空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

ブラックニッカ・クリアを再びじっくり飲んでみた

 ニッカとサントリーと言われたら、筆者は間違いなくニッカの方が好きだ。
 だがニッカの製品でもブラックニッカ・クリアについては厳しい評価を書いて、ウイスキーに詳しい方を含めた幾人もの方からお叱りを受けた。
 ただ罵倒されるというのではなく、「名ブレンダーの手によるものなのだ」と諭されたり、「初めて貰った給料で飲んだウイスキーだったのだが」と悲しがられたりして、読む人の気持ちも考えずに好き勝手に書き過ぎたと反省させられた。

 正直に言おう。
 筆者はブラックニッカ・クリア(以下クリアと略す)に、最初から偏見を持っていたのだ。
 今のクリアには書いてないが、クリアブレンドと呼ばれていたかつてのクリアには、裏のラベルにこう書いてあった。

 モルトウイスキーの代表的な香りのひとつ、ピート香(スモーキーフレーバー)は、ウイスキーの個性を特徴づける反面、「きつさ」や「苦さ」につながります。
 ブラックニッカ“クリアブレンド”は、ノンピートモルトを使うことでこのピート香を抑え、くせのないクリアな味わいを実現しました。


 そして筆者は、アイラ島のピーティーなスコッチが大好きである。
 スカイ島のタリスカーや、あの有名なジョニー・ウォーカーが好きなのも、ピート香が利いているからというのが大きな理由になっている。
 そんな「ウイスキーにピート香は欠かせない」と思っている筆者にとって、そのかつての“クリアブレンド”のピート香を敵視するようなラベルの言葉は、とても腹立たしかった。
 正直、「ああん? 俺にケンカ売ってる!?」と思ってしまうくらいカチンときた。

 しかもまた、裏面のラベルの下に書いてある、『おすすめの飲み方』というのも酷かった。
 レモン入りサイダー割り、ウーロン茶割り、紅茶割り、はちみつお湯割り、麦茶割り……。
「ピート香のカケラもも無い、変なモノで割って飲むべきレベルのウイスキーってことだ」と、最初から見下してしまったのだ。
 そしてニッカの創業者、竹鶴政孝氏がピート香のあるウイスキーにこだわっていた事をなまじ知っていたが為に、「アサヒビールの完全子会社になったから作られた、竹鶴政孝氏の時代にはあり得ないウイスキーもどき」という悪印象も抱いた。

 それらの偏見のせいで、評価が不当に厳しくなってしまったのかも。
 そう反省して、ニッカで最も売れているウイスキーであろうクリアを、改めて飲んでみることにした。

ニッカ・ブラックニッカ・クリア景品付きP1120544

 ノンピートということで、ずっと敵視してきたクリアだが。
 近年、カティーサークなどのピート香の弱いライトなウイスキーの味もわかるようになってきたことも、改めてクリアを飲んでみようと思わせた一因になった。

 さて、キャップを開けてグラスに注ぐと、穀物の甘い香りを確かに感じる。
 が、同時にアルコールのツンとする匂いもしっかりあるのが残念。
 飲んでみるとハニーな甘さと、ウイスキーらしいコクと味わいがあり、「あえてピートを使っていない」という事に対する偏見を除いて客観的に見れば、これも間違いなくちゃんとした“ウイスキー”だ。

 ただそこはニッカで最も安いウイスキーだけに、若い原酒のピリピリした刺激を確かに感じる。
 その原酒の若い刺激さえ我慢すれば、ストレートでも美味しく飲める。
 とは言うものの、心して舐めるように少量ずつ飲まないと、アルコールの強い刺激にむせてしまう。
 それでもストレートで不味いと思わずにちゃんと飲むことができる。そこが、サントリーの安いウイスキーとの違いだ。
 サントリーの安いものはあらかじめ「割って飲むもの」という前提で造られており、トリスやレッドはもちろん、角瓶でさえストレートでは不味くて飲めない。
 しかしクリアは、気をつければ割らずにストレートでも飲める。

 試しにトワイスアップにしてみたが、すると若いアルコールのきつさがスッと消え、甘い香りがよりはっきりと広がる。
 味もアルコールの刺激が無くなり、甘さをより強く感じる。
 トワイスアップにすると薄く水っぽくなってしまうものが少なくないが、これは良い。
 クリアのトワイスアップは、薄くなる以上に「アルコールの刺激が消えて甘さが引き立つ」というメリットが大きい。

 何しろこのクリアは、元々が度数37%だから。
 トワイスアップにすると度数18.5%になり、日本酒より少しだけ濃い程度になり、日本人にも飲みやすくなるのだろう。
 但し1:2の日本で一般的な水割りにすると、飲みやすいがかなり薄く水っぽいように思えた。

 開栓して数日経つと、アルコールの刺激が減って、味も香りもより甘くマイルドになる。
 例の「ピートによるきつさや苦さ」が無いせいか、ハニーな甘さとメイプルシロップに似た甘さをしっかり感じる。
 だがストレートでは原酒の若さゆえ、やはり少しでも多く口に含むとアルコールの刺激でむせてしまう。
 やはりトワイスアップが一番飲みやすい、かも知れない。

 ハイボールも試してみた。
 クリアのハイボールはとにかくクセや嫌味が無く、とても飲みやすい。
 富士山麓のハイボールと飲み比べてみたが、炭酸で割っても持ち味(クセとも言う)の樽香や少し焦げたような甘い味をしっかり感じる富士山麓とは対照的だ。

 ただ一つ、クリアのハイボールはクセがなくていくらでも飲めるが、冷やされたせいで持ち味の甘さを感じられなくなってしまう。
 ハイボールだけでなく、水割りでもロックでも、ウイスキーと言うと氷を入れて冷やしたがる人が日本人には多いが。
 飲み物は冷やされると甘さを感じにくくなるのだという事も、忘れずにいてほしい。
 このクリアも含めて、ウイスキーの甘さを味わいたければ、是非とも常温で飲むべきだ。
 ウイスキーには必ず氷を入れるものという思い込みは、どうか捨てていただきたい。

 改めて、クリアをしっかり飲んでみて思ったのだが。
 正直に言って、悪くない。
 取り立てて「美味いっ!」と誉めるようなウイスキーではない。
 しかし値段を考えたら、充分過ぎるほど立派で美味しいウイスキーだと言える。
 トリスやレッドや角瓶は割らねば飲めないが、クリアならストレートや濃いめでちゃんと飲める。
 筆者はこの700mlの瓶を、税抜きで七百円を切る値段で買った。
 その値段を考えたら、間違いなく良く出来ている。同価格帯のトリスなどと飲み比べれば、ニッカのウイスキー造りに対する良心がわかる。
 ピーティーなウイスキーを愛するあまり、筆者はクリアの価値を今まで見抜けなかった。そのことを、深く反省する。

 ただそこは、安価なウイスキーだから。
 原酒に若さはあるし、じっくり味わって飲むというより、ハイボールなり濃いめの水割りなり、好きに割って気軽に飲むのに最適な、リーズナブルなウイスキーだと思った。

 繰り返すが、筆者はピート香の利いたスコッチが大好きである。
 だが現在、自然に出来るよりはるかに多くのピートが掘り出されて使われているという。
 この調子でピートを使い続けていたら、やがて掘り尽くしてしまうらしい。
 それを考えたらクリアのようなノンピートのウイスキーをもっと増やし、ピートを使ったウイスキーは一部のマニア向けに絞った方が良いのかも知れない。

 確かにスコッチには、ピート香は欠かせない。
 しかしピートの残量のことを聞かされると、スコットランド以外の地方のウイスキーはノンピートでも良いのではないかと考え直した。
 例えばバーボンのスモーキーさは、チャーと言う樽の内側を焦がす手法によって得ている。
 一方、スコッチのスモーキーさのもとであるピートは自然界で出来るのがゆっくりで、掘り尽くせば無くなってしまう。
 そのスコッチのピート香を保つ為にも、スコットランド以外ではピートの使用を抑えることも考えねばならないかも知れない。
 あえてノンピートにしたということで、クリアをずっと敵視してきた筆者だが。
 ピートのことを考えれば、クリアのような生産量の多いウイスキーこそ、ノンピートであるべきなのかも知れない。
 日本のウイスキー造りはスコッチを手本にしてきたから、日本のウイスキーにはピートを使っているものが少なくない。
 だがウイスキーにピート香は必須、というわけではないのだ。

 ピートの残量まで考えて、クリアをノンピートにしたとまでは思わないが。
 別にスコッチでもない日本のウイスキーがピートを使っていなくても何も構わないのだし、それでピートが残るならば、ノンピートも良いことなのかも知れない。
 ピーティーなスコッチが好きで、そんなスコッチがいつまでも残ってほしい筆者は、ふとそう思った。

 ブラックニッカ・クリアと言えば。
 去年の秋、北朝鮮のイカ釣り船が北海道沖の松前小島に漂着して、島の番屋の食べ物や飲み物を飲み食いし尽くし、家電製品からバイクまで金目の物も根こそぎ盗んでいった事件は、皆さんもまだ覚えているだろう。
 その際、島の番屋に置いてあって、北朝鮮の漁民に飲み尽くされてしまった酒が、韓国焼酎の鏡月、それにブラックニッカ・クリアだった。
 どちらもペットボトルの大瓶だった。
 あの北の国から漂着して、クリアをたくさん飲めて、かの漁民らはさぞ良い気分で酔っぱらえたことだろう。

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社員を大切にするサントリーに、もう一つ大切にして貰いたいもの

 毎日新聞の報道によると、サントリーは癌にかかった社員に対し、健康保険が適用されない重粒子線治療などの先進医療の費用を支援すると決めたという。
 その原資は働き方改革で減らした残業代で、一人当たり5百万円を上限に補助するそうだ。

 何故サントリーが、社員の癌の治療費を補助するか。
 それについてサントリーは、「癌を完治させて働いてもらった方が、会社の資源になる。保険でカバーできない部分も支援することで、安心感につなげたい」と説明している。
 この説明は、実に理にかなっている。

 第二次世界大戦中のドイツ軍の戦死者は、1944~45年の大戦後期に特に多い。
 と言うのは、総統ヒトラーの戦争指導が劣拙だったからだ。
 独裁者であったヒトラーは、軍の作戦指揮だけでなく、部隊の編成にまで口を出した。
 大戦後期、兵力と物量で勝る連合軍に押され気味になったドイツ軍は、多くの師団が多数の死傷者を出して後退した。
 で、参謀本部の将軍たちや前線の指揮官らは、補充兵でそのダメージを受けた師団を立て直すことを求めた。
 しかしヒトラーは、それを拒否した。
 前線で損害を受け後退した師団を、ヒトラーは役に立たない“燃えカス”と決めつけて無視し、補充兵で新たな師団を作って前線に送り出した。
 実戦経験の無い新兵、それも主に少年や中年の兵で編成された新しい師団が、数や物量に加えて経験でも勝っている敵に立ち向かえるわけが無い。
 新兵でヒトラーが編成させた新たな師団は、前線でたちまち壊滅し、大損害を出した。
 ドイツ軍の戦死者が大戦後期に集中しているのは、ヒトラーの作戦指揮が劣拙であったせいだけでなく、ヒトラーが歴戦の部隊と古参兵を信じず、実戦経験の無い新兵で編成した多くの急造師団を前線に送り出したせいも大きい。

 社員が癌などの重い病気にかかると、その社員に退職するよう求める会社も少なくないという。
 そして病気になった社員も、「長く休むと会社に迷惑がかかるから」と、その退職要求を受け入れてしまう人も少なくない。
 しかし考えてもらいたい。
 一人の人材を育てるのに、どれだけの時間とコストがかかるかを。
 癌にかかった社員を退職させ、その代わりに未経験の新人を雇ったとして。
 その新人が“使える”ようになるまで、現場の上司や同僚たちがどれだけ手をかけなければならないか。
 それを考えれば、安易に新人に入れ替えるより、病気になった社員の回復と職場復帰を待つ方が、会社にとっても利益になるのは明らかだ。

 例えば四十代半ばの社員が、癌などの重い病気にかかったとしよう。
 それで何ヶ月も職場に穴があいてしまうのは、確かに痛手だ。
 しかしその四十代の社員には、入社以来二十年以上もの仕事の経験値がある。
 それだけのベテラン社員を切り捨て、未経験の新人に置き換えるのは、会社にとっても決して利益にならない筈だ。
 社員は酷使して使い捨てと割り切っているブラック企業ならともかく、まともな企業なら、病で休職せざるを得なくなったベテラン社員を安易に切り捨てて経験値ゼロの新人と入れ替えるのは、社にとっても損失だとわかる筈だ。
 それはまさに、大戦末期にドイツの敗北を早めたヒトラーと同じ愚行だ。

 サントリーは以前から「士気向上や優秀な人材の獲得につながる」と考え、社員の健康維持に取り組んできたという。
 そして働き方改革で残業を減らし、そこで浮いた残業代を社員の癌治療の補助に回すという方針も、その一環として決められた。
 何しろあの大サントリーだから、社員にサービス残業を強いるようなセコい真似はしないだろう。
 そして働き方改革で残業を減らし、浮いたお金を社の利益にするのではなく、社員の癌治療の補助に使ってくれるというのだ。
 勤める職場としては、サントリーは良い会社であろうと思われる。

 このブログでサントリーの、特にサントリーのウイスキーについて繰り返し非難してきた筆者だが。
 サントリーは決してブラック企業ではなく、少なくとも社員には良い会社であるだろうと思っている。
 と言うのは、実は筆者の遠縁の者が、サントリーに勤めていたからだ。

 筆者の親戚には山梨県に住んでいる者が多く、筆者の母の伯母の長男という縁の北杜市在住の人が、サントリーで働いていた。
 サントリーには山梨県の北杜市に白州蒸留所があり、その筆者の遠縁の人はそこで働いていた。
 筆者の母は、両親が四十代の時に生まれた五人きょうだいの末っ子で、だからその伯母の長男という方も今では高齢で、サントリーもすでに退職している。
 去年、その「母の伯母の長男さん」に、法事でお目にかかったが、その方は「英語を学ばされたり、大変なこともあったが、サントリーに勤めて良かった」と語っていた。
 既に退職していて、悪口も遠慮なく言える立場なのに「勤めて良かった」と言えるということは、職場としてサントリーは本当に良かったのであろう。
 アメリカのビーム社を買収して、ウイスキー部門はビーム・サントリーとなっている今では、社員に英語を学ばせていたのも「先見の明があった」と言えるだろう。
 もしかしたらかなり以前からそのつもりで、白州蒸留所に働いていた筆者の遠縁の者にも英語を学ばせていたのだろうか。

 外国人にとって、日本は「観光に行くには良いが、定住して働く気にはあまりなれない所」だと聞く。
 日本の企業が職場として魅力が無いのは、まず長時間労働と残業の多さだそうだ。
 事実、日本の職場は残業は「あって当たり前」で、長時間労働とサービス残業を強い、社員は使い捨てのブラック企業も少なくない。
 そんな中で、退職後にも「勤めて良かった」と言わせる、サントリーの社員を大切にする姿勢は“良し”と認めよう。

 ただ消費者でウイスキーを愛飲している(そしてあまり金の無い)筆者としては、サントリーのウイスキー、特に晩酌に気軽に飲むような価格帯のウイスキーに対する姿勢にだけは、今も大いに不満である。
 ロックにしようが、水割りにしようが、ハイボールにしようが、ウイスキーの飲み方は「その人の勝手」なのだが。
 しかし2~3回蒸留した度数60%前後の原酒にわざわざ加水して、40~46%にして出荷している以上、ウイスキーはストレートで飲むのが基本だと、筆者は考えている。

 例えば日本酒だが、あれも度数19~20%の原酒に加水して、16%くらいにして出荷している。
 その日本酒に氷を入れたり、水で割ったり、増してやハイボールにして飲む者は殆どいない(発泡性の日本酒もあるが)。
 その日本酒のように「割らずにそのまま飲め」とまでは言わないが、ストレートで美味しく飲めてこそウイスキーだと、筆者は考える。
 ストレートでもハイボールでも、どちらでも美味しく飲めるウイスキーなら良い
 しかしストレートではアルコールの刺激がキツ過ぎ、ハイボールなどにして割らねば美味しく飲めないものは、ウイスキーとして失格だと筆者は思っている。
 そこで問う、例のサントリーの角瓶、さらにトリスやレッドをストレートで美味しく飲めている人が、どけだけいるだろうか。
 角瓶やトリスなどは、サントリーも最初から割って飲むのを前提に考えている。
「ウイスキー=ハイボール」という印象を日本中に根付かせ、ストレートではとても飲めないウイスキーを大量に売り捌いているサントリーの姿勢には、ウイスキー愛好者として腹立たしさを覚える。

 ハイボールのブームで、多くの人がウイスキーを飲むようになったことは認める。
 そしてハイボールが飲みやすいことも、認める。
 しかし筆者には、ストレートよりハイボールの方が美味しいとは、どうしても思えないのだ。
 ウイスキーの味とコクと香りはストレートで飲んでこそ一番よくわかり、割ったり氷を入れたりすれば、味もコクも香りも間違いなく薄まる。
 だから筆者は、割らねば美味しく飲めないウイスキーは、ウイスキーと認めない
 そしてサントリーは、その種のウイスキーをたくさん売り捌いている。
 社員を大切にしているサントリーだが、そんなところはどうしても嫌いだ。

 ティーチャーズという、歴史あるスタンダード・スコッチがある。
 こいつは値段は千円ちょっとだが、スタンダード・スコッチの中でも屈指の美味さだった
 スタンダード・スコッチというと、モルトとグレーンのうち、モルト原酒はたいてい三割程度しか使っていない。
 しかしティーチャーズは、モルト原酒を45%も使っていた
 ピーティーでかつマイルドで口当たりも良く、割らずにストレートでとても美味しく飲めた

 そのティーチャーズの味について、何故すべて過去形で褒めて書いているか、おわかりだろうか。
 このティーチャーズをサントリーが扱うようになってから、間違いなく不味くなったからだ。
 ピート香は感じるものの、若いアルコールの刺激が明らかにキツくなり、ストレートで飲むと口の中がピリピリして口蓋が焼ける。
 値段は量販店で税抜き898円と、間違いなく安くなった。
 そしてその分か、値段の差以上に不味くなった。
 サントリー扱いでなかった以前のティーチャーズにあったまろやかさと味わい深さが、全く無くなってしまった。

 このサントリー扱いのリニューアルされたティーチャーズだが、ストレートでは不味い。しかし水や炭酸で割ると、案外イケる。
 割っても本来のスモーキーさはしっかり残るし、ウイスキーらしい味わいもある。
 ストレートでは不味いが、割ればそれなりに飲めるのだ。
 と言うより、角瓶と同じように「最初から割って飲むことを前提に作られたモノ」という印象だ。

 ちなみにサントリーが扱う今のティーチャーズと違って、かつてのティーチャーズは割っても美味しく、ストレートではもっと美味しかった
「ウイスキーはハイボールなどにして割って飲むもの」と思っている人達は、ティーチャーズの味の変化など気にもしない、と言うか気付きもしないだろうが。
 ウイスキーはストレートで飲むのが基本だと思っている者には、この変化は辛い。

 宣伝の力で「ウイスキー=ハイボール」という印象を広めたサントリーは、確かに日本でのウイスキーの消費を高めただろう。
 しかし日本でのハイボールのブームを批判した筆者のブログに対し、ある方が「自分はウイスキーが好きなのではなく、ハイボールという飲み物が好きなのだ」とコメントして下さったように、“ウイスキーが好きな人”と“ハイボールが好きな人”はイコールではないように思える。
 ハイボールの流行は、ストレートとかロックとか、ウイスキーの他の様々な飲み方へつながっていないように思える。
 ウイスキーでなく「ハイボールが好き」という人の殆どは、ハイボール好きのままで留まっている。
 だからハイボールの流行はウイスキーの消費だけ高めたものの、そこからウイスキーへの深い関心や愛情を深める結果にはなっていないように、少なくとも筆者には思える。

 サントリーが扱うようになってリニューアルしたティーチャーズは、明らかに不味くなった。
 ウイスキーの味がわかる人、水や炭酸で薄く割らずにストレートで飲む人は、皆そう言う。
 その悪評に、サントリーも気付いているのだろう。
 つい先日、行きつけの酒屋に行ったところ、サントリー扱いの新しいティーチャーズの瓶に、炎(燃えるピート?)の写真に重ねたこんな宣伝文句が飾られていた。

150年こだわった、
スモーキー
スコッチ。


ティーチャーズ・ポップP1120475

 いや、リニューアルされた今のティーチャーズも、確かにスモーキーではあるけれど。
 しかしサントリー扱いの今のティーチャーズが、以前のものよりアルコールの刺激がキツく不味くなった事実は変わらない。
 サントリーお得意の宣伝の力で何とかするのではなく、味そのものを良くすること、少なくともリニューアル以前のアードモア等のモルト原酒を45%使用していたレベルに戻すことで、評判を取り戻して貰いたいものだと、心から思った。

 例えばサントリーのビールは、プレミアム・モルツだけでなく、ただのモルツや、新ジャンル酒の頂ですら案外悪くないと思う。
 同じサントリーの新ジャンル酒でも、金麦の方はどこかに金属的な嫌な味を感じるが、にはそれが無い。
 安い新ジャンル酒だけに、「旨い!」とまでは言い切れないものの、嫌味が無く、喉越しでゴクゴク飲めば結構イケる。
 本物の良いビールのような複雑な味は無いものの、コクはあるし、ビールに近い味を実現している。

サントリー・頂8P1120940

 頂は、最初は度数7%で発売されたが、それがいつの間にか8%にアップしていた。
 ビール類では、アルコール度数を上げると独特のクセが強くなるというが、筆者はそのクセを全く感じなかった。
 今は新ジャンル酒でもチューハイでも度数の高いストロング系がウケていると聞くが、頂は悪くないと思う。
 麦芽を多く使い、発酵の度合いを高めて課題を克服したと言うが、頂は新ジャンル酒としてただアルコール度数が高いだけでなく、同社の金麦より間違いなく美味い。

 ウイスキーについて言えば、サントリーは「高くて良いものと、普通の人が普通に飲めるリーズナブルな価格帯のものを、はっきり作り分けている」というイメージが強い。
 山崎や響など徹底的に良いものを造り、世界で賞を取ってブランドのイメージを高めて。
 一方、普通の人が普通に飲むリーズナブルな価格帯のものは、お値段通りの安物でしかない。

 ウイスキーでは「品質のニッカ、宣伝のサントリー」と言われるが、まさにその通りだと、筆者も思う。
 たとえ安いものでも自社の名前で出すものには、プライドを持って良い製品を出す。
 そのプライドが、サントリーのウイスキーには感じられない。
「カネの無い者が飲む安物は所詮この程度のもの、良いものを飲みたければ高いものをどーぞ」と。
 普通の人が普通に晩酌に飲める価格帯のものでも、コストの縛りの中で出来るだけ良いものを造る努力をするか。
 それがサントリーとニッカの、ウイスキーの違い
ではないかと筆者は考えている。

 しかし(金麦はともかく)頂を飲んでみれば、サントリーにも安くて良いものを造る力があることがわかる。
 そのサントリーの力を、是非「普通の人が普通に晩酌に飲める価格帯のウイスキー」にも注いで貰いたいものだと思う。
 社員を大切にし、そして頂も作れるサントリーなのだ。
「山崎は是非ストレートで飲んでほしいが、安いウイスキーは昔は水、今は炭酸で割って飲めばいい」と割り切るのではなく、普通の人が普通に晩酌に飲める価格帯のウイスキーの味の向上に、是非とも力を注いで貰いたい。

「山崎や響を買えないの? じゃあ角瓶をハイボールで飲めば?」という姿勢は、世のウイスキー好きに失礼ではないだろうか。
 いくらサントリーの社員でも、毎晩、山崎や響を飲めているわけではなかろう。
 サントリーが大切にしている自社の社員の晩酌の為にも、「普通の人が普通に晩酌に飲める価格帯のウイスキーの質の向上」を、是非お願いしたい。

 150年の伝統あるスコッチを安物のハイボール用にしてしまうという、悪い方向でのリニューアルwwwをして。
 そしてそれをお得意の宣伝POPで誤魔化すような、小手先のセコい真似をしてはダメですよ。
 大衆はそれで騙せるかも知れないが、味のわかる人達は宣伝では決して騙せない。
 サントリーというメーカー名は、自社の一番安い製品、角瓶だけでなくトリスやレッドにも付いているのだ。
 サントリーには社員と高い製品だけでなく、そうした自社の安い製品にも愛情を注いで貰いたいものだと、心から思う。

 新ジャンル酒でも頂は悪くないし、手頃な価格のウイスキーとしては白角も悪くない。
 その種の「普通の人が気軽に晩酌に楽しめる酒」の製造を、「社員を大切にするサントリー」に、是非お願いしたい。

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富士山麓

 キリンのウイスキー、富士山麓の売り上げが好調である。
 それで輸出も見据えて国際的に一般的な容量である一瓶700mlに変更され、同時に味もリニューアルされた富士山麓が発売された。
 で、遅まきながらその新しい富士山麓を買って味見してみた。

富士山麓P1120337

 キャップを開けると、チョコレートのような豊かな甘い香りが広がる。
 しかし度数50%だけに、同時にアルコールの刺激臭も感じる。
 ただ度数50%でかつ税込みで千五百円しない価格を考えれば、飲んでみると味わいは意外なほど滑らかだ。
 チョコレートやキャラメルコーンを思わせる甘い味が主体で、そして焦がした樽のスモークな味わいも少し感じる。

富士山麓・付録P1120340

 瓶に付いていたマスターブレンダーにより書かれた小冊子では、まずストレートで味わい、そして水を一匙だけ加え、さらにもう一匙水を加えて味と香りの変化を楽しむように勧められていた。
 そのガイドに従って水を一匙加えると、それだけでアルコールの刺激が、味でも香りでもグンと減る。
 そのせいか、味わいのコクと樽香がより良くわかるようになる。
 もう一匙水を加えると、より飲みやすくなる。
 味の深みと香りは少し薄まった気がしないでもないが、甘さがより明確にわかるようになる。
 一匙、二匙の水でこれほど味と香りが変わるとは、少し驚かされた。

 個人的には、50度そのままのストレートより、水を二匙加えた時の味が好きだ。
 アルコールのキツさを感じることなく、本来の味を存分に堪能できるからだ。
 水を二匙加えた富士山麓は、下手な度数40%前後の同価格帯のウイスキーよりずっと味わい深くコクがある上に、滑らかで飲みやすい。
「ウイスキーを飲んだ!」という満足感があり、余韻も長く心地良い。

 この富士山麓、「度数50%で、しかも税込みで千五百円もしない」という事を考えれば、味も良いし飲みやすい。
 しかし50%という度数をナメてはいけない。
 迂闊に飲むと、喉と胃が焼ける。
 また、体調が良くない日にストレートで飲むと、度数の強さが突出して感じられて、美味しく思えない。
 その日の体調によって、味の感じ方がかなり変わる。
 これをストレートで美味しく飲むには、それなりの体力が必要だ。

 さて、試しにこれも、流行りのハイボールにしてみたが。
 炭酸の力で樽香と甘い味が際立って飲みやすいし、ハイボールは好きではない筆者でもかなりイケた。
 ただ飲みやすいとは言え、元の度数が50%だから。
 度数40%の普通のウイスキーと同じ割合で炭酸で割ってグイグイ飲むと、胃の辺りが熱くなる。
 飲み比べなければわからない事だが、良質なスタンダード・スコッチで作ったハイボールと比べると、アルコールの荒々しさを感じる。

 付いていた小冊子から察するに、新しい富士山麓を造ったマスターブレンダーは、ストレートかそれに近い濃い状態で味わって飲んでもらいたいようだ。
 そのマスターブレンダーさんには申し訳ないが、ハイボールに続いて水割りも試してみた。
 1:1のトワイスアップでは味も香りも大幅に薄まって美味しくない上に、アルコールのピリピリした刺激がまだ残る。
 それはそうだ。度数50%の富士山麓のトワイスアップは度数25%で、焼酎を水や湯で割らずにそのまま飲むのと同じことになる。
 水割りとして飲むにはキツ過ぎ、味わって飲むには薄過ぎるというのが、この富士山麓のトワイスアップだ。
 ところがニッカの創業者の竹鶴政孝氏が好んだという1:2の水割りにしてみると、これがなかなか悪くない。
 ストレートでウイスキーを飲み慣れている者には、もちろん薄い。
 しかしトワイスアップでは気になったアルコールの刺激が、1:2の水割りでは嘘のように消え、日本酒や割った焼酎のようにスイスイ飲めるようになる。
 そしてその割合で割っても、甘い味やウイスキーらしい深みやコクが感じられる。
 こうして水割りにしてもそれらしい味わいが残るのだから、腰の強い良いウイスキーなのだと思う。
 小さな樽で熟成させた良さが、ストレートだけでなくハイボールや水割りにしてもよくわかる。

 ただ惜しいと思うのは、原酒の若さだ。
 筆者は度数46%で「舌の上で爆発するような」とたとえられるほどスパイシーなタリスカー10年もストレートで飲むが、この富士山麓にはタリスカー10年のような熟成感が足りない。
 ウイスキーらしいコクと味の深みを感じるのと同時に、原酒の若さによるアルコールのキツさも強く感じてしまう。
 まあ、税込みで千五百円もしない製品に、10年モノのシングルモルトと同じ熟成感を求める方が、そもそも間違っているのだが。
 しかしそれでも、心から「惜しい!」と思う。
 ウイスキーらしい味と深みが、その価格帯の製品としては驚くほどあるだけに、「三千円かそれ以上の価格になっても良いから、12年か、それが無理なら10年モノの富士山麓も出してほしい」と思ってしまう。
 三千円で富士山麓10年という製品が出たら、筆者は間違いなく買う。

 それはともあれ、味にも香りにも若い原酒の荒っぽさを感じてしまうものの、値段を考えれば良いウイスキーだと思った。
 あと、キリンのウイスキーにはバーボン風の味わいが明確な製品が少なくなく、以前の富士山麓もそうだった。
 しかしリニューアルされた今の富士山麓は、そのバーボン風味が少し薄らいだように感じられた。
 とは言えスコッチよりバーボン寄りの味わいで、チョコレートやキャラメルコーンの味がする。

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新旧両方のティーチャーズの飲み比べ

 近年、筆者のお気に入りのスタンダード・スコッチが二種、リニューアルされた。
 ホワイトホースと、ティーチャーズである。
 リニューアルした後、どちらも店頭での小売り価格が安くなったのは結構なことだが、同時にどちらも味が落ちたような気がしてならず、とても残念に思っていた。

 そんな時、オゴ-ログogotchさんから、新旧両方のティーチャーズを頂いてしまった。
 で、早速比べて飲んでみることにした。
 以前は、かつて飲んだ旧いタイプのティーチャーズの味と香りの記憶をもとに、リニューアルされたティーチャーズの記事を書いた。
 しかし今回はogotchさんのご厚意により、同時に飲み比べてみることが出来たので、より正確な比較ができる。
 ちなみに、写真の右の方が以前のティーチャーズで、左が現在売られているリニューアル後のティーチャーズである。

ティーチャーズ新旧P1120543

 リニューアル前のティーチャーズには、裏のラベルに小さな文字で「高いパーセントでハイランドのピーテッド・モルトを使用している」という趣旨のことを書いてあった。
 しかしリニューアルされたものは、表のラベルに比較的大きな字で“HIGH IN PEATED MALT”と明記してある。
 その通り、キャップを開けると確かなスモーキー・フレーバーが漂う。
 スタンダード・スコッチでこれほどスモーキーさを前面に出したのは、ジョニ赤くらいではないだろうか。
 そしてただスモーキーなだけでなく、甘い香りも感じる。
 しかし同時に、若い熟成の足りないアルコールの刺激的な匂いも強く感じる。

 飲んでみると味も甘いが、同時に若いアルコールの刺激を舌にツンツン感じる。
 これは原酒がとても若い。
 曲がりなりにもスコッチだから、国産の安いウイスキーのように、若すぎるベビーモルトや殆ど樽熟成していないグレーンを使ったりはしていないだろうが。
 スコットランド産のスコッチだから、現地の法に従って、最低三年は樽貯蔵しているのは確かだ。
 しかしその三年ギリギリしか樽貯蔵していないのではないかと疑わせる、原酒の若さを感じる。

 ただ近所の酒屋で本体価格898円という安さを考えれば、決して悪いウイスキーではない。
 余韻にもちゃんとピート香が残る。
 とは言うものの、ストレートで飲むとやはり若いアルコールの刺激がキツい。
 胃に食べ物が残っていない状態でうかつに飲むと、胃がカーッと熱くなるのがわかるし、喉も焼けやすい。
 このウイスキーの正式な名前は“ティーチャーズ・ハイランドクリーム”だが、リニューアル後のティーチャーズは若いアルコールの刺激がキツ過ぎて、ハイランドのモルトによるクリーミーさを全く感じられない。
 なめらかさやクリーミーさの点では、ジョニ赤はもちろん、少し前に飲んだカティーサークとも比較にならない。

 このリニューアル後のティーチャーズ、ストレートでも飲もうと思えば飲める。
 しかし味の面でも香りの面でも若いアルコールの刺激がツンツンし過ぎていて、ストレートで飲むより割ってハイボールにでもした方が美味しく飲めるのではないか。
 少なくとも本体で1238円はするサントリーの角瓶でハイボールを飲むよりは、898円で伝統ある本物のスコッチのティーチャーズのハイボールを飲んだ方がマシだし、お代も安く済む。

 さて、以前のティーチャーズだが、リニューアル後の現行タイプのものと比べて飲んでみると、なめらかさが明らかに違う!
 以前のティーチャーズはただスモーキーフレーバーがあるだけでなく、若いアルコールのツンツンした嫌な感じが殆ど無く、“ハイランドクリーム”と名乗る資格が充分にある。
 そして飲み比べてみると、今の新しいティーチャーズは味に深みがなく、ピート香ははっきり感じるものの味が単調な印象を受けた。
 価格で言えば、以前のティーチャーズの方が少し高かった。
 しかし以前のティーチャーズはストレートでも充分に美味しく飲める、お値段以上のスコッチだった。
 それに比べて今のティーチャーズは、安いが割ってハイボールにするしか飲みようが無い、どうと言うことの無い安物スコッチという感じだ。

 ちなみにかつてのティーチャーズは、いろんな輸入会社が取り扱っていた。
 しかしリニューアル後のティーチャーズは、ほぼサントリーが一手に取り扱っている。
 これは筆者の邪推だが、サントリーはティーチャーズを傘下におさめ、日本のハイボール・ブームに合うよう、割って飲むのを前提にした新しいティーチャーズを、WM.TEACHER & SONS社に作らせたのではないだろうか。
 より若い原酒を使わせ、より低価格のものを。
 安くなったのは消費者にとっては結構なことだが、その分だけ原酒も若いものを使い、アルコール臭くて刺激も強く少しもクリーミーでない駄作にしてしまったのでは、まるで意味がないではないか。

 筆者がティーチャーズを知ったのは、良酒しか置かないこだわりの強いリバティという酒店で、「良心的なスタンダード・スコッチ三種のうちの一つ」として紹介されていたからだ。
 ちなみに、その店が勧める良心的なスタンダード・スコッチ三種は、かつてのティーチャーズ、それにホワイト&マッカイベルだ。
 その頃のティーチャーズは裏のラベルの説明文がもっと長く、「通常のブレンデッド・スコッチはモルトを30%くらいしか使わないが、このティーチャーズは45%使用している」とも書いてあった。
 その頃の、リニューアル以前のティーチャーズは、本当に美味しかった。
 そのティーチャーズをリニューアルの名のもとに台無しにしてしまったサントリーが、筆者はとても憎い。

 サントリーはおそらく、「ウイスキーをストレートで飲むなら山崎を、それ以下のものはハイボールにして割って飲め」と言いたいのだろう。
 そしてストレートでも美味しく飲めた伝統ある銘酒ティーチャーズを、より若い原酒を使わせ価格を下げさせ、割らねば飲みにくいハイボール用の安酒にしてしまった。

 ティーチャーズ本来の味を知りたい方は、是非リニューアルされる前のものを探してみて頂きたい。
 筆者の住む家の近くのドラッグストアのお酒コーナーに、これもリニューアルされ安くなったが不味くなってしまったホワイトホースの、以前のものが薄く埃をかぶってまだ何本も残っている。
 だから旧いティーチャーズも、地方の酒屋やドラッグストア等のお酒コーナーの片隅に、まだ残っているかも知れない。

 新旧のティーチャーズを見分けるポイントだが、旧いものはラベルの中央にWM.TEACHER & SONS社のTとWの文字を組み合わせたマークがあり、瓶にもそれが大きく刻印されている。
 そして新しい方は瓶がスリムになり、刻印されているのも社名から麦(?)の絵柄に変えられている。
 このスリムな瓶で麦の絵柄が刻印されているティーチャーズは、「より安いスコッチをハイボールで飲みたい」という人以外は、買っては駄目だ。

ティーチャーズ旧ボトルP1120551

ティーチャーズ新ボトルP1120552

 それにしても、良質で知られた伝統あるスタンダード・スコッチの味と香りまで悪い方に変えて、ハイボールにして割って飲む用の安酒にしてしまうとは。
「良い酒を造っていたメーカーも、サントリーに買収されるとこうなる」という見本を、ティーチャーズが実にわかりやすく教えてくれた。

 だからこそ、ogotchさんから頂いたリニューアル以前のティーチャーズは、「心して大切に飲まねば」と強く思った。

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ブラックニッカ・アロマティック(ブラックニッカ限定三種を味わう)

 この秋、ニッカがまたブラックニッカの限定ウイスキー、ブラックニッカ・アロマティックを出したことは新聞の経済欄のニュースで見て知っていた。
 だが生来のものぐさで「急ぐことはない、また後で買えば良いかな」と思っていたところ、自分で買う前に敬愛するogotchさんから頂いてしまった。
 おかげで、ニッカのこの秋の限定品をじっしり味わうことができた。

ニッカ・ブラックニッカ・アロマティックP1120422

 さて、封を開けてみると、途端に果実のような甘い香りが漂う。ハニーでも花でもキャラメルコーンでもなく、間違いなく果実の香りだ。
 あと、それに加えてごく僅かだが、チョコレートの香りも感じる。
 スタンダード・スコッチや千円台の安価な国産ウイスキーは、グラスを揺するとアルコールの匂いがツンと鼻孔を突き刺すものが少なくない。
 しかしこのブラックニッカ・アロマティック(以下BNアロマティック)はグラスを揺すると心地良い香りだけが優しく、かつ華やかに広がり、若いアルコールの刺激的な匂いは無いと言っても良い。
 これは良いウイスキーだと、香りを嗅いだだけで感じる。

 味も優しい上品な甘さが主体で、まろやかで角が無く、ストレートで気持ち良く美味しく飲める。
 ただ甘いだけではなく、樽の心地良い香りが後に残り、さらに僅かなビターさが味を引き締めている。
 香りは華やかだ、しかし決して自己主張が強すぎるということは無い。
 アクの強さやいやみのない、華やかでかつ品の良い美人、といったところだ。
 そして飲み口も優しく、ストレートを飲み慣れている人ならチェイサー無しでどんどん飲めてしまうまろやかなウイスキーだ。

 スモーキーさは、最初は全くと言っていいほど感じない。
 それが開封して空気に触れさせ数日経つと、ほんの僅かにだがスモーキーさらしきものも感じる。
 余韻は優しく心地良く、アイラ系のスコッチのように強いものが残るわけではないが、持ち味の果実香が控えめに、しかし比較的長く続く。

 これはとても繊細で上品なウイスキーだ。
 本当は、ビターさもスモーキー香も僅かながらあり、余韻も強くはないが長く続く。
 しかし優しく飲みやすいので、グイグイ飲んでしまうと「果実香のある、甘いウイスキー」という印象しか残りにくい。
 そしてこのウイスキー、割って飲むのに全く適していないのだ。

 水と1:1で割ったトワイスアップでも、甘さは残るが飲みやすくなる以上に薄味になり、そして何よりもこのBNアロマティックの持ち味である筈のアロマ、魅惑的な香りが消え失せてしまう。
 だからそれ以上に薄く割ったら、もっと酷いことになる。

 日本人は、ウイスキーと言うとすぐオン・ザ・ロックを連想しがちだが。
 水割りやハイボールも含めて、筆者はウイスキーに安易に氷を入れることを勧めたくない。
 何故なら、冷やすと飲食物は香りが沈み込み、そして甘さを感じにくくなるからだ。
 ウイスキーもそれと同じで、氷で冷やし込むと折角の香りが台無しになってしまう
 だから真夏でも、ワインに氷を入れて飲む人など滅多にいないのだ。
 そしてさらに、氷は甘みも感じにくくさせる。
 特に果実の華やかな香りと甘い味が持ち味のこのBNアロマティックに氷など入れたら、香りも味も本当に台無しになってしまう。
 だから筆者はオン・ザ・ロックは好まないし、特にこのBNアロマティックに氷を入れてはならないと、心から思う。
 特に水で割ってさらに氷を入れるなど、冒涜に近い行為だと個人的に思う。

 今の日本では、ウイスキーと言えばハイボールで飲みたがる人が多いが。
 ハイボールにするとただ軽く(正確には薄く)飲みやすくなるだけでなく、炭酸の力で若いウイスキーから香りをより引き出せる場合もある。
 しかしこのBNアロマティックのハイボールは駄目だ。
 飲みやすい。
 ただそれだけになってしまう。
 軽いというより薄味になりコクも深みも無くなり、さらに香りも殆ど無くなってしまうからだ。
 決して不味くはないし、あの角瓶のハイボールよりは上品で繊細な味にはなるが。
 しかし「飲みやすい」というより、「持ち味が台無しになった」という印象の方がずっと強い。
 先にストレートで味わってしまってからハイボールを飲むと、「良さが無くなり、味も香りも腰砕けになった」としか思えなくなる。

 このBNアロマティック、良いウイスキーだが、その良さを堪能するのはなかなかに難しい。
 ストレートでは飲みやすく、しかも香りも味も存分に堪能できるのだが。
 何しろ氷を入れてロックにしても、水で割っても、炭酸で割ってハイボールにしても駄目なのだ。
 駄目と言うのは極論かも知れないが、本来の繊細かつ華やかな香りと味を堪能するにはストレートしか無い。

 先週、カティーサークについて書いた時、「ウイスキーは、本来ストレートで飲むのが一番」と私見を述べた。
 しかし筆者も実感しているが、ビールやせいぜい日本酒程度の軽い酒を日頃飲んでいる日本人には、度数40%かそれ以上のウイスキーやブランデーをストレートで飲むのは、なかなか難しい。
 何度か失敗して喉と舌が焼けるような辛い思いをしながら、経験をつみコツを掴まなければ、強い蒸留酒をストレートでは味わえない。
 だから日本人は、ウイスキーと言えば昔は水割り、そして今はハイボールにして、ビールや日本酒のようにゴクゴク飲んでいる。
 欧米人のように時間をかけ、じっくり、ゆっくり味わうのではなく。

 で、この私見では「ストレートでなければ美味しくない」BNアロマティックだが、ウイスキーをストレートで飲んでみる練習に最適であるように思えた。
 例えばサントリーの角瓶など、アレは薄く割ってハイボールにでもしなければ飲めないシロモノで、ウイスキーはストレートで飲みたい筆者でも、何かで割らねばとても飲めない。
 筆者の大好きなスコッチの銘酒タリスカー10年も、「舌の上で爆発するような」と評されるほどスパイシーで、筆者はストレートで平気で飲むが、「苦手な人もいるだろうな」というのはわかる。
 しかしこのBNアロマティックは口当たり良くまろやかで優しく、ストレートでとても飲みやすいのだ。
 日本酒やワインのようにゴクンと飲むのではなく、唇を浸すようにして、香りと味と余韻を楽しみながらワンショット(30ml)を30分くらいかけて飲むというセオリーを守りさえすれば、このBNアロマティック、ウイスキー初心者でもストレートで美味しく飲める。
 ストレート以外の飲み方では美味しくなくなるが、優しい味わいでストレートで飲みやすく、初心者がストレートで飲むのにものすごく適している。
 しかも価格は、これで二千円程度ときている。
 試しに、これと五百円くらいしか違わないあの角瓶と、ストレートで飲み比べてみてもらいたい
 特に、「ウイスキーはサントリー!」と信じて疑わない方々に。

 さて、このBNアロマティックで、バランスの取れたブレンダーズ・スピリットと、余市のモルトを主体にしたクロスオーバーと、宮城峡のモルトを主体にしたこのアロマティックで、ブラックニッカの限定品が三種揃ったわけだが。
 で、この機会にBNアロマティックを、ブレンダーズ・スピリットおよびクロスオーバーと飲み比べてみた。

 まずBNブレンダーズ・スピリットと飲み比べてみると、ブレンダーズ・スピリットの香りも充分好ましいが、アロマティックの香りの方が更に華やかだ。
 だがブレンダーズ・スピリットにも、穏やかなスモーキー香の他にアロマティックの果実に似た香りもある。
 飲んでみると、アロマティックの方がより甘い。そしてアロマティックの方が、良くも悪くもライトだ。
「良くも」というのはアロマティックの方が軽快で飲みやすく、「悪くも」というのはコクや深みはブレンダーズ・スピリットの方が明らかに上、という意味だ。
 が、ブレンダーズ・スピリットのような力強さこそ無いものの、BNアロマティックの飲み飽きしない優しいまろやかさも魅力だ。
 BNアロマティックは、心地良い甘さと樽香が後まで口の中に残る。

 さて、続いてBNクロスオーバーだが、これは口当たりこそまろやかだが、甘さのすぐ後にスモーキー香とヨード香がガツンと来る。
 それでいてただピーティーなだけでなく、シェリー樽の華やかな香りもあるし、コクも深みも充分で飲みごたえがある。
 だが香りの華やかさと飲みやすさは、BNアロマティックがこの限定三種の中で一番だ。

 この限定三種のうちで、BNブレンダーズ・スピリットは本当にバランスの取れた良いウイスキーだ。
 華やかな香りもあり、穏やかなピート香もあり、甘くコクと深みがあって、余市と宮城峡のモルトの良いところを寄せ集めたようなウイスキーだ。
 2500円という価格を考えれば、非の打ち所のない逸品と言えるだろう。
 このBNブレンダーズ・スピリットを飲んでしまうと、スーパーニッカなど飲む気になれなくなってしまう。スーパーニッカも、決して悪いウイスキーではないのだが……。
 BNクロスオーバーはそのブレンダーズ・スピリットのバランスをあえて崩し、ピート香とシェリー樽の香りを突出させた個性的なウイスキーだ。
 好き嫌いがはっきり分かれるであろうウイスキーで、筆者はこの個性が大好きである。
 良い意味でその対極にあるのが、今回紹介したBNアロマティックだ。
 香りが華やかで味も甘くまろやかな、誰にでも好かれるストレートの入門用に良いウイスキーと筆者は思った。
 BNアロマティック、飲んだのはogotchさんから頂いたものだが、気に入って更に追加を酒屋に買いに走ったのは、言うまでもないことである。

 このブラックニッカ限定三種、どれを取っても良い出来だが。
 お気に入りのどれか一種類だけに絞るのではなく、三種揃えてその晩の気分に合わせて違うものを選んで飲むのは、とても楽しい。

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カティーサーク

 カティーサークと言えば、有名なスコッチだが。
 筆者はウイスキーを飲み始めた頃にこのスコッチを飲んで、正直「何てマズいウイスキーだろう」と思った。
 何故こんなものが有名でよく売れているのか、全く理解できなかった。
 同じカティーサークでスペインのワインを貯蔵していた樽を使用した、限定仕様のスパニッシュ・バレルのものも飲んでみたが、これもマズいと思った。

 ウイスキーと言えば、筆者は基本的に甘くスモーキーで力強いスコッチが好きだ。
 で、カティーサークは「国内の地元民に愛されるスコッチらしいスコッチ」というのではなく、輸出することを念頭に置いて造られたライトなスコッチだ。
 だから筆者は長いこと、カティーサークも含め「ライトなスコッチは美味しくない」と思ってきた。

 ところがインバーハウスというスコッチを飲んで、その印象がガラリと変わった。
 ライト系だと言うのに、そのインバーハウスは繊細で優しい上に味わい深く、とても美味しかった。
 それを飲んで、筆者の心の中に「カティーサークも、実は美味しいのでは」という思いが芽生えた。
 で、「カティーサークをいつか飲み直してみたい」と、ずっと思っていた。

 その思いが通じたのか、敬愛する酒と人生の師とも言える方に、カティーサークをいただいてしまった。
 カティーサークだけでなく、新旧のティーチャーズとグランツ・ファミリー・リザーブも含めた四本セットで。
 それでその先輩に感謝しつつ、早速カティーサークから味見をさせていただいた。

カティーサークP1120344

 キャップを開けると、フワリと花の香りが漂う。
 そして続いて、若いアルコールの匂いも僅かに感じた。
 それに加え、樽のウッディな香りも感じる。

 飲んでみるとハニーな甘さが第一印象で、スタンダード・スコッチとしてはかなりまろやかな部類だ。
 香りにはアルコールの匂いもあったが、味の方はアルコールの刺激は少なくとても優しい印象。
 値上げしてコレより高価になったサントリーの角瓶の方が、ずっと荒々しくトゲのある味わいだ。
 角瓶はハイボールにするのが前提と言うか、割ってハイボールにでもしなければとても飲めないシロモノだが。
 このカティーサークは、割ることなくストレートで気持ち良く美味しく飲める。

 カティーサークはライトなスコッチの代表格だが、確かにコクと深みはそれほどでもないし、スコッチらしいスモーキーさは全くといっても良いほど感じない。
 良く言えば優しく飲みやすく、あえて悪く言えば軽く物足りなさも感じる。
 だがクリーミーで甘く花のような、心地良い軽快な味わいは、ジョニー・ウォーカーの赤のような本格スコッチとはまた違った魅力がある。
 ジョニ赤とは対極に位置するスコッチと思うが、これもスコッチとして「あり」だと思った。
 ジョニ赤のようなスモーキーさのあるスコッチは好き嫌いが分かれるが、そのスモーキーさが無く優しく花のようなカティーサークは誰にも薦められる魅力的なスコッチだ。
 あえてスモーキーさを抑え、全世界の人々を視野に入れて造られた良いウイスキーだと思う。

 ただ水で割ると、1:1のトワイスアップでも薄く水っぽくなり、とても物足りなく感じる。
 そして香りも飛んで薄まるように思えた。
 水で割ったものを飲むと、まるで有名な麦焼酎(テレビ等でよく宣伝しているやつ)を飲んでいるかのようだ。
 薄い甘さがあって飲みやすいのだが、ストレートで飲んだ時の香りや味わいが殆ど感じられなくなってしまう。

 恥ずかしい話だが、ウイスキーを飲み始めた頃、筆者はストレートではなかなか飲めなかった。
 アルコール度数で言えばビールは5度くらいで、日本酒は15~16度くらいだ。
 そして焼酎なども、25~30度のものを割って飲んでいる。
 そうした酒を飲んでいる日本人には、40度かそれ以上のウイスキーをストレートで飲むのはなかなかツラいし、飲むにはコツと慣れが必要なのだ。
 さらに筆者はウイスキーを飲み始めた頃、ある有名グルメ漫画で「ウイスキーはトワイスアップで飲むもの」と書いてあるのを読み、それを信じ込んだ。
 それで筆者は初めてカティーサークを飲んだ昔、ストレートを試すことなくトワイスアップでのみ飲んだ。
 そして「カティーサークは不味い」と思い込んだ。

 その後も、筆者はウイスキーについて勉強を続けたのだが。
 ウイスキーをどう飲むべきかについては、その本によって様々だ。
「ロックでも、水割りでも、ハイボールでも、ミストでも、好きに飲めばよい」と書いてある本もあり。
「モルトウイスキーや長期熟成の長いものはストレートかトワイスアップ、熟成年数の短いものやブレンデッドはロックやミストや水割りで、熟成年数の短い安価なものはハイボールで飲め」と書いてある本もあり。
 さらには「ウイスキーは舌を馴らしてでも、絶対にスレートで飲むべきだ!」と書いてある本もある。
 そして書いているのは、それぞれ洋酒やウイスキーの専門家だ。
 で、どれが正しいかわからなかったから、筆者はそれぞれ自分で試してみた。

 試してみた結論だが、筆者は「ウイスキーを飲むなら、基本はストレート」と思う。
 日本のお酒を飲むようにグイッと飲んでしまうのではなく、30mlのワンショットを飲むのに30分かけるくらいのつもりで、時々チェイサーの水を飲みながら唇を浸す程度にしてゆっくり、香りと味と余韻を味わうようにして飲むのが一番美味いし、そのウイスキーの本質がわかると今は思っている。
 しかし中には、特に安価なウイスキーの中には、若いアルコールがキツ過ぎて、ストレートではとても飲めないし、無理して飲んでも美味しくないものもある。
 そういうストレートで美味しく飲めないものは、竹鶴政孝氏が好んだという1:2の水割りか、ハイボールにして飲んでいる。

 トワイスアップで飲むと、確かにウイスキーも日本人にも飲みやすくなる。
 ただ一度ストレートで飲むことに慣れてしまうと、トワイスアップは「水っぽい」と感じることが少なくない。
 トワイスアップにすると、味と香りをそれなりに保ちつつ、アルコールの刺激が消えて美味しく飲めるようになるものもある。
 しかし水で割ると、ただトワイスアップにするだけで味と香りがとても薄まり、本来の美味しさが半減どころか台無しになってしまうものがあるのだ。
 カティーサークが、まさにそれだった。

 カティーサークは、水で割ってはならない。
 かつて筆者はそれをしてしまったから、カティーサークを不味いと思いこんでいたのだ。
 冷えると香りと甘い味が薄まってしまうから、筆者はカティーサークのロックやミストも勧めたくない。

 あとい、筆者はカティーサークのハイボールも試してみた。
 悪くないデス、これ。
 ジョニ赤のハイボールのように個性が強く出ないし、個人的には香りもそれほど立たず、少し薄いようにも感じてしまった。
 しかし香りも味も甘やかで樽香もよくわかり、スッキリしていて飲みやすい上にウイスキーらしい味わいもちゃんと感じられて、なかなかイケる。
 ハイボールと言えばサントリーの角瓶ばかり飲んでいる人達に、是非この甘く優しいカティーサークのハイボールも試してみてもらいたいと思った。

 このカティーサーク、スタンダード・スコッチとしてはかなり上物だと筆者は感じた。
 個人的にはジョニ赤やバランタイン・ファイネストの方が好きだが、時々こんな優しいハニーなスコッチも飲みたいものだと、心から思った。
 個人的にはストレートで飲みたいが、「ストレートはキツい」という方は、どうぞハイボールでお飲みください。

 昔、カティーサークを飲んで「まずい」と思って。
 本当に不味いのかどうか飲み直してみたいと思っていたところ、タイミング良くその機会をくださった方に、本当に感謝している。

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無粋な筆者が“天国”で考えたこと

 先月の休日に、天国を垣間見た。
 主に良酒とスイーツについてのブログを書かれている、オゴ-ログのogotchさんが銀座のバーに連れて行って下さり、そこで筆者はバランタインの“縦飲み”を体験した。

 静岡県の田舎で家飲みばかりしている筆者には、それはもう想像を絶する世界だった。
 静かで落ち着いたバーのカウンターに座ると、目の前にパランタインが5本、左からファイネスト、12年、17年、21年、30年とズラリと並ぶ
 それを若い方から、一杯ずつ順に飲み比べて行くわけだが。

バランタイン縦飲み①IMG_0352

 バーの長岡さんも心得たもので、今のグラスを飲み切る少し前に次の一杯を出してくれる。
 だから目の前の一杯を味わい、残り少なくなったら次の一杯と飲み比べ、そしてその一杯を堪能し……というのを、5回繰り返せたわけだ。
 いや、実はバランタイン30年は続けて2杯飲んだし、発売まだ間もないブラックニッカ・アロマティックの試し飲みなどもしたから、実際に飲んだ量は5杯よりも多い。
 もちろんその合間に、バランタインに合うつまみも出て来る。
 こんな贅沢な飲み方をしたのは、正直に言って生まれて初めてだ。

 で、ざっと感想を語ってみよう。
 バランタイン・ファイネストは普通に美味い。
 筆者など、平日の夜などにテレビを見たり家族と話したり膝の猫を撫でたりしながら晩酌として飲むなら、これで充分に楽しめる。
 しかし続いて12年を出され、その香りを嗅いだ瞬間に背筋が伸びた。
 これは明らかに違う。
 そう思った。
 香りの華やかさと優しさと言い、味のまろやかさと繊細さと言い、ファイネストとは段違いだった。

 ものの値段とは、なかなか面白いもので。
 値段に比例して美味しくなるのは当たり前なのだが、その味の差が値段に正比例しているかと言うと、そうではない。
 まあある程度までは、正比例に近い部分もあるのだが。
 あるレベルを越えると、ちょっと良いものを手に入れる為に、かなりの差額を払わなければならなくなる。

 その事は、例えばオーディオ・ファンの方ならよくご存知だろう。
 千円やそこらのお手頃価格のイヤホンと、三千円から五千円クラスのイヤホンは、音質の差が段違いだ。
 しかしそのクラスと一万円以上のものとの音質の差も、段違いだという。
 が、さらにまたその上があり、上を見たら値段に限界が無いらしい。
 そして価格の差と音質の差は正比例しているわけでなく、より良いものを求めたら本当にきりが無い。
 だから「このクラスのものでいい」という限度は、自分で決めるしかないのだが。

 そこで話はバランタインのファイネストと12年に戻るが、ファイネストは安い酒屋では税抜き千円未満で売っている。
 その価格としては、同価格帯の国産ウイスキーや凡百のスタンダード・スコッチやバーボンなどより美味い。
 しかし酒屋では2千円程度で売られている12年は、価格の差と品質の差が正比例していると言い切れる。
 バランタインの12年は、ファイネストより確かに“倍”美味いのだ。
 12年を飲んでしまうとね、「出来れば家でも、普段からこれを飲みたい」と思ってしまう。

 人の価値観は様々だが、ウイスキー一本で2千円は高いだろうか?
 いや、筆者はそうは思わない。
 ウイスキーは、たいてい1ショット30mlで飲まれている。
 そして通常のウイスキーは一瓶で700mlだから、ウイスキー一本で23杯は飲めることになる。
 だからバランタイン12年やジョニ黒やシーバスリーガル12年など、税込みで2千円を少し越えるウイスキーを買っても、家飲みならば1ショット百円にもならない計算になる。

 で、例えば新ジャンル酒だが、24本の1ケースで買えば、安い店でも税抜きで2380円くらいだ。
 つまりバランタイン12年の1ショットは、新ジャンル酒1缶と同じか少し安いくらいの計算になる。
 だとしたら貴方はバランタイン12年(あるいはジョニ黒やシーバスリーガル12年)と新ジャンル酒と、どちらを選ぶだろうか?
 好みや価値観は人さまざまだが、筆者なら間違いなく、躊躇なくバランタイン12年を選ぶ。
 新ジャンル酒をゴクゴク一気に飲み干すより、バランタイン12年をゆっくり味わう方が、筆者にとってははるかに満足感が大きい。

 ウイスキーは一瓶で値段を考えるから、割高に感じるのだ。
 一本買えば、23ショット飲める。
 そしてビール類の1ケース24缶と比較して考えれば、「ウイスキーは決して高くない」とわかるだろう。
 まあ、味と香りを堪能することなく、酒を酔う為に鯨飲する人にとっては、話はまた別だろうが。

 さて、話をまたバランタインの“縦飲み”に戻す。
 12年でも筆者には充分美味かったが、続いて出て来た17年は衝撃的だった。
 凄い。
 香りが12年より明らかに華やかで、しかも味も力強い。
 品の無いたとえ方をすれば、12年は華奢で繊細な美女で、17年は肉感的な美女という感じだ。
 12年には無いボディの強さと、12年より明らかに鮮烈な華やかさを、17年には感じる。
 日頃、気楽に飲んで良いような酒ではないことは、筆者にもよくわかる。
 しかし出来れば、時折で良いから家でも飲みたいものだ。
 そう思った筆者は、案内して下さったogotchさんに、無粋かつ失礼ながら17年の値段をそっと尋ねてしまった。

 5千円くらい、ということだが。
 正直、「気軽には手を出せないかな」と思ってしまった。
 ファイネストと12年の味と香りの差は、間違いなく値段の差と同じくらいあった。
 しかし12年と17年の味や香りの差が、値段と同じだけの2倍半あるとまでは、思えなかった。

 だがウイスキーは、一本買えば23ショット飲めるではないか。
 5千円のウイスキーでも、1ショットに換算すれば220円に過ぎない。
 220円と言えば、一番搾りやモルツやヱビスなどの、麦芽とホップだけで造ったビールとほぼ同じだ。
 その種のビールを24缶入りのケースで買えば、確かに五千円くらいする。
 ならばバランタイン17年と言ったって、一番搾りやモルツやヱビスをケースで買うのと同じようなものだ。
 そう思えば、バランタイン17年と言っても「手が届かないものではないし、高いものではない」と気付いた。
 少なくとも筆者には、同価格帯のビールよりバランタイン17年の方が美味いし、飲んだ後の満足感が間違いなくある。

 考えてみれば、一番搾りやモルツやヱビスのようなビールを、私達は特に構えることなく案外普通に飲んでいないだろうか。
「一番搾りやモルツやヱビスのようなもの」
 そう思えば、バランタイン17年も普通の人でもそう構えずに、少し贅沢する程度の気持ちで飲めるのではないかと思った。

 続いて21年だが、熟成感は間違いなく17年より上だ。
 ウイスキーとしての質は、17年より上だと断言できる。
 しかし筆者は、個人的には香りに華やかさのある17年の方が、21年よりも好きだ。
 お手頃価格のお酒はたいてい値段と味が正比例しているが、あるレベルを超えた良い酒になると、こういう事もある。
 ただ華やかな香りより円熟した味を評価する方は、17年より21年の方を好きになるだろう。

「空気が読めない」のではなく「読めている空気もあえて無視する」筆者でも、バーで出されたお酒の、酒屋での小売価格をいちいち尋ねるほど無礼ではない。
 で、そのバランタイン21年の価格は、帰宅した翌日にネットで調べた。
 およそ8千円というところだった。
 例によって1ショットに換算すると、320円というところ。
 瓶で売っている、グランドキリンやサントリーのマスターズ・ドリームのような、ちょっと贅沢なビールを飲むようなものだろうか。
 そう思えば、普通の勤め人にも手が届きそうなウイスキーと言えそうだ。

 さて、いよいよバランタイン30年の登場だ。
 ……王様、デシタ。
 香りはただ華やかというのではなく17年より明らかに豊かで、味も21年より遙かに円熟味があって丸い。
 味に本当に角がなく、体に良くないことだが、チェイサー無しで平気で飲めてしまう。
 あまりに味がまろやかなので、「飲もう」と意識しないと、チェイサーを飲むことを忘れてしまう。
 もう、それまでの12年と17年と21年の比較など吹っ飛んでしまうほど、他のものが問題にならないほど30年は凄い。

 まあそれは、その分だけ一本のお値段もそれなりデスヨ。
 ネットで見た相場は、2万7千円からというところだった。
 例によって1ショットで換算すると、およそ1200円というところ。
 つまり「1ショットで、スタンダード・スコッチ1本分の値段」ということだ。
 当然、普通のサラリーマンが容易に手を出せるウイスキーではない。
 しかし「それなりのお金を出して、バーなどで試し飲みしてみる価値はあるか?」と問われたら、筆者は躊躇わずに「ある!」と答える。
 飲んでみれば、「本当に良いウイスキーがどんなものか?」が、心からよくわかる。
 こんな良いウイスキーに触れる機会を与えてくれたogotchさんに、心から感謝する。

 ところで、ogotchさんは飲んだ後のグラスを、バーテンダーさんに返していたが。
 筆者は一番隅の人目につきにくい席にいたのを良いことに、空になったグラスをすべて自分の前に残しておいた。
 良いウイスキーは、飲み干した後もグラスに香りが残る。
 それで筆者は、飲んだ後のグラスを五つも並べ、何度も嗅ぎ比べてみた。
 お店にとっては迷惑な客だったかも知れないが、これがまた楽しかった。
 ファイネストのグラスは、いつの間にか香りが消えていた。
 しかし他の12年と17年と21年、それに30年のグラスには、香りが長くしっかり残り続けた。
 その香りも、もちろん30年が別格に素晴らしかったが。
 しかし12年と17年と21年も、「やはり同じバランタインの兄弟だなあ」と思わせる香りが残っていて魅惑的だった。

 あと、おつまみにはまずナッツ、続いて椎茸の串焼き、そして燻製のチーズと豆腐が出た。
 ナッツもチーズも美味しかったが、豆腐の燻製がまた美味しかった。
 おつまみはogotchさんと分け合って食べたのだが、豆腐の燻製の最後の一切れをogotchさんに「どうぞ」と譲られた時、遠慮も何もなく、躊躇わずに箸を出していただいてしまった。

 あと、絶品だったのが、椎茸の串焼きだ。
 正しい名前は知らず、見た目から「椎茸の串焼き」と筆者が勝手に名付けてしまっているのだが、ただ香ばしく焼けているだけでなく、うまみの素がギュッと凝縮されたような素晴らしい味だった。
 また、切って捨ててしまう人も少なくないが、本当は美味しい石突きも無駄にせずに焼いて出してくれていたのが嬉しかった。

バランタイン縦飲み②IMG_0351

 実は筆者は、「良い椎茸を焼いて、醤油を垂らして食べると美味しい」と、ogotchさんに以前から教えられていた。
 幸いにも筆者が住んでいる市の山間部は椎茸の産地で、農協系のスーパーでは地元産の新鮮な椎茸を安く売っている。
 それで教えていただいた後すぐに試してみて、「うん、これは美味しい」と納得していた。
 しかし連れて行っていただいたバーの椎茸の串焼きの美味さは、本当に別次元だった。
 もちろん椎茸の質も違うのだろうし、プロの方の料理に筆者ごときの料理が近付ける筈も無いが。
 しかし焼き方や味付けをもっと工夫してみなければと、改めて思わされた。
 かなう筈もないのは重々承知しているが、それでも少しは近い味を自宅で再現してみたいと思わされる逸品だった。

 最後に、バーのまかないをいただいたが、これもまた美味すぎて、日頃は食事はゆっくりとっている筆者が、少しみっともないくらい早く完食してしまった。

バランタイン縦飲み③IMG_0357

 このように、ogotchさんには本当に素晴らしい体験をさせていただいたのだが。
 筆者の品性の問題で、この記事の話題がついウイスキーの価格の方に偏ってしまったことを、ogotchさんに本当に申し訳なく思う。
 ただ「ウイスキーは酔う為だけにガブ飲みするのではなく、少量を楽しんで飲むなら、決して値段も敷居も高いものではない」ということを、皆さんにも是非わかっていただきたいと、強く思った。
 バランタイン12年だけでなくジョニ黒もシーバスリーガル12年も、1ショットと1缶で比べれば、実は新ジャンル酒より安いくらいなのだ。

 酒を酔っぱらう為に量を飲みたいなら、話はまた別だが。
 しかし出来ればほろ酔い程度に抑えて、良い酒を少量、じっくり味わいながら楽しんで飲んで欲しいと、父が酒乱で家族みなが苦しんだ筆者は心から思う。

 それにしても、いかにウイスキーがブームとは言え、日本の良いウイスキーは高すぎはしないか。
 ネットで調べてみたら、バランタイン30年は2万7千円だが、響30年は30万円弱だ。
 同じ30年モノのブレンデッドなのに、響はバランタインの十倍も美味いのか?
 たとえバランタインより多少なりとも美味いにしても、その差に十倍のお金を出す価値があるのか?
 30万円と言えば、立派な中堅のサラリーマンの一ヶ月の給料に相当する。
 いや、安倍政権で増えている非正規雇用の人達の手取りで言えば、二ヶ月分に相当しないか。
 勝ち組でお金持ちなら話は別だが、とても普通の人が手を出して良いような酒ではない。

 そもそも日本のウイスキーが世界で評価されるようになったのは、今世紀に入ってからだ。
 だから人気が出ても、そもそも古い原酒の絶対量が少ない。
 それだけ味が良いからと言うより、モノが少ないから高いというのが、ちょっと良いクラス以上の日本のウイスキーの現実だろう。
 だからすぐコストパフォーマンスを考える金コマwwwwの筆者は、ニッカの二千円台の良質なウイスキー(フロム・ザ・バレルや、ブラックニッカのブレンダーズスピリットやクロスオーバーやアロマティックなど)は除いて、国産の高すぎるウイスキーを買う気にはなれずにいる。

 ウイスキーがブームと言われ、雑誌でもよく特集記事にされている。
 しかし原酒不足で国産のウイスキーが高すぎる今、メーカーの宣伝や雑誌に踊らされることなく、海外の良質なウイスキーにもっと目を向けるべきだと強く言いたい。

 さて、最後に今回筆者に素晴らしい体験をさせてくださったオゴ-ログのogotchさんは、実は政治や社会問題にも高い見識を持つ、素晴らしい方である。
 しかし筆者のように浅学を恥じずに偉そうな事を上から目線で語るような真似は全くなさらず、ブログでも良酒や美味しいスイーツについて楽しく書いてらっしゃる。
 この記事に目を留めてどのような方かと関心を持たれたなら、是非検索してオゴ-ログもご覧下さい。

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ロード・パーキンス

 今回紹介するロード・パーキンスというスコッチは、価格帯で言えば安価なスタンダード・スコッチの部類に属するが、日本で見ることはそう多くないと聞く。

ロード・パーキンスP1080646

 さて、キャップを開けてグラスに注いでみると、甘い花のような香りと、アルコールのツンと来る刺激臭が同時に漂う。
 色は、淡い黄金色。
 味わいとしてはライトな部類で、コクや深みはあまり感じない。
 原酒の貯蔵にバーボン樽を使用しているのか、それとも作り方によるものか、スコッチなのにバーボンにも似たキャラメルの甘さを感じる。
 しかし後味は辛く、余韻もあまり長くない上に、痛いくらいのアルコールの刺激だけが残る。

 開封して一週間ほど置き空気と馴染ませて再び飲んでみると、甘い花の香りが増してアルコールの刺激的な匂いはやや減った。
 しかし飲んでみると若いアルコールのキツい刺激は相変わらずで、キャラメルの甘さ以外の味やコクは薄い印象は変わらない。
 余韻も続かず、アルコールの刺激が残るだけという印象。
 鋭いアルコールの刺激とキャラメルの甘さが特徴で、コレをストレートで飲むには頻繁にチェイサーも飲まねばならない。
 心して、本当に少しずつゆっくり舐めるように飲まねば、とてもストレートでは飲めない。

 で、トワイスアップにしてみたが、これが意外に良く合った。
 水で割ると、ただトワイスアップにするだけで水っぽく物足りなくなってしまうウイスキーが少なくないが、このロード・パーキンスは意外に腰が強く、水で割ってもキャラメルの甘い味がしっかり残る。
 ストレートではコクや深みが足りない印象があったのに、トワイスアップにしても薄い印象にはならなかった。
 そしてストレートではキツ過ぎたアルコールの刺激が殆ど減り、とても飲みやすくなる。

 試しに、ニッカの創業者の竹鶴政孝氏が晩酌時に飲んでいたという、1:2の水割りも試してみたが、これは流石に少し水っぽかった。
 それでもウイスキーらしい味わいはちゃんと残り、そしてとても飲みやすかった。

 筆者はウイスキーも含め、お酒は基本的にゆっくり味わって飲みたい種類の人間だ。
 だからウイスキーも、ハイボールにしてゴクゴク飲むのはあまり好まない。
 が、そのハイボール嫌いの筆者が断言するが、このロード・パーキンスはハイボールに合う。
 氷を入れ3~4倍のソーダを入れても、花の香りとキャラメルの適度な甘い味がしっかり残る。

 このロード・パーキンス、ウイスキーをストレートで味わって飲みたい人にはお勧めしない。
 しかし不思議なことに、ストレートではただキャラメルの甘さがあるだけで、コクも深みも余韻も無くアルコールの刺激がひどくキツいのに、水や炭酸で割っても決して薄味にならず、アルコールの刺激だけ消えてウイスキーらしい味わいはしっかり残る。
 ストレートで飲むととにかく強いアルコールの刺激に閉口させられるが、ハイボールなどにして割って飲むにはとても適した、飲み方を選べばそれなりに良いスコッチだ。

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竹鶴ピュアモルト

 数あるウイスキーの中で、筆者は竹鶴12年ピュアモルトが大好きだった。
 価格に対してとても出来の良い、コストパフォーマンスに優れた銘酒だと、今も思っている。
 だからそれが終売になってノンエイジの竹鶴になってしまった時には、大変がっかりしたものである。
 で、そのノンエイジの竹鶴ピュアモルトはずっと飲まずにいたのだが、思い立って飲んでみることにした。

ニッカ竹鶴ピュアモルトP1120088

 キャップを開けるとまず豊かな甘い香りが漂い、続いてほのかなスモーキー香を感じる。
 度数は43%だが、ツンとするアルコール臭は感じない。

 飲むとさすがに、度数の強さを感じる。
 しかし千円ちょっとのスタンダード・スコッチや、千五百円以下のジャパニーズ・ウイスキーのような熟成の足りない若い原酒のツンとするアルコールのキツい刺激はなく、味に丸さを感じる。
 バニラのしっかりとした甘さをまず感じ、飲みごたえのあるコクと深みのある味わいを堪能させてくれた後に、僅かなスモーキー香が残る。
 スモーキー香もある、しかし香りの主体は芳醇な甘さだ。
 筆者はシングルモルトの余市も宮城峡も飲んでいるが、竹鶴はその両方の良い部分を併せ、より華やかで奥行きのある味と香りに仕上げているように思った。
 ただ、余市の力強さよりも宮城峡の繊細さの方が、より多く出ているようにも思えた。
 そして以前に飲んだ竹鶴12年より僅かに軽めで、力強さと重厚さに少しだけ欠けているように思えた。
 しかしこの竹鶴ピュアモルトを飲んですぐ「あ、ノンエイジだけに若いな、アルコールの刺激がキツい」と感じたわけではなかった。
 かつての竹鶴12年と比べて「やや軽めだな」と思いはしたものの、若さやアルコールのキツさを感じることは無く、ニッカのブレンド技術の確かさを誉めたいと思った。

 これをトワイスアップにしてみたが、ストレートのようにチビチビ飲むと「薄いな、水っぽい」と思ってしまう。
 しかしピッチを上げてスイスイ飲むと、好ましい甘さと良い香りを楽しめて「美味しい」と思った。
 無論、ストレートの方がずっとコクもあり味わい深く、余韻も長く続く。
 ただストレートの濃さに慣れていない多くの日本人には、甘くまろやかで飲みやすいトワイスアップが合っているかも知れない。

 ウイスキーというと、日本人はまずロックをイメージするが。
 ただウイスキーに限らす酒というものは、冷やし過ぎると香りが沈んで薄れてしまう。
 だから竹鶴のせっかくの素晴らしい香りを、氷で冷やして薄くしてしまうのは、筆者には勿体ないように思えてならない。
 もしもストレートではアルコールがキツいと思うのなら、氷で薄めるより常温でトワイスアップにした方が良いと、筆者は個人的に思う。
 まあ、筆者ならばこの竹鶴も含め良いウイスキーはストレートで味わうが。

 栓を開けて一週間ほど経つと、甘い香りが咲き誇る花のように華やかになる。
 しかしその代わり、スモーキーさが甘い香りの陰に殆ど隠れてしまう。
 度数43%だけに、アルコールの強さはそれなりに感じる。
 しかし竹鶴のアルコールの強さには、尖った角が無いのだ。
 国産の度数37%の安ウイスキーよりずっとまろやかで、割ることなくストレートで美味しく飲める。
 度数40%のスタンダード・スコッチより段違いに味も香りも良い。
 飲んだ後でゆっくり呼吸すると、口の中に甘くスモーキーな味と香りが蘇り、その余韻が長く続く。

 同じ度数43%の、ブラックニッカ・クロスオーバーと飲み比べてみると、ブラックニッカ・クロスオーバーのヨード香を伴うピート香とシェリー樽由来の香りが際立つ。
 それに対し、竹鶴は甘さが前面に出ている印象。
 しかしブラックニッカ・クロスオーバーにも、スモーキーな中に確かな甘さが芯にある。
 個人的には、甘くスモーキーで力強く、かつシェリー樽の華やかな香りもあるブラックニッカ・クロスオーバーの方が好きだ。その僅かな苦味も、味に深みを与えている。
 だが竹鶴の方が甘く優しい味わいで、香りも竹鶴の方がやや華やかか。

 香りは華やかで甘く豊かな味わいの竹鶴に対し、ブラックニッカ・ブレンダーズスピリットは魅惑的な香りと甘くなめらかな味わい、そして程良くスモーキーなアフターフレーバーが特徴だ。
 この三種のニッカのウイスキーのうち、スモーキーさで言えば①ブラックニッカ・クロスオーバー、②ブラックニッカ・ブレンダーズスピリット、③竹鶴ピュアモルトの順だろう。
 竹鶴の方が華やかで味も濃いが、ブラックニッカ・ブレンダーズスピリットの方がより複雑な味わいで、余韻も長く続く。
 竹鶴ピュアモルトとブラックニッカ・ブレンダーズスピリット、甲乙つけがたいが、ブラックニッカ・ブレンダーズスピリットの方が個人的にはやや上に思えた。

 バランタイン12年と飲み比べると、花のように甘くスモーキーさもあり余韻も長いバランタイン12年に比べ、竹鶴の方が甘さが強い感じ。
 バランタイン12年の方が味と香りがより複雑で余韻も長く、竹鶴は甘くまろやかで優しい印象。

 ジョニ黒と飲み比べると、ジョニ黒の方がよりまろやかで、かつ力強くスモーキーだ。
 竹鶴も良くバランスが取れているが、ジョニ黒の方が味にコクと奥深さがあるし、余韻も長い。
 竹鶴もアルコールの刺激は強くない方だが、ジョニ黒の方が味に個性がある上によりまろやかだ。

 シーバスリーガル12年と飲み比べると、シーバスリーガル12年のシェリー樽の華やかな香りが際立つ。そして味も、シーバスリーガル12年の方が重厚かつまろやか。
 そしてシーバスリーガル12年も竹鶴ピュアモルトと同じで、飲んでいる時には殆ど感じないのだが、余韻の中にほのかにスモーキーさを感じる。

 それにしても、シーバスリーガル12年の香りはすごい。
 飲み干したグラスを一時間以上放置してもまだ、シェリー樽主体の華やかな香りがしっかり残っている。
 また、ジョニ黒の角が無いのに力強い味わいも、とても魅力的だ。
 そしてバランタイン12年の、複雑かつバランスの取れた味と香りも素晴らしい。

 筆者などはつい、単純に「ブレンデッドより、ピュアモルトやシングルモルトの方が上等で美味しいだろう」と思ってしまうが。
 竹鶴ピュアモルトがバランスが取れた良いウイスキーだということは、よくわかっている。
 しかしこうして飲み比べてみると、「ピュアモルトだからブレンデッドより上」とは言い切れず、良く出来たブレンデッドはピュアモルトやシングルモルトより豊かな味と香りになりうる事が、よくわかった。

 ノンエイジになった竹鶴ピュアモルトは、筆者が想像していたより良い味と香りだった。
 しかし定評ある12年モノのブレンデッド・スコッチはそれを上回る出来で、飲み比べた結果、それら12年モノのスコッチの実力を思い知らされる結果になってしまった。
 もし終売になってしまった竹鶴12年ピュアモルトと飲み比べたらどうであっただろうと、つい考えさせられてしまった。

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エンシェント・クラン

 ジョニ赤やホワイトホースほどメジャーではないが、専門の酒屋だけでなくスーパーの洋酒売り場でも見かけるスタンダード・スコッチの、エンシェント・クランを飲んでみた。

エンシェント・クランP1110940

 キャップを開けるとまず感じるのは甘い香りで、そしてスモーキー香も感じる。
 飲んでみるとバニラのしっかりした甘い味と、スモーキーさも感じた。
 若いアルコールの刺激も少し感じたが、千円ちょっとで買えるお手頃ウイスキーとしてはかなり少ない方だ。
 コクもあるし、余韻も続き、ジョニ赤に近い味わいというのが、開封直後に飲んでみた印象だ。

 封を切り空気に触れさせて一週間ほど経つと、甘さがより際立つ代わりにスモーキーさが少し薄く感じてしまう感じだ。
 しかしそれでも、スモーキーさもあるのはちゃんとわかる。
 少し以前に飲んだハウス・オブ・ピアーズよりストレートで明らかに濃くなめらかで飲みやすく、かつスモーキーでもある。
 甘く、しかしただ甘いだけでなく僅かなビターさが味に深みを与えている。
 濃く甘くスモーキーで、スタンダード・スコッチとしてはかなり良い出来だ。

 トワイスアップにするとアルコールの刺激がさらに減り、しかし甘さは充分に残るので飲みやすい。
 が、香りも味わいも薄くなるし、余韻も長く続かなくなる。
 ストレートで充分美味しく味わえるので、個人的には氷を入れたり何かで割ったりする必要を感じない。

 飲み比べてしまうと、ほぼ同価格のジョニ赤の方がより甘く飲みやすい上にスモーキーだが、その差は少ない。
 若いアルコールの刺激がキツくなくて、割らずにストレートで美味しく飲める、この価格のウイスキーとしては数少ないウイスキーだ。
 スタンダード・スコッチとしても、上の部類の出来だと思う。

 ……ここで止めておけば、「良いスタンダード・スコッチだった」で話は終わったのだが。
 このエンシェント・クランが出来がとても良かったので、つい手元にあったバランタイン12年と飲み比べてみてしまった。
 その差は、段違いだった。
 甘さの品格もまろやかさもスモーキーさも、味も深みもバランタイン12年の方が比べる余地もなく上回っていた。
 エンシェント・クランは、「スタンダード・スコッチとしては」まろやかで余韻も長く続く。
 しかし比べてしまうと、バランタイン12年の方がずっとまろやかで味わい深く、かつ余韻もより長く続く。
 エンシェント・クランも良いスコッチなのだが、心地良さが飲んでいてまるで違う。
 良質なスタンダード・スコッチと12年モノのスコッチの差を、いやと言うほど思い知らされてしまった。

 ただ12年モノと飲み比べたからそう思うのであって、他の同じ千円程度のウイスキーと飲み比べれば、甘くスモーキーでコクがあり、かなり出来の良いウイスキーだと断言できる。

 12年モノのスコッチや700mlで二千円以上のウイスキーは、確かに美味い。
 こうしたウイスキーをいつも飲めれば、それに越した幸せは無いとは思う。
 ただ貧乏性の筆者は、そうした良いウイスキーは鼻と舌に神経を集中させてしっかり味あわないと勿体ないと思ってしまうのだ。
 そしていつも、じっくり味わって酒を飲めるわけではない。
 テレビを見たり本を読んだりしながら、あるいは談笑しながら飲むのに、本当に良いウイスキーは勿体ないような気がしてしまうのだ。
 で、畏まらずに気楽にお酒を飲みたい時に、エンシェント・クランのような安くて良質なスタンダード・スコッチは、とてもありがたい存在になる。

 筆者自身はこのエンシェント・クラン、ストレートで飲みたいが。
 しかし千円程度で買える、お手軽なスタンダード・スコッチなのだ。
 お好みに合わせて、ロックにするなりトワイスアップにするなり、あるいはハイボールにするなりして、気軽に楽しんで飲めば良いと思う。

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