空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

大失恋(56)・リアルな恋愛は鬱系のギャルゲーに似てマス

 最近増えつつあるご当地アニメではないけれど、ギャルゲーの舞台も案外いろいろだよね。
 例えばKIDの作品って、メモオフ・シリーズはもちろん、それ以外でも鎌倉や藤沢など湘南一帯をイメージしてるものが多い気がするし。例えば『ホワイトブレス』の舞台も多分鎌倉だし、主人公が通学に使う電車も江ノ電っぽい気がするよ。
 鎌倉は黒沢も好きな街で、東京に住んでいた頃にはカメラを片手に何度も通ったよ。それだけに主人公やヒロイン達が出逢って恋したりしてる場所が「多分あの辺りかナ?」と想像がついたりすると、気付かぬうちに作品の世界にどっぷりと感情移入しちゃうんだよね。

ホワイトブレス パーフェクトエディション(通常版)ホワイトブレス パーフェクトエディション(通常版)
(2010/09/02)
Sony PSP

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つよきす!』の舞台のモデルは多分横須賀で、黒沢は横須賀も好きだし、だから『つよきす!』が描くセカイの空気もかなりわかる。
_summer ##』だって、ぶっちゃけ舞台がもし黒沢が育った町に似た「片田舎の海辺の町」でなかったら、「悪くはないけど、ちょい退屈」で片づけて、すぐに忘れ去ってたかも。

 ま、大半のゲームは「舞台は日本のどこにでもありそうな、ごく普通の街」って感じで、きっとそれが一番無難で皆に受け入れられやすいんだろうと思う。
 けどあえてローカル色を強く出して、それを作品のムード作りに利用してるゲームも少なくないよ。
 田舎で恋と言うと、やはり「海辺の町」を連想してしまうよね。けど、山の方の田舎を舞台にしたギャルゲーも案外あるもので。
 今すぐ思いつくだけでも、例えば『夏少女』とか『巫女舞』とか。
 あと、『アカイイト』や『ひぐらしのなく頃に』も、山里なればこそのムードを巧みに生かしていて……って、両方とも(恋愛要素もあるにせよ)ホラーゲームじゃねーかよw。
 さらに『水月』や『夏色小町』のように、両方の良いトコ取りした「海と山に囲まれた小さな町」なんて舞台のゲームもあるし。
 そうそう、知る人ぞ知る名作『おかえりっ!』も、舞台の“姫神島”のモデルは瀬戸内海に浮かぶ真鍋島だよ。

SIMPLE1500シリーズ Vol.81 THE 恋愛アドベンチャー~おかえりっ!~SIMPLE1500シリーズ Vol.81 THE 恋愛アドベンチャー~おかえりっ!~
(2001/12/20)
PlayStation

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 この『おかえりっ!』は、ゲーム機がすっかりプレステ2の時代になった後の2001年に、旧プレステの規格の“SIMPLE1500シリーズ”の一つとして出されたという、とっても不遇な作品でして。
 パッケージもショボくて、見るからに「安売り用でぇ~す!」って感じで、店頭でもお客に殆ど無視されてたよ。
 大体さー、この『おかえりっ!』なんてタイトルから「何コレ、ダサッ」とか思っちゃうじゃん。『夕凪色の恋物語』っていうサブタイトルの方が、どう考えても何倍も良かったのにね。
 でもこのゲーム、中身はメチャ良いデスから。
 黒沢はコレを、ゲームショップの片隅で新品のまま埃を被ってたのを、僅か五百円で手に入れたのだけれど。おかげでその晩から、ゲームを進めるのに熱中し過ぎて睡眠不足になっちまったゼ。
 この『おかえりっ!』は、隠れた名作のまま終わらせるには余りに惜し過ぎるんで、章を改めていずれ詳しく語りたいと思いマス。

 それはともかくとして。
 数あるゲームの中には、キミの住む町に似た場所を舞台にしたものも、きっとあると思う。
 そのキミの記憶に重なるような“町”で、キミが好きだったコにどこか似たヒロインに、主人公と一緒にもう一度恋をしてみてごらん。胸を締め付けられような思いを、また味わえると思うから。

『つよきす!』や『_summer ##』をプレイして、改めて痛いほど思い知らされたよ。あの中三の一年間で失ったモノを、黒沢は未だに取り戻せていないまま生きてるんだ……って。
 って言うか、失ったら二度と取り戻せない大切なもの」って、人生には間違いなくあるんだよ。
 けど人はそのことに気付かず、自分に本当に大切なものは何なのかもわからないまま、周囲や空気や一時の感情などいろんなモノに流されて、徒に時を過ごしてしまうんだよねえ……。

 56回にもわたって長々と書き連ねたこの“大失恋”の駄文にここまで付き合ってくれた人達に、心から言いたいよ。
「ありがとう」
 黒沢の人生を変えたあの一年間のこと、記憶を辿りながらいろいろ書いてみたのだけれど。まさかこんな膨大な量になってしまうとは、自分でも思ってなかったデス。
 実はこの章は書いていてとても苦しくて、ここまで書き上げるのに、以前の章よりずっと時間がかかってしまったよ。
 書けば書くほど、あの当時味わった辛い気持ちを改めて思い出してしまってさ。上書き消去したつもりだった痛くて苦い記憶が、心の中にまたありありと蘇って来てしまって。
 退治した筈の過去のバケモノ達が、暗く深い沼の底から次々に湧いて出てくる……って感じかな。
 途中で何度も、「書くの、もう止めちまおうか」って思ったよ。
 けどまだ長い未来があるキミに、どうしても伝えておかなければと思って語り続け、何とかここまで辿り着いたわけデス。

 人生自体もそうなんだけど、恋愛ってある意味ギャルゲーにすごくよく似てるよ。それも奇跡やファンタジー色のまるで無い、リアル系の鬱ゲーにね。
 目の前に次々に現れる選択肢の選び方次第で、先に開けるルートがどんどん変わって行って。そしてその選択肢を一つ間違えるだけで、下手をすればバッドエンドに一直線だよ。
 そしてゲームと違って、現実の恋愛はリアルタイムでエンディングまでノーセーブで進行だから。もちろん、バッドエンド後のリセットも不可だしね。
 だからこそ「信じるべき相手だけは、絶対に間違えちゃダメだ!」って、心から言っておきたいよ。

 何かさ、今は心の中のモノをすべて吐き出し尽くしてしまった感じで、次は何を話したら良いかちょっと思いつかない状態だよ。
 だからまとまった長い話は当分できないんで、空などの写真の他、日頃気になってることとか、好きな物のこととかの雑文を書き散らすつもりでいるけれど、よろしかったら今後もお付き合い下サイ。

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大失恋(55)・過去になくした大事なものが、そこにある

 その『つよきす!』に比べて『_summer ##』の方は、ネットのゲーム好きの評価はかなり低くてさ。
 と言っても、別に「ココが気に食わない、ココも許せん!」みたいに、いろいろダメ出しされてるんじゃなくて。「可もなく不可もなく、ただ淡々と大した山もなく過ぎて行くだけ」と、叩かれるのではなくスルーされてる感じなんだよね。
 黒沢自身は楽しくプレイできたしかなり好印象だっただけに、「あっれー、おかしーなー」って首をひねってしまって、コレを書くにあたって改めてプレイしてみたんだよ。
 ……うん、ワカリマシタ。純粋にゲームを楽しむのではなく、採点モードの醒めた頭で再プレイしてみると、確かに「百点満点で六十点レベルの出来かナ」と思ったよ。

_summer## アンダーバーサマーダブルシャープ ベスト版_summer## アンダーバーサマーダブルシャープ ベスト版
(2007/10/04)
PlayStation2

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 肝心の『_summer ##』の概略を言うと、主人公は海辺の小さな町の高校二年生で父子家庭に育ち、でもその父は(こうしたギャルゲーのお約束通り)仕事の関係でなかなか帰れない……ってのが、まず前提で。
 主人公の父は、主人公がまだ幼い頃に同じバツ1子アリの女性と再婚するのだけれど、その相手(主人公から見れば継母)も数年前に亡くなってしまって。
 で、父の再婚相手の娘である義理の妹と実質二人暮らしをしているようなものなのだけど、その義妹にはなつかれている上に気の良い幼なじみ達にも囲まれ、明るく楽しく暮らしていて……。

 主人公を取り巻くキャラのうち、まず波多野小奈美は隣の家に住む幼なじみで、ズバリ「いかにもギャルゲーマ達ーが好きそうな、典型的なメインヒロイン」って感じの子。美人なのに大人しくて優しくて家庭的で、主人公の食事を毎日作りに来てくれて……ってヤツね。
 同じ幼なじみの海老塚信乃は神社の娘で、なのに小奈美とは真逆で活発で元気な子。けど祭りの時などには、巫女さん姿で家業を手伝うことも。
 幼なじみにはあと一人、船田治(通称フナムシ)っていう気の良いヤツもいるのだけれど、この男は当然攻略キャラではアリマセン。
 主人公を慕う可愛い妹の沙奈は小柄+童顔+ツルペタのある意味最強(?)コンボで、設定では一つ下なのだけれど、下手をすれば「小学生かよ!」って感じデス。かつ「メシマズで家事は“小奈美お姉ちゃん”に頼り切りな上に、朝も一人では起きられない」というポンコツさん担当でもアリマス。
 そしてその親友の天野千輪も小柄+ツルペタ+ツインテと、パッと見ると「ロリキャラ?」って思っちゃう。けど黒沢と同じクラスだったスワさんと同じで、物静かでありながらクールで芯が強くて時には毒も吐く、意外にスパイシーなコなのだ。あと、占いが好きでミステリアス担当でもアリマス。
 あと、攻略キャラとしては一つ上の純和風なお嬢さまの島津若菜と、主人公のクラスの担任でぽやんとした天然キャラ担当の七緒日向子先生の全部で六人、ってトコかな。

 で、改めて振り返ってみるとこの『_summer ##』で「すごく好き!」って思えたキャラ、意外なくらい少なかったデス。
 まずメインヒロインの波多野小奈美だけれど、黒沢から見れば「こんな男に都合の良い尽くす女の子、いるワケね~よwww」って感じでさ。
 彼女など、脳内で理想化した存在が居ればそれでOK……って人なら、こんなコにも充分惚れられるんだろうけど。現実の世界で恋愛もしていろいろ苦い思いをしてきた黒沢としては、小奈美のキャラにリアリティーを感じることが全然出来なかったよ。
 あと、イヤな事もイヤと言えずに「え……でもぉ……」とか言いながら主人公をチラッと見るみたいなトコも、「察してチャンかよ、面倒な子だな」なんて感じてしまってさ。

 ヒドいと思われるかも知れないけど、たとえ友達であれ彼女であれ、自分以外の人の気持ちなんて「わからない」のがデフォだから。
 だってDNAも同じでずっと一緒に暮らして来た親兄弟だって、何を考えているか全部わかるワケじゃないのが現実でしょ?
 うん、もちろん家族や親友や彼女の気持ちなら、言われなくても読める部分はあるよ? けどそれはあくまでも勘や推量であって、「こう思ってる」って顔に書いてあるワケじゃ無いからね。
 だから親兄弟や恋人同士でも、本当の気持ちはちゃんと言って貰わなきゃ正確には伝わらないんだ。

 ギャルゲーやラノベや萌えマンガって、その場の状況やら、それまでの流れやら、キャラの表情や仕草やらで、恋愛経験ゼロの喪男にも相手の気持ちが容易に読めるように作られてるんだよね。
 けど実際の恋愛では、相手の本当の気持ちってホントわかんないもんだよ。それでも男は単純だから、思ってることをついそのまま言ってしまいがちだけど、女の子は全然違うから。
 ずっとニコニコして「うん、ワタシもこれ大好きなの!」とか言ってて、だからそう信じ込んで安心してると、ある日何の予告もナシに「こんなの大っ嫌い! ずっとずっとガマンしてたの、何で気付かないの!!」とか般若の顔でブチ切れるみたいな事、女の子にはよくある話だから。
 ハイ、「経験者は語る」デス。このパターンを、黒沢は何度体験したかわからないよ。

 えっ、「それはオマエが鈍すぎるだけで、そうなる前にサインはちゃんと出されてた筈」って?
 いや、黒沢は決して勘が鈍い方ではなくて、複数の女の子に「女の子より気が付くよね」って言われてるくらいだから。
 ちなみにこの「女の子より気が付く」ってのは決して褒め言葉ではなくて、翻訳すると「男のくせに、女みたいに細けーヤツ」って言われてんだよ。
 そんな黒沢でも女の子の微妙なサインを読み切れなくて、この「いきなりブチ切れ」ってのを繰り返しやられてるのさ。
 それだけに、言いたいことも言えずにモジモジ……みたいなタイプ、黒沢はまず「面倒くせぇ女」って思ってしまうよ。

 だってさ、気持ちをちゃんと言わないからって、自分の意志を持ってないワケじゃないんだよ? ただ言わないだけで「これが好き」だの「こうしたい」だのといった望んでることはちゃんとあるんだ。
 で、ソレを察して叶えて貰えない分だけ胸の奥で不満が徐々に溜まっていって、「ある日ついに限界に達してドカーン!」ってなっちゃう。

 女の子に慣れてない男子ってさ、自分の気持ちや意志をハッキリ言う女の子は苦手だよね? 何か「コワいオンナ」みたいに思っちゃってさ。
 でも実際には違うんだよ。思ってる事はちゃんと言ってくれるコの方がいろいろわかりやすいし、何かあっても早いうちに対処できで楽なんだ。それに当人も心に不満を溜めにくいから、「いきなりブチ切れ」みたいな事にもなりにくいしね。
 リアルな恋愛で散々イタい思いをしてきた者として忠告しておきたいのだけれど、ギャルゲーのメインヒロインによくいる「いつもニコニコ優しくて、大人しくて女らしくて……」みたいなタイプって、実はかなり面倒な上にキレるとかなり怖いゾ。
 例えば『この青空に約束を』の羽山海巳みたいな子とか、その種の「一見おとなしそうでいて、勝手に我慢して黙って不満を溜めては、いつ爆発するかわからない地雷女」の良い(悪い?)見本にしか黒沢には見えないんだ。
『_summer ##』の小奈美はそこまで厄介なコでは無いにしろ、見ていて何かイラっときちゃう部分があるんだよねぇ。「言いたいことがあれば、ちゃんと言えや!」って。

 黒沢はリアルでも“血の繋がらない妹”が三人いたようなヤツなんで、ハッキリ言って妹キャラは大好物デス。
 けどね。いろんなゲームをするうち「何か違うな」って感じる“妹”が案外多くてさ。
 それで気付いたのだけれど、黒沢が好きな“妹”って元気で明るい系ばかりだったよ。反対に内気なオドオドさんや、子供みたいにべったり寄りかかってくるコは、どうもダメみたいで。
『_summer ##』で“妹”担当の沙奈もさ、ゲーム序盤では可愛いと思ったよ? けどストーリーが進むにつれて、コドモ過ぎる上にポンコツ過ぎて「何か面倒くせぇな」ってw。

 もう一人の海老塚信乃もさ、ポジションとしては明るく元気系なのだけれど、実態は強引かつ暴力系だし。
 黒沢は強気系の活発なコは好きだよ、けど基本「やられたら、忘れず覚えていてキチッとやり返す」タイプの人なんで、勝ち気で負けず嫌いな暴力オンナとはとおっっっても相性悪いデス。
 そうそう、勝ち気と強気は混同されやすいけれど実は全然違うモノなんだ……って事は、『つよきす!』の近衛素奈緒と霧夜エリカのトコロで話した通りだよ。

 あと、黒沢は実体験で「ぽやんとした天然&癒し系の女性などまず実在せず、99.9%は作ったキャラを演じてる養殖モノ」って知り尽くしてるから、日向子先生にはリアリティーを全然感じられなかった。
 それに六つも年上で、かつ何か頼りない担任教師を恋愛対象として見るとか、黒沢にはまず考えられなかったし。
 世の中にはさ、「初恋は女の先生」って男子も少なくないみたいだけれど、黒沢はどんな若くて美人の先生も、女と意識した事すら本当にナイな。
 ……ハイ、『僕らはみんな河合荘』の錦野真弓さんが言うところの“お姉さんセンサー”が、黒沢は恐ろしいほどニブいんデス。もう「メーターの針はいつもゼロに近い」って感じでね。

僕らはみんな河合荘 3 (ヤングキングコミックス)僕らはみんな河合荘 3 (ヤングキングコミックス)
(2012/08/30)
宮原 るり

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 リアリティーを感じられないと言えば、一つ上のお嬢さまの島津若菜サンも「上流の暮らしに縁のない庶民が安易な想像で描いたお嬢さま像」って感じで、ドン引きしてしまいマシタ。
 大袈裟に浮き世離れさせた描き方とか、違和感はアチコチにあったのだけれど、厳しく育てられた純和風なお嬢さまが、ちょっと仲良くなっただけで「私を若菜と呼び捨てに……」とか言い出した時点でもうドン引きでね。

 ……うん、『_summer ##』のシナリオライターは例の「呼び捨て=親しみの表現」って思い込んでいて、「オンナはみな、男に呼び捨てにされたがっている」と固く信じてるんだろうね。
 けど黒沢は「呼び捨てにされたい女は性的にM系のヒトだけで、呼び捨て=人格無視のモノ扱いと感じてイヤがってる子の方がむしろ多い」って、実体験で知ってるから。それについては別の章で詳しく話してあるんで、良かったら目を通して下され。
 で、厳しく躾られていつも毅然としているお嬢さまが、年下の庶民の、しかも財産だけでなくいろんな意味で自分より低スペックの男子に「呼び捨てにされたい!」とか、マヂあり得ないデスから!
 ……それでも沙奈ルートや信乃ルートは、納得できない点は感じつつ、エンディングを見るまでとりあえずやり通したけれど。この若菜ルートは、まだ告白すらしてないのに例の呼び捨て希望の発言が出たところで、耐え切れずにそれ以上のプレイを放棄してしまったよ。
 そうそう、日向子先生についてはそれどころか、個別ルートに入る気にもなれませんデシタ。

 この『_summer ##』で黒沢が心から好きになれて楽しくプレイ出来たのは、よく考えてみると千輪ちゃん一人だけだったよ。
 妹の親友であるこの千輪ちゃんって、ズバリ「変なコ」としか言いようが無いデス。占い同好会の主催者で、普段は物静かなミステリアス系でさ。
 けど「自分の欲しいモノ」はしっかりわかってて、それを手に入れる為の行動もちゃんと起こすし、時には鉄の意志で“敵”を排除しちゃうし……。
『_summer ##』で強い子と言うと、つい信乃や川上由乃(←若菜お嬢さまの付き人)と思ってしまいがちだけど、本当の意味で強いのは間違いなく一つ下でロリボディのこのコだね。

 明るく元気なサバサバ系の女の子は大好きだし、仲良くなれちゃうのも早いよ。けど黒沢が結果的に一番長く付き合えているのは、実は「変なコ」だったりするのだ。
 元気な男の子みたいなコって、細かい事にこだわらないし裏表も無くて付き合いやすいんだけど、体育会系女子の率が高いからね。
 で、黒沢はその対極の「本を読むのが好き、美術館巡りするのも好き、将来なりたいものは写真家」って人間だから。さらに猫みたいに単独で我が道を行きたいタイプで、群れを作るのも集団行動も大嫌いだし。
 当然、体育会的な価値観を当然として生きてきた子とは、長く一緒にいればいるほどいろんな面で噛み合わない部分が目立ってきちゃうワケ。
 で、黒沢のようなヒネくれた変人とずっと付き合っていける相手と言うと、結局同類の「変なコ」になっちゃうんだ。

 こんな黒沢を三年もの長きにわたって見放さずに相手し続けてくれたシズカさんなど、その典型的なタイプだったな。
 絵を描くのが好きで、決して無口ではないのだけれど物静かで、けど自分の考えはしっかり持ってて、周りの皆が「Aだ」と言っても「私はBだと思う」って躊躇わずサラッと言えちゃうコでさ。
 で、皆に「変わってる」って言われても、「そーなんだよ、変わってるんだよ私」って笑って流してまるで気にしなくて、自分のスタイルは一ミリも変えないんだよ。
 このシズカさんだけでなく、黒沢と長く付き合ってくれる女の子って、みな同じように周りから“変わってる子”認定されてる芸術系のコばかりなんだ。
 で、その種の芸術系のコと長く付き合うほど、彼女らの「周りの空気にも流されず、世間の常識にも捕らわれない心の自由さ」が心地よくなっちゃってさ。
 だからか、ギャルゲーをやってみると黒沢は面白いほど“変なコ”に引っかかっちゃってマス。

ToHeart2 DX PLUS(通常版)ToHeart2 DX PLUS(通常版)
(2011/09/22)
PlayStation 3

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 ただ『_summer ##』で一番好きになったのが、アヤしい占い師の千輪ちゃん……ってだけでなく。
To Heart』で一番好きだったのは黒魔術使いの来栖川芹香先輩で、本来好きなタイプの筈の宮内レミィ(元気でおおらか)は次点だったし。
To Heart 2』の一番は宇宙人のルーシー・マリア・ミソラで、向坂環(サバサバ姉御系)も大好きだったけれど、結局ルーシーの次で。
はぴねす!』でも黒沢の“一番”は不幸を呼ぶ占い師(?)の高峰小雪先輩だったし、かの『シスター・プリンセス』に至っては、魔界の王の娘だった千影に、見事魔界に拉致られてたしwww。
 ……こうして見てみると、黒沢って年が上か下かに関係なく、変わってるというよりヤバい系のヒトに魂を持って行かれちゃいがちだよね。 このテのミステリアス系の変わったコさえ出て来なければ、まず間違いなく明るく元気なサバサバ系のコを真っ先に選んでるんだけど……。

はぴねす!でらっくす Best Collectionはぴねす!でらっくす Best Collection
(2007/09/13)
PlayStation2

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 改めてプレイしてみて感じた『_summer ##』の問題点って、ただヒロイン達の魅力が今一つパッとしないだけではなくて。
 ストーリーが無駄に長過ぎて、エンディングまで見るのに飽きちゃうんだよ。
 こうしたゲームで飽きてしまいやすいのは、無くてもストーリー上何の問題もない、主人公のダラダラな日常の描写(ギャグのつもりらしいけど全然笑えない、ただ退屈なだけの悪友との会話とか)って場合が殆どなんだけど。
 ところがこの『_summer ##』で、特に退屈で冗長と感じさせてしまうのは、何と告白後の二人のラブラブ&イチャイチャなんだ。
 ゲームだけでなくマンガでもドラマでも小説でも、恋愛モノって「両想いになれたら、それでメデタシメデタシでエンディング」って場合が多いじゃん。続きがあるとしても、まあ幸せに過ごしてる後日談をチラ見せする程度で。
 けどこの『_summer ##』は、両想いになれたその後がどのルートでも長い長い!

 うん、恋人同士になった後の話がかなり長いギャルゲーも、確かに幾つかあるよ。
 例えばこれまでも度々話題に取り上げている、メモオフ・シリーズの原点『メモリーズ・オフ』など、ある意味「両想いになれた後こそ本番!」みたいな感じだしね。カップルになるまでは、まあ長いプロローグ……ってトコで。
 今坂唯笑ルートでは、当て馬扱い同然の親友稲穂信クンの貴い犠牲wの上に、ようやく両想いになれた後も。主人公は亡き元カノの影を引きずり続けて、唯笑をひどく悲しませてしまうし。
 逆に音羽かおるルートでは、仲良くなれた後で元彼(主人公よりずっと大人で、大きな夢を追いかけている人)の影が見え隠れして……。
 そして伊吹みなもルートでも、重い病気を抱えていたみなもの体調が急速に悪化しちゃうし。

 けど『_summer ##』では、そうした「ようやく両想いになれた二人に、新たな試練と別れの危機が!」みたいな波乱も殆ど無いまま、ただイチャイチャ、ベタベタの日々が延々と続くんだよ。
 それでも相手のヒロインが大好きなキャラなら、それもニヤニヤしながら見ていられるよ?
 けど「とりあえずクリアしておこうか」と言った程度の、特に好きでもないヒロインのルートを最後まで見ようとすると、もう「コレ、何の苦行か我慢会だよっ」みたいな感じになっちゃう。「エンディング、マダー?」って、各ルートをクリアするまでに何度思ったかわからないくらい。
『_summer ##』の告白後って、マジでそれくらい何も起きない日々が続くんだ。

「だったら、両想いになれたところでゲームを止めればいいじゃん」って言われるかも知れないけど。
 もしコレがコミックスや小説だったら、確かにその通りさ。飽きたらそこで、ただ本を閉じればイイだけだよ。あるいは所々飛ばし読み、とかね。
 けどゲームは、ちゃんとエンディングまで辿り着いた上でセーブしないと“クリア”した事にならないからね。でないと、ゲーム後に作品の中で出たCGや名場面を見られるなどの“特典”が付かなくなっちゃうし。
 まあね、メインヒロインの波多野小奈美の場合は、その告白からエンディングまでの部分で「なるほど、そうだったのか」とわかる部分もあったよ。けどそれですら、「二人に別れの危機が!?」ってレベルの波乱では無かったし。

 こうして改めて振り返ってみると、『_summer ##』って「初めてプレイした時、どうしてあんなにイイと思えたんだろ?」と頭を抱えてしまったくらいだよ。惚れ込めるようなヒロインが少ないやら、シナリオもムダに長くて、特に告白後にダレるやらでね。
 で、いろいろ考えて気付いたのが、「このゲームの最大の(唯一の?)魅力は、作品のセカイに漂う“空気”なんだ」ってコト。
 片田舎の海辺の町で、幼なじみ達に囲まれながら楽しく過ごし、そして受験や進路の事もまだ本気で悩まずに遊んでいられる高二の夏に、生涯忘れられない恋をして……っての。

ラムネ~ガラスびんに映る海~ (初回限定版)ラムネ~ガラスびんに映る海~ (初回限定版)
(2005/08/25)
PlayStation2

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 実は黒沢自身、保育所の頃から高校を卒業するまでの間を、似たような片田舎の海辺の町で過ごしてさ。それだけに『_summer ##』のセカイに、何とも言えない郷愁を感じてしまうんだ。
 いや、片田舎の海辺の町の夏の恋物語なら、他にもいろいろあるよ? 例えば『ラムネ』とか、『120円の春』の夏のストーリーとか。かの有名な『AIR』だって、そのカテゴリに分類出来そうなお話の一つだし。
 ただそのどれも、物語のセカイには主人公とヒロインしか存在しないような恋愛オンリーの話でさ。
 けど『_summer ##』ではただ彼女だけでなく、主人公の傍らには常に幼なじみの良い仲間達がいるんだ。
『つよきす!』ではスバル兄さんとフカヒレくんと蟹沢きぬが、幼友達の良い仲間として常に主人公の傍らにい続けて。
 そして同じように、『_summer ##』でも小奈美や信乃やフナムシ(船田治)という、幼友達の良い仲間たちがいて。

 18禁のエロゲに多い“ダメ男子高校生の主人公”について、黒沢は以前から繰り返し批判し続けているけど。ほら、例の「ネボスケでだらしなく、勉強がデキるでもスポーツが得意でもなく取り柄ナシのくせに、九州男児以上の男尊女卑で“女は男を立てるべき”と固く信じている上、周りの女の子たちを寒いギャグでからかっては悦に入ってる」ってアレね。
 もしそんなヤツが実在したらさ、リアル世界の女子たちにはまず間違いなくゴッキー同然に扱われて、フルボッコにされるってば。
 ……まあ、そんな魅力ゼロ(と言うよりむしろマイナス?)のダメ男子がモテモテ」って妄想を具現化して見せているからこそ、その種のギャルゲーは同じようなダメ男子のゲーマー達に熱烈に支持されてるんだろうけどね。
 で、その手のダメ男子高校生のダラダラな日常を描いたギャルゲーって、リアルな恋愛もして修羅場も経てきた者としては「少しも笑えないし、ただ退屈でバカバカしいだけ」でしかないんだよ。
 特にその日常の部分にギャグを「これでもか!」と詰め込もうとしたやつほど、スベってシラケてしまう結果になりがちでさ。

 けど『つよきす!』と『_summer ##』は、例外的にそのダラダラな日常が面白かった! 「さあ笑えや~!」って感じでわざとらしいドタバタ系のギャグをかましてくるのではなく、友との何気ない会話を聞いてるうちに自然に笑えて来ちゃうんだ。
 そう、力業で詰め込んだギャグで無理に笑わされるのではなくて、あくまでも自然に笑いが込み上げて来る……って感じ。同じ“笑う”のでも、この違いは大きいよ?
『つよきす!』はヒロインは個性的だしストーリーにも波乱アリと、魅力は他にもいろいろあるけれど。
 それに比べて『_summer ##』はヒロインもイマイチでストーリーは単調、なのに主人公とその仲間たちのまったりした会話だけで「いいなぁ~、この感じ」と思わされてしまったよ。

 舞台は黒沢がかつて住んでいたような、片田舎の海辺の町で。そして主人公の周りには、気心の知れた旧い友やかけがえのない女のコが居て。
黒沢が過去に無くした大事なものが、すべてそこにある
『_summer ##』を一言で表現するなら、ズバリそんな感じだったよ。
 ゲームの出来としては並レベルの凡作と、自分でもわかってる。けど黒沢の心には深く残った、忘れられない大切な作品なんだ。

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大失恋(54)・笑いの感性は人それぞれデス

 まず『つよきす!』だけれど、ギャルゲー未経験の一般男子にも自信を持っておススメできる、文句ナシに楽しいゲームだと思いマス。
 ゲームやラノベや萌え系マンガのセカイとは無縁のリア充男子たちを半笑いさせるような、奇跡だの不思議な力だのといったファンタジーっぽい要素は皆無に近いし。
 かと言って、イタい部分まで含めてリアルな恋愛を体験させよう……ってワケでもなく、全編を通して漂うムードは明るいコメディ・タッチの青春ドラマ風でさ。よっぴー絡みのバッドエンドを除けば『school days』やメモオフ・シリーズみたいな鬱展開が待っていたりしないし、最後までクスクス、ニヤニヤしながらプレイし続けられるよ。

つよきす~Mighty heart~(通常版)つよきす~Mighty heart~(通常版)
(2006/05/25)
PlayStation2

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 日本ってさ、ナゼか「物語には笑える部分がなければいけない」と信じてる人が少なくいようでさ。で、ストーリーのシリアスなパートにまで力業で笑いの要素を盛り込もうとして、逆にシラケさせる結果になってしまってる作品、ドラマでも映画でも数多く見受けられる気がする。
 それはゲームでも同じで、黒沢から見て「無理して笑いを取ろうとして滑ってる」と感じる作品、けっこう多いんだよね。

 例えば『ギフト』とか『カラフルBOX』とか、ただ台詞を読んでいるだけでギャグのクダラ無さに疲れ切ってしまって、誰か一人でもクリアするどころか、ゲームの序盤で放り出してしまったよ。
 信者の多い田中ロミオ氏がシナリオを手がけた『クロスチャンネル』や『シャンテ』も、主人公の発言や発想はセクハラ全開のエロオヤジそのものでさ。
 女の子と付き合った経験皆無の喪男とすれば、その種のからかいも“ユウモア”のつもりで、相手の女の子が顔を赤らめて恥じらったり怒ったりするのを「楽しい会話」とか思ってるのかも知れないけれど、ゲンジツはそんな甘いモノじゃアリマセンから
 シナリオの前提の「主人公は凄いイケメンでモテモテ」という部分を見落として同様の振る舞いに及ぶと、「愉快な人」どころか「不快な害虫」として認定されてゴッキー同様に扱われること、まず間違いないね。

 ドラマでもマンガでもギャルゲーでも、日本ではストーリーに「涙あり、笑いあり」を求める人が凄く多いけどさ。涙の方はともかく、笑いの方はすごく難しいんだ。
 心がイッちゃっていて精神科的な治療が必要な人を除けばだけど、人間って、泣くポイントはたいてい同じなんだよね。例えば恋愛モノのストーリーで泣かせたければ、まずヒロインを薄幸の美少女にして、難病で死の淵に立たせるとか。
 ありきたりで陳腐と言えばその通りなのだけれど、例えばソレを上手に丁寧に描いた『白中探検部』とか、黒沢も「パターンだな」とか思いつつ、つい感動してしまったよ。

白中探険部白中探険部
(2003/08/28)
PlayStation2

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 メモ・オフシリーズの原点『メモリーズ・オフ』でも、メインヒロイン(?)の桧月彩花って、実は黒沢は苦手と言うかキライなタイプだったんだ。
 でもこの彩花サン、死んじゃうんだよ。
 ある日曜日、主人公は先生に用事を言いつけられて、登校して学校の仕事をしててさ。その最中に雨が降ってきて、主人公は幼なじみの彩花サンに傘を持って来てと頼むんだ。で、彩花さんは「しょーがないなあ」とか言いながら持って来てくれるのだけれど、学校のすぐ前で車に轢かれちゃうんだ。
 なかなか来ないな……と主人公が思ってると、救急車のサイレンの音が近付いて来て。もしやと思って外に出てみると、目に飛び込んで来たのは道路に転がる彩花サンの傘で──。
 ね? 陳腐だろうがパターンだろうが、人って同じような話でけっこう泣けるから。
 黒沢はこの彩花サンが好きじゃなくて、それまでずっと邪魔に思ってた。それだけに、この死なれ方に胸を締め付けられるような思いがしてしまったよ。

 けど笑いの方は、同じネタで皆を笑わせるのはまず無理だから。例えばダジャレひとつを取っても、大笑いできちゃう人と心がサムくなってしまう人がいるよね。
 大ざっぱに言ってしまうと、大袈裟な仕草や表情などドタバタ的なものでゲラゲラ笑えちゃう人と、微妙な空気や言葉の奥にあるニュアンス的な面白さにクスクス笑いたい人の二通りに分けられるような気がするよ。
 このゲラゲラ笑いを求める人と微妙なクスクス笑いを求める人の間には、まず間違いなく越えられない高い壁があるね。大袈裟に言えば、人間の種類の違いとでも言うか。

 例えば同じNHKの朝の連ドラでも、黒沢は『カーネーション』は大好きで毎回欠かさず見ていて、けど『梅ちゃん先生』や『純と愛』は本当にバカらし過ぎてただ不快感しか抱けなかった
 ヒロインとそのお仲間はみな非常識で設定もリアリティー皆無、と言うより「本職の医師やホテルマンに失礼なレベルじゃねーか!」とか、NHKに言いたいコトは山ほどあるよ。
 と言うとさ、必ず湧いてくるんだよね、「そんなにイヤなら、ただ見なきゃいいだけダロ」ってヒトが。それも一理かもだけど、なら「その分、クソ高い視聴料を返せ!」って言いたくなっちゃうし。
 けどその同じ『梅ちゃん先生』や『純と愛』を「心がホッコリする」とか「元気が出る」とか言って、好きで楽しんで見ている人も大勢いるワケで──。

 ね? だからどちらが良いとか悪いとかの問題じゃなくて、「笑いは相手を選ぶもので、皆を笑わせようとかまず無理」ってコト。
 そりゃあドタバタやギャグマンガならね、とにかく笑いの要素をギッチリ詰め込まなきゃと黒沢も思うよ? けど「物語には笑いと涙の両方が絶対必要」と固く信じ込んで、笑う部分が無くても十分に成立するストーリーに笑いの要素を無理に押し込んで、物語の流れやムードを台無しにするの、いい加減止めてほしいと思うよ。
 流れで、自然に出てくる笑いなら良いと言うか大歓迎なのだけれど。必然性もないのに、力業で無理に笑いを取りにくる強引なギャグは、ホント勘弁して欲しいと思うよ。

『つよきす!』の笑いって、その種の「さあ、ココ笑うトコだから。面白いダロ?」って制作者のドヤ顔が透けて見えるような無理押しの笑いではなくて。気が付けばいつもニヤニヤしながらプレイしている感じで、とても楽しかったデス。
 まず各ヒロインがそれぞれ個性的で魅力的だし(黒沢的には椰子なごみだけはアレだったけど、そこは個人の好み……ってコトで)。
 さらにダラけた暮らしをしていた主人公が、例の仲間たちと一緒に“学園の女帝”エリカお姫さま独裁の生徒会入りすることになって、次第にいろんな学校行事に熱を入れて頑張るようになる過程も、いかにも「青春!」って感じでね。
 そして何より、毎日のように主人公の部屋に集まる昔馴染みの仲間たち(スバル兄さん&フカヒレくん&カニ)とグダグダ、ダラダラしながらダベる会話の部分がとても楽しくてさ。「ああオレもこの会話の中に入りてえ」って、心から思ったよ。

 実はこのダラダラな会話の部分に、いろんなアニメやゲームのパロディが数え切れないほど詰め込まれているらしいのだけれど。
 そーゆーパロディがウリのギャグって、一部のマニアにだけバカウケする反面、大部分の元ネタがわからない人達はついて行けなくて疎外感を抱いて、「何だこりゃ」みたいにシラケちゃうよね。
 けどこの『つよきす!』のパロディは、元ネタなど知らなくても充分に面白いよ。現に黒沢はそのパロってる部分に殆ど気付かなくて、なのにずっと笑ってたから。
 で、黒沢的に『つよきす!』は「些細な点を除いてほぼパーフェクト」って感じだよ。

 その黒沢が引っかかった些細な点って、喋るオウムの土永さんの存在デス。
「オウムなんだから、喋って何がおかしいんだよ?」って? いや、『つよきす!』の土永さんの“喋る”ってのはね、オウム返しに喋るんじゃなくて、人間同様に思考して自分の意志や気持ちを喋るんだ。
 飼い主はよく寝坊して学校に遅れて来るダラなクラス担任で、その大江山先生に代わって先に教室に飛んで来ては、「ありがた~い話を聞かせてやろう」とか、クソの役にも立たないクソ詰まらん話をクソ生意気な巻き舌口調でいろいろ喋くるんだけどね。
 もうホント「こんなん、おるワケないやろ~」とツッコミ入れまくりたい感じで、飼い主でダラ担任の大江山先生も含めてこの土永さんの存在が、『つよきす!』のリアリティーをかなりぶち壊しにしているように思えるんだ。
 でもネットのゲーム評では「土永さんがイイ」とか「土永さんが面白い」とかいう声が少なくなくて、つくづく「笑いの感性って、ホント人それぞれなんだナー」って再確認させられたよ。
 だとしてもそれ以外の部分があまりに魅力的で面白すぎるんで、土永さんや大江山先生に対する引っかかり&不快感など結果的に“些細なもの”って感じになっちゃうんだよねえ。

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大失恋(53)・黒沢は鶏頭かも

 ……実はアズサとは、その後もラウンド2と言うかセカンド・コンタクトがあってさ。
 言葉一つ交わさぬまま中学を卒業して、もちろん音沙汰などある筈もなく一年半が過ぎたある晩のコト。家にかかってきた電話を何気なく取ると、受話器の向こうから忘れようにも忘れられない声が流れてきて。
「あの……ヨシダですけど」

 雷にでも打たれたように頭から足の先まで痺れて、黒沢は咄嗟に声も出せなかった。
 その沈黙をどうとらえたのか、受話器の向こうの人は少しおずおずと声をひそめて。
「えっと、アズサだけど、わかるかな?」
「あー、うんうん、わかるわかる!」
 慌てて答えた黒沢の声は、間違いなく一オクターブは跳ね上がってたと思う。

 ……ホントに怖いものだよねえ、惚れた弱み、ってやつは。
 あの失恋の痛みとか、そこから学んだ教訓とか、アズサの声を聞いた瞬間に全部頭から吹っ飛んじまってた。ハッキリ言うと同じ高校のマイコさんどころか、リホさんのことすら心から無くなってしまってたよ。
 自分でも呆れてる、黒沢ってホント鶏頭だねぇwww。

 ほら、鳥類にはインプリンティングってあるじゃん? 卵から孵って初めて見た動くモノを親と思って、ずっとついて回って……っての。
 もしかしたら初恋にもソレに近い効果があって、初めて好きになった相手には、どうしても逆らえない引力のようなものを感じてしまうのかも。
「で、どうしたの、何かあったの?」
 何気ない様子を装ってそう尋ねながらも、心が浮き立ってくるのを抑えられなかったよ。
「えー、別に用とかじゃないんだけど、ただどうしてるのかなぁ……って思って」
 電話の向こうのアズサは、微かにクスクス笑っているような感じだった。
 今考えてみればね、「チョロい! チョロ過ぎだよバーカ」って嗤ってたんだろうさ。

 けど当時の黒沢は、その含み笑いも「うわあ相変わらず可愛いらしいなあ」とニヤケてたんだよ。そして「まだオレのことを忘れずに電話してくれて嬉しい」なんて本気で思っててね。
 で、その後はフられてから二年近くの空白の時を一気に飛び越えて、同じ教室で机を並べていたあの時のように仲良く喋ったよ。
 会話はやはりまず互いの近況報告から始まって、と言っても黒沢の方は「S高に通ってるけど、大して面白くもないや」くらいしか喋ることも無くて。実際、いろいろ波瀾万丈だった大学時代と違って、高校生の頃はホントに田舎で何事もなく暮らしてたからね。
 でも同じ町に居ながらアズサの方は、どうやらそうでは無かったようで。

 中三の夏が終わりを告げるのと同時に別れた後は、目も合わさない仲になっていたけれど。それでもアズサが准看護師になる学校に進んだことだけは、ちゃんと知ってた。それも幼なじみのマキちゃんが行ったような高校の衛生看護科ではなく、二年制の専門学校の方ね。
 電話をくれた時、アズサは既にその専門学校を辞めていてさ。
「じゃ、今は……?」と尋ねると、アズサは笑いながら事も無げに「家にいるの」って。
 その時点で「ヤバいな」って気付くべきだった。
 けどどうしようもなく甘ちゃんだった黒沢は、後は何も聞かなかったよ。黒沢の周囲では退学とかまず考えられなかったし、それだけに「大変な思いをしたんだろうな、なのにいろいろ詮索しちゃ悪いな」みたいな感じでね。

 マツオとの仲はどうなってるのかも、あえて尋ねなかった。ヤツの名を口に出すだけで胸クソ悪いし、それにまだ続いてるなら、こうして電話などして来ないだろうし……みたいな感じで。
 って言うか、アズサが学校を辞めた事情もマツオとどうなったのかも、本当にどうでも良かったんだ。
 アズサがまだ黒沢のことを覚えていて連絡をくれて、昔と同じように仲良く出来ている。それだけでもう胸がいっぱいで、黒沢は充分に幸せだったんだ。
 もう何て言うかね、「恋をするのは正気を失うのとたいして変わらんよ」って、ホントにロバート・ゴダードが作品の中で書いた通りだと思うよ。

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(2002/03)
ロバート ゴダード

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 ただゴダードは続けて「まあ、それよりちょっと楽しいだけだ」とも言ったけれど、黒沢はそちらには同意しかねるな。
 だってそのアズサとのセカンド・コンタクトの結末は、マジで悪夢でしかなかったから。
 その後もちょくちょく連絡を取り合って、昔通りに仲良くなって「今度こそ!」と思った頃、コワいお兄さんから呼び出されましてね。
 ……ハイ、本職のその筋のお兄さん。
 大好きで新刊が出る毎に買って読んでいる『弁護士のくず』の井浦秀夫さんの表現を借りれば、アバレル産業の方ってやつデスね。

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井浦 秀夫

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 そんなワケでいろいろ支障がありまして、その後のコトは殆ど話すことが出来ないし、黒沢自身こうして語るのもイヤなのだけれど。
 掻い摘んで言えば、ウチの組の若い者も連れてどーのこーのという話を出されて、黒沢だけでなく家族までどうなるか知らねえぞみたいな脅し方をされたと思って下サイ。
 好きで好きでたまらなかった中学時代の初恋の相手が、その二年後には筋モンの情婦だよ。

 それだけにね、『_summer ##』や『つよきす!』のような「心から信じられる友や彼女に囲まれた、楽しい学生生活」を描いたゲームをプレイするとね、自分が失ったモノがいかに大きいか、痛いほど思い知らされてしまうよ。
 あの中三の頃に直面した数々の選択肢を選び間違えさえしなければ、黒沢もこんな高校生活を過ごせたのかも……ってね。
 だからその部分が無くてもストーリーの展開に何も支障が無いような「ダラダラな日常」を多く描いたゲームが、主に18禁の大人向けのギャルゲーに多い理由、黒沢にも何となくわかるような気がするんだ。
 ただその「ダラダラな日常」の部分が余りにも冗長で、友とのギャグ狙いの会話がスベり過ぎてると、いい加減ウンザリしちゃうんだけどね。

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大失恋(52)・現実の“修羅場系ギャルゲー”で鬱エンド

 振り返ってみれば、黒沢の中学時代って何かギャルゲーみたいだよね。
 主人公“黒沢”の周りには、まず男の子みたいなサバサバ系の美少女リホさんがいて。そして外面は二次元のヒロインそのものの魔性の女アズサに、おっとり優しい癒し系のミカちゃん、元幼なじみだった生徒会の□□ちゃん、それに実は意外にスパイシーなリホの親友(スワさん)もいて。
 あと、明るく元気系のユカさんも隠しキャラにいたけれど、黒沢の頭の中ではずっとその他大勢のモブ扱いで、「実は攻略可能な隠れヒロインだった」ってコトに気付きもしなかったよ。

 そしてギャルゲーと同じように、選択肢はリアル世界での恋愛でも次々に出て来てさ。

「三年生になってすぐの席替えで、二次の世界から出て来たような美少女アズサと同じ班になりマシタ」
 a.声をかけて仲良くする。
 b.オレはリホさんと仲良いし、別にいーや。

「中学生活で最大のイベント、修学旅行が始まりマシタ」
 a.もちろん、アズサを追いかける。
 b.やっぱりリホさんを優先する。

「悪友マツオもアズサに気があるみたいで、時々ちょっかい出してるんだけど?」
 a.先手を打ってアズサに告るっきゃない!
 b.旧い友の為だ、残念だがアズサは譲ろう。

「めでたくアズサとカップルになれたものの、何故かなかなか会えないんだよなー」
 a.仕方ないさ、アズサにも事情があるんだろう。
 b.おかしい、アズサはホントにオレを好きなの?

「夏休みの夜遅くに、まるで大人の女みたいなアズサと出逢う」
 a.やはりアズサはオレの運命の彼女。
 b.この女、ぜってーヤバいって。

「アズサにフられちまった、辛いったらねーよ。でも同じ班になったミカちゃん、優しいし話してると癒されるよな」
 a.よぉし、このミカちゃんと仲良くしてみよう!
 b.いや、リホさんのトコに戻ろう。

「ミカちゃんとも結局ダメ、けどスワさんって話してみると意外に面白い子だよね?」
 a.うん、今度こそイケるかも。
 b.相手はリホさんの親友だろーが、自重シロ。

「リホがオマエの悪口すごく言ってたゾ……ってマツオが言ってるんだけど?」
 a.信じてたのに許せねー、もう絶交だッ!
 b.ホントかなぁ、まず本人に確かめてみなきゃ。

 ……いやあ、こうして振り返ってみると黒沢って、ゲームの選択肢と言うかその後の運命を決める重要な場面で、笑えるほど見事にa.の間違った方ばかり選んじゃってるよねえ。しかもプレイしてたのは、KID時代のメモオフ・シリーズ顔負けの「修羅場アリの鬱ゲー」でさ。
 で、「リホさんとの友好度をかなり上げながら“アズサルート”を選んでしまい、その後も選択肢を片っ端から間違えた挙げ句に、バッドエンドの中でも最悪の鬱エンドにたどり着いてしまった」ようなもの、かな。

 冷静に考えれば、コレはきっと逆恨みってヤツだとわかってるよ。マツオに何と言われようと、ヤツを信じてしまった黒沢が一番悪いんだから。
 けどね、「オレはマツオに、人生を変えられてしまったんじゃね?」と思ってしまう気持ちを、未だにどうにも出来なくて。

 いや、アズサを横取りされた件については、それは別に構わないんだ。と言うより、むしろ感謝しなけりゃいけないくらいだと思ってる。
 だって、その当時どれだけ苦しい思いをさせられたにせよ、結果から言えばかなりヤバい不良物件を、あえて引き取ってもらったようなものだからね。

 ただリホさんとの仲を裂かれたことは、回復不能に近いレベルの大ダメージだったよ。うん、まさにクリティカル・ヒットってやつ。
 マツオのあの悪魔の囁きさえ無ければ、黒沢だってリホさんルートのグッドエンドにたどり着けてたかも知れなかった。そう思うとね、今でも胸が苦しくなるよ。
 リホさんと一緒に受験勉強をして、一緒に東京に出て同じ大学の同じ学科に通って……。そんな今とはまるで未来が、確かに開けていた筈なんだ。

 マツオにされた事は今も忘れられないし、許すつもりも生涯無いから。
 けど「シネ!」とか殺してやりたいとか思ったことも、ホントに全然ないよ?
 だって、この世に死なない人間など、誰も居ないからねえ。現にお釈迦さまやキリストさまだって、蘇って神仏になる前にちゃんと一度死んでるし。
 当然、放っておいたところでマツオもいつか勝手にくたばるんだしさ。なのに恨んで呪ったりするだけ時間と精神力の無駄遣い、ってヤツじゃん。
 増してや、わざわざ殺しに行って犯罪者に身を落とすとか、どう考えても割に合わなさ過ぎるって。

 相手を下らない卑しいヤツと思えば思うほどね、「そのクズ野郎の為に己の身を落とすなど馬鹿らしい」って気持ちになるよ。
 だからマツオが今どこでどうしているかも、心底興味ないっス。マツオも黒沢の今の居場所も知らないだろうし、このまま死ぬまで関わり合うこと無くいられればそれでイイと思ってる。
 ただ「良い死に方をしないとイイな、そして死んだ後は地獄に堕ちてほしいな」とだけは願ってるけどね。

 あー、でもある意味マツオは、リホさんにとっては“良いコト”をしたのかも。
 だって結果的にだけれど、ヤツが仲を裂いたからリホさんは、黒沢の毒牙にかからずに済んだんだしwww。で、予備校で彼女をいろいろ支えてくれた、素敵な彼氏とも出逢えてさ。

 わかってるさ、リホさんは黒沢には勿体なさ過ぎる相手だって。
 最良の結末はリホさんとのグッドエンド……ってのは、あくまでも「黒沢にとっては」であってさ。リホさんにとって黒沢など、厄介な不良物件に過ぎないってコトぐらい自覚してるよ。
 リホさんの為を思えば、黒沢など彼女の前から姿を消しきった方が良い。
 だからリホさんに彼氏が出来た後は一切の連絡を絶ったし、数年後に同窓会で再会した時も目を合わせることすら避けたよ。

 でもね。あの頃の事はセピア色の遠い昔の思い出と化している今もまだ、黒沢はリホさんの影を未だに引きずり続けてるんだ。
 恥ずかしながら、黒沢って基本はいかにも“女のコ”って感じの、可愛い系のコが好きなんだよねぇ。“色っぽい”でも“ゴージャス”でもなく、華奢で線が細くて守ってあげたくなるような女の子。
 高校で出逢ったマイコさんなんか、ズバリそのタイプだし。
 けどリホさんと共に歩める未来は無いことがハッキリした後、黒沢が選ぶ相手は気付かぬうちに変わってたよ。
 可愛い女のコは相変わらず好きで、けど実際に仲良くするのは元気で明るいサバサバ系の、見かけもハートも男の子みたいな子ばかりになってたよ。
 そう、どこかリホさんに似た子、ってコト。
 以前なら魂を抜かれてた女度高めの可愛いコは、見て目で楽しむ程度に留めて深みにハマる前に敬遠……って感じでさ。

 いや、実際は意識してリホさんに似た子ばかり選んで好きになってたワケじゃないよ。その後幾人もの女の子と出逢いと別れを繰り返し、時もかなり経ってからやっと気付いたんだけどね。
「あれ? オレが本気で付き合いたくなる子って、いつもどっかリホさんに似た子ばかだゾ」みたいな感じで。
 リアルの恋愛と違ってギャルゲーだと、頭の片隅にどこか醒めた冷静な部分を残してプレイするからさ。その「オレって、どう考えてもリホさんタイプのヒロインばかり追いかけてるよね?」って現実を、いやと言うほどハッキリ自覚させられてしまったよ。

 以前の章でも話したように、黒沢が初めてプレイしたギャルゲーはセガサターン版の『同級生2』で、おかげで萌えのセカイの底無し沼にどっぷりハマることになってしまったのだけれど。
 まだギャルゲー初心者だったその時から、黒沢はメインヒロインをスルーして、まずボーイッシュな同級生の篠原いずみから攻略にかかってたよ。

同級生2同級生2
(1997/07/11)
SEGA SATURN

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『同級生2』のメインヒロインの鳴沢唯って、血の繋がりは無いのに主人公を「お兄ちゃん」と呼ぶとか、妹萌えを起こさせた原点とも言われる強力な妹属性の持ち主でね。
 この鳴沢唯は、黒沢から見てもかなり可愛かったっス。実際、黒沢自身『同級生2』をプレイして鳴沢唯を知ったおかげで、「オレって、年下の妹キャラが好きかも」って自覚してしまったくらいでさ。
 けどその鳴沢唯を「可愛い!」と思いはしても、プレイしていて「付き合いたい!」と思ったのは篠原いずみの方だったんだ。
「ん?」って思いマスやん。気持ちと行動がバラバラな自分に、「何故なんだろう?」っていろいろ考えさせられちゃうよね。
 その結果「好きなタイプと気の合うタイプは、実は別なものなんだ」ってコトに、黒沢はこのゲームのおかげで気付かされたようなものでさ。

 だから河下瑞希さんのコミックス『いちご100%』でも、どの女の子を選ぶかで、主人公の淳平がナゼあそこまでグタグタ迷うか、黒沢にはちょっと(いや、実はかなり)理解しがたかったよ。「一番気が合って友達感覚で付き合える、北大路さつき一択じゃん」みたいな感じでね。

いちご100%ストロベリーダイアリーいちご100%ストロベリーダイアリー
(2005/02/10)
PlayStation2

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 実は黒沢は河下瑞希さんがかなりスキで、桃栗みかんのペンネームで少女マンガを描いていた頃から独特の繊細な絵柄にホレてマシタ。だからコミックスだけでなく、プレステ2で出されたゲーム版の『いちご100%』も、発売初日に定価で買ってしまったくらいで……。
 いや、このゲーム版の『いちご100%』はいろんな意味でかなりのクソゲーだったんだけど、ソレも含めて河下瑞希さんの諸作品については、機会があればまた語らせていただくとして──。

あかねちゃんover drive 1 (マーガレットコミックス)あかねちゃんover drive 1 (マーガレットコミックス)
(1999/03)
桃栗 みかん

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 ギャルゲーでもコミックスでも、黒沢ってメインヒロインを好きになれる率が恐ろしく低いんだよねえ。二次好きの諸氏には何故あーゆータイプが好まれるのか、「ワケわからんw」って感じで。
 あーゆータイプって、ほら「可愛い上に女らしくて大人しくて、ぽやんとした天然系で」みたいなアレだよ。
 黒沢からすると「そんな男の妄想を具現化したようなオンナ、いるワケねーよwww。もし実在したら、キャラ作って男の前では演技しまくりの超シタタカ女だってば」みたいな感じでさ。
 で、コミックスやギャルゲーで「絶対この子の方がイイって!」って思うのはいつも、サバサバ系の明るい元気っ子ばかりで。しかも「男に負けない強気系もドンと来い!」だし。
 ……今になって考えてみると、ソレってまず間違いなく中坊の頃のアズサやリホさんとの件が尾を引き続けてる結果だよね。
 ハイ、その遠い昔の失恋&友の裏切りの呪縛から、黒沢は未だに逃れられずに居るのでアリマス。

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大失恋(51)・だから黒沢はまだ独り身デス

 卒業式までの日々は、本当に何もなく淡々と過ぎて行ったよ。あと僅かで離れ離れになる……って皆わかってたから、あえて揉め事を起こそうなんてヤツ、誰も思わなくてさ。
 それどころか、「別れ別れになる前に、ケンカした相手とも仲直りしておこう」なんて思う人達もいたくらいで。
 黒沢も例のオオタケくんとだけでなく、前は友達だったのにこの数ヶ月は険悪な関係のままだったツボタくんとも仲直りしたよ。
 とは言っても同級生全員とキレイに和解したワケでなく、アズサやマツオとは言葉一つ交わさない関係のままだったけれど。
 いくら卒業直前の仲良しムードの中でも「許そうとか絶対思えない相手」って、残念ながら現実には存在するんだよね。

 卒業の日を迎えた黒沢の気分は、何かとても複雑だったよ。
 U中やクラスに特に愛着も無かったから、式の日を迎えても胸が熱くなることも目が潤むこともなく。
 と言って、その春から始まる高校生活についても、成り行きに近い形で志望校を決めてしまっただけに、期待や希望も殆ど抱いておらず──。
 だから式の間も、クラスに戻って皆が別れを惜しみ合っている間も、明日から始まる春休みをどう過ごそうかって、そのコトばかり考えていたよ。

 実はその春休みに、リホさんとデートの約束もしていてさ。「隣の街に、映画を観に行こう」って。
 昔のことだし田舎のことだし、映画を含めて生徒だけで街に遊びに行くのは校則で禁止されていてさ。でも「卒業しちまえば、校則も何も関係ナイよね?」みたいな感じで、早速街に繰り出そう……ってわけデス。
 で、リホさんと観に行った映画が何だったかは、キレイサッパリ忘レマシタ。
 ただ隣の県庁所在地の市の一番賑やかな街を、女の子を連れて歩ける……ってのが、何かすごくオトナな気分で誇らしくてさ。

 高校は別々になってしまったけど、住む所まで変わったわけじゃないし、互いの家の距離だって徒歩で十分とかからなかったから。
 だから高校生になった後もリホさんとは電話し合って喋ってたし、時々逢ったりもしたよ。
 前にも話したように自分にとって一番大切な人は誰か、中学時代のいろんなゴタゴタを通してようやく悟ったからさ。ホントにバカ過ぎ&遅過ぎ……って感じだけど。

 黒沢が行ったS高では、文化祭は秋ではなく五月でさ。その意図は、まあ「文化祭などさっさと済ませて、三年生はすぐ受験に専念シロ」ってコトね。
 で、そのS高の文化祭に来てくれたリホさんに、思い切って告白しちゃたんだよ、「付き合ってほしい」って。
 結果デスカ?
 ハイ、あっさりフられちゃいマシタ。
 わかってるよ、「メシウマwww」って笑ってくれて構わないさ。だってアレだけ好き放題にやった挙げ句にグッドエンドになったりしちゃ、それこそ世の中間違ってるわな。

 フられた理由だけれど、ズバリ例のマツオ絡みの一件だったんだ。黒沢がオオタケくんとモメた後に、マツオの嘘を信じて酷い言葉で絶交を宣言してしまった、思い出すだけで自分を殴りつけてやりたくなるあの時の事ね。
 マツオの悪計が明らかになった後、リホさんは黒沢が誤解するに至ってしまった事情をちゃんと聞いて、「わかった」と言って和解してくれさ。だから黒沢としては、水に流して許してくれたものと思いこんでたんだ。
 けどよく思い出してみれば、リホさんはただ「わかった」と言っただけで、「許す」という言葉はまるで口にしてなかったんだよね。
 とりあえず和解は出来ても、黒沢が与えた傷はまだ消えずに心に残っていて、それに何より「私でなくマツオを信じたのが許せない」ってコト。
 ……うん、その言い分はわかる。悪いのはどう考えても黒沢なんだし、そう言われたら諦めて引き下がるしかないよ。
 それでもリホさんは、黒沢と友達でいることだけは止めないでいてくれたよ。だからその後も電話を掛け合って、時には逢ったりもしたけれど。

 でも告ってフられた(告られてフった)となると、前と同じ関係ではいられないよね。何となく気まずくて、電話して喋ったり会ったりしてもどことなく居心地ワルい、みたいな。
 それに同じ中学の同じクラスだった時は毎日会えるのが普通だったけれど、別の学校になれば顔も見られない日が当たり前に続くワケで。

 何しろ当時は、ケータイもメールも無い時代だったから。会おうにも、相手の家の固定電話(←当人でなく親が出る可能性が高い)でアポを取らなきゃならない始末だよ。
 自然に連絡を取り合う間隔が開くようになり、それより同じ高校で出来た新しい人間関係の方が優先されるようになってさ。
 夏休みの夏期補習中に、黒沢は隣のクラスのマイコさんと仲良くなって。色白小柄でいかにも華奢な感じの、絵を見るのも描くのも好きな芸術系の女の子だったよ。
 あと、引っ越してしまった幼なじみのマキちゃんとも、彼女が離れた市の女子高に進んだ後も連絡は取り続けていたし。

 けどね。
 繋ぐ糸がどれだけ細くなっても、「自分にはリホさんが一番!」って思いは変わらなかった。
 って言うか、他の女の子たちと比べれば比べるほど「やはりリホさんでなきゃ!」って気持ちになってしまうんだ。
 そしてリホさんもこんな黒沢を切り捨てたりせずにずっと“友”でいて、時々逢ってもくれてさ。
 で、高校三年の夏にデート(?)した時に、黒沢は懲りずにまた「付き合って」ってお願いしちゃったんだよ。
 答えっスか?
 今度もまたNOだったよ。
 理由も二年前に告った時と全く同じで、「だってキミは、あの時私を信じなかったでしょ?」って。

 男からすればさ、「何でそんな過ぎた昔の話で」って思っちゃうじゃん。高校の合格祝いに手縫いのプレゼントとか貰って、その後も電話し合ってデートもしたりしていれば、つい「コレって脈があるよね?」みたいに期待しちゃうよ。
 けどリホさんから見れば黒沢の反省はまだ足りなくて、リホさんの心の傷を全然癒せてなかったんだろうね。

 その時、別に「もう友達もやめよう」とか言われたワケじゃないけれど。だとしても二度も告白を断られれば、やはり近づきにくくなっちゃうよ。
 ちょうど時期的にも大学受験が迫りつつあって、それで中二の時に仲良くなってから初めて連絡を取り合わなくなっちゃってさ。
 ところが本命のB大の受験会場で、ドラマのように再会してしまったことは、以前の章で詳しく話した通りデス。

 何せ、あの頃の黒沢は若かったからね。
 宝くじに当たるのだって、冷静に考えればただの偶然に過ぎないのだけれど。
 たとえ何千分の一かの希な確率にしろ、たまたま二人の受験番号が連番で前後の席になったのを、「コレは運命に違いない、二人は赤い糸で結ばれてるんだ!」みたいに思い込んで舞い上がっちゃってさ。

「オイオイ、いつまで厨二病を引きずってんだよ!」って、今ならハリセンで頭の一つや二つ叩いてやりたいトコだけどさ。
 でも入試の後は原宿でデートして、表参道を見下ろせるカフェでお茶してとか、かなり良いムードのつもりだったんだ。
 別れ際には受かった後の再会も約束したし、黒沢の脳内は「リホさんと過ごすバラ色のキャンパスライフ」一色に染まってたんだよね。

 受かる自信はあったし、当日の手応えもそれなりにあって、脳天気にも落ちるとか殆ど考えてなかった。
 けど黒沢だけでなく、二人ともその大学に落ちてしまってさ。
 黒沢はそれでも滑り止めのC大には引っかかって、でもリホさんの方は全滅……ってやつで。
 そこでリホさんが下した決断は「全寮制の予備校に通って受験に専念するから、受かるまで誰とも連絡取らない」って。その代わり来春の再会を約束して、黒沢はちゃんと一年待ったんだけどね。

 でも約束の翌年の三月がほぼ終わりかけても、「受かったよ」って知らせはまるで来なくて。
 もしかして、今年もまたダメだった? そんな心配をしながら、ずっとずっと待ってたんだ。
 その時黒沢は大学の春休みを利用して地元に帰っていたのだけれど、また東京に戻らなきゃならない日が目前に迫ってしまってさ。それでたまりかねて、「連絡は受かってから」って約束を無視してこちらから電話してしまったんだ。
 そしたらね、リホさん、とっくに地元に戻ってたんだよ。しかも大学にも、MARCHレベルのトコにちゃんと受かってて。
 なのに約束の連絡をくれなかった理由は、「予備校で彼氏が出来たから」って。

 話が違う、って思いマスやん。
 受験に専念したいって言うから、逢いたい気持ちを我慢して期間限定のCOも受け入れたのに。
 でも実際は、その受験勉強しながら別の男とちゃんと恋愛してたじゃん、って。
 で、その彼氏が居るから黒沢など「もう消えてヨシ!」ってコトだよね。

 けど、恨むつもりは全然無かったよ?
 だってそれまで黒沢は他の女の子の間をフラフラしては、困るとリホさんを頼って散々迷惑かけてばかりだったもの。
 うん、だから長いこと待たされた挙げ句にスパッと切り捨てられるのも、それ以前のリホさんの気持ちを考えれば「当然の報いかな」って。
 ただ突きつけられた「黒沢など、リホさんにとって今はもう無用の存在なんだな」って現実が、ホントに痛かった。

 でもね。
 昔の自分のコトを思えば「この痛みにも黙って耐えて、リホさんの前から消えなきゃなんない」って、ちゃんとわかっていたから。
 だからそれ以来、リホさんとはホントに全く関わってないんだ。電話も掛けなければ年賀状の交換もしてないし、ただの一言も喋ってない。
 三年後の同窓会で再会した時も、斜め向かいの席になっても目も合わせなかったし、声をかけられても聞こえなかったフリをしたよ。

 つーか、その同窓会の時にはもう黒沢にも、東京で仲良くしてた女の子が複数いたからね。
 まず、銀座の夜の蝶のレイカさん。そんな人が何で貧乏学生などをかまう気になったかと言うと、何でも離れて暮らしてる弟が黒沢と似ていて、年もちょうど同じだったのだそうで。
 実際、レイカさんには本当のお姉さんみたいに優しくして貰ったよ。

 実在する姉のおかげで、姉キャラ全般に萌えられなくなってしまっている黒沢だけれど。それが実際に出来てみると、一緒にいてとても居心地が良かったっスよ、この“血の繋がらない姉”って。
 世のロリ好きお兄さん達が夢見る“血の繋がらない妹”って、現実には見返りナシに搾取されるばかりじゃん。けどお姉さん代わりになってくれる年上のヒトはその逆で、見返りを求めずただ優しくしてくれるんだよね。
 そのレイカさんとのことを思い出すと、複数の女の子が「お兄ちゃんになって!」って黒沢を頼ってきた気持ち、何かわかるような気がするよ。

 あと、ストリート・ダンサーのカオリちゃんって子とも仲良くしていててさ。一五〇センチもないくらいちっちゃくて、でも踊り始めると凄い躍動感で一瞬も目が離せなくなっちゃうんだよね。
 このカオリちゃん、色白で目パッチリで顔も可愛い上にロリ巨乳で、けど元はレディースの頭だったという、それこそ「猫のふりをした虎の子」って感じの子でさ。
 虎繋がりで『とらドラ!』で例えれば、「見かけは巨乳化させた逢坂大河で、普段は串枝みのりみたいに明るく元気、でも一旦キレると手乗りタイガーそのもの」ってトコかも。
 コミックス版の『とらドラ!』三巻に、大河がストーカーにキレる場面があって。詳しくは、その巻の第22話『小悪魔天使』をご覧下され。
 ……カオリちゃんって、キレたらあのレベルのコト、マジでやれる子だから。

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 同じ大学の誰かでなくそんな女の子たちとお近づきになってるだけで、黒沢がどんな大学生活を送ってたか、おおよそ想像がつくんじゃないかな。選んでいた学科も史学科みたいな堅いトコだったし、そりゃーもう学内では浮きまくりだったよ。
 ただカオリちゃんって実はかなりの苦労人で、普段はホントに優しいんだよ? ハッキリ言って、「女として好き」って言うより黒沢は彼女を人としてかなり尊敬していたよ。

 そうそう、こんな黒沢を「お兄ちゃん」と呼んで仲良くしてくれた四つ年下のアヤカと知り合ったのも、確かこの頃だったな。
 でもこのアヤカって、当時はまだJKだったけどハデ顔+長身ナイスバディで、バイトながら時々モデルの仕事もしてるような子でさ。
 ……自分より背の高い“妹”に「お兄ちゃん」とか呼ばれる心境って、ナカナカ微妙なものがありマシタよ?

 そのカオリちゃんや“血の繋がらない姉&妹たち”については、機会があればいつかまた詳しく書くとして。
 ただどれだけの女の子と知り合おうと、「リホさんを越える人にはまだ出逢えてない」って気持ちは、今に至るまで変わらないままなんだよねえ……。
 で、その後もいろんな女の子と出逢いと別れを繰り返しつつ、黒沢は未だに独身っス。

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大失恋(50)・サイン帳の続き

 ユカさんと言えば運動が得意な元気で明るい子という印象で、名前だってちゃんとフルネームで覚えてたよ。
 でもね。
 卒業間近のその時まで、ユカさんと仲良くした記憶は殆ど無いと言うか、黒沢とは喋ったことすら滅多に無かった筈なんだよ。

 別にキライとかではなくて、イメージとしては間違いなく好印象の方だったよ。けど何て言ったらいいだろう、接点がまるで無くてさ。
 卒業した小学校も別だったし、ユカさんは女子の中では賑やかにやってるんだけど、男子とはすぐ仲良くなっちゃうタイプではなくて。
 そしてコレは例のクラスでの“階層”の問題もあるのだけれど、ユカさんが仲良くしてた女子たちって、黒沢と気軽に喋り合ってた女子たちとは全然かぶらなくてさ。

 アズサだって同じように黒沢とは出身小学校も例の階層も違ったし、たまたま同じ班になるまでは接点など何一つ無かったのだけど。
 ただユカさんとは、その同じ班になることさえ無かったんだ。二年の時からずっと同じクラスで、席替えや班替えはもう何度もしたのにね。
 だからユカさんとの相合い傘を書かれても、ただ「何コレ?」って感じでしか無かったよ。そもそもそのサイン帳自体、黒沢はユカさんに回そうとも思わなかったし。
 そしたら。
 そのサイン帳の最後のページに、いつの間にかユカさんがメッセージを書き込んでくれていてさ。それも短いメッセージ程度ではなく、ページ全部に綺麗な字で「高校でも勉強ガンバレ」とか「元気で」とかいろいろ書いてくれてあって、最後にこう付け加えてあったよ。
「二年間だったけど、黒沢くんの顔を見ることができて感激だったな」

 心がまるで揺れなかったと言えば嘘になる。
 もしあの時、同じ班になったのがアズサでなくユカさんだったら、また違う未来になってたのかな……って思いもしたよ。
 黒沢がただ気付かずにいただけで、ギャルゲーで言うところの“ユカさんルート”とその分岐点も、実はちゃんと存在してたのかも知れない。
 ただ自分に一番大切な人はリホさんなんだって、卒業間近のその時にはちゃんとわかってたから。だから例の相合い傘とメッセージを見て、何とも言えない気持ちになりはしたけれど、ユカさんに手を出したりなんかしなかったよ。

 そうそう、そのリホさんは黒沢が回したサイン帳に、こんなトンデモな事を書いてたよ。
「W高の女すべてをモノにする」

 リホさんが行くことになったW高は女子校で、だからそんな軽口を書き込んだのだろうけど。
 言霊って言葉があるけれど、ホント迂闊な事は言うもんじゃないねえ。
 リホさんって元々キリッとした美少年顔で、しかも性格はそれ以上に男前だから。もうね、W高ではたちまち宝塚のトップスター並の人気でさ。
 クラスどころか学年の枠を越えて先輩や後輩にもモテまくり、二月十四日には毎年チョコレートが段ボール箱一杯に届いて、おかげでチョコレートを食べるだけで蕁麻疹が出るほどになってしまったとか。
 さらには卒業したら一緒に暮らしてだの、気持ちを受け入れてくれなければ死ぬだのと言い出す、かなりヤバいストーカーにも粘着される始末でさ。
「女はコワい、女子はもうコリゴリ」
 以前の章でも触れた大学入試で再会した時、リホさんは心底疲れた顔でそう繰り返してたよ。

 サイン帳と言えば、あえて回さなかったのにマツオも勝手に書き込んでいてさ。例のリホさんとの仲を裂かれかれた一件以来、本当にただの一言も口をきいて無かったのにね。
 それはメッセージと言うより文字通りサインで、気取った飾り文字のアルファベットでただ“Matsuo”って。
 ……破って捨ててやりてぇ、その部分だけ。
 本気でそう思ったね、何か自分の中学時代の想い出が汚されたようでさ。
 けどそうすると裏のページの大事な友達の書き込みまで破ってしまう事になるんで、そのマツオのサインは泣く泣く残してあるよ。

 もしかしたら、それこそマツオの狙いだったかもね。
 俺がオマエに与えた教訓を胸に刻み込んで、この先もずっと忘れるな……って。

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大失恋(49)・卒業とハレルヤとサイン帳

 さて、リホさんと和解した後は、打って変わって穏やかな日々が続いたよ。
 リホさんは何も無かったかのように、以前と同じように仲良くしてくれて。
 やや距離を置いた関係ながら、スワさんとも表面的には友好関係を保ったままでいて。
 そうそう、黒沢の誤解から迷惑をかけてしまったオオタケくんとも仲直りしたよ。
 卒業まで、本当にもうあと僅か。
 そんな空気を肌で感じるようになると、クラス全体がもう仲良しムード一色でさ。
 つまんねーいざこざなんか、もう水に流しちゃおうぜ……みたいな感じでね。

 二月も半ばになると、授業も受験対策のプリントや自習が多くなって。
 音楽の授業では卒業式に三年生が歌う“ハレルヤ”の練習が始まったりするからさ、「うわぁ、ホントにもう卒業なんだな」って厭でも実感させられたよ。

 ほら、中学校ってナゼかどこの学校でも合唱祭(合唱コンクール)をやりたがるよね。けど、そーゆーので張り切るのはたいてい女子と担任だけで、男子は練習を怠けたりサボったりして怒られてばかりでさ。
 ハイ、黒沢も「合唱なんて格好ワルい」みたいに思って、クラスでの練習にもかなり不熱心だった一人デス。
 バンドでも組んでイケてる流行りの曲を歌うならともかく、クラス対抗の合唱なんかに燃える気持ちが、黒沢には全然わからなくてさ。
 けどね。その卒業式の為のハレルヤの練習だけは、繰り返し歌ううちに次第に胸が熱くなって来たよ。

 わかる人にはわかると思うけど、アレってなかなか難しいんだよ。だから合唱祭でハレルヤを選んだクラスは、たいてい自滅して残念な結果になってたね。
 けど、合唱祭の時のように「いいか、絶対優勝しろ!」だの、「○組には絶対負けんじゃねーぞ!!」だのと叱咤されながら、たかがクラスで貰う賞状一枚の為に厭々歌わされるんじゃなくて。
 ただ卒業式の為だけに無心に練習するうちに、ド下手で聞くに耐えなかったのが次第に曲として形になってくると、何か歌うのが気持ち良くなってきてさ。

 音楽にしろ、美術や技術家庭にしろ、特別教室で授業する科目って、休み時間の大半を移動に使わざるを得ないじゃん?
 三年の時の音楽の先生はそのあたりにも理解がある良い人で、まだ残り数分あっても、キリの良いところで授業を終えて早めに帰してくれたんだよね。
 階も違う校舎の隅の音楽室から、長い廊下を歩いて自分のクラスに戻るのだけれど。当然、他のクラスはまだ授業中で、廊下には各教室の先生の声が微かに聞こえてくるくらいでさ。

 普段はね、音楽の先生の配慮に応えてみな静かに帰ってたよ。
 ただハレルヤの練習も仕上げに近づいてきていたその時だけは、まだ何か歌い足りない気分でさ。
 校舎の長い廊下を、黒沢はその日、サカイくんとカンノくんの三人で歩いていたのだけれど。
 黒沢たちは、自然に視線を交わし合って。
「やるか?」
「おう!」
 頷き合って、「せえの」でやっちまったよ
 その三人で思い切り声を張り上げて、ハレルヤの大合唱を。
 ……そんな恥ずかしいことを黒沢にさせたのも、卒業間近って空気のせいだろうね。
 黒沢たちがその前を通った各教室の皆さんにしてみれば、殆ど授業妨害レベルだったろうさ。けどどの教室で授業をしていた先生も、誰も出て来て叱ったりはしなかったな。

 そんな卒業間近のなごやかムードのまま、リホさんや他の友達とまったり穏やかな日々を過ごしてさ。
 まず私立高校の入試が始まり、続いて公立高校の入試も始まって。そして黒沢はS高に受かって、リホさんに合格祝いのプレゼントも貰ってさ。
 それだけでなく、「春休みには、一緒に遊びに行こう!」みたいな約束もして。
 「これってデートだよね?」みたいな感じで。

 だからと言うわけではないけれど、黒沢はマツオに文字通り何もしなかった。騙してくれたお礼参りもしなかったし、あんな真似をした理由を問い糺しもしなかった。
 だって悪いのは、裏を取ろうともせずにヤツの言葉を信じ込んでしまった黒沢なんだから。
 マツオが何を企もうが、黒沢が信じるべき人を間違えさえしなければ、あんな酷い結果にはならなかったんだ。
 マツオがクズ野郎だったのは間違いないよ、けど一番悪いのは、リホさんよりそんなクソみたいな奴の方を信じた黒沢なんだ。それがわかってたから、「オレにマツオを殴る資格があるのかよ?」と考え込んでしまってね。
 だからあの一件は、一時の激情に流されて善悪の判断を誤った自分に対する戒めとして深く胸に刻み込んで、マツオは友達リストから完全消去したんだ。
 リホさんと仲を裂かれかけたあの一件から、黒沢はホントにヤツとは只の一言も口をきいて無いよ。
 って言うより、ただ朝「お早う」って言うのさえ厭だったんだよね。もう、ヤツを視界に入れるだけで目が汚れる……って感じで。
 ただ残念ながら、黒沢の進学したS高にはマツオも受かっていてさ。
 幸い、高校ではマツオは理系クラスで、黒沢は文系クラスだったから。そして高校も一学年に八クラスもあったんで、顔を合わせる事も滅多になければ、口も全くきかないで済んでしまったよ。

 卒業間近になると、よくサイン帳とか回し合ったりするじゃん。
 ……恥ずかしながら、黒沢もやりマシタ。
 それなりに仲良くしてたつもりの十数人(男女合わせて)に、そのサイン帳を回したのだけど。それを見て「俺も」みたいに書き込んでくれた人もいて、結果的にクラスの半分以上の人がメッセージやサインを寄せてくれたかな。
 で、一年の時からずっと同じクラスで、いつも軽口を叩いてからかい合ってケンカ友達みたいだった女子のアオキさんにサイン帳を回すと、返って来たページに相合い傘が書いてあってさ。
 そこに黒沢と並べて書いてあった女の子の名前を見て、思わず首を傾げてしまったよ。
「何コレ? 意味わかんないんだけど」

 リホさんやスワさんあたりとだったら、書かれてもまあ仕方ないと思う。
 その頃にはまあほとぼりは冷めてたけど、ミカちゃんとも一時期は噂になってたし、その前はアズサと露骨にベタついてたし。
 もっと前のまだ二年生だった時のことを言えば、ナカノさんとも仲良くて、席が隣同士だった時は机をぴったり寄せ合って授業中もずっと喋り続けてたし。
 けどその相合い傘に書かれていた名前はその誰でもなく、ユカさんだった。

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大失恋(48)・女は恋に醒めると別人化シマス

 そのイタい失恋にかけては百戦錬磨wwwの黒沢から見て、「この子だけは止めておけ」ってヒロインが『つよきす!』の中に実は一人いるんだ。
 ズバリ、椰子なごみデス。

 いやね、近衛素奈緒など長く付き合ってうっかり結婚などしようものなら、かかあ天下で旦那を当たり前のように尻に敷くヒス妻になりそうだと思うよ?
 ただ近衛素奈緒の本質は“善”だし、口うるさく叱咤されて尻を叩かれても、それは彼女なりに相手を思ってのことという感じで。
 けど椰子なごみは違う。もしこの椰子なごみのような子が実在したとしたら、黒沢はよっぴーより怖いと思うし全力で避けるよ。

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 けどこの椰子なごみ、ネットなどで調べてみると、『つよきす!』の中でもトップわ争うような人気なんだよね。
 ……何かソレを見てね、「コレだから、リアルな恋愛を知らないギャルゲーマーは困る」と、思わず溜め息をついてしまったよ。

 椰子なごみのドコがウケてるって、結局その強烈なツンデレぶりなんだけど。
 出会った頃は“超”の字が付くほど態度が悪くて敵意むき出しで反抗的で、それがデレ期に入ると一転、ひたすら尽くす可愛い子になっちゃうんだよ。
 多くのギャルゲーマー達に言わせると、そのツンとデレの激変ぶりにグッとくるのだそうで。
 けど黒沢にとっては、ソレはドン引き要素でしかなかったよ。ただもう「コワいわ!」って。
「コレはもう多重人格って心の病だから、早くお医者にかかって下サイ」って、マジでそう言いたくなるレベルでさ。

 詳しくは自身でプレイしてみてほしいけど、ツン期の椰子なごみは「常識をどっかに置き忘れた、キチなコミュ障」としか言いようが無いデス。なごみは初め、主人公や周囲の皆と衝突してばかりなのだけど、原因はすべて椰子なごみの非礼な態度だし。
 あの理解不能なキレっぷりを“一匹狼”などと呼んだら、本当の一匹狼に失礼だと思うゾ黒沢は。
 それがデレ期に入ると主人公にベタベタ、甘々な子になって、普段のドスの利いた低い声まで2オクターブは跳ね上がって高く可愛くなるとか、マジで別人としか思えないんだよ。

 そもそも椰子なごみがすさんだ子になってしまったのは、身内に関係するある人物に対する反発からなのだけど。
 その相手に何かヒドいことをされていたとかなら、普段の性格の悪さにも少しは同情出来たよ。でも実は椰子なごみが一方的に嫌って敵視してただけで、相手は本当に良い人だった……ってのも、「何だかなぁ」って感じだし。

 よく言うよね、「男の恋は名前を付けて保存で、女の恋は上書き保存」って。
 あと、「元カノの悪口を言う男は少なくて、元カレを良く言う女は殆どいない」とも。
 結局、女の子にとっては今の恋と今の彼がすべてで、新しい恋をすれば元カレなどホントに「どーでもイイ人」になっちゃうんだよね。
 だから女の子って、恋が醒めてくると態度がマジで激変するよ? それこそ「別人?」って疑ってしまうくらいにね。

 かつて、こんな黒沢のことをすごく好きになってくれた、奇特としか言えない女神さまみたいな子がいたんだ。
もし私が死んだらね、守護霊になってキミを護るから」って、例のデレ期には本気でそう言ってくれてたんだ。
 実際、その子は黒沢の頼みは何でも聞いてくれて、「キミがいないと、私は一歩も歩けないし生きてけない」って。

 自慢なんかじゃ全然ねーよ。だってその子は今、他の人と結婚して子供もいて幸せにやってるし。
 フったんナイって、黒沢の方がその彼女にフられたんだよ。
 とりつく島もない……って意味が、これ以上ないくらいよくわかるような冷たい声で、「他に好きな人が出来たから」って。
 黒沢は愛想を尽かされるようなヒドい事をした覚えは無かったし、彼女に対しては変わらぬ愛情を持っていて。だからプライドもかなぐり捨てて、「思い直してくれ、やり直したい」って懸命に頼んだよ。
 けど彼女の気持ちは一ミリも動かなくて、黒沢は容赦なく切り捨てられましたとさ。
 言っておくけど、恋愛の始めと終わりで、女の子が愛の女神から死または復讐の女神に変わるのはデフォだから。

 唐突だけれど、ミステリー小説はお好きかな?
 これまではギャルゲーやマンガのことばかり語ってきたけれど、実は黒沢は本を読むのも昔から大好きなんだ。
 その黒沢がすごくハマってしまったミステリーの作家さんが、ロバート・ゴダードトマス・ハリス・クックなのだ。
 ゴダードはいかにもイギリスらしい、歴史も絡んだ重厚な作品を多く書いていて。
 一方トマス・H・クックはアメリカの(主に片田舎の町の)陰の部分と、人間の記憶と事実のギャップについて多く取り上げてるかな。
 ただ、どちらも作風はシリアスで笑うトコなど一つも無いんで、日本に多い「殺人事件も軽~くコミカルに」みたいなミステリーが好きな人には、まず間違いなく合わないだろうことをお断りしておきマス。

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 そのロバート・ゴダードが、『一瞬の光のなかで』という作品の中で、こんなことを言っているよ。

恋をするのは正気を失うのとたいして変わらんよ。まあ、それよりちょっと楽しいだけだ

 うん、確かにその通りだと思う。多分フツーの人より大勢の女の子と接してきた黒沢の経験でも、恋愛なんてまあそんなもんだと思うよ。

 相手は別に能年玲奈や岡田准一レベルの美女やイケメンってワケでもないのに、「キミの為なら死ねる!」とか「アナタが居ないと生きてけない!」とか思えちゃう……って、確かに正気を失ってるとしか言えない状況だよね。
 けど遅かれ早かれそのラブラブ期が過ぎて、いずれ正気に戻る時が来るのだけれど。
 性差だけでなく、個人差もかなりあることは承知の上で、「全体として見れば」の話としてあえて言わせてほしい。女の人って、気分や感情によって生きている部分が男より間違いなく大きいと思う。
 だからか、ラブラブ期で燃え上がってる時と醒めて正気に戻った時の態度の落差も、女の子の方がかなり大きいような気がする。

 何しろ男の恋は「名前を付けて保存」で、元カノとのことも綺麗な想い出として残っていて。だからたとえ今の恋に醒めて正気に戻りかけても「愛は無くても情はある」って感じで、スパッと切り捨てちゃうとかなかなか出来なくて。
 けど女の子の恋は、例の「上書き保存」だから。一旦気持ちが醒めると情もへったくれも無く、元カレなど要らないモノ(または邪魔なモノ)として容赦なく捨てちゃうんだよね。
 前にも話した「元カノを悪く言う男は少なく、女は元カレを悪口や笑いのネタにしかしない」っての、しっかり覚えておいてほしいよ。

 で、ラブラブ期が過ぎて素の状態に戻るとどうなるか、『つよきす!』のヒロインたちを例に考えてみるよ。
 乙女姉さんは、厳しくも優しい良い人ってのがデフォだし。
 霧夜エリカはお姫さま気質だし、ワガママで自分勝手でかなり困った人だけど、少なくとも悪い人じゃない。
 近衛素奈緒も支配的で口うるさくて面倒なヤツだけど、これも少なくとも悪意のない人間で。
 だからこの三人については、例え恋が醒めても手の平返しであからさまに冷たくするとは思えないな。

 事実、霧夜エリカにはゲーム中に気持ちが醒めかけられてしまうのだけれど、それでもただ以前の友達関係に戻っただけで、無視とか避けたりとかは全然しないんだよね。
 そして蟹沢きぬは気心の知れた昔からの仲間だし、サッパリしたイイ奴だし、たとえ恋が醒めても親友のままでいられるに違いないと思う。
 よっぴーについてはね、ダークな部分を内に抱えていて確かにヤバい物件だけれど。ただ普段はそれを抑えて優しいイイ人でいられるだけの自制心を、ちゃんと持ち合わせてるし。
 それによっぴーの場合、心から信じて本当の自分を見せられる相手を切実に求めていて、その分だけ好きになった相手には深く執着するし、このテのタイプは恋が醒めるのもかなり遅いよ。
 だからよっぴーは「裏切りさえしなければ多分大丈夫」って、黒沢は自分の経験的なものからそう感じるんだ。

 けど椰子なごみは違う。
 ギャルゲーマー達の多くは、デレ期のなごみの別人格レベルのデレぶりに、まるっと魂を持ってかれちゃうようだけれど。ただなごみのその“デレ状態”は、例の「恋に落ちて正気を失った状態」でしかないから。
 では、そのデレ期が過ぎたら、なごみはどうなるか。
 ズバリ主人公と出会った頃の、ツン期のアレがなごみの素なんだよ。だから無愛想でナマイキで、キレると手も出かねないコワいなごみに、いつ戻りかねないかわからないのが現実なんだ。

 その時は夢中だから気付かないだけで、恋に燃えるのにも実はかなりパワーが要るんだよ。そしてその心のパワーだって、決して無限じゃないから。
 短距離ランナーとマラソンランナーの違いはあるにせよ、そのラブラブ期でい続ける為の燃料も、いつか尽きてしまうんだよね。
 で、気持ちが醒めて正気に戻った時に、どれだけ相手に情のある態度で接することができるか。それは結局、恋に落ちる前の当人の人間性と言うか、素の状態で持ち合わせている優しさによるからね。
 でもよくいるんだよね、恋に落ちた後のデレ期の姿のみを見て、「これが本当の彼女なんだ!」とか思い込んじゃうおっちょこちょいが。

 考えてみてよ。女は取っ替え引っ替えのナンパ野郎だって、日頃は粗暴なDQNだって、誰かをオトしたいと頑張ってる時は、相手の女の子に優しくするものでしょ?
 893だって誰だって、ラブラブ期には相手に優しくて良い人でいて当たり前なんだってば。「イジメるのは愛すればこそなんだ!」っていう、ある特殊な性癖のヒトを除いてね。
 だからこそ、相手の本性は「普段、周りの人達にどう接してるか」で判定しなくちゃダメなんだ。「自分にどれだけ優しく可愛く接してくれているか」ではなくてね。

 そういう視点で『つよきす!』の各ヒロインを見てみると、カニと乙女姉さんは文句ナシに合格点、エリカさまと素奈緒は難アリだけど根は悪い子じゃない、よっぴーだって取り扱いに充分注意しさえすれば多分大丈夫……だと思う。
 けどデレ期が過ぎた後の椰子なごみにだけは、どうしても良い未来が想像できないんだ。
 デレ期が永遠に続くと信じてる人達には、なごみも魅力的に見えるのだろうけど。人の気持ちがどれだけ変わりやすいかを、そして恋から醒めた後の女の子がどれだけ非情になれるかを身を持って知っている黒沢には、なごみも含めてツンデレ&暴力系ヒロインって、避けるべき存在としか思えなくて。
 ……ハイ。なごみに対するのと違ってよっぴーの評価が甘過ぎるのは、黒沢もよく自覚してマス。
 だって黒沢はある意味、よっぴーと同類の人間だから。

「良い人達に囲まれて真っ直ぐに育った、善意にあふれる人」って、実は黒沢はDQN系の悪いヤツらより苦手なくらいだよ。
 その種の日の当たる場所しか知らない幸せな人達と違って、黒沢は人の悪意や醜さを、厭と言うほど見ながら生きてきたからね。そして同時に、自分自身の心の内に棲む黒い部分や醜いものもよく知ってるし。

 断っておくけれど黒沢は、スピード違反などの交通関係以外で警察のお世話になった事、本当にただの一度も無いよ。
 それは黒沢が育った環境のおかげでも、「周囲の良い人達に支えられた結果」でもないから。長い人生の中でホントにいろいろあって、心の中の闇に飲み込まれかけたりもして散々葛藤しながら、歯を食いしばって自力で頑張ってきた結果なんだよ。
 だから「環境が──」とか「社会が──」とか言って悪いヤツらや犯罪者を庇う“イイ人”たちには、「オマエらみたいなヤツらが、悪人どもを育てて世にのさばらせてるんだ!」みたいに思ってしまう
 根っからの性善説で「世の中に本当に悪い人なんて誰もいないんだよ」とか真顔で言う人たちって、ただ嫌いと言うよりキモチワルイよ。

 ねえ、キミは自分の心の奥底に深く沈んでる醜く汚い部分を、しっかり直視したことはあるかな?
 黒沢はあるよ。そしてソレから目を逸らさずに向き合って、その心の奥に棲む悪が暴れ出さないよう、常に抑えつけながら生きてるから。
 この黒沢が世の中で人サマに迷惑をかけずに生きてるのはさ、ただ自分の意志によるものなんだ。「生まれつき善だったから」でも、「環境に恵まれたから」でもなくね。
 それだけに、心の中に闇を抱えつつ、必死に“良い子”として生きているよっぴーの生き方には、何か妙に共感しちゃうんだよ。

 って言うか、よっぴーに限らず心に闇を抱えながら生きている人に、黒沢は多分フツーよりかなり甘いと思う。普通のゲーマーが「こいつメンヘラだろ」って避けちゃうような黒いキャラでも引かないし、むしろ両手を広げて「バッチ来~い!」みたいな。
 例えば、メモオフシリーズ第三作『想い出にかわる君』の北原那由多とか。

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 その筋では『想君』と呼ばれてるソレは、数あるメモオフシリーズの中でサイテーと言われている悪評高いゲームだけれど。
 ハッキリ言って、黒沢もプレイしてみて「これはヒドい」と思ったよ。構成にもキャラ設定にも脚本にも、いろんな面でツッコミたい点が数限りなくあってさ。
 けど北原那由多がヒロインにいてくれたおかげで、黒沢は「このゲームに出会えて良かった」って思えたよ。
 実はこの北原那由多って、ただ心の内に黒い闇があるだけでなく、人を殺した疑いまであるんだよね。
 でも黒沢にとっては、「好きなギャルゲーのヒロインは?」と聞かれたら、躊躇わず名前を挙げてしまうくらい彼女を気に入ってるんだ。

「信じらんねー、人殺しかも知れない女ダロ!」って?
 わかってる。
 けどね。「どんな理由があっても、人を殺しちゃいけない」とか真顔で言えちゃう人に、黒沢は心から聞いてみたいよ。
「誰かを殺してやりたい……って心から思うくらい酷い目に遭わされたこと、貴方は無いの?」って。

 黒沢はあるよ、それも何度も。
 ただ前にも言った通り、その気持ちを意志の力で抑え込んで、恨んでる相手を実際に殺しに行ったりしたコトはまだ一度もナイけどね。
 それだけに『想君』の北原那由多がどれだけ苦しんだのかもよくわかるし、引くどころか「側にいて支えてあげたい」って余計に思ってしまったよ。

 まっ、『想君』については思うところがいろいろあるんで、章を改めていつかまた詳しく話すね。
 ただ良い人達に囲まれてすくすくと真っ直ぐに育った人に、「どんな理由があっても、人を殺しちゃいけない」とか、「世の中に本当に悪い人なんていない」とか気安く言われると、何かこう胸が悪くなると言うか、吐き気をもよおすくらい嫌な気分になってくるよ。

 こんな言葉を、キミは知ってるかな。
地獄へ通じる道には、数多くの善意が敷き詰められている
 凶悪事件の被害者より加害者のことを気にかけ、被害者やその家族に手を差し伸べるのではなく「加害者の立ち直りを……」とか言い出すのって、決まってその種の“善意に満ちたイイ人たち”なんだよね。
 世の中に犯罪者が増えれば社会が住みにくくなるのは、誰にでもわかる事だよね。けど“地獄の門”を開いて世の中に悪人どもを送り出そうとしているのはその“善意の人たち”なんだって、皆はいつ気付いてくれるのだろうね。

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大失恋(47)・強気と勝ち気は別モノです

 で、騙されたと気付いて、マツオをどうしたか……って?
 ズバリ、何もしなかった。
 そりゃあもちろん、ものすごく腹は立ったさ。と言うより、殺してやりたいくらいの気持ちでいたよ。
 ただね。
でもキミは、私よりマツオを信じたんだよね?
 リホさんのその一言が、胸に深く深く突き刺さってさ。
 ……確かにその通りなんだ、ホントにね。

 もちろんマツオは悪いヤツだったし、腹の底まで腐ってやがったよ。
 けどどう言い繕っても、一番悪いのは黒沢だったんだ。
「何言ってんだフザケンナ、リホさんがそんなコトするわけねーだろうが!」
 マツオが何を言おうと、そう切って捨ててしまえば良かっただけなんだからね。
 そこまで出来なくとも、せめてリホさんに確かめてるべきだったんだ。まずは穏やかに、「マツオがこう言ってたんだけど、それは本当なん?」って。

 なのに黒沢はマツオを信じ込んで、一方的にリホさんを責めちまった。そしてその挙げ句に絶交宣言(キリッ)までしてさ。
 もうね、あまりにアホ過ぎて、思い出すだけで死にたくなるくらいだよ。
 どう考えても一番悪いのは黒沢だし、マツオを責める資格があるとは思えなかった。
 たとえマツオを殴ったところで、今更どうにもなるワケじゃないし、リホさんにしてしまったことを無かったことには出来ないよね。
 それにそーゆー愚行は、オオタケくんとの件でもう懲りてもいたし。
 それよりリホさんに謝って、何としても許して貰うのが大切。本当にいろいろアホ過ぎた黒沢だけど、不幸中の幸いと言うか、そのコトに気付く頭だけは残ってたんだよね。

 で、リホさんには恥も外聞も無く謝り倒しましたとも。
 初めのうちはリホさんも本当にもう頑なで、殆ど無視に近い感じでね。
 ただ返事は何もしてくれなかったけれど、話だけは黙って聞いていてくれていてさ。
 その時の黒沢って、謝ると言うより殆どリホさんに泣きついていたと思う。もちろん本当に泣いたワケじゃないけど、いろいろ辛すぎてアホなことをしてスミマセン、みたいな。
 もうね、アズサにフられてからのあれこれを、洗いざらい喋っちまったよ。プライドもかなぐり捨てて、弱い部分やみっともない部分もさらけ出して。

つよきす3学期 Portable (通常版)つよきす3学期 Portable (通常版)
(2012/05/31)
Sony PSP

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 ……ハイ、結局何とか和解できマシタ。リホさんは『つよきす!』の乙女姉さん顔負けのアネゴ系のヒトだけど、根はとても優しい人だからね。
 で、「これからは気持ちを入れ替えて、一緒に受験を頑張ろう!」みたいな話になって。
 甘くて苦い思春期の恋愛話(甘さ一割に苦さ九割ってトコだけど)の筈が、いつの間にかこーゆー締め方になるあたりも、リホさんってすごく乙女姉さんっぽいんだよね。
 その話もただ「頑張れ」だけじゃなく、「受かったら、合格祝いにプレゼントをあげる」って。
 それはその場限りの口約束とかではなくて、合格が決まった後リホさんは忘れずに、彼女手縫いのランチ袋をプレゼントしてくれてさ。

 黒沢はこの章で、リホさんをずっとセイラさんにたとえてきたけれど。事実オトコどもを平気で叱り飛ばせちゃうくらい強くて毅然としている部分とかは、確かにリホさんはセイラさんによく似てるよ。
 でも厳しくて優しくて、そして気はすごく強いくせに生真面目で純で……って、リホさんは強気なヒロインばかり揃えた『つよきす!』の中でも飛び切り強い鉄乙女(くろがね・おとめ)そのものだよ。

 以前にも少し触れたけれど、『つよきす!』は黒沢が自信を持ってお勧めできるギャルゲーの一つなのだ。
 このゲームのウリは、何と言っても「ヒロインすべてが強気な子!」というトコで。だから黒沢がキライな「内気で気弱で、いつもイジイジ、モジモジの察してちゃん」や「ぽやんとした優しいお姉さん」は一人も出て来ないんで、途中でイラっとさせられることもなく、最後まで楽しくプレイできたよ。
 登場するヒロイン達について少し紹介すると、例えば一年生なのに先輩も先輩と思わない、一匹狼のツンデレ娘とか。
 財閥のご令嬢で才色兼備の、超お姫さま気質でやりたい放題の生徒会長とか。
 昔からずっと一緒にバカやってきた、男の子みたいな幼なじみとか。

 あ、この『つよきす!』について黒沢は「ヒロインはみな強気な子ばかり」って言ったけど、実は強気とは言いかねるヒロインが一人だけいるんだ。
「わかった、よっぴーだろ?」って、ギャルゲーにちょっと詳しい人はすぐ言うだろうね。
 うん、生徒会書記でクラス委員の佐藤良美サンは、とりあえず「おっとり優しい系」だよね。あえて言えば『To Heart 2』の小牧愛佳に似た、なかなか言うことを聞いてくれない皆に困りながら、皆の為に懸命に頑張るタイプの……。
 でもそれはあくまでも、「とりあえず」の話であって、この“よっぴー”こと佐藤良美サンには小牧愛佳とはまるで違う、裏の顔がありましてね。

 ネタバレは避けたいから詳細はあえて語らないけれど、「よっぴー怖い」で検索すれば色々ヒットしちゃうようなアレな人でして。
 コワい。よっぴーはマジで怖いデス。ルイズだの涼宮ハルヒだの、あるいは逢坂大河といった、萌え系のゲームやマンガやアニメにありがちな暴力ヒロインとは真逆の、「真綿で首を絞めるように、主に精神を攻めてくるタイプ」でさ。
 よっぴーは、普段は生徒会長で無敵のお嬢さま霧夜エリカ(中の人は北都南サマ)の親友、というより忠実な侍女みたいな感じで。けどいざとなるとこのよっぴーの方が、エリカお嬢さまより間違いなく強かったりするのだ。

 で、黒沢はプレイ中に「霧夜エリカか、よっぴーか?」という最終決断を迫られた時、迷うことなくよっぴーを選んでしまったよ。
 そりゃあね、ワガママ放題で親も権力者っぽいエリカさまの機嫌を損ねたら、そーとー面倒な事になりそうだよ。でもよっぴーをフって恨まれた時の方が、ずっと後が怖そうだったから。
 ……よっぴーがキレるとどうなるか、怖いモノ見たさで確かめてみたいキミは、ぜひ『つよきす!』をゲットして、よっぴーとの距離を縮めた後で裏切ってみて下サイ。それも出来ればプレステ2版でなくPC版をチョイスして、深夜のプレイをお勧めしマス。
 断言できるけれど、よっぴーも間違いなく、この強気っ娘揃いの『つよきす!』のヒロインの立派な一員だよ。

 実はこのよっぴーを、黒沢は案外キライじゃなかったりするのだ。
 何しろ黒沢は、「外ではゲーキャラ顔負けの優しい優等生、家ではそのストレスを発散してキレまくり」ってヒス姉と、トラウマになるレベルで身近で接してきたからね。
 だからゲームでもマンガでも、おっとり優しい優等生キャラが出て来ると、それだけでムカついてきてしまうんだよね。「ありえねー! このアマ、絶対ネコを被ってるって!」みたいな感じで。

 そんな黒沢だから、よっぴーの想像のナナメ上を行く裏の顔にも、驚くと言うよりむしろホッとしてしまったくらいでさ。
そーだよねー、ただおっとり優しい善意だけの人なんて、現実にいる筈無いもんねー。これくらい裏があって当然だよ」って。
 それに裏切りさえしなければ、よっぴーはホント優しい良い子のままだから。
 詳しくは実際にプレイして確かめてみてほしいのだけど、よっぴーがそんなコワいヒトになってしまったのは、過去の出来事から極度の人間不信に陥ってしまった結果なんだよね。だからよっぴーは心から信じられる絶対に裏切らない人を求めていて、それで自分を裏切った相手にはホントに容赦ないんだ。

 黒沢自身もいろいろあって、人間のクロい部分は厭と言うほど見てきているからね。だから人間不信のレベルでは、よっぴーにも負けないかも知れない。
 だからコワいと言われるよっぴーの感覚、黒沢は案外理解できるし共感しちゃうんだ。
 アズサにフられた後、ミカちゃんにスワさんと渡り歩いた挙げ句にミクにも手を出したりとか、黒沢って行動から見ればかなり節操の無いヤツと思われかねないよね。
 けどちゃんと彼女が出来た後に浮気したコトって、ホントにただの一度もないんだよ。って言うか、浮気とか元々キライで、する気も全然無いしね。

 黒沢がアッチコッチでいろんな女の子と知り合ってきたのも、心から信じられるただ一人の娘を捜してたからでさ。
 だからその“誰か”が見つかりさえすれば、後は他の子とどうこうしようとか全然思えないんだ。
 浮気や不倫をする男の中には、「男なら誰だって、チャンスがあれば浮気するダロ?」とか居直るヤツがよくいるけれど。
 その感覚、黒沢はハッキリ言って理解できない。

 もうね、そんなヤツらには「オメーの脳は、股の間にブラ下がってんじゃねーの!?」って言ってやりたいくらいだよ。
 少なくとも黒沢はそーゆータイプだから、「よっぴーが彼女でも、別に何も問題ないかな」って。
 ……こんな黒沢って、やはりどっか病んでたりするのかな?

 で、『つよきす!』のヒロインに一人だけいる、強気とは言えない子についてだけれど。
 正解はよっぴーではなくて、実は演劇部部長の近衛素奈緒だよ。中学時代の同級生でその頃は仲も良かったのだけれど、ある事件から主人公を敵視しているという……。
 この子は正しいと思ったら決して自分の意志を曲げないし、相手が誰でも遠慮なく叱り飛ばすから強気と思われがちだけど、正しくは“勝ち気”なんだ。

 この強気と勝ち気というの、ごっちゃにして「どっちも同じようなもんじゃね?」みたいに思ってる人、すごく多いような気がするよ。でもこの二つは、似ているようで全然違うものだから。
 勝ち気な人は、とにかく「人に勝ちたい!」と思って、いつも周りの人と自分のどちらが上かを気にしてキリキリしてるよね。
 けど強気な人ってのは元から自分に自信があるから、周りがどうだろうが全然気にしないんだよ。
 例えば黒沢はテストの点数とか順位とか、殆ど気にしてなかったし。何しろいろんな本を読んで新しい知識を得て、歴史的な事件や今の政治情勢をどう解釈したら良いか考えるのに忙しかったんで、教科書を丸暗記すればデキるレベルのテストの点数ごときで勝ったとか負けたとか、そんな次元の低い競争になどまるで興味が持て無くてね。

 自分の知識や思考力に、黒沢は元から自信があったんだよ。だから日々の勉強も教科書や授業などに関係なく、テストで誰かに勝つ為でもなく、ただ自分の知的好奇心を満たす為に教養を深めて行く……って感じでね。
 そのスタイルでずっと通しながら、学校での成績も少なくとも国語と社会ではトップレベルだったよ。けどそれも、自分の日々の読書量からすれば「まあ当然でしょ」と。
 すごくナマイキで鼻持ちならないのを承知の上であえて言うけれど、本当に自信のある強気な人の感覚ってこんなもんだよ。関心はとにかく自分をより高めることに向いていて、他人や周りがどうかとか殆ど気にしてないんだよね。

 降りかかる火の粉は払わなきゃいけないし、ケンカを売られた時には買いマスよ? けど基本的に他人に関心が無いから、人と自分を較べて勝っただの負けただのって、ホントに興味ないんだ。
 だから黒沢は思うのだけれど、とにかく人と自分を較べて勝たなきゃ気が済まない負けず嫌いな人って、本当は自分に確かな自信が無いんじゃないか……って気がするよ。
 ほら、うるさく吠えつく迷惑な犬って、どこにもいるよね。本当は怖いものだから、必死に前足を突っ張って「ワワワワワンッ!」って威嚇するの。
 負けず嫌いで勝ち気な人って、黒沢にはまさにそんな感じに見えるんだ。
 本当に強い犬は、いちいちギャンギャン吠えつかない……って。せいぜい低く唸る程度で、やる時は一気にガブッと行きマスよ。

 あとね、いつも人に勝とうと競争を続けてるストレスのせいなのか、負けず嫌いで勝ち気な女の子って、何かヒスっぽい人が多い気がするんだ。
 学校ではしたい放題のエリカさまを一方的に敵視して、何かと突っかかって行くあたりを見ても、近衛素奈緒もまさに勝ち気そのものだよ。そして主人公に対する叱咤の仕方も、黒沢には何かヒスの気があるように見えてならないんだよね。
 でも一方の霧夜エリカは“超”の字がつくほどの強気タイプなんで、素奈緒をライバルとすら思ってない有り様でさ。軽くあしらわれてケンカにもならないどころか、逆に面白半分にイジられたりして。

メモリーズオフ ~それから~(通常版)メモリーズオフ ~それから~(通常版)
(2008/08/14)
Sony PSP

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 強気と勝ち気の違いについて、メモオフシリーズの名作の一つ、『メモリーズオフ~それから~』のヒロインの一人の花祭果凛さんが、こう語っているよ。

 ……今、ライバルと言える友達がいる。
 彼女は一歩も二歩もわたしの先を歩いている。
 わたしはこれまで、彼女に勝てたことは一度もない。
 そうやって比較している時点で、私は最初から負けているのかもしれない。
 比較なんてしちゃいけない。
 それは、弱い証拠だから。


 そう、だから近衛素奈緒はいろいろ頑張ってるのに、霧夜エリカに何一つ勝てないんだよね。
 自分とエリカを較べては、勝とう勝とうと焦ってばかりいるから。
 霧夜エリカは文字通り“エリカさま”でやりたい放題なのだけれど、誰に勝つとか負けるとかでなく、常に広い世界を見て、自己をより高いところに導こうとしているだけなんだよね。
 比較する時点でもう相手に負けていて、それは弱い証拠だから。
 ホントにその通りだと、黒沢も心から思いマス。
 ま、近衛素奈緒は元はPC用だった『つよきす!』をプレステ2に移植する時に付け加えられた新キャラだから、オリジナルの『つよきす!』は「ヒロインは全員強気っ娘」と言って間違いないんだけどね。

 一匹狼だのエリカさまだの、それに吠えつく超勝ち気娘だの、果てはサイコの気もあるっぽいヤ○デレまで、何とも強烈なヒロイン揃いの『つよきす!』だけど。中でも最強なのが、例のリホさんに似た乙女姉さんで。
 生徒会副会長兼風紀委員の武道の達人で、周りにどう思われようが“空気”とやらに一ミリも流されない、心身ともに本当に強い人だよ。
 でもただ強いだけでなく、根はとても優しい人なのは、前にも触れた通りデス。

 けどね。
 黒沢が『つよきす!』で迷わず最初に選んだ一番好きなヒロインは、実はこの乙女姉さんではなく、幼なじみで悪友的な存在の蟹沢きぬ(通称カニ)だったりするのだ。
 気は強いけれど高スペックな他のヒロイン達と違って、蟹沢きぬは運動能力を除けば他はダメダメなんだよね。 しかもその唯一の取り柄のスポーツでも、エリカさまや乙女姉さんには負けてるし。
 楽しいことや遊ぶことにしか興味が無く、体育以外では落ちこぼれで。
 さらにチビな上に貧弱ボディで、性格も男の子みたいで色気ナシだし。
 顔は可愛いけれど、パッと目立つような美人さんでもなく、取り柄と言えばムダに近い元気と明るさ……って感じなんだよね、このカニさんって。
 でもね。「一緒にいたらこっちまで気持ちが明るくなって、すごく楽しいだろうな」って思えるんだ。

 例えば霧夜エリカなど他のヒロイン達は、魅力的だけれどあくまでも女の子扱いしなきゃならない感じで。男勝りな乙女姉さんでさえ、男同士のような仲間付き合いができるとは思えないんだ。
 主人公にはスバル兄さんやフカヒレくんといった良い仲間もいるのだけれど、彼女らもその輪の中に加えて一緒に遊ぶのはまず無理だと思う。
 こうしたギャルゲーではありがちなのだけれど、『つよきす!』でも主人公は両親が出張中で一人暮らしをしていて。で、主人公の家は仲間たちの溜まり場のような感じになっていて、放課後はいつもその仲間たちと、だらだら、まったりとした楽しい時間を過ごしていてさ。
 けどもし主人公がヒロインの誰かと付き合い始めたら、その仲間と過ごしていた時間のかなりを“彼女”に割かなくてはならなくなるだろうし、結果、スバル兄さんやフカヒレくんたちは居場所を失って、この仲間はやや疎遠にならざるを得ないだろうね。

 でもカニこと蟹沢きぬだけは違う。幼なじみのカニはこれまでも仲間の一人だったし、そのカニとなら仲間付き合いと恋愛を両立させられると思う。
 何て言うか、胸も色気も無くて男の子みたいなのだけれど、その代わりもし恋愛の対象にしたら「彼女でもあり、親友でもあり」みたいな存在になるよ、きっと。
 って言うか、この『つよきす!』の中で男の感覚や気持ちもわかってくれるのは、多分このカニだけだと思う。

 カニは確かに強い子なんだけれど、気が強いって言うより「細かいことにと拘らない、腰の据わった芯の強い子」って感じでさ。
 ただ男って若いうちは、どうしても女らしさの塊みたいな、お姫さまタイプの可愛い子に目が向いてしまうんだよね。
 白状する。実は黒沢もその傾向が強くて、あっさりした男の子みたいな子は、「良い子だ」と頭ではわかっていてもなかなか恋愛対象として見られなくてさ。挙げ句に、アズサみたいな子に惚れてしまう始末だよ。
 恋は思案の外と言うけれど、黒沢も恋愛となると呆れるほど大バカ野郎になっちゃってマシタ。

 このアズサとの件でも殆ど学ぶことなく、黒沢はこの後も女度高めの「顔は天使で心は悪魔」みたいなタイプに魂を持ってかれては、自業自得の痛い目に遭う繰り返しでさ。
 あっさり系でちょっと男の子みたいな、「もし同性だったら親友になれそうな彼女」の本当の良さに気付いたのは、恥ずかしながら恋愛ではいやと言うほど修羅場を見た後のことでね。そしてその二十代も半ばになるまでの間に、「この娘を選ぶべきだった!」と後から悔やまれてならない良い子を、ホントにいっぱいスルーし続けてたよ。

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