空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

大失恋(5)・修学旅行の風呂覗きはリアルにはあり得マセン

 そうそう、アズサは所謂“ボクっ娘”でさ。普段は自分のことを普通に“ワタシ”って言うのだけれど、親しい相手と二人で話す時だけ、一人称が“ボク”になるんだよね。
 ちょっと想像してみてほしい。ガサツで色気の欠片も無いような周りの女子たちとはまるで違う、顔形も仕草もそれこそ女らしさの塊のような美少女がさ、黒目がちの瞳でじっと見詰めて微笑みながら、可愛い声で「ボクは……なんだ」みたいに囁きかけてくれるんだよ?
 まあね、ボクっ娘も今ではそう珍しくもないかも知れないけれど。前世紀の、しかも萌えなんて言葉すら無かった昭和の時代にコレは、なかなか斬新だったんだよ。

 う……わ、ちょっとイヤな事を思い出してしまったよ。
 黒沢お気に入りのゲームの一つに『初恋』ってのがあって、それについては「妹について」の章で既に紹介済みだけれど。
 その中でも黒沢が大好きになっちゃったのが、椎名柚純ちゃんっていう“ボクっ娘”なんだよね。で、思い出して較べてみるとさ、アズサの声や喋り方ってこの柚純ちゃんの「ボクは……なの」みたいな感じと、ホントにもう似過ぎてるほどそっくりでさ。
 そして柚純ちゃんは主人公を名前(一樹クンとか)でなく“キミ”と呼ぶのだけれど、そうした所までアズサと同じだったよ。
 その喋り方だけじゃなく、物静かでどこか儚げで、つい守ってあげたくなっちゃうような雰囲気まで、アズサは『初恋』の柚純ちゃんによく似ていたよ。

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 初恋、か……。甘酸っぱい想い出になる程度の淡いものでなく、心がズタズタになり人生も変えてしまいかねないような本気のものだけに限れば、黒沢の初恋の相手ってこのアズサかも知れないな。
 例えばリホさんとか元々ボーイッシュな子が一人称を“ボク”にしたとしたら、違和感もなくハマり過ぎちゃって、別に何も感じなかったと思う。けど物静かで女らしさの塊みたいなコに、甘く可愛い声で繰り出される一人称のボクの破壊力って、それこそもう核ミサイル並に圧倒的だよ。
 黒沢はどーも、そのテのボクっ娘にはかなり弱いようでさ。平成の今世紀になってからも、また別なボクっ娘に痛い目に遭わされる羽目になるんだよね。

 にもかかわらずボクっ娘は、今もまだ黒沢の好みで弱点らしい有り様でさ。その証拠に例の『初恋』では、可愛いボクっ娘の柚純ちゃんに一発でハマってダントツで好きになってしまうし。
 だいたい黒沢が『初恋』を良作ゲームとして推しているのだって、メインヒロインの小桃先輩ルートや妹の杏ルートの、大人向きで泥沼テイストなストーリーの面白さもあるにしても、動機の大半は「柚純ちゃんのキャラの可愛さに惚れてしまった」からだしね。
 白状シマス、たった今だってもし柚純ちゃんに似た可愛いボクっ娘が目の前に現れたら、正直に言って懲りずにまた好きになってしまうと思うよ。リアルの世界に存在するボクっ娘は、九割五分以上が男を手玉に取り慣れた危険な性悪チャンなんだとよくわかってる今でさえ、ね。
「オイオイ黒沢よ、オマエも少しは失敗から学べよ」って、ホントにもう自分でも思い切りツッコミたくなっちゃうけれど、そのもう一人のボクっ娘についての話は取りあえず脇に置いといて、今はアズサとの話に戻るね。

 中学三年生にとって最大のイベントと言えば、受験と卒業を除けば修学旅行でまず間違いないよね。
 修学旅行って、イメージとしては何となく秋っぽい気がしないかな? けど黒沢が育った市では、「受験に影響させないように」って教育委員会のありがた~いご配慮のせいか、どの中学も一学期のうちに修学旅行を済ませちゃってさ。
 でさ、黒沢のいたU中でも、修学旅行と言えば毎年六月だったよ。
 ……六月って、どう考えても梅雨の時季のど真ん中なワケじゃん?
 おかげさまで黒沢の中学の修学旅行の間は、ホントにずっと雨か曇りだったよ。その時の写真を、コレを書くにあたって改めて見直してみたけれど、青空の写真はマジで一枚も無かったね。

 黒沢たち生徒らにしてみれば、「秋じゃ遅すぎるなら、いっそ五月の連休のすぐ後とか、少なくとも梅雨に入る前に行かせてくれてもいいダロ」とか言いたくなっちゃうよ。
 ただ建前としては、修学旅行も学習の一環だからさ。だから見て回る先についていろいろ調べて、クラスごとに『修学旅行のしおり』を作ったり、自由行動で行く場所についても、班ごとに計画とか立てなきゃならないワケで。
 それにはそれなりの手間と日にちも必要だし、準備が整うのはどうしても五月末か六月の初めになってしまうのもわかるけどね。
 でも「だったらいっそ既に梅雨の過ぎた沖縄か、そもそも梅雨の無い北海道にでも行かせろや」と言いたいところだよ。

 そうそう、沖縄に行くのに一番良い時期……って、本土の人達が行きがちな夏休みではなく、実は六月なんだそうだよ。
 黒沢の血のつながりの無い妹ちゃん一号(←詳細は妹についての章をご覧下サイ)が、沖縄生まれの女の子でさ。
 その妹ちゃんが言うには、「真夏の沖縄は暑すぎるから、夏休みに来るのはお勧めしない」って。で、六月の沖縄は梅雨も明け、暑過ぎない程度に夏らしくて、海も楽しく泳げて最高なのだとか。
 さらに妹ちゃんは、「真夏は昼間は暑すぎるから地元の人はあまり外に出ないで家で寝てて、そして日が落ちたら遅くまで夜遊びするの」って。
 遅くまで夜遊び……って、ハイ、お察しの通り「だから妊娠しちゃう子とかもいて、秋とかになると高校のクラスでカンパの袋が回ったりするんだよねー」なんてコワい事も言ってたな。
 あ、その妹ちゃん自身は地元のN高を卒業して本土に出て来るまでずっと処女で、「ワタシはそーゆーいい加減なのイヤだから、カンパとかも一切協力しなかった」そーですが。

 それはともあれ、高校とかの修学旅行なら海外も当たり前だけれど、市立の中学のしかも二泊三日の修学旅行で遠くになど行ける筈もなく、行き先はまあ京都&奈良って定番のヤツだったけどね。
 それでも修学旅行、すっごく楽しみだったよ。何たって好きで好きでたまらなかったアズサと、クラスの皆と一緒とは言え、一緒に旅ができるんだからね。つーか、当時の黒沢はほぼアズサのことしか頭に無かったから、他の連中のことなど目にも入って無かったんだ。

 で、梅雨時に出かけた黒沢の中学の修学旅行は、初日から見事に小雨だったよ。けれど黒沢自身の気持ちは晴れ晴れとして、浮かれきっていてさ。
 初日は新幹線で京都に行って、その時の写真を見直してみると金閣や銀閣とかを回ったようだけど……マジで全然覚えてねーよ。何しろ黒沢の目も意識もアズサに吸い寄せられておりまして。
 ただ残念ながら黒沢の中学では、修学旅行の班は男女別だったんだよね。宿での部屋割りを、そのまま一緒に行動する同じ班にして……って関係でね。
 だから残念ながら、アズサともあまり話せずに遠くから眺めるしかできない事が多くてさ。

 何しろ田舎の中坊が修学旅行に期待するコトと言えば、まず女の子がらみだからね。男の子向けのマンガやアニメによくあるように、「憧れのあのコと旅先で二人でラブラブ、イチャイチャ→ムードが盛り上がったところで勢いに任せて告白」みたいな……。
 だからこそ学校側も、修学旅行での班はあらかじめ男女別にして、自由行動させても“間違い”とか起こせないようにしていたのだろうけどね。
 でもさ、お陰サマでその二泊三日の間ずっと、同じ面子のクラスのヤロー共と顔を突き合わせている羽目になっちまったんだから、思春期のリピドーを持て余してる中坊の男子のコチラはたまらねーよ。
 行き帰りの新幹線や移動のバスの中でも隣はもちろんヤローだし、風呂も含めて起きてから寝るまでずっと同じヤロー共と一緒だよ。ホントむさ苦しくて暑苦しくて、何か男子の運動部(←それも女子マネ0人)の合宿みたいな感じでさ。

 その修学旅行での宿泊先は、二泊とも同じ京都の全国チェーンのホテルだったのだけど。
 風呂覗き? ねーよ、そんなん
 だって一学年九クラスの生徒たちプラス引率の教師みたいな団体客も、フツーに泊められちゃうようなホテルだよ。建物自体も鉄筋の十数階建てで、その高いビルの上層階の風呂を、どう覗くと言うのだね? スパイダーマンとか、透明人間でもあるまいし。
 言うまでもなく浴場は男女別の違う場所で、入り口にはしっかり見張りの先生も居たから、間違えたフリをしてドアをガラリ……と言うのもナシだよ。

 男の子向けのマンガとかでは、修学旅行での風呂覗きは定番だよね。けどソレは、現実にはかなりレアケースだと思うよ。
 宿が田舎の古い旅館で建物も低層で、壁に隙間があったりベランダか庇を伝って忍んで行けたりして、しかも教師の監視や従業員のガードも緩い……というくらいの好条件でも重ならない限り、「女子のお風呂が覗けチャウ」なんてまず有り得ないね。
 だから修学旅行の風呂覗きは二次のセカイ限定の、「チェリーな中坊&男子校のボーイズ限定のロマン」と理解しておいた方が良いかも。
 あ、でも黒沢の知り合いの女の子に「高校の修学旅行で、男子にお風呂を覗かれてたみたい」というコが一人だけ居たから、風呂覗きも皆無とは言い切れないかもね。
 ただそのコの場合も「後になって噂を人づてに聞いた」のであって、「覗かれているのを見た」とか「犯人が特定されて捕まった」ワケではないからね。あくまでも「……らしい」というレベルの、実体験とも言えない噂の域の話だよ。

 風呂覗きと並ぶ修学旅行の都市伝説(?)の定番と言えば、他校のDQN系な奴らとのケンカだけれど、幸いというかコレも無かったなー。
 京都や奈良の寺社をあちこち巡るうちに、同じように修学旅行で来ている他の中学校とも何度か遭遇したりはしたよ。けど擦れ違った後でヒソヒソと、「○×県の奴ら、コエー」とか「睨まれちまったゼ」とか、まあそんな程度でね。

「つまんねーぞ、コラ」って? うん、黒沢もそう思うよ。良い若い衆が昼間は寺社巡りで、宿に帰っても同じメンツのヤローどもと一緒でさ。
 中坊の男子が夢に見るような、ちょっとHな少年マンガにありがちな甘々な展開などドコにアリマスカ、って感じでさ。
 だから夜はホテルに帰る度に暴れたよ、同じ部屋のヤローどもと、枕投げや布団蒸しをしたりしてね。

 ……いや、甘々とは言わないまでも甘酸っぱい程度のエピソードなら、ちょっとだけあるのだ。
 京都に着いて初めての晩、黒沢はホテルの売店でリホさんに呼び止められてさ。
ね、後で他の子たちも連れて、部屋に遊びにおいでよ
 行きたい行きたいと思っていた女子のお部屋に、女子の方から誘ってくれたんだよ? 「渡りに船」どころか、「猫に鰹節」って話だよねコレ。
 モチロン即OKして、部屋に駆け戻って皆に伝えたのだけど、「気が進まねえ、オレはいいや」とかスカしたコトを言うヤツなど居る筈もなく、皆でドヤドヤと女子の部屋に向かったよ。

 黒沢もそこは頭の中はアホなまでの妄想でいっぱいの中坊の男子だったからさ、胸の中は旅先でのキャッキャウフフのアバンチュール(笑)への期待で溢れんばかりだったんだよね。だからリホさんに誘われて改めて『修学旅行のしおり』を見直すまでもなく、女子たちの部屋の場所も番号も、既に完璧に記憶済みだったのだ。
 それにリホさんと同じ部屋にはアズサも居ることも、黒沢の頭のメモリーにしっかりインプットされていてさ。

 ただそれだけに、黒沢の行動はリホさんの予想より早過ぎたんだよね。
 女子の部屋に向かう男どもの先頭は、モチロンこの黒沢だよ。で、「来たよ!」って目指す部屋のドアを勢い良く開けた瞬間、黒沢の目に飛び込んで来たのは、ブラとかキャミとか、下着姿でお着替えの真っ最中の女子の皆さんデシタ。
 とーぜん、「バカっ」とか「スケベ!」とか罵声の集中砲火を一身に浴びながら、女子の部屋の前から追い返される羽目になりマシタよ。
 いや、「呼ばれて来たんだし」ってノックも無しにドアを開けてしまったのは悪かったし、「後で」って言われたのに「すぐ」行っちゃったのも悪かったよ。けど黒沢は、断じて着替えを覗くつもりじゃ無かったんだぁぁぁぁ(泣)。

 まあ口ではあれこれ言いつつ、女子たちもそのコトはわかってくれていたようだけどね。暫く後で改めて謝りに行ったら、あっさり許してくれて、型通りにトランプとかして一緒に遊んだよ。
 でも先ほど見てしまった光景は、黒沢の脳裏にしっかりと焼き付いたままでさ。
 実はドアを開けてしまった時、そのドアに一番近い所に居たのはアズサだったんだ。もうホントに手が届いちゃうくらいの距離で、バッチリ目が合っちゃったのさ。
 アズサは白いキャミ姿で、脱いだセーラー服を腕に目を大きく見開いて、声もなくただ頬をポッと赤く染めていたよ。

 そーゆー時ってさ、ヤバいとかこのドアを閉めなきゃとか思う前に頭も体もフリーズしてしまって、直ぐには動けなくなっちゃうんだよね。
 そして他の女子たちのギャーギャー言う声に、ようやく体が動いたのだけれど。
 その時もアズサは睨むでも起こるでもただ「え? ええっ!?」みたいな感じで、互いの目を見合っちゃってたよ。
 黒沢も今はスレてしまって、女の子の裸なんか珍しくも何ともないし、目の前で見たところで別にどうも思わないけど。何しろ当時はまだ中坊で、実年齢=彼女いない歴だったからね。
 しかも相手は、ホントに好きで好きでたまらなかった女のコだよ?
 その時のアズサの肌の白さや、キャミのレースや胸元のピンクの小さなリボンまで、今でもしっかり覚えていて「修学旅行の大事な想い出」になっちゃったりするんだから、セーシュンってホント、心底イタいしコワいね。

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大失恋(4)・ヤバいよ、マジで惚れちまった

 子供の頃ってさ、男女共に成績が良くて活発な子がモテる傾向があるよね。まあ勉強がダメでもスポーツが得意だとモテるし、少なくとも活発であれば(特にDQN系とか)お付き合いする異性に不自由はしないと思う。
 でも勉強もスポーツもダメで、しかも性格も大人しい子となると、顔立ちは良くても案外スルーされがちではないかな。アズサがズバリそのタイプで、黒沢だけでなくクラスの他の男子らにも殆ど注目されてなかったよ。

 けど同じ班の隣の席になって初めて気がついたのだけれど、アズサって傍でよく見るとものすごーく可愛いんだよね。
 以前の幼なじみの章で話した、生まれつき色素が薄くて天然の栗色ヘアで、肌も抜けるように白いカナコちゃんほどではないけれど。アズサもかなり色白で、髪も栗色っぽいタイプでさ。で、その髪も細く柔らかでフワフワとして、目もばっちりとして黒目がち、そして小さな唇は桜色で……って感じ。
 パッと目立つ派手さはないのだけれど、スッキリ系の整った顔立ちで、近くで意識して眺めてみるとホント、絵に描いたような美少女なんだよねぇ。

 もちろん社会に出ていろいろ経験を積んだ、大人の女の人は別だよ。けどまだ若いうちと言うか学生レベルで言えば、勉強がダメな女子って、いくら顔はキレイでも「実際に喋ってみるとガッカリ」って場合が少なくないよね。
 ガサツで下品ですごくウルサくて、とても女とは思えないようなシロモノだったり。
 でなければ、お仕事として演じてるタレントのおバカキャラとはまるで違う、まともに会話も成立しにくい本物のバカだったり。
 けどアズサは、そのどちらでもなくてなくてさ。

 アズサはクラスでも居ても居なくてもわからないほど静かで目立たなくて、大きな声を出したり騒いだりすることなど、黒沢の知る限りホントに一度も無かったよ。けど話しかけてみると、意外によく喋ってくれるんだ。
 聞き上手、って言うのかな。いつも口角を上げて笑顔を絶やさないでいる感じで、話しかけると微笑んで頷きながら聞いて、柔らかな可愛い声でちゃんと答えてくれるんだよね。

 中学生くらいの女の子って、ちょっと目立つくらい可愛い子だって「持って生まれた顔立ちで勝負!」という感じで、女らしさとか色気など殆ど無いようなものじゃん?
 特にリホさんやナカノさんのような頭も良い系の美少女だと、男を男とも思わないで、上から目線の命令口調でモノを言ってくるし。で、それ以下の顔も頭も良くない層の女子たちとなると、ホントにもうオバサン予備軍そのものの騒々しさと下品さを周囲に撒き散らしていてさ。
 でもアズサは違うんだよ。こちらを黒い瞳でじっと見つめて微笑みながら(基本はアヒル口)、囁くような甘く可愛い声で喋るんだよね。
 ……ドーテー君の中坊が、コレを美少女にやられてごらん。ほぼ間違いなく、魂を持って行かれて虜にされてしまうから。だって女の子の甘く柔らかな声なんて、リアルな世界で初めて聞いたんだよ?

 今になって考えれば、アズサってどう見てもただ者ではなかったと思う。
 例えばアズサはかなり色白だったけれど、ただ白いだけじゃなくてメチャ肌がキレイでさ。何て言うのかな、肌のキメが細かくて艶がある……って感じでさ。で、頬の辺りには紅をさしたように、いつも僅かに血の色が浮かんでていてね。
 普段の動作もゆっくりで、けどトロいとか鈍くさいというのではなく、身のこなしすべてに妙に女を感じちゃうんだよ。
 少し前に、U中では月に一度全員参加の持久走があったことを話したけれど。でさ、遅い子がモタモタ走る姿って、男女問わず見苦しいものじゃん。顎を突き出して口元もひん曲げて、酔っ払いみたいにヨタヨタしちゃってさ。
 でもアズサの場合は、かなり後ろの方を少し眉をひそめて苦しげに走る姿さえ、何か色っぽいようにさえ見えるんだよね。

 何でかよくわからないけれど、中高校生くらいの女の子たちって、女子同士で時々脱がせっこみたいなコトをしたりするじゃん。
 黒沢のクラスの女子もさ、中三になってからナゼかその種のふざけっこをするようになって。それも百合っぽいじゃれ合いというのではなく、数人がかりで一人のコを捕まえて剥いちゃうんだよ。
 と言ってもセーラー服を脱がせかける程度で、見えちゃうのもブラくらいのものだけれどね。
 ただそれを、体育の着替えとか女子だけの時間にではなくて、ナゼか掃除の時間とかの男子も皆いる中でやるワケよ。

 うーん、その当時は「女子同士のふざけ合い」みたいな扱いで、クラスや学校で問題にもならなかったけれど。でももしかしたら、これって悪ふざけの域を越えた軽いイジメの一種だったかも、
 まあ当時はケータイなど存在すらしてなかったから、写メとかに撮られたりとか、それをネットにウプされるとかの心配も無かったし。
 それにあの頃の中坊の男子は、今時の子たちみたいに女の子に慣れてなかったからね。女の子の下着姿とか目の前で見せられちゃうと、逆に照れて見ないフリとかしちゃうワケ。喜んで「もっとやれ!」とかはやし立てるヤツなんて、マジで誰もいなかったよ。
 モチロンその剥かれた女子の胸元とかブラとか、見てないフリしながら横目で見て、脳内にしっかり焼き付けてマシタけどね?

 そのクラスの女子の脱がせっこで、剥かれるターゲットになりがなコって、不思議に可愛い系のコばかりでさ。
 例えばいつも元気で明るいスポーツ少女のユカさんとか、大人しくて目立たないけれどよく見ると色白美少女のアズサとか。
 だからその場に居合わせた男子たちとしては、見てないフリしながらもう、文字通り「眼福、眼福」ってヤツでチラ見して。

 ただいくら可愛くても、ナカノさんやリホさんはそのターゲットには全くならなかったなー。
 だってこの二人、怒らせるとマジで怖いから。
 ナカノさんの女王サマ気質については、もう顔の可愛さ以上に知れ渡ってたし。
 さらにリホさんときたら、黒沢を箒で追いかけ回してブッ叩いて、額を割って流血の惨事まで引き起こした過去まである(←詳細はお受験についての章にありマス)姐御サマだからね。
 だから女子たちもそーゆー虎の尾は踏まずに避けて、「本気の反撃や怖い仕返しは無さそうな、ちょっと可愛いコ」を狙っては、男子もいる中で剥いたりしていたのだ。

 この女子たちの脱がせっこが、クラスや学校で特に問題にならなかったのは、剥いちゃうと言ってもセーラー服の胸のホックを外しちゃう程度だったからね。最悪でもキャミ姿にさせちゃうくらいで、それ以上のコトは絶対してなかったよ。
 それに当時の中学は割と大らかと言うか、運動部なんかでは部室を三年生が占領しちゃって、「アンタら下級生は、外で着替えな」みたいな女子の部活もあったんだよ。うん、男子じゃなくてホントに女子の運動部でね。
 だからそーゆー運動部の一年や二年の女子は、毎日の練習の時は体育館裏とか校舎の陰とか、文字通り“外”で着替えさせられててさ。
 事実黒沢もさ、ホームルームのすぐ後に体育館の脇を通った時に、下はブルマで上はブラだけ……ってカッコで着替えてる女子に遭遇しちゃったコトもあったよ。

「チクショー、羨ましいゼ」って?
 いや、そうでも無いんだよ。だってそこから慌てて逃げ出すはめになったのは、その女子でなく黒沢の方だし。
 だって共学の学校って、小学校でも中学でも高校でも、まず女子の方が強いのが普通だからね。で、何でも「女子の言うことがセイギ」と。
 だから黒沢の中学でも、教室の隅なり校舎の陰なり女子がドコで着替えようが「見る男子の方が悪い」みたいな空気がデフォでさ。女子たちに言わせれば、「そーゆー時は、男子が見ないようにするのが当たり前でショ!」ってコトで。
 だから女子がどこで着替えていても、たまたまその場に出くわせてしまった男子の方がノゾキのヘンタイ扱いされて、慌てて逃げ出さなければならなくなるんだ。「ナニ見てんのよッ、このスケベ!」みたいな罵声を背中に浴びながら。

 だから近くに男子が居ても、脱がせっこをしてセーラー服の胸元とかヤバくなろうが、下のキャミやブラが見えようが、女子たちは大して気にもしなかったんだろうけどね。
 それに昔はモンペも居なかったし、PTAもうるさくなかったからね。事実マスコミだって、小中学校の男女一緒の着替えや身体測定も、数年前までまるで問題にもしてなかったし。

 でさ、その脱がせっこで剥かれる時、ユカさんとか普通の子は「そんなに騒いだら、逆に気づいてなかった人たちまで見ちゃうダロ」ってくらいギャーギャー言いながら剥かれてさ。
 ユカさんなどある時、セーラー服はほぼ脱がされた状態で上はキャミだけみたいな姿で、床を転がりながら派手に騒いで暴れて逃げようとしていたりして。
 あ、当時のキャミって今みたいなアウター兼用のじゃなくて完全に肌着の、下が少し透けちゃうくらい薄いヤツだけだから。
 例によって見てないフリしながら、ユカさんのそのキャミをチラ見してドキッとしたのは事実だよ。
 ただ「うわ花柄、意外に女の子っぽい可愛いシュミしてるんだな」とか思いはしたけれど、ドキッとする以上のものは感じなかったよ。だってその剥かれてる時のユカさんの騒ぐ声や暴れ方が、小学生の男子のプロレスごっこ顔負けだったんだもの。

 でもアズサの場合は、剥かれる時の反応が他の子たちとは真逆と言うくらい違うんだよ。
 何をされてもアズサは声ひとつ立てないし、ユカさんみたいに反撃して暴れたりもしないんだよ。その代わりにホックの外れたセーラー服の胸元を両手で強く握り締め、頬を真っ赤に染めて口元をキュッと結んで耐えている……という感じでさ。
 断言するけれど、そのセーラー服の胸元を押さえて頬を染めているアズサの姿の方が、完全に剥かれてキャミだけにされて暴れていたユカさんよりずっと色っぽくて、中坊の黒沢は文字通りに魂を持って行かれてしまったよ。

 ……後になって思えば、アズサってフェロモンってやつを全身から漂わせていたと思うよ。もう何て言うか、JCには有り得ない色気の塊みたいなコ、って感じでね。
「ここで危険を感じて逃げるべきだった」って、ホントに心の底から思うよ。
 けどいくら頭は知識で一杯で口も達者でも、そこはまだチェリーな中坊だったから。黒沢はこの魔性の女アズサの蜘蛛の糸にまんまとハマって、がんじがらめに取り込まれてしまうのでアリマスよ。

 もうね、三年になって初めて同じ班になって一月も経たないうちに、「ヤバいよ、マジで惚れちまった」って自覚しちゃってたから。隣のアズサから一瞬だって目が離せないし、離したくない……って感じ。
 二年生の時も、よくナカノさんに見とれて目が離せないでいたよ。でもナカノさんに対しては「ただ傍で見ているだけで十分シアワセ」って感じだったけど、アズサに対しては「独り占めにしたい」って心から思ったよ。
 ナカノさんだけでなく、「可愛いな、好きだな」って思った子はそれ以前にも幾人も居たよ。けど誰か女の子に心から「付き合いたい、彼女にしたい」って感情を持ったのは、アズサがホントに初めてだった。

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大失恋(3)・恋は不可解

 さて、「オレはココまでアホでもヒドくもなかったゾ」とは思うものの、黒沢も『昭和の中坊』の一人でもあったワケで。毎日の掃除の時間に、同じ班のナカノさんのブルマ姿を見る度に、それこそ「魂を持って行かれちゃう」って状況に陥ってしまってたよ。
 当時の女子の体操着は確かにブルマだったよ、けど体育の授業は当然ながら男女別だし、その女子たちの姿が見られるのも「かなり遠くに」なんだよね。
 けど毎日の掃除は、教室内とか廊下とか狭い範囲を男女一緒にやるワケで。そしてその度に女子のブルマ姿が、目の前で見放題になってしまうのデスよ。

 うん、だから学校の毎日の掃除は、同じ班に可愛い子がいる時には決してイヤではなかったよ。と言うか、むしろ「校舎の窓を割り、盗んだバイクで走り出したくなるようなwww」当時の学校の管理教育の下でささくれた心を癒す、唯一のパラダイスタイム……って感じだったよ。
 例のナカノさんは黒沢とも仲良くしてくれて、席が隣同士になると、机をピッタリ寄せて来てくれてさ。そして授業が退屈な時とかには、いろいろ話しかけてきてずっと小声でお喋りしてたりしてね。
 ナカノさんとしては何の気なしのただの暇潰しだったと、今になればわかるけど。でもおバカで頭の中は妄想ではちきれそうな中坊男子にコレって、マジで罪作りな行為だよねえ。だってまず間違いなく、「もしかしたらナカノさん、オレに気があるんじゃ……」って誤解しちゃうもの。

 で、毎日の掃除の時もさ、ナカノさんはたいてい黒沢の側に来て、形だけ手を動かしながら話しかけてくれるワケ。
 嬉しいけれど、特に拭き掃除の時などドキドキして困るくらいだったよ。だって文字通りに手を伸ばせば届いてしまう距離に、ナカノさんのブルマと美脚がソコにあるんだもの。しかも屈んで床を拭く時には、彼女のセーラー服の胸元から中がチラチラ見えたりもするし。
 こちとら女体の神秘に興味津々の、チェリーな昭和の中坊だよ。夢見心地と言うか、マジでラリってるような感じで、ナカノさんの脚や胸元に目が釘付けになっちゃってさ。話しかけられるコトにとりあえず返事はするのだけれど、もうホント上の空で、頭の中は靄がかかったようにボーっとしてて。
 そんな感じでいつもガン見してたからさ、視線にナカノさんが気づかない筈は無かったと思う。けどナカノさんは掃除の時に黒沢の側でお喋りするの、同じ班だった間ずっと止めなかったなー。

 と言っても、別にギャルゲーで言うところのフラグが立ってたワケでは全然ないんだよ。ナカノさんとしてはただ、いつも小生意気でエラソーにしている黒沢が、自分のミリョクにドギマギしているのを、目の前で見るのが面白かったんだと思う。
 ナカノさんってズバリ女王サマ気質と言うか、キレイなんだけれどそれを十二分に自覚していて、「男子は平伏してこのワタクシに仕えて当たり前」みたいな部分もあってさ。親しく接してはくれるのだけれど、同時に「アレやって、コレもやって」みたいに用事を言いつけて、相手をコキ使ったりもするんだよね。
 その言いつけられるコトって、別にクラスや学校の仕事でも何でもなくて、ただナカノさん個人への奉仕なんだよね。つまりナカノさんの脳内では、黒沢など「言うことを聞かせられる下僕その一」ってところだったかも。
 顔がキレイでスタイルも良いのを除いたら、ハイ、ただのワガママな女王サマ気質な子なのでアリマシタ。黒沢の姉とは正反対で、他人にどう思われようが自分の気持ちをハッキリ言う部分にも惹かれはしたけれど、それも冷静に見ればただ自己中でキツい性格、ってだけの話でね。
 だからかナカノさんって、かなり目立つ美人だったのに「誰かに告白された」とか「彼氏が出来た」とかみたいな話、卒業するまで全く聞いたことも無かったな。

 そのナカノさんに黒沢が抱いていた気持ちって、恋愛感情と言っても良いかも知れない。目も心も奪われて、毎日ポーっとしていたのは事実だからね。
 ほぼ同じ時期にリホさんとも仲良くしていたけどさ、当時の黒沢は彼女のことを女の子と殆ど意識してなかったし。もうホント、同性のケンカ友達みたいな感じでね。
 でもナカノさんには、女の子って部分をものすごーく感じていてさ。

 ただ幸いと言うべきか、そのナカノさんに告白して付き合いたいとかいう気持ちには、不思議にならなかったよ。何か「ただ近くで眺められ、さらに親しくお言葉もかけて戴ければ、それでもう満足」みたいな感じでね。
 と言うか、「女王サマは伏し拝むべきもので、実際に付き合う彼女とは違う」みたいな部分を、当時まだ“実年齢=彼女いない歴”の中坊なりに感じていたのかも。
 例えばと言うか、猫も虎の子もちょっと見には同じようだけどさ、虎はやはり動物園で眺めるもので、自分のペットにしちゃおうなどと思っちゃマズいよね。そして「ナカノさんは猫じゃなく虎の子で、とても自分の手に負える相手ではない」って、直感と言うか本能が教えてくれていたんだと思う。
 その危険を避ける本能が、間もなく訪れるアズサとの出会いの時に働かなかったのが、悔やんでも悔やみきれない所だけどね。

 で、リホさんには異性という意識をあまり持てず、一方ものすごく“女”を感じていたナカノさんには、付き合いたい気持ちをナゼか持てないまま中学三年生になってさ。
 黒沢の中学では、クラス替えは二年生に上がる時の一度だけでさ。だから三年生になってもクラスの面子は全く同じで、新鮮味も何も無かったよ。残念ながら担任の数学教師も、転勤せずそのまま持ち上がったしね。
 ただその初めての席替えで、たまたま隣の席にいたのが、件のアズサだったんだよ。

 それまで一年間ずっと同じクラスに居ながら、実はアズサのことなど黒沢の意識の中には無いも同然だったよ。だって元気な美少年風のリホさんや、モデル系のワガママ美少女のナカノさんなどとは違って、アズサは大人しくて目立たないタイプだったからね。
 リホさんもナカノさんもただキレイ系って言うだけじゃなくて、成績も良くスポーツもデキて、そしていつもクラスや学校で○×委員とかも任されていて。
 この二人ほどでは無いにしても、数年後の同窓会でこんな黒沢なんかを誘って良くしてくれたミカちゃんやユカさんも、クラスの中ではそれなりの存在感はあったよ。
 ミカちゃんは運動はそれなりだけど成績は良い方で、性格は例の二人と違っておっとり型でさ。けど優しくて面倒見が良くて“クラスの皆のお姉さん”って感じだったな。
 対照的にユカさんは、ハッキリ言って勉強の方はアレだったけど、スポーツ万能で明るく元気で。さらに顔もちょいと可愛くて、スタイルはかなり良し……って感じでね。

 けどアズサは違うんだよ。勉強はかーなーりーダメな上に、運動の方も似たようなもので。だいたい動作もゆっくりと言うか鈍くさい感じで、喋る声も小さいんだよね。
 当然、授業やホームルーム中に発言することなど、全くと言ってよいほど無くてさ。そして我が母校U中の悪夢の行事だった、月に一度の持久走(郊外の田圃に沿った道を四キロ以上、全校生徒でぞろぞろ走る)でも、いつも最後尾に近い辺りをトロトロ走っていたし。
 だから何かの委員とかに選ばれるワケもなく、やるにしても「クラス全員が、何か一つは仕事を分担しよう」という理由で与えられた、誰にでも出来るような学級内の地味な係を最小限にやっていた……という感じでね。

 アズサってそんな子だったから、丸一年同じクラスに居ながら、まるで視界にも入って無かったのだよ。もうマジで、「ヨシダさんって姓の方だけは何とか覚えてたけど、下の名前の方はマジで記憶に無かった」というくらいでね。
 ところがデスね、初めて同じ班&隣の席になって半月も経たないうちに、黒沢はそのアズサに魂を丸ごと持って行かれてしまったのでありマスよ。

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大失恋(2)・『昭和の中坊』は笑えマス

 黒沢はこのブログで取り上げているギャルゲーは、プレステ2用のものが大半なのだけれど。プレステ3やPSPやXBOXなどのものも含めてゲーム専用機のギャルゲーって、最初からコンシューマー用に開発したのではなく、PC用のエロゲから18禁のエロの部分を抜いて移植したモノが多いんだよね。
 で、コンシューマー機用のギャルゲーで、例の「ストーリーに関係のないダラダラの日常」が妙に長く続くモノって、元はエロゲだったヤツの移植版と思ってまず間違いないデス。

 だってPC用のエロゲはそもそも18禁なんだもの、買ってプレイするお客はみな、大学生かそれ以上の筈だからさ。で、そうしたゲームを必要とする大人たちってのは、例の「満たされることのない空白の青春」を心の中に抱えているんだよね。「もう一度高校生に戻れるなら、こんな恋をして、こんな青春を過ごしてみたかった」みたいな……。
 そうしたギャルゲーマー達って、ただ女子高生とのエロを求めているだけじゃないんだよね。それならセーラー服のお姉さんが出て来るAVでも観るなり、イメクラとかでそのテのプレイをするなりすれば良いワケで。

 ギャルゲーで大事なのは実はエロじゃなくて、そのエロに至るまでの恋の過程だったりするんだよね。AVや風俗にあるのは行為そのものでしかないけれど、ギャルゲーはそれに至るまでの恋愛をさせてくれるんだよ。
 だから18禁のエロゲでも、ちゃんとした作品はそのエロの部分をカットして、「恋愛してカップル成立、オメデトウ」ってストーリーに作り替えても、その恋愛の過程だけでちゃんと評価されて売れるんだよ。

 さらに大人のギャルゲーのユーザーは、ただJKと恋ができれば良いというより、もう一度あの頃に戻って幸せな高校生活を過ごし直してみたいんだよね。主人公の周りには、可愛い女の子達だけでなく同性の気の良い友人もいて、その男友達ともバカをやりながら楽しく過ごす……みたいな。
 だから大人のギャルゲーマーにとっては、「ストーリーを進める上はまるで意味も無い、後の伏線にもなっていないそのダラダラな日常」の描写も決して無駄ではなくて、「オレもこんな高校生活を過ごしてみたかったなー」という、憧れというか夢を見させてくれる部分でもあるんだよね。
 それでギャルゲーには、例のダラダラな日常を長く描いたものが意外なくらい多いワケさ。

 とは言うものの黒沢は、好き勝手に生きてきた割にそれなりに充実した高校生活を過ごしたせいか、ギャルゲーのそのダラダラな日常部分をあまり楽しめなくて、「いーから、とっとと事件や波乱を起こせや!」なんて思っちゃったりするんだけどね。
 ゲーマーの間では名作と定評のホラーアドベンチャーの『ひぐらしのなく頃に』も、黒沢はその冒頭のダラダラな日常の部分の描写がカッタルく感じてしまってさ。それで実はコワいと評判の事件が何も起きないうちにやる気を失ってしまって、中途(と言うより殆ど序章あたり)で放り出してしまっているのデス。

 まあね、どのゲーマーに聞いても高評価の『ひぐらし』を途中で放り出してしまったのは、黒沢が主人公のキャラに、かなりの違和感を感じたからでもあるのだけれど。「こんなオトコを“モテるヤツ”みたいに勘違いしてるから、オマエらはいつまでも女子に縁がねーんだよ」みたいな感じで。
 その点について語り出すとまた長くなって、本筋から逸れてしまいそうだから、黒沢が『ひぐらし』の主人公に抱いた違和感と軽い嫌悪については、また章を改めて話すね。

 ギャルゲーのその悪友とバカをやりながら過ごすダラダラな日常の部分は、黒沢は「別に必要ないし、むしろムダ」と思ってしまう方だけれど。
 とは言うものの、『_summer ##や『つよきす』など幾つかのゲームでは「いいな、いいな、こんな友達が欲しかったよ」とか思いながら、例の悪友とバカ話を続ける部分を心から楽しんでしまったよ。
 ……例の過ぎ去った自分の中高校生時代への満たされない思いって、やはり黒沢にも幾許かはあるのだろうね。

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(2007/10/04)
PlayStation2

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 自分の高校時代については、それほど不遇でもなかったと思うし、さほど不満もないのだけれど。細かい厭な思い出は幾つもあると言えばあるさ、「でもソレはオマエ自身の人柄に問題があったからだろ」って感じで。
 例の「こうしておけば良かった」と後悔することがいろいろあって、「出来ることなら、もう一度やり直してみたい」と強く思う時代があるとすれば。それは黒沢の場合、高校時代ではなく中学時代だよ。
 前にも触れたように、黒沢は中3の一年間のアレコレで友も彼女も失って、人柄もその後の生き方もかなり変わってしまってさ。
 その中でのある出来事で、リホさんとの間にも深い亀裂が入ってしまってさ。まあ仲直りはしたけれど、それはただ出来た傷を塗料で隠して取り繕っただけに過ぎなくて、それが二人の仲に最後まで響いてしまうんだけどね。

 ま、その「出来るものならやり直したい、昔の自分を叱ってやりたいこと」のもとになるのは、一言で言ってしまえば「黒沢の女の子を見る目の無さ」なのだけれどね。
 以前の駄文を読んでくれた人達の中には、中学生の頃から黒沢はずっとリホさんを好きだったというように思っているかも知れないけれど、実はそうじゃないんだな。
 黒沢の中学では、クラス替えは二年になる時の一回だけで、リホさんとはその時初めて同じクラスになってさ。そのリホさんは明るく活発で、誰とでもわけ隔てなく付き合える子だったから、性格にかなり難アリのこんな黒沢とも、かなり早いうちから仲良くしてくれたよ。
 でも「仲良くしていた」と言っても、ホントに男のケンカ友達みたいな感じでね。よく喋ったり遊んだりもしたけれど、女の子と意識したことはあまり無かったな。
 事実その中二の時に黒沢が好きだったのは、同じクラスのナカノさんって子でさ。

 以前にも何度か話したように、黒沢は昔から一つ年上の姉と仲が良くなくてさ。その姉が外では「人当たりの良い、誰にでも優しい優等生」に化けるのがあまりにも巧かったおかげで、黒沢は「おっとり優しいお姉さんタイプ」が今でも苦手なんだよ。
 そういう「ホワンとした優しげなタイプ」を見るとね、黒沢は「裏の顔が絶対ある筈、この化けの皮の下はまるで別キャラなんだろうな」なーんて思ってしまうんだよ。
 まあ「内と外とで、女が別人のように変わる様」を、黒沢は物心つく頃から見せつけられて育ったようなものだから。ある意味では黒沢は、小学生くらいの頃からもう女性不信だったかも知れない。
 だからその反動で、姉とは真逆の、人からどう思われようと自分の気持ちをハッキリ言うタイプの子を好きになる傾向があってさ。

 そのナカノさんは派手めの割と目立つ美人で、背も高めでスレンダーといった感じの、アイドル的な可愛い系と言うよりモデル系って感じの子だったよ。スレンダーと言っても、決してツルペタというのではなく凹凸はちゃんとあって、けどそれ以上に手足がスラリとして……って感じで。
 何しろ女子の体操着は、ブルマがデフォだった時代だからね。以前にも触れたけれど、ちょっと以前のJCは制服のスカートの下に、スパッツでなくブルマを常時装備していたのだ。そして毎日の掃除の時とかには、パッとスカートだけ脱いで、セーラー服にブルマってカッコで作業したりするワケ。
 そーゆー同級生のブルマ姿がさ、ごく普通に毎日拝めていたのだよ。羨ましいだろ、ブルマをコスプレでしか見たコトの無い世代のキミたち。

 ……いや、そりゃあま、同級生の女の子と言っても視界に入れたくもないようなクリーチャー系のお嬢さんとか巨神兵チャンとかも、モチロン少なからずいらっしゃいマシタけど、ね。
 だからそうした目の毒としか言いようのない方々は極力見ないようにして、ナカノさんとか綺麗な子や可愛い子だけをガン見していたわけデス。
 だってその頃の黒沢は、フロイト先生のおっしゃるリピドーが最も盛んな中学生の男子だったからね。床を拭いているフリをしながら、目はナカノさんのスラリとした足やブルマに、自然にロックオン状態になってしまうワケで。
 しかも上はセーラー服だから、床を拭くにしても箒で掃くにしても、胸元がけっこうヤバい状態になってしまう場合も少なくなくてさ。ちょっと屈むだけで、白い胸元やらブラの端の方やらがちらちら見えちゃうし。

 今は違うだろうけど、昭和の頃の男子中学生はエロいことへの興味で頭の中は一杯なのに、実体験のあるヤツなど殆どいなくてさ。そして今と違ってネットもまだ無かったから、目の前のハコでエロ画像を見放題&DLし放題、ってワケにもいかなくてね。
 女子のカラダへの興味はものすごくある、けれど女の子の裸を拝むとすれば雑誌のヌードグラビアくらいしかなくて、けど「中学生が本屋でエロ本を、どーやって買えばいーんだよ」って感じ。

昭和の中坊 1 (アクションコミックス)昭和の中坊 1 (アクションコミックス)
(2006/04/28)
末田 雄一郎

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 そーゆーかつての男子中学生の実態をリアルに描いたマンガに吉本浩二さんの『昭和の中坊』(原作は末田雄一郎さん)ってのがあってね。「黒沢はここまでアホでもスケベでもなかったゾ」とか思いつつも、「なつかしー、あーコレわかるわ」と呟きながら読んでしまったよ。
 ネットやケータイの有る無しとか、時代はかなり変わりはしたよ。けど中学生の本質ってやつは、殆ど変わっていないと思う。だから今の中学生が読んでもかなり笑えるだけでなく、けっこう共感もできるのではないかな。
 さらにその親の四十前後のオジサン世代には、すっごく懐かしい共感できる話がテンコ盛りだと思うよ、きっと。と言うワケで『昭和の中坊』、機会があったらぜひ手に取って読んでみてね。

 この『昭和の中坊』、今のオヤジ世代なら昔の自分のアホさとイタさも噛みしめつつ、苦笑いしながら読めると思う。けどもしその子供世代の、リアルで中高校生の息子たちに読まれたら、「きっとオヤジの権威ガタ落ちだろうな」って思うよ。
 だからもしコレを読んでくれている人の中に、「クソ真面目で頭が固くて、いつも勉強しろって説教ばかりしやがるオヤジが鬱陶しいんだが」って中高校生がいたら。『昭和の中坊』を読ませて、「オヤジも昔はこんなだったんじゃねーの?」とか言ってやると、もしかしたら少しは静かになるかも。
 それと一部のイケメン男子だけやたら美化して見ている女子や、ジャニオタとか腐女子とかの女子にも、「オトコなんてのはな、所詮みんなこんなものだよ」って感じで見せてやりたい気もするな。

さんてつ: 日本鉄道旅行地図帳 三陸鉄道 大震災の記録 (バンチコミックス)さんてつ: 日本鉄道旅行地図帳 三陸鉄道 大震災の記録 (バンチコミックス)
(2012/03/09)
吉本 浩二

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 吉本浩二さんは他に『さんてつ』って作品も描いていてね、こちらは東日本大震災で壊滅的な被害を受けた三陸鉄道の社員一人一人が、再起に向け地元の人々の為に奮闘する感動の実話なのだ。
 この『さんてつ』も絵柄はアホエロ話の『昭和の中坊』と殆ど同じで、なのに読んでいて思わず「三陸鉄道を応援したい、ぜひ現地に行って乗ってみたい」という気持ちになってしまうような話も描けるという一事だけでも、「吉本浩二さんって漫画家は、ただ者ではナイな」って感じてしまうよ。

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大失恋(1)・ダラダラの日常

 唐突だけれど、キミは「もう一度、学生時代に戻れたらなぁ」って思うかな? あるいは、「やり直せるものなら、こんな学生時代を送ってみたい」みたいな強い願望、持っていたりするかな?

 アニメでもマンガでもラノベでも、架空の物語って「冒頭部分で読者や視聴者をどうノセるか」がすごく大切なんだよね。
 例えばいきなり正体不明の敵が攻めて来て、主人公も否応無しにその戦いに巻き込まれて、秘密兵器(たいていロボット)のパイロットにさせられて戦わされちゃったり。
 あるいは女性恐怖症の新任教師が、有無を言わせず女子高に赴任させられて、顔は可愛くてクセ者揃いの生徒達に翻弄されちゃったり。

 まあそんな感じで、ストーリーが始まると同時に立て続けに起きるいろんな事件に主人公が翻弄されて行く様を、読者(視聴者)は固唾を飲みながら見守るのが普通なんだよね。って言うか、波乱に満ちたストーリーをテンポ良く繋げて行かないと、読者(視聴者)サマ達に飽きられちゃうからさ。
 勝負はアニメなら最初の数分、マンガやラノベなら冒頭の数ページ……ってところかな。で、その僅かな間に読者あるいは視聴者に「面白いじゃん、次はどうなるの?」って思わせられなかったら、その作品はもうアウト……ってコトで。

 これを読んでくれている人の中にも、もしかしたら「いつか作家になりたい」とか思ってて、しかも「実際に作品を書いて、出版社の新人賞に応募もしているんだけれど、一次選考もなかなか通らない」って人もいるかも知れないね。
 そんな人の為に一つだけ言っておくと、応募作品の下読みをする人達って、ちゃんと読むのはせいぜい最初の2~3枚くらいらしいよ。で、「つまんねー事を何ダラダラ書いてんだよ」とか「文章、てんでダメだし下手すぎ」とか思ったら、後はザーっと流し読み、みたいな感じで。
 だから「まずは物語の世界観や、登場人物たちのキャラや置かれている状況を丁寧に描写して」なんてヌルいコトなど言ってちゃダメだよ。初めからデカい事件を起こして、説明など後回しにするくらいにして、スピード感のあるストーリーでガンガン飛ばして行くだけで、一次選考や二次選考に通る確率はかなり上がるんだ。

 ヒドい、って? いやキミ達が本屋さんで小説を選ぶ時だって、同じようにまず冒頭の数ページだけ読んで、あとはせいぜい途中を拾い読みするくらいで買うかどうかを決めているでしょ。
 コミックスなんか、立ち読み防止にビニールでパックされて中が読めない場合が多いからさ。帯と裏表紙の粗筋を読むくらいで、感じとしては殆どジャケ買いに近いよね。
 ドラマやアニメだって、見ていて「面白くなさそーだな」って思ったら、最初の数分くらいで止めるかチャンネルを変えちゃうよね。
 だから物語の冒頭って、ホント大事なんだよ。テレビのバラエティ番組などに出る芸人の言う“ツカミ”ってヤツね。ストーリーの出だしで勝負の半ば以上が決まるみたいな感じ、マジであるから。
 純文学の小説や芸術映画を除けばさ、日常の細部の描写の連続」など、まず読者や観客を飽きさせるだけだよ。

 ……ところが、ですね。ギャルゲーを幾つかプレイしていると、それとは真逆に「主人公である男子高校生の平凡な日常」を、苦痛を感じるくらい長い時間ダラダラ続けているものが意外なくらい多い事に、きっと気づくと思う。
 中でもありがちなのが、主人公は義理の妹やら可愛い幼なじみやら優しいお姉さんやら、それに同性の悪友などの定番キャラに囲まれて、事件らしい事件も起こらぬ中、それら周囲の“仲間たち”と延々と馬鹿話や悪ふざけを続けて……って感じの話なんだ。
 しかもその延々と続く会話も日々の出来事も、殆ど意味が無くて、後の伏線にも全然なって無いんだから始末が悪いよ。

Wind -a breath of heart-Wind -a breath of heart-
(2003/12/18)
PlayStation2

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 大人しくて優しくて女らしい、男ウケするメインヒロインのテンプレみたいな“みなも”が、クライマックスの部分で主人公の胸ぐらを掴むようにして、延々と九分以上も一方的に責め続けることで有名な、『Wind』ってギャルゲーがあるのだけれど。
 まあそのシーンの詳細は、目の前のハコで「みなもの問い詰め」と入力して検索してみてね。You Tubeなどに、きっとそのシーンもアップされていると思うから。
 でさ、この『Wind』ってのが、例の「主人公である男子高校生の平凡な日常」を、苦痛を感じるくらい長い時間ダラダラ続ける種類のギャルゲーの典型みたいなものでね。
 幼い頃に別れた可愛い幼なじみとの再会みたいな、まあ定番の感動シーンもあるにはあるよ。けどそれ以外は、その幼なじみや義理の妹やら悪友やらに囲まれての、ごくフツーの高校生の、他愛もない平凡な日常の連続なんだよ。

 ギャルゲーって、小さな事件や波乱が度々起きては、その度に主人公であるプレイヤーはどう行動するかの選択を迫られながらストーリーが進行してゆくのが、まあ基本みたいなものだよね。
 例えば幼なじみの子と義理の妹が、何かでモメている場面に遭遇してしまうとして。それが小説やマンガやドラマなどだと、主人公がどうするかは作者に既に決められていて、読者が仮に「肩を持つとすれば、義理の妹ダロ」と思っていても、それに関係なく作者の意志で幼なじみの味方をしちゃったりするんだよね。
 で、その後のストーリーの展開も一本道でさ。読者がいくら「妹を選べよ!」と思っていても、幼なじみ寄りの展開で進んで行ったりして。

 けどギャルゲーでは、肝心な場面ではたいてい選択肢が出て来るんだよね。
「幼なじみに同意する」
「妹の味方をする」
「どちらの肩も持たずに逃げる」
 みたいな感じで、主人公にどう行動させるかは、プレーヤーであるキミ自身が決められるなんだ。
 そしてそのキミの選択によって、以後のストーリーの展開も結末もどんどん変わって行くし、ズバリそれがゲームの醍醐味なんだよね。

 当たり前の事なんだけど、小説もマンガも映画もドラマも、主人公がどの女の子を好きになるかも、ハッピーエンドにするか悲劇に終わるのかも、すべて作者に決められちゃってるよね。読者(観客あるいは視聴者)はあくまでも、それをただ脇から眺めているだけの傍観者でさ。
 けどギャルゲーでは、誰を彼女に選ぶか決めるのは自分(プレイヤー)だし、その彼女との仲をグッドエンドに導いて行くのも自己責任でさ。

 ところがの『Wind』ってゲーム、ストーリーの展開そのものがダラダラな上に、肝心な主人公の行動を選択する場面もちっとも出て来やしないんだ。
 黒沢は本を読むのもかなり好きだし、文章を読むのも早い方だと思う。その黒沢のペースでストーリーを読み進めて行って、『Wind』で初めての選択肢が出て来たのは、ゲームを始めて何と二時間半近くも経ってから、だよ!
 二時間って、映画やテレビのワイド劇場などなら、もうしっかり決着もついてエンドロールが流れている頃デス、って。
 ……殆どもうね、絵と音声付きのラノベかよ!」って感じだったよ。

 しかもその初の選択肢が出た後もさ、「可愛い幼なじみやら義理の妹やら悪友やらに囲まれた、事件らしい事件もないダラダラの日常」の描写が延々と続くワケ。まあ後の事件の伏線らしきモノも何カ所かはあるのだけれど、大部分は「大して笑えもしない、悪友とのバカ話」と「可愛い女の子達に囲まれて、皆にモテちゃってデヘヘヘ」ってノリの連続……って感じ。
 もうね、コレがゲームというコトも殆ど忘れて、コントローラーもどこかその辺に放り出しちゃって。そしてただ苛々を堪えてモニターを眺めながら、「コレって何の苦行だよ、もしかして拷問?」なんて思ってたよ。

 だからマジで、途中で放り出してしまおうと何度も思いかけたよ。けどせっかくお金を出して買ったものだし、オートプレイの機能に任せておけば、忘れた頃にたまに出てくる選択肢以外は、コントローラーに触る必要さえ無いんで、溜息つきながらぼんやりと画面を眺めていたワケ。
 そんな感じで辛抱しながらプレイした末、やっとヒロインが決まり、ストーリーがその個別ルートに入った途端、一転して大事件が続いて物語は慌ただしいほどの急テンポで進んで行くのデスよ。もうね、流血アリ殺人アリで、主人公やヒロインたちも命を狙われちゃうしで。
 大欠伸の連続だった前半と違って、後半の各ヒロインごとの個別ルートは一瞬も目が離せない、波乱に満ちた急展開になってさ。だから我慢と辛抱を重ねた前半の印象と違って、プレイし終わった後の印象は意外に悪くなかったよ。

 ……とは言うものの、その後半の個別ルートに入ると面白くなるだけに、全体のバランスの悪さが残念な感じが強くて。後半の展開が何かもう駆け足すぎて、明らかにいろいろ説明不足なんだよね。
 すべてのヒロインのルートを完全クリアした後も、「主人公達の住む街の上空に、ナゼかいつも漂っている謎の飛行船」を始めとする、回収されていない伏線や説明されていない設定が、幾つも残されたままだったりするんだよ。

 何かね、「前半部分のシナリオをムダにダラダラ書き過ぎた揚げ句に、ふと気がついたら残り枚数が足りなくなっていて、冷や汗かきながら広げた設定や伏線を放置したままドタバタ纏めました」って感じがアリアリなんだよ、このゲーム。
 コレを学校の夏休みに例えて言えば、「8月も半ばを過ぎてもまだダラダラ遊んで過ごしていて、山積みの宿題を最後の数日で半泣きで何とか片づけました」って感じ。

 でもこの『Wind』のように、ダラダラな日々としか言いようのない“平凡な日常”が続くギャルゲーが意外なくらい多いのには、ちょいとワケがありましてね。
 ここでまた、冒頭部分で投げかけた問いかけに戻るけれど。
 過ぎ去った学生時代に、キミは悔いはないかな?
 まだ中高校生だった頃に、キミはもう一度戻ってみたくない?
 
 例外もあることを承知の上であえて言っちゃうけれど、マンガやラノベではさ、主人公の年齢って、読者よりも少し上だったりするよね。例えば『なかよし』みたいな小学生向けの少女マンガでは、中高校生のオネーサン達の恋愛を描いて「中学生になったら、あたしもこんなステキな恋愛するんだ(ハァト)」みたいな夢を見せるとかね。
 ジャンプだって『少年ジャンプ』と『ヤングジャンプ』と『ビジネスジャンプ』などでは、読者と主人公達の年齢はほぼ比例して上がって行くよね。
 でもギャルゲーは違うんだよ。マンガやラノベとは逆に、プレイヤーの大半は主人公より年上で、「成人式もとうに済ませた大学生や社会人」が、「高校生の主人公になりきってプレイしている」って場合が多いんだ。

ときめきメモリアルときめきメモリアル
(2006/03/09)
Sony PSP

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 古い話になるけれど、ギャルゲーを世に知らしめた先駆けみたいなあの『ときメモ』に、最も深くハマってしまったプレイヤーは、実は「高校時代は男子校とかで、寂しい青春時代を過ごした大学生や若い社会人たち」なのだそうだよ。
 ……うん、何かわかるような気がする。

 長い人生のうちで一番彼女が欲しくて、寝ても覚めても女の子のコトばかり考えていたのって、多分中高校生時代だよね。しかもその頃って、ただ性欲を持て余しているだけでは無くて、まだ女の子にも恋愛にも夢を持っていたし。
 その中高校生時代に三次の女子とお付き合いをして青春(性春?)してきた人達には、告白→デート→キス→セクロスみたいな思い出が現実にあるワケで。そしてそーゆーいわゆる“リア充”の人達には、18禁のエロゲも含めてギャルゲーなんて、そもそも必要ないんだよね。

 黒沢自身は保育所から大学まで、ずっと共学だったから。イタい思い出の方がずっと多いけれど恋愛も当たり前にしてきたし、リホさんやマキちゃんやマイコさんとか、複数の女のコとデートもしていたし。
 だから“イベント”って言うのかな、ゲームの中で体育祭や文化祭や修学旅行やバレンタインデーの日などに起きる、可愛いヒロインたちとのあれこれの場面でも、半笑いして「あー、コレは現実にはないな」なんてツッコミを入れながらプレイしちゃうことの方が多いよ。

 けど黒沢みたいなイタい恋の思い出さえ無い、学生時代に女子や恋愛に全く無縁だった人達は、「もし自分がもうちょっとイケてるヤツで、そしてもう一度高校時代に戻れたら、あのコとこんな恋愛してみたかった」みたいな煩悩がいっぱいあるワケで。
 そうした諸兄の言わば“空白の青春”を埋めてくれるのが、ずばりギャルゲーなんだよね。悪友とバカをやって、可愛い同級生や世話焼きの幼なじみ(♀)などとラブラブ&イチャイチャして……みたいな楽しい高校時代を、キミを主人公にして体験させてくれるのだから、考えてみればギャルゲーってスゴいよ。

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国立競技場は誰のモノ?

 まず最初に断っておくけれど、黒沢はAKBのファンとかでは全然ナイから。実際、AKBのメンバーで顔と名前が一致するのは、渡辺麻友さんくらいのモノだし。
 後は篠田マリコってヒトがいる事は知っているけれど、そのマリコが真理子なのか麻里子なのか、それ以外なのかも知らないし。
 コジハルって言われてるヒトがいる事も知っているけれど、そのヒトがどんな顔かも、そもそも“コジハル”が正しくは何て名前と名字なのかも、見当もつかないし。
 そうそう、例外的に大島麻衣って卒業生がいた事は知っているけど、このヒト、黒沢は最初にGって文字のつく虫くらいにキライなんだ。だから大島麻衣がテレビに出ると、気持ちが悪くなるんで即刻リモコンを取って電源を消してマス。
 こんなだから、AKBにおカネを落とした事も殆どナイですね。強いて言えばAKBが何でそんなに人気があるのか知りたくて、TUTAYAのレンタル落ちの中古CDを100円で買ってみたコトくらいかな。

 そんな黒沢だけれど、今年の3月30日の国立競技場でのAKBのコンサートが、天候の急変で中止になった時の嵐の一部ファンの発言には、ものすごーく腹が立ったし不愉快になったよ。
 国立競技場は嵐の聖地だとか、AKBみたいなブスがどうのこうのとか、「オマエ、頭が沸いてるダロ?」ってレベルの発言が多数ネットに寄せられてさ。

 そもそもさ、国立競技場って誰のモノなの?
 アレはその名の通り“国立”なんだから、国、つまり国民全体のモノであって、嵐のモノなんかじゃナイ。そんな事ぐらい、バカだってわかるよね。
 んで、その国立競技場は独立行政法人日本スポーツ振興センター(JSC)が管理運営しているワケだ。
 国立競技場って名の通り、本来はスポーツをやる場所だったのだけれど、JSCがコンサートに使うことも認めるようになって、その一環として嵐も使うに至ったに過ぎないワケ。
 だから国立競技場を使うことに関しては、嵐もAKBも全く対等であって、「嵐だけが使うべきで、AKBは使っちゃダメ」とか思う方が頭がオカシイんだよね。そんなコトは、いちいち言わずとも小学生にだってわかる筈。
 でも現実にはいるんだよねぇ、「国立競技場は嵐の聖地で、AKBは使うな!」とか正気で言い出しちゃうヒト達が。

 何かさ、以前に嵐が国立競技場でやったコンサートで、嵐のメンバーが「自分たちが国立競技場でやる最後のアーティストになれた事を光栄に思います」みたいな発言をしたから、嵐のファン達は国立競技場を嵐の“聖地”と勝手に決めつけて、それ以外のアイドルが国立競技場を使うのは許せないみたいに騒いでるらしいけど。
 でもさ、その嵐が国立競技場でコンサートをする時、JSCは「君たち嵐を、この国立競技場でコンサートをする最後のアーティストにするね」と確約したワケ? 自分たちが国立競技場でコンサートをする最後のアーティスト……って、嵐が勝手に思いこんでたんじゃねーの?

 JSCと嵐の間で、仮にそのような約束があったとしようか。でもそれはJSCと嵐の問題であって、AKBが罵詈雑言を浴びせられなきゃならない理由なんか一つもナイ筈だ。
 もしそのような約束があった場合、嵐のファンが非難すべきはJSCであって、AKBを小汚い言葉で罵るなど筋違いも良いところだよ。
 さらにその約束もナイのに、「嵐が国立競技場でコンサートする最後のアーティスト」って勝手な思い込みでAKBを罵倒してるとしたら、それこそ「嵐のファンはどのレベルの人達か」って、自ら証明しているようなものだね。

 大体さー、国立競技場ってのはコンサートにも使ってるけど元来はスポーツの為の施設なんだよ? 国立競技場を聖地と言える人がいるとすれば、まずは全国のアスリート達であって、嵐でも、嵐のファンでもアリマセンから。

 聖地と言えば、スタジアムの入り口に“JAPANESE ONLY”の横断幕を掲げて大問題になった浦和レッズの一部サポーターが居たよね。
 で、そんな愚かな行為に及んだ理由について、そのサポーター達はこう言っていたよね、「自分たちの“聖地”を汚されたくなかった」って。
 ……ったくもう、「浦和のスタジアムが、いつオマエだけの“聖地”になったんだよ」って言いたいよ。
 でもさ、この浦和の馬鹿サポーターと、国立競技場を“嵐の聖地”と称してAKBを罵倒する嵐のファンって、心の本質的な部分では全く同じだよね。「自分と、自分が好きなモノが一番で、それ以外の異なる存在は許せない!」っての。
 そしてこーゆー自分と価値観の違う者に対する非寛容で狭量な精神が、イジメや喧嘩や様々な差別、さらに戦争を引き起こしているんだよね。コレは大袈裟でも何でもなく、「自分と違う存在は許せない」って感情が、ホントにすべての争いや差別の元になってるんだよ。

 黒沢は嵐に興味などナイし、同性として見ても「イイ男だったら、もっと他にも大勢いるんじゃねーの?」と思ってる。でもあくまでも心の中で思ってるだけで、嵐のファンがAKBをブスだの何だのと罵倒したように、嵐を悪く言おうとは思わない。
 だって誰が何を好きになるかは、個人の自由だしその人の価値観の問題だからね。
 だからその嵐のファンみたいな、「自分たちが好きなモノが一番で、それを認めない人はユルセナイ!」みたいな発言を聞くとね、マジで気持ちが悪くなってくるよ。

 国立競技場でのコンサートって言えばさ、2010年の嵐のコンサートでも、嵐のファン達が場外で騒いで周辺住民から苦情が多く寄せられているんだよね。そして今度は、AKBに対する理不尽な理由からの聞くに耐えない罵詈雑言……と。
 嵐のファン達は国立競技場を聖地と言うけれど、その“聖地”を汚し、嵐と嵐のファンの評判を落としているのが自分たち自身なのだと、なぜ気付かないのだろうって思う。

 黒沢は男だから、嵐には全然関心ナイです。でも「嵐が大好き!」って女の子達がいても全然構わないし、それはその子たちの自由だと思うよ。
 それだけにさ、平気でAKBを口汚く罵れる嵐の一部ファン達の存在が不愉快でならないんだ。
 例えば嵐のファンだって、嵐のことを「ブサイクのくせに、キモい」とか言われたり「アーティストとしてレベルが違う」とか見下げられたくないダロ? だったらAKBのことも、ブスだのレベルが何だのと言うべきじゃないんだ。
 ほら、自分のされたくない事は、他人にもしない」っていう、人としての基本の基本だよ。それすらわからない人達がいるんだよね、嵐のファン達の中には。
 この国立競技場の件で、嵐のファン達はスッキリしたかも知れないけれど。でも世間的には、嵐のファンだけでなく嵐のイメージも悪くなったのは、間違いのないことだと黒沢は思うよ。 「嵐のファンってのは人としてのレベルに問題があって、嵐ってのはそーゆーファンに支えられてるんだ」ってね。

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お受験(24)・『僕らはみんな河合荘』は必読デス!

 二次会を途中で帰る時、ミカちゃん達には挨拶をしてお礼とお詫びもしたけれど、リホさんには最後まで声もかけないままでさ。
 そしてその後も、リホさんとは二度と会うことも話すことも無いままだよ。
 けど「黒沢にとって最高の女性はリホさんだった」って思いは、今に至るまでずっと変わらないよ。ホントにどーしようもない中二病のガキだった黒沢を理解して支えてくれていたのは、ホント彼女だけだったんだよ。
 しかも顔もキレイで性格はサバサバ系、そして女のイヤな部分や面倒くさい部分も無くて、ただ彼女ってだけでなく最高の親友にも出来ちゃう、って感じ。

 いろんな女の子に痛い目に遭わされて学習も積んできた今なら、「パーフェクトじゃん、何の不満があるんだよ?」ってトコだけれど。
 なのに坊やだった昔の黒沢ときたら、そのボーイッシュでサッパリした部分を「女って感じがしねーし」みたいに思っちゃってさ。で、真逆の“女度が高くてタチの悪いの”にばかり引っかかってマシタ。
 例えばユルフワ天然系を装った、実は性悪ビッチな男ハンターとか。あるいは安野もよこさんが『花とみつばち』で描いた“長沢チャン”タイプの、地味系の可愛い外見とは裏腹に、実はかなり計算高くてシタタカな子とか。

 まーそれで痛い目にはイヤというほど遭いはしたけれど、それは黒沢に女を見る目が無かったせいで、誰を責めるワケにも行かないのだということは、自分でもよくわかってる。
 でもだからこそ、自分が失ったものの大きさはよくわかってるし、リホさんの値打ちを見抜けなかった昔の自分を恥じて悔やむ気持ちを、今もすごく強く持ち続けてるんだ。

 前にも話したように、黒沢が大人になってからギャルゲーにハマってしまったのは、「恋愛時に、自分がどう行動するか?」を分析するのが面白くてならなかったからなんだ。

 小中学生の頃に出逢った初恋の相手と両思いになって、お互い心変わりひとつせずそのまま結婚&出産みたいなのって、ある意味理想の恋愛かも知れない。
 でもそういう人達って、人間の業や人生の苦みを知らないまま大人になっちゃうと言うか、「想いは通じる、願いは叶う」みたいな、建前やキレイゴトが好きな、精神論を真顔で口に出来ちゃうちょっとウザい人になりかねないような気がする。
 負け惜しみでなく言うのだけれど、血を吐く思いをするような失恋からも学ぶ部分がある」と言うか、失恋の痛みも知っている方が、順調な恋しか知らないヤツより、人としての深みも出て来ると思うよ。
 いくら想っても届かぬ気持ちもあるし、どんなに好きで頑張っても振り向いて貰えないこともある。その現実や痛みを知っている人の方が、「信じる気持ちが何より大事で、思いはいつか通じて願いは叶う」みたいな“真っ直ぐ”なヒトより、少なくとも黒沢はずっと好きだな。

 とは言うものの、ただ普通の片想いでの失恋ならともかく、信じていた人間にこっぴどく裏切られるような失恋を繰り返すとね、その後の人間観や女性観(男性観)まで変わると言うか、その人の人間性まで主に悪い方に変わりかねないから要注意なんだよね。
 例えば「信じていた友人に、大切な彼女を寝取られる」とか。
 あるいは「本気で惚れた相手に、その気持ちを利用されて散々貢がされた挙げ句、ゴミクズのように捨てられる」とか。
 そういうリアルな恋愛では当たり前のようにある痛い失恋を、イヤと言うほど繰り返してごらん人は皆クズで、友達も彼女も心から信じたら最後、裏切られて自分が傷つくだけ」みたいな、黒くて歪んだ人間観に至ってしまいがちだよ。
 だから実際の恋愛で失恋を繰り返すとさ、その後の人生が狂いかねないくらいのダメージを受けてしまいかねないんだ。

 また逆に「自分がバカだったせいで、本当に大切な人を傷つけてしまった」みたいなパターンでの失恋でも、その後の人生にずっと悔いを残すことになっちゃうしね。ちょうど黒沢が、リホさんとのことを今もまだ悔やみ続けているように。
 けどギャルゲーなら、たとえどんなバッドエンドを出しても、誰も傷つくことは無いワケで。

何処へ行くのあの日~光る明日へ・・・~ (通常版)何処へ行くのあの日~光る明日へ・・・~ (通常版)
(2005/02/24)
PlayStation2

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 まあKID社が手がけたメモリーズオフ・シリーズとか、『何処に行くのあの日』とか『君が望む永遠』とかさ、結末によっては心がズーンと落ち込んでしまうような鬱ゲーもあるけどさ。それでも一晩寝れば、ちゃんと元通り元気になれるしね。
 それに「うわ、これはマズい、バッドエンド確定だぜ」とか思ったら、電源ボタンに手を伸ばしてリセットするという奥の手もあるワケで。そこがギャルゲーの、迫り来る辛い現実から逃れられない三次の恋愛と違う良い所なんだよね。

 その「バッドエンドでも傷つく人が(現実には)誰も出ない」って利点を生かして、ギャルゲーをバンバンやって“失恋”も繰り返してみるとさ、自分が恋愛する時のクセと言うか弱点が、ホントよく見えてくるんだよ。まるで自分の恋愛スタイルを、もう一人の自分が外から観察でもしているようにね。
 例えば黒沢で言えば、「周囲の人達とか置かれている状況とか、彼女以外のことを見過ぎるくらいの、醒めているのと紙一重の大人な対応をとりがち」で、そのくせ「喧嘩になった時に自分から誤解を解こうとする努力が足りなくて、そのまま決裂してバッドエンドに一直線」とかね。
 黒沢も自分が現実の恋愛で「彼女は出来るのだけれど、いつも長続きせずに結婚話には至らない」理由に、ギャルゲーをプレイしてみたおかげて初めて気づかされたよ。冷静で大人と言えば聞こえは良いけれど、「オレにはオマエしか見えないんだ!」みたいな情熱が足りない上に、自分が悪くなくて喧嘩した時には絶対に折れられない……ってやつね。

 ただ黒沢は現実に女の子と付き合った経験がある上で、実際の恋愛を意識しながらギャルゲーをやっているからさ。そのせいかギャルゲーマー達に人気のキャラって、大抵キライなんだ。
 特にメインヒロインに多い、「ユルフワ系でちょっと天然も入ってて、女らしくて可愛い」みたいなタイプ、どうしても好きになれなくてさ。
 まっ、ただ好みの問題と言うか、性に合わないってだけの話かも知れないけど。それでも生身の女性といろいろ恋愛してリアルに痛い目に遭ってきた者としては、「こーゆー女がもし実在したら、まず間違いなくブリの皮を被った地雷女だから」ってピンと来ちゃうからね。

 先程も触れたけれど、「ユルフワ天然系で女度の高い子は、実は九割方は男ウケを狙った邪悪な男ハンターとか、「地味で可愛い系の子は、実はかなり計算高くてシタタカ」というの、リアルな恋愛という残酷な戦場で負け戦を続けてきた黒沢の経験でも、ガチで本当だから。
 それがわかっているから、ギャルゲーのヒロインに多い「ホンワカした天然系の女らしい子」って、何か生理的に受け付けない部分があるんだよね。
 で、ギャルゲーで黒沢が気合いを入れて攻略にかかっちゃうのは、サブキャラ扱いに近い「サバサバしていて女らしさは表に出さず、普段は明るく元気でフレンドリー」ってタイプばかりなんだよね。容姿もたいてい、黒髪ショートのボーイッシュな感じで……。
 ……察しの通りだよ。黒沢は間違いなく今も、理想の女の子にリホさんの面影を追い続けているよ。

 自戒も込めて言うのだけれど、彼女いない歴=実年齢の男子の、女を見る目の無さ」って、ホント悲しいくらいのモノがあるよ。
 繰り返し言うけどさ、ギャルゲーでオタに人気のヒロイン達って、「現実にはあり得ないキャラ」と言うより、「男を手玉に取り慣れた腹黒ビッチが偽装する、典型的な“可愛い”女の子」ばかりだから。そしてこのテのヒロインに限って、ネットのゲーマーのレビューとかでは高評価なんだよねぇ……。
 あーあ、こーして男は性悪ビッチの餌食になって行くんだなぁ……って、ギャルゲーをしていて時々泣きたいような気持ちになってくるよ。

僕らはみんな河合荘 1 (ヤングキングコミックス)僕らはみんな河合荘 1 (ヤングキングコミックス)
(2011/05/30)
宮原 るり

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隣のネネコさん』や『恋愛ラボ』などで知られる宮原るりさんの作品に、『僕らはみんな河合荘』ってのがあってね、コレは年齢を問わず恋愛経験の少な目な男子諸君にぜひ読んで欲しいな。男ウケのする“可愛い女の子”の正体が、ホントによくわかるから。
 ま、話としては「河合荘という下宿屋で一人暮らしを始めることになった、平凡で気の良い高校生の男の子が、無口で読書好きなツンデレ少女や、年上のオネーサンや、可愛い系の女子大生などと同居ることになって……」という、ギャルゲーなんかにありがちな設定なんだけれどね。

 まーね、メインヒロインの律ちゃんはいかにも男性読者のウケを狙ったと言うか、「二次のセカイでは珍しくもないけれど、現実の世界にはまず存在しねーだろ」ってツンデレさんだし、ヨッパライで男を見る目ナシの麻弓オネーサンもイロモノって感じだから、黒沢的にはどーでも良いのだけれど。
 ただ残る渡辺彩花サンのキャラが、ホントに秀逸なんだよ~。見かけはホンワカ、ユルフワ系の可愛い子で、でも実は何もかも計算ずくの凄腕男ハンター……っていう。

 女子大生の彩花サンは、サークルの仲間とかと飲みに行ったりするワケ。でも「酔っちゃった」とか言ってベタつくとかの、ありがちな“安い手”は、彼女は絶対使ったりしないんだよね。
 まず目をトロンとさせて、僅かに唇も開いてぽやぁんとした顔をして。そして両手で持ったコップは、胸の前あたりに。
 そして気づいた周りの男に「酔った? 大丈夫?」と聞かれたら、ぽーっとした目で小首を傾げて、飛びきりの笑顔で「酔ってないよぅ~」って。
 そしてボディタッチをさりげなく増やし、特に立ち上がった時や靴を履く時には、ふらついて抱きついたりするのだけれと、もちろんその時には相手もキッチリ選んでね。

 ……彩花サンのこの手口、「俺ならちゃんと見抜けるし、絶対引っかからないゼ!」と言い切れる男、どれだけいるかなぁ?
 詳細は実際に作品を読んでみて欲しいのだけれど、彩花さんの凄腕ぶりのほんの一例を挙げてみれば、まあこんな感じデス。
 この彩花サンを、同じ河合荘の下宿人の麻弓オネーサンは「女郎蜘蛛」って評しているのだけれどね。今の黒沢ならともかく、十年前の黒沢だったらまず間違いなくチョロく引っかかってたと思うなー、その女郎蜘蛛サンに。

 ①彼女いない歴=実年齢かそれに近い。
 ②ちょっと天然入った、女度高めのユルフワ系の子が好き。
 ③男の子向けのマンガやギャルゲーのメインヒロインは、たいてい素直に好きになれる。
 以上の条件に一つでも当てはまる男子は、この『僕らはみんな河合荘』、ぜひ読んでみて欲しいよ。この黒沢みたいに、まんま彩花サンみたいな悪女に手玉に取られた挙げ句に大火傷して、女性不信&人間不信に陥ってしまう前に。

 黒沢みたいに恋愛でいろいろ修羅場を潜って女の子の裏の顔とか見て来た男だったら、もはや芸の域にまで達している彩花サンの裏と表の顔と態度の使い分けも、きっと「わかるわかる、こーゆータイプのオンナって案外いるんだよな」って、苦笑いしながら読めてしまうと思う。
 けど恋愛経験が浅くてまだ女の子に夢を抱いている男子たちは、多分「ウソだぁー、ありえねー、作者は女だから僻んで、モテる可愛い子をわざと悪く描いてるに違いないっ!」とか叫び出したくなるんじゃないかな。そこまで行かなくとも、「いや、これはいくら何でも、大袈裟に話を作り過ぎでしょ」とかね。
 違うね。作者の宮原るりさんは女性だからこそ、男には見せないオンナの真の姿をリアルに、そして笑いの底にちょっぴり背筋が凍るような怖さを潜ませながら描き出しているんだよ。

 まだ純な男の夢やロマンを壊すようで悪いけれど、ズバリ断言するよ。この彩花サンみたいな腹黒ビッチの男ハンターって、三次の世界には間違いなく、「そう珍しくもなく」存在するから。
 事実この黒沢も、件の「ユルフワ系を装った悪女」に遭遇して、その後の人生が変わるくらいのこっぴどい目に遭いマシタから。
 で、その女郎蜘蛛タイプの悪女に手玉に取られた挙げ句に、黒沢はただ自分が傷ついただけでなく、リホさんという最も大切な人を永遠に失ってしまいましたとさ。

 綺麗事でなく本気で思うのだけれど、恋愛で過去に自分を傷つけた相手に対する最大のメシウマの復讐って、殴る蹴るとか罵詈雑言を浴びせるとかのいわゆるDQN返しをすることじゃないと思う。それより「あの時アイツを離したりせずに、もっと大切にしていれば良かった」と死ぬほど後悔させることの方が、相手にとってももっと痛いんじゃないか……って気がするよ。
 だってさ、「何であの時、あんな真似しちゃったんだろう。俺はホントに馬鹿だった」みたいな思いって、その後もずっと自分を責め続けるじゃん。

 だからさ、ヒドい裏切られ方をしてフラれたからって、別に仕返しに行ったりストーカーまがいの真似をするとかして執着するコトないんだよ。そんなことしたところで、ただ自分に犯罪歴をつけるだけの話でさ。
 それより自分磨きに精を出して、相手に「しまった、あの時何でアイツをフッちゃったんだろ」って後悔させた方が、綺麗事でなく結果的にずっと効果的な復讐になるよ。
 現に黒沢だって、例の『僕らはみんな河合荘』の彩花サンみたいな女郎蜘蛛みたいな女の子に惑わされた結果、リホさんを深く傷つけて絆を断ち切ってしまったことを、今もまだ悔やみ続けているし。

 もしアズサになど目もくれず、ずっとリホさん一筋でいたら。
 一緒に受験勉強して、一緒に東京に出て同じ大学の同じ史学科に通って。そしてそれから……。
 もし自分に、正しく女の子を見る目があったなら。そしたらあり得たかも知れない、また別の未来が繰り返し脳裏に浮かんでは、今も胸が苦しくなってやり切れない思いになるよ。

 ところで、もしかしたら覚えている人もいるかな。幼なじみについて触れた章の末尾で、黒沢はこう言ったよね。
 次の話がもし中学時代のイタい失恋話ではなかったら、「逃げたな、このチキンめ!」と笑ってやってくれ……って。
 ハイ、お察しの通り逃げて、違う方面のコトをダラダラと書き連ねてしまいマシタ。

 太宰ではないけれど、黒沢の半生なんてホントもう「恥多きアレ」の連続デシタ。中でも中学三年生の時のアズサとのコトと言えば、それはもう黒沢の黒歴史の頂点というか、真っ暗闇としか言えないくらいド暗黒なソレでさ。
 だからその時の出来事は、まだ誰にも話したことも無ければ、ヒミツの日記にだって書いたことも無いんだ。本当にもう、できる事なら記憶から消し去りたいくらい辛い思い出だよ。
 けど黒沢の恋愛観や人間観やその後の生き方まで思い切りへし曲げてくれた一件だけに、忘れようにもどうにも脳内のHDDから消えてくれなくてさ。
 そのアズサとのことだけれど、受験の思い出からリホさんとのことまで書くうちに、何か覚悟が決まってきて、話しても良いような気持ちになってきたよ。
 で、ずっと前にも予告した黒沢の中学時代のイタ過ぎる失恋のコトを、今度こそ話すね。

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お受験(23)・生まれて初めての泥酔

 その同窓会は盛況で、一次会には三十人以上の人が来ていてさ。だからリホさんやアズサから離れて顔を合わせずにいるのは、そう難しい事じゃなかった。
 昔ちょっと仲の良かった誰かを捕まえて、「おー、久し振り。どうしてる?」とかやっていれば、会いたくない相手とは近づかずに済むし。
 アズサとは部屋に入るとすぐに目が合って、アズサは僅かに嘲るような微妙な笑みを浮かべ、そして黒沢は感情を凍らせて無表情を作って目を反らせたよ。そして背を向け、幹事のミカちゃんと話ながらその場を離れて、本当にそれっきり。
 わざと見せつけるつもりか、アズサがそう遠くない所で、取り巻きの男子たちと談笑してるのもチラリと見えたよ。けど心底「どーでもイイし、勝手にすれば?」って思ってた。
 リホさんの方は……黒沢に気づいたのか気づかないのか、スワさんとかイケヤマさんとか、昔の女の友達に囲まれてずっと話し込んでいて、黒沢の方には顔も向けなかったよ。

 リホさんについてはね、姿を見るとまだ胸が痛んだよ。
 けどアズサとのこともリホさんとのことも、今となれば過ぎた昔の話だし。それに来ちまったせっかくの同窓会の空気を悪くしたら、わざわざ気を使って呼んでくれたミカちゃんやユカさんに悪いと思ったし。
 だから黒沢は、もー居直って酒を飲みマシタよ。そしてマツオとかの昔よくつるんでいた連中ではなく、「放課後や休みの日に一緒に遊びに行ったりはしなかったけど、教室ではそれなりに喋ってた」という感じの、そこそこ仲が良かった奴らと、「よー、元気か、今どうしてるよ?」みたいな話を続けてたよ。

 傍目には、その晩の黒沢はきっと明るく楽しくやっているように見えたんじゃないかな。まあムスカ大佐モドキだった黒沢も曲がりなりにも成人して、東京でいろいろバイトとかもして、愛想の良い面白い人のフリをするのも上手くなっていたしね。
 だからその晩の一次会では、リホさんやアズサやマツオとかを除く、いろんな元クラスメートといっぱい話をしたよ。
 でもリホさんやアズサがそこにいるという事は、ずっと頭の中にこびりついていて、片時も意識から離れてくれなかった。
 だから黒沢はあえて二人を視界から外して、もー酒を飲んでは近くの誰かと喋ってばかりいたよ。ただ同じ部屋に居るだけで蘇って来るリホさんやアズサとの思い出を、忘れるのは無理にしても出来る限り遠ざける為に、ね。

 実は黒沢は、アルコールにはかなり弱いタチでね。例の「遺伝子的にアルコールが分解しにくい」ってヤツだよ。
 もうね、日本酒なら一合、ビールでも中ジョッキ一杯で真っ赤になっちゃうくらいでさ。
 そしてまた黒沢の父親というのが、飲むと人が変わって荒れてしまうタイプだったから。そういう酒乱の父親がいる家庭で、幼い頃から飲む父に怯えながら育ったものだから、酔っ払いに対するトラウマというか生理的な嫌悪感もあるんだよ。

 よくさ、「酒は飲んで吐いて強くなるものだ」とか言って、体質の問題をいくら説明しても、理屈抜きで飲むことを強要する人とかいるじゃん? そーゆー奴を見ると、肚の奥からこみ上げてくる怒りと憎しみで、本気で殴りたくなってしまうよ。
 それと、「そんなにお酒に弱いなんて、男なのにだらしないゾ」とか言う人達が、男女問わず少なからず居るよね。そういう人達に黒沢は言いたいよ、「じゃあ精神病院にいる廃人寸前のアル中患者さん達こそ、男らしい英雄さん達……ってことになるよね?」って。

 だから飲み会って、黒沢は本質的に好きじゃないんだ。酔っ払いの愚かさと醜さも、酒がいかに家庭や人間関係を壊すかも肌身にしみて知っているから、「飲まなければ築けないような人間関係なんて、所詮クズで偽物」って思うしね。
 シラフでは本音を話せないなんて、それこそ「本当に心を許して信頼してる仲じゃない」って証拠だと思うよ。
 けどその同窓会の晩だけは、どうにも飲まずには居られなかった。しかも無茶に近い飲み方をしても、何故か殆ど酔えなくてさ。
 だから「二次会、行こうか?」って声がかかった時も、即座に「おー、行く行く!」って応じたよ。

 一次会には広い部屋いっぱいになるくらいに集まってたメンバーも、二次会では意外に減っていてさ。
 そのまま帰ったのか、別のメンバーで違う店に行っていたのかは、黒沢にはわからないけれど。ただその二次会に行ったのは、幹事や黒沢も含めてせいぜい十人といったくらいだったかな。
 幸いと言っては何だけど、その十人の中にはアズサもマツオも居なかった。ただ一緒に行った中には、リホさんとその親友のスワさんもいたけれどね。

 でも別にそれは構わなかったんだ。アズサとマツオについては、思い出すだけで毒薬を舐めさせられるような苦さが口の中に広がって来ると言うか、世の中から消えてくれれば嬉しいくらいの感情を抱いていたからね。
 けどリホさんに対する気持ちは、それとはまるで違ったから。
 そのあたりの複雑な思いを言葉で表現するのは、とても難しいのだけれど。微妙なニュアンスまで伝わらないことを承知の上で、あえて言うとすれば──。
 二度と巻き戻すことの出来ない過ぎ去った時を悔いる、胸を締め付けられるような苦しい思い……とでも言えば良いかな。

 二次会の会場はそう広くもないスナックで、リホさんは黒沢の向かいの席に座ったよ。
 けどね──。
「久し振り、元気?」
 その一言が、黒沢の口からどうしても出て来なかった。
 それどころか、向かいの席のリホさんと目を合わせることさえ出来なかった。
 何故か、って? それはズバリ、黒沢はまだリホさんのことを思い切れてない、心の中は未練でいっぱいなんだ……って、一次会で姿を見た瞬間にそう悟ったからだよ。

 黒沢の向かいの席を選んだのはリホさん自身で、だから彼女自身は昔のことなど何もこだわっていなかったと思う。と言うよりむしろ、黒沢と喋ってみたいと思ってくれていたのかも知れない。
 けどもし話しかけて、リホさんが笑顔で答えてくれたら、どうしたってその後の展開を期待しちゃうよ。近況とか聞きながら、今は彼氏とはどうなのかをそれとなく探って、「やっぱりオレと付き合って」とか、きっと言い出してしまう。

 けど答えなんて、聞くまでもなくわかってたんだ。受験に専念する覚悟でいたリホさんが惚れ込んだ相手だもの、すごく良いヤツに決まってる。
 地元ではずっと黒髪ショートのスポーツ少女(美少年?)だったリホさんを、長い髪の大人の女の人に変えたのは、少なくとも黒沢ではないワケで……。
 その事実を目の前で見せつけられるようで、ひどく苦しくて辛かったよ。
 少なくともその頃の黒沢にとって、リホさんとのことは甘酸っぱい思いと共に懐かしめるような過去の話には、まだなっていなかったんだよね。

 サバサバ系の美少年風だった昔から、リホさんは勘も察しも良い子だったから。目を合わせようともしない黒沢に、「話すのもイヤなんだ」って、すぐにそう受け取っただろうね。
 でも別にそれで構わなかった。心の奥でまだ燻っていたリホさんへの想いがまた燃え上がって、そして「好きだ!」とか言った挙げ句にまた振られるのが怖かったんだよ。
 学校では「隣のムスカ大佐」みたいなヤツだった黒沢を、唯一理解して味方してくれていたのがリホさんでさ。そのある意味恩人みたいな人に、すごく鈍感で無神経なコトをして、いろいろ傷つけたりもした黒沢だよ。
 そのリホさんが良い彼氏に出逢って幸せでいるなら、黒沢などそのまま黙って消えた方が良い……って、心からそう思ってた。

 だから黒沢はリホさんへの想いを吹っ切る為にも、二次会ではとても明るく飲みましたよ? それに一次会で顔を見たアズサとマツオのことも、一秒でも早く記憶から消し去りたかったしね。
 一次会はチャンコ料理屋だったから、出された酒もビールと日本酒だった。けど二次会はスナックだったから、テーブルに並ぶのはフルーツやツマミにウィスキー……って感じでね。
 ハイ、気合いと半ば自棄で飲んでしまいましたよ、そのウィスキーをね。

美味しんぼ(70) (ビッグコミックス)美味しんぼ(70) (ビッグコミックス)
(2013/01/01)
花咲アキラ、雁屋哲 他

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 まあ『美味しんぼ(70)・スコッチウィスキーの真価』などもまだ出ていない時代の日本のことだったから、出されたのも甲種焼酎に色と香りをつけたような国産の偽ウィスキーを、水と氷でジャブジャブ薄めたような代物だったけど。
 その水割り(S社のK)を、五杯くらいまで飲んだ辺りまでは覚えてる。そして斜め前の席のミーちゃんや隣のオオノさんなんかと、いっぱい馬鹿話をしたよ。喋るだけでなく歌って踊ってノリノリでさ、端から見ればすごく楽しんでたと思う。
 おかけで昔から勉強も出来て大学も良いトコに行ってた奴らからは、「何バカやってんだよ」みたいな呆れた目で見られていたけど。でもそれ以外の連中からは、「黒沢ってノリ良いじゃん」みたいな感じでウケてたよ。

 ただ真向かいの席のリホさんだけは、ずっと何か言いたそうな、案ずるような目で見ていてさ。
 気づいていたけれど、気づかぬフリして隣のオオノさん達と喋り続けていたら。
「ね、大丈夫?」
 柔らかな声で、リホさんの方から本当に心配そうに囁きかけてくれて。
 けど黒沢は聞こえなかったふりをして、隣のオオノさんと喋り続けたよ。
 何でか、って?
 それはズバリ、黒沢がまだ「坊やだったからさ」ってとこ。

 生き残る為には、自分の感情さえ凍らせちゃえる黒沢だけれど。ただ恋愛感情だけは、まだどうしても制御不可能で。
 リホさんの顔を真っ直ぐに見て喋り始めたら、もう自分の感情が抑えられなくなるのがわかってた。
「ねえ、今どうしてる?」
「彼氏とはどうなの、どんな人でうまくいってるの?」
「夏はいつまで地元にいるの、休みのうちにまた会えない?」
「東京ではオレ文京区なんだけどさ、リホさんはどの辺り? あっちでも会おうよ」
 期待と下心を込めた言葉が洪水のように溢れ出てしまうのは、自分でもよくわかってたよ。
 だから目の前のリホさんは「居ないもの」として目にも入らないフリをして、かけられた気遣う言葉も聞き流し、マズい酒を飲んでは他の女子たちと騒いでいたよ。

 そのリホさんだけは、気づいて気遣ってくれていたけれど。
 ……ハイ、実は全然大丈夫じゃなかったデス。前にも言ったように黒沢は酒にはかなり弱くてね、体質的にアセトアルデヒドをうまく分解できないタイプなんだ。
 なのに一次会ではビール、二次会では粗製ウィスキーの水割りをグイグイ飲んでいたからさ。
 死ぬまで二度と会いたくなかったアズサとマツオの顔を見てしまって、途中まではもう「酔いたいのに、ちっとも酔えねぇ」って感じだったのに、二次会の途中でいきなりガツーンと酔いが回って来てさ。ひどい頭痛と胸のムカつきに襲われてトイレに駆け込んで、後はもう吐き通しだったよ。

 その時はもう「吐くものが無くなっても、まだ吐き気が止まらない」って感じで、ホントに胃液まで吐いたよ。それで超カッコ悪かったけど、どうにも耐えきれなくて、二次会の途中でタクシーを呼んで帰ったよ。
 頭痛と吐き気にはそのタクシーの中でも絶えず襲われていて、でも車内では何とか耐えて。けど車を降りて数歩も行かないうちに、路地裏の脇の側溝にまた吐いて。そしてふらつきながら家にたどり着いてそのままベッドに倒れ込んだのだけれど、頭痛と胃痛と吐き気はさらに続いてさ。

 洗面所に行こうと立ち上がりかけたのだけれど、下手に起き上がったのがマズかったのかも。立って一歩か二歩も行かないうちに、自分の部屋の床に吐いちまったよ。
 けど片づける元気も気力も無くてさ、そのままベッドに戻って朝まで死んだように眠ったよ。
 翌朝、経験したことの無いほどキツい二日酔いの諸々に苦しみながら、部屋の床の昨夜吐いた辺りを見てみると、ソレは胃液というより殆ど血だったよ。
 ……マジで血を吐くような、そんな酷い飲み方をしたのは、黒沢のそれなりに長い人生の中でもその時が最初で最後だったよ。

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お受験(22)・リホさんの変身

 で、その後リホさんとの仲がどうなったかと言うと、ざっくり言えば「それっきり」ってことかな。
 後になって冷静に考えてみれば、「ずっと一年も会わないでいて、その間に同じ塾で励まし合いながら頑張っていた誰かを好きになってしまうのも当然」とわかるんだけど。それに中学二年の時に同じクラスになってから後のことを考えても、黒沢は辛い思いをした時にリホさんに助けて貰ってばかりで、その逆は殆ど無かったように思う。
 だからリホさんにいつ見切りをつけられて放り出されても、「これまでいろいろありがとう」と感謝こそすれ、恨む筋合いなんて無かったんだよ。
 ただその頃は、「会いたい気持ちを我慢して、ずっと待ってたのに裏切られた」みたいな思いが強くて、もう二度と連絡は取るまい、会いたくも無い……って思ってたよ。
 怒ってたとか恨んでたとか言うより、ただ「痛い」って感じだった。リホさんのことを考えるだけで、悔やむことばかりの過去がいろいろ思い出されて心が痛い、って感じで。

 そのリホさんとの再会ですか。ハイ、ありました。たった一度だけ。
 黒沢が中学二年から三年まで居たクラスって、心地良いぬるま湯そのもの……って感じだった。特にまとまりが良いわけでもないし、勉強にも校内行事にも全然燃えないんだけれど、特に悪いヤツや問題児もいなくて、皆それぞれ気ままに仲良くやっててね。
 そのせいか、卒業後も毎年のように同窓会をやってたよ。

 その同窓会の通知は、毎回黒沢の所にも届いてはいたけれど。でもいつも不参加の返事を出して、行ったことは一度も無かったよ。
 そして大学三年の夏休みに、いつものように届いた中三の時のクラスの同窓会の通知に、これまたいつものように不参加の返事を出してさ。
 ただ黒沢は、その時だけちょっといつもと違ったことをしちゃってさ。封書に不参加の返事と一緒に会費を添えて、「事情があって今年も行けませんが、これを費用の足しにして皆様で楽しくやって下さい」と書いたメモを添えて出したんだ。

 繰り返し言うけれどまだ携帯電話もメールも無かった時代だったからさ、こーゆー通知は往復葉書でやるのがデフォだったんだよね。うん、文面の印刷はプリントゴッコで。
 何でそんなカッコつけた真似をしたかと言うと、まずは感謝のキモチかな。黒沢って中学の頃のそのクラスでは、ホント好き勝手にやってたからね。もう厨二病全開で「みんなバカばっか」って人を見下して、マジで『ラピュタ』のムスカ大佐そのもの、って感じだったから。

天空の城ラピュタ [DVD]天空の城ラピュタ [DVD]
(2002/10/04)
ウォルト ディズニー スタジオ ホームエンターテイメント

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 今になれば「オレって、もしかしなくてもアスペかも?」って自覚もあるし、今で言うKYっぷりもかなりのものがあったからね。だからこんな黒沢のことなんかスッパリ忘れて、「居なかった人」として処理してくれて全然構わなかったんだよ。
 事実黒沢は、そのクラスの同窓会に行ったことなど一度もなかったんだしね。
 でもそのクラスの人達は、こんな黒沢のことを忘れずにいて、毎回誘ってくれてさ。だから皆に「ありがとう」って心から思って、「黒沢は行けないけれど、代わりに皆で一杯やって下さい」って。

 まあその頃の黒沢は大学生でバイトもいろいろしていて、財布にも「昔はゴメン、そしてありがとう」って感謝の気持ちを示すくらいの余裕もあったしね。
 それとあと一つ、その時の同窓会の幹事の名前にあったユカさんとミカちゃんには、昔ちょいと仲良くして貰っていたものだから。その二人の名前を見たら、いつものようにただ“不参加”に丸をつけた返事を出すなんて、とても出来なくなってしまってさ。
「参加する気にはなれないけれど、素気なく断っては義理が立たない」って感じでね。

 ……とまあ、会費だけ出して不参加と、カッコつけて少しだけ良い気分でいたらさ、その幹事の一人のユカさんから電話があって、「黒沢くんもぜひ来てよ」って強く言われちゃって。
 でも黒沢には、「わかった、行くよ」とは言えない事情があってさ。
 で、いろいろ話すうちに、その黒沢が同窓会に出たくないワケを白状させられちゃったんだよね、「絶対会いたくない人がいるから」って。

 それ、リホさんのことじゃないデスよ? リホさんについてはまだ心に痛む部分が残っていたし、「どんな顔して会ったら良いかわからない」って感じだったけど、恨むとか顔も見たくないとかいう気持ちは全然なかったから。
 例の受験の時の「一年待たされた挙げ句に、すっぽかし」の件については、心中まだモヤっとはしていたよ。けどそれ以前のことを考えると、「黒沢はリホさんにいつも頼って甘えて、迷惑かけてばかりだった」って、自分でもよくわかっていたからね。
 その黒沢が「絶対会いたくなかった相手」って、これまで一度も話に出して来なかったアズサって子なんだ。ハイ、幼なじみについて語った章のラストで触れた、黒沢のその後の生き方さえ変えるくらい、大袈裟でなく「地獄を見るような」イタい恋愛をさせてくれた相手デス。

 でさ、同窓会に行かない理由にアズサの名前を出したら、ユカさんは「あー、そうか」って一発で理解してくれたよ。
 そのアズサと黒沢のアレコレって、卒業して五年以上経った後でも、同級生に「そりゃー会いたくないわ」って同情されちゃうような修羅場展開だったんだよね。
 けどユカさんは、それでもその同窓会に「来て」って言ったよ。
「大丈夫、今度の会にアズサは来ないから」って。
 で、黒沢はその同窓会に、思い切って行くことにしちゃったんだよ。

 ……そしたらしっかり来ているじゃアリマセンカ、黒沢がもう二度と絶対会いたくなかった、思い出すのさえイヤだったそのアズサさんが。
 その同窓会の一次会の会場は、市内のチャンコ料理屋だったのだけど。黒沢はもう皆がいる部屋にも入れずに、店の廊下でただ呆然と突っ立っててさ。
 で、その黒沢に気づいてやって来てくれたもう一人の幹事のミカちゃんに、疲れた顔でただ一言、「……来てるじゃん」って耳打ちしたら、すぐに察して「本当にゴメン、来ないって言ってたんだけど、寸前で気が変わったみたいで」って、本当にすまなそうに謝られちゃったよ。

 本当はね、そのまま回れ右して逃げ帰っちゃいたいくらいだったよ。けどそれでは幹事のユカさんやミカちゃんに申し訳ないし、それにここまで来て逃げ帰るのは、成人式も済ませた男として余りにも情けない気がしてさ。
 それで肚をくくって、せめてもの意地で何食わぬ顔で、作り笑顔まで浮かべて中に入ったよ。
 そしたら例のアズサだけでなく、リホさんも昔の友達に囲まれて楽しげにしていたよ。

 黒沢の知っているリホさんは、スッキリ系のキリッとした顔立ちで、ショートのストレートヘアが似合う元気なスポーツ少女でさ。男みたいと言うのとは全然違うのだけれど、見るからに美少年って感じの、女臭さのない中性的なコだったんだよね。
 だから中学で同じクラスだった時にはまるで男同士みたいな付き合いで、時には箒で叩き合ったりもしてさ。

 はっきり言って黒沢は、リホさんのこと「美人だな」とは思ってたけれど、異性としてはあまり意識してなかったよ。女の子なんだって、頭ではわかっているのだけれど、意識としては「ナカマでトモダチ!」って感じが先に立っちゃってね。
 だから別の高校に進学した後も、時々電話で話したり、二人でデートっぽいことをしたりもしたけれど、彼女を心の底から女の子扱いはしていなかったような気がする。

 でもその二十歳を過ぎた後の同窓会で見たリホさんは、ホントにもう「別人?」って言いたくなるくらい変わってたよ。
 高校を卒業するまでずっと『あまちゃん』の天野アキみたいなストレートのショートだった髪も、背の中程まで届くくらい長く伸ばして、さらに緩くウエーブまでかけていて。
 黒沢が知る制服以外のリホさんと言うと、ジーンズ姿とかショートパンツしか思い浮かばないのだけれど、その時はしっかりメークもして、長めのフレアスカートなんかつけていてさ。

 リホさんのそんな女らしい姿を見るのは、黒沢の記憶の中では初めてだった。しかもそれはその時だけの付け焼き刃ではなく、仕草から喋り方まで大人の女の人そのものだったよ。
 以前のリホさんと言えば、いかにも強気っ子らしく男子も平気でキツい声で叱り飛ばしててさ。それかやや低めだけれど落ち着いた、優しいと言えるくらい柔らかな声で喋るようになっていて。
 長いことリホさんのことを見誤っていたんだって、黒沢はその時初めて気づいたよ。まるで“美少年”にしか見えなかった短髪スポーツ少女の昔から、心と言うか本当のリホさんは女の子だったんだよね。

 そう言えば、中学二年の体育祭の時のこと。
 黒沢はマツオって悪友と、それにリホさんとその友達のイケヤマさんの四人で、競技の合間に無駄話をしていてさ。で、皆が体操着だったせいか、話題がナゼか胸の大きさのことになってさ。
 リホさんは何度も言うように見かけも美少年風だから、実際の体型はどうあれ、やっぱりこうイメージ的に“ある”ようには思えないわけ。しかも態度もサバサバ系だから、そーゆー話題でもツッコミやすくてね。

「そう言えばリホさん、胸ないよねー
 普段から軽口を叩き合い、時にはどつき合いもしていた黒沢がそう言うと、リホさんもすぐにキッと睨んで応じてきてさ。
「うるさいなー、ちゃんとありますって!」
 そのリホさんの体操着の胸を、いかにも興味なさそうに一瞥する黒沢でアリマス。
「だって80とか、絶対ナイでしょ?
「あるよっ!」
「ねーよ、そんなあるワケないって」
あ・り・ま・すッ!
「へーえ、じゃあ何センチ?
「……」
 唇をキッと結び、黙ってさらに強く睨むリホさんでアリマシタ。

 実はリホさんはツルペタでも何でもなくて、中二のその時点で胸囲81.6cmだということを、黒沢はちゃんと知っていたのだ。その時の保険委員だったマツオのやつ、女子の身体測定のデータを仲間の男子に内緒で見せちゃってたんだよね。
 胸囲って、バストトップの少し上あたりを測るからさ。だからその時のリホさん、バストサイズで言えば85近くあったかも。
 けどそこはあえて、知らぬフリを続けマス。

「80とか、そんな絶対ナイね」
「あるよっ。ブラだってちゃんとつけてるし!
 ある胸をナイと言われ続けてか、あらぬことを口走るリホさんデス。
「は? そんなん必要ねーし、つけてねーだろ」
「つけてますッ!」
 疑わしそうな目で、リホさんの胸元をまた関心なさげに一瞥する黒沢。
「そんなん、ただ言われただけじゃわかんねーよ」
 ……ホントはブラのラインが、薄くだけどしっかり見えてたんだけどね。
 黒沢のその発言に、リホさんも意地になったと言うか、我を忘れちゃったんだろうね。
いーよ、じゃあ触ってみなよ。ほらっ
 そう言ってリホさんは、キュッと唇を尖らせると黒沢に背を向けて。

 ハイ、リホさんのその背中、触らせていただきマシタ。だって本人が、触っていいって背を向けて、体も少し寄せて来ているんだし。
 と言っても、そこはDTの中坊だからね。ほんの一瞬、そっと背に手を当てたくらいだよ。エロい冗談を言っても口先大王で、じっくり触る余裕なんて全然なくてさ。
 けどその時のリホさんの背中とブラのホックの感触は、微かにだけど今でも覚えてるよ。

 ま、女の子のブラなんて、その後飽きるほど見てきたし、中身も数え切れないほど触ってきたさ。けど思春期の男子にとっては、女の子の体に触れた記憶ってホント宝物に近いものがあるからね。
 だからその時の黒沢はメチャメチャ照れて、すごくドキドキもしてた。
 そしてその照れを、黒沢はつい悪ふざけでごまかしちゃったんだよね。
 実は震えそうになる手をすぐに離して、でも表面的には平気な顔をして、大げさに首をひねって見せてこう言っちゃった。
「いや背中じゃよくわかんないし、触るならやっぱり前でないと」

 何しろ黒沢とリホさんは、日頃から平気でどつき合いをしてたし、リホさんに(ふざけ半分でだけれど)殴られたことも一度や二度じゃなくてさ。
 だから怒られてどつかれることを、覚悟の上での悪ノリだったんだ。
 けどその時は、怒られもどつかれもしなくてさ。
「ちょっ、クロサワ、スケベっ!」
 そう怒鳴ったのはリホさんではなく、その隣のイケヤマさんの方だったよ。
 で、リホさんと言えば何か本当に女の子みたいな小さな可愛い悲鳴をあげて、頬を真っ赤に染めて両腕で胸を隠してさ。
 けどそれで気まずくなるでも嫌われるでもなく、すぐ前と同じように馬鹿話を続けて、二人の間の空気は何も変わらなかったよ。

 イケヤマさんと言えば、そのしばらく後にこんなコトもあって。
 ある日の放課後、殆ど皆が帰って黒沢も校舎を出かけた時、教室に忘れ物をした事にふと気づいたんだ。それで教室に戻って、机の引き出しの中にその忘れ物を見つけて一安心して目を上げると、そのすぐ側にリホさんがいて、しかも生着替えの真っ最中じゃアリマセンカ!
 うん、下はブルマで上はブラ一枚……みたいな感じで。
 ハイ、当時は女子の体操着はまだブルマという、古き良き時代なのでアリマシタ。

 それはともかくとして、その時はもう自分の忘れ物の事で頭が一杯で、教室に入っても自分の席しか見えてなかったんだよね。そして肝心の忘れ物を回収するまで、お着替え中のリホさんにホントに気づかなかったんだよ。
「あ、ゴメン!」
 黒沢はすぐ目を背けて、駆けるようにして教室を出たよ。
 ラッキィと思ってその姿をしっかり眺めちゃおうなんて、考える余裕も無かったね。
 そしてリホさんも怒ったり悲鳴を上げたりもしないで、ただもう背を向けて俯いて……って感じで。
 でも黒沢が教室を出てすぐ、反対側のドアの方でリホさんの半泣きっぽい声が聞こえてきたよ。
「イケヤマぁ~、ちゃんと見てて……って言ったじゃん!」

 つまりさ、リホさんはその日何か事情があって、親友のイケヤマさんに外で番をして貰いながら、教室で着替えてたんだよね。
 けど教室のドアって、前と後ろの二カ所あるワケで。
 そして黒沢は、ちょうどイケヤマさんが見張ってたのと反対側のドアから入っちゃったみたい。学校の上履きって、ゴム底だから足音も殆ど響かないしね。

 昔の体操着がブルマの時代にはさ、中学生の女の子ってスカートの下にはいつもブルマをつけていたんだよね。
 で、朝と帰りの掃除の時などには、さっとスカートだけ脱いで、上はセーラー服に下はブルマって格好で作業して……みたいな。
 あるいはそのまま体操着姿で、とかね。
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 今なら「あり得ない目の保養」ってとこだけど、それって黒沢たちの頃の中学生にとっては、本当にごく当たり前の風景、だったんだよね。

 冬のある寒い日の放課後、班で話し合わなければならない用事があってさ。その時リホさんと黒沢は同じ班で、班員は他にも居たけれど、大事なコトは殆どこの二人で話して決めている、みたいな感じでね。
 リホさんは自分の席で、話し合いの要旨をノートに書き留めていて。そして黒沢はそのリホさんの脇に、片膝をつく形でしゃがんでいて。

 その話し合いを始めたのは、帰りの会と掃除のすぐ後でさ。だからリホさんは例の「セーラー服にブルマ」って、今なら萌え系の二次元かコスプレの世界にしか有り得ないようなカッコでさ。
 そのリホさんの脇に跪いていた黒沢のすぐ前には、ちょうどリホさんの生足がある状態で。
 喋りながらそのリホさんの太腿に、黒沢はつと掌を置いてさ。
 それは肘掛けに手を置くような、殆ど無意識の行動だったけど。置いた掌から伝わって来るリホさんの肌はツルツルで温かくて、じんわり伝わって来る彼女の体温の心地良さに、じいんと頭の芯が痺れるような感じだったよ。
「それ、間違いなくセクハラでアウトだから」って? 確かにその通りなんだ
 けど太腿の上の黒沢の手を、リホさんは払おうとか全然しなくてさ。むしろ少し微笑むような柔らかな顔で、ずっとそのままにさせておいてくれたよ。

「それってホントはイヤなのを、ただ我慢してくれていただけだろ」って?
 いや、それは多分ないと思う。だってリホさんは黒沢には、遠慮とか全然しない子だったから。
 って言うか、ただ怒られたどころか、ブン殴られた事さえ何度もあったくらいだし。
 一度など、箒を振り上げたリホさんに追いかけ回された挙げ句に、思い切り殴られ額を割られて流血の惨事になったこともあって。もうマジで病院に行かなきゃならない一歩手前で、手当をしてくれた保健の先生から大目玉を頂戴しちゃったよ、「何てバカな危ないコトするの!」って。

 ま、血を見るまでの騒ぎになったのはその一度きりだけれど、リホさんに殴られたり叩かれた記憶はもう覚え切れないほどあったんだ。
 だからもし彼女が怒ってたら、絶対タダじゃ済んでないって。実際、他の事ではいっぱい、怒られたり叩かれたりしてたしね。
 けど体育祭でのブラの件でも生着替えの件でも太腿の件でも、何故かまるで怒られなかったな。と言うよりむしろそんな時だけ、妙に女の子らしく可愛らしくなっちゃうくらいでさ。

 ただそれはみな中二の時のことで、続く中三の一年間は、黒沢は同じクラスのアズサって魔性の子に振り回されっぱなしでさ。挙げ句に自分もボロボロになっただけでなく、リホさんまで傷つけてしまって、一時期はリホさんと絶交に近い状態だった時もあってさ。
 でも高校入試が間近になった頃、完全にではないけれど何とか許して貰えてさ。そして志望校は別になってしまったけど、「キミが受かったら、合格祝いをあげるね」みたいなことも言ってくれて。
 ただそれを、リホさんはごく軽くさりげなく言っただけだったものだから、黒沢も「うん、わかったー」みたいな感じで、それほど期待せずに聞き流していたんだけど。
 でもリホさんは、黒沢の行く高校が決まって卒業式も目前に迫った頃、ちゃんと約束のプレゼントをくれてさ。
 それもリホさん手縫いの、ランチ袋だったよ。

 大人になっていろんな女の子と知り合って、恋愛という過酷な戦場で(主に負け戦の)百戦錬磨になった今になって考えてみれば、リホさんって昔から心はメチャ女の子だったよね。ただその女の子らしいところは内に秘めて、滅多に人には見せずにいただけの話でさ。
 二十歳を過ぎた同窓会で再会したリホさんが女らしく“大変身”していたのも、「東京暮らしと、そこで出来た彼氏のせい」ではなくて、それがリホさんの本来の姿だったのだと思う。
 でも黒沢は、そんなリホさんをちゃんと女の子扱いした覚えが、ホントにただの一度も無いんだよ。顔もキレイで性格も特上なのはわかっていたのだけれど、いつも「異性としては何か物足りない」なんて思っちゃって。
 で、見せかけの可愛さにダマされて、恋の駆け引きなら百戦錬磨の魔性系の子に痛い目に遭わされては、辛くなるとリホさんに泣きつきに行っちゃう……みたいな感じで。

 ……うわっ、こうして思い起こしながら話していても、心から思うよ、「黒沢ってサイテーな奴だよな」って。
 だから大人の女性になったリホさんと再会しても、何食わぬ顔で「その後どう? 彼氏とはうまく行ってる?」とか馴れ馴れしく近寄って、あわよくばまた言い寄ろうとか、そんなつもりには全然なれなかったんだ。
 むしろ「あれだけ不義理を重ねて、どの面さらしてまた口説けるんだよ」みたいな感じで、「今の彼氏と幸せなら、黒沢など下手に近寄らないでいるのがリホさんの為」みたいに思ってた。

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お受験(21)・理性と自分のキモチ、どっちを大事にします?

 話をリホさんに戻すと、まだガキだった当時の黒沢としては、何か騙されたような、リホさんの言葉をまともに信じてバカを見たような気がしてならなかったよ。
「受験に専念したいから」という理由で、一年後にまた会う約束をして音信不通になって。でも実際には彼女は予備校で勉強と恋愛を両立させていて、約束の一年後の連絡すらくれなかったワケで。

 ただリホさんにしてみれば、それらはすべて“結果論”なんだよね。
 地元を離れた時点では、彼女はホントに受験に専念するつもりでいて。
 そしてその一年間、黒沢だけでなく家族以外の誰とも、中学時代からの一番の親友とも連絡を取らずにいたのも事実でさ。
 で、進路が決まった後に約束の連絡をくれなかったのも、「大事な彼氏がちゃんといるのに、他の男と連絡を取るなんて良くない」って判断なんだろうね。

 バカだよお前は、「合格するまで連絡しない」とか言われたくらいで、何でハイソウデスカと引き下がるんだよ。ホントに好きだったらそれくらいで諦めないで、もっと粘って連絡先を強引にでも聞き出しておかなきゃダメだって。
 そんな風に言う人、きっとかなりいるだろうね。でもそこで強く出なかったことを間違いだったとは、黒沢にはどうしても思えないんだよ。

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 例の『モノクローム』で黒沢がどうにも納得できなかったのが、ズバリそこなんだよ。
 例のA子さんルートのラストで、A子さんが頑張ってスランプを脱して、もっと大きな世界に羽ばたいて行こうとする時に。彼女の意志を尊重してそのまま行かせるか、それとも「ダメだ、オレと一緒にいろ!」と迫っちゃうか……ってのね。

 あのさ、リホさんに「全寮制の予備校に行くから、受かるまで誰とも会わない」と言われた時、感情のまま「イヤだ! せっかく同じ東京に居るのに会えないなんて、絶対納得できない!!」って粘る方が、黒沢にとってもずっと楽だったんだよ。
 だって知り合いなど一人もいない街に行って暮らし始めるんだよ? 何年も前からの付き合いで気心も知れているリホさんに「会いたい、側に居てほしい!」って、心底思ったさ。

 なのにヘタレで素直にそう言えなかったとかじゃないんだよ。だって当時の黒沢って、「キミの為なら死んでもいい」なんて恥ずかしいコトまで、本当に好きな女の子にはマジで言えちゃってたからね。
「好きだから会って!」と言ってしまいたい気持ちをあえて我慢して、リホさんの意志と将来を優先させたんだよ。

 だってさ、現実に凄い秀才でも受験のエキスパートでもないただの大学生の黒沢に、「気持ちの問題じゃなく具体的に」何が出来たと思う?
 ただ会って側にいるだけでも……って、結局それは黒沢のエゴじゃん? あえて全寮制の予備校を選んで友達全員と縁を切ってまで、一分一秒も惜しんで勉強したいリホさんにとって、それって迷惑にしかならないと思うし。

 黒沢ってガキの頃から妙に醒めたヤツでさ、何かする時には、自分のキモチはとりあえず脇に置いておいて。そして「どうしたら結果を出せるか?」ってことを第一に考えて行動してきたんだ。
 だって黒沢は小さい頃に東京から地方に引っ越したせいで、育った町では「日本語はできるけど、地元の言葉を喋らない異邦人」だったし。
 そしてチビで病弱で、外で体を動かすより部屋で静かに本や図鑑とかを読んでる方が好きだったし。
 これでバカだったら、ただの「冴えない陰キャラの子」として目立たず地味に過ごせたんだろうけど。ただ異常なくらいの本好きだったおかげで、勉強もかなり出来ちゃいまして。それも教科書に載ってないことや先生が知らないことまで、サラッと言えちゃうようなタイプでさ。

 ハイ、絵に描いたようなイジメのターゲットだよね。
 さらに自分なりにどれだけ頑張っても、優等生で外面の良い姉と比べられて「出来損ないの弟」って言われ続けてさ。
 だから厨二病が最も重症だった頃にはね、「教師も同級生も親戚も姉も全部テキで、親も味方ではなく、たった一人で世の中すべてと戦ってる」って、マジで思ってたよ。

 そうやって周りの全部と戦った結果、デスカ? ハイ見事に全敗、ってとこ。そしてそういう子供時代を過ごした結果、「いくら正論を吐いて頑張っても、数の力の前ではボロ負け」って現実が、骨の髄まで染み込んでるんだよねえ。
 日本人が大好きな“人の思い”なんかじゃ、物事や現実は一ミリも動かないんだよ、現実にはね。
 岩をいくら必死に睨んでいても、それだけじゃ穴なんて開くワケないよね。現実に岩に穴を開けたきゃ、ドリルとかそれなりのモノを持って来なきゃダメだろコレ常識。

 そう、だから国を護るのに必要なのも武力と外交的な駆け引き(←汚い手段も含む)であって、自虐史観の左の人達が呪文みたいに言う「平和を願うキモチ」も、日本サイコーの右の人達が大好きな「大和魂」も、どちらも現実の前では正直ゴミみたいなモノって思ってる。

 自分は間違ってない、でも周りは全部テキで勝てる筈もない、けどぜってー屈服したくねー。
 勝つのはムリ、それはガキで厨二病の自分にも判ってた。けど勝てないまでも少なくとも負けないで集団から半独立した自分を保つ為に、黒沢が黒沢らしく生きる為に全力で闘ったよ。
 その為に黒沢がまずしたことは、自分の感情を凍結すること。そして客観的に戦況を眺めて、自分自身も将棋の駒の一つのように扱って、圧倒的に不利な中でも負けないように手段を選ばないで闘うの。

 まず黒沢は頭デッカチな博士クンだから、それを生かして口喧嘩では絶対に負けないようにして。
 幸い黒沢には、姉という天敵が居て下さったからね。外での人当たりの良さとは裏腹に、実は身内には毒舌と皮肉とあてこすりの名人なんですな、この姉上さまが。
 家ではその姉との口喧嘩が絶えなくて、時にはテキは姉&母の連合軍になることも珍しくなかったりしてさ。

 よく「女を殴る男なんてサイテー!」とか言われるけど、女って男よりずっと口が回るし毒のある言葉も吐けるからさ。その言葉の棘に心を抉られてキレかけたことのある人って、男には少なくないと思う。
 でも男は、その女の毒舌に傷つくことさえ許されないんだよね。男が女に何か酷いことを言うと「サイテー、オンナノコにそんなコト言うなんて!」って鬼畜扱いされる。けどその反対に女に酷いことを言われてどれだけ心を傷つけられても、「何よ男でショ!」って感じで、むしろ傷つく方が情けないみたいな言い方をされる
 うん、それが今の日本の男女平等wの現実。だから日本の女権論者って、腹の底では冷笑されてまともに相手にされないんだよね。

 でさ、黒沢は常日頃から姉&母の女二人と口論をして、特に姉の方にはさんざん嫌味や当てこすりを言われても、一度も手を上げないで、言葉だけで応戦してきたんだよ。年上の女二人にそれだけ鍛えられて(?)いて、同級生相手の口喧嘩なんかに負けるワケないじゃん。
 当然、言い負かした相手にはキレられたり恨まれたりするし、殴られそうになるとかもあったよ。けどね、そこでビビると後はナメられっ放しになっちゃうから、殴られたら殴り返さなきゃ絶対ダメだよ

 怖いとか殴られたら痛いとか勝てる筈ないとか、そーゆーのは関係ないんだよ。DQNのドレイ&クラスの皆の笑いものになりたくなければ、たとえ負けようが「やられたら絶対やり返すぞオレは!」って姿勢を見せるのが大事だから。
 喧嘩を避けられない時には、それこそ死にもの狂いで全力でやる。ただその時にはできるだけ大勢の人が居る場で、教師などが止めに入って来ざるを得ないように派手にやることも忘れずに。
 ほら、DQNの軍団にボコられる時って、体育館裏とかトイレとか人目に付かない場所に連れ出されてやられるじゃん。だからそんな場合には、連れ出されそうになったらもうその場(自分のクラスとか廊下とか)で揉めて騒ぎを起こしちゃうの。
 うん、学校の帰り道とかもさ、人気のない場所をうっかり一人で帰ったりしないように気をつけてもいたよ。

 日露戦争の時の日本の指導者たちって、ホントにもう知謀の限りを尽くしていたんだよね。日本の国力では勝てないということを、感情は抜きにして客観的な判断で(←ココが大事)ちゃんと判ってて。
 だから実はもう最初から「目指せ、判定勝ち」って腹で、そして日本が戦場である程度勝ったらケンカを止めに入ってくれるよう、アメリカとかにコッソリ外交使節(金子堅太郎)を送って交渉してたんだよね。そうそう、明石大佐って秘密工作員をヨーロッパに派遣して、ロシア国内の革命派に武器を送って、ロシア政府の足を引っ張ってたりもして。
 戦いは全力でやる、けれど陰ではしっかり自分の限界も認識して、喧嘩の仲裁役も頼んでたのが日露戦争なんだよね。で、そうした実力の差を認めた上での負けない為の工夫を一切しないで、「気合いだァ!」と精神論のみで突っ込んじゃったのがあの太平洋戦争、というワケ。

 小学校の時の同級生に、まあイジメっ子ってやつがいてさ。始末が悪いことにソイツは格闘技マニアで、休み時間とか放課後になると黒沢を捕まえては、覚えたいろんな“技”を試すワケ。
 もちろん合意の上での遊びなんかじゃね~よ~。黒沢はイヤだって何度も言ってるんだけどさ、聞く耳持たネェって感じで無理矢理“格闘戦”を仕掛けてくるんだよ。
 いや、しばらく適当に相手して勝たせてやれば満足するとか、そんな甘いもんじゃなくてさ。こっちが痛がろうが苦しがろうが、何度ギブアップしても“技”をかけ続けて黒沢を痛めつけるワケ。
 そんなに格闘技が好きならさ、同じ格闘技マニア同士でまともな“試合”をすればいいじゃんか。でもソイツは他の強いヤツとはやり合わないで、イヤがる黒沢にばかり“格闘技”を挑むんだよ。

 断言する。話の通じないケダモノみたいなヤツって、ボクたち同じ人間の中にも絶対にいるんだよ。
 良識派とかリベラルっていうのかな、いわゆる“良い人”たちって「人にはみな良心がある、本当に悪い人なんか誰もいないんだよ」とか言いたがるけどさ、人間の本性が善か悪かについて語るなら、まずその前に試しにちょっとググってごらん。
 

 綾瀬の女子高生コンクリート詰め殺人事件。
 市川の一家四人殺し。
 光市母子殺人事件。
 

 こうした事件の加害者のクソガキどもってさ、人の皮を被った悪魔でも化け物でもないんだよ。コイツらも間違いなく我が同胞で同じ人間(←基本的人権アリ)だから

 でも例の「本当に悪い人なんか誰もいないんだよ」って言いたがる“良いヒトたち”って、そういうクソガキを同じ人間にカウントしたがらないんだよね。現実にどんなヒドい事件が起きても、ただ「ヒドい、そんなコトする人がいるなんて信じられないッ」で終わり
 いや、こーゆーヒトたちって「信じられない」んじゃなくて「固く信じてる」んだよ。例の「人にはみな良心があって、本当に悪い人なんか誰もいない」っていう、ご自分の美しい人間観をね。「目の前で起きている現実より、自分の胸の中にある理想の方が大事」っていう、どうにも話の通じない精神論者たちなんだよ。

 この種の“良いヒトたち”って、自分の価値観に合わない現実は頑として認めないんだよ。だから受け入れたくない事件が実際に起きると、「信じられないッ!」って切り捨てて拒むことで、そのお花畑脳の中のキレイな幻想を固く守り続けるんだよね。
 でも黒沢は、「性根の曲がった悪いヤツは間違いなく存在する」って思ってるから。でなければ、なぜ子供の頃に自分がイジメられたか理解できないし。

 チビで見るからに弱そうなヤツに大好きな格闘技の技をかけて、痛がって降参しても許さないで苦しめるのが楽しい。ガキの頃からそういう感覚でいたワルが、間違いなく存在するんだよ。
 この世の中でまずモノをいうのは、正義でも正論でもなく力だよ。だってそうでなければ、黒沢が過去にイジメられたことも、今もあちこちの学校や職場でイジメが絶えない現実も説明できないし。
 イジメに遭って泣いてても、現実には正義の味方なんて現れないし、誰も助けてなんかくれないからね。やられて悔しければ、結局は自分でやり返すしかないワケ。

 正義とかの精神論と根性だけじゃ、戦争だけでなくガキ同士のケンカや虐めにも勝てねーんだよ。その現実を、実際にケンカをして殴られた体の痛みでよぉ~くわかってたからさ、気合いや気力で勝てるみたいな精神論は今でも死ぬほど嫌いだよ。
 イジメられるのにいい加減ウンザリして、黒沢は学校で時々キレるようになってさ。だって自分は味方ナシの単体で戦闘力も5もないのに、敵は戦闘力10とか20以上で、しかもパーティー組んで攻撃して来るんだよ? それでもあえて戦うとしたら、ブチキレるくらいに暴れなきゃ、まるで歯が立たないワケで。
 それにそのキレっぷりに驚いてた相手が本気でかかって来たら、やはり地力の差というものが出てきてしまうのだよ。まっ、言ってみればパールハーバーの奇襲の後、アメリカにマジ激怒されて反撃されるような感じね。

 だからさ、キレてケンカするにも、その場所と時期も考えなきゃなんないんだよ。例の「騒ぎを聞いて、教師なり警官なり誰かが止めに来るような状況」ってやつね。
 うん、そのキレる時にもただカッとしてキレてたんじゃなくて、実はある程度計算もしてキレてたワケよ。日露戦争の日本が、ブチ切れて無茶な戦を仕掛けたように見せながら、実はイロイロ裏工作してたようにね。

 と言っても、「冷静に、演技でキレているフリをしていた」というのとは、少し違うんだけれど。
 本当はケンカなんかすごく嫌だし、身を守るためにやむを得ず、したくもないケンカをあえてするわけで、その時には手を出してきた相手にすごくハラを立てていたのは事実。けど頭の半分か三分の一くらいはすごく醒めていて、キレる場所やタイミングや限度や引き時とかを、そりゃもうパワーブースト時のデュアルコアのCPUみたいに脳をフル稼働させていろいろ高速演算してもいたんだよ。

 黒沢は中学生時代には、マジで「怒らせるとキレて狂う」って言われててさ。
 ちょっと考えてみて、一見チビで弱そうだけど「キレるとマジキチ」みたいなヤツが身近にいたら、「面倒だから、手を出すのは止めて放置しとこう」って思うでしょ? 本気でやり合えば、もちろん勝てると思っていてもね。
 うん、ズバリそれが狙い。

 って言うかさ、そうでもしなければ生き延びられなかったんだよ、黒沢は。
 ①そのまま耐えて、DQNどものドレイにされてイジメられ続ける。
 ②既知外と思われてもキレて暴れて、全力でイジメに反撃する。
 選択肢はその二つしかなくて、黒沢の価値観では、選ぶべき道は②しか無かったんだよね。
 だってさ、ドレイの道を選んだところで、結局殴られたり金品を巻き上げられたりするワケでさ。どちらにしても痛い目に遭うなら、「少しでも反撃して殴られる方がまだマシ」って思うじゃん?

 そーそー、ここで絶対忘れちゃいけないポイントだけれど、キレる時にも手は必ず相手に先に出させること例えどんな理由があろうとも、先に手を出した方が悪者になるのが今の世のルールだからね。
 実は黒沢も一度だけその原則を破ってしまって、後で痛い目に遭った事がありまして……。だから繰り返して言うけれど、喧嘩は最初の一発は相手に殴らせなきゃダメだよ。

 もしDQNに逆らったら、すんごくボコられるかも知れないよね。けど、それで怪我でもしたらむしろラッキーと言うか、不利になるのは相手の方だから。だってすぐ病院に行って診断書を取って、ケーサツに被害届けを出すとかすれば……ね?
 そうやってコトを大きくすると、相手の親だけでなく学校側も「ま、ここはひとつ穏便に」ってなりがちだけど、そこは「聞く耳なーし!」ってヤツで徹底的にやってやんの。
 生き延びるために本気でやるケンカってのはさ、ただ拳だけでなく教育委員会も警察も法律も、使えるモノは全部フルに使ってやるものなんよ。例の、日露戦争の時の日本と同じでね。

 でもそれを言うと、卑怯だの汚いだのとか言う人達が必ずいるよね。でも黒沢は、そういう人達に言いたいよ、「アンタら、力が無くて虐げられる者の痛みを知ってんのか?」って。
 って言うか、弱い者は手段なんか選んでいたら勝てません、って。正義だの何だのって、どうせ上っ面だけの建前なのが現実だし。

 ま、今なら③不登校って選択肢もあるよね。けど黒沢の子供の頃って、「学校は何があっても行くべきもの」って雰囲気だったんだよ。
 DQNのヤンチャは「若い時にはありがちなこと」と大目に見られて許されて、でも不登校は大問題で許されない……って感じ。マジでそういう空気だったんだよ、リーゼントのツッパリがリアルに存在して、校内暴力とか当たり前に起きていた頃にはさ。
 イジメるDQNより、イジメられて不登校になっちゃう子の方がより“問題のある子”扱いされちゃうような、そんな時代が本当にあったんだよ。だから不登校って選択肢は当時は殆ど考えられなくて、学校からも親からも世間からも許されなくてね。
 戦況は圧倒的に不利、なのに撤退して自宅での籠城戦は許されない。そんな状況の中で、黒沢はたった一人で戦いマシタよ。足りない腕力と体力を、気力とワル知恵を振り絞ってね。

 喧嘩の時に「正々堂々と」とか寝言を言うヤツがよくいるけどさ、現実の喧嘩は格闘技とかのスポーツとは違うんだってば。だってちゃんと決まったルールも無ければ、体格によるクラス分けも無いんだよ?
 中高年と若いDQN達によくいる、「若い頃は誰でもヤンチャするもので、喧嘩は男の通過儀礼」とか思ってるアナタ。理屈の通じないDQNどもに一方的に仕掛けられる“喧嘩”のどこがフェアがあるんだか、黒沢にもよく解るように教えて貰いたいものだね。
 しかも格闘技は負けたらただ悔しいだけだけれど、喧嘩の場合は違うでしょ。負けたらこちらは悪くないのにゴメンナサイと謝って、「もう逆らわないから許して下サイ」と服従を誓わなきゃならないワケ。で、以後はずっとその憎い敵のパシリでしょ?
 だから黒沢のような体力のないチビにとっては、喧嘩は大袈裟でなく生きるか死ぬかの闘いなんだよ。汚いだのキレイだのと、手段なんかいちいち選んでられるか、っての。

 うん、そりゃ殴られて血を出してもまだ向かって行くだけの闘志はもちろん必要だよ。でも闘志と根性だけじゃ現実の喧嘩には勝てないし、複数のDQNに気合いで真っ直ぐ向かって行っても、ただノされて玉砕するだけだってば。
「正義は必ず勝つ!」
 断言する、そんなの大嘘だしデタラメもいいところ
だね。道理も正義も、現実の圧倒的な暴力の前には何の意味もないから。
 そのことを、黒沢は何度も殴られて身をもって味わってるワケでさ。だから「仲間の強い思いと皆の願いの力で勝利して」みたいな精神論や綺麗事を聞くと、それだけで吐き気がしてくるよ。

 第二次世界大戦で連合国が枢軸国に勝利したのは、正義が連合国の方にあったからではなく、ただ国力と戦力が枢軸国より上回っていたからでさ
 だってもし「連合国=正義の味方」だとしたら、スターリンのソ連が何故そちらの方にいるのかね?
 スターリンって、実は殺した人の数ではヒトラーよりずっと上なんだよね。この二人の独裁者の違いは、「ヒトラーはよその国の人を多く殺して、スターリンは主に自国の国民を殺した」ってこと。うん、マジでただそれだけのことなんだ。

 でもチャーチルは「ヒトラーに勝つ為には、悪魔とも手を組む」と言ってソ連を仲間にして、ドイツ軍に苦戦していたソ連をうんと助けたんだよね。
 だってソ連を味方にしなければ、ヒトラーのドイツにはとても勝てなかったから。だから言葉通りに“赤い悪魔”と手を組んで、目の前の“鉤十字の悪魔”と戦ったワケ。そう、これがセイギの現実ってやつ。
 アメリカだって、日本に無差別爆撃を繰り返すわ原爆は落とすわで、数え切れないほどの民間人や女子供を殺しているしね。

 こうした実例をいくら挙げてもさ、必ずいるんだよね、「最後には正しいものが必ず勝つと信じたい」とか「人には良心が必ずある筈と思いたい」とか言い張る人達が。
 でもキミが何を信じたかろうがどう思いたかろうが、力は正義より強いのが間違いなく現実だから。
 日本でも「話せばわかる!」と言った首相が、青年将校に「問答無用!」で射殺されてるでしょ。うん、言うまでもなく五・一五事件の犬飼毅首相ね。
 言葉は、銃弾には勝てなかった。キミの思想信条はどうあれ、これは動かしようもない事実なんだよ。「こうであってほしい」というキミの願望は、「こうである」という世の中の現実とはまるで別物なんだよね。

 理想論をいくら声高に叫ぼうが、北朝鮮のように悪の栄えてる国は現に存在しているし。そしてそれと同じように、道理の通じないDQNも間違いなく身近に存在しているワケで。
 そんな現実世界の中ではさ、力の伴わない正義や正論なんかクソの役にも立たないんだよ。

 例えば日本の戦争責任についても、議論はいろいろあるけどさ。「侵略戦争を始めてしまってスミマセン」みたいな、ネトウヨに叩かれそうな道義の話は、とりあえず脇に置いておいて。
 実はあの戦争で黒沢が何より腹立たしいのは、侵略戦争はイケナイとかの道義論ではなく、「勝てるだけの戦力も策もないまま、神懸かりの精神論と根性論で無茶な戦争をおっ始めたこと」なんだよ。

 幕内秀夫という管理栄養士さんが、著書の中でこんな事を書いていてさ。

実践できない理想論は害にしかならない


 ……心の底から、本当にその通りだと思うよ。あの先の大戦で、その“実践できない理想論”で日本はどれだけ多くの自国民を死なせたよ?
 でも今の日本は民主主義で、バカでも既知外でも一人一票だからさ、選挙の結果もたいてい「モノをよく考えないで、気分や空気で動く人」や、例の「知性の薄いコーフンしやすい熱血漢」によって決められちゃうんだよね。
 で、後になって「ダマされたー!」とワメいて、信じて持ち上げたおバカな自分の責任は棚に上げて、指導者だけのせいにするんだよねぇ……。

 いやー、黒沢って厨二病を患っていた頃には、自分では「闇に覆われかけたセカイで、ただ一人強大な悪と闘う勇者」のつもりだったんだけどね。でもいつの間にか、戦士から魔導師(←しかも黒系)にすっかりジョブチェンジしちゃってたよ。
 HPが低い分MPは高めで、回避能力と(悪)賢さのポイントも高く、必殺技は「敵の単体および集団の精神にダメージを与える毒のコトバ」って、ホント黒魔導師のキャラだよな。それも味方のパーティーの一員って言うより、魔王の腹心とか敵の中ボスなんかに居そうだよね。

 だから高校生になった頃には、小学校の頃からの知人に「自分の為にならない人間は、容赦なく切り捨てるヤツ」なんて言われる人間になってたし。
 黒沢はそれにただ苦笑いしただけで、否定も肯定もしなかったよ。
 うん、当たらずも遠からず……って感じ。言っても相手を余計に怒らせるだけだろうから黙ってたけど、「世の中の人が黒沢に優しくないのに、何で黒沢が世の中の人に優しくしてあげなきゃなんないの?」ってマジで思ってたし。

 そんな感じで黒沢って理想や感情じゃなく、冷静に現実を見て頭でモノを考えて動くことを心がけているからさ、「会いたい→だから(相手に拒まれても)会いに行く」という発想が無いんだよ。
 例の『モノクローム』でも、あるヒロインのストーリーで「オレの側に居ろ」と言わずに彼女が望む広い世界に送り出して、見事にバッドエンドを引き当ててしまったようなヤツだからね。
 だからリホさんに「受験に専念するから、誰にも会わない」と言われた時も、「どうしてもと粘って連絡先を聞き出す」という選択肢は、黒沢には考えられなかったんだよね。

 と言うとさ、「それはオマエに、リホさんを想う気持ちが足りなかったからだ。もし本当に好きだったら、何としても会いたいと思う筈」って責める人が必ず出て来るんだよね。うん、そーゆー「自分のキモチに正直なのがイチバン!」って人たちには、相手の為を考えて会わずに耐える辛さなんて、まるで理解できないんだろうね。
 例えば小説でも雑誌の人生相談でも2chの不倫関係のスレッドでも、「既婚者でも誰かに恋をしてしまうのは仕方のないことで、不倫を責める人は本当の恋をしたことが無い、人の気持ちが解らない人なんだ」みたいに言う人が少なくないよね。本当に日本人って気持ちのまま突っ走っちゃうのが好きで、気持ちを抑えて耐える人の方がバカにされるんだから。
 で、黒沢はリホさんの「また一年後に」って約束を信じてただ待って、『モノクローム』と同じようにバッドエンドを引き当ててしまいましたとさ。

 結果としてはさ、現実は『モノクローム』の通りで「会いたい」って自分のキモチを優先させていれば、リホさんとのことも違う結果になっていたかも知れないね。
 それに当時の黒沢は、「約束は守られる」と固く信じていたから。人の心、特に女の子の気持ちがどれだけ変わりやすいかを、まるで解って無かったんだ。
 でも黒沢は、リホさんの意志と気持ちを優先したその時の決断を「間違っていた」とは、今でも思っていないんだ。って言うか、今でも「感情より理性優先」って行動原理で生きているからね。

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