空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

ベランダの薔薇です

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 実はコレ、コンデジで撮ったのだ。
 うんと接近して撮れば、一眼レフやミラーレスでなくても背景をそれなりにボカせるものなんだよねえ。





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大失恋(49)・卒業とハレルヤとサイン帳

 さて、リホさんと和解した後は、打って変わって穏やかな日々が続いたよ。
 リホさんは何も無かったかのように、以前と同じように仲良くしてくれて。
 やや距離を置いた関係ながら、スワさんとも表面的には友好関係を保ったままでいて。
 そうそう、黒沢の誤解から迷惑をかけてしまったオオタケくんとも仲直りしたよ。
 卒業まで、本当にもうあと僅か。
 そんな空気を肌で感じるようになると、クラス全体がもう仲良しムード一色でさ。
 つまんねーいざこざなんか、もう水に流しちゃおうぜ……みたいな感じでね。

 二月も半ばになると、授業も受験対策のプリントや自習が多くなって。
 音楽の授業では卒業式に三年生が歌う“ハレルヤ”の練習が始まったりするからさ、「うわぁ、ホントにもう卒業なんだな」って厭でも実感させられたよ。

 ほら、中学校ってナゼかどこの学校でも合唱祭(合唱コンクール)をやりたがるよね。けど、そーゆーので張り切るのはたいてい女子と担任だけで、男子は練習を怠けたりサボったりして怒られてばかりでさ。
 ハイ、黒沢も「合唱なんて格好ワルい」みたいに思って、クラスでの練習にもかなり不熱心だった一人デス。
 バンドでも組んでイケてる流行りの曲を歌うならともかく、クラス対抗の合唱なんかに燃える気持ちが、黒沢には全然わからなくてさ。
 けどね。その卒業式の為のハレルヤの練習だけは、繰り返し歌ううちに次第に胸が熱くなって来たよ。

 わかる人にはわかると思うけど、アレってなかなか難しいんだよ。だから合唱祭でハレルヤを選んだクラスは、たいてい自滅して残念な結果になってたね。
 けど、合唱祭の時のように「いいか、絶対優勝しろ!」だの、「○組には絶対負けんじゃねーぞ!!」だのと叱咤されながら、たかがクラスで貰う賞状一枚の為に厭々歌わされるんじゃなくて。
 ただ卒業式の為だけに無心に練習するうちに、ド下手で聞くに耐えなかったのが次第に曲として形になってくると、何か歌うのが気持ち良くなってきてさ。

 音楽にしろ、美術や技術家庭にしろ、特別教室で授業する科目って、休み時間の大半を移動に使わざるを得ないじゃん?
 三年の時の音楽の先生はそのあたりにも理解がある良い人で、まだ残り数分あっても、キリの良いところで授業を終えて早めに帰してくれたんだよね。
 階も違う校舎の隅の音楽室から、長い廊下を歩いて自分のクラスに戻るのだけれど。当然、他のクラスはまだ授業中で、廊下には各教室の先生の声が微かに聞こえてくるくらいでさ。

 普段はね、音楽の先生の配慮に応えてみな静かに帰ってたよ。
 ただハレルヤの練習も仕上げに近づいてきていたその時だけは、まだ何か歌い足りない気分でさ。
 校舎の長い廊下を、黒沢はその日、サカイくんとカンノくんの三人で歩いていたのだけれど。
 黒沢たちは、自然に視線を交わし合って。
「やるか?」
「おう!」
 頷き合って、「せえの」でやっちまったよ
 その三人で思い切り声を張り上げて、ハレルヤの大合唱を。
 ……そんな恥ずかしいことを黒沢にさせたのも、卒業間近って空気のせいだろうね。
 黒沢たちがその前を通った各教室の皆さんにしてみれば、殆ど授業妨害レベルだったろうさ。けどどの教室で授業をしていた先生も、誰も出て来て叱ったりはしなかったな。

 そんな卒業間近のなごやかムードのまま、リホさんや他の友達とまったり穏やかな日々を過ごしてさ。
 まず私立高校の入試が始まり、続いて公立高校の入試も始まって。そして黒沢はS高に受かって、リホさんに合格祝いのプレゼントも貰ってさ。
 それだけでなく、「春休みには、一緒に遊びに行こう!」みたいな約束もして。
 「これってデートだよね?」みたいな感じで。

 だからと言うわけではないけれど、黒沢はマツオに文字通り何もしなかった。騙してくれたお礼参りもしなかったし、あんな真似をした理由を問い糺しもしなかった。
 だって悪いのは、裏を取ろうともせずにヤツの言葉を信じ込んでしまった黒沢なんだから。
 マツオが何を企もうが、黒沢が信じるべき人を間違えさえしなければ、あんな酷い結果にはならなかったんだ。
 マツオがクズ野郎だったのは間違いないよ、けど一番悪いのは、リホさんよりそんなクソみたいな奴の方を信じた黒沢なんだ。それがわかってたから、「オレにマツオを殴る資格があるのかよ?」と考え込んでしまってね。
 だからあの一件は、一時の激情に流されて善悪の判断を誤った自分に対する戒めとして深く胸に刻み込んで、マツオは友達リストから完全消去したんだ。
 リホさんと仲を裂かれかけたあの一件から、黒沢はホントにヤツとは只の一言も口をきいて無いよ。
 って言うより、ただ朝「お早う」って言うのさえ厭だったんだよね。もう、ヤツを視界に入れるだけで目が汚れる……って感じで。
 ただ残念ながら、黒沢の進学したS高にはマツオも受かっていてさ。
 幸い、高校ではマツオは理系クラスで、黒沢は文系クラスだったから。そして高校も一学年に八クラスもあったんで、顔を合わせる事も滅多になければ、口も全くきかないで済んでしまったよ。

 卒業間近になると、よくサイン帳とか回し合ったりするじゃん。
 ……恥ずかしながら、黒沢もやりマシタ。
 それなりに仲良くしてたつもりの十数人(男女合わせて)に、そのサイン帳を回したのだけど。それを見て「俺も」みたいに書き込んでくれた人もいて、結果的にクラスの半分以上の人がメッセージやサインを寄せてくれたかな。
 で、一年の時からずっと同じクラスで、いつも軽口を叩いてからかい合ってケンカ友達みたいだった女子のアオキさんにサイン帳を回すと、返って来たページに相合い傘が書いてあってさ。
 そこに黒沢と並べて書いてあった女の子の名前を見て、思わず首を傾げてしまったよ。
「何コレ? 意味わかんないんだけど」

 リホさんやスワさんあたりとだったら、書かれてもまあ仕方ないと思う。
 その頃にはまあほとぼりは冷めてたけど、ミカちゃんとも一時期は噂になってたし、その前はアズサと露骨にベタついてたし。
 もっと前のまだ二年生だった時のことを言えば、ナカノさんとも仲良くて、席が隣同士だった時は机をぴったり寄せ合って授業中もずっと喋り続けてたし。
 けどその相合い傘に書かれていた名前はその誰でもなく、ユカさんだった。

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大失恋(48)・女は恋に醒めると別人化シマス

 そのイタい失恋にかけては百戦錬磨wwwの黒沢から見て、「この子だけは止めておけ」ってヒロインが『つよきす!』の中に実は一人いるんだ。
 ズバリ、椰子なごみデス。

 いやね、近衛素奈緒など長く付き合ってうっかり結婚などしようものなら、かかあ天下で旦那を当たり前のように尻に敷くヒス妻になりそうだと思うよ?
 ただ近衛素奈緒の本質は“善”だし、口うるさく叱咤されて尻を叩かれても、それは彼女なりに相手を思ってのことという感じで。
 けど椰子なごみは違う。もしこの椰子なごみのような子が実在したとしたら、黒沢はよっぴーより怖いと思うし全力で避けるよ。

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 けどこの椰子なごみ、ネットなどで調べてみると、『つよきす!』の中でもトップわ争うような人気なんだよね。
 ……何かソレを見てね、「コレだから、リアルな恋愛を知らないギャルゲーマーは困る」と、思わず溜め息をついてしまったよ。

 椰子なごみのドコがウケてるって、結局その強烈なツンデレぶりなんだけど。
 出会った頃は“超”の字が付くほど態度が悪くて敵意むき出しで反抗的で、それがデレ期に入ると一転、ひたすら尽くす可愛い子になっちゃうんだよ。
 多くのギャルゲーマー達に言わせると、そのツンとデレの激変ぶりにグッとくるのだそうで。
 けど黒沢にとっては、ソレはドン引き要素でしかなかったよ。ただもう「コワいわ!」って。
「コレはもう多重人格って心の病だから、早くお医者にかかって下サイ」って、マジでそう言いたくなるレベルでさ。

 詳しくは自身でプレイしてみてほしいけど、ツン期の椰子なごみは「常識をどっかに置き忘れた、キチなコミュ障」としか言いようが無いデス。なごみは初め、主人公や周囲の皆と衝突してばかりなのだけど、原因はすべて椰子なごみの非礼な態度だし。
 あの理解不能なキレっぷりを“一匹狼”などと呼んだら、本当の一匹狼に失礼だと思うゾ黒沢は。
 それがデレ期に入ると主人公にベタベタ、甘々な子になって、普段のドスの利いた低い声まで2オクターブは跳ね上がって高く可愛くなるとか、マジで別人としか思えないんだよ。

 そもそも椰子なごみがすさんだ子になってしまったのは、身内に関係するある人物に対する反発からなのだけど。
 その相手に何かヒドいことをされていたとかなら、普段の性格の悪さにも少しは同情出来たよ。でも実は椰子なごみが一方的に嫌って敵視してただけで、相手は本当に良い人だった……ってのも、「何だかなぁ」って感じだし。

 よく言うよね、「男の恋は名前を付けて保存で、女の恋は上書き保存」って。
 あと、「元カノの悪口を言う男は少なくて、元カレを良く言う女は殆どいない」とも。
 結局、女の子にとっては今の恋と今の彼がすべてで、新しい恋をすれば元カレなどホントに「どーでもイイ人」になっちゃうんだよね。
 だから女の子って、恋が醒めてくると態度がマジで激変するよ? それこそ「別人?」って疑ってしまうくらいにね。

 かつて、こんな黒沢のことをすごく好きになってくれた、奇特としか言えない女神さまみたいな子がいたんだ。
もし私が死んだらね、守護霊になってキミを護るから」って、例のデレ期には本気でそう言ってくれてたんだ。
 実際、その子は黒沢の頼みは何でも聞いてくれて、「キミがいないと、私は一歩も歩けないし生きてけない」って。

 自慢なんかじゃ全然ねーよ。だってその子は今、他の人と結婚して子供もいて幸せにやってるし。
 フったんナイって、黒沢の方がその彼女にフられたんだよ。
 とりつく島もない……って意味が、これ以上ないくらいよくわかるような冷たい声で、「他に好きな人が出来たから」って。
 黒沢は愛想を尽かされるようなヒドい事をした覚えは無かったし、彼女に対しては変わらぬ愛情を持っていて。だからプライドもかなぐり捨てて、「思い直してくれ、やり直したい」って懸命に頼んだよ。
 けど彼女の気持ちは一ミリも動かなくて、黒沢は容赦なく切り捨てられましたとさ。
 言っておくけど、恋愛の始めと終わりで、女の子が愛の女神から死または復讐の女神に変わるのはデフォだから。

 唐突だけれど、ミステリー小説はお好きかな?
 これまではギャルゲーやマンガのことばかり語ってきたけれど、実は黒沢は本を読むのも昔から大好きなんだ。
 その黒沢がすごくハマってしまったミステリーの作家さんが、ロバート・ゴダードトマス・ハリス・クックなのだ。
 ゴダードはいかにもイギリスらしい、歴史も絡んだ重厚な作品を多く書いていて。
 一方トマス・H・クックはアメリカの(主に片田舎の町の)陰の部分と、人間の記憶と事実のギャップについて多く取り上げてるかな。
 ただ、どちらも作風はシリアスで笑うトコなど一つも無いんで、日本に多い「殺人事件も軽~くコミカルに」みたいなミステリーが好きな人には、まず間違いなく合わないだろうことをお断りしておきマス。

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 そのロバート・ゴダードが、『一瞬の光のなかで』という作品の中で、こんなことを言っているよ。

恋をするのは正気を失うのとたいして変わらんよ。まあ、それよりちょっと楽しいだけだ

 うん、確かにその通りだと思う。多分フツーの人より大勢の女の子と接してきた黒沢の経験でも、恋愛なんてまあそんなもんだと思うよ。

 相手は別に能年玲奈や岡田准一レベルの美女やイケメンってワケでもないのに、「キミの為なら死ねる!」とか「アナタが居ないと生きてけない!」とか思えちゃう……って、確かに正気を失ってるとしか言えない状況だよね。
 けど遅かれ早かれそのラブラブ期が過ぎて、いずれ正気に戻る時が来るのだけれど。
 性差だけでなく、個人差もかなりあることは承知の上で、「全体として見れば」の話としてあえて言わせてほしい。女の人って、気分や感情によって生きている部分が男より間違いなく大きいと思う。
 だからか、ラブラブ期で燃え上がってる時と醒めて正気に戻った時の態度の落差も、女の子の方がかなり大きいような気がする。

 何しろ男の恋は「名前を付けて保存」で、元カノとのことも綺麗な想い出として残っていて。だからたとえ今の恋に醒めて正気に戻りかけても「愛は無くても情はある」って感じで、スパッと切り捨てちゃうとかなかなか出来なくて。
 けど女の子の恋は、例の「上書き保存」だから。一旦気持ちが醒めると情もへったくれも無く、元カレなど要らないモノ(または邪魔なモノ)として容赦なく捨てちゃうんだよね。
 前にも話した「元カノを悪く言う男は少なく、女は元カレを悪口や笑いのネタにしかしない」っての、しっかり覚えておいてほしいよ。

 で、ラブラブ期が過ぎて素の状態に戻るとどうなるか、『つよきす!』のヒロインたちを例に考えてみるよ。
 乙女姉さんは、厳しくも優しい良い人ってのがデフォだし。
 霧夜エリカはお姫さま気質だし、ワガママで自分勝手でかなり困った人だけど、少なくとも悪い人じゃない。
 近衛素奈緒も支配的で口うるさくて面倒なヤツだけど、これも少なくとも悪意のない人間で。
 だからこの三人については、例え恋が醒めても手の平返しであからさまに冷たくするとは思えないな。

 事実、霧夜エリカにはゲーム中に気持ちが醒めかけられてしまうのだけれど、それでもただ以前の友達関係に戻っただけで、無視とか避けたりとかは全然しないんだよね。
 そして蟹沢きぬは気心の知れた昔からの仲間だし、サッパリしたイイ奴だし、たとえ恋が醒めても親友のままでいられるに違いないと思う。
 よっぴーについてはね、ダークな部分を内に抱えていて確かにヤバい物件だけれど。ただ普段はそれを抑えて優しいイイ人でいられるだけの自制心を、ちゃんと持ち合わせてるし。
 それによっぴーの場合、心から信じて本当の自分を見せられる相手を切実に求めていて、その分だけ好きになった相手には深く執着するし、このテのタイプは恋が醒めるのもかなり遅いよ。
 だからよっぴーは「裏切りさえしなければ多分大丈夫」って、黒沢は自分の経験的なものからそう感じるんだ。

 けど椰子なごみは違う。
 ギャルゲーマー達の多くは、デレ期のなごみの別人格レベルのデレぶりに、まるっと魂を持ってかれちゃうようだけれど。ただなごみのその“デレ状態”は、例の「恋に落ちて正気を失った状態」でしかないから。
 では、そのデレ期が過ぎたら、なごみはどうなるか。
 ズバリ主人公と出会った頃の、ツン期のアレがなごみの素なんだよ。だから無愛想でナマイキで、キレると手も出かねないコワいなごみに、いつ戻りかねないかわからないのが現実なんだ。

 その時は夢中だから気付かないだけで、恋に燃えるのにも実はかなりパワーが要るんだよ。そしてその心のパワーだって、決して無限じゃないから。
 短距離ランナーとマラソンランナーの違いはあるにせよ、そのラブラブ期でい続ける為の燃料も、いつか尽きてしまうんだよね。
 で、気持ちが醒めて正気に戻った時に、どれだけ相手に情のある態度で接することができるか。それは結局、恋に落ちる前の当人の人間性と言うか、素の状態で持ち合わせている優しさによるからね。
 でもよくいるんだよね、恋に落ちた後のデレ期の姿のみを見て、「これが本当の彼女なんだ!」とか思い込んじゃうおっちょこちょいが。

 考えてみてよ。女は取っ替え引っ替えのナンパ野郎だって、日頃は粗暴なDQNだって、誰かをオトしたいと頑張ってる時は、相手の女の子に優しくするものでしょ?
 893だって誰だって、ラブラブ期には相手に優しくて良い人でいて当たり前なんだってば。「イジメるのは愛すればこそなんだ!」っていう、ある特殊な性癖のヒトを除いてね。
 だからこそ、相手の本性は「普段、周りの人達にどう接してるか」で判定しなくちゃダメなんだ。「自分にどれだけ優しく可愛く接してくれているか」ではなくてね。

 そういう視点で『つよきす!』の各ヒロインを見てみると、カニと乙女姉さんは文句ナシに合格点、エリカさまと素奈緒は難アリだけど根は悪い子じゃない、よっぴーだって取り扱いに充分注意しさえすれば多分大丈夫……だと思う。
 けどデレ期が過ぎた後の椰子なごみにだけは、どうしても良い未来が想像できないんだ。
 デレ期が永遠に続くと信じてる人達には、なごみも魅力的に見えるのだろうけど。人の気持ちがどれだけ変わりやすいかを、そして恋から醒めた後の女の子がどれだけ非情になれるかを身を持って知っている黒沢には、なごみも含めてツンデレ&暴力系ヒロインって、避けるべき存在としか思えなくて。
 ……ハイ。なごみに対するのと違ってよっぴーの評価が甘過ぎるのは、黒沢もよく自覚してマス。
 だって黒沢はある意味、よっぴーと同類の人間だから。

「良い人達に囲まれて真っ直ぐに育った、善意にあふれる人」って、実は黒沢はDQN系の悪いヤツらより苦手なくらいだよ。
 その種の日の当たる場所しか知らない幸せな人達と違って、黒沢は人の悪意や醜さを、厭と言うほど見ながら生きてきたからね。そして同時に、自分自身の心の内に棲む黒い部分や醜いものもよく知ってるし。

 断っておくけれど黒沢は、スピード違反などの交通関係以外で警察のお世話になった事、本当にただの一度も無いよ。
 それは黒沢が育った環境のおかげでも、「周囲の良い人達に支えられた結果」でもないから。長い人生の中でホントにいろいろあって、心の中の闇に飲み込まれかけたりもして散々葛藤しながら、歯を食いしばって自力で頑張ってきた結果なんだよ。
 だから「環境が──」とか「社会が──」とか言って悪いヤツらや犯罪者を庇う“イイ人”たちには、「オマエらみたいなヤツらが、悪人どもを育てて世にのさばらせてるんだ!」みたいに思ってしまう
 根っからの性善説で「世の中に本当に悪い人なんて誰もいないんだよ」とか真顔で言う人たちって、ただ嫌いと言うよりキモチワルイよ。

 ねえ、キミは自分の心の奥底に深く沈んでる醜く汚い部分を、しっかり直視したことはあるかな?
 黒沢はあるよ。そしてソレから目を逸らさずに向き合って、その心の奥に棲む悪が暴れ出さないよう、常に抑えつけながら生きてるから。
 この黒沢が世の中で人サマに迷惑をかけずに生きてるのはさ、ただ自分の意志によるものなんだ。「生まれつき善だったから」でも、「環境に恵まれたから」でもなくね。
 それだけに、心の中に闇を抱えつつ、必死に“良い子”として生きているよっぴーの生き方には、何か妙に共感しちゃうんだよ。

 って言うか、よっぴーに限らず心に闇を抱えながら生きている人に、黒沢は多分フツーよりかなり甘いと思う。普通のゲーマーが「こいつメンヘラだろ」って避けちゃうような黒いキャラでも引かないし、むしろ両手を広げて「バッチ来~い!」みたいな。
 例えば、メモオフシリーズ第三作『想い出にかわる君』の北原那由多とか。

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 その筋では『想君』と呼ばれてるソレは、数あるメモオフシリーズの中でサイテーと言われている悪評高いゲームだけれど。
 ハッキリ言って、黒沢もプレイしてみて「これはヒドい」と思ったよ。構成にもキャラ設定にも脚本にも、いろんな面でツッコミたい点が数限りなくあってさ。
 けど北原那由多がヒロインにいてくれたおかげで、黒沢は「このゲームに出会えて良かった」って思えたよ。
 実はこの北原那由多って、ただ心の内に黒い闇があるだけでなく、人を殺した疑いまであるんだよね。
 でも黒沢にとっては、「好きなギャルゲーのヒロインは?」と聞かれたら、躊躇わず名前を挙げてしまうくらい彼女を気に入ってるんだ。

「信じらんねー、人殺しかも知れない女ダロ!」って?
 わかってる。
 けどね。「どんな理由があっても、人を殺しちゃいけない」とか真顔で言えちゃう人に、黒沢は心から聞いてみたいよ。
「誰かを殺してやりたい……って心から思うくらい酷い目に遭わされたこと、貴方は無いの?」って。

 黒沢はあるよ、それも何度も。
 ただ前にも言った通り、その気持ちを意志の力で抑え込んで、恨んでる相手を実際に殺しに行ったりしたコトはまだ一度もナイけどね。
 それだけに『想君』の北原那由多がどれだけ苦しんだのかもよくわかるし、引くどころか「側にいて支えてあげたい」って余計に思ってしまったよ。

 まっ、『想君』については思うところがいろいろあるんで、章を改めていつかまた詳しく話すね。
 ただ良い人達に囲まれてすくすくと真っ直ぐに育った人に、「どんな理由があっても、人を殺しちゃいけない」とか、「世の中に本当に悪い人なんていない」とか気安く言われると、何かこう胸が悪くなると言うか、吐き気をもよおすくらい嫌な気分になってくるよ。

 こんな言葉を、キミは知ってるかな。
地獄へ通じる道には、数多くの善意が敷き詰められている
 凶悪事件の被害者より加害者のことを気にかけ、被害者やその家族に手を差し伸べるのではなく「加害者の立ち直りを……」とか言い出すのって、決まってその種の“善意に満ちたイイ人たち”なんだよね。
 世の中に犯罪者が増えれば社会が住みにくくなるのは、誰にでもわかる事だよね。けど“地獄の門”を開いて世の中に悪人どもを送り出そうとしているのはその“善意の人たち”なんだって、皆はいつ気付いてくれるのだろうね。

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あの“レリゴー”について、再び考える

 以前『アナと雪の女王』のあの“レリゴー”についての批判を書いた後も、「ありのままの自分で生きる」という事について、黒沢はまだ考え続けている。
 ありのままの自分で生きるのは、黒沢はやはり怖いと思う。

 それは何故か。
 例の『アナと雪の女王』のあの“レリゴー”に共感する多くの人が、生きることに息苦しさを感じつつも“ありのままの自分”を出せずにいるのは、周囲の目を恐れてのことだろう。
 だが黒沢が“ありのままの自分”を解き放たずにある程度“作った自分”で生きているのは、自分自身が怖いからだ。
 黒沢は自分の心の奥底を覗き込み、そこに確かにある認めたくないイヤな部分も直視しているから、「自分に正直に、ありのままの姿で生きたい」などとは思わない。
 だって「自分のありのままの姿を見せる」というのは、その心の中にある欲や妬みや憎しみなどの醜いイヤな部分も、隠さず全部さらけ出す……ってことなんだよ?
 そんな怖いこと、黒沢には恥ずかしくてとても出来ないよ。

 黒沢は思うのだが。
「自分に正直に、ありのままの姿で生きたい」などと本気で思える人達は、自分の本性を善で美しいものと感じているのだろうね。
 だって自分の心の中に醜くて悪いものの存在を認めていたら、「ありのままの自分を見せたい」なんて、とても正気で思えないもんね?

 自分の「ありのままの姿」なんて、そんなにキレイなものじゃナイから。
 例えば裸になれば、人に見せられない恥ずかしいトコロは誰しもある筈だ。顔だの腕だの足だのなら普通に見せられるけれど、チ○コやケツは隠すのが当然だし常識というものだろう。
 寝起きのまま、髪も整えず顔も洗わず目脂もつけたまま外に出て人と会う馬鹿が、一体どこにいるというのだろうか。
 人前に出るには必ず一時間以上かけて顔を作り、殆ど別人レベルになるまでフルメイクしろなどとは言わない。しかし起きたらまず顔を洗い、髪も整え見苦しくない程度にするのは当たり前だ。
 人の心もそれと同じで、意識して直したり抑えて隠さなければならない恥ずかしい部分や黒いものも、誰しも必ず抱えている筈なのだ。それこそ生き神さまレベルの、聖人君子と呼ばれるような立派な人でもない限りはね。
 だから人は自分の見せられない恥ずかしい部分は隠し、ある程度“作った”自分で生きて当然なんだ。

「ありのままの姿を見せて、ありのままの自分で生きる」ってのはさ、チ○コ丸出しの全裸で外を疾走するとか、髪はボサボサで目脂もつけた寝起きのままパジャマ姿で人に会うのと同じくらい恥ずかしいことなんだよ。
 そしてそれがただ“恥ずかしい”ってレベルなら、当人がイタい目に遭うだけだからまだ良いけれど。その人の本性が粗暴で悪や我欲の部分が強くて、そして「ありのままの姿で、自分に正直に」その物欲や性欲や怒りや破壊衝動のまま行動しまったら、それこそ反社会的な犯罪行為に至ってしまうでしょう?

 今の日本は、確かに周囲からの“同調圧力”が強いからね。学校や職場だけでなく、親しい筈の友達の間でも空気を読んで、自分を抑えて周りに合わせて生きていかなきゃならない。
 だから「ありのーままのー、姿見せるのよー、ありのーままのー、自分になるのー」ってあの歌詞に共感して、「自分に正直に生きたい」と思ってしまうのもわからないでもない。
 けどその「ありのままの姿」を見せる前に、「自分の正直な気持ち」やら「ありのままの自分」がそんなに美しくて素晴らしいものかどうか、一度よく見つめ直してみた方が良いと思う。
 心理的な意味で「素っ裸で何も隠さずに外に出たり」、「寝起きのボサボサ頭で目脂もつけたまま人に会ったり」しでかす前に……ね?

「ナーニーもー、コワくーなーいー」って、あの歌では言っているけどさ。
 黒沢は自分の心がそう美しくもなければ、黒くて悪い部分も確かに存在することも、よくわかってるから。その黒い部分もある自分を「ありのままの姿で解き放とう」なんて、とても思えないよ
 だから黒沢はありのままの姿の自分で生きるのは、「周囲の人の目」でなく「自分自身」がすごく怖いデス。

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大失恋(47)・強気と勝ち気は別モノです

 で、騙されたと気付いて、マツオをどうしたか……って?
 ズバリ、何もしなかった。
 そりゃあもちろん、ものすごく腹は立ったさ。と言うより、殺してやりたいくらいの気持ちでいたよ。
 ただね。
でもキミは、私よりマツオを信じたんだよね?
 リホさんのその一言が、胸に深く深く突き刺さってさ。
 ……確かにその通りなんだ、ホントにね。

 もちろんマツオは悪いヤツだったし、腹の底まで腐ってやがったよ。
 けどどう言い繕っても、一番悪いのは黒沢だったんだ。
「何言ってんだフザケンナ、リホさんがそんなコトするわけねーだろうが!」
 マツオが何を言おうと、そう切って捨ててしまえば良かっただけなんだからね。
 そこまで出来なくとも、せめてリホさんに確かめてるべきだったんだ。まずは穏やかに、「マツオがこう言ってたんだけど、それは本当なん?」って。

 なのに黒沢はマツオを信じ込んで、一方的にリホさんを責めちまった。そしてその挙げ句に絶交宣言(キリッ)までしてさ。
 もうね、あまりにアホ過ぎて、思い出すだけで死にたくなるくらいだよ。
 どう考えても一番悪いのは黒沢だし、マツオを責める資格があるとは思えなかった。
 たとえマツオを殴ったところで、今更どうにもなるワケじゃないし、リホさんにしてしまったことを無かったことには出来ないよね。
 それにそーゆー愚行は、オオタケくんとの件でもう懲りてもいたし。
 それよりリホさんに謝って、何としても許して貰うのが大切。本当にいろいろアホ過ぎた黒沢だけど、不幸中の幸いと言うか、そのコトに気付く頭だけは残ってたんだよね。

 で、リホさんには恥も外聞も無く謝り倒しましたとも。
 初めのうちはリホさんも本当にもう頑なで、殆ど無視に近い感じでね。
 ただ返事は何もしてくれなかったけれど、話だけは黙って聞いていてくれていてさ。
 その時の黒沢って、謝ると言うより殆どリホさんに泣きついていたと思う。もちろん本当に泣いたワケじゃないけど、いろいろ辛すぎてアホなことをしてスミマセン、みたいな。
 もうね、アズサにフられてからのあれこれを、洗いざらい喋っちまったよ。プライドもかなぐり捨てて、弱い部分やみっともない部分もさらけ出して。

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 ……ハイ、結局何とか和解できマシタ。リホさんは『つよきす!』の乙女姉さん顔負けのアネゴ系のヒトだけど、根はとても優しい人だからね。
 で、「これからは気持ちを入れ替えて、一緒に受験を頑張ろう!」みたいな話になって。
 甘くて苦い思春期の恋愛話(甘さ一割に苦さ九割ってトコだけど)の筈が、いつの間にかこーゆー締め方になるあたりも、リホさんってすごく乙女姉さんっぽいんだよね。
 その話もただ「頑張れ」だけじゃなく、「受かったら、合格祝いにプレゼントをあげる」って。
 それはその場限りの口約束とかではなくて、合格が決まった後リホさんは忘れずに、彼女手縫いのランチ袋をプレゼントしてくれてさ。

 黒沢はこの章で、リホさんをずっとセイラさんにたとえてきたけれど。事実オトコどもを平気で叱り飛ばせちゃうくらい強くて毅然としている部分とかは、確かにリホさんはセイラさんによく似てるよ。
 でも厳しくて優しくて、そして気はすごく強いくせに生真面目で純で……って、リホさんは強気なヒロインばかり揃えた『つよきす!』の中でも飛び切り強い鉄乙女(くろがね・おとめ)そのものだよ。

 以前にも少し触れたけれど、『つよきす!』は黒沢が自信を持ってお勧めできるギャルゲーの一つなのだ。
 このゲームのウリは、何と言っても「ヒロインすべてが強気な子!」というトコで。だから黒沢がキライな「内気で気弱で、いつもイジイジ、モジモジの察してちゃん」や「ぽやんとした優しいお姉さん」は一人も出て来ないんで、途中でイラっとさせられることもなく、最後まで楽しくプレイできたよ。
 登場するヒロイン達について少し紹介すると、例えば一年生なのに先輩も先輩と思わない、一匹狼のツンデレ娘とか。
 財閥のご令嬢で才色兼備の、超お姫さま気質でやりたい放題の生徒会長とか。
 昔からずっと一緒にバカやってきた、男の子みたいな幼なじみとか。

 あ、この『つよきす!』について黒沢は「ヒロインはみな強気な子ばかり」って言ったけど、実は強気とは言いかねるヒロインが一人だけいるんだ。
「わかった、よっぴーだろ?」って、ギャルゲーにちょっと詳しい人はすぐ言うだろうね。
 うん、生徒会書記でクラス委員の佐藤良美サンは、とりあえず「おっとり優しい系」だよね。あえて言えば『To Heart 2』の小牧愛佳に似た、なかなか言うことを聞いてくれない皆に困りながら、皆の為に懸命に頑張るタイプの……。
 でもそれはあくまでも、「とりあえず」の話であって、この“よっぴー”こと佐藤良美サンには小牧愛佳とはまるで違う、裏の顔がありましてね。

 ネタバレは避けたいから詳細はあえて語らないけれど、「よっぴー怖い」で検索すれば色々ヒットしちゃうようなアレな人でして。
 コワい。よっぴーはマジで怖いデス。ルイズだの涼宮ハルヒだの、あるいは逢坂大河といった、萌え系のゲームやマンガやアニメにありがちな暴力ヒロインとは真逆の、「真綿で首を絞めるように、主に精神を攻めてくるタイプ」でさ。
 よっぴーは、普段は生徒会長で無敵のお嬢さま霧夜エリカ(中の人は北都南サマ)の親友、というより忠実な侍女みたいな感じで。けどいざとなるとこのよっぴーの方が、エリカお嬢さまより間違いなく強かったりするのだ。

 で、黒沢はプレイ中に「霧夜エリカか、よっぴーか?」という最終決断を迫られた時、迷うことなくよっぴーを選んでしまったよ。
 そりゃあね、ワガママ放題で親も権力者っぽいエリカさまの機嫌を損ねたら、そーとー面倒な事になりそうだよ。でもよっぴーをフって恨まれた時の方が、ずっと後が怖そうだったから。
 ……よっぴーがキレるとどうなるか、怖いモノ見たさで確かめてみたいキミは、ぜひ『つよきす!』をゲットして、よっぴーとの距離を縮めた後で裏切ってみて下サイ。それも出来ればプレステ2版でなくPC版をチョイスして、深夜のプレイをお勧めしマス。
 断言できるけれど、よっぴーも間違いなく、この強気っ娘揃いの『つよきす!』のヒロインの立派な一員だよ。

 実はこのよっぴーを、黒沢は案外キライじゃなかったりするのだ。
 何しろ黒沢は、「外ではゲーキャラ顔負けの優しい優等生、家ではそのストレスを発散してキレまくり」ってヒス姉と、トラウマになるレベルで身近で接してきたからね。
 だからゲームでもマンガでも、おっとり優しい優等生キャラが出て来ると、それだけでムカついてきてしまうんだよね。「ありえねー! このアマ、絶対ネコを被ってるって!」みたいな感じで。

 そんな黒沢だから、よっぴーの想像のナナメ上を行く裏の顔にも、驚くと言うよりむしろホッとしてしまったくらいでさ。
そーだよねー、ただおっとり優しい善意だけの人なんて、現実にいる筈無いもんねー。これくらい裏があって当然だよ」って。
 それに裏切りさえしなければ、よっぴーはホント優しい良い子のままだから。
 詳しくは実際にプレイして確かめてみてほしいのだけど、よっぴーがそんなコワいヒトになってしまったのは、過去の出来事から極度の人間不信に陥ってしまった結果なんだよね。だからよっぴーは心から信じられる絶対に裏切らない人を求めていて、それで自分を裏切った相手にはホントに容赦ないんだ。

 黒沢自身もいろいろあって、人間のクロい部分は厭と言うほど見てきているからね。だから人間不信のレベルでは、よっぴーにも負けないかも知れない。
 だからコワいと言われるよっぴーの感覚、黒沢は案外理解できるし共感しちゃうんだ。
 アズサにフられた後、ミカちゃんにスワさんと渡り歩いた挙げ句にミクにも手を出したりとか、黒沢って行動から見ればかなり節操の無いヤツと思われかねないよね。
 けどちゃんと彼女が出来た後に浮気したコトって、ホントにただの一度もないんだよ。って言うか、浮気とか元々キライで、する気も全然無いしね。

 黒沢がアッチコッチでいろんな女の子と知り合ってきたのも、心から信じられるただ一人の娘を捜してたからでさ。
 だからその“誰か”が見つかりさえすれば、後は他の子とどうこうしようとか全然思えないんだ。
 浮気や不倫をする男の中には、「男なら誰だって、チャンスがあれば浮気するダロ?」とか居直るヤツがよくいるけれど。
 その感覚、黒沢はハッキリ言って理解できない。

 もうね、そんなヤツらには「オメーの脳は、股の間にブラ下がってんじゃねーの!?」って言ってやりたいくらいだよ。
 少なくとも黒沢はそーゆータイプだから、「よっぴーが彼女でも、別に何も問題ないかな」って。
 ……こんな黒沢って、やはりどっか病んでたりするのかな?

 で、『つよきす!』のヒロインに一人だけいる、強気とは言えない子についてだけれど。
 正解はよっぴーではなくて、実は演劇部部長の近衛素奈緒だよ。中学時代の同級生でその頃は仲も良かったのだけれど、ある事件から主人公を敵視しているという……。
 この子は正しいと思ったら決して自分の意志を曲げないし、相手が誰でも遠慮なく叱り飛ばすから強気と思われがちだけど、正しくは“勝ち気”なんだ。

 この強気と勝ち気というの、ごっちゃにして「どっちも同じようなもんじゃね?」みたいに思ってる人、すごく多いような気がするよ。でもこの二つは、似ているようで全然違うものだから。
 勝ち気な人は、とにかく「人に勝ちたい!」と思って、いつも周りの人と自分のどちらが上かを気にしてキリキリしてるよね。
 けど強気な人ってのは元から自分に自信があるから、周りがどうだろうが全然気にしないんだよ。
 例えば黒沢はテストの点数とか順位とか、殆ど気にしてなかったし。何しろいろんな本を読んで新しい知識を得て、歴史的な事件や今の政治情勢をどう解釈したら良いか考えるのに忙しかったんで、教科書を丸暗記すればデキるレベルのテストの点数ごときで勝ったとか負けたとか、そんな次元の低い競争になどまるで興味が持て無くてね。

 自分の知識や思考力に、黒沢は元から自信があったんだよ。だから日々の勉強も教科書や授業などに関係なく、テストで誰かに勝つ為でもなく、ただ自分の知的好奇心を満たす為に教養を深めて行く……って感じでね。
 そのスタイルでずっと通しながら、学校での成績も少なくとも国語と社会ではトップレベルだったよ。けどそれも、自分の日々の読書量からすれば「まあ当然でしょ」と。
 すごくナマイキで鼻持ちならないのを承知の上であえて言うけれど、本当に自信のある強気な人の感覚ってこんなもんだよ。関心はとにかく自分をより高めることに向いていて、他人や周りがどうかとか殆ど気にしてないんだよね。

 降りかかる火の粉は払わなきゃいけないし、ケンカを売られた時には買いマスよ? けど基本的に他人に関心が無いから、人と自分を較べて勝っただの負けただのって、ホントに興味ないんだ。
 だから黒沢は思うのだけれど、とにかく人と自分を較べて勝たなきゃ気が済まない負けず嫌いな人って、本当は自分に確かな自信が無いんじゃないか……って気がするよ。
 ほら、うるさく吠えつく迷惑な犬って、どこにもいるよね。本当は怖いものだから、必死に前足を突っ張って「ワワワワワンッ!」って威嚇するの。
 負けず嫌いで勝ち気な人って、黒沢にはまさにそんな感じに見えるんだ。
 本当に強い犬は、いちいちギャンギャン吠えつかない……って。せいぜい低く唸る程度で、やる時は一気にガブッと行きマスよ。

 あとね、いつも人に勝とうと競争を続けてるストレスのせいなのか、負けず嫌いで勝ち気な女の子って、何かヒスっぽい人が多い気がするんだ。
 学校ではしたい放題のエリカさまを一方的に敵視して、何かと突っかかって行くあたりを見ても、近衛素奈緒もまさに勝ち気そのものだよ。そして主人公に対する叱咤の仕方も、黒沢には何かヒスの気があるように見えてならないんだよね。
 でも一方の霧夜エリカは“超”の字がつくほどの強気タイプなんで、素奈緒をライバルとすら思ってない有り様でさ。軽くあしらわれてケンカにもならないどころか、逆に面白半分にイジられたりして。

メモリーズオフ ~それから~(通常版)メモリーズオフ ~それから~(通常版)
(2008/08/14)
Sony PSP

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 強気と勝ち気の違いについて、メモオフシリーズの名作の一つ、『メモリーズオフ~それから~』のヒロインの一人の花祭果凛さんが、こう語っているよ。

 ……今、ライバルと言える友達がいる。
 彼女は一歩も二歩もわたしの先を歩いている。
 わたしはこれまで、彼女に勝てたことは一度もない。
 そうやって比較している時点で、私は最初から負けているのかもしれない。
 比較なんてしちゃいけない。
 それは、弱い証拠だから。


 そう、だから近衛素奈緒はいろいろ頑張ってるのに、霧夜エリカに何一つ勝てないんだよね。
 自分とエリカを較べては、勝とう勝とうと焦ってばかりいるから。
 霧夜エリカは文字通り“エリカさま”でやりたい放題なのだけれど、誰に勝つとか負けるとかでなく、常に広い世界を見て、自己をより高いところに導こうとしているだけなんだよね。
 比較する時点でもう相手に負けていて、それは弱い証拠だから。
 ホントにその通りだと、黒沢も心から思いマス。
 ま、近衛素奈緒は元はPC用だった『つよきす!』をプレステ2に移植する時に付け加えられた新キャラだから、オリジナルの『つよきす!』は「ヒロインは全員強気っ娘」と言って間違いないんだけどね。

 一匹狼だのエリカさまだの、それに吠えつく超勝ち気娘だの、果てはサイコの気もあるっぽいヤ○デレまで、何とも強烈なヒロイン揃いの『つよきす!』だけど。中でも最強なのが、例のリホさんに似た乙女姉さんで。
 生徒会副会長兼風紀委員の武道の達人で、周りにどう思われようが“空気”とやらに一ミリも流されない、心身ともに本当に強い人だよ。
 でもただ強いだけでなく、根はとても優しい人なのは、前にも触れた通りデス。

 けどね。
 黒沢が『つよきす!』で迷わず最初に選んだ一番好きなヒロインは、実はこの乙女姉さんではなく、幼なじみで悪友的な存在の蟹沢きぬ(通称カニ)だったりするのだ。
 気は強いけれど高スペックな他のヒロイン達と違って、蟹沢きぬは運動能力を除けば他はダメダメなんだよね。 しかもその唯一の取り柄のスポーツでも、エリカさまや乙女姉さんには負けてるし。
 楽しいことや遊ぶことにしか興味が無く、体育以外では落ちこぼれで。
 さらにチビな上に貧弱ボディで、性格も男の子みたいで色気ナシだし。
 顔は可愛いけれど、パッと目立つような美人さんでもなく、取り柄と言えばムダに近い元気と明るさ……って感じなんだよね、このカニさんって。
 でもね。「一緒にいたらこっちまで気持ちが明るくなって、すごく楽しいだろうな」って思えるんだ。

 例えば霧夜エリカなど他のヒロイン達は、魅力的だけれどあくまでも女の子扱いしなきゃならない感じで。男勝りな乙女姉さんでさえ、男同士のような仲間付き合いができるとは思えないんだ。
 主人公にはスバル兄さんやフカヒレくんといった良い仲間もいるのだけれど、彼女らもその輪の中に加えて一緒に遊ぶのはまず無理だと思う。
 こうしたギャルゲーではありがちなのだけれど、『つよきす!』でも主人公は両親が出張中で一人暮らしをしていて。で、主人公の家は仲間たちの溜まり場のような感じになっていて、放課後はいつもその仲間たちと、だらだら、まったりとした楽しい時間を過ごしていてさ。
 けどもし主人公がヒロインの誰かと付き合い始めたら、その仲間と過ごしていた時間のかなりを“彼女”に割かなくてはならなくなるだろうし、結果、スバル兄さんやフカヒレくんたちは居場所を失って、この仲間はやや疎遠にならざるを得ないだろうね。

 でもカニこと蟹沢きぬだけは違う。幼なじみのカニはこれまでも仲間の一人だったし、そのカニとなら仲間付き合いと恋愛を両立させられると思う。
 何て言うか、胸も色気も無くて男の子みたいなのだけれど、その代わりもし恋愛の対象にしたら「彼女でもあり、親友でもあり」みたいな存在になるよ、きっと。
 って言うか、この『つよきす!』の中で男の感覚や気持ちもわかってくれるのは、多分このカニだけだと思う。

 カニは確かに強い子なんだけれど、気が強いって言うより「細かいことにと拘らない、腰の据わった芯の強い子」って感じでさ。
 ただ男って若いうちは、どうしても女らしさの塊みたいな、お姫さまタイプの可愛い子に目が向いてしまうんだよね。
 白状する。実は黒沢もその傾向が強くて、あっさりした男の子みたいな子は、「良い子だ」と頭ではわかっていてもなかなか恋愛対象として見られなくてさ。挙げ句に、アズサみたいな子に惚れてしまう始末だよ。
 恋は思案の外と言うけれど、黒沢も恋愛となると呆れるほど大バカ野郎になっちゃってマシタ。

 このアズサとの件でも殆ど学ぶことなく、黒沢はこの後も女度高めの「顔は天使で心は悪魔」みたいなタイプに魂を持ってかれては、自業自得の痛い目に遭う繰り返しでさ。
 あっさり系でちょっと男の子みたいな、「もし同性だったら親友になれそうな彼女」の本当の良さに気付いたのは、恥ずかしながら恋愛ではいやと言うほど修羅場を見た後のことでね。そしてその二十代も半ばになるまでの間に、「この娘を選ぶべきだった!」と後から悔やまれてならない良い子を、ホントにいっぱいスルーし続けてたよ。

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逃げません

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 相変わらず警戒心いっぱいデス。
 けどストロボを発光させても、逃げようとは決してしません。

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大失恋(46)・子供の頃の“友達”って

 子供の頃って、まず「席が近い」とか「帰り道が同じ」とかで友達になりがちだから。相手の人柄について知るのは、たいていその後なんだよね。
 で、クラスの中で仲良しグループがほぼ出来上がっちゃってから、「コイツとは気が合わない」と気付くみたいなケースも、実際よくある話でさ。
 けどそれならそれで、クラス替えなどの際にFOまたはCOすれば良いだけじゃん。
 なのにマツオは何故、政界のドン顔負けの陰謀を巡らせてまで黒沢を陥れるとか、そんな面倒な事をしたのか。
 それについても、正確なところは「わからない」としか言い様が無いよ。けど証拠の無い想像での話で構わないなら、一つの仮説を立てることくらいは出来るかな。

 マツオは何しろ、一番好きな戦車にアホみたいな無敵ぶりを誇るティーガーより、実戦での運用まで考えてパンターを選ぶようなヤツだから。同じ小生意気なマセガキでも、その醒めっぷりのレベルが違ってたんだよね。
 今でもその傾向はあるけれど、昔の黒沢はドン・キホーテを地で行くアホでさ。
オレが正しくて、間違ってるのは世の中の方。だから変わるべきは世の中で、何でオレが折れなきゃなんないの?
 あの頃の黒沢は、本気でそう思ってた。
 いや、「世間ってバカが多くて困る、ノーベル賞の大学教授も近所のDQNも一人一票で同じ権利の民主政治って、結局は衆愚政治でしかないよね」って見方そのものは変わってないんだけど。

 だって世間の連中の意識や言うことなんて、呆れるほど節操なくコロコロ変わるじゃん。
 例えば天皇も終戦までは生き神様で、戦後は一転ただの人、そして今また「世界に唯一無二の、万世一系のウンタラカタラ……」と神に近い存在に祭り上げられかけようしているし。
「天皇陛下を悪く言うヤツは非国民で許せない」
 そんな戦前回帰みたいなキモチ悪い空気、今の日本にも間違いなく蘇りつつあるよね?
 そしてその種の人たちの脳内では、「日本や天皇の戦争責任について語ること=日本を貶める悪口=中韓の手先の売国奴で非国民」ってコトになるのがデフォで。

 天皇サマのような畏れ多い存在だけでなく、小泉氏や橋下氏や安倍氏のようなカリスマ政治家や、I氏やO氏のような宗教家に対する批判も、例の「○○さんを悪く言うヤツは許せない!」って激昂を招いちゃうのが現実で。
 それと、昔から真面目に頑張ってきた人より“立ち直った元ヤン”の方が評価されちゃう、例の「ただマイナスをゼロにするだけで誉められる」って世間の安っぽい“人情”にもムカつくよ。

 馬鹿げてるし、筋なんてまるで通ってないさ。でも世間では、正しいかどうかなんて関係ないんだ。
 結局、この国では例の“空気”ってヤツが全てなんだよ。そしてその世間の空気に異を唱えようとすると、問答無用でフルボッコにされるのが現実で。
 世間にリクツは通らない。そしてその世間を動かしているのは、野卑に近い激しい言葉で大衆のゲスな感情を煽る種類の人々なんだよね。人々の“共感”とやらを得るには、知性や理性や教養はむしろ邪魔になるくらいでさ。
 その現実を最もよく理解していたのが、あの小泉元首相で。そして今は橋下氏や石原閣下w、それに安倍首相だと思う。

 けどあの頃の黒沢には、そうした世の中の現実や人間の本質がまるで見えてなかった。
「物事は正しいかどうかが全てで、論理的に正しい事を言えば必ず通る」
 そう思い込んで、クラスや委員会でいつも一人正論wwwを吐いては、“皆の空気”という越えられない壁の前に玉砕し続けてた
よ。それこそまるで、岩にガラスのコップを投げ続けるような具合で。
 ね? ドン・キホーテ顔負けの滑稽さだよ。
 だからある意味、黒沢は子供らしくないヒネた思考やナマイキな物言いとは裏腹に、ハートそのものはかなり熱いガキだったんだ。

 それから三年後の、黒沢が高校を卒業する時も。
 卒業アルバムの余白に、クラスの皆に一言ずつ何か書いて貰ったのだけど、ある女子がこんなメッセージを寄せてくれたんだ。
「そのバイタリティーをいつまでも」
 オレが皆を、正しい方に引っ張ってってやる……みたいなウザい熱意と気合い、当時の黒沢は間違いなく持ってたんだよね。
 少なくとも十代の頃の黒沢って、醒めたフリしながら心の底は意外に熱かったんだよね。言ってることは、どれだけリクツっぽくてナマイキだとしても。

 けどマツオは、心の中まで醒めきってたよ。
「オマエらバカだなあ、何でこの理屈がわかんねーんだよ?」というのが黒沢だとすれば、マツオは「バカには言ってもどうせわからないんだから、言うだけ無駄無駄w」って感じで。
 だからホームルームで「クラスを良くしよう」みたいな件で話し合う時も、マツオは意見とか一切言わないし、協力も一切しないんだよ。
「俺一人がどうこうしたって、何も変わんねーし」って。

 上から目線で周りの皆を見下してるトコは、マツオも黒沢と同じなのだけど。ただ違うのは、その世の中や周りの人達に対する醒めた冷たい見方を、自分の心の中に留めておくことが出来た……ってとこ。
 で、いつも薄く笑って、一握りの仲間たち以外には当たり障りのないことしか言わないから、マツオは学校ではむしろ「地味で目立たない存在」って感じだったよ。
 言ってみれば、まるで戦場の中の迷彩服姿の兵士のように、その他大勢の生徒たちの中に溶け込んでいたよ。

 理科と社会については、マツオも教科書には書かれて無い色々なことを知っていたよ。けど授業中に手を上げて、それを皆に喋ることもまず無かった。
 黒沢なんか、授業で何か納得が行かないことがあれば、相手がどんな怖い先生だろうがすかさず手を上げて、「そこ、違うと思いますけど?」とガンガン言っちゃってさ。
 ほら、何しろ黒沢の中では“正しい”ってことが最優先だから。逆らったと思われて、先生にニラまれたら損だ」とか、「偉ぶってると、クラスの皆に思われるかも」とか、そんな“些細な事”は気にもしないんだよね。

 だから黒沢は(主に悪い意味で)目立つ存在で、「小憎らしいけど、頭と知識はスゴい」と思われてて。そしてマツオは逆に、その知識量と頭の良さに殆ど気付かれて無かったよ。
 実はマツオの知識はヤバげな雑学だけじゃなく、学校のテストでの順位も「上の下~中の上」といったレベルだったんだ。けど志望校については「地元の工業高校(偏差値は中の下くらい)にしようかな」とずっと言ってて、周りの皆も「マツオには合ってるんじゃね?」とごく自然に思ってたくらいで。
 ただ志望校を最終的に決める間際になって、何と黒沢と同じS高に上げてきやがったよ。

 結局さ、マツオは黒沢のことをずっと「ガキっぽい、バカな奴」と思い続けてたんだと思う。
 けど実際には、周りの皆には「頭も知識も黒沢の方が上」と当然のように思われていて。
 しかもタチの悪いことに、黒沢自身も何の疑問も持たずに「オレの方が格上」みたいに思い込んでいて、マツオのことはやや軽く見ていた。と言うか、ライバルとも思って無かったよ。

 この黒沢とマツオの関係とは、中身はちょっと違うけど。黒沢は自分の姉に対して、恨みつらみに近い複雑な思いをずっと抱き続けていたよ。
 以前にも度々触れたけど、「頭でも決して負けてないし、知識では間違いなく勝ってるオレの方が、何でバカ扱いされなきゃなんないの?」って。
 マツオもそれと同じような感情を、黒沢にずっと抱き続けてたのかも知れない。で、「俺の方が上なんだって、いつかイヤと言うほど思い知らせてやる」と。

 黒沢は悪い意味でも真っ直ぐだったから、姉とは始終ケンカしてきたよ。
 けどマツオは、人前で感情を乱すことなど一度もないようなヤツだったから。ホントに小学校の低学年の頃から、マツオが怒ったり泣いたりした姿は全く見たことが無かったよ。
 だから「コイツ、気に食わねぇ」と思いつつ、その気持ちはニヤニヤ笑いの下に押し隠して、黒沢の足元をすくう機会をじっと待ってたのではないかな。
 ちょうど蛇が藪の中から、間抜けな鼠を丸呑みにする隙を狙うようにね。
 何度も言うように、これは確かな証拠など何一つ無い、ただの黒沢の仮説でしかないけれど。

 男の自信を打ち砕いてプライドを傷つけるには、どの方面を攻めるのが一番あると思う?
 まあね、男には守りたい大切なモノはいろいろあるけれど、この時の黒沢とマツオはまだ中坊だから、地位や財産みたいな話は、とりあえず脇に置いておくとして。
 強豪運動部の有名選手とかでもない限り、失って困るような名誉も無いだろうし。
 ごくフツーの思春期の男子にとって一番キツいのは、やはり「男として負ける」ってコトじゃないかな。

 想像してみてほしい。「テストの順位で抜かれる」のと「失恋して彼女を取られる」のと、キミならどっちが痛いよ? 黒沢なら、較べるまでもないと思うがね。
 で、黒沢はアズサにただフられただけでなく、マツオに取られちまってさ。
 理由は他にもあったけれど、黒沢が志望校をE高からS高に落としたきっかけの一つには、やはりアズサのことで「もう、どーでもいーや」みたいな気分になってたこともあると思う。

 さらに黒沢が投げやりな日々を過ごしている間に、マツオはテストの点数を着実に上げて、志望校も決める間際に黒沢と同じS高に上げてきて。
「どうだ、思い知ったか!」
 例によって表情にはまるで出さなかったけれど、マツオはそう言いたくてたまらなかっただろうね。

 だからこそマツオは、黒沢の目の前でアズサをわざと邪険に扱ったのではないかな。
 黒沢をあれほど翻弄したアズサが、マツオの前では腹を出す犬ころのように何をされても従順でいる姿を目の前で見せつけられる痛みは、未だに心の中に残ってるよ。
 けどそのマツオの腹の内に気付いたのは、リホさんとの仲まで裂かれた後でさ。
 ……黒沢って、ホントどうしようもない間抜けな大バカ野郎だよ。

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空。

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 これもまた、FUJIのコンデジで撮りました。
 専門誌ではFUJIのデジカメの評価はイマイチだけど、黒沢はけっこう気に入ってマス。
 ファインピックス4500に始まり、ファインピックスA310、そしてファインピックスF300EXRと使い続けています。

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大失恋(45)・好きな相手が友達とカブった時には

 いや、「あれ?、おかしいな」と思う事は、それ以前にも幾度もあったんだ。
「オレがアズサと仲良くし始めたら、何でオマエもアズサにちょっかい出して来るの?」とか。
「何でアズサとうまく行ってない時期に、あえてリホさんと逢わせる機会を作ってきたんだろ?」とか。
「オレと別れた後のアズサと付き合い始めるの、何か早過ぎね?」とか。
「元彼(黒沢)の前で、飽きたらアズサをマワすとか何で平気で言えるの?」とか。
 さらに男三人に女二人の、どう考えても黒沢があぶれるような組み合わせでの飲み会をセッティングしたりとか。

 なのに黒沢は、マツオのことを只の一度も本気で疑おうととしなかった。
 と言うより、「幼友達が悪意をもって自分を陥れようとしている」という事実を受け入れることを、頭が拒んでしまっていたんだよね。
 肌で感じていたいろんな不信感を、黒沢はアスペらしい現実無視のリクツであえて無視していたよ。

 まず黒沢がアズサと仲良くし始めると、マツオもアズサにちょっかい出して来た件について。
「でもその時はまだ告る前でアズサは黒沢の彼女じゃなかったんだから、誰がアプローチをかけようが自由だろ」
 恋愛マンガやギャルゲーなどでよくあるよね、「親友が好きな相手に恋してしまい、その恋と友情の狭間で葛藤する主人公」みたいな話。
 あの夏目漱石の『こころ』みたいな文学作品だって、平たく言えば「親友が恋してる相手を好きになってしまい、親友を出し抜いてその娘さんを奪ってしまった主人公の心の葛藤と罪悪感」がテーマだしね。

こころ (新潮文庫)こころ (新潮文庫)
(2004/03)
夏目 漱石

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 でさ、少年少女向けの恋愛マンガなどでは、そうした恋と友情の板挟みの三角関係にならない為の解決方法として、あるルールみたいなものがよく推奨されてるみたいだよね。
 誰かを好きになったらナカマにちゃんと話して、他のナカマは(たとえ同じ相手を好きでも諦めて)皆でその恋を応援する……っての。

 バカじゃね?
 トモダチに恋を譲ってそれを「ナカマ思いで友情に厚い俺カッケー」みたいな美談にしたがる空気に、黒沢はズバリそう思うよ。
 だってさ、友達同士のAくんとBくんが同じ女の子(Cさん)を好きになってしまった場合、どちらを選ぶか決めるのはあくまでも相手のCさんでしょ?
 なのにAくんとBくんだけで勝手に「どちらに優先権がある」だの、「オマエは諦めて我慢してくれ」だのって、肝心のCさんの意志も気持ちもまるで無視してるじゃん。こんなの、マジあり得ないって。

 もう一度繰り返すけど、誰と付き合うかは告られた女の子が決めることで、男同士で勝手に話をつけるべき事じゃない。それはナカマ思いwwwなんかじゃなくて、ただ惚れた相手の子に失礼なだけだって。
 だから黒沢とマツオは古い友達だったけれど、「アズサを好きになったのはオレが先だから、悪いけどオマエは遠慮してくれや」なんて、言おうと思いもしなかったよ。

 恋愛ってのは、友達に先に好きと宣言した方に優先権があるみたいな、仲間内の早い者勝ちの競争じゃないから。
 たとえ好きな子が親友とカブろうが、本当に好きなら実力勝負の自由競争で意中の子に頑張ってアピって、そして相手の子に惚れてもらった方が勝ちなんだよ。
 友達もその子を好きだから告れないとか、「その程度の想いだったら、そんな恋などとっとと諦めちゃえば?」って黒沢は思う

 って言うか、黒沢にとって恋と友情はまるで別の次元の話なんだ。だからアズサを巡ってマツオとはいろいろあったけど、前と変わらず友達のままのつもりでいたんだよね。
 恋愛では遠慮ナシに実力で勝負、でも友達は友達……って感じで。
 だからアズサが黒沢と別れて間もなくマツオと付き合い始めても、マツオとは友達のままでいたんだ。

 もちろん黒沢としては、死ぬほど苦しい思いを味わったさ。けれどアズサが自分の意志で黒沢よりマツオを選んだのだから、「仕方のないこと」って思って受け入れていたんだ。
 恋の勝負でまず先手を取ったのは黒沢で、けど結局マツオに男として負けたんだ。ただそれだけの事だよ。

 そりゃあね、アズサがまだ黒沢の彼女でいるうちに手を出されて横取りされたとしたら、もちろん頭に来るし許せないよ?
 けどマツオがアズサと付き合い始めたのは、あくまでも黒沢と別れた後だったからね。
 黒沢と別れてマツオと付き合い始めるまでの間の短さとか、釈然としない点も無いではなかったんだ。でもアズサに浮気されたとか、マツオに横取りされたとか、考えもしなかったんだよ。ただ「黒沢が不甲斐ないから、愛想を尽かされた」と思うだけでね。
「マツオは意図して黒沢とリホさん達を近づけておいて、その隙にアズサに接近してたんじゃないか?」とか疑うようになったのは、迂闊にも例のオオタケくんとの一件で、リホさんとの間に大きな亀裂が出来てしまってからの事でさ。

 黒沢としては、「アズサを巡るマツオと黒沢の恋の鞘当ては、実力勝負の自由競争の挙げ句にただ黒沢が負けただけの話」と思ってたんだ。
 けと疑ってかかれば、怪しい部分は幾らでもあったんだよね。
 例の修学旅行の後、マツオも負けずにアズサにちょっかいを出してくるようになって。それで焦った揚げ句に、黒沢はとうとう告白したのだけれど。
 で、アズサから「ボクもキミのことが好き」って返事が来ると、マツオはピタリとアズサに手を出すのを止めたよ。
 そのことについて、黒沢は「そっか、マツオは空気を読んで諦めたんだ」と安心してたんだ。

 でも実はそうではなく、諦めたフリをして陰でアズサと接触してたとしたら。
 そして黒沢とリホさんを近づける機会を作る一方で、アズサには「クロサワの奴、リホとデートしてたぞ」みたいに話してたとしたら。
 そう考えるとアズサが黒沢をフってマツオに乗り換える期間の短さについても、ストンと腑に落ちて納得できちゃうんだよ。

 ……恋愛ではよくあるよね、「理解ある優しい相談相手のことを、いつの間にか好きになっていた」みたいなパターン。
「いや、いくらヒネたマセガキだとしてもさ、たかが中坊の小僧っ子にそんな策士はいねぇダロ」
 うん、黒沢も当時はそう思ってた。
 けどその後の黒沢とリホさんを仲違いさせるまでの手口を見てしまうと、「ヤツなら十分やりかねない」って思えて来てしまうんだ。

 マツオの悪意なら、フミヤの家での飲み会で十分感じてなければおかしかったと思う。だって黒沢の目の前で黒沢の元カノとイチャつこうとか、「何のイヤがらせだよ?」って感じだものね。
 けどその時は、ミクが居てくれたから。
 ミクとイチャつきながら「もしアズサとの仲を見せつけるつもりだったなら、残念デシタ」みたいな感じで、むしろマツオにギャフンと言わせたつもりでいたんだよ。
 って言うか、その時点でもまだ「友達が背中から人を刺すような真似をする筈がない」と信じ込んでいたんだよね。
 疑うことを、頭が拒否していた……って感じだと思う、きっと。

 何しろ小学校に入った直後からの、本当に古い友達だったから。
 同じクラスで通学路も一緒で家も近くで、文字通り「気が付いたら友達で、ずっとそのまま」って感じでさ。そのせいか「マツオ=友達」という刷り込みと言うか固定観念が頭に出来ていて、そのマツオを疑うという発想自体が無かったんだ。

 けどね。
「ならオマエは、マツオのこと好きか?」と聞かれたとすると、本当に「わからない」としか答えようが無いんだ。
 科学好きで頭でっかちのマセガキだったとか、共通するところは確かに幾つもあったさ。
 でも「優しくて良いヤツだ」とか、人柄や性格に魅力は別に感じて無かったと思う。
 その自覚があるから、黒沢はマツオを「古馴染みの腐れ縁の悪友」とは思っても、親友のカテゴリーには入れてなかったんだ。
 それはマツオも同じと言うか、むしろヤツは「俺、クロサワみたいな奴、本当はキライなんだよな」と途中から気付いたんじゃないかな。
 そう考えれば、中三の一年間にマツオが黒沢に向けた数々の悪意が理解できるような気がする。

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大失恋(44)・カイの仮面を被ったシャア

 前にも触れたように、当時の黒沢たちの仲間はみなミリオタ気味でさ。そして「どの戦車が好きか?」みたいな話になると、黒沢も含めて殆ど皆が「ケーニヒスティーガー」って言ってたな。
 ドイツ軍のティーガー(虎)戦車は、「連合軍のいかなる戦車の装甲もブチ抜き、敵の砲弾は殆ど跳ね返す」というバケモノみたいな戦車で、ケーニヒスティーガー(皇帝虎もしくはティーガーⅡ)はその大砲の威力と装甲を更に強化した、文字通り世界最強の戦車だったんだ。

1/35 ガールズ&パンツァーシリーズ ティーガーII 黒森峰女学園ver.1/35 ガールズ&パンツァーシリーズ ティーガーII 黒森峰女学園ver.
(2013/12/21)
プラッツ

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 けどマツオだけは、「俺はパンター(豹)だな」って言うワケ。
 うん、パンターはコレはコレで確かに良い戦車だけれど、最強というワケでは無くてさ。そもそもティーゲルは重戦車なのにパンターは中戦車で、比べるも何も戦車の格から違ってたんだよね。
 このティーゲルがどれだけ規格外な戦車かと言うと、装甲をひたすら厚くしたせいで車体がメチャ重くて、「道路を走ると舗装が剥がれる」とか「橋を渡ると、橋が崩れて戦車もろとも川に落ちる」とか、もはや笑っちゃうしかないようなエピソード満載の“超絶無敵戦車”なのだ。
 さらにその重過ぎる車体をまともに動かせるだけのエンジンその他が作れなくて、ただ単に遅いだけでなく、フルパワーで走るとすぐオーバーヒートしてエンジンが燃え出すし(←マジです)、ゆっくり丁寧に曲がらないと走行装置が壊れるし。
 で、戦場近くまで列車に載せて移動させようとすると、今度は「車体がデカ過ぎて貨車に載せられない」し。で、列車に乗せる度に車輪を一列外して細いキャタピラに付け替えて、戦場に着いたらまた元の車輪と太いキャタピラに戻さなきゃならない有り様で。

 いくらこましゃくれたマセガキでも、黒沢たちは所詮コドモだったからさ。ただデカい肉食恐竜に憧れるような気分で、その数々あるアホなエピソードも含めてティーゲルの無敵っぷりを愛してたんだけど。
 でもマツオだけは極めて冷静に、「ティーゲルは強いけれど機動力に欠けるし故障も多い、だから総合性能ならパンターの方が上だね」って。

1/35 ミリタリーミニチュアシリーズ No.174 ドイツ戦車 パンサーG スチールホイール仕様 351741/35 ミリタリーミニチュアシリーズ No.174 ドイツ戦車 パンサーG スチールホイール仕様 35174
(1994/04/19)
タミヤ

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 おそらく知っている人は少ないと思うけれど、『セーラー服と重戦車』ってマンガがあってね。
 タイトルには“戦車”とあっても、決してシリアスな戦争モノなどではなくて。それどころか“セーラー服”の方により重きを置いた、「JCが世界の有名戦車に乗ってバトルする」という、これがまあ何ともトンデモなお話なのだ。
 掲載誌も初めは『チャンピオンRED』で、後に『いちご』に移った……というだけで、どんな種類のマンガか、わかる人には容易に想像がつくのではないかな。
 ハイ、ハッキリ言って萌え漫画デス。
 
セーラー服と重戦車 1 (チャンピオンREDコミックス)セーラー服と重戦車 1 (チャンピオンREDコミックス)
(2007/12/20)
野上 武志

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 女の子が戦車に乗って戦う話と言えば、今は『ガールズ&パンツァー』がブームだから、コッチの『セーラー服と重戦車』の方は余計その陰に隠れるカタチで知られて無いかも。
 けど作者の野上武志氏はかなりのミリオ……いや、軍事関係にかなり造詣の深い方で、この『セーラー服と重戦車』を読むだけで、パンターとティーゲルの違いだけでなく、世界の名戦車について楽しみながら自然に理解できるようになると思うよ。
 で、ヒロイン島田かのんの乗る戦車こそ、マツオお勧めのパンターなのだ。そしてライバル“パイパーちゃん”の乗るティーガーと対戦して、見事勝利しちゃったりもするんだよね。
 作品をざっと読むだけでも、作者の野上氏がいかにパンターを愛してるか伝わって来るよ。実際、ライバルのティーガーは、ケーニヒスティーガーも含めて撃破されてるけど、ヒロインのパンターは(行動不能に陥ったことはあっても)最後まで撃破されずに勝ち抜いちゃうし。
 ……結局マツオは「ただ強けりゃいーじゃん」みたいな黒沢たちと違って、大人のミリオタに負けないくらい深い知識と、「実際に戦争に勝つには、どちらの戦車を揃えた方が有利か」で考える醒めた頭の両方を持ち合わせていたんだよね。

ガールズ&パンツァー 300ピース PANZER VOR! 300-769ガールズ&パンツァー 300ピース PANZER VOR! 300-769
(2013/08/21)
エンスカイ

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 改めて考えてみると、マツオってホントに得体の知れないヤツだったよ。
 黒沢とその仲間は皆こましゃくれて可愛げのカケラも無いマセガキばかりだったけど、中でも一番ヤバい知識を持ってたのは間違いなくマツオだったし。
 けど周りからは、黒沢の方がずっとヤバい人のように見られててさ。
 だってマツオは、人前ではいつもニヤニヤ、ヘラヘラしてるだけだったから。

 相手が教師だろうがDQNグループだろうが、黒沢は思った事は何でも言ってしまってた。何しろムスカ大佐だし、「バカにバカと言って何が悪いんだよ?」みたいなアスペ的な空気の読めなさが、当時の黒沢にはすごくあったんだよね。
 けれどマツオは、心の中の毒は殆ど誰にも漏らさなかったから。もう黒沢たち一握りの古い仲間にだけ、さり気ない風にポソリと漏らす程度でね。
 そしてまた“マッド・サイエンティスト”のくせに妙に人当たりが良くて、生徒会グループからDQNグループまで、文字通りどんな相手とも調子を合わせて上手くやってたよ。

 考えてみれば、マツオの本音って、黒沢は一度も聞いたことが無いような気がする。
 いや、マツオは決して無口ではないんだ。
 いつも笑顔でいてよく喋るのだけれど、黒沢も含めて誰に対してもただ上手く調子を合わせていた……って感じで。
 そうだなあ、リホさんがセイラさんでミカちゃんはミライさん、そしてミクをミハルに例えた流れで言うと、マツオは「シャアの頭脳を持ったカイ・シデン」って感じかな。
 頭の切れはシャア並みだけど、皮肉屋でいつも斜めに構えて、ヘラヘラしてばかりでやる気を見せないあたりはカイそのものなんだよね。

 こう考えてみると、マツオって顔や雰囲気も何だかカイに似ていたような気がしてきたよ。
 で、その「無駄に有能なカイ」に、黒沢は見事に騙されてしまったワケで。友と信じ切っていたシャアに裏切られて、死地に追いやられたあのガルマ大佐みたいにね。

 まず黒沢がアズサに夢中になると、何故かマツオもアズサにちょっかいを出してくるようになって。
 それで焦った黒沢がアズサに告ってOKの返事を貰うと、今度はリホさんを含めたグループデートやら勉強会やらをセッティングしてきて。
 そして間もなく黒沢はアズサにフられ、さらに一月も経たないうちにアズサはマツオと付き合うようになって。
 二人はまるで見せつけるようにベタベタしていたけれど、やがてマツオはイソベさんと公然とフタマタをかけたり、黒沢も聞いている前で「アズサは飽きたらマワす」と言ってみたり。そしてさらに、フミヤの家での例の一件もあって。
 まあその件についてだけは、ミクのおかげで泣きを見たのは結局フミヤになってしまったのだけれど。
 ところが程なく黒沢がオオタケくんとトラブってしまうと、すかさず「リホが、お前の悪口言いまくってたぞ」の一言だよ。

 マツオが黒沢を陥れようと暗躍していた……って、確かな証拠も第三者の証言もまるでないよ。けど状況としては真っ黒だと思うし、マツオが黒幕で陰で糸を引いていたと考えると、何があったのかすべてクリアにわかる気がするんだ。まるでジグソーパズルの完成を見るように、ね。
「黒沢からまずアズサを奪い、返す刀でリホさんとも切り離して大ダメージを与える」
 そのミッションを、マツオは本当に見事にやってのけたよ。
 普段から頭イイつもりで自信満々だったくせに、何とも迂闊で間抜けな話だけれど、黒沢はその時点で初めてマツオの悪意を自覚したんだよね。

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