空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

大失恋(32)・叱られて発奮するヒトはM属性?

 繰り返し言わせて貰うけれど、人って「自分の好きな分野がデキる人は優秀な良い人間で、それが苦手な人はバカでダメなヤツ」って思い込む傾向が間違いなくあると思う。
 後年、黒沢はナニをトチ狂ったのか、教員免許を取ろうと試みるのだけれど。で、母校の高校に教育実習に行って、まず恩師たち(←怨師も含む)の教官室に挨拶回りした時のこと。
 で、得意でよく出来た社会科の教官室に行くと、もう「おお黒沢か、よく来た!」って大歓迎でさ。
 ところが数学の教官室に行くと、「バーカ、オマエみたいなヤツが、先生になんかなれるワケねーだろ」って。一年の時のクラスの副担任でもあった大城先生(仮名)に、挨拶もすまないうちに真顔でそう言われたよ。
 ……もうね、在学中も教育実習生の時も、科目によって教師の黒沢に対する扱いの違いがあからさま過ぎて、腹を立てるレベルを通り越して笑ってしまうくらいだったよ。

 中学の二年から三年まで黒沢のクラスの担任だった数学教師も、その傾向がかなり露骨でさ。数学が苦手だった黒沢は、他でどれだけ頑張っても「あの優秀なお姉ちゃんの、ダメな弟」って扱いしかされなかったんだ。
 でさ、受験期になって進路の話になると、黒沢はやっぱり怒られるワケだよ。
「オマエな! この成績でE高に受かると思ってんのか!!」
 ……思ってるも何も、模試とかの結果では、とりあえずE高の合格圏内に入ってるんデスけれど。

 地区で一番の進学校だったE高の定員は三百六十人で、模試での黒沢の順位はいつも、二百番台の後半……ってトコ。安全とは言えないけれど、焦らなきゃいけないほど危ないワケでもなかったと思う。それに内申書の点数だって、ギリギリだけだ何とか足りていたし。
 ただ黒沢は数学が不得手で、そして担任は数学教師でさ。それだけに、ウメモト先生としては黒沢の数学の出来の悪さが気に障ってたんだろうね。「何でオメーは、俺の教科だけやる気を出さねーんだ!?」と。

 で、いつものように「この成績では……」とグチャグチャ言われた時、黒沢は殆ど考えないでスパリと言ったよ。
「ならS高でいいです」
 S高ってのは地区で二番手の普通高校で、卒業後は取り敢えず殆ど大学には行くけれど、進学先はまあニッコマあたりかな……ってレベルのトコ。
 黒沢にアッサリそう言われて、ウメモト先生は暫く絶句してたよ。
 ややあって、ウメモト先生は自分が聞いた事をまだ信じられないような顔で黒沢を眺めたまま、ようやく言葉を絞り出してさ。
「なあオマエ、本当にそれで良いのか?」
 そしてそれにも、黒沢は少しも迷わず即答したよ。
「ええ、構いません」

 ある日テレビのニュースのスポーツ・コーナーで、女子体操の選手の練習シーンが放送されていてさ。それでヘラヘラしながら、画面のレオタード姿の選手たちを眺めていたと思って下され。
 でも画面はすぐに選手からコーチのオバサンに切り替えられて、最近の若い選手を育てる苦労について語り出してさ。
 そのコーチのボヤキを要約すると、まあこんなトコ。
 ……私が選手だった頃は、監督やコーチに「そんな演技しか出来ないなら、体操なんか辞めちまえ!」と叱られたら、「済みません、もっと頑張りますからどうか続けさせて下さい!」と必死になったものだ。けど今時の若い子たちは、「辞めちまえ!」と叱られると、「なら辞めます」とさっさと退部してしまう。

 でもその若い選手たちの気持ち、黒沢にはすごくよくわかるなー。
「辞めちまえ!」と叱られたから「辞めます」って、空気の読めないアスペかよ……と呆れられちゃうかも知れないけれど。
 いや、「そうして厳しい言葉を投げつけることで活を入れて、やる気を出させようとしてるんだ」って、黒沢にもわかってるさ。
 わかるけど、「わざと叱って奮起させる」みたいなやり方、黒沢は大キライなんだ。
 だってさぁ、「怒鳴られ、叱られてやる気になる」とか、どんだけM属性なんだよ……っつーの。少なくとも黒沢はその種の性癖は無いんで、いきなり頭ごなしに叱られたら、元々あった“やる気”も失せてしまうね。

 うーん、そこが「大切なのは、言っている中身と思うか、言葉より熱いキモチだと思うか」の違いなんだろうなぁ。
 で、黒沢はその前者の方の、「熱くならず冷静に、事実をモトに論理的に話してくれないと、心を動かされないタイプの人」なのでありマス。
 だって理性のある人間ならさ、声を荒らげて感情をぶつけなくたって、冷静に筋を通した話をすればわかり合えるものじゃん?
 一喝だか何だか知らないけれど、怒鳴りつけて相手を威圧して従わせようとする人を、黒沢は心から軽蔑するよ。

 要するに黒沢は、ウメモト先生にゴチャゴチャ言われるの、本当にもう沢山だったんだ。
 担任が他の科目の先生だったらね、文句を言われるにしても数学の授業の時だけで済むよ。けど担任ともなれば嫌でも毎日顔を合わせなきゃならないし、進路指導もされなきゃならないじゃん。
 その時はまだ十月に入ったばかりだったけれど、ウメモト先生に小言を言われながら黒沢は悟ったんだ。
「ああ、これから来年の三月までずっと、コイツに数学スウガクと毎日ガミガミ言われて、尻を叩かれ続けなきゃなんないのか」
 そう思った瞬間、心底ウンザリして「もうイイや」って思ってさ。

「アホか、たったそれだけで志望校を下げちまったのかよ」って?
 うん、実はそれだけじゃないよ。
 黒沢が「E高に行かなくても構わない」と思ったのには、理由がもう一つあってね。
 そのE高には、黒沢の例のユートーセイの姉が進学していたから。

 生まれてからずっと、黒沢はその一つ上の姉と較べられては“出来損ないの弟”と言われ続けて生きて来たんだよ。親戚たちばかりでなく学校でも、教師からも同級生たちからも、そう扱われてたし。
 でさ、成績の事でウメモト先生に小言を言われながら、黒沢はふと思ったんだ。
「もう沢山だ」
 周りの皆からあの姉と較べられ続けるのは、もう沢山だ……ってね。

 大嫌いなウメモト先生の言う通りにして、大嫌いな数学を頑張ったところで、E高で待っているのはまた較べられて「姉アゲ、黒沢サゲ」の日々なワケで。
「でもS高に行けば、先生も周りの子たちも殆ど姉の事など知らないし、較べられることなく本当の自分を見て貰えるじゃんか」
 そう気付いたらね、E高に行く為に頑張る気力など欠片も無くなってしまったよ。
 二番手のS高だって一応進学校だし、それで大学に行けなくなるワケじゃない。それに何より、ウメモト先生にこれ以上煩く文句を付けられることも、あの姉と較べられることも無くなる。

 一石二鳥。
 志望校を下げることについて、その時の黒沢はマジでそう思ってたよ。
 だからE高を諦めて残念どころか、むしろ「よっしゃ! これで清々するワ」くらいのものでさ。
 慌てたのはむしろ「叱って発奮させる」つもりだったウメモト先生の方で、その日のうちに家に電話をかけてきて、親からも説得させようとしたけれど、黒沢の気持ちは変わらなかったよ。

 実は“本当の自分”がナンタラカタラみたいな発想自体が、かの“自分捜し”と同じくらい中二病的な恥ずかしい考えなんだけれどね。
 で、進学したS高で「これで本当の自分を評価してもらえる筈!」とはっちゃけ過ぎて、自意識過剰のアイタタな行動をイロイロしでかす事になるのだけれど、それはまた別の話デス。

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空。

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 某書店に行った時に見た空…って、わかる人にはどこのチェーン店か、すぐわかっちゃうよね。

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大失恋(31)・未だに忘れられぬ“怨師”

 ちょうどその頃、志望校を絞らなきゃならない時期にさしかかっていてね。
 話は少し逸れるけれど、人って「自分の得意分野がデキる人は良い奴で、それが苦手な人はバカかダメな奴」って思い込む傾向があるよね。
 断言するけれど、その傾向は教師にも間違いなくかなり強くあると思う。

 黒沢は中学でも高校でも教師たちに「こんな生徒は珍しい」って言われたほど、教科によって出来不出来にムラがある奴でさ。
 まず国語と社会は、ハッキリ言って並の教師より深く詳しく知ってるくらいだった。元々の知識のレベルが教科書を越えてたし、「学校で教わることなど何も無い」って本当に思ってた。
 理科は元素記号の暗記とか、数学的な計算が関わるものはキライだったけれど、それ以外のことは好きで興味もあって、かなり自分で勉強もしてたし。
 英語はまあ和訳くらいは国語力で何とかこなしてはいたけれど、「考えるよりまず暗記」って教科だから基本的に大キライでやる気ナシで。
 そして数学は好きとか嫌いとか言う前に、まず数学的なセンスが皆無だったんだよね。暗算はホントに苦手で呆れるほど遅いし、空間把握能力と言うか図形を直感的に理解する能力もかなり劣ってて。
 それでも、ま、苦手な数英も中学生の頃は何とか平均以上の成績を取れていたよ。けど高校に進学した後はもう、笑ってしまうくらいの低空飛行だった。
 正確に言えば英語を低空飛行とすれば、数学の方は殆ど墜落に近い有り様で……。ハイ、高校では数学は赤点と追試の常連デシタ。

 おかげさまで黒沢に対する教師の態度って、教科によって面白いくらい違ったよ。
 デキる教科の先生たちには「コイツはスゴい」って一目も二目も置かれてたし、ぶっちゃけ言えば贔屓もされたね。ただ教科に対する知識に自信のない教師には、すごく煙たがられたけどね。「面倒くさい、小生意気なヤツ」って。
 ただキラわれていた場合でも、少なくとも「デキるヤツ」ということだけは認められていたよ。
 でも苦手な科目の教師達には、殆ど全員に「バカでダメな奴」として扱われたな。

 まあ国語と社会の出来は飛び抜けてたからさ、その苦手教科の先生たちだって、黒沢がただの馬鹿じゃないことは知ってた筈なんだ。けど物言いや態度の端々から、黒沢を軽く見てゴミ扱いしてるのが露骨に伝わって来るんだよ。
 その先生の教科をデキるかデキないかで、黒沢に対する態度も扱いも笑っちゃうくらい違ってさ。中学高校とずっとこんな学生時代を過ごして、「よく人間不信にならなかったな」って思うよ。
 いや、黒沢は実は今も人間不信かも。だって政治でも「民意は正しい」と信じられないでいるし、「民主主義って、結局は衆愚政治ダロ」って思ってるし。
 とにかく「人なんて自分に都合の良いようにしか見ないバカばっかりで、誰も本当の事なんかわかっちゃないんだ」って、黒沢は学校の先生たちに身をもって教えられたよ。

 中学時代の黒沢の担任って、一年の時は英語の先生で、そして二年と三年は数学教師でさ。もう笑っちゃうくらい、黒沢と相性の悪い教科の先生ばかりだったよ。
 まあね、一年生の英語の女の先生にも、いろいろご指導とお小言を頂きマシタけどさ。その後の数学のウメモト先生については、今も思い出すだけで腹が立つような記憶しか残ってないよ。

 黒沢には年子の姉がいて、その姉のおかげで「殆どの姉キャラと、おっとり優しいゆるふわキャラが基本大キライになった」ってことは、かなり前の章で書いたけれど。
 それを端折って言えばまあ、「外では超猫かぶりの誰にも優しい優等生で、それを演じる為に溜めたストレスを家で晴らすヒス姉がいた」ってとこ。そしてその姉と比べられては、子供時代の黒沢は親戚たちにも教師たちにも出来損ない扱いされてたんだ。
 で、その黒沢に「お姉ちゃんを見習え」と最も口うるさく言い続けたのが、中学卒業までの二年間を受け持って下さったウメモト先生なのだ。

おいイツキ、お前はお姉ちゃんの爪の垢を煎じて飲め!
 ウメモト先生には、ホントにそう言われたよ。
 しかもソレを、ウメモト先生はクラスの皆の前で言うワケ。
 当然、皆は一斉に黒沢の方を見て笑うし。

 確かに黒沢は我が道しか行かない一匹狼で(アスペとも言う)、姉と違ってまるで優等生タイプじゃなかったよ。何しろ基本が「他人にどう思われるかなんて関係ねーよ」って感じで、先生の言うことも校則も自分が納得しない限り従わなかったし。
 それでも教科によってムラはあっても成績だってかなり上位だったし、任された学校やクラスの仕事もかなりこなしていたんだ。
 けど担任自身が繰り返し「出来損ないの弟」扱いするからさ、クラスの皆も黒沢を当然そういう目で見るようになるワケよ。

 ……やってらんねぇ。どいつもこいつも、みんなバカばっか。
 世論であれ人気ベストテンであれ選挙であれ、黒沢が“みんな”の判断に根深い不信感を抱いているのは、そういう子供時代からの思いからだと思う。
 ただ黒沢も当時まだ十五だったけど、バイクを盗んで走り出したりも、校舎のガラスを割ったりもしなかったゼ。
 オジサン、オバサン世代の人たちの中には、イイ年をしてまだオ○キの詞に酔っていて、オ○キの歌を若い世代にも布教したがる輩が少なくないよね。
 ウメモト先生のことはまだ許せないし、一緒に黒沢を嘲った同級生たちを軽蔑もしたよ。けどだからってグレて荒れたりしなかった黒沢は、「若者らしい熱い心の無いヤツ」ってことになるのかな?

 例の黒沢の姉は中学三年の時に文化委員長で、二年だった黒沢もたまたま同じ文化委員に選ばれてしまってさ。
 で、学校の文化祭の時、ステージでの出し物を巡って出演者の生徒と教師がモメたんだよ。
 その時、ステージに出ていたのは軽音のバンドだったのだけれど、演奏して歌ってノッた彼らは、終わる時間が来ても「もっとやりたい!」と言い張り、でも学校側と教師は「予め提出された計画にない曲目の演奏は、絶対許さん!」と。
 で、教師らは「ステージから降りろ!」、生徒らは「俺ら生徒の為の文化祭だろーが、絶対降りネェ!」と、マジ険悪な空気になってさ。
 お互い喧嘩腰でやり合っていると、そこに責任者である文化委員長サマの姉が登場して割って入って、「もう……やめてっ」と涙を流したのでありマス。
 もちろんステージ上で、生徒ら皆の見ている前でね。

 人望ある委員長サマに泣かれて(泣かせて?)生徒等は気勢を削がれ、その機に先生らは「はいはい、これで終わりな?」と、文化祭の終了を一方的に宣言して。
 実はこの文化祭の終わりの挨拶を、黒沢がやることになっていたんだ。で、その為のちょいと気の利いた言葉も、幾晩もかけて考えて用意してさ。
 けれどそれも、黒沢が口をあんぐり開けて事態を眺めているうちに、学校側の終了宣言でお流れになっちまったよ。
 後で家で「何なんだよ、アレは」と聞いたら、姉はまるで悪びれた様子もなく「ゴメンねぇー、でもあたしが泣いて見せれば、それであの場が収まると思って」とテヘペロさ。
 ……もう膝の力が抜けて「何も言えネェ」って感じだったよ。

 そしてその翌日、朝のHRでウメモト先生は黒沢を見てまずこう言ったよ。
「おいイツキ、昨日オマエの姉ちゃん何やってんだよ、だらしネェな」
 ……何だっつーの。
 いつもは「姉アゲ、黒沢サゲ」で、「お姉ちゃんを見習え、爪の垢を煎じて飲め」で。
 けどたまに姉がしくじれば、「オマエの姉ちゃん、何やってんだ」だよ。

 これも二年生の時だったかな。ある授業が自習になって、皆は周りの連中と喋ったりしながら、ダラダラ課題をこなしていたと思ってほしい。
 廊下側の男どもが不意に騒がしくなって、着替えがどーのこーのとか言い出してさ。
 黒沢の中学は大規模校だったから、校舎も南棟と北棟の二つに分かれていてね。で、南棟だった黒沢の教室の廊下側の窓から、向かいの北棟の教室で着替え中の三年の先輩が丸見えだったらしいんだよ。
 着替えていたのはもちろん女子で、それも全校レベルで有名な美少女のアラキ先輩だったのだとか。
 その人気ぶりは同じ学年の中でもスゴいものだったけど、一級下の男子たちでさえ、アラキ先輩の名前を知らない者などマジで誰も居ないくらいだったよ。
 で、クラスの男どもの大半が廊下側の窓に顔を押し当てるようにして、そのアラキ先輩の着替えをガン見してたんだ。

 ま、沸き上がるリピドーを抑えかねているセーシュン真っ盛りの中坊男子なんだし、そんなのどこの中学でもよくある話だよね。
 とーこーろーが。その自習の科目の教科係だった女子が、覗きのことを担任にチクったんだ。覗きと言ったって、女子更衣室とかをコッソリ覗いたとかではなく、カーテンも引かずに勝手に脱いで着替えてるのを見ただけなのだけれどね。
 超短いスカートの裾から見えるパンツと同じで、男子からすれば「見られてイヤなら、オマエらが見せるの止めりゃーいーだけじゃねーか」って感じでさ。

 ま、それでも女子らは、「見る方が悪いしチカン」って言い張るんだろうけどさ。かの大島麻衣サマが、畏くも仰せになったようにね。
 だから黒沢は、大島麻衣サマがテレビの画面に映ったら、即刻チャンネルを変えてるよ。或いは、電源を切るとか。
 だって大島麻衣サマは、「見ただけでチカン」だものね?

 で、報告を受けたウメモト先生は、クラスの男子らに雷を落としたんだ。「自習時間に、オマエら何やってんだ!」って。
 先生はまず「覗いたヤツは立て!」って怒鳴って、身に覚えのある男子らは渋々立ったよ。
 その数は、まあクラスの男子の大半といったところかな。
 けど、黒沢は立たなかった。
 だって「スゴかった」と評判のアラキ先輩の着替えだけど、黒沢は本当に見てなかったから。何しろ当時同じ班で隣の席だった、ナカノさん(←美人でスタイルも上々)とのお喋りに夢中だったんで。
 つまり黒沢の脳内の価値観では、「目の前の美人のご尊顔を拝し奉りながらの歓談>口もきいたコトもない先輩の、遠目の生着替え」だった……ってコト。

 例えばAKBの“総選挙”とやらで一位の子と言えば、人気は確かにスゴいんだろうけど、皆が皆その子が大好きでファンだというワケじゃないよね?
 事実黒沢は、歴代の一位の子を可愛いと思ったコト、マジで一度も無いし。
 黒沢の目から見れば、「目鼻立ちとかポッテリ重い感じで、まあ並か中の上くらいじゃん。こんなフツーぽい子の、どこがそんなにイイんダロ?」って感じでさ。
 いや、コレはただ黒沢個人の好みの問題なんで、歴代一位のメンバー達のファンの方々、どうかブチ切れないで下さいネ。総選挙の結果にケチを付けるつもりも、一位の人のファンにケンカを売るつもりも全然無いっス。
 ちなみに黒沢が思うに、AKBで一番(と言うか唯一)可愛いのは、渡辺麻友さんではないかと……。

 例の知らずに生着替えを披露していたアラキ先輩についても、それと同じ事が言えて。「ぽわんとした感じで女らしく、しかもJCとはとても思えない色気もある」ってコトで、校内での男子の人気は間違いなくトップだったけど、黒沢の目には「ぽってり重い系の、せいぜい中の上レベルの女の子」にしか見えなくて、どうしてそんなに騒がれるのかよくわかんなかったよ。

 女の子の顔立ちって、大まかに言って「丸顔で目尻も下がり気味のタヌキ顔」と「細面で切れ長の目のキツネ顔」に分けられるよね。
 で、男には「ポッテリ系のタヌキ顔の女子」が好みの人が案外多いみたいだけれど、黒沢の好みは間違いなく細面のキツネ顔系なんだ。
 例えばナカノさんは細面で、クッキリした大きな瞳のキツネ顔で。
 そしてリホさんはさらにシャープな印象のキツネ顔で、目は綺麗な切れ長、そして頬から顎にかけてのラインもスッキリとして……という感じ。
 うん、アズサもアラキ先輩に負けないくらい女度が高めで色気もあったけど、細面で切れ長の目にスレンダーな体と、間違いなくキツネの系統の女の子だったな。

 だから「着替えを覗いてたヤツは立て!」と怒鳴られても、黒沢は何の疚しい気持ちも無く座ったままでいたワケ。
 けどウメモト先生は、黒沢をキツい目で睨みつけるんだ。
「おい黒沢、オマエも覗いたろう、え!?」
 もちろん黒沢は、即座に強い口調で言い返したよ。
「見てないですッ!」

 クラス委員で後に生徒会長になるアワタ君や、例の苦労人の浅岡くんといった優等生組以外にも、立たずにいた男子は他にも何人か居たんだよ。
 なのに黒沢だけが、何の理由もなく「オマエも覗いただろ!」と決めつけられるワケさ。相手が教師だろうが怖い顔で睨んでようが、こっちだって腹が立つじゃん。
 でもウメモト先生は、黒沢を睨みつけたままさらに問い詰めるんだ。
「本当か? 嘘じゃないだろうなッ!?」
 ……さすがにキレるかと思ったね。

 けど黒沢がブチ切れる前に、隣のナカノさんがキッと先生を睨んで鋭い声を上げてさ。
「黒沢くん、本当に見てないですよッ」
 実はナカノさんは、ウメモト先生を心底キラってたんだよね。だから黒沢を庇うつもりと言うより、本音は「ウメモトに楯を突けるチャンスを逃すものか!」ってとこだったんだけどね。
 けどナカノさんが声を上げると、周りの他の女子たちも頷いて「見てなかったですよ」って言ってくれてさ。
 するとウメモト先生は渋い顔で「そうか」とだけ言って、先輩の着替えを覗いた他の男子たちに説教を始めたよ。
 ええ、黒沢には「悪かったな」の一言もありませんデシタよ。それどころか、面子を潰されて面白くないって感じで、あからさまにイヤーな顔をしてそっぽを向いてさ。
 ……面子を潰されて面白くないのはこっちの方だ、っつーの。

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空。

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 こんなダイナミックな光景を見られるから、空を見上げるのは楽しいです。

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大失恋(30)・失恋に追い討ち

 けど現実は中坊なんかの妄想とはまるで無関係に、残酷なくらいシビアに進んで行くからね。
 黒沢とアズサは相変わらず目すら合わせないまま、一月ほど経ってさ。そしてある日の休み時間のこと、アズサが泣きながら教室の中に小走りに飛び込んで来たんだ。
 と言ってもわぁわぁ泣き喚くのではなく、手で目元を押さえて声を殺して……という感じでさ。
 いや、頬だけでなく首筋辺りまで赤く染めて涙も流していたし、嘘泣きとかではなかったよ。けど泣いているその姿でさえ絵になっていて、ゾクリとするほど女らしかったよ。

 何があったのか、そりゃあすごく気になったさ。
 けど黒沢が近寄って声をかけるまでも無く、アズサはいつも一緒にいる親友のミカワさんだけでなく、クラスの女子たちの半数近くに囲まれて慰められていたよ。
 で、その女子たちの中でも気が強くて出しゃばりで口うるさいのが、怖い顔をしてマツオ、黒沢の腐れ縁の悪友だったヤツに詰め寄って、有無を言わせずに外に引っ張り出したよ。
 アズサとマツオが付き合うことになった。
 そのことを知ったのは、アズサが泣いた日から数日も経たないうちだったよ。

 ちょっと想像してみてほしい。
 別れてそう間もない元カノが、他の男といちゃついてラブラブしてんのを、同じクラスで毎日ただ指を啣えて見てなきゃならない……って、どんな気分だと思う? しかも新しい恋のお相手は、少なくともその日まで友達だと思ってた男だよ。
 アズサと別れて口もきけなくなって、その毎日を地獄と思っていたけれど。「そんなの、タダの地獄の一丁目に過ぎなかった」って、心の底から思い知らされたよ。
 心をえぐり出されて、フライパンで乾煎りにでもされているような……。
 本当にそんな感じだった。

 マツオに文句?
 言わなかったし、言いたくても言えなかった。
 そりゃあ面白くなかったさ。「付き合うにしても、何でよりによってアイツとだよ!」みたいな腹立たしい気持ちにもなったしね。
 けどまだ黒沢と付き合ってた時に、横から手を出されたとかなら「ふざけんな!」って怒れるけれど。ただマツオがアズサと付き合いだしたのは、あくまでも黒沢とは切れた後だったからね。

 以前にも触れたと思うけれど、マツオもアズサに気があるっぽいことは、黒沢も何となく気付いてたよ。けど黒沢が本気でアズサにアプローチをかけ始めると、マツオの方はいつの間にか引く感じで、特に黒沢が告って付き合い始めた後は、アズサになど興味もないみたいに振る舞ってたんだ。
 そのマツオとアズサが付き合いだした時、アズサは間違いなくフリーだったからね。黒沢と別れて、まだそれほど経ってなかった……とは言うものの。
 だから黒沢に文句をつける権利などないし、なのにマツオにカラむとかしたら、それこそ恥の上塗りでしかない……って思ってた。
「てめ、フザケンナ。オレのオンナに何すんだよ、ああん!?」
 そう啖呵を切って襟首も締め上げたいトコだけど、アズサは既に「オレの元カノ」でしかなくなってるじゃん?

 まあね、黒沢がアニメのキャラみたいな直情径行のバカ野郎だったら、自分の気持ちに正直にw胸の中に膨れ上がったムカつきを、そのままマツオにぶつけただろうけど。
 でもソコは昔から「情より理屈」で、自分自身すら将棋の駒の一つのように突き放して考えてしまう黒沢だから。
 同じ教室でいちゃつくアズサとマツオには目もくれないフリをして、近くの席の子たちとふざけて笑って賑やかにやってたよ。
 うん、ショックを受けているとか、落ち込んでるとかいう様子は欠片も見せないで、いつも以上にチョ~元気に振る舞ってさ。

 ハイ、勿論そんなの空元気デス。
 ま、ソレはまだ十四歳の中坊なりの、心に僅かに残る意地とプライドを振り絞った揚げ句のことだったんだけどね。
「そんなクダらないことで意地を張って見せるとか、バカじゃね?」
 いや、確かにバカなんだけどさ。
 けどそうでもしていないことには、何か自分が心の内側からボロボロに崩れてしまいそうだった。

 その頃、同じ班にミカちゃんが居てさ。ほら、数年後の同窓会に幹事をして、黒沢に「ぜひ来て!」って言ってくれた、あのミカちゃんだよ。
 その同窓会でリホさんやアズサと再会しちゃった経緯については、以前の章で話したけれど。
 ミカちゃんの人となりを一言で説明するとしたら、「ファースト・ガンダムのミライさん」って言うのが一番心にピッタリ来るかな。メインのヒロインってキャラではないけれど、地味に可愛くて、お母さんかお姉さんのように相手を癒してくれる、温かくて優しい人。
 前にも触れたように、黒沢はハモンさんとかイースみたいな女の人に惹かれてしまいやすくてさ。だからミライさんみたいな人は、黒沢の本来の好みではないんだよ。
 けど生きながら地獄にいるような思いだったこの時の黒沢には、ミカちゃんのミライさん的な優しさが何よりの癒しになってたんだよね。
 で、学校ではアズサとマツオから目を背けて、いつもミカちゃんと喋ってたよ。

 ……懲りずに黒沢は、授業中にもこのミカちゃんともメモのやり取りをするようになってさ。
 え、「おい、テメーにはリホさんだっているじゃねーかよッ」って?
 うん、確かにそれはそうなんだけれど。
 ただミカちゃんをミライさんとすると、リホさんはセイラさんって感じでさ。キリッと毅然としていて、生真面目で融通の利かないところもあって、自分が正しいと思ったら相手が男でも決して負けないし引かないとか、キャラ的にはかなり似てるかも。そうそう、ダメな男子に「軟弱者!!」ってビンタの一つもくれそうな雰囲気も、まさにセイラさんそのままでさ。
 だから授業中にメモなんて回したりしたら、間違いなくキツい目で睨まれて、こっぴどく叱りつけられちゃう。

 まあアズサとのことで心がかなり弱っていて、とにかく誰かに優しく癒されたかったんだろうね、その時の黒沢は。
 と言っても、別にリホさんと疎遠になっていたワケでは無いから。ちゃんと会話もあったし、それまで通りに普通に仲良くしていたよ? 
 ただ当時同じ班でもあったミカちゃんの方と、より仲良くしていた……ってだけの話で。


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空。

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 龍が空を舞うような雲でした。

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大失恋(29)・フられた後の続き

 黒沢の経験から語らせて貰えれば。
 好きな相手が他校の生徒というのは、やはりちょっとツラい。「物理的な距離と心の距離は反比例するもの」とまでは言いたくないけれど、逢いたいのに逢えない時に、心の隙が生まれてしまいやすいのも事実だよ。
 だから遠距離恋愛って、たいていどちらかの心変わりと言うか浮気で終わってしまうんだよね。

 学校が違う生徒同士の恋も、まあある意味遠距離恋愛みたいなものでさ。
 家そのものはそう遠くではないのだけれど、会えるのはせいぜい土日くらいで、その土日も「部活が忙しい」とか「試験が近い」とかで、会えない事が続いたりして。
 そんな時に、同じ学校で毎日顔を合わせている誰かに好き好きオーラを出されて寄って来られたら、ついグラッと気持ちが傾いてしまいかねないよね?
 それだけに学生時代の恋の相手は、同じ学校でクラスや学年の違う子が一番だと思う。逢おうと思えば休み時間や放課後に毎日会えるだけでなく、不幸にして別れる事になってしまった後は、ずっと顔も合わせずにいるのもそう難しい事じゃないからね。
 その時はただ、相手の教室に近寄らなければいいだけの話でさ。

 例えばギャルゲーでバット・エンドを出してしまったり、悲しい結末が待っている小説を読んだり映画を見たりしても、鬱な気持ちになって落ち込んでしまうよね。
 ただ、どんなヒドい結末でも、ゲームやドラマならエンドロールが流れれば終わってくれるし、小説なら本を閉じるだけでいい。で、一晩ぐっすり寝れば、翌日にはまた元気に学校に行けるさ。
 ところが現実の恋愛って、フられた後にもまだ続きがあったりするんだな。
 特に同じクラスだったりすると、フられた次の日もその後も、同じクラスでずっと顔を合わせなきゃならないんだ

 ちょっと想像してみてよ、「まだ未練のたっぷり残る元カノと、その後もずっと一緒のクラス」って、どんな感じだと思う?
 学校に行けば、元カノがイヤでもそこに居てさ。そんなんで、失恋の痛みが薄らいでくれるワケないじゃん。
 その心の傷口に塩を擦り込まれ続けるような状態がさ、その後も延々と続くんだよ、それも卒業またはクラス替えの時まで、毎日毎日ずっと
 さらにコレが同じ職場での恋愛だっりすると、卒業やクラス替えが無い分だけ気まずさもひとしおで、耐えかねたどちらかが退職……なんて羽目にもなりかねないんだよね。

 黒沢の大学時代の同じ学科の仲間に、オトーチャンって呼ばれてたヤツが居てさ。入学までにただ二浪していただけでなく、老け顔でしかも実年齢以上に世慣れていたものだから、皆から自然にそう呼ばれるようになったのだけれどね。
 地方の名門高校の出身なのだけれど、受験勉強より飲む打つ買うに熱を入れた末に二浪してしまったというツワモノの遊び人でさ。それだけに、彼女が出来たのも仲間の内で一番早かったよ。

 その“オトーチャン”のお相手は同じ学科の、地味だけれど大人っぽいムードのキシヤマさんって人で。
 この二人、初めの頃はすごくラブラブで、オトーチャンも締まらない顔で黒沢たち仲間によくノロケてたよ。
 キシヤマさんが部屋に来てくれたとか、手料理を作ってくれて旨かったとか、そんな他愛の無いことで自慢したくなっちゃうあたり、彼も見かけほど大人じゃなかった……って事だよね。

 まあね、学生時代に二つ上と言うとかなり大人な気がしてしまうけれど、後になって思えばたかが二十歳の若造だし。
 それでかこの二人、意外に早く別れちゃってさ。そうだなあ、入学して六月頃にはカップルになっていて、秋になる頃にはもう別れてた……って感じで。
 付き合っていた期間で言えば、黒沢&アズサとまあ同じくらいだね。
 別れた理由はオトーチャンも話さなかったし、黒沢たち周囲の者もあえて聞き出そうともしなかったよ。けど黒沢の勘では、原因は主にキシヤマさんの方にあったのではと思ってる。
 と言うのは、キシヤマさんって相手によって見せる顔がかなり違う人だったから。

 例えば普通の女の子だったらさ、彼氏の友達にはちょっとぐらいは愛想よくするよね。媚びを売るとかいうんじゃなくて、顔を合わせたら作り笑顔で会釈一つくらいするとかさ。
 実際黒沢自身も、自分の彼女の友達には(気があるとか誤解されない程度に)愛想よくしてきたし、それが当たり前と思ってる。
 けどキシヤマさんは違うんだ。オトーチャンにはいかにも品の良さげな、お嬢さま風な笑顔を向けるのだけれど、その周りにいる彼氏の友達は殆ど無視に近いんだよ。
 何かもうね、目そのものが冷たいんだよ。そこにまるで誰もいないかのような態度で、視線を素通りさせるというか……。
 黒沢も空気扱いされていた一人で、「そんな道端の石ころを見るような目をしなくてもいいじゃねーか」みたいに思ってたよ。

 だとしても、別れた後のキシヤマさんに対するオトーチャンの言動は、ちょいとばかり胸クソが悪かったよ。
 キシヤマさんは大人っぽく見える反面、ぶっちゃけ実年齢より老けた感じとも言えてね。
 で、オトーチャンは「あのババアが」みたいな感じで、彼氏しか知り得ないキシヤマさんのあれこれを、仲間内の笑いのネタにするわけ。
「……でな、胸なんかもう垂れかけとって、三十代やでぇ」
 それまで居ても居ないかのように扱われて、みんな内心キシヤマさんには良い感情を持ってなかったからさ、そこでドッと笑うわけ。
「そーか、じゃあ下はどうだったよ?」
 悪乗りして尋ねた仲間の一人に、オトーチャンはニタリと頷き返したね。
「おお、ソッチはもう四十代やね」
 キシヤマさんのことは、黒沢だってよく思ってなかったさ。それでもこの時だけは、流石に一緒には笑えなかったな。
 でもね、「同じクラスの子と付き合う」って、こういうコトでもあるんだよ。悲しいけれどこれが人間で、これが現実ってやつなんだ。

 なのにいざ恋に落ちると、思い描くのは「好きなあのコとラブラブ、いちゃいちゃ」のグッド・エンドだけで、バッド・エンドで別れた後のことなど、考えもしないんだよね。
 どんなヒドい結末のギャルゲーの鬱エンドも、別れが決まった時点でストーリーは終わるし、電源さえ切ればその恋もリセットされるよ。
 けど三次の世界でのリアルな失恋では、セーブもリセットも不可のまま、別れた時よりさらに鬱なストーリーが延々と続いたりするんだ。

 大学時代に同じ科だったオトーチャンは、キシヤマさんを憎んで仲間の笑いものにすることで、別れた心の傷を少しでも軽くしようとしていたんだろうね。
 けど中坊の頃の黒沢は、オトーチャンのようにアズサを嫌うことが出来なかった。それどころか前と同じくらいまだ好きで、なのに言葉一つ交わさずに無視し合うような状態で、毎日を同じクラスで過ごしていたんだよ。
 ただ卒業までまだ半年以上あったし、「アズサの気持ちも、またいつか変わるかも」という根拠のない期待だけが、日々の唯一の希望みたいなものでさ。
 時間はまだあるし、いつかそのうち……ってね。
 で、クラスの皆の前では同じ班のケンカ友達みたいな女の子と笑ってふざけあって見せながら、いつも背中でアズサの気配を探ってたんだ。

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大失恋(28)・別れるなら、せめて相手を大っ嫌いになれた方が幸せ

 とは言うものの、頭の方は理屈で割り切れても、心と気持ちの方は、そう簡単に切り替えられるもんじゃないよ。
 席も離れて、まるで口もきかず目すら合わせなくなって。もうね、黒沢だけでなくアズサも相手の存在を空気みたいに「居ないもの」として扱ってさ。
 たとえクラスが同じでも。班なり係や委員会が一緒でもない限り、ホントに一言も喋らないでも何の支障もなく過ごせちゃうんだよね。
 実際、中二の時もずっと同じクラスだったのに、中三に進級して同じ班になるまで、アズサとは口をきいた事すらただの一度も無かった……って話は、前にもしたよね。
 その去年までの、二年生の時の状態に戻るだけ。
 ただそれだけの話、なんだからさ。

 けどホントに「好き好き好きー」で、ほんの短い間とは言え彼女だった子だよ? 存在すらまるで意識してなくて、下の名前さえ覚えてなかった頃の気持ちに戻れるワケなど無いじゃん。
 新しい班には、一年生の頃からずっと同じクラスだった気の良い女子もいて、黒沢は毎日その子らと賑やかにやってたよ。
 うん、むしろ前以上に元気に笑ってふざけて、アズサのことなどまるで頭にもないような顔をしてさ。
 けどね。素知らぬフリをして目は逸らしていながら、意識はいつもアズサを追いかけてたよ。
 アズサが今どこに居て、何をしてるのか。他の誰と喋って笑っていても、そのことがいつも心から離れずにいたんだ。
「今はまだ無理でも、そのうちまたアズサが微笑んで話しかけてきて、前のような関係に戻れるんじゃないか」
 毎日毎日、そんな事ばかり考え続けてた。
 うん、絵に描いたような、アイタタな中二病の小僧だったよ。

 好きな子が同じクラスって、うまく行っている時は本当に楽しいね。
 まずただ学校に行くだけで、大好きな彼女に朝から会えるんだよ? そして後はずっと喋り続けで、授業中にはメモを交換し合って、お昼を食べるのも一緒でさ。
 黒沢とアズサは家の方向が真逆だったから、定番の一緒に帰るイベントだけは、残念ながら無かったけれど。ただその代わり、夜には毎晩のように電話し合ってたし。
 マジ天国。うん、毎日がホント薔薇色だったよ。
 けどこれがもし別れることになったら最後、嫌でも一緒に居なければならない毎日が、というより一分一秒が地獄に変わるから。
 だって元カノと同じ教室で、口もきかず目も合わせずに無視し合って、でも相手がそこに居ることだけは強烈に意識してるんだよ?

「何があったとしても、一度でも好きになった相手を嫌ったり恨んだりするのって、悲しいことだよ」
 田渕久美子脚本のスイーツ大河や『梅ちゃん先生』などの連ドラで垂れ流されているような、上っ面のキレイ事が大好きな“イイ人たち”とかはさ、きっとそう言いたがるだろうね。
 けど恋愛で散々修羅場をくぐって来た者として、黒沢の本音をズバリ言わせて貰えば。「元カノに対する感情が、今は怒りや憎しみしかない」ってのは、ある意味ラッキーなことだよ。
 だって元カノとあからさまに無視し合う関係になっても、少なくともこちらの心は痛まないからね。もう「このクソビッチ、はよ死ねや。オレの視界にも入って来んな」みたいな感じで
 けど黒沢は、自分で決めて別れを受け入れた後もまだ、アズサのことが好きだったんだよ。それもただの「好き」でも「好き好き」でもなく、前と同じMAXレベルの「好き好き好きー」のままでさ。
 頭で理屈で考えて出した決断はどうあれ、心の中で秘かにアズサを好きでいる感情を抑えることだけは、どうしても出来なかった。

 同じように好き好き好きーで、けどまだ告白できずにいた修学旅行の頃とかは、辛さ(と言うか切なさ)はあったにしてもまだ良かったんだよ。だって目で追うだけでなく実際に尻も追いかけ回して、一緒になる機会を作っては話しかけたり、いろいろアプローチもできたからね。
 けど別れた後は、毎日下校するまで同じ教室にいながら、声ひとつかけることすら出来なくてさ。
 確か餓鬼道だったかな、地獄の一つに「飢えて苦しくて、しかも目の前にはご馳走が山ほどあるのだけれど、手を伸ばすとたちまち燃えてしまって何一つ食べられない」ってのがあるらしいよね。
 アズサにフられて別れた後の黒沢の状態って、まさにソレだったよ。嫌われてもまだ好き好き好きーのままで、でも喋るどころか姿を目で追うことさえ出来なかった。
 だから「同じクラスの彼女と別れるなら、顔も見たくないほど相手をキライになれた方がまだマシ」なんだよ。
 別れてもまだ好きな元カノとずっと同じクラスでいる気まずさや居心地の悪さって、ホント経験した者でなければわからない地獄の辛さだよ。

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空と、また富士山です。

LUMIX FX33 090113 187 

 また富士山ですが、本人は空と雲をメインに撮っているつもりデス。

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大失恋(27)・恋の引き際はいつ?

 わかってるよ。「何オマエ、そこまで好きだった子のこと、そんな簡単に諦められるワケ?」みたいに思う人、絶対いると思う。
 あと、「好き好き好きーとか言ってたけどさ、そのアズサって子のこと、ホントはそれほど好きじゃ無かったんじゃね?」とか。
 自分の気持ちに正直に諦めないでいるのと、あえて諦めて引くのと、どちらがより辛いものか、まあもう少し我慢して話の続きを聞いてほしい。

 黒沢って心底、情より理の人なんだよね。
 だからアニメやマンガでも、熱血ヒーローってホント苦手でさ。無駄に熱くて、何の根拠も無く「信じるんだ、正義は必ず勝つ!」みたいな精神論&根性論で突っ走るタイプ、ハッキリ言って超ウザいし大キライなんだ。
 で、どんな絶体絶命のピンチも、結局その主人公の「うぉぉぉっ!」って気合いだけで逆転勝利しチャウみたいなストーリー展開になるとね、深い溜め息をついてテレビの電源を切っちゃうよ。

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 こんなヤツだから、共感するキャラはいつも、ニヒルで醒めた敵役ばかりだったりして。
 実際、『宇宙戦艦ヤマト』では地球を侵略する敵ガミラスのデスラー総統が大好きだったし、『ファースト・ガンダム』も「頑張れ、ジオン軍!」って思いながら見ていたし……。
 何しろ「自分もザクに乗って出撃して、連邦軍のモビルスーツと戦いたい!」とまで思っていたんで、プレステ2で『ジオニックフロント』が出た時にはマジ嬉しかったっス。まあゲーム機&テレビのモニター越しにだけれど、少なくとも「ジオン軍のパイロットになってザクで戦う」っていう“夢”が実現したワケだからね(←バカ)。
 アニメを3D化したセカイに自分まで登場させてしまえるのだから、心から「ゲームってすごい!」って思うよ。

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 そうそう、ガンダムが好きな友達の間で「どの女キャラが好きか」って話で盛り上がってた時、「黒沢、オマエは誰だよ?」と聞かれてさ。
「お前もセイラさんだろ?」
 ファースト・ガンダムの美少女キャラと言えば、まずセイラさんが群を抜いていたけれど、黒沢は即座に首を振ったよ。
「じゃ、マチルダさん?」
「いや」
「わかった、ミライさんか?」
「違う」
 あと、ララァとかフラウとかの名前も挙げられたけれど、黒沢はその全部に首を振り続けたよ。
 黒沢が好きでハマってたのは、実は敵側のハモンさんだったのだ。ほら、ランバ・ラル大尉の内縁の妻だった、あの切れ長の目の大人の女の人……。
 白状シマス、『フレッシュ・プリキュア』では大きなお友達の一人として、プリキュアの誰よりも敵のイースが好きデシタ。だからイースが途中からプリキュアの一員になった時は、マジ嬉しかったス。

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 こーゆー奴だから、もし黒沢が戦国武将になったとしたら、明智光秀とか石田三成とか、まあそういうキャラになるような気がするよ。
 そうそう、戦国より少し前の南北朝期の武将で言えば、ややマイナーだけれど足利忠義(尊氏の弟)が超好きだったりするし。だから尊氏も好きじゃないし、楠木正成や北畠顕房の忠義と奮戦ぶりにも少しも心を動かされないし、後醍醐天皇と大塔宮護良親王はズバリ大っ嫌いデス。
 けどこんな黒沢だって人間だから、感情が無いワケじゃないさ。ただ「世の中の現実は、気合いや情では動かない」と思うから、いざという時には気持ちを抑えて理屈を優先させちゃうんだよね。
 例えばさ、もし恋愛でも「諦めないで想い続けること」が一番大切だとたら、想いを遂げるには皆がストーカーにならなきゃいけなくなっちゃうじゃん。
 黒沢はそれはおかしいと思う。恋愛で相手にフられた時に諦めるかどうかは、想いの強さの問題ではなく「当人の性格による」と思うんだ。
 心の中で荒れ狂う自分の感情を、理性で抑えようとするかどうか。ただそれだけの話だよ。

 けどおかしなもので、辛い気持ちを心の底に押し込めて必死に堪えて耐えていると、周りからは「情が無い」とか「気が強い」とか、非難めいた言い方をされがちなんだよねぇ……。人間味の乏しい、冷たい人扱いされるコトも珍しくないよ。
 で、自分の気持ちに正直にwすぐ泣いたり喚いたりして取り乱せば、「可哀想」って同情されたり、「気持ちがよく伝わってきた」と共感されたりしてさ。
 そう言や、少年マンガの主人公やアニメの熱血ヒーローもかなり感情的で、よく怒鳴るし喚くし、時には泣いたりもしてるよね。「おマイら、もしかしてどこぞの大陸の半島出身者か!?」っての

 どう見ても彼女にFOされかけてるとしか思えないような状況で別れ話になって、しかも陰では「どうしても好きになれない」とまで言われてて。
 それでも「諦めらんない、オマエの気に入るように何でもするから付き合い続けて!」と粘るとしたら、想いが深いと言うより、それはただ自分の気持ちを相手に押しつけてるだけではないのかな。
 少なくとも自分の気持ち最優先で、相手の感情とか状況とか全然見えてないよね?
「でもさ、恋愛ってそういうものダロ」って?
 うーん。だとすると「愛=エゴの押しつけ」ってことになっちゃうけど?

 相手に好かれてないとハッキリわかって、そこで引くかあえて押し続けるかはさ、想う気持ちの強さの差ではなくて。
 空襲で焼け野原にされて原爆まで落とされて、それでも「我らは滅びるまで戦うゾ!」と言い張るのと、「もはやこれまで」と終戦を決意するのと。「さて、どちらがより祖国を愛してると思う?」ってのと、まあ似たような話
だよ。
 けど日本人の多くは「信じるキモチや人の思いで現実も変わる」って信じてるから、周りが見えて知と理で動く人は「醒めていて気力に欠け、心が冷たい」って非難めいた目で見られがちなんだよねぇ……。
 で、その心が冷たく熱血ギライの黒沢は、アズサの態度やミカワさんの話から、
「こりゃアカン、もうダメだわ」
 そう判断して“終戦”の決意をしたわけデス。 

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