空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

お受験(10)・日本の学校は“オール4”の生徒が大好き

 話は少し逸れるけれど、もしこれを読んでくれている人の中に、大学受験を控えているって人がいたら、ちょっと聞いてほしいことがあるんだ。

 黒沢もそうだったけれど、受験の時に浪人を避ける保険をかけるつもりで、
 ①「受かれば儲けモノ」とダメもとのつもりで受けてみる学校、
 ②本当に行きたくて学力的にも無理ではない本命、
 ③滑り止め&雪崩止め、
 という感じに、ランクを分けて何校か受ける人が少なくないよね。

 でもそのやり方はハッキリ言って非効率だし、下手をすれば全滅の可能性だってあるんだよ。
 範囲は広いけれど中身は浅いセンター試験の場合は、頑張ればそれなりに出来てしまうと言うか、まあ「努力≒結果」とも言えるよ。でも私大の場合、受験科目が少ない代わりに、出される問題はメチャクチャ深くて難しいからね。

 いわゆるFラン大学ではどうかは知らないけれど、少なくとも黒沢が受けた大学では、教科書には載ってないことが平気でガンガン出題されたよ。だからたかが私大とバカにして、「高校で授業をちゃんと聞いていれば、フツーに受かるだろ」とか思うのはとんでもない話でさ。
 私大の入試って、ただ難しいだけじゃなくて、もう笑っちゃうくらいの珍問奇問の類も出てきやがるからね。だから私大こそ、進学塾にでも行かなければ受かりにくいと思う。

 珍問奇問って、黒沢自身が受けたさる私大の入試に、例えばこんなのがあったよ。
鎌倉幕府の、最後の六波羅探題の名を書け
 最後の執権ならともかく、最後の六波羅探題だよ? そんなの、教科書どころかどんな参考書にも載ってないって。トーダイに楽々合格した秀才だってわかると思いマスか、こんな問題。
 そしてさらに続けて、「その最後の六波羅探題が、元弘の乱で足利尊氏に追いつめられて一族郎党と共に自害した場所を、地図上に×印で示せ」ってさ。
 コレって、参考書じゃなくて鎌倉時代から南北朝期の本格的な歴史書や、中央公論社の『日本の歴史』全26巻を読み通して頭に入れている人でないとわからないレベルだよ。

 ……まあ黒沢は根っからの歴史好きで、『日本の歴史』は中学の頃に読んでたし、『太平記』も小学生の頃に読んでたから、「それは北条仲時で、自害したのは今の滋賀県あたり」って知ってたけどね。
 そうそう、黒沢はその時代の人の中では、足利直義がものすごく好きで尊敬もしているのだ。だから兄の尊氏はあまり好きじゃないし、その取り巻きの高師直や佐々木道誉や赤松円心などはハッキリ嫌いだよ。
 けど後醍醐天皇と大塔宮護良親王はもっと大キライで、歴史書と言うより南朝方をヨイショする為に書かれた『太平記』だけど、黒沢は実は“敵”の北朝に肩入れしながら読んでいたのデシタ。

 そんな感じで私大の入試って、教科書にもないし授業でも習わない問題が出されるのが当たり前なんだよね。
 変わった問題と言えば、黒沢が受けたさる私大の国語では、何と漢字の書き順が出題されたりしたなぁ……。
 だから私大の入試って、黒沢に言わせれば「実力が半分で、でも運も半分」という気がするよ。
 もちろん実力は必要だよ、けれど受かるには「何が出題されるか?」っていうコトもかなり大きい……って、黒沢は自分の受験で心から実感したよ。

 出題されるかも知れない範囲はかなり広い上に細かいし、それを完全に覚え切るなどまず無理だし。だから自分の知ってる範囲に近い問題がどれだけ出されたかみたいな、ぶっちゃけ“運”みたいな要素が間違いなくあるんだよね。
 それはモチロン、ちゃんと勉強してなきゃデキるワケ無いのは当たり前だけど。ただ「最後の六波羅探題の名前と自害した場所」だの、「いろんな漢字の書き順」だのまで理解しておくなんて、現実的に不可能でしょ?
 だから自分なりに出来る限りの努力をしたら、後はもうある程度丁半博打みたいなモノでさ。
 で、出された問題がたまたま自分の知ってる範囲とカブってくれれば、かなりの難関大学でも受かっちゃうし。逆に「運が悪い」と言うしかないような問題を出されれば、滑り止めのつもりの大学だって落ちちゃうんだよ。
 私大の入試って、ホントそんなものなんだよね。

 黒沢が体験した入試について、もう少し具体的に話そうか。
 まず前提として、入試での黒沢のスキルは、日本史はかなり自信アリで、国語も文法と漢字の書き取り以外なら「さあ掛かって来いや!」って感じ。ただ暗記モノは大嫌いなんで、英語がかなり苦手で……。
 実は高校でも、英語はいつも赤点スレスレだったんだよ。だから受験でも「英語を何とかしよう」というのではなく、逆に「デキる日本史と国語で点を稼いでダメな英語をカバーしよう」ってつもりで臨んでたワケ。
 ハイ、「長所をとことん伸ばして行けば、欠点なんか見えなくなるさ」ってのが黒沢の生き方と言うか、人生いろんな面での主義なのでありマス。

 日本人ってさ、何でもすぐ「まず短所の克服を」って言うよね。けど黒沢には、「それってただ個性を潰してるだけじゃん?」としか思えないのだけど、間違ってるかなあ。
 黒沢ってさ、「人間、何か一つでも“5”を取れる得意科目があれば、後はどーでもイイ」って考え方なんだよ。
 その人に「何かスゴい取り柄がある」ってのは、その為にかなりの努力をしてるってコトなんだよね。好きだから努力と思わないし苦痛とも感じないだけで、ホントはその為にすごく頑張ってるんだ。
 で、一年は365日で一日も24時間で、頑張れる時間ってのは皆同じなワケでさ。
 だから「まず不得意科目を克服しろ!」って言うのは、「得意科目も捨てろ」って言ってるのと同じ事なんだよ。

 国語と社会はいつも余裕で“5”だったけど、数学がダメで英語ギライだった黒沢は、学校のセンセイ達に「国語と社会はもうイイから、おマエは不得意科目を何とかしろ!」と、もうイヤというほど言われ続けたよ。
 けどね、黒沢が国語と社会がデキるのは、いつもそれだけ頑張ってたからなんだよ。だからもし黒沢が言われた通りに数学と英語を頑張ったら、国語と社会の成績は間違いなく落ちたね。
 植物だって水と肥料をやって世話しなければ枯れてしまうように、得意科目だって頑張り続けなきゃダメになっちまうんだよ。
 だからもし黒沢がセンセイ達の言うとおりにしてたら、まあ4と3混じりか、せいぜい“オール4”の、個性も取り柄もない生徒になってたと思う。
 でもセンセイ達って皆バカなんだよね。得意科目は放っておいても楽勝で5を取れて、「苦手な科目さえ頑張ればオール5になれる」とマジで思ってやがるんだから困っちゃうよ。

 オール4ってさ、一見良いようだけれど百人集まっても千人集まってもオール4のままじゃん?
 けどね、一科目でも“5”のある生徒を集めれば、国語・社会・数学・理科・社会、それに音楽に美術に技術家庭に保健体育と、たった9人でオール5になるんだよ。
 映画やドラマだって、「何か一芸のある人がチームを作って、何かスゴいことを成し遂げて……」みたいな話がすごく多いよね。
 実際の世の中だって、黒沢はそれと同じだと思うんだけれどね。「オレは社会と国語で頑張るからさ、数学や英語は、他の得意な人が頑張ってくれればイイ」って。
 だって黒沢が苦手な数学やキライな英語が好きで得意な人達が、他に大勢いるんだからさ。
 なのにせっかくの得意なものを自分の放棄してまで、何故何でも中途半端にデキるようにならなきゃいけないのか、黒沢には全然わかんないんだ。

 みんな映画やドラマでは、例の“一芸の天才たち”がチームを組んで活躍する話を、何の疑問も持たずに喜んで見てるくせにさ。でもいざ勉強となると必ず、「まず不得意科目を無くせ」って話になっちゃうんだよねえ。
 社会に出て仕事に就いても、実はソレは変わらないんだよね。能力や向き不向きも関係なく、「営業も経理も企画設計も、全部経験して全部デキるようになれ」って頭から言われることが多いよ。
 海外のこともよく知っているある人が、「海外ではスペシャリストを養成するけれど、日本ではゼネラリストが求められる」って言ってたけど、ホントにその通りだと思う。

 例えばプロの料理人が使う包丁は、切れ味は素晴らしいけど出刃に柳刃に菜切りと種類もいろいろで、手入れもちょっと怠るとすぐ錆びちゃう。
 だから切れ味は落ちても、一本で肉でも魚でも野菜でも何でも切れて、おまけに錆にも強くお手入れ簡単なステンレスの三得包丁の方がイイ……ってワケだよね。
 そりゃあフツーに家庭料理をするのなら、切れ味より簡便さを求めるのは当然だよ。けどその道を極めたいプロに、ステンレスの三得包丁を愛用してるヒトはまずいないと思うんだけどね。

「出る杭は打たれる」って言われるけれど、日本ってホントにその傾向が強くてね。「個性を生かす教育」とか何とか言いながら、ソレは完全に建前で、実際には何かの特技でちょっとでも目立つヤツは、皆で叩いてツブしちゃう。
 そして本当の悪い意味での出る杭(DQNとか893とか)には腰が引けちゃって、ただ遠巻きにして「触らぬ神に祟りなし」なんて当然のように言ってるんだから始末が悪いよ。DQNや893が、いったい何で“神”扱いなんだよ、っつーの。
 まっ、あえて言うなら神の中にも、祟り神とか疫病神ってのも、あるにはあるけどね。

 それはともかくとして、映画やドラマでよくある一芸の天才たちが集まるスゴいチームって、「今の日本には絶対に存在し得ない」って断言できるよ。
「いくら5があっても2や1もあるヤツはダメ、特技や個性を伸ばすより不得意教科の克服の方が大切。何かで突出せずにフツーに何でもデキるオール4的な人間が一番で、それが無理ならオール3でも可」って、日本ってホントにそーゆー国だもの
 出る杭が打たれなくなるのは、その杭が打てなくなるほど強く突出してからなんだよね。で、一旦何かスゴい賞を取ったりすると、それまでの奇人変人扱いから手の平返しで誉め称え始めるんだから、恥知らずというか始末が悪いよ。

 実は大学受験のちょっと前にも、黒沢は同じ高校の大好きだったマイコさんにも、面と向かってハッキリ言われたんだよ。「高校の勉強くらい各教科満遍なくデキなきゃダメ、不得意教科があるなんて、それはただワガママなだけなのよ」って。
 そのマイコさんは、当時黒沢とは「友達以上、恋人未満」って感じで、黒沢の成績のコトだけでなく勉強に対する考えも、よく知ってた筈なんだけどね。
 でもあえてその発言に及んだってのは、黒沢は実はマイコさんにキラわれてたのかもね。黒沢が鈍感すぎて、ただ気付かなかっただけでさ。

 当時の黒沢って、女の子の“中身”が全然見えて無かったんだよ。ただマイコさんの色白&小柄で、いかにも華奢でセンス良し……って外見とムードに目が眩んで、頭の中が「好き好き好きー!」って気持ちで一杯になって、ホントにバカになっちゃってた。
 考え方も価値観も全然違ってて、どちらが良い悪いという問題ではなく、とにかく人としての相性はかなり悪かったんだ……って、今になって思えばすごくよくわかるんだけどね。
 ちなみに「不得意教科があるなんて、それはただワガママなだけ」と説教してくれたマイコさんだけど、入試の結果は全敗で、一年浪人したのだけれどまたダメで、志望校は諦めて滑り止めで受けた、誰でも入れるような短大に行きましたとさ。

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お受験(9)・ハーレムエンドは現実には絶対アリマセン

 さて、リホさんの方からはずっと連絡の無いまま、三月も殆ど終わりかけてしまいまして。
 B大の受験会場で再会した時の約束では、「連絡は、合格が決まってから私からする」という事だったけれど。
「もしかしたら、リホさんは進路がまだ決まっていないのかも」とか、いろいろ考えはしたよ。けど黒沢もC大の入学手続きを済ませて、家を離れ東京に行くべき日も間近に迫ってきてさ。
 でさ、約束には目を瞑って黒沢の方から、思い切ってリホさんに電話してみたんだよ。

 思い切って電話……って、当時はケータイなんてまだ無くて、電話と言えば家電だったからね。
 当然、電話を取るのはかなりの確率でその家の親御さんでありまして、若い男が年頃の娘さんに電話する場合、保護者というナカナカ高いハードルが待ち構えていたわけデスよ。
 ま、それでも何とかリホさんを電話口に出して貰えたのだけど、話を聞いて黒沢は暫く言葉も無かったよ。
 手っとり早く言えば、リホさんはB大だけでなく、受けたトコすべて全滅……ってこと。だから「全寮制の予備校に入って、また来年頑張る」って。

 ただその予備校が東京だと聞いて、黒沢は一筋の光を見たような気がしたよ。
「だったらその連絡先を教えてよ。オレも東京に行くし」
 けどリホさんには、それも断られてしまったんだ。「大学に受かるまで、キミだけじゃなく女の子の親友も含めて、ホントに誰とも会わないでただ勉強に専念したいから」って。
 そこまで固い決意を示されちゃったらさ、もうそれ以上何も言えなくなってしまってね。それに大学に落ちた人は、合格した人の顔を見るのもイヤなんだって、弥生さんの例でもよくわかってたしね。
 ただ「わかった。あと一年、ずっと待ってるから。だから来年の春には必ず連絡してよ。そして絶対また会おう」って、それだけは約束してもらったよ。

 ちなみに黒沢が高校時代にずっと好きだった、同じ高校のマイコさんも、志望校すべてに落ちちゃってさ。そしてマイコさんは地元に残って、地元の予備校に通うことが決まっていたよ。
 あと、幼なじみのマキちゃんとは、彼女の受験(看護学校ね)が近くなってから何となく音信不通になってしまってて。だからどこの大学を受けるかだけでなく、入試の結果もまだ話して無かったよ。
 ついでに言えば、C大の入試の時に一緒になった高校の同級生のセノ君。残念ながら彼もC大に落ちていて、受かった別の大学に行くことになったよ。
 と言うワケで、黒沢はそれまで親しかった人すべてと離れて、知り合いなど誰一人いない東京の片隅で、一人暮らしを始めることになったのでありマスよ。

「寂しくなんか全然なかった」と言えば、まあ嘘になるかな。けどそれ以上に「夢に向かって頑張るゾ!」みたいな気持ちの方が、ずっと強かったから。
 おバカな話だけれど、当時の黒沢は「プロの写真家になるには、まず東京に出なきゃダメだ」って思い込んでいたんだよね。だから「これでオレも、まずその第一歩を踏み出したゾ!」みたいな感じでさ。
 それに地元に残っている限り、黒沢はいつまで経っても姉と比べられて、「あの優秀な○○さんの、出来損ないの弟」って言われ続けるんだ……って、いやと言うほど思い知らされてたからね。

 ちなみに姉は地元の国立大学の法学部に、前年に現役で合格していてさ。だからこそ「地元に残る」って選択肢は、黒沢にはあり得なかったんだよね。
 ただ写真の勉強をしたいからだけじゃなくて、「自分のことを知る人が誰もいない街に行く」ってことが嬉しくてたまらなかったんだよ。「これであの姉と較べられたりしないで、素のままの黒沢を見て貰える」って。

 あと、黒沢が育ったのは某県の地方都市だけれど、生まれたのは実は東京の文京区なのだ。だから住む所も、あえて同じ文京区内を選んでさ。
 だから大学に行く時には、上京して見知らぬ街に行くというんじゃなくて、「夢を追いかけて、生まれ故郷の街に帰る」って感じだったよ。
 と言っても、四年間住んでいたのは築三十数年の、家賃格安の木造アパートでさ。六畳一間にミニキッチンだけ(バス無しトイレ共同)の、昔ながらの“下宿屋”って感じのトコでね。

 そのアパートは、同じ文京区内でも生まれた街とは少し離れていたけれど。それでもまるで鮭が生まれた川に戻るみたいな感じで、東京での暮らしには不思議なくらいすぐに馴染めたよ。
 暮らしていたのは、記憶にも殆ど残って無いような幼い頃だけだったとしても。
 自分が生まれた街って、他の所とは空気が違う……って感じがするよ。

 まっ、東京都区内とは言え黒沢が生まれた街も大学時代に下宿した街も、どちらも狭い路地に古い木造の家がギッシリ立ち並んでいて、近くには昔ながらの商店街や銭湯があるような、いかにも古い下町っぽい所だったからね。
 実際、十八の黒沢が一人暮らしを始めたアパートは、あの“おばあちゃんの原宿”こと巣鴨のとげ抜き地蔵商店街も、充分徒歩圏内にあったし。行ってすぐに馴染めたのも、そのせいだったかも知れない。
 もし住み始めたのが、青山とか銀座とか代官山みたいなホントの一等地だったら、きっと肌に合わなかったと思うよ。

 それにしても……。
 黒沢にはまず、転校しちゃった後もずっと仲良しだった、幼なじみのマキちゃんがいて。
 そして中学の時に男友達(ケンカ友達?)みたいな仲だったリホさんとも、高校が別になった後もずっと連絡を取り合って、時々会ってもいて。
 でも「好きだ!」ってハッキリ自覚してたのは、同じ高校で隣のクラスだったマイコさんで。
 にもかかわらずB大の合格発表の時には、見ず知らずの弥生さんに一目惚れしちゃうし──。
 ……当時の黒沢って、女の子に関してはマジで節操ないヤツだったと思いマス。「自分をギャルゲーやラブコメ漫画の主人公か何かと勘違いしてんじゃーねーよ!」って感じで、思い出すだけでも恥ずかしいよ。

 ただ言い訳させて貰えれば、マキちゃんはあくまでも“幼なじみ”で、リホさんは“お友達”だから。そしてマイコさんとも、正式に付き合っていたワケでは無かったし。
 マイコさんは色白で小柄な、絵を愛する華奢で儚げな感じの女の子で。お母さまは服のデザイナーをしていたと聞いたけれど、「確かに……」って感じの雰囲気を漂わせていたよ。ビジュアル的には、まあ宮崎あおいをイメージしてみて下サイ。

 そのマイコさんの感性といかにも少女っぽい可憐な雰囲気に、黒沢はすっかりマイっちゃってさ。それで何度か「好きだ!」って告ったりもしたんだよ。
 でもいつも、彼女の答えは「お友達なら」デシタ。それも振る時の建前ではなく、マジでかなり仲良くしてくれるんだよね。手紙のやりとりはずっと続けてたし、二人で街に出掛けて映画を観たりお茶したりとかも、何度かしてたし。
 コレって、どう見てもただの友達以上の関係だと思うけど。

 でもマイコさんに言わせれば黒沢は“友達”で、「異性として好きっていうのとは違う」って。
 彼氏にはしてくれないのだけど、キッパリ振るのでもなく。で、何とな~く望みも持たせて、たまにはご褒美みたいにデートもしてくれて……みたいなね。
 ぶっちゃけ言っちゃえば、高校時代の黒沢ってマイコさんから見れば「何でも言うことを聞かせて、都合良く使える下僕状態」って感じだったと思う。

 後になって考えてみれば、このマイコさんって、以前にも紹介した『花とミツバチ』の中で、作者の安野もよこさんが「こういう女の子に引っかかっちゃダメ!」って力説していた“長沢チャン”そのもの……って感じだよ。
 その長沢チャンについての詳細は、まあ一度『花とミツバチ』を読んでみて下サイ。黒沢も含めて男って、この長沢チャンみたいな女の子に、ホントに弱いんだよねぇ……。

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 それはともかくとして! 当時の黒沢は複数の女の子と仲良くしてたけど、ちゃんと彼女になってくれた子は誰もいなかったワケで。
 だからマキちゃんともリホさんともマイコさんとも、時々二人で会ってデートみたいなコトもしたりしてたけど、黒沢としてはフタマタとは全然思ってなかったのさ。
 それで弥生さんにも、罪の意識もなく声をかけちゃったワケ。
 ……まったくもう、やってるコトはあっちこっちの女の子の間でフラフラしてる主人公と同じ、とんだギャルゲー野郎だよね。

 でも“フタマタ”ってさ、どこからそう認定されるんだろうね? 恋人同士ではなくても、複数の女の子と“お友達”として仲良くしていたら、それもフタマタってことになっちゃうの?
 だとしたら、まず複数の女の子と仲良くなって、そしてその中から一人を選んでゆくギャルゲーなんて、殆どもうフタマタやミマタばかり……ってことになっちゃうよね。
ちゃんと彼女がいるのに、他の女の子にもちょっかいを出すのはフタマタでNG。けど彼女がいない状態なら、複数の女の子とお友達になって仲良くしても別にOK」。黒沢はそう考えているのだけど、間違ってるかなあ?

 と言うより、元々そーゆー感性だったからこそ、黒沢は何の違和感もなくギャルゲーの世界に入り込めたのかも。
 だって“幼なじみ”に“元気っ子の元同級生”、それに“憧れのヒロイン”と“偶然知り合った美少女”って、黒沢の学生時代ってギャルゲーの設定そのものじゃん。
 ……ま、その結果は見事なまでのバッドエンドだったから、羨ましいコトなんか全然無いデスよ皆さん。実際、ただ振られるだけでなくかなり酷い事もされたし、生きているのが厭になるような痛い目にも遭いマシタからね。
 バッドエンドもいろいろあるけれど、もう“鬱エンド”レベルの終わり方もあったよ。
 ま、黒沢がもっとイケメンで、生きて行く中で幾つかあった“選択肢”も間違わなければ、ハッピーエンドもちゃんと待っていたんだろうと思う。
 ただどの子とも付き合えちゃう“ハーレムエンド”なんてシロモノだけは、ゲームや二次のセカイにしか絶対あり得ないからね。

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お受験(8)・転んで…受験に落ちてもタダでは起きマセン

 B大の入試の約一週間後に、黒沢は同じ東京のC大を受けてさ。滑り止めのつもりで受けたこのC大の入試には、ノロイも奇跡もどちらも無かったな。
 ……出逢い、デスか。
 それがあると言えばあったんだな、コレが。

 教室に入り席について、隣を何気なく見ると、何とそこによく知った顔があって。
「あっー、セノ!」
「おお、黒沢じゃん。すげー偶然」
 そこに居たのは、同じ高校で同じクラスのセノくんだったんだ。

 そーだよ、黒沢のC大で出逢った相手はオトコだよ。って、もしかしてコレも何かのノロイかな?
 クラスは同じでも特に親しかったワケでも無かったから、黒沢はセノくんがC大を受けていた事さえ知らなくて。でも別に仲が悪くも無かったし、高校では普通に会話もしてたし。だから休み時間はずっと喋ってたし、昼飯も大学近くの喫茶店に一緒に喰いに行ったよ。
 黒沢の体験した大学入試は、まあこんなトコ。受験料も交通費もバカにならないし、レベルを変えて三校も受ければ、悪くても滑り止めくらいには引っかかるんじゃねーの……って。
 それが甘い考えだったことを、後でしっかり思い知ることになるんだけれどね。

 しつこいようだけど、その頃はネットもまだ無い時代だったから。だから入試の結果は、合格発表の日に大学の掲示板を直接見に行くしか無かったんだよ。
 何万円もする高い受験料を取りながら、大学の方からは何も教えてくれないんだよね。就活のように、せめて合格した人に通知するくらいしてくれれば良いのに、それすらしてくれないんだよね、大学って。

 で、学生協とかサークルとかが、有料で代わりに調べて、合否を電話もしくは電報wwwで教えてくれたりするのだけれど。
 ただそれはあくまでも「個人が私的に請け負っている」だけなんで、その知らせが正しいという保証は無いのだよ。「いちいち調べんのかよ、ダリーな」とか思われて、適当にサクラチルの電報を打たれても、遠い田舎の受験生にはわかりようもないワケ。
 まあそこまで悪質ではないにせよ、見間違いや勘違いだってあり得るよね。
 だから「結果の報告を請け負うという団体の報告が不正確でも、大学側は一切関知致しません」と、入試の当日にも受験会場で繰り返し伝えられたよ。

 京都までの交通費を考えるとね、「A大に合格発表を見に行きたい」とはさすがに言えなかったよ。日帰りで行くなら新幹線でなければ無理だし、けど普通列車などで行ったら、特急料金に近い宿泊料がかかっちゃう。
 ついでに言うと、今は当たり前にある高速の深夜バスも、当時はまだ無かったんだ。
 で、不安はあったけれどA大の合否は、学生協に頼んで知らせて貰うことにしたよ。
 ただ東京だったら、普通列車でも充分に日帰りできたから。入試には新幹線でなければ間に合わないけれど、合格発表なら着くのが昼前だろうが昼過ぎだろうがかまわないからね。
 それでB大とC大の合否は、当日に大学まで行って自分の目で確かめてきたよ。

 高校時代の模試では、黒沢のB大の合格確率は大体五十パーセントで、だから受かっているつもりで見に行ったんだよね。当日の入試の感触も、それなりに手応えもあったし。
 B大の合格発表、本当はリホさんと一緒に見に行きたかったよ。でもリホさんには「次に連絡を取るのは、入試が全部終わって結果が出てから」と言われていたし、黒沢も馬鹿正直にそれを守って、電話一本かけて誘ってみることさえしなかったんだ。
 ……もし時間を遡って戻れるものなら、過去の自分を思い切り叱りつけてやりたいよ。「このバカ、グズ!」って。

 で、肝心なB大の入試の結果だけど、しっかり落ちてマシタ。
「え、嘘だろ!?」と、合格者の一覧が張り出された掲示板を何度も見直してみたのだけれど、黒沢の受験番号はどこにも無かったよ。
 それまでの模試の判定でも、A大はまあ「受かれば儲けもの」みたいな感じがあったから、落ちてもまあ仕方ないと思えたよ。けどB大には本気で行きたかったし受かるつもりでもいたから、合格発表の掲示板の前で暫く身動きもできなかった。
 頭の中が真っ白……って感覚を、身をもって味わったのがこの時かな。運命の女神が引き合わせてくれたとしか思えない、リホさんとのウキウキなキャンパスライフの夢も、そこであえなく泡と消えてしまったワケでさ。

 けど自分の受験番号のない掲示板を、阿呆のようにただ眺め続けていても、結果はどうにもなりはしないことぐらい、黒沢にもわかってたし。
 で、諦めて帰ろうと回れ右しかけた時、黒沢と同じように掲示板を見詰めて呆然としている女の子の姿に気付いてさ。
「わかった、リホさんだったんだろ」って?
 いやいや、そんなドラマみたいな奇跡は残念ながら二度も起きる筈もないよ。居たのは全く見ず知らずの、初対面の子で。
 ただその横顔に、黒沢は思わず見とれてしまったよ。そのあまりの可愛さと可憐さにね。小柄で色白で、顔立ちも優しげに整い小さな唇は桜色で、パッチリとした瞳も黒目がちでウルウルしていて……。
 もうちょっと具体的に言うと、顔立ちは渡辺麻友に似て、それに更にお嬢さまっぽい清楚な雰囲気を加えて……って感じ。
 ココが男の悲しい性なんだけれど、その子をただ見ているだけで、本命の大学に落ちたショックもどこかに吹き飛んでしまったよ。
 それだけでなく、せっかく再会したリホさんや幼なじみのマキちゃん、そして同じ高校でずっと好きだったマイコさんのことも、その一瞬で脳内からすべて一時消去されちゃってさ。

 ……見ず知らずの女の子のただ顔を見ただけで、人となりも全く判らないまま一目惚れできちゃうのが、例の「若さはバカさ」ってやつだよね。
 黒沢のバカさについては、まあとりあえず脇に置いておくとして。「こんな可愛い子、ココで逃がしたらもう二度と会えない!」って思いに突き動かされて、黒沢はすぐに行動に移ってその子に話しかけたよ。

 え、「見ず知らずの女の子に、お前、よく平気で声をかけられるよな」って? いや、実はその逆で、縁もゆかりもない初対面の相手だからこそ、逆に話しかけやすいんだよ。
 ちょっと想像してみてほしい。例えばもしキミが、同じ学校(同じ職場)の気になる相手に声をかけて、冷たくされた場合、後々すごーく気まずくなっちゃうよね?
 ただ“気まずい”で済めばまだマシな方で、もし相手が性悪だったりすると、まず間違いなく「聞いて聞いてー、この前○組の××ってキモいヤツに声かけられちゃったんだよ、超ウザッ」とか言い触らされたりするね。
 けど相手が全く見ず知らずの女の子なら、仮に冷たく無視とかされたとしても、ただ諦めてその場から立ち去ればいいだけの話じゃん。そしてもし相手が話し相手になってくれて仲良くなれれば、それこそ丸儲けってもんだよ。
「同じクラスや同じ部活で、お互いの人物人柄を確かめた上で徐々に仲良くなって」っていうのではなくて、街中で見ず知らずの女の子をナンパできちゃうヤツがいるのは、ズバリそういうワケなんだよね。
 よく覚えておいてほしい、縁もゆかりもない見ず知らずの相手だからこそ、声をかけて得るものはあっても、失うものは別に何も無いのだよ。

 プライド? そんなゴミみたいなモン、犬にでも喰わせちまえよ。貴族サマや名家のおぼっちゃまでもあるまいし、一度や二度女の子に冷たくされるくらいで死にゃーしねーから
 これだけは間違いなく言えることだけど、気になる女の子が目の前にいて、なのに恥をかくのが嫌で声の一つもかけられないままじゃ、キミにはまず「実年齢=彼女いない歴」に近い未来が待ってるね。
 草食系だか何だか知らないけれど、黙って何もしないでいても女の子の方から寄って来てくれるなんて、かなりのイケメン君かホリエモン並みのお金持ちだけだってば。あるいはギャルゲーや萌え系のマンガなど、二次のセカイの主人公とかね。

 それに街中でのいきなりのナンパとかと違って、B大の合格発表の日に見かけたその子って、同じ大学を受けた同志で仲間なわけじゃんか。それだけでなく、掲示板を眺めるその子の虚ろな目を見ただけでも、「この子も駄目だったんだろうナ」って、すぐに判ったし。
 で、ダメもとと腹をくくって思い切って話しかけてみたら、その子は意外なくらい会話に応じてくれてさ。
 と言っても、気さくでノリが良い……ってタイプではなくて、とにかく育ちが良くて疑うことを知らない、みたいな感じでさ。こちらが話しかける一つ一つに、おっとりゆっくり、きちんと答えてくれるんだよね。

 話してみると、やはりその子もB大に落ちていて。しかもそれだけでなく、その子も黒沢と同じC大も受けていたんだよ。うん、願書を出した学部と学科も全く同じで。
 で、「C大の合格発表、一緒に見に行こうよ」みたいな話になって。そして名前と住所を教え合って、待ち合わせの場所と時間も約束してさ。
 住所って、クドいようだけどメアドじゃなくてホントの住所だよ。何せ当時は、メールなんてモノはまだ存在してなかったんで。
 まゆゆ似のその子は、チバ都民と言うか東京のすぐ隣街の子で、名前はまあ武田弥生さんと覚えておいて下され。
 本命の大学には落ちてしまったけれど、それでもそれを強引に出逢いに変えてしまう、ホントに転んでもタダ起きない黒沢なのでありまシタ。

 さて、そのC大の合格発表の日、弥生さんはほぼ約束の時間通りに、待ち合わせ場所に来てくれて。そしてB大の発表の時と同じようにお喋りしながら、黒沢と弥生さんは連れ立って合格者の受験番号を貼り出した掲示板に向かったよ。
 で、その数字を目で追って行くと……。見間違いじゃないかと二度三度見直してみたけれど、そこには間違いなく──。
「あった、受かってたよ!」
 弾む声をあげながら隣に目を向けると、そこにはB大の合格発表の時と同じかそれ以上に、暗く沈んだ表情の弥生さんがいて。
……私、ダメだった
 静かな、けれど雪女の吐息よりも冷たい声でそう言うなり、弥生さんは黒沢にくるりと背を向けて。
 そしてさよならの一言もなく、足早に立ち去って行ったよ。

 その弥生さんを引き留めることなど、まだ若い黒沢にはとても出来なかったよ。
 もし黒沢も落ちていたなら、苦しい思いも分かち合えるし、「一緒に頑張ろう」って励ますことも出来ただろうね。
 でも同じ大学を落ちた人に、受かった人が何を言えばいいと思う? どう慰めようと白々しいだけでなく、弥生さんの立場からすれば、ただ黒沢の顔を見ているだけでも苦痛で腹立たしいよね。
 だから立ち去る弥生さんを追いかけることも出来ず、その背にかける言葉も見つからないまま、凍りついたようにその場でただ見送るしかなかった。

 ……それでもね、せっかく知り合えたのにそれきりというのでは、やはり寂しすぎると思ってね。しばらく経って気持ちも落ち着いただろう頃に、弥生さんにまた連絡をとってみたんだよ。
 そしたら弥生さんも、その後ある女子大に受かっていてさ。
 ただね、黒沢とまた会う気はないって、やんわりと言われてしまったよ。「あの時は不安で寂しくて、つい誰かに頼りたくなっちゃったんでしょうね。あなたが隙を見せてたから……って、後でお母さんにも怒られちゃいました」ってさ。


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お受験(7)・奇跡を信じマスか?

 絵をテーマにしたゲームに、『キャンバス』ってシリーズがありまして、その『キャンバス3』の中で、主人公はヒロイン達にこう尋ねるんだよ。
奇跡って、信じる?
 そしてそのヒロインの性格によって、返って来る答えは「奇跡って、何かステキじゃないですか」だったり、「信じないし、そんなものに頼りたくもない」だったりするのだけれど。
 で、ヒロインの答えがどうあれ、結局そのキセキが起きて主人公と結ばれるという、とってもヌル~い展開になるんだけどね。
 ハイ、いかにも「想いは通じる、願いは叶う」って感じの、とっても甘々なストーリーでアリマス。だから物事はキレイ事だけじゃ進まない現実を見て、いろいろ苦労もしてきた人がプレイしたら、ちょっと怒りたくなっちゃうかも知れないかな。
 この『キャンバス』シリーズって、最初の作品はけっこう面白くてキャラも魅力的で、だからシリーズ化されたんだろうけど。ただ『2』は「まあまあ」という程度で、『3』は「クソゲーとは言わないまでも凡作」と、シリーズ毎に面白くなくなって行くのが残念なところだけど。

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 その『キャンバス3』の展開の是非については、今はとりあえず脇に置いておいて。
 黒沢は昔から無神論だし、あくまでも個人的にだけど「宗教には信者のおカネを吸い上げたい“臭教”も少なくなく、それどころか狂信を生み“衆狂”や“集凶”にもなりがちで、益より害の方がよほども多い」って思ってる。

 何しろ黒沢は基本的に情より理で、合理的な理由で納得させてくれなきゃ動かない……ってヤツですからネ。「理屈抜きで何かを信じる」なんて、黒沢にはとても無理だから。
 だから政治に関しても、「強力な指導者について行く」なんて真っ平だし、カリスマ政治家なんて「必要ない」どころか「大衆を扇動する危険な存在」としか思えないんだ。

 自衛隊は国防軍でOKと思うし、憲法第九条にも反対だし、夫婦別姓にも反対で「メカケの子はちゃんとした夫婦の子と同じじゃねーよ」って思うし、そもそも「愛人やら不倫やらを“いろいろな家族のカタチ”と肯定するとかフザケンナ」と言いたいし。さらに「移民とか入れるより、まず日本人の失業者を雇えや!」とも思うし、そして完全な異性愛者で、同性婚とかにもまるで共感できないしさ。

 黒沢は思想的には間違いなく「保守で右寄り」で、なのにいわゆる日本の右翼に共感できないのは、ズバリその“神やカリスマ指導者を信じる”ということが出来ないからだよ。だって日本の右翼って、昔も今も結局は現人神さまを崇拝して一切の疑問を許さない、一神教の宗教みたいなものじゃん。
 日本は神国だなどと、正気で信じ込める精神構造そのものから黒沢には理解できないし。神風とやらに頼って多くの命を犠牲にした大本営のお偉方には、ただもう怒りしか覚えないし。
 吹くワケねーんだよ、神風なんて。だってアレはただの、毎年おなじみの秋の台風だから。

 だから奇跡についても、『キャンバス3』で言えば木通遊佐先輩の「信じないし、そんなものに頼りたくもない」ってスタンスに近いかな。
 でも京都のA大の次に受けた、東京のB大の入試で起きてしまったのだよ、その“奇跡”がね。
 冷静に理屈で考えれば、それもまあただの偶然のうちなんだろうけど。だとしても、つい神の存在も信じちゃいそうな、宝くじに当たるくらいの奇跡に近い偶然が、そのB大で黒沢を待っていたんだ。

 京都に行くのと違って、東京ならば黒沢が当時暮らしていた町から、朝一番の新幹線に乗れば入試の開始時間に十分に間に合うからさ。だから流石にB大の入試には、日帰りで出掛けたのだけど。
 受験会場に着いた黒沢は、例によって参考書の類は全く開かなかったよ。と言うか、そもそも筆記用具しか持って来てなかったし。
 で、席の前方に色白&スレンダーでロングブーツの似合う女の子を発見して、「ほほう、これはナカナカ……」と心の中で呟いていたりして。
 よくさ、男は「トーダイには美人が少ない」って言って、高学歴の女性達に「それは違う、男は自分より頭の良い女にコンプレックスがあるから、東大の女子を可愛いと思えないだけでしょ」って噛みつかれたりしてるよね。
 けど「東大に美人は居ない説」は、黒沢自身の目で見て事実だと思ってる

 実は大学生になってから、黒沢は同じ大学の仲間たちと、何度か東大に行ってるんだ。別に何か用があったワケでなく、皇居や東京スカイツリーでも見に行くような、観光地巡りのノリでただ遊びに行ってさ。
 静岡と山梨の境あたりに富士サファリパークがあって、そのテレビCMでよく流されているこのCMソング、知ってる人も少なくないんじゃないかな。
ホントにホントにホントにホントにライオンだぁ~、近づいちゃって近づいちゃって、どーおしよう、富士サファリパ~ク!
 うん、まさにそんな感じ。
 かの有名な赤門を潜って校内を歩き回って、「うわあ、アッチにもコッチにも“ホンモノの東大生”が放し飼いになってるよ!」って。いや、そうやって田舎モノのお上りサン御一行のように東大の構内をキョロキョロしながら歩いていた黒沢たちの方が、傍から見ればずっとこっ恥ずかしい存在だったんデスけどね。
 でさ、皆で東大の学食でメシを食って、学生協で東大の校章入りのグッズを土産に買って……って、やってる事はホントにお上りサンの観光客だね。

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 その時に黒沢が幾つも買い込んだのが、東大の銀杏の校章入りの百円ライター。これなら気安く幾つも買えるし、田舎の友達には面白がられて喜ばれるんだよ。
 その後しばらく、黒沢の仲間たちの間でその“東大ライター”を使ったおバカな遊びが流行ってさ。
 まずは、脳内で『水戸黄門』のBGMの再生をお願いシマス。で、例の校章入りの東大ライターを、あの葵の御紋入りの印籠のように他の誰かに突きつけて、芝居がかった口調でこう言うワケ。
ええい静まれ静まれ、このお方をドナタと心得る。畏れ多くも天下のトーダイ生、○○○○様なるぞ。この紋所が目に入らぬか、下がりおろう、頭が高~い!
 ……全くもってバカ過ぎだよね。当時の黒沢たちのアタマの悪さと低劣な精神を暴露してしまう、恥ずかしすぎるエピソードでありまシタ。

 いやでも東大の学生協で、銀杏の校章入りの印籠を売ったら、マジでヒット商品になると思うけどな。
 あと、東大の学食と学生協に行ってみて、何か大学の格差と言うか、偏差値による扱いの違いみたいなものを強烈に感じちゃったよ。
 黒沢の大学の学食は安いけれど旨くなく、場所も薄汚くて、食卓も椅子も粗悪品でボロ。対して東大の学食は値段は同じか安いくらいなのに、場所はカフェテリアみたいに小奇麗で味も良くてさ。
 そして学生協で扱っている品目も黒沢の大学よりずっと多くて、値段もより安いような気がしたのだ。
 しかも東大って、国立だから学費だって私大より安いくらいだよね。「この東大生を良い環境で優遇するおカネって、いったいドコから出てるのかな~」なんて、チラッと疑問に思ってしまったりして。
 わかってますって、東大は将来の日本を支える優秀な人材を育てる言わば国の宝だもの。優遇して当たり前で、二流以下の私大の学生など大学生の名にも値しない……ってことさ。

 話は戻るね。黒沢はそんな風に何度か東大に潜入していたから、東大の女子も大勢見てるよ。
 その上で断言するよ、「美人や可愛い子の割合は、東大は間違いなく少ない」って。
 と言うか、東大に限らず偏差値の高すぎる大学の女子って、何故か美人が少ないような気がする。
 例の京都のA大も、偏差値で言えば七十台だったけど、受験生に可愛い子は殆ど見かけなかったな。容姿が冴えてなかったのは、黒沢にノロイの毒息を吹きかけてくれた、例のデ○スだけじゃなくってさ。

 で、二番目に受けた東京のB大の、黒沢が志望した学科の偏差値は六十台半ばだったけど、女子のレベルはナカナカだったよ。凄い美人揃いと云うのではないけれど、とにかく平均レベルが高いんだよね。
 それだけでなく、着ているものや髪型のセンスも良いし、雰囲気にもどことなく知性みたいなものが滲み出ている……という感じで。同じ“可愛い”んでも、ギャル系の可愛さとは全然違ってて、ビッチ臭さが全然ないの。

 黒沢はさらにその数日後に、同じ東京のC大(偏差値は六十を少し切る程度)を滑り止めに受けたのだけど。このC大の女子もそれなりに可愛くはあったけれど、B大に比べてしまうと少し地味と言うか、やや冴えない気がしてしまったよ。
 そうそう、このC大はかなりのマンモス大学で、同じ敷地内に短大も併設していてさ。この短大の子たちがかなり可愛いと言われていて、モデルのバイトをしてる子とかも結構いたよ。
 でも黒沢の目には、その短大の子らは可愛いけれどチャラいと言うか、ケバめでかなり遊んでいるように思えたよ。だから学食や図書館など構内の施設を共用していても、四年制の女子と短大の女子は一目で区別できたよ。
 だって短大の女子はオシャレだけどまるでファッション雑誌のコピーみたいに派手で、化粧だってバッチリ濃くてね。それに比べて四年制の方は、清楚もしくは地味……って感じで。

 偏差値が高くなり過ぎると、知性や品は上がっても可愛さや女度が低くなり勝ちで。でも偏差値が下がると、女度は上がっても中身の安っぽさとビッチ臭が漂ってきて。このあたりの兼ね合いってやつが、なかなか難しいよね。
 そういう意味で、B大はベストに近かったと思う。品や知性も、女の子としての可愛さも兼ね備えていて……って感じでね。
 それは女子だけじゃなくて、男子についても言えるんじゃないかな。だって「イケメン東大生」ってあまり聞いたコト無いし、遊び慣れたイケメンの多い大学になると、当然DQN度も上がってくるし。

 と言う意味で、楽しくかつ充実した学生生活を楽しむなら、大学は都会にキャンパスがある偏差値六十台くらいのトコを黒沢はおススメしたいな。
 そうそう、周囲に何もない田舎の大学に行くと、その大学の学生同士でくっついて、そのまま同棲とかしちゃう率がかなり高いらしいデス。まっ、人間関係は狭いし他に娯楽もナイから、それも当然の結果とも言えるんだけどね。

 さて、話を戻してそのB大の入試の日のこと。周囲のハイレベルな女子たちと過ごすバラ色の大学生活を思い浮かべて、ニヤニヤ、ヘラヘラしながら一科目めを終え、トイレに立って自分の席に戻った時、黒沢は我が目を疑ったよ。
 マンガによくある、ビックリして目玉が顔から飛び出す……っての。本当にそんな感じだった。
 え、黒沢の真後ろの席の女の子って……まさか、そんな──。
 でも見間違いじゃ無い筈、似たような人は世間に三人は居るとも言うけれど、人違いだとしたら余りにも似すぎてる。
「あの……もしかして、浅井さん?」
 恐る恐る声をかけると、髪はショートでキリッとした顔立ちの美少年風のその子は、黒沢を一度軽く睨んでから微笑んだよ。
「そーだよぉ、なのにずっと無視してるんだもの、機嫌でも悪いのかと思っちゃった」

 その浅井リホさんは中学二年と三年の時の同級生でさ、仲が良かった……と言うより、おバカでいつも暴走しがちだった黒沢の心の支えになってくれていた大切な人、って感じだったよ。
 そうだなぁ、リホさんってイメージで言えば能年玲奈をシャープでキツめに、そして更にボーイッシュにしたような感じで。
 高校は別々になってしまったけれど、連絡は時折取り合っていたし、時にはデートの真似事みたいな事もしたよ。

 けど彼氏と彼女という仲でも無かったし、高校三年の夏以後は音信不通のままだったんだよね。「受験も近いこの時期に電話して無駄話したり、遊びに誘ったりしても迷惑だろーし」みたいな感じで。
 だから黒沢は、リホさんがどこの大学を受けるのかさえ知らなかったんだ。
 そしたらB大の同じ学部を受けていて、しかも受験番号も連番で受験会場での席も真後ろでさ。
 奇跡だ!
 マジでそう思ったね。だって宝くじで言えば、三億円とまでは言わないまでも、少なくとも一千万円ゲットくらいレアな確率だと思う。
 まあ奇跡ではないとしても、これはきっと運命の出逢いに違いない。まだ若くて青かった黒沢は、そう思ってしまったのでありまシタ。

 黒沢より前に会場の席に着いていたリホさんは、黒沢にもすぐ気付いてたみたいなんだよね。だからリホさんには、「わかってたのに、受験でピリピリしていて無視した」みたいに誤解されちゃって。
 でも黒沢には、A大を受けた時の例の恐怖体験がありマスからね。後ろの席の女子の顔なんて、コワくてとても見られなかったんだよ。
 だからずっと前の方ばかり見ていて、真後ろのリホさんのことにまるで気付かなかったんだ。
 でも気付いた後は、もう「超ラッキー!」って感じで。

 繰り返し話してるように、黒沢は高校受験の頃から、入試の時には参考書より女の子を見てる主義じゃん? だからその後は休み時間になる度に、後ろのリホさんと喋りっぱなしだったよ。そしてリホさんも机の上に参考書を広げたまま、ずっと笑顔で黒沢の話し相手になってくれたよ。
 参考書を広げたまま……って、後になって考えてみればその時の黒沢って、もしかしたらメチャクチャ迷惑なヤツだったかな。いや、「もしかしたら」じゃなくて間違いなくそうだったよね。

 でさ、試験を終えて会場を出た後、黒沢とリホさんは真っ直ぐ帰らずに、原宿で軽くデートしたよ。最近のお互いの事とかを喋りながら、表参道をゆっくり歩いて、お洒落なお店でお茶して……みたいな。
 ま、この「原宿に行ってお茶して」みたいなあたりが、いかにも田舎から出てきた高校生って感じなんだけどね。一つだけ言い訳すれば、原宿はその受けたB大の割と近くだったんだよ。
 黒沢の思い込みかも知れないけれど、その時のムードはかなり良かったと思う。実は写真家になりたくて、日芸には行けなかったけど、大学生になったらいろいろ頑張っちゃうゼ……なんて、青臭く夢を語っちゃったりもしてさ。
 うわ、若さゆえのバカさとは言え、何て恥ずかしい真似をしでかしてたんだろうね、あの日の黒沢は。

 そうそう、その時「オレさ、そのうちヌードも撮ってみたいんだよ」って話もしたんだよ。エロ話としてじゃなく、「写真家になるために頑張る」って話の続きで、冗談めかしたりもしないでかなりマジにね。
 そして「出来ればモデルになってくれないかな?」と聞いてみたら、リホさんは全然怒ったりしなくて、でも即答で「無理」って。
 理由は、「だってワタシ毛深いから」って。

 まっ、ヌードを含めて女の子をいろいろ撮ってきた今では、脱がせた女の子がパイ○ンだろうがヘアがかなり濃かろうが、別に動じたりしないけどね。
 けどその時の黒沢は、まだ十八の田舎の男子高校生だったワケで。ヌードも撮ってみたい気持ちはすごくあったけれど、実際に撮ったことはまだ一度も無くてね。
 その頃はまだ、女の子のハダカを生で見たことすら、ホントに数えるほどしかなくってさ。それも上半身までというところで、だから女の子の下半身なんてホントに未知の領域だったんだよ。
 そーだよ、当時の黒沢はまだチェリーだったんだよ。

 は? 「でもエロ雑誌だってあったろうし、週刊プレイボーイや週刊現代みたいなフツーの週刊誌にだって、ヌードのグラビアくらい当たり前に載ってるダロ」って?
 いやそれは違うって、その時代のヌードは「ヘアを出すだけでアウト!」だったんだよ。いわゆる陰毛がちょっとでも写った写真を公開すると、出版社にはケーサツの手が入り、撮ったカメラマンもタイーホ……って騒ぎになっちゃうの。
 だからさ、写真だろうが映画だろうがビデオだろうが、全裸の女性のヘアの部分にはすべて修正が入れられていたのだよ。写真だったら、コカンだけ丁寧に肌色に塗ってパイ○ン状態にするか、あるいは黒く塗り潰すとかして。そして映画やビデオだったら、モザイクもしくは雲みたいなボカシを入れて……って感じでね。

 繰り返すけれど当時はまだパソコンなんてモノもなく、コンピューターも一部の研究所か大企業でしか使われてなくてさ。だから今みたいな、ネットを使えば小学生でもエロ動画をバンバン見られちゃうような時代とは、環境が全然違ったんだよね。
 そんなワケでちょっと昔の男子たちは、女の子のヘアがどんなかさえ知らなかったんだよ。生身の女の子の全裸を、直に自分の目で見てみるまでは……ね。
 だからさ、リホさんに「ヌードは毛深いからムリ」なんて言われちゃうとね、まだチェリーな少年だった黒沢としては、ついイロイロ想像してしまうわけデスよ。「え、ドコが、どんな感じに?」とか、頭の中がもう妄想で一杯になって、柄にもなく赤面してしまうのが自分でもわかったよ。
 で、気になり続けてるんだけど、もうそれ以上、その話題は出せない……ってのも、まだウブな小僧らしいトコロでね。

 さて、そんな奇跡に近い偶然で出会えたリホさんだけど、「合格したら、また会おう」って約束して、その日はそれで別れて。
 実は黒沢は、B大の入試ではそれなりの手応えを感じていてさ。もう受かる気満々で、リホさんとの明るく楽しいキャンパスライフを、脳天気に頭の中で思い描いていたりしてね。
 黒沢は例の高杉晋作的な、「恋も受験も、どっちも!」ってヤツだから。受けなきゃならない大学はまだ残っていたけれど、それでも全然平気で女の子とも逢えちゃうのだけれど。
 ただリホさんの方は吉田松陰タイプの不器用な人で、だから「次に連絡を取るのは、合格が決まってからね?」と言われちゃってさ。それで「もしかして、赤い糸で結ばれていた?」と思いかけちゃうくらいの出逢いに感謝しつつ、間もなく訪れる筈の“春”を待ったわけデス。

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お受験(6)・初めての大学入試とノロイの毒息

 写真関係の大学に進むのを諦めた黒沢は、とりあえず「日芸でないなら、どこでもいーや」みたいな感じで、史学科のある大学の中から、学費が安い順に三校選んで受験したんだよ。
 まずは模試で合格確率25%だった京都のA大を、「受かればラッキー」みたいなノリで受けてみて。そして本命で合格確率50%のB大と、滑り止めのつもりで一応受けた(合格確率75%以上)のC大は、どちらも東京都区内で。

 黒沢は小学生の頃から歴史に興味があったし、史跡の多い京都にもずっと憧れていたからね。だからA大を受けに行った時は、バッグに一眼レフのカメラと交換レンズを詰め込んで行って、本当にもう撮影旅行気分だったよ。
 日帰りでの受験は時間的にとても無理だったんで、京都にはその前日に泊まりがけで出掛けたよ。それもわざわざ朝早めの新幹線に乗ったから、昼の十時頃にはもう京都に着いててさ。

 明日の受験に備えての勉強? しねーよ、そんなもん。代わりに着いたら真っ直ぐ北野天満宮に行って、お賽銭に百円献じて菅原道真公を拝んで、ついでにお守りも買って「よしOK!」ってコトで。
 それから後は日が暮れるまで、カメラ片手に撮影スポット巡りだよ。嵐電を乗り継ぎ北野を散策し、妙心寺や仁和寺などを回って……って感じで。
 ホテルに着いても、勉強は全然しなかったなー。って言うか、参考書とかマジで一冊も持って来て無かったんで。だってバッグの中は、カメラと交換レンズでもういっぱいだったし。
 で、出された夕食を平らげて部屋のテレビを見るうち、一日歩き回って疲れていたせいか、すぐ眠くなって朝まで熟睡しちゃったよ。

 翌朝の受験当日はスッキリ目覚めて、二月の京都の朝のひんやりとした清々しい空気を吸いながら会場のA大に向かったのだけど、爽やかな気分でいられたのもソコまででさ。
 A大に向かう途中でも、同じ受験生らしい人達が同じ道をゾロゾロ歩いていてさ。で、A大の門を潜りかけた時、ヒステリックな女の喚き声が背後から聞こえてきたんだ。
 振り向くと、ポッチャリ体型で個性溢れるお顔のメガネ女子が、同じようにA大の門を潜ろうとしていて。驚いたことにそのデ○スのメガネ女子は、母ちゃん同伴で会場までやって来ていたんだよね。

 喚いていたのはそのデ○スのメガネ女子の方で、付き添いの母ちゃんに、本当にクダらない事で八つ当たりしてるワケ。
何でもっと早く起こさなかった!」だの、「落ちたらママのせいだからね!!」だのと、それはもうグチャグチャ、クドクド本当にしつこく。で、母ちゃんの方は、ただゴメンねゴメンねと謝り続けるだけでさ。
 以前の章でも語ったけれど、家庭内にヒス姉が居たおかけで、ヒステリー女は黒沢のトラウマの一つになっちゃってるからさ。もう犬のク○を踏んづけたよりイヤな気分で、急いでその場を離れたけれど。

 でもちょっと想像してみてほしい。受験当日の朝っぱらから、ヒステリックな喚き声を間近で聞かされてごらん。「もし罪に問われないなら、このアマ、虫みたいに思い切り踏み潰して○してやりたい」ってマジで思うから。
 娘も娘だけどさ、黒沢はその母ちゃんにも同情できなかったな。
 理不尽な怒りをぶつけられても、母ちゃんとしては「それでこの子のストレスが軽くなって、今日の入試で頑張れるなら」と思って、娘のどんな罵詈雑言にも耐えてたんだろうけど。でもアナタの娘さんのおかげで、周囲の受験生の皆さんのストレスが急上昇中なんデスが……って感じだよ。
 受験の直前だろうが何だろうが、「子供が公共の場で傍迷惑なことをしたら、毅然とした態度でピシっと叱るのが親ってものだろうが」って思ってしまう黒沢は、親の気持ちってやつが解らない、冷たい人間なのかなあ。
 って言うかさ、もう十八にもなった我が子の受験に大学まで付いて行こうなんて思うこと自体、過保護もいいトコだと思うけどね。
そんな親だからこそ、こんな娘に育った」とでも言うか。

 で、そのマジキチ母娘を怒ってやりたい気持ちをようやく抑えて、足早にその場を離れて大学の構内に入ったのだけど。
 割り当てられた教室を見つけ、黒沢の受験番号のある席について間もなくのこと。同じ教室に現れたのでありマスよ、例の極北の可愛さのメガネ女子が。
 え、何で? さっき校門で母ちゃんに八つ当たりしてたのを、思わず振り返って睨んじゃったのがマズかった? もしかして今度は黒沢が、母ちゃんの代わりに標的にされてヒスられちゃうの?
 呆然とそんなことを考えてたら、そのデ○スと目が合っちゃいまして。

 うわ、ヤバっ!
 慌てて目を逸らしたけれど、時既に遅し。デ○スは黒沢の方に向かって真っ直ぐに、ゴジラのように進んでくるではアリマセンカ。
 顔を伏せる黒沢、そして足を踏み鳴らして近づいて来るデ○ス。そしてフリーズの魔法でもかけられたように固まっている黒沢の脇を、デ○スは受験生の顔を一人一人確かめるようにして、ゆっくりと通り過ぎて行って……。
 黒沢の横をそのまま通り過ぎ、ホッと安堵の息を漏らしかけた瞬間、真後ろの席の椅子が引かれ、ドスンと腰を下ろす音が響いたのでアリマシタ。

 へ?、あのデ○スさま、マジで黒沢の真後ろの席にお座りに?
 確かめたい、でも振り向いちゃいけない、振り向いちゃダメだ……。
 机にしがみつくような姿勢でガクガクブルブルな黒沢の背後から、今度は鼻水を啜る音が、絶えず聞こえて来るのデシタ。
 じゅっ……ずるっ……ずびびっ
 その情景をマンガで言えば、もう「梅図かずおか犬木加奈子のセカイ」って感じだよ。タイトルは、そうだなあ、『ノロイの受験』ってとこだね。

 ノロイって、その時の黒沢は本当に何かに祟られていたのかも。A大の受験会場での黒沢の恐怖体験は、まだソレで終わったわけじゃなくてさ。
 試験が始まると、デ○スさんは猛烈な勢いで書き始めて、後ろからはシャーペンが解答用紙の上を走るカツカツという音が絶えず聞こえ続けて。
 さらに答案を何度も消しては書き直しているのだけれど、その消しゴムを使う勢いも凄いんだよね。その度に、デ○スさんの机全体がガタガタ揺れるワケ。

 答えを必死に書きまくって、必死に消す。それは仕方のない事だと思うし、黒沢もその事自体を責めるつもりもないよ。
 ただそのノロイのデ○スはさ、力一杯ガシガシ消して溜まった消しカスをさ、息で吹き払うんだよ。手で払うのではなく。
 すぐ真後ろから、猫の威嚇に似たフーッと息を吐く音が聞こえマス。
 すると殆ど同時に、そのデ○スの吹きかける息の生温かさが、服の布地を通して黒沢の背にまで伝わってきて──。

 もしコレをRPG風に言えば、「敵のドラゴンの“呪いの毒息”を浴びせられてポイズン状態に陥り、ターン毎にHPが削り取られて行く」って感じかな。
 ……コレを体験してみたいデスか? 第一志望の大学の入試で、答案に取り組んでいる真っ最中に。
 そのデ○スとのフラグ? 立つワケねーだろ、そんなモン。最後の科目を終えるなり、黒沢は一秒も無駄にせずにそのA大から逃げ去ったよ。

 そのまま京都駅に向かえば、きっとその日のうちに家に帰れたと思う。けど、京都なんてそう気軽に行ける所じゃなかったし、「せっかくならもっと長くいて、もっといろいろ見て回りたい」って思ってしまってさ。
 で、安宿にもう一泊して、翌日も夕方まで京都の寺社巡りと撮影を楽しんだよ。

 実は京都には、中学時代の修学旅行の時の甘酸っぱい(と言っても、正確には甘が二で酸が八くらいの)思い出が幾つかあってさ。その同じ場所をもう一度巡って、柄にもなく感慨に耽ったり……ね。
 一生忘れられない思い出の地って、誰しも二つや三つある筈だと思うけど。渡月橋から化野念仏寺までの嵯峨野が、黒沢にとってのそれなんだよ。
 ……とか何とか言いながら、その嵯峨野で観光に来ていた兵庫のさる短大のお姉さま方とも、ちゃっかりお近づきになっちゃうのが、黒沢らしいトコなんだよねえ。

 きっかけは、そのお姉さま方に「落柿舎はどこですか?」って訪ねられた事だけど。黒沢は童顔で小柄だから、ちょっと見には無害っぽく見えるんで、道を尋ねる時などに声をかけられやすいんだよね。
 その時はただ落柿舎の方角を教えて、お姉さま方も「ありがとー」って感じで終わりだったけど。ところがそれから一時間も経つか経たないかのうちに、滝口寺でまたそのお姉さま方にバッタリ会ってしまってさ。
 お互い「あーっ!」って感じで、お姉さま方もニコってしてくれたよ。けどそこでもまだ二言三言立ち話をするくらいで、「じゃあまた」って会釈してあっさり別れて。
 それが間もなく、常寂光寺でもまたそのお姉さま方とバッタリ出会ってしまってさ。そうなると「これはもう偶然じゃなくディスティニー?」みたいな感じで、何か急に仲良しっぽい雰囲気になってしまって、お互いの事とかいろいろ話し込んじゃったよ。

 で、「記念に」とか何とか言って、そこでお姉さま方の写真も撮ってさ。そして「現像したら、プリントして送ります」って言って、そのお姉さま方のリーダーっぽい人の住所とお名前を頂戴いたしまして。
 アドレスの間違いじゃなく、教えて貰ったのはあくまでも“住所”だから。だってその頃はまだ、ケータイすら存在してなかったし。
 写真もね、当時は画像データとかではなくて、フィルムで撮って現像した上でプリントするワケ。このプリントも、家庭用のプリンターでボタンひとつで出来るのではなく、プロのカメラ屋が化学薬品を使って処理してたのだ。
 いろいろメンドくさい上に、フィルム代に現像料にプリント料とお金もいちいちかかるんだよね。しかもちゃんと写っているかどうかも、フィルムをカメラ屋に出して現像してみるまでわからないし。
 デジカメが普及する前の時代には、写真って今みたいに気安く撮れるものではなくてさ。だから「撮った写真、送りますよー」って言うと、住所や名前とか、意外なくらい教えて貰えたんだよ。

 ただ肝心の入試の方は、何しろ会場でデ○スの呪いの毒息をたっぷりかけられてしまったからねえ……。黒沢は結局、そのA大には落ちてしまってさ。
 もし黒沢がA大に受かって、京都で暮らすことになっていたら。例の兵庫のお姉さまとも、その後の進展も何かしらあったかも知れない。
 でも東京と兵庫じゃ、「また会おうね」なんてとても言えないし。さりとて「頑張ってバイトして、お金貯めて会いに行きマース!」などと言ったりしたら、すごく重い意味になって引かれちゃうよね。
 それで京都で知り合ったそのお姉さまとは、残念ながら数度手紙や賀状のやりとりをしてそれっきり……って感じだよ。

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お受験(5)・イヤな奴ほど、よく受かる?

 ここで受験にまつわる、ちょっと怖いホントの話をひとつ。
 受験ってさ、性格の悪いヤなヤツで「落ちればイイのに」って思われてるような人間ほど、模試はギリギリでも本番では受かったりしちゃうもんなんだよね。で、真面目な良いヤツほど、普段の成績では充分合格圏内なのに落ちてしまったりして。
 わかるかな? 図太いイヤなヤツほど本番で緊張したりアガったりしないから、入試でも実力を百パーセント出し切れちゃうんだよね。で、逆に周りに気を使い過ぎちゃうような良い人ほど、本番でアガって焦って、考えにくいようなミスをしたりしちゃう。
 だからもしキミが周りから「落ちたらイイ気味」みたいに思われてたら喜んでくれても良いよ、キミの受験はきっと大丈夫だから。
 は? 黒沢は高校も大学も現役で合格したよ、どーせ図太くて性格もワルいしね。

 それはともかくとして、黒沢はテストの点数とか成績とかを、元々あまり気にしない方だったから。普段の定期テストではもちろん、本番の受験でも問題用紙を前にしてアガるみたいな事は全然無かったよ。
 高校受験の時には、クラスは違うけどちょっと仲の良かったサナちゃんと、会場に着くまでずっと喋りっぱなしでさ。
 そのサナちゃんって、中1の一年間だけ同じクラスだった子で。小柄でツルペタなんだけど、色白で目もパッチリしていてさ。何しろこんな黒沢なんかともこだわり無くお喋りしてくれるんだもん、ただ顔が可愛いだけじゃなく、性格もモチロン良くて。
 いや、黒沢としては周りの人の緊張もほぐすつもりもあったんだけど。それであえてバカ話ばかりして、サナちゃんも最後まで笑って相手してくれたよ。けど後になって考えてみれば、その時の黒沢ってすっごく傍迷惑なヤツでしか無かったかも。
 で、受験会場に入った後も教科書や参考書の見直しなんかしないで、他の中学から来た女の子ばかり見てマシタ。「チッ、Y中の女子はどいつもこいつもハズレじゃねーか。けどS中の女子って、けっこう可愛い子が多いじゃん」とか。

 高校入試の時からそんな有様だったからね、大学入試の時はもっといい加減でさ。もうマジで「受験を物見遊山と間違えてんじゃねーよ、コラ!」って感じだったよ。
 って言うか、当時の黒沢はホントに「どーでもいーや」って気分で受験してたからね。

 以前にもちょっと話したけれど、黒沢は本当は写真家になりたかったんだ。だから高校の進路希望票にも模試の時も、第一志望はずっと日大芸術学部写真学科と書き続けたよ。
 ただ写真関係の学校って、学費もすごく高いんだよね。医学部ほどではないけれど、他の学部よりかなり上……って感じで。
 まあね、芸術関係の学部ってどこもお金がかかるものだし、絵と違って写真はカメラで撮って、プリンターと化学薬品でプリントするものだから、学校にもそれなりの設備が必要になるワケ。
 講義には撮影の実習もあるから、普通の教室の他にスタジオとかも必要になってくるしね。ただ教室で講義するだけの文学部や経済学部とかとは、まるで違うんだよ。
 その学費を払うだけのお金など、黒沢の家にはとても無かったんだよね。
 それで黒沢が「日芸に絶対行きたい!」と言い続けては、両親には「そんなのダメだから」って言われ続ける……って繰り返しだったな。現実を見ないで夢を語っていられる高2の頃くらいまでは、まあそんな感じでさ。

 その頃の黒沢は、写真家以外の未来なんて本当に何も考えて無かったよ。そして模試でも結果は常にA判定で、合格確率75%以上だったんだ。なのに「日芸なんて無理だ」と言われても、そう簡単に諦められるものじゃないじゃん。
 でも3年生になって、いよいよ現実も見据えて考えなきゃならなくなった時、黒沢は志望校に日芸と書くのは止めたよ。
 両親には、ただ「ウチには無理、絶対ダメ」としか言われなかったけどさ。でも「写真家だなんて、そんなバカな夢みたいなことを言ってるんじゃない!」とか、自分が描いていた未来を頭ごなしに否定されたりはしなかったよ。
「普通に堅い仕事に就くことを考えろ!」っていうんじゃなくて、「出来れば夢を叶えさせてやりたい、けど本当に無理なんだよ」みたいな、親としても辛く思ってる感じが、言葉には出されなくても痛いほど感じていたし。家の経済状態だって、黒沢なりに理解もしていたしね。
 だから親に説得される前に、黙って自分から志望校と希望の学部を変えたんだ。

 写真関係の学部が無理としたら、「次に好きで興味があるのは何だろう?」って考えてみて。で、まず思い浮かんだのが、史学科の日本史専攻コースだったんだよね。
 と言っても、それで「写真家になりたい!」って意志を捨てたわけでは全然なくて。
 大学時代って、それまでと比べて自由に使える時間が信じられないほど多くなるよね。それ以後の社会人の暮らしと比べても、もう天国みたいなものだし。
 その学校や学部にもよるだろうけど、まず夏休みが二ヶ月以上あるし、冬休みも一ヶ月近くだし。春休みだって私大では、入試の関係で二ヶ月近くあるし。それ以外の学期中だって、講義をうまく固めて取れば、実質週休三日にだって出来るし。
 だからその自由になる時間を有効に使って、「バイトして資金を稼いで、独学で写真の勉強を続けよう」と思ったワケ。で、卒業までの四年間に良い写真をいっぱい撮り溜めて出版社に売り込んで、自力で写真家になってやろう……なんて思ってた。

 高校時代の恩師だったある先生が、「若さはバカさだ」と口癖のようにおっしゃっていたけれど。若い頃の黒沢のバカさって、今振り返ってみるとホントに怖いくらいで、とても笑うどころではないよ。
 だからその時もまだ「将来の希望は写真家」で、歴史学者になろうとか社会の先生になろうとか、それらしい将来は全然考えて無かった。歴史が大好きなのは事実だけれど、史学科に進学したのは「大学に籍を置く都合上」みたいな感じだったんだよね。
 だから黒沢は大学受験にも、ジョッキに注いだまま放置したビールみたいに、生ぬるく気が抜けた感じで臨んでいたんだろうと思う。

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お受験(4)・受験会場で、女子がちゃんと女子に見えてマスカ?

 でも受験ってさ、「ただ必死に頑張りさえすれば結果が出る」ってワケでもないんだよね。
 例えば只今絶好調の八番バッターと、スランプの最中の三番バッターとで、「今日の試合で打てる確率」はどっちの方が高いと思うよ?
 受験もそれと同じでさ、実力があっても当日に具合が悪けりゃダメだし、過去の模試の点数では少し足りなくても、たまたま問題と相性が良くて実力を百パーセント出し切れれば、難しい所にも受かったりしちゃうんだよね。

 受験に出てくる内容って、大半が学校なり塾なりで既に勉強済みのことじゃん。だから授業で聞いた事を思い出せさえすれば、きっとデキる筈なんだよ。
 その「確か前にやったこと」が、何故記憶の中からスッと出て来ないのか。それはね、平常心が足りないからなんだよ。
 いざって時に「デキないよぉ、わかんねー、ココも落ちたらどーしよー」とか焦ってたら、思い出せるものだって頭の中から出て来なくなっちゃうよ。

 かなり昔、巨人のエースだった堀内がさ、登板する前はいつも座禅を組んで、無心になってからマウンドに向かったんだって。勝ちたい勝ちたいと力むのでも、打たれたらどうしようと焦るのでもなく、ただ“無心”で試合に臨むんだって。
 その話を聞いた黒沢は、テスト前の休み時間に教科書やノートを見直すのを止めて、目を閉じて瞑想するようにしてみたのだけれど、やってみるとコレがなかなか良いんだな。「おかげでより良く思い出せるようになった」とまでは断言できないけれど、少なくとも焦ったりも不安になったりもせず、平常心で問題を解けるようになったのは確かだよ。
 
 大体さ、テスト直前のたった十分程度の休み時間に、試験に出る範囲全部を見直そうなんて、とても無理な話だから。意味ナイって言うより、逆に「ココもわかんねー、コレもまだ覚えてなかった!」って自分のデキの悪さに気づいちゃうくらいで、むしろ余計に自信を無くして焦っちゃうのがオチでさ。
 特に受験の場合、それまでの三年間に勉強させられてきた教科書や参考書を積み上げてみてごらんよ。テスト前の僅かな休み時間に見直した中身が得点に結びつく可能性なんて、殆どゼロに近いから。

 受験でも学校の定期テストでも、直前の休み時間に最後の一秒まで必死に教科書や参考書にかじりついてるヤツが多いけどさー。黒沢はテキストもノートもあえて開かないで、心をリラックスさせて平常心に戻ることに努めるようにしていたよ。
 例の「不調の三番バッターより、絶好調の八番の方が今日の試合で打てる確率は高い筈」って理屈を、テストや受験に置き換えて考えみて。
 例えばキミの実力が七〇点くらいだとしたら、百点取るのは無理だとしても、せめて八〇点や七五点に上げたいと思うよね。
 けど「実力そのものを上げる」ってのは、容易な事じゃない。
 だったらどうするか? その七〇点っていう自分の実力を、百パーセント確実に出せるようなコンディションに持って行けば良いのだよ。
 平たく言えば、ちゃんと寝て元気でリラックスして、平常心で試験に臨めるような状態を作れ……ってコト。

 だってさ、受験って二月とか三月とかの、元々風邪をひきやすい時期だよ? それどころか、インフルエンザだって流行してたりするじゃん。
 そんな時に無理して睡眠時間を削ってガリ勉した挙げ句、免疫力を落として受験の当日に風邪でも引いてたら、それこそそれまでの努力が台無しじゃんか。

 わかるかな、こんなに頑張ってる俺カッケー」って自己満足するんじゃなくてさ、現実に結果を出すことの方が大事なんだよ。
 九〇点取る実力があっても、受験当日に風邪を引いたり腹を下したり不安で焦りまくってて、実際のテストでは七〇点とかそれ以下だったりするなんて、ホントによくある事でさ。
 けど実力は七〇点レベルでも、当日のコンディションが万全なら確実に七〇点取れるし、運に恵まれて問題との相性が良ければ八〇点やそれ以上取れることもあるものなんだ。

 それまで頑張ってたのに受験で実力を出せない要因なんて、ホントいろいろあってさ。例えば緊張するとトイレが近くなったり、お腹を痛くしたりする人って少なくないよね。
 で、そういう人が「ちょっとでも長く見直しておこう」なんて思って、休み時間にトイレにも行かずにテキストとか見ていたら、さあ、その後どーなると思うカナ?

 ちょっと想像してみてごらん、「受験の真っ最中に、もしトイレに行きたくなったら?」って。
 暗記がメインの科目なら、まあビンボー揺すりしながらでも、それなりに頑張れるかも知れないよ。けど数学とかじっくり考えることを求められる問題に関しては、結果はまず致命的だよね。
 実力はあっても、たった一回のオシッコで落ちてしまう事もあるのが受験なんだよ。だからただ実力をつけるだけじゃなくって、メンタルな面も含めて体調管理もすごく大事なワケ。
 当日風邪を引いていて、熱や鼻詰まりで頭もポーっとして……なんてのは論外だけど。問題用紙が配られる一秒前までテキストを開いてなければいられないような精神状態じゃ、平常心とは程遠いし、実力を出し切れるとはちょっと思えないな。

 ズバリ言って、受験会場に行って周りの女の子(異性)が目に入らないようじゃダメなんだよ。「あ、斜め前の席のコ、可愛いじゃん」とか思って、その子との楽しいキャンパスライフを妄想できるくらい気持ちに余裕が無いと、それまで頑張ってきた実力は出し切れないんだよね。
 黒沢自身について言えば、テスト前に瞑想して無心になる習慣をつけたら、テスト直前に焦ることなど全然無かったね。もちろん自分の実力に自信の持てないこともあったけど、そんな時には“ダメもと”で肚をくくってた。
 だから当然、周りの女の子も女の子にちゃんと見えてたし。
 瞑想で無心になれたその次には、周りの可愛い女の子を眺めてヘラヘラしてられるくらいになれてさ。

 ……えっ、コレってもしかして、いや、もしかしなくても「無心」じゃなくて「邪念」なのかな。

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お受験(3)・何とも理不尽なルート分岐

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(2003/02/27)
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 ただこの『Iris』、各ヒロインのルートへの分岐がちょっと(かなり?)理不尽だから。
 人間って社会の中で集団生活しているワケだから、「他者への気配り」ってのが当然必要になってくるよね。現実問題として、もし「好きな異性にだけ優しく気配りして、でも他の子には冷たくて無関心」ってヒトがいたら、男女問わず周囲の人達から「相手によって露骨に態度を変える、イヤなヤツ」として認識されてしまうと思うんだけど。
 でもこの「好きな子にだけ親切で、それ以外には無関心」って態度をプレイヤーに強要するゲーム、『Iris』を含めて意外に多いよ。
 この『Iris』を、黒沢はまず耒田姉の祐衣さんオンリーで攻略に行ったんだけど。なのにその「本命のコ以外は気にするな!」ってトラップに引っかかって、殆ど強制的と言いたいくらい強引に同級生の御堂東雲サンのルートに飛ばされて、そのまま東雲サンとのグッドエンドになってしまったよ。

 登場人物のうち、主人公とメインヒロインの末永さくら、そしてその親友の御堂東雲の三人は中学の同級生で、冬休みには一緒に勉強会をしちゃうくらい仲も良いワケ。
 さくらは前から主人公の事が好きで、それはもう態度で見え見えなんだけど、主人公は超鈍感でナゼか気づかないというお決まりの展開で。そしてさくら自身も、ギャルゲーにありがちな大人しくて言いたい事も言えないウジウジ系だから、自分からコクるなんてとても出来ないままでさ。
 で、そのさくらとは対照的に元気で強気系な東雲サンが、それとなく親友をサポートしつつ、いつも一緒に居て……みたいな感じなワケね。
 このね、主人公と東雲サンは「恋愛感情の有無はともかく、初めから仲の良い友達だった」って部分をまず頭に置いて、話の続きを聞いてほしい。

 黒沢が『Iris』をまずプレイした時、とにかく耒田祐衣さんに好感を持って、いろいろな選択肢はすべて祐衣さん優先で進めたよ。クリスマスのプレゼントもしたしデートもして、好感度も着実に上げていた筈だった。
 なのにたった一度、何故か寂しそうにしていた東雲サンのことを「どうしたんだろ?」って気にしただけで、そのまま御堂東雲ルートに一直線だよ。

 あのさ、これって浮気? これだけでフタマタ認定でアウトなの?
 だって東雲サンは、主人公と同じクラスの仲の良い友達なんだよ。そんな子が寂しそうにしていたら、恋愛感情は無くても「どうしたんだろ?」って気にするのが当たり前じゃないのかな。
 って言うか、同じクラスの仲の良い友達が、いつもと違う様子なのに気にしない」って方が、人としてどうかと思うのだけど。

 浮気とかフタマタって言うのはさ、「好きな人以外の異性と二人きりでデートした」みたいな場合であってさ。ただ一度ちょっと気にしたからって、好きで気があると認定されちゃったらおかしいよ。
 繰り返し言うけど、黒沢はそれ以前の選択肢では全部耒田祐衣さん優先で、祐衣さんとのイベントは全てこなしてきたし、フラグだってしっかり立ててきていた筈なんだよ。

 もう一人、同じようなパターンで金矢真奈美さんという同級生とも、たった一つの選択枝で決定的なフラグが立っちゃうんだけど。
 ただこの金矢さんと東雲サンでは、その意味が全然違うんだよね。
 だって金矢さんも同級生ではあるけれど、それまで仲が良かったわけではまるでなく、友好度も低めなんだよ。にもかかわらず「気にして声をかける」という選択をした場合は、重い意味がある(好意がある)と判断されても仕方ないよね。

 まあね、主人公は中学生って設定だから、まだ社会性も無く、好きな子の事しか目に入らないものなのかも知れないけど。だとしても、このシナリオを書いた人もコレでOKを出したプロデューサーも、「現実の恋愛をあまりしてないか、常識レベルの周囲への気配りもできない人なのでは……」って言いたくなっちゃうよ。
 で、ワケもわからないうちに東雲サンとのグッドエンドになってしまった後、また最初からやり直して何とか祐衣さんとのエンディングに辿り着いてさ。
 そして次は耒田姉妹の妹の、美卯ちゃん狙いでやってみたんだよ。そしたらまた同じパターンで、どう考えても決定的な要因とも思えない妙な選択枝一つで、まるで意中でないヒロインのルートに放り込まれ、そのままエンディングを迎えさせられてしまいましたとさ。
 ……そんな感じでこのゲーム、周囲に常識的な気配りをするタイプの冷静な人には、何とも気分の良くない理不尽さをたっぷり感じさせてくれマス。

 耒田姉妹はとても可愛くて、それだけでもプレイした価値は十分以上にあったと思ってる。けど「他の友達や恩ある人の事などどーでも構わない、ただ好きな子の事だけ見てりゃいーんだよ」みたいなノリのこの『Iris』のルート分岐は、黒沢としてはやはりどうしても納得できないよ。
 しかもそのお相手ってのは、そこまで好きで大切な子の筈なんだよ? なのにデートしたりイチャイチャするのに、いちいち「受験がどうの、勉強がどうの」と勿体つけるあたりにも、「結局オマエが一番大切なのは、オマエ自身の受験かよ」なんて悪口の一つも言いたくなってしまう黒沢デシタ。

 うん、この『Iris』の主人公は確かに真面目なんだけど、ホント“ガキ”なんだよね。意中の人以外には冷たいって言ってもイイくらい鈍感な上に、世間の常識や教師が決めたルールから踏み出せないタイプの、悪い意味で真面目なヤツって感じだったよ。

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お受験(2)・『Iris』は祐衣さんの可愛さだけでおススメです

 前にも度々触れたように、前世紀の古いギャルゲーには「勉強ギライで喧嘩が強くて、スケベでガキくさい悪ふざけばかりしてるのに、何故かモテモテ」って主人公が多かったんだよね。破天荒と言えば聞こえは良いけれど、ぶっちゃけ言えば殆どDQNって感じ。
 その当時は、オタクなんて言葉すらまだ一般には認知されていなかったからね。だからゲームの作り手達も、昔の少年マンガの主人公みたいなタイプを、そのまま「プレイヤーがなってみたいと憧れる男子の姿」として想定していたんだと思う。例えば本宮ヒロシの『俺の空』とか、『男一匹ガキ大将』みたいな感じの……。

 でもギャルゲーをやる層って、基本的にヤンキーやDQNは好きじゃないからね。だから主人公が不真面目なDQN系だと、どうしても感情移入しにくいワケで。
 黒沢もDQN系は大キライだよ。学生時代にはヤンキー系やDQN達に度々絡まれて、時には殴り合いの喧嘩も避けられなかったし。
 もちろん喧嘩なんかしたくないさ、でも絡まれた時に反撃しないで一度でも言いなりになったら、その後はずっとそいつらのドレイにされちゃうからね。だからイヤでも怖くても、身を護るためには反撃しなくちゃならなかったの。

 そーゆー体験から、黒沢は性善説も憲法第九条もバカらしいと思ってるんだけどね。「悪いヤツは間違いなくいるし、反撃せずに言うなりになってると、相手は頭に乗ってもっとイジメて来る」ってのは、子供にもわかる現実だよ。
 何しろ黒沢はチビだったから、悪いヤツのイジメにも遭いやすくてね。それでも何度も痛い目に遭いながら戦って来た分だけ、「ヤンキーやDQNはキライ」って気持ちは、関わり合いにならないようにして上手くやり過ごしてきた他の生徒達よりずっと強いよ。
 だから「主人公が悪ふざけが好きでケーハクなDQN系」ってだけで気持ちがかなり醒めて、そのゲームをやり続けるのが厭になっちゃう。

 一般には人気の高い『この青空に約束を』の主人公も、黒沢から見たらウザいDQN系に思えてしまったし。
 同様に『FESTA!』も主人公にどうにも共感できず、主人公としてプレイし続けることが苦痛でたまらなくなって、ゲームを始めて一時間も経たないうちに放り出してしまったよ。
 KIDの名作『メモリーズ・オフ』シリーズも、シリーズ第一作だけは主人公の智也のキャラがガキっぽい上にDQN臭く感じて、どうも苦手だったし。

 それだけに、『Iris』ってゲームのユーザーレビューに「主人公が真面目すぎるのが気に食わない」と書かれていたのを目にした時には、「は? 何なのこのアホは」って思ってしまったよ。コイツも、例のバカで悪ふざけばかりしたがるDQN系の主人公が好きなのかよ……って。
 そんな時に、その『Iris』の初回限定版を、某中古ゲーム店で五百円以下で見つけてしまってさ。早速買って、試しに自分でもプレイしてみたんだよ。
 その最初の感想だけど、ズバリ「主人公が真面目すぎるのが気に食わない」デシタ。もう「アホだなんて思ってしまって、名も知らないレビュアーさんゴメンなさい」って感じだったよ。

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 端的に言うと、そのレビュアーは「DQN的かどうか?」という意味ではなく、「先生(大人)の言いつけや世間の常識に、バカ正直に従っちゃうような良い子チャンかどうか?」って意味で“真面目”という言葉を使ってたんだよね。
 ゲームの始まりは中三の十二月で、だから受験は目の前だし、けど年頃なんだから、気になる女の子くらい当然いる。で、「恋を優先させるか、それとも受験の方を取るか」の板挟みで悩んで葛藤するのかと思えば、案外そうでもなくて。

 気になる女の子との勉強会。
 可愛い女の子達とのクリスマス・パーティー。
 旅行で両親が不在になるからと、家で預かって一緒に暮らすことになる隣の家の幼なじみの女の子。
 こんな美味しすぎるイベントが次々と発生しても、主人公の頭は常に女の子より受験に向いていて、「勉強しなくちゃ」と思い続けてさ。それどころか、時には相手の女の子を「勉強の邪魔」みたいに思ったりもするんだよ。
 もう、常時「こんな時期に恋などするなんて不真面目だろ」って感じで、ある意味吉田松陰タイプのクソ真面目さなんだよね。「恋も受験もどっちもGETしよう!」なんて器用さはカケラもない主人公だ……って事は、プレイしていてよくわかるよ。

 とは言うものの、この『Iris』の主人公を「吉田松陰のかなりな劣化版」と言ったりしたら、本物の吉田松陰さんに随分と失礼な気がしてしまうよ。
 だって吉田松陰の場合は、生涯遊ばず女も寄せつけずにいたけれど、それには「お国の為に働く」って大目的があったからで。でも『Iris』の主人公には、その頑張る目的ってのが無いんだよ。
「検事になって悪と戦いたい」とか、「医者になって人の命を救いたい」とか、ちゃんとした目的があって真面目に勉強してるんじゃなくて。ただもう「受験期だから頑張るべきと思って勉強してるだけ」って感じなんだよ。

 でさ、「ならば本当に女の子に目もくれずに、ストイックに勉強し通すか」と言うと、案外そうでもなくて。建前だけ真面目なフリしながら、クリスマス会だのデートみたいなのは、相手の女の子に押されて仕方なく」みたいな形で、結局は応じて楽しんじゃうんだよね。
 ま、「人間なんて弱いものだし、そんなもの」ってトコなんだろうけど。でも傍から見たら、「オマエ何様だよ、いちいち勿体ぶってエラそうにしてさ。どうせ遊ぶなら“仕方なく”みたいなポーズを見せたりしないで、気になる女の子に誘われたなら喜んでOKしろよ!」って感じだよ。

 もし黒沢だったら、気になる女の子に誘われたら即OKして遊んじゃって、その分の勉強は後で倍くらい頑張って取り返すけどな。
 実際、黒沢も中三の受験期に気になる女の子に遊びに誘われた事があってさ。その時は迷わずOKして、親に怒られようが構わずデートに出かけたよ。
 気になってた女の子の方から誘って貰えてさ、なのに受験だの何だのとゴニョゴニョ言いながら結局OKするなんて、シナリオライターは「主人公の恋と受験との葛藤の部分」のつもりで書いたのかも知れないけれど、傍から見れば「いちいち勿体つけて、恩着せがましく誘いを受ける失礼なヤツ」でしかないから。

 うーん、『Iris』の主人公って悪いヤツじゃないんだけど、人としての器が小さめと言うか、何か小市民的な真面目さなんだよね。
 ま、だから「平凡で気が小さくて、けど真面目で学校の成績も良い方で」みたいな人がプレイしたら、案外共感できるかも知れないな。

 と言うワケでこのゲーム、黒沢としては積極的にはお勧めしかねるかな。
 何しろ主人公も、攻略対象のヒロインたちも大半が中学生だからね。他の高校生や大学生を主人公やヒロインにしたゲームと比べて、起きる事件も登場人物達が抱える問題も小さく甘くなりがちで、そういう意味でも大人のプレーヤーには物足りないのではないかと思う。

 この『Iris』、主人公が真面目な小人物ってだけでなく、ヒロインも大人しくて女らしく「言いたい事もなかなか言えずにウジウジ」ってタイプが多いからね。だから「実年齢=彼女いない歴のドーテー君」でも、安心してプレイできると思う。
 何たって『夢見師』や『スクール・デイズ』その他のゲームみたいな、重すぎる過去を抱えたヒロインによる鬱展開とかも無いしね。けどその分だけ、現実の恋の痛みも知る大人には甘口過ぎちゃって。
 だからズバリ、「真面目な中学生と、まだ恋と女の子に夢を抱けるピュアな人向け」って感じかな。

 ただ黒沢は、「買って損した!」とまでは思わなかったなー。だってヒロインの一人の耒田美卯がゲーム中で愛用しているマペット同梱の初回限定版が、五百円玉でお釣りが来る値段で出されていたんだよ? となれば、「もう買うしかナイでしょ」って感じで……。
 ちなみにゲーム自体は中古品だけれど、同封されてた特典のマペットは未開封のままだったよ。
 あと、ヒロインのうち耒田姉妹の姉の祐衣さんが、黒沢的に超ど真ん中のストライク・ゾーンでさ。隣に住んでる幼なじみの女子高生で、明るく元気でいつも笑顔で、一つ年上だからとお姉さんぶってるのだけど、見ていて危なっかしくて目を離せない……って感じでさ。

 黒沢には現実に姉が居て、そのせいで姉キャラや年上キャラが大の苦手になってしまったことは、以前にも話したけれど。この『Iris』の耒田祐衣さんは、姉という存在に幻想のカケラも持てずにいる黒沢に「こんなお姉さんならマジで欲しかった!」と心から思わせた、数少ない姉キャラの一人なのでアリマス。
 ストーリーは子供向けで物足りないし、主人公には感情移入しにくい上に、ヒロイン達も半分は苦手なウジウジ系の“察してチャン”タイプと、マイナス要素なら幾らでもあったよ。でも黒沢としては、「耒田姉妹の姉の祐衣さんをプレイできただけで、もう十分満足!」って感じだったな。
 ま、定価の七千八百円で新品を買わされていたら、きっと「ボッタクリだ!」と腹を立てていたと思う。けど中古品をワンコインで手に入れた黒沢としては、「ありがとう」って正座して頭を下げて感謝したいくらいだったよ。

 そうそう、耒田姉妹は妹の美卯ちゃんも、なかなか可愛くて良かったデス。黒沢は大人しくてウジウジ系ヒロインは苦手だし、年増趣味も無いものだから、メインヒロインと他一人は攻略しないままプレイするのを終えてしまいマシタ。「耒田姉妹以外は、もうイラネ」って感じでね。
 あとね、耒田妹の方の中の人は、何と釘宮理恵さんなのだ。ハイ、声優の世界ではツンデレ女王として知られている、あのお方デス。
 でも美卯ちゃんのキャラはツンデレとは程遠くて、無口でちょっと不思議な感じのとにかく可愛い“妹”なんだよ。で、ややゆっくり目に、甘く柔らかく喋ってね。
ゼロの使い魔』のルイズとか『ハヤテのごとく!』の三千院ナギ様とか、今は「ツンデレキャラの声と言えばこのヒト!」という感のある釘宮理恵さんが、可愛い妹キャラにどうなり切ってるかを聞いてみるのもまた一興と思うよ。

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