の味方なんて現れないし、誰も助けてなんかくれないからね。やられて悔しければ、結局は自分でやり返すしかないワケ。

 正義とかの精神論と根性だけじゃ、戦争だけでなくガキ同士のケンカや虐めにも勝てねーんだよ。その現実を、実際にケンカをして殴られた体の痛みでよぉ~くわかってたからさ、気合いや気力で勝てるみたいな精神論は今でも死ぬほど嫌いだよ。
 イジメられるのにいい加減ウンザリして、黒沢は学校で時々キレるようになってさ。だって自分は味方ナシの単体で戦闘力も5もないのに、敵は戦闘力10とか20以上で、しかもパーティー組んで攻撃して来るんだよ? それでもあえて戦うとしたら、ブチキレるくらいに暴れなきゃ、まるで歯が立たないワケで。
 それにそのキレっぷりに驚いてた相手が本気でかかって来たら、やはり地力の差というものが出てきてしまうのだよ。まっ、言ってみればパールハーバーの奇襲の後、アメリカにマジ激怒されて反撃されるような感じね。

 だからさ、キレてケンカするにも、その場所と時期も考えなきゃなんないんだよ。例の「騒ぎを聞いて、教師なり警官なり誰かが止めに来るような状況」ってやつね。
 うん、そのキレる時にもただカッとしてキレてたんじゃなくて、実はある程度計算もしてキレてたワケよ。日露戦争の日本が、ブチ切れて無茶な戦を仕掛けたように見せながら、実はイロイロ裏工作してたようにね。

 と言っても、「冷静に、演技でキレているフリをしていた」というのとは、少し違うんだけれど。
 本当はケンカなんかすごく嫌だし、身を守るためにやむを得ず、したくもないケンカをあえてするわけで、その時には手を出してきた相手にすごくハラを立てていたのは事実。けど頭の半分か三分の一くらいはすごく醒めていて、キレる場所やタイミングや限度や引き時とかを、そりゃもうパワーブースト時のデュアルコアのCPUみたいに脳をフル稼働させていろいろ高速演算してもいたんだよ。

 黒沢は中学生時代には、マジで「怒らせるとキレて狂う」って言われててさ。
 ちょっと考えてみて、一見チビで弱そうだけど「キレるとマジキチ」みたいなヤツが身近にいたら、「面倒だから、手を出すのは止めて放置しとこう」って思うでしょ? 本気でやり合えば、もちろん勝てると思っていてもね。
 うん、ズバリそれが狙い。

 って言うかさ、そうでもしなければ生き延びられなかったんだよ、黒沢は。
 ①そのまま耐えて、DQNどものドレイにされてイジメられ続ける。
 ②既知外と思われてもキレて暴れて、全力でイジメに反撃する。
 選択肢はその二つしかなくて、黒沢の価値観では、選ぶべき道は②しか無かったんだよね。
 だってさ、ドレイの道を選んだところで、結局殴られたり金品を巻き上げられたりするワケでさ。どちらにしても痛い目に遭うなら、「少しでも反撃して殴られる方がまだマシ」って思うじゃん?

 そーそー、ここで絶対忘れちゃいけないポイントだけれど、キレる時にも手は必ず相手に先に出させること例えどんな理由があろうとも、先に手を出した方が悪者になるのが今の世のルールだからね。
 実は黒沢も一度だけその原則を破ってしまって、後で痛い目に遭った事がありまして……。だから繰り返して言うけれど、喧嘩は最初の一発は相手に殴らせなきゃダメだよ。

 もしDQNに逆らったら、すんごくボコられるかも知れないよね。けど、それで怪我でもしたらむしろラッキーと言うか、不利になるのは相手の方だから。だってすぐ病院に行って診断書を取って、ケーサツに被害届けを出すとかすれば……ね?
 そうやってコトを大きくすると、相手の親だけでなく学校側も「ま、ここはひとつ穏便に」ってなりがちだけど、そこは「聞く耳なーし!」ってヤツで徹底的にやってやんの。
 生き延びるために本気でやるケンカってのはさ、ただ拳だけでなく教育委員会も警察も法律も、使えるモノは全部フルに使ってやるものなんよ。例の、日露戦争の時の日本と同じでね。

 でもそれを言うと、卑怯だの汚いだのとか言う人達が必ずいるよね。でも黒沢は、そういう人達に言いたいよ、「アンタら、力が無くて虐げられる者の痛みを知ってんのか?」って。
 って言うか、弱い者は手段なんか選んでいたら勝てません、って。正義だの何だのって、どうせ上っ面だけの建前なのが現実だし。

 ま、今なら③不登校って選択肢もあるよね。けど黒沢の子供の頃って、「学校は何があっても行くべきもの」って雰囲気だったんだよ。
 DQNのヤンチャは「若い時にはありがちなこと」と大目に見られて許されて、でも不登校は大問題で許されない……って感じ。マジでそういう空気だったんだよ、リーゼントのツッパリがリアルに存在して、校内暴力とか当たり前に起きていた頃にはさ。
 イジメるDQNより、イジメられて不登校になっちゃう子の方がより“問題のある子”扱いされちゃうような、そんな時代が本当にあったんだよ。だから不登校って選択肢は当時は殆ど考えられなくて、学校からも親からも世間からも許されなくてね。
 戦況は圧倒的に不利、なのに撤退して自宅での籠城戦は許されない。そんな状況の中で、黒沢はたった一人で戦いマシタよ。足りない腕力と体力を、気力とワル知恵を振り絞ってね。

 喧嘩の時に「正々堂々と」とか寝言を言うヤツがよくいるけどさ、現実の喧嘩は格闘技とかのスポーツとは違うんだってば。だってちゃんと決まったルールも無ければ、体格によるクラス分けも無いんだよ?
 中高年と若いDQN達によくいる、「若い頃は誰でもヤンチャするもので、喧嘩は男の通過儀礼」とか思ってるアナタ。理屈の通じないDQNどもに一方的に仕掛けられる“喧嘩”のどこがフェアがあるんだか、黒沢にもよく解るように教えて貰いたいものだね。
 しかも格闘技は負けたらただ悔しいだけだけれど、喧嘩の場合は違うでしょ。負けたらこちらは悪くないのにゴメンナサイと謝って、「もう逆らわないから許して下サイ」と服従を誓わなきゃならないワケ。で、以後はずっとその憎い敵のパシリでしょ?
 だから黒沢のような体力のないチビにとっては、喧嘩は大袈裟でなく生きるか死ぬかの闘いなんだよ。汚いだのキレイだのと、手段なんかいちいち選んでられるか、っての。

 うん、そりゃ殴られて血を出してもまだ向かって行くだけの闘志はもちろん必要だよ。でも闘志と根性だけじゃ現実の喧嘩には勝てないし、複数のDQNに気合いで真っ直ぐ向かって行っても、ただノされて玉砕するだけだってば。
「正義は必ず勝つ!」
 断言する、そんなの大嘘だしデタラメもいいところ
だね。道理も正義も、現実の圧倒的な暴力の前には何の意味もないから。
 そのことを、黒沢は何度も殴られて身をもって味わってるワケでさ。だから「仲間の強い思いと皆の願いの力で勝利して」みたいな精神論や綺麗事を聞くと、それだけで吐き気がしてくるよ。

 第二次世界大戦で連合国が枢軸国に勝利したのは、正義が連合国の方にあったからではなく、ただ国力と戦力が枢軸国より上回っていたからでさ
 だってもし「連合国=正義の味方」だとしたら、スターリンのソ連が何故そちらの方にいるのかね?
 スターリンって、実は殺した人の数ではヒトラーよりずっと上なんだよね。この二人の独裁者の違いは、「ヒトラーはよその国の人を多く殺して、スターリンは主に自国の国民を殺した」ってこと。うん、マジでただそれだけのことなんだ。

 でもチャーチルは「ヒトラーに勝つ為には、悪魔とも手を組む」と言ってソ連を仲間にして、ドイツ軍に苦戦していたソ連をうんと助けたんだよね。
 だってソ連を味方にしなければ、ヒトラーのドイツにはとても勝てなかったから。だから言葉通りに“赤い悪魔”と手を組んで、目の前の“鉤十字の悪魔”と戦ったワケ。そう、これがセイギの現実ってやつ。
 アメリカだって、日本に無差別爆撃を繰り返すわ原爆は落とすわで、数え切れないほどの民間人や女子供を殺しているしね。

 こうした実例をいくら挙げてもさ、必ずいるんだよね、「最後には正しいものが必ず勝つと信じたい」とか「人には良心が必ずある筈と思いたい」とか言い張る人達が。
 でもキミが何を信じたかろうがどう思いたかろうが、力は正義より強いのが間違いなく現実だから。
 日本でも「話せばわかる!」と言った首相が、青年将校に「問答無用!」で射殺されてるでしょ。うん、言うまでもなく五・一五事件の犬飼毅首相ね。
 言葉は、銃弾には勝てなかった。キミの思想信条はどうあれ、これは動かしようもない事実なんだよ。「こうであってほしい」というキミの願望は、「こうである」という世の中の現実とはまるで別物なんだよね。

 理想論をいくら声高に叫ぼうが、北朝鮮のように悪の栄えてる国は現に存在しているし。そしてそれと同じように、道理の通じないDQNも間違いなく身近に存在しているワケで。
 そんな現実世界の中ではさ、力の伴わない正義や正論なんかクソの役にも立たないんだよ。

 例えば日本の戦争責任についても、議論はいろいろあるけどさ。「侵略戦争を始めてしまってスミマセン」みたいな、ネトウヨに叩かれそうな道義の話は、とりあえず脇に置いておいて。
 実はあの戦争で黒沢が何より腹立たしいのは、侵略戦争はイケナイとかの道義論ではなく、「勝てるだけの戦力も策もないまま、神懸かりの精神論と根性論で無茶な戦争をおっ始めたこと」なんだよ。

 幕内秀夫という管理栄養士さんが、著書の中でこんな事を書いていてさ。

実践できない理想論は害にしかならない


 ……心の底から、本当にその通りだと思うよ。あの先の大戦で、その“実践できない理想論”で日本はどれだけ多くの自国民を死なせたよ?
 でも今の日本は民主主義で、バカでも既知外でも一人一票だからさ、選挙の結果もたいてい「モノをよく考えないで、気分や空気で動く人」や、例の「知性の薄いコーフンしやすい熱血漢」によって決められちゃうんだよね。
 で、後になって「ダマされたー!」とワメいて、信じて持ち上げたおバカな自分の責任は棚に上げて、指導者だけのせいにするんだよねぇ……。

 いやー、黒沢って厨二病を患っていた頃には、自分では「闇に覆われかけたセカイで、ただ一人強大な悪と闘う勇者」のつもりだったんだけどね。でもいつの間にか、戦士から魔導師(←しかも黒系)にすっかりジョブチェンジしちゃってたよ。
 HPが低い分MPは高めで、回避能力と(悪)賢さのポイントも高く、必殺技は「敵の単体および集団の精神にダメージを与える毒のコトバ」って、ホント黒魔導師のキャラだよな。それも味方のパーティーの一員って言うより、魔王の腹心とか敵の中ボスなんかに居そうだよね。

 だから高校生になった頃には、小学校の頃からの知人に「自分の為にならない人間は、容赦なく切り捨てるヤツ」なんて言われる人間になってたし。
 黒沢はそれにただ苦笑いしただけで、否定も肯定もしなかったよ。
 うん、当たらずも遠からず……って感じ。言っても相手を余計に怒らせるだけだろうから黙ってたけど、「世の中の人が黒沢に優しくないのに、何で黒沢が世の中の人に優しくしてあげなきゃなんないの?」ってマジで思ってたし。

 そんな感じで黒沢って理想や感情じゃなく、冷静に現実を見て頭でモノを考えて動くことを心がけているからさ、「会いたい→だから(相手に拒まれても)会いに行く」という発想が無いんだよ。
 例の『モノクローム』でも、あるヒロインのストーリーで「オレの側に居ろ」と言わずに彼女が望む広い世界に送り出して、見事にバッドエンドを引き当ててしまったようなヤツだからね。
 だからリホさんに「受験に専念するから、誰にも会わない」と言われた時も、「どうしてもと粘って連絡先を聞き出す」という選択肢は、黒沢には考えられなかったんだよね。

 と言うとさ、「それはオマエに、リホさんを想う気持ちが足りなかったからだ。もし本当に好きだったら、何としても会いたいと思う筈」って責める人が必ず出て来るんだよね。うん、そーゆー「自分のキモチに正直なのがイチバン!」って人たちには、相手の為を考えて会わずに耐える辛さなんて、まるで理解できないんだろうね。
 例えば小説でも雑誌の人生相談でも2chの不倫関係のスレッドでも、「既婚者でも誰かに恋をしてしまうのは仕方のないことで、不倫を責める人は本当の恋をしたことが無い、人の気持ちが解らない人なんだ」みたいに言う人が少なくないよね。本当に日本人って気持ちのまま突っ走っちゃうのが好きで、気持ちを抑えて耐える人の方がバカにされるんだから。
 で、黒沢はリホさんの「また一年後に」って約束を信じてただ待って、『モノクローム』と同じようにバッドエンドを引き当ててしまいましたとさ。

 結果としてはさ、現実は『モノクローム』の通りで「会いたい」って自分のキモチを優先させていれば、リホさんとのことも違う結果になっていたかも知れないね。
 それに当時の黒沢は、「約束は守られる」と固く信じていたから。人の心、特に女の子の気持ちがどれだけ変わりやすいかを、まるで解って無かったんだ。
 でも黒沢は、リホさんの意志と気持ちを優先したその時の決断を「間違っていた」とは、今でも思っていないんだ。って言うか、今でも「感情より理性優先」って行動原理で生きているからね。

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お受験(20)・男と女では“嘘”の定義が違いマス

 さて、それでも何とか滑り止めのC大に受かって、念願の東京での一人暮らしを始めた黒沢だけど。
 同じ東京の空の下には、B大の入試の時にキセキの再会をしたリホさんもいる筈でさ。
 でも黒沢は、そのリホさんの居所を捜し出そうとは思わなかったよ。

 そりゃあ逢いたかったさ、もちろん!
 黒沢程度の頭じゃ、受験勉強の手助けもろくに出来ないけれど。それでも少なくとも側に居て、励ますくらいはできると思ってた。
 けど「浪人中は誰とも会わないで勉強に専念する」というのは、リホさん自身の強い意志だったから。事実リホさんは、一番の親友も含めてそれまでの友達すべてに、「連絡先も教えないし、受かるまでは絶対会わない」って宣言してたんだよ。

 そうだね、それでも「どうしても!」ってゴネ続けたら、もしかしたら最後には折れて連絡先くらいは教えてくれたかも知れない。「会うのは無理だけど、たまに手紙をくれるくらいなら」みたいな感じで。
 だってリホさんは気は強いけれど優しい子で、別々の高校に行った後も、こんなダメダメな黒沢をずっと見捨てずにいて、お願いすればちゃんと時間を都合して会ってくれていたし。

 でもリホさんは、それまでの友達全員と一時縁を切ってまで、あえて全寮制の予備校を選んだんだよ? その貴重なリホさんの一分一秒を、「オレの為にも使ってほしい」なんて言えると思う?
「ただ逢いたい」って自分のキモチより、黒沢はリホさんの意志と未来を大切にしたかったんだよ。
「受験なんかカンケーない。ホントに好きなら、どうしても逢いたいって気持ちを伝えるべきだ」という人とは、正直に言って黒沢は永遠にトモダチになれないと思う。
「受験よりもっと大切なものがあるだろ、オレとの愛を一緒に育てようぜ?」とか真顔で言える神経など、黒沢はとても持ち合わせてないよ。

 自分のキモチに正直に
 そう言えば聞こえは良いけどさ、それってただ「オレさまの感情を最優先で!」って言ってるだけじゃないのかな? そこに相手の気持ちや立場や将来などモロモロに対する配慮なんかまるで無いわけで、ズバリ「自己チューの美化」でしかないよ。

 高校の時ずっと好きだったマイコさんや幼なじみのマキちゃんとも離れて、自ら望んだこととは言え、黒沢は東京でたった一人だった。
 大学では新しい友達も出来たし、その中には同じ学科の女の子もいて、大学の近くの小洒落たパスタ屋に一緒にランチを食べに行ったりもしたよ。
 けど心を許して何でも話せる相手なんて、そう直ぐ出来る筈もないからね。大学では周囲の皆と楽しくやってたけれど、その誰とも上辺だけの付き合いでしかなかった。
 だからリホさんとはすごく逢いたかったし、とにかくいろいろ話をしたかった。
 けどリホさんは、「来年、行く大学が決まったら連絡するから」とも約束してくれていたから。だからその日が来るのを、黒沢はずっと待ち続けていたわけデス。
 その結果だけど、それはもう笑っちゃうくらいムザン(傍から見ればメシウマ?)な結末だったよ。

 一年後の春、ずっと待っていたリホさんからの連絡はまるで無いままでさ。
 ……もしたしたら今度もまたダメで、二浪ケテーイとか?
 ただ待つうちに三月も下旬になって、黒沢の頭の中にはそんなイヤな考えまでよぎったりしたよ。現に大学の同じ科には、小柄で童顔で見かけは高校生なのに実は二浪で既に成人式も済ませていた、ケーコさんという人もいてさ。
 それだけに約束の連絡がナイことに対する心配が、胸の中で大きく膨れ上がってきてさ。

 その春休みの間、黒沢はずっと地元に戻っていて、だからリホさんも合格が決まり次第地元に戻って、すぐに連絡をくれる筈と思ってたんだ。思ってたと言うより、「信じてた」って方がより正確かな。
 うん、黒沢はそのくらいリホさんのことを信頼してた。
 けど相変わらず連絡のないまま春休みも終わりかけ、そろそろまた東京に戻らなければならない時期が迫って来てしまって。それで黒沢は、たまりかねてリホさんの実家に電話してみたんだよ。
 くどいようだけど、この時代にはまだケータイなど夢の存在で、電話は家電しか無かったんだよね。

 するとリホさんは、とうに地元の家に帰ってたんデスよ。そしてちゃんと合格もしていて、MARCHクラスの大学に入学も決まっているとのことで。
「だったらさ、何で連絡くれなかったの?」
 自然と責めるような口調になる黒沢に、リホさんは実にサラっと、こう言ってくれマシタ。
だって向こうで彼氏が出来たから。同じ寮の人で、私が合格できたのも彼のおかげみたいなものだし」

 ……やられた、騙された。
 何かそんな気がしちゃったのは、黒沢のヒガイモーソーかなあ?
 だってリホさん、浪人中にも実は恋愛とかしてる余裕、ちゃんとあったんじゃん
 すごく会いたかったよ、黒沢だって少しはリホさんの支えになれたと思うよ。その気持ちを抑えて「リホさんのため」と思ってずっと我慢してた黒沢って、まるでバカみたいだよ。
 けどそれは、あくまでも男の側の理屈であってさ。いくら見かけは美少年風で男前な性格でも、リホさんも間違いなく女の子だったんだよね。

 まだ恋愛経験の浅い男子たちの為に、「嘘についての、男の女の意識と解釈の違い」を教えておくね。
 例の“三行で”端的に言うと、「男が思う嘘は結果についてで、女が思う嘘はその時点での気持ちについてなんだ」ってこと。

 例えばあるカップルが、互いに「浮気なんか絶対しない!」と固く“約束”し合ったとするよね。でも結果として数年後に浮気してしまったとしたら、理由はどうあれ「嘘をついたことになる」と思うよね、少なくとも男ならば。
 でも女の人の意識では違うんだよ。女の人達にとって問題なのは数年後の結果ではなくて、「浮気なんて絶対しない!」って約束した時の気持ちに嘘が無かったかどうかなんだよ。
 って、恋愛経験値の低い男子諸君には、まだよく解らないかもね? 少し長い文章になっちゃうけれど、そこんトコをじっくり解説しましょーか。

 女の人が思う“嘘”ってのはさ、ホントはそんな気持ちなど無いのに「あたしは一途だし浮気なんて絶対しないから」って誓っチャウみたいな、初めから騙すつもりでした約束なワケ。
 だから「浮気なんかしないから」と言った時点で、その時の気持ちに嘘がなく真実そう思っていたのでありさえすれば、後で結果として別の人を好きになっちゃったとしても、女の人の意識の中では嘘をついた事にはならないワケ。
 結婚前に「アタシは浮気なんか絶対しないから」と固く誓いながら、数年も経たないうちに「仕事ばかりでかまってくれなくて寂しかった」とか、「結婚前みたいなときめく気持ちがなくなっちゃったから」とかで浮気しちゃっても、女の人の心の中では嘘をついたわけではなくて、マジで全然矛盾してないんだよ。

 こんな黒沢なんかをすごく好いてくれた、ホントに奇特な女の子が居てさ、そのミツキちゃんって子は「もしワタシが死んだら、守護霊になって一樹クンを守ってあげる」とまで言ってくれて。
 ……と言っても、別にメンヘラやヤンデレ系のコワい子じゃないよ? むしろ自分でもかなり気が強い方と認めてるくらいの、男前な性格の子でさ。ルックスも雰囲気も、『カーネーション』のヒロインの尾身真千子に似てるかな。

 その頃の黒沢って、「彼女はできるんだけど、浮気されては乗り換えられる」ってパターンの繰り返しでさ。かなりな女性不信にかかって、野良猫みたいに荒んでなつきにくくなっててさ。「とりあえず餌は貰うんだけど、心はなかなか開かない」みたいな?
 だからそのミツキちゃんも、黒沢を手懐けるのにかなり手こずってさ。「キミをこんなにした、キミの昔の彼女たちを恨むよ」なんて嘆いてたよ。
 でもミツキちゃんはめげないで、「女の子がそんな悪い子ばかりじゃないって、ワタシがわからせてあげる」なんて言ってくれて。それで黒沢もついほだされて、心を許して信じてしまったワケ。

 ……ところがデスね、黒沢はやがてこのミツキちゃんにも浮気されちゃうんだよ。しかもその相手ってのは、何と単身赴任中の妻子持ちのオッサン。
 ハイそうです、某巨大掲示板の家庭版などで言う“プリンちゃん”ってやつだよ。
 黒沢が元カノのフタマタでいろいろ傷ついてたの、よく知ってながら結局コレだよ。

「結局ミツキちゃんもさ、悪く言ってた黒沢の元カノと同じコトするんだ?」
 そう言ったらミツキちゃんは鼻でフッと笑って、普段より低い居直った声でこう言い放ったさ。
「そーだね、そーゆーコトになるね」
 そして続けて小声で吐き捨てるようにこう呟いたのを、黒沢は聞き逃さなかったよ。
「ったく、そんな昔のことをさぁ……」
 まだ結婚願望のある男性諸君、手遅れになる前に言っておくよ。女ってさ、ガチでこういう性質の生き物なんだよ。このミツキちゃんが特に性悪なビッチってワケじゃなくて、女の子って殆どみんな「こんな」なんだよ。

 ミツキちゃんというか女の子の立場で見てみると、まあこういう感じかな。

 つき合ってそう間もない頃の「ワタシは絶対浮気なんかしないし、死んでも守護霊になって守ってあげる!」って言葉は、その時には本気だった。
     ↓
 けど後になって、奥さんも子供もいるオジサマを好きになってしまった気持ちにも嘘はないし、今はそのオジサマを本気でアイシテル。
     ↓
 だからどっちも本当の気持ちであって、結果はどうあれ嘘をついたつもりは全くアリマセン。

 黒沢が「男と女では、嘘の定義が違う」と言った意味、理解していただけたかな?

 例えば「必ず返すから」と固く誓う約束を信じて、友達にお金を借したとするじゃん。で、その友達が約束の日までにそのお金を返さなければ、どんな事情があろうと「嘘をつかれた」って思うよね?
 でも女の人の頭の中では違うんだよ。今月すごくピンチだったからとか、リストラされちゃったとかで事情が変われば、結果的にそのお金を返せなくても「嘘をついたわけじゃない」んだよ。
 問題はあくまでも「借りた時に本気で返すつもりがあったかどうか」であって、初めから騙すつもりでさえ無ければ、結果的に約束を守れなくても嘘ではないという意識でいる、ということ。
 だから断言しよう、女の子に「貴方しか考えられないし、浮気とか絶対しないから」とか言われても、決して本気で信じない方がイイよ。その女の子の言葉の意味を翻訳すれば、まあ「今は貴方のことしか考えてないから、浮気とか当分しないね」ってトコ
 って言うか、そもそも“永遠の恋”なんてあり得ないものだし、それを女の人に望む方が間違ってるんだよ。

 昔、北岡夢子というアイドルが、ある男の子向けの雑誌で恋愛相談をやっていて。その中で、ラブラブだった筈の彼女に突然フられて悩んでる男の子に、「女の子は基本的に“渡り鳥”だからねー」と答えてさ。
 女の人の恋愛って、まさにその通りだから。その時々で一番条件の良い男から男へと、感情のままに飛び回ってるんだよね。黒沢の経験でも間違いなく女の方が気が変わるのも早いし、浮気(と言うか本気のチェンジ?)も多いよ。

 うん、浮気も離婚もしないで死ぬまでずっと添い遂げている夫婦も確かに居るよね。でもそれはただ結果に過ぎなくて、「その相手以上に条件の良い男が、たまたま見つからなかった」だけのことでさ。
 女の子の言うことって、どれも「今のところは」っていう前置きをつけて理解しなきゃダメなんだよ。

 例えばラブラブの彼女に「貴方がいなくなったら、アタシもう生きていけない!」と言われたとしても。それは決して“嘘”ではないけれど、あくまでも「今はね」ってことだから。
 女の人の言うことってホント変わるものだし、気持ちもその時々で変わるものだから、男を乗り換えても心もそう痛まないんだよね。
 だって渡り鳥なんだよ? オトコからまた別のオトコへ、より条件の良い所に“渡り”をするのも、殆ど習性みたいなものなんだから。
 で、それを理解しないで他の男に乗り換えられたくらいでいちいち「裏切られたー、ダマされた!」とか怒るのは、女性の側から見れば例の“器の小さなオトコ”ってことになるんだよね。

 でさ、黒沢を切って妻子持ちのオッサンのところに走っちゃったミツキちゃんだけど。その不倫も相手の家族にバレちゃって、奥さんに「ダンナと別れてあげてもいよ。けどアンタ、私たちの息子(←中学生の男子w)の“母親”になる覚悟あんの?」とか詰め寄られてやんの。
 いくら恋に目が眩んでいても、大きな連れ子コミでの再婚とか言われれば、二十歳そこそこの女子大生としたらそりゃ引くわな。

 で、このミツキちゃん、結局このオッサンとも別れて、大学を卒業して就職して一年かそこらで勤め先の上司と同棲→デキ婚というルートを辿るんだけどね。その後幸せに暮らしてるかどうかは、興味もないし全然知らないや。
 でもミツキちゃんが結婚した相手の会社って、仕事が超忙しいらしいんだよね。しかも結婚した相手は管理職だから、忙しさはなおさら……ね。
 ミツキちゃんが寂しさからまた浮気とかしてないか、或いは今度はダンナを寝取られる立場になってないか、それも知らないよ。

 まあね、黒沢は「写真家になるんだ!」とか言い続けながら芽は全然出ないままだったし、そーゆー夢追い人は世間的にはロクデナシと同じなんだってことぐらい、自分でもわかってるさ。
 だから客観的に見れば、越冬地として見切りをつけられても仕方ないと思う。思うけど、乗り換えられた先がオッサンで不倫というのが、何かとてつもなく悲しかったよ。

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お受験(19)・オタクたちよ、立ち上がり胸を張れ!

 でもオタクやギャルゲー好きの男子って、世間的に不当に叩かれ過ぎてると思うよ。
 男の子向けのマンガもそうだけど、確かにギャルゲーって理解不能なくらい男にのみ都合の良いヒロインばかり出て来るもんね。ちょっと冷静に見れば、女子でなくとも「バッカみたい」って思わないでもないよ。
「ドコにでもいる平凡で特に取り柄もない主人公が、いろんな美少女たちに、ナゼか惚れられてモテモテになる」とか、同じ男から見ても「ありえねー!」って思うし。

 けどそれは、大半の少女マンガや女性向きの恋愛小説だって、全く同じ事でさ。特に少女マンガなんか、「どこにでもいる平凡な女子が、学園のいろんなイケメンにモテちゃって、複数の相手の間で気持ちが揺れ動いて困っチャウ」みたいな話が王道だもんね。
 それどころか「大人の女性向けの恋愛小説」と謳われている小説だってさ、「エリートの夫もいるアラフォーの女性が、二十代のイケメン男性に一途に恋されて真実の愛wに目覚めて……」みたいな話が、呆れるほどザラにあるし。
 男から見れば「アホかwww」って感じだよね。超イケメン達が“フツーの女子”を奪い合う話はまだしも、若いイケメンが一回りを越える年上のオバチャン(しかも既婚)に恋するとか、「ありえねーよ!」って叫びたくなっちゃうよ。ま、そういう男性も居ないことはナイけれど、それはフ○センっていう性癖の持ち主だってば。

 ギャルゲーだけでなく、男子向けのマンガやアニメやラノベの多くが、男にのみ都合良く出来ていて、リアルな生身の女性を描けてないのは事実だよ。
 けどそれは少女マンガも大人の女性向けwの恋愛小説も全く同じで、「女にのみ都合良く出来ていて、リアルな生身の男を描けてない」から。
 だから萌えマンガやアニメやギャルゲーを愛するオタク達を、女子に「やだ、キモーい」と嘲う資格は無いっスよ。

 でも今の世の中は、ある意味“女尊男卑”だからね。女性が男を叩くのはセイギでOK、でも同じ理由で男が女性を批判するのは完全アウトなんだよね。
 フツーの女の子がイケメン男子たちに恋される逆ハーレムマンガは、夢見るオンナノコの可愛い夢で。けどマンガやアニメやギャルゲーに萌える男子は、「キモい、氏ネ!」。
 既婚男性や三十近い男が、AKBやモモクロとかに「カワイイ」って目尻を下げたら、「イイ年してキモい」とバッサリで。けど同じイイ年したオバチャンが、若いアイドルやK国のスターに夢中になるのは当然のことで、「何言ってんの、ステキじゃん(ハァト)」。
 アラフォー女性と二十代の男の恋は「大人の真実の恋」で、オジサンが若い女子とくっついたら「ロリペド犯罪者!」
でさ。

 ……おかしいでしょ? どう考えても。
 もっと怒れよ、男たち!!
 断っておくけれど黒沢は、昔みたいな男尊女卑の社会に戻したいなんて全然思ってないよ。けど男女平等ってのはさ、「何でも女性の言う通りにしなさい」って意味じゃないでしょ?

 結局さ、男には「オンナにモテたい」って下心があるから。で、女子に嫌われたくなくて、「それはおかしいダロ」って思っていても、なかなか言えないんだよね。
 何しろ女子は、「うん、わかるわかる」って“共感と同調”で生きてるような生き物だからね。いくら筋が通った事を言おうと、共感せずに反論するとキラわれちゃう可能性が大なんだよ。
 だからそれを肌で感じてわかってる男ほど、本音は腹の底に押し隠して、作り笑顔で女子たちに同調してやり過ごしちゃう。
 ズバリそれがダメなんだって!

 後で嫌われたって、違うものは「それは違うよ」ってキッパリ言っておかないと、女の人は増々「アタシらの感覚は正しい!!」って信じ込むばかりだよ。そしてそのモテたくて女子の機嫌を取る行為が、積もり積もって結果として、例の“女尊男卑”を招いてるんだよね。
 よく「女が強くなった」って言うけれど、それは違うから。実際には「男が弱くなってオドオドしてるだけ」だけだって。
 だから黒沢はあえてハッキリ言うよ、「ギャルゲーや萌え系の諸々は確かに“バカみてぇ”だけどさ、けど少女マンガや女性が読む恋愛小説も全く同じじゃん」って。
 そして世のオタク達にも、もっと堂々としていてほしいね。「オタクで何が悪いよ。俺らが好きなギャルゲーやAKBももくだらねーけどさ、女子が好きなモノ(少女マンガや恋愛小説やアイドルなど)だってくだらねーじゃん」って。

 キミらが自分たちや、自分たちが好きなモノを“恥ずかしい”と思って、「キモい」とか言われても反論せずに逃げちゃうからさ、余計相手を図に乗らせて、世の中に「オタク=キモい≒性犯罪者予備軍」みたい偏見が蔓延るのを許しちゃうんだよ。
 だから黒沢は、周囲の人にもハッキリ言っちゃうんだ。「マンガもけっこう読むし、ギャルゲーだってやっちゃうよー」ってね。すると相手には「え!?」みたいな感じでギョッとされたりもするけれど、そしたら自分が感動したマンガやゲームの良さを、いろいろ力説しちゃうよ。

 それに黒沢の場合、「ただ二次のセカイが好き」ってワケじゃないからね。堅い本もいろいろ読んでるし、写真を撮るのが好きで、現実の世界でもちゃんと恋愛してきてるから。
 そしてその上で「二次のセカイにも良いモノはいっぱいある」って認めてるワケで、だからヒトからどう思われようと、なーんも恥ずかしくないっス。

 でもね、オタクのホントの一番の敵は、実は二次のセカイに偏見を持つ女子じゃないんだよ。黒沢が実は一番「イヤだなあ」って思うのは、二次好きの男子を頭から差別してかかる男だよ。
 リア充であろうと無かろうとさ、可愛い女の子の絵を見て「キモっ」って思う男子はまず居ないと思うんだ。ギャルゲーはちょっとハードルが高いにしても、可愛い女の子が出て来るマンガだったら、男子ならつい読んじゃう筈だよ。
 初めはマンガなど殆ど読まず、ゲームをやるより先にリアルな女子と付き合ってた黒沢だって、試しに手を出したらついこのセカイにハマってしまったし。だから「二次のセカイは、モテないオタだけのものじゃない」って絶対思うよ。

 じゃあ、なぜ二次好きをバカにする男子が居るかと言うと、結局女子の目を気にしての見栄なんだよね。実際自分でその中身を確かめてみることもせず、「女子にキモいオタと思われたくないから」って、女子と一緒になって、二次好きの男子にキモオタのレッテルを貼って叩いてる
 言ってみればまあ、「オレはリア充なんだゾ」って同じ男に対する優越感にプラスして、「女子に生身のオンナと付き合えないオタクとは思われたくない」って保身、という感じかな。
 男と女は違う生き物だし、考え方や感じ方もかなり違うからさ。だから女子がいわゆる“オタク”に偏見を持つのも、わからないでもないよ。でもその女子と一緒になって二次好きの男子を「キモい」と叩く男どもに対しては、「敵に寝返った裏切り者」みたいな感情しか持てないな。

 ハッキリ言うけど、二次好きの男子は決してヘンタイなんかじゃないから。
 世の中の多くの人に凭れてる偏見通りに、もしオタクがヘンタイだとしたら。
 少女マンガを読む子も、ジャニオタの女子も、アラフォー女性と若い男子の純愛小説wを読む女の人も、韓流スターにハマるオバサン達も、みんな全員ヘンタイだってば。

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お受験(18)・相手を思いやるよりまず自分の感情優先なゲーム

 さて、「KIDのゲームは好きだけれど『モノクローム』その他、幾つかの作品はキライ」というあたりから、話がメチャ逸れまくっちゃったけど。
 黒沢が『モノクローム』を好きになれなかった理由って、ズバリ「主人公がガキ」ってこと。
 その主人公って高校を卒業しても進学も就職もせずにいて、姉が理事長をしている学園の寮に住んで、姉の仕事の手伝いなどをしているのだけど。ま、ぶっちゃけ言えばただのニートだね。
 ただ一見クールな美男子なんで、周囲の女の子達にはモテモテ……と。

 いや、別に「クズニートがモテモテだから気に入らない」とかじゃないって。やるコトがガキと言うか、言い換えれば「選択肢で自己チューな言動ばかり選んで行かないと、グッドエンドに辿り着けない」ものだから、死ぬほど感情移入しにくかったんだ。
 設定ではその学園の卒業生だから、殆どのヒロインより年上で、しかもクールで達観しているみたいなキャラなんだよ。でもいざとなると、相手の立場や気持ちより自分の感情を優先しちゃう。
 この話の主人公がさ、『この青空に約束を』の主人公のように「ヒロイン達と同じ高校生で、おバカでケーハクな熱血漢」と言うのだったらね、好きにはなれなかっただろうけど、少なくとも違和感は無かったと思う。けど『モノクローム』の主人公は、その真逆のクールなイケメンOBだからね。
 で、日頃は上から目線で醒めた言動をとりながら、いざとなると自分のキモチ最優先で、お子ちゃまみたいな行動をしちゃう

 できればネタバレを避けたいから、設定をちょいと変えてその例を話すね。
『モノクローム』のヒロインの一人のA子さんも主人公の後輩で、ある方面で才能があって人気者なのだけれど、実は最近スランプで悩んでいると思ってね。ただA子さん自身は負けず嫌いだから、それを表に出さずに明るく振る舞ってる。
 で、そのA子さんの才能を生かすべきイベント、まあ仮に“大会のようなモノ”が近々あると思って下サイ。
 実はこの主人公は、「主人公を幸せにする為に天から降りてきた」見習い天使wと同居しているのだけれど、その巻き舌で喋る見習い天使wが「友達みんな誘って、A子ちゃんの応援に行こうよ!」とか言い出して聞かないワケ。

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 この『モノクローム』ってマジで変なゲームでさ、プレイ中に“視点”が何度も変わるんだよ。最初は「オレは……」とごく普通に主人公の視点で物語が進むのだけど、それが何の前置きもなしに、いきなりヒロインの視点に飛んじゃうの。そして「カレにはああ言ったけど、あたしはホントはこう思ってて……」って調子で、主人公は知り得ない筈のヒロインの心情をいろいろ語り出しちゃうんだよ。
 で、また唐突に「オレは……」と主人公の視点に戻って、さらにまた「あたしは……」とヒロインの心情に飛ぶという、小説では普通あり得ない反則技の繰り返しだよ。

 何しろストーリーの語り手が、いきなり主人公の男になったり相手のヒロインになったりしちゃうんだから、主人公の“オレ”に感情移入しようにも困っちゃいマスよ、って。
 そしてまたそーゆー構成だから、ヒロインの手の内と言うか、「主人公の“オレ”は知らない筈のヒロインの本心」を、プレイヤーは全部知っちゃってるんだよね。
 でさ、その語り手が幽体離脱みたいに主人公からA子さんにチェンジしたパートで、「最近スランプでダメダメで、こんな姿を主人公にだけは絶対見られたくない」と思っていることを、ヒロイン自身がハッキリ語ってるんだよね。
 そういう状態で、A子さんが出る“大会”に「みんなで応援に行こうよ!」って誘われたら、どうするのがA子さんへの思いやりだと思う?
 少なくとも黒沢だったら、「応援には行かないで、その代わり後でそれとなく余分に優しくして見守る」よ。どうしても気になって見に行っちゃうとしても、それならそれでバレないように一人で行って、陰からそっと見守るよ。

 相手が一番イヤがってるってわかってるのに、あえて「皆で一緒に応援に行く」って行動の選択だけは、もうホントに絶対あり得ないって。その人が「絶対見られたくない!」って思ってる姿を、承知の上で「友達ご一同様と揃って応援に行く」って、いったい何の羞恥プレイの強要だよ……っての。
 彼女があえて内緒にしていて、見られたくないと思ってる部分にさ、「仲良しなんだから、ヒミツは持っちゃいけないぜ」みたいなノリでガンガン踏み込んで行っちゃう神経って、黒沢にはどうにも理解できないんだよ。
「親しい相手でも踏み込まれたくない部分」って絶対あると思うし、「秘密=悪」みたいな感覚で人の心に土足で入り込んでくる“善意の人”って、黒沢から見れば正直ウザいし大迷惑だよ。

 でも『モノクローム』の制作者はそうは思ってないようで、その場面での正しい行動の選択肢は「皆で応援に行く」なんだよね。
 で、A子さんの気持ちを優先して「行かない」を選ぶと、そのまま真っ直ぐバッドエンドだよ。A子さんの気持ちを傷つけてプライドをずたずたにしても、皆で応援に行かないと話は先に進まないワケ。
 つまり『モノクローム』の制作者ってさ、相手の気持ちや感情ではなく「心配だから応援しに行くという“自分のキモチ”がとにかく一番大事」って思ってるんだと思う。
 で、皆で派手に応援に行くと、案の定A子さんに激怒されてさ。でもスランプがバレたことで隠し事が無くなって、「結果として心の垣根が取れて、それまで以上に仲良くなれましたとさ」というオチ。

 そしてA子さんは前向きに頑張ってスランプを脱して、もっと大きな世界に羽ばたいて行こうとするのだけれど。
 で、最後の選択肢デス。卒業後もお姉さんの世話になって生きてるニートの主人公であるキミは、そんなA子さんにどう接するべきだと思う?
 選択肢は二つで、
「A子さんがその世界で活躍するのを応援する」
「オレの側にいてくれと言う」
 なのだけれど、黒沢は迷わなかったなー。

 当然「応援する」でしょ。だってA子さんはただの女の子じゃなくて、才能のある特別な子なんだよ? しかもその道での頑張りが実を結んで軌道に乗りかけていて、当人もやる気満々でさ。なのに「夢なんか捨ててオレの側に居ろ」だなんて、少なくとも相手のことを考えたらとても言えない、ってば。
 しかもこの話の主人公、相手と結婚して専業主婦としてラクに養って行けるどころか定職すらない、ヒロインより年上なのにただのクズニートだし。
 にもかかわらず、「応援する」を選ぶとバッドエンドなんだよ。そして相手に夢を捨てさせて“オレの彼女”でいさせるのが、このA子さんのルートのグッドエンドなんだ。
『モノクローム』の制作者って、ガチで「とにかく自分のキモチに正直に生きるのがイチバン!」って思ってるんだろうね。

 うん、まあそれもアリかも。もしもこの話の主人公が、『この青空に約束を』や『FESTA!』などの主人公みたいな、おバカな熱血漢の同級生だとしたらね。
 でも何度でも繰り返して言うけど、『モノクローム』の主人公のキャラ設定は、どのヒロインよりも年上で「クールな学園のOB」だから。「ありえねー!」って心から思ったし、もうウンザリと言うか、そのA子さんから先を続ける意欲が全く無くなってしまったよ。
 けどこの『モノクローム』がネットのレビューなどでも好評で、続編も作られるほどだった……ってコトは。黒沢をウンザリさせた「相手を思いやるより、まず感情優先で自分のキモチに正直に」って生き方が、現実には多くの人に肯定されていて共感を得てる……って事なんだろうね。

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お受験(17)・ダマされたと平気で言える人達は…

 例えばさ、今キミが住んでる家がとても古くてボロで、しかも不便で土台も腐ってるとするよ。で、キミは「一日も早く、もっとマシな家に引っ越したい」と思ってる。
 だとしてもさ、ちゃんと新しい住処を見つける前に、まず今のボロ家をブッ潰しちゃうバカはいないよね。
 まあキミ自身はさ、「あー清々した、あんなボロ家にこれ以上住むくらいなら、公園のベンチで寝た方がマシだ」って思うかも知れないね。でもさ、キミのその“気分”の巻き添えになって、住処を無くしてしまったキミの家族はいい迷惑だってば。

 家だけでなく車でも家電製品でも何でも、「買い換えるのは、よく確かめて今のモノより間違いなく良いものを見つけてから」ってのが、理性と常識ってもんでしょ。ただ「気に入らないから」って、今あるモノをまずブチ壊して捨てちゃうバカが、どこにいますかって。
 政治もそれと同じでさ、一票を投じるなら「その政党や政治家が(三行以内の耳ざわりの良いキャッチコピーでなく)具体的にどんな国を作ろうとしていて」、そして「その政策は本当に国民の為になるもので、現実に実現可能なのか?」をよく見極めてからでないと、ヒトラーを指導者に選んだドイツ人達と同じように痛い目を見ることになるよ。
 よく「この国を一遍ガラガラポンして」って言う人達がいるけれど、国の政治ってそんなに気安く「ガラガラポン」して良いものなの? だって“政治”って、多くの人の命や生活がかかってるんだよ。

 あの小泉サンを信じてついて行って、この国はどうなった? 格差が広がり、派遣さんばかりになって福祉も切り捨てられただけでしょ。
「痛みに耐えて」と彼は口癖のように言ったけれど、その痛みは国民のみが引き受けて、投機筋や金融屋などの一部の金持ちや外資は肥え太ったよね。小泉サンの改革を支えたさる金融会社が、小泉改革を利用してどれだけ儲けたと思う?
 戦争でも政治改革(改悪?)でも原発でもそうだけれど、後になって「ダマされたー!」と後悔しても取り返しのつかないことって、ホントにいっぱいあるんだよ。
 だから多くの人々の暮らしと命を左右する政治家には、「この国を一遍ガラガラポンして」だなんて、マジで気安く言って欲しくないよ。実際、その種の政治家に、時代の空気や気分で気安く一票を入れちゃう人が多くいると、国がどんどん悪い方に転がってっちゃうんだよね。

夜明け前 全4冊 (岩波文庫)夜明け前 全4冊 (岩波文庫)
(2010/08)
島崎 藤村

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 島崎藤村の『夜明け前』にも描かれてるように、幕末の民衆って倒幕派の具体的な政策もろくに知らないまま、ただ「今より良くなるだろう」と信じて「ええじゃないか!」と暴れて薩長に手を貸してさ。そして出来た新政府に税を増やされたり兵隊に取られたりした後で、「ダマされたー!」と嘆いたり怒ったりしてるんだよね。
 もちろん悪政の一番の責任は政治家にあるんだけど、その「ダマされて信じてついて行った人達」は、何も悪くないし何の責任もないワケ?
 ヒトラーや日本の軍部にダマされないで戦争に反対していた人達だって、そして福島原発に「アレはヤバい」って警告していた人達だって、少数にしても間違いなくちゃんといたワケじゃん。
 後になってから「ダマされたー!」とか言って被害者のような顔をしている人達って、そのダマされなかった人達に何て言い訳つもりなのかな?

 中身もよくわからないまま気分で倒幕に走った『夜明け前』の主人公は、新政府に「裏切られて」不幸になったけれど、それは気の毒ではあるけれど自業自得だとも言えるよ。
 でもさ、尊皇攘夷の気分や薩長のウマい話にダマされなかった者から見れば、夜明け前』の主人公は犠牲者なんかじゃなくて、「世の中を悪い方に引っ張ってって、皆の暮らしを悪くさせた加害者の一味」でしかないんだよ。

 よく考えてみて。
 民衆の支持なしに、ヒトラーとナチスは政権を取れたかな?
 かの福島原発も、「地元の人達はみな反対してたのに、トーデンと悪徳政治家が悪代官と越後屋のように結託して、国家権力でゴリ押しで建設してしまった」の?
 あの無謀な太平洋戦争の時も、国民はホントは戦争反対だったけど、軍と特高警察に怯えて仕方なく従ってたの?

 ……そうじゃないでしょ。威勢だけ良い軍人さんやタチの悪い扇動政治家、そして口が巧く甘い餌をチラつかせる悪徳商人を、信じてついて行った大衆がいたからこそ、戦争もできたし原発もできちゃったんだよね?
 ヒトラーにも日本の軍部にも原発にも、反対してた人達は間違いなく居たんだよ。けどその人達を無視したり、場合によっては罵声を浴びせてイジメたりしてたのは、いったいどこの誰なの?

 あの太平洋戦争もさ、国民は嫌で嫌で仕方なかったワケじゃないんだよ。当時の大部分の人達は初戦の日本軍の勝利に大喜びして、「ボクも兵隊サンになって、鬼畜米英を倒してやるんだ!」って意気込んでたんだよね。
 あの戦争は、軍と警察と一部右翼が無理矢理始めたワケじゃないの。「交渉で譲るなんて出来るかい、こうなったらもう戦争だ!」って“気分”は、国民自身の間から盛り上がってたんだよ。
 戦争に少しでも疑問を持つ人に非国民のレッテルを貼って、吊し上げにしていろいろイジメてたのは、コワ~い特高警察より先にまず隣組の普通のオッチャンやオバチャン、つまり国民自身だったんだ。
 でさ、後になって都合が悪くなると必ず言うのがあの台詞、「ダマされたー!」ってやつね。

 その“ダマされた人達”って、ホントに何の責任も無いのかな。戦争に疑問を持つ人を「非国民!」ってイジメ抜いても、「それが時代の空気だったし、皆がダマされてたから仕方ないんだ」ってコトでホントにOK?
 うんそうだよね、だから福島原発を作るのに賛成した人達は何もワルくない、よね?(ハイ、この最後の一言はもちろん皮肉と嫌味ですとも、念のため)
 そうして後で「ダマされたー!」とか言う人達ってさ、自分達一人一人が世の中を主に悪い方向に動かしてきたことに気づこうともしないで、「自分達は何も悪くないし、むしろダマされた被害者」って思ってるんだよね。
 特に今の日本は民主主義で、バカでも既知外でも平等に一人一票だからさ、選挙の結果もたいていモノをよく考えないで気分や空気で動く、舟橋聖一が『花の生涯』の中で描いた「知性の薄い、コーフンしやすい熱血漢たち」によって決められちゃうんだよね。
 で、後になって「ダマされたー!」とワメいて、信じたおバカな自分の責任は棚に上げて、「悪いのはダマした指導者のせい」ってコトでチョン。

 あの戦争が終わって間もなく、映画監督の伊丹万作はこう書いているんだよ。

『だまされていた』といって平気でいられる国民なら、おそらく今後も何度でもだまされるだろう。いや、現在でもすでに別のうそによってだまされ始めているにちがいない。


 よく考えてみて、あの戦争が終わってからだけでも、あの伊丹万作氏が言うように我が日本人は何度「ダマされたー!」って言ってきたと思う?
 まずゲバ棒振り回して暴れてた全共闘世代が「ダマされたー!」って言って、社会科学とやらを信仰してたサヨクの人達も、共産主義の実態がバレて「ダマされたー!」って言って。
 そんな昔の事じゃなくて今世紀に入ってからだって、小泉改革に一票入れて「ダマされたー!」、そして民主党に一票入れて懲りずにまた「ダマされたー!」でしょ?

 で、我ら日本人は何でそんな簡単にダマされるのかと言うと、「よく考えもしないで、根拠もなく簡単に“信じて”ついて行くのが好きだから」だよ。だっていちいち考えるのはメンド臭いし、自分の頭で考えるより「信じた誰かについて行く」方がずっとラクだものね。
 で、子供向けのアニメから大人のドラマまで、「信じることの素晴らしさ」を、まるで洗脳みたいに繰り返してるし。ほら、あの「信じて頑張っていれば、いつか神風も吹くし奇跡も起きマス」ってやつね。
 でもさ、その「根拠もなくろくに考えもせずに“信じる”のが好きな人達」が選挙で政治を動かす度に、ちゃんと頭でものを考えてる人が多大な迷惑を被ってるんだよね。

 維新の時代に薩長に唆されて「ええじゃないか!」と暴れて、ワケもわからないまま幕府を倒して。その結果、国民は富国強兵策で江戸時代より税を増され、徴兵制度で兵隊にも取られて。そして八紘一宇だの大東亜共栄圏だのとの美名のもとに、無謀なアジア征服戦争に一直線でしょ。
 その同じ“維新”の名を持つ政党が、二十一世紀のこの日本にもあるよね。その政党が天皇賛歌でしかない君が代をダイスキで、法律で強制してまで皆に歌わせたいのは、ホントに単なる偶然なのかな?
 前にも引き合いに出した「日本を一遍ガラガラポンして」と言ったのは、かの『維新の会』の橋下氏だけれど。少なくとも黒沢は、自分の国の未来を「ガラガラポンと」なんか変えられたくないよ。

 けど日本人の多くは、自分の国をガラガラポンしたいんだよね?
 ……っとにもうこの国の人達って、何度ダマされても懲りないと言うか、信じてはダマされるのが好きなんだよね。

 黒沢は大学の史学科では国史専攻コースをとったけれど、世界史もかなり好きだよ。特に古代ギリシアと古代ローマの歴史はとても面白くて、その時代に関する本は今でも読み続けているよ。
 中でもギリシャのアテネのアルキピアデスって政治家の生涯は、今の日本の政治を考える上でも特に興味深いよ。
 そのアルキピアデスは才能はあるのだけれどものすごい野心家で、自分の利益の為なら祖国を売って敵のスパルタに寝返っちゃうような大悪党でさ。でもアテネの民衆は、そんな悪党の売国奴をずっと支持し続けたんだよ。
 何故ならアルキピアデスはすごく口が巧い上に、かなりのイケメンだったから。

 古代ギリシアと古代ローマの歴史の何が面白いかって、アテネやローマの政治史を見れば、国の政治体制がどう移り変わるかがよくわかっちゃうんだよね。
 簡単に言うと、世の中は絶対王政から貴族の寡頭政治に変わって、それが民主政治に変わるの。けど民主政治も長く続くと堕落して衆愚政治になって、大混乱の後にカリスマ指導者(独裁者)が出てまた絶対王政に戻って……。
 世界の歴史を見る限り、政治ってそんな感じで絶対王政(独裁政治)→貴族(元老院議員とか政治委員とか)の寡頭政治→民主政治→衆愚政治→独裁政治と、無限ループを繰り返すのが必然なんだよね。

 せっかく政権を取った民主党は国民に愛想を尽かされかけているけれど、選挙で勝った自民党自体も完全に信頼を取り戻したワケじゃない。そんな中で国民に人気を保っているのは、小泉サンや石原閣下w、そして「独裁が必要」と公言する橋下氏や、この日本を昔の大日本帝国に戻したい安倍総理で。
 さて今の日本は、例の絶対王政が衆愚政治にまで落ちてまた振り出しの絶対王政に戻る無限ループの中の、いったい何処にあると思う?
 だから黒沢は、未だに小泉サンや石原閣下(w)に期待するだけでなく、独裁上等の橋下氏を歓迎し安倍総理を支持する今の時流が怖くて仕方ないんだよ。

 もしこれを見てくれた人の中に、マンガを描いたりアニメを作ったりしている人が一人でもいてくれたなら。頼むから貴方だけでも、「さあ信じなさい、信じるキモチがあれば奇跡も起きる!」と子供達を洗脳するのは止めてくれないかな
 あるいはもしも、ドラマの制作関係者や作家が一人でもいてくれたなら。「知性の薄い、亢奮しやすい頭脳の持ち主」を、カッコいい熱血漢のヒーローとして描くのを、頼むから止めてくれないかな
 考えるのがキライで信じたがりの興奮しやすい熱血漢たちに、この国がどんどんヤバい方向に押し流されそうで怖いんだよ。
 少なくとも初代の『ガンダム』と『宇宙戦艦ヤマト』は、子供達に「信じて戦え、奇跡は起きる!」とは訴えなかったよね?

 実は黒沢って、ただ中学生の頃にヒトラーの『我が闘争』を読んでただけでなく、筋金入りのドイツ軍マニアのミリオタなんだよ。もう戦争映画でドイツ兵をチラっと見ただけで、階級とか持ってる武器とか殆ど全部わかっちゃうくらいだし。出てくる戦車や軍用車の名前だって、ほぼすべて当てられるしね。
 ミリタリーグッズも雑納やらSS少佐の肩章やら幾つか持ってるけど、中でも大事にしているお宝は、錆びかけた空の弾倉が一個入った、ホンモノのシュマイザー短機関銃の弾倉ケースで。
 戦記モノの本もいろいろ読み漁ったし、マンシュタイン元帥やハインリーチ上級大将、それにビトリッヒSS大将やクルト・マイヤーSS准将など、武装親衛隊も含む幾人かのドイツ軍の指揮官達は本気で尊敬してるし。
 憲法は根っからの改正派で、自衛隊もさっさと日本国防軍にすべきだと思うしで、大学生の頃にはサヨクの学生達と何度も口論したよ。
 そんな黒沢だけれど、石原閣下wや橋下氏や安倍総理がもてはやされ、田母神氏に六〇万票以上入るような今の日本の状態は、どうにも我慢できないんだよ。
 今のこの国の人達に、『アカイイト』のヒロイン羽藤桂ちゃんの言葉を借りてもう一度言いたいね。
ストップ、独善

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お受験(16)・正義や愛国心を語りたがるヒトはキケンです

 あのさ、違う立場の人の考えや異論も聞いて、その結果「そういう見方もあるのか」って認めて意見を変えるのって、そんなにダメなことなの?
 人の意見を聞かず、ひたすら自分の考えを押し通して突っ走る政治家こそ「ブレない立派なカリスマ指導者」ってことでホントにOK?

 例えば少し前のNHK大河ドラマ『龍馬伝』で脚光を浴びた、幕末の土佐藩でも。己の正義だけを信じて反対派を殺しまくった武市半平太より、彼に殺された吉田東洋の方が黒沢にはずっと立派に思えるよ。
アカイイト』のヒロイン羽籐桂ちゃんではないけれど、「ストップ、独善」って黒沢もホントそう思うよ。
 けど東京都民も大阪府民も“独善”の政治家を選んできたし、日本人自体もそういう指導者を信じてついて行くのが好きだよね。

「信じる」って、黒沢から見ればただの思考停止状態にしか見えないんだけど。
 でも多くの日本人は信じるのが好きだし、と言うより「信じることは美徳」って感覚だよね。だって子供向けのアニメから大人が見るドラマまで、信じることの強さと素晴らしさを訴えてばかりでしょ。まるでもう何かの宗教の洗脳みたいに、「信じなさい、信じるキモチが一番大事なの」って繰り返してさ。
 アニメにもなってる少年ジャンプの某超人気マンガもさ、結局ただ「ナカマが大事、ナカマの絆を信じろ!」って繰り返してるだけでしょ。そして子供よりいい大人の方がそれにカンドーしてハマっちゃってるんだから、この国の大人たちってもう……。
 けど昔の人気アニメって、そんなに気安く「信じろ!」って訴えたかなあ?

 アニメを子供向けから大人が鑑賞できるものに引き上げたのは、知る人ぞ知る初代『ガンダム』だけど。その初代ガンダムは今のアニメと違って、「ナカマを信じろ!」とか「正義の為に戦え!」とか強く訴えたりしてないから。
 その少し前の『宇宙戦艦ヤマト』だって、敵の侵略者にもそれなりの事情があり、正義の為に戦ってるつもりが、実は自分達も異星人たちから見れば侵略者と大差ないものだった」ってメッセージも込められていたりしたんだよ。
 けど、今のアニメって「信じる気持ちの素晴らしさと大切さ」を、洗脳するみたいに繰り返すようなのばかりだよね。

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 恥ずかしながら『セーラームーン』、黒沢も時々見てマシタ。元祖美少女戦士のヴィーナス、それに巫女さんのマーズがちょっとお気に入りで……。ファンの方々には申し訳ないけれど、大きなお友達の方々に大の人気だった亜美ちゃんの良さは、実は黒沢にはちょっとわかりませんデシタ。
 ま、『ドレミ』や『プリキュア』と同じでキホンは低年齢の女児が対象だから、ストーリーがヌルくても当然だし、初代の『ガンダム』みたいな深い中身を求めること自体が間違ってるんだけど。うん、それは黒沢もよくわかってる。
 でも美少女戦士たちのバトルをニヤケながら見ていられたのは『セーラームーンR』までだったよ。次の『セーラームーンS』の途中から、見ていて何か腹が立ってきて、話の続きを見るのがいつの間にか苦痛になってしまってた。

 その原因は、『セーラームーンS』でストーリーのキーになる土萌ほたる。絵に描いたような(って言うか、そもそもアニメは“絵”なんだけれど)可憐な病弱美少女で、だから大きなお友達のファンも少なからずいて、マニア向けのショップでは、彼女のフィギュアもいろいろ売ってたくらい。
 でも黒沢はこの土萌ほたるで熱が一気に冷めて、セーラームーンを見るのを止めちゃいマシタ。

 簡単に言うと、土萌ほたることセーラーサターンは実は敵の秘密兵器みたいな存在で、彼女が覚醒しちゃうと地球が滅びちゃうワケ。だからセーラームーン達より少し大人の(と言ってもJKだけど)セーラーウラヌスとセーラーネプチューンは、地球&人類全体のことを考えた末の苦渋の決断で、土萌ほたるの命を狙ってる。
 けれど主人公の月野うさぎ達は、「だって、トモダチだもん!」って純粋なキモチとコドモの論理で、地球を破滅の危機に追い込んでも土萌ほたるを守ろうとするんだよ。ほら、あの「ひと一人の命は、地球より重い!」ってやつを、うさぎちゃん達はマジで実践しちゃうのでアリマス。
 で、強大な敵と戦いながら、土萌ほたるを巡ってセーラー戦士同士で内輪もめ……と。

 ひと一人の命と地球とどちらが重いかなんて、「そんなの、考えるまでもないダロ」と黒沢は思うんだけど。それにその一人の命を守ったところで、肝心の地球そのものが滅んでしまえば、結局守ろうとした一人も一緒に死んじゃんだよ? それって何も意味ないじゃん、ねえ。
 でも何せ視聴者層は(表向きは)主に小学生の女児だからね、結局はうさぎ達の「信じるキモチと友情の力」で土萌ほたるは救われ、同時に地球も救われるのでアリマス。

 ……わかってたけどさ、どうせそういうオチになるだろう、って。けどそれでも「信じるキモチが一番、信じるキモチさえあればどんな敵にも勝てる!」って思想を大真面目に説かれちゃうと、ひねくれ者の黒沢は胸がムカついて気分が悪くなってしまう
 その「信じるキモチ」とやらに頼って国力差も無視し、資源も戦略も無いままアメリカに喧嘩を売って、結果多くの国民を死に追いやった過去の歴史をちょっとは反省しろよ、って。

 敵に勝つのに必要なのは、まずは戦えるだけの力、そして次が悪知恵に近い頭というか戦略。これはただ戦争だけじゃなくて、政治でも商売でも、社内や教室内の勢力争いでもみんなそうだから。
 信じるキモチとか精神力とか、そんなの現実には子供のケンカでも何の役にも立たねーんだよ。戦力も戦略もないくせに、ただ「信じて頑張れ!」とか叫ぶ正義のヒーローって、超ウゼエ。

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東野英治郎、杉良太郎 他

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 黒沢って、ガキの頃によく“正論”を振りかざして「間違ってる、周りのみんな」と戦っては、何度もフルボッコされてきたからね。「いくら正しくても、力が無ければ勝てない」って現実が、骨の髄まで染み込んでるんだよ。
 勧善懲悪がウリみたいなあの『水戸黄門』だってさ、助さんと格さん(アーンド風車の弥七や柘植の飛猿)が強いからこそ、「娘さんにカラんでる昔のDQNども」に勝てるんじゃん。いくら正義の味方のつもりでも、腕っ節が八兵衛レベルだったら、逆に悪者に袋叩きにされて、娘さんは連れ去られてテゴメにされるのがオチだって。

 あの戦争も、現実には大和魂では“鬼畜の米英”に勝てなかったし、神風も吹かなかったよね?
 あの『宇宙戦艦ヤマト』や初代の『ガンダム』では、「信じて戦え!」なんて訴えたりしなかった
 例の『セーラームーンS』だって、少なくとも理想論と現実論の間の葛藤はあったんだよ。セーラームーン達の“信じるキモチ”によってキセキが起きちゃって、土萌ほたるを殺さなくても地球を救えた後の、ウラヌスとネプチューンの「自分達は、いったい何の為に戦ってきたのだろう」という苦悩には、何か身につまされるような共感すら覚えたし。

 でも多くのアニメやマンガって、「それだけの力が無ければ、悪には絶対に勝てない」という面はあえてスルーして、と言うより半ば確信犯で「考えるな信じるんだ、信じるキモチさえあればキセキは起きるし、どんな強大な敵にも勝てる!」みたいな洗脳を繰り返してるんだよねぇ……。
 その子供の頃から繰り返されている「信じるキモチが一番大事!」って刷り込みが、黒沢はマジで怖いんだよ。

 例えば正義なんてものはね、現実には「トークで味方を増やすのに使う武器」でしかなかったりするんだよ。だから戦争の時には、どっちの側も「セイギは我にあり!」みたいなコトを力説するワケで。
 政治的指導者にとって正義だの愛国心だのなんてのは、ぶっちゃけ「国民をダマして兵隊にして、戦場に送り出す為のもの」でしかないんだよ。
 だからバトル有りの少年向け熱血マンガやアニメで「正義の為に戦え!」とか洗脳みたいに繰り返すの、マジで止めてほしいと思うよ。

 自民党も民主党も、中でも維新の会は特に「正しいのは自分達で、悪いのは相手」みたいに言ってるし。同じように中国も韓国も北朝鮮も、「日本は悪で、正義は我が国にあり!」と思ってるし。ドクロの旗を掲げる“海のSS”ことシーシェパードだって、「自分達こそ正義の味方で、鯨やイルカを殺す日本人は野蛮人だ!」と思ってるし。
 そうそう、SSと言えばかのヒトラー配下の第三帝国の兵士達だって、ショッカーとかみたいに「俺たちゃ世界征服を目指す悪の軍団だぜ!」とか思ってたワケじゃないんだよ。祖国を救う為に悪(←共産主義とユダヤ人)と戦っている、正義の戦士のつもりだったワケでさ。
 ナチも北朝鮮もシーシェパードもさ、結局みんな「正しいのは自分達で、セイギの為に戦ってる」と信じてるんだよ、悲しいくらいマジで。

 だから黒沢はセイギなんか信じないし、と言うより何かにつけて正義を振りかざして「信じてオレについて来い!」みたいなスタイルの指導者(政治家でも宗教家でも)ほど、マジで胡散臭いヤバい奴にしか見えないんだよ。
 世の中を敵と味方に“わかりやすく”分けて、「諸悪の根元はオレの“改革”に反対する敵のヤツらで、抵抗勢力をブッ潰せば世の中すべて良くなる!」みたいに叫ぶ政治家ってのは、本質はヒトラーと同じだからね。
 そうそう、スターリンや毛沢東は違うけれど、ヒトラーはちゃんと選挙で国民に選ばれたワケで。だからこの国でも選挙で“ヒトラー”が指導者に選ばれてしまう可能性が、本当にあり得るのだよ。

「独裁者を選挙で選んじゃうって? 国民はそんなバカじゃないよ」と言う人、きっとかなり多いだろうね。
 でもこれまでの選挙の結果を見ても、黒沢は「我らが日本人は、民主的な選挙で独裁者を選びかねない」って本気で思ってる。
 ハッキリ言うとね、黒沢はセイギとかだけじゃなくて、日本人の理性や知性も信じてないんだよ。だって太平洋戦争の時の、あの集団ヒステリーみたいな熱狂ぶりを見れば……ねえ。

「欲シガリマセン、勝ツマデハ」で、日本が勝つと信じない者はみな非国民扱いでイジメ抜いて。そのくせ一度負けたら、掌返しで鬼畜の筈のアメリカさんにギブ・ミー・チョコレートでしょ。
 天皇陛下は神で「お国の為に喜んで死にます」が、あっと言う間に民主主義万歳で、何でも自由がイチバン。僅か数年で平気でこれだけ一八〇度変われるこの国民の、どこに知性や理性がありマスか?

 近年劣化(スイーツ化?)の度合いを増しつつあるNHK大河ドラマだけど、その第一作は井伊直弼と長野主膳の生涯を描いた『花の生涯』だったんだよね。その原作者の舟橋聖一は、本の中でこう書いているんだよ。

知性の薄い、亢奮しやすい頭脳が、この国では熱血漢として珍重されている

 日本人って、ホントに全くその通りなんだよね。
 尊皇攘夷の志士達がこの国を具体的にどう変えるつもりなのかも、その結果自分ら国民の暮らしがどうなるかもよくわからないまま、殆ど気分で「ええじゃないか!」と幕府をブッ倒しちゃったのが、かの明治維新ってやつでしょ。 今、維新、維新と叫ぶ政治家たちを好きな人も、同じその種の人達だよね。
 そう言えば『龍馬伝』でも、その種の熱い漢たちwwwが大勢出てきたよね、それも主に、龍馬の仲間や薩長の倒幕側に。
 小泉サンでも橋下氏でも石原閣下wでも、その種のいわゆるカリスマ政治家に一票入れちゃう「誰かについて行きたい信者たち」も、同じように頭でものを考えるのが苦手な“熱血漢”が多いよね。ほら、いつかテレビの街頭インタビューで、「橋下さんの改革に反対するヤツは、オレが行ってブン殴ってやる!」と息巻いてた、威勢の良い大阪の兄チャンみたいな……ね。

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お受験(15)・“決められない政治”より怖いもの

 時代をちょっと、今から七十年ほど前に遡ってみようか。
 我がテイコクがせっかく手に入れた権益と植民地にケチをつけられて、ABCD包囲陣とか作られて。そして「言うこと聞かなければ、もう石油を売らねーゾ」と脅されて。
 そこで冷静に(イギリスやオランダはともかく)アメリカとの国力の差とか考えたら、「ここは悔しくとも外交交渉で、譲れるものはギリギリまで譲り、ある程度の権益を守ろう」って思うのが理性と常識だよ。ほら、臥薪嘗胆って言葉だってあるじゃん。

 当然、国内の右派とアメリカとの板挟みになって、落とし所を決める交渉はかなり厳しいものになると思う。理屈の通じない、聞く耳を持たないバカは、いつの時代にも大勢いるからね。
 国力の差を冷静に比較すれば、どう考えてもアメリカと戦って勝てる筈がない。だからある程度の譲歩はやむを得ないのだけど、譲れば国内世論が許さない。黒沢も「戦争は無理、交渉で解決しなきゃ」とは思うのけれど、その交渉をする外務大臣にはなりたくないね。

 だから正解の見えにくい事をいろいろ考えて悩むより、「精神力さえあれば勝てる!」と信じちゃう方がずっと楽なんだよ。
 日本は神の国だ、負けるなんてあり得ない!
 統計だの戦力差だの一切無視して、頭からそう信じさえすれば、「やっちゃえOK!」で真珠湾も奇襲できちゃう。
 そしてどんなに戦況が不利になり、各都市が焼け野原になって原爆まで落とされても、大和魂と必勝の信念で「空襲はバケツリレー、敵戦車には竹槍で突っ込めばOK」と。

 うん、キミが何を信じようが、それはもちろん個人の自由だよ。
 でも“信じる”ってさ、一つ間違えると自分だけでなく多くの他人の命を奪い、挙げ句に国まで滅ぼしかねないくらいコワいことなのだよ。何しろこの国は議会制民主主義で誰にも平等に一人一票で、その結果、近年では国政選挙の度に日本が大きく右に左に振れてるでしょ?

 例えば自爆テロをした人も魔女狩りをした人達も、みんな信じるものの為に良い事をしているつもりだったんだよね人を殺すのを楽しんでいるサイコパスなどでは全然なくて、悪と戦う正義の味方のつもりだったんだよ。少なくとも“自分の中”ではね。
 かの十字軍が、見事“聖地”エルサレムを攻め落とした時のこと。キリスト教徒の兵士らは、そこに住んでいたイスラム教徒を女も子供も関係なく殺しまくって、イスラム教徒の血に踝まで浸りながら、歓喜の涙に震えていた」そうだよ。
 そう、これが自分の頭でもの考えるのをやめて、神やら何やらを信じたことの結果なのだよ。

 日本人って欧米と白人が大好きだからさ、よくいるよね、カッコイイつもりで気安く『○○十字軍』とか名乗っちゃう人達。ほら、草刈り十字軍とか、お掃除十字軍とか。十字軍の意味も、彼らが“聖地”でした事も全然知らないで。
 そういう無知と言うか無邪気な人達を見る度にね、黒沢は心の底から「……バカ」って思うね。
 って言うと、すぐムッとして「だって、そんなの知らなかったんだモン!、何よ人をバカにして!!」って逆ギレする人が多いよね。あるいは、「いーじゃん、そんなの雰囲気やイメージなんだから。そんな難しい理屈をこねて空気を悪くすんなよって」とかね。

「それにさあ、十字軍とかって大昔のことじゃん。今の日本でそんなこと、絶対あり得ないよ」って?
 いや、黒沢が見るところ、それがそうとも言い切れないんだよ。
 たまたま見ていたテレビの街頭インタビューで、いかにも威勢の良さそうな大阪の兄ちゃんが、こんなことを言っていてさ。「橋下さんの改革にガタガタ言うヤツは、オレが行ってブン殴ってやる」って。

 うん、もちろんそれはその場のノリと言うか、ただ口先だけのことだろうけどね。事実その後、「反橋下派の政治家が、橋下氏批判に怒った市民に殴られました」なんてニュースを聞いたこともないし。
 けどこの種の「○○さんに反対するヤツは、問答無用でブッ潰す!」ってノリの、昔の青年将校みたいな兄ちゃんが、十人、百人、そして千人と増えて、さらに彼らがある意図を持って組織的に集められたら、さあどうなると思う? それこそヒトラーとナチの、かの突撃隊の再来だよ。

 日本の例の二・二六事件だって、多くの国民が殺された政治家たちよりテロリストの青年将校たちの方に同情的だったしね。
 子供の頃から歴史が好きで大学も史学科を出た者として、「何かを強く信じて理屈の通じない人」って、心から怖いと思よ。十字軍の兵士であれ、日本の昔の青年将校であれ、今のイスラム原理主義者であれ、狂信者たちってマジで大勢の人を死なせて国を滅ぼすから。
汚職は国を滅ぼさないが、正義は国を滅ぼします。五・一五と二・二六事件の青年将校は正義のかたまりでした
 こう言ったのは、高名なコラムニストの山本夏彦さんだけれど、黒沢もホントにそう思うよ。

 なぜ正義が国を滅ぼすか、って?
 それは『アカイイト』ってプレステ2のゲームの主人公、羽藤桂ちゃんの言葉で説明しようか。

「人の道に基づくのは大いに結構ですけどね、人道や正義なんていうものは、生まれや教育や宗教観で違ってくるわけで、それをグローバルに押し通そうとすると齟齬が生じるものなのです。
 ストップ、独善


アカイイトアカイイト
(2004/10/21)
PlayStation2

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 この『アカイイト』は評判以上に良いゲームだったんで、いつかこの場でも紹介したいと思ってマス。
 それはソレとして、例えばアメリカとアルカイダだって、お互い“正義”の為に命を懸けて“悪”と戦っているつもり、なんだよね?
「信じるものの為に全力で突っ走る」って、一見カッコイイようだけど。傍から見れば「独善」でしかないんだよ、マジで。
 自分の言い分を一つ聞いて貰うには、相手の言い分だって一つ聞いてあげなきゃならない。それが現実だし、この世の中を生きて行く知恵ってやつさ。
 そこで「オレが絶対正しい!」って信じて自分の言い分を押し通したら、後はもう喧嘩か戦争しか道は残らないワケで。
 だから黒沢は小泉元総理や橋下氏や石原閣下wや安倍総理のような政治家は、ただキライと言うより国の災いのもとと見ているし彼らに一票を投じる国民をもっと怖いと思う。

 よくさ、近年「決められない政治」の弊害が云々されているけれど。そしてその結果、前回の参院選で安倍自民党が大勝したんだけどね。
 けど「決められない政治」って、そんなに悪い事かなあ? そりゃあ良い事じゃないけれど、世の中には「決められない政治」よりもっと悪い事があるんだよ。
 それは何かって?
 ズバリ、「悪いコトをどんどん決めて行く政治」だよ。

 あの小泉政権時代に、日本がどれだけ悪くなったと思う? 日本の幾多の優良企業が外資に喰い荒らされ、正社員はどんどん切られて派遣さんばかりになって、福祉も医療も切り捨てられてさ。あの“改革”は国民の大多数にとってはマイナスでしかなく、良い目を見たのは一部の投機家と利権屋だけでしょ。

 確かに民主党政権は無能で何も出来なかったよ、けど少なくとも、国民にとって小泉時代ほどのマイナスは無かった筈。
 でも日本人ってMの気質でもあるのか、何も出来ず停滞をもたらしたゼロの民主党政権より、国民に痛みをもたらすコトをいろいろ決めてマイナス方向に世の中を動かした小泉さんを、ずっと高く評価するんだよね。
 戦時中には「欲シガリマセン、勝ツマデハ」って言って、小泉時代には「痛みに耐えて……」って言ってさ。ホント、日本人ってよっぽどマゾ体質なんだろうね。

 あの小泉時代に、真に痛みに耐えていたのは一般の国民だけでさ。議員サンや公務員や大企業が「痛みに耐えていた」ようには、黒沢には見えなかったんだけどね。これが外国だったら暴動の一つも起きて当然だろうに、国民自身が「痛みに耐えて」を合い言葉みたいにしちゃうんだもの。
 日本人の気質って、ホントにもう……。

 そしてその国民が選んで、今も高い支持率を保っている安倍さんだけど。
 安倍さんはよく「日本を取り戻す」って言ってるけどさ、アレは言葉が少々足りなくてね。正確には「大日本帝国を取り戻す」って言いたいんだよ。戦前の天皇中心の国家主義の、あの日本をね。
 安倍さんの言動やら、自民党の憲法改正草案をよく見てみてごらん。その事があからさまに透けて見えてくる筈だから。
 もう一度繰り返させてほしいよ、「決められない政治より、悪い事をどんどん決めて行く政治を選びたいの?」って。

 これは自民党の元議員だった加藤紘一さんが、新聞のインタビューで話していたことなのだけれど。
 加藤さんが山崎拓氏と小泉氏の三人でYKKと呼ばれていた頃、加藤さんと山崎氏の二人は政策について盛んに議論するのに、小泉氏は殆どそれに加わらない。
 で、加藤さんが何故話に加わらないかを尋ねてみたところ、まだ総理になるずっと前の小泉氏はこう答えたそうだよ、「議論するとブレるから」って。

 そりゃ絶対ブレたりしないよね、相手の意見を聞かず、話し合いもしないでただ我が道を突っ走っていれば。そう、これがあの人気の「ブレない政治」の本質なんだよ。
 でも民主主義のキホンって、話し合いではないのかな? 相手の意見も聞かずに自分のセイギだけ押し通すのは、独善って言うのではないのかな?
 ハシズムの橋下氏は自ら「独裁も必要」って公言しているようだけれど、橋下氏だけでなく小泉元総理も石原閣下wも、間違いなくみなファシストだね。
 そして国民にも、「誰か偉大な指導者サマについて行きたい」って人が怖いくらい多いし。

 そーゆー人達って、北朝鮮でもきっと幸せに暮らして行けるのではないかな。偉大な指導者サマを信じて讃えてさ。あの戦争中の日本人の姿を考えれば、まーそこんトコはたやすく想像できるけれどね。
 けど黒沢は「○○サマを信じて、どこまでもついて行きマス」みたいなドレイ根性は欠片も持ち合わせてないからさ、「カリスマ指導者なんてイラネ」って心から思うよ。
 そうそう、大日本帝国憲法では国民は国民でなく、現人神である陛下の“臣民”だったんだよね。でも黒沢は、相手が神であれ何であれ、自分が誰かのケライになるなどと思うだけで、正直に言って吐き気がしてくるよ。

 ね、「伝説のエデンの園は、実は北朝鮮にあったらしい」って説を、キミは知っているかな?
「ふざけんな、エデンの園が何であんな国にあるんだよ!」って?
 でも北朝鮮の人達って、「人々は裸で暮らし住む家も食べるモノもなく、でも自分達は“地上の楽園”に住んでいると信じている」じゃん。
 ま、これは黒沢のお気に入りの小咄の一つなんだけどさ。
 でも北朝鮮って、マジで自分達の国を地上の楽園と言ってるんだよ。そして黒沢が子供の頃の日本のサヨクの知識人達も、ガチでそう信じてたんだよね。
 ……信じるって、ホント怖すぎるでしょ?

 懐疑主義って言うのかな、黒沢は何も信じてないし誰にもついて行きたくないし、何でも一つ一つ自分で考えて判断しているよ。
 一万円ちょっとのコンデジ一台買うのにもさ、ただ店頭で触ってみるだけでなく、カタログでスペックを調べ専門誌の記事も読み、ネットのレビューもできる限り目を通して、いろんな見方を頭に入れた上で「あーでもない、こーでもない」と迷いに迷ってからやっと決めているよ。
 こんな面倒くさくて回りくどいやり方、かの小泉サンやその信奉者たちには、「ブレ過ぎててダメだ」って叱られちゃうだろうね。
 けど黒沢は、それでも一つ一つ考えて考え抜くのをやめたくないんだよ。

 源義経ってホントに英雄で、義経を殺させた源頼朝は悪人なの?
 吉良上野介は強欲な悪人で、浅野内匠頭はホントにその犠牲者で家来たちは立派だったの?
 こういう世間の皆が「そんなの常識ダロ」って信じてることでも、黒沢はちゃんと調べて自分で確かめてみないと納得できないんだよ。
 そうして何でも疑って調べてみると、「世間のジョーシキ」ってのがいかに間違ってるかが、ホントによくわかってくるよ。
 機会があればいつか詳しく書くけれど、今は手短に結論だけ話すね。吉良も頼朝も、欠点はあるけれど実は信じられてるほど悪い人ではないよ。むしろ義経は汚い手ばかり使う野心家で内匠頭はバカ殿、そして浅野の家臣は悪者ではないけれどズバリ無能だね。

 浅野の家臣は無能って、大石内蔵助についてはかなり異論があると思う。でも大石が活躍したのは、大切な御家が取り潰されちゃってからで、それまでは昼行灯と呼ばれていたような人でしょ。
『暴れん坊将軍』などに見るように、徳川吉宗は名君として今も庶民に人気だけれど、実は吉宗に失脚させられた尾張藩主徳川宗治の方がずっと進んだ考えの持ち主で魅力的だよ。田沼も同じく先進的な政治家で、松平定信は江戸時代最悪の改革者だし。
 という具合に、自分でよく調べてみると教科書のジョーシキって、ホントに事実と違うことばかりだよ。だから黒沢は人の言う事や常識もすぐ信じたりしないし、どれだけ悩んで迷ってその結果ブレることになっても、自分のアタマで考えるのを死ぬまで止めたくないんだよ。

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