ペンシルバニア大学の教授のポール・ファッセル氏が書いた『
階級』という本があるのだが、これがまたメチャ面白いのだ。
アメリカは平等な社会だなどと言うのはまるで勘違いで、実際には幾つもの階層と言うか階級があり、そしてそれは服装や喋り方や住む家や乗る車や好むスポーツや飲食物などからすぐにわかるのだと、実に事細かく書いてある。
だからライフスタイルwwwとかいうやつにこだわり、上流階級の人間のように振る舞いたい方は、ぜひご一読されると良いと思う。
黒沢などは、この本を少し読んだだけで「ああ、自分は中流かそれ以下の階層の人間なのだなあ」と、痛いほど思い知らされてしまったよ。
例えば十九世紀のイギリス国王ジョージ四世は、当時の首相のロバート・ピールがモーニング・コートの裾に折り目がつかないようにして椅子に座ったのを見て、「彼は紳士ではないな」と言ったそうである。
本当に育ちの良い人間は、良い物を無造作に擦り切れるまで着るもので、座る時などに「折り目がついてしまう」とか「膝が出てしまう」とか気にしているようでは駄目なのである。
これも『階級』という本に載っていた事だが、上流階級の人の屋敷に招かれた時、そこの調度品や出された飲食物を褒めるのは失礼なのだそうだ。
何故なら、上流階級では「家具は立派で、飲食物は美味しくて当たり前」だからである。
そういう意味で、黒沢は全く駄目である。
ちょっと良い服を着れば「変な折り目をつけてしまわないか、シミなどつけてしまわないか」と気になってしまうし、良い物を惜しげもなく使えるような心境にはとてもなれない。
要するに、根っからの貧乏性なのだ。
こんな黒沢は、どこからどう見ても「中流か、それ以下」の人間に違いあるまい。
で、このブログで時々エラソーにウイスキーなどの批評をしている黒沢ではあるが。
これでも一応は、それなりの酒を飲んできたつもりだ。長期熟成したブレンデッドやシングルモルトもいろいろ飲んで来たし、焼酎はいろいろな島の本格焼酎を、日本酒は純米吟醸や純米大吟醸を好んで飲んでいる。ついでに言えば、麦芽とホップ以外の副原料を入れた物はビールと認めていない。
そう書くと、実にイヤミな気取った酒飲みのように聞こえるだろう。だが黒沢が普段飲んでいる酒と言えば、大体は千円から千五百円くらいまでのスタンダード・スコッチやそれに類するものなのだ。
正直なところ、長期熟成のブレンデッドやシングルモルトなどの良い酒は、どうも緊張してしまって気軽に飲めないのだ。
姿勢を正し、鼻と舌先に全神経を集中して味わい切って飲まなければその酒に申し訳ないような、そんな気がしてしまうのだ。
……本当に、根っからの貧乏性だよね。スコッチなら“ラガブーリン16年”とか“アードベッグ10年”とか“ラフロイグ10年”とか“タリスカー10年”とか、日本酒なら“大中屋”や“梵”や“正雪”の純米大吟醸とかのお気に入りの良い酒を、テレビを見たり本を読んだり談笑したりしながらくつろいで気軽に飲む気には、どうしてもなれないのだ。
だからそうした良い酒は休日にちょっとだけ味わうことにして、普段は手頃な値段のスタンダード・スコッチばかり飲んでいるのでアリマス。
でも、いろいろ飲んでみると本当に面白いんだ、千円から千五百円くらいまでの価格帯の、スタンダード・スコッチを中心とするウイスキーって。
同じウイスキーでも、
長期熟成したブレンデッドやシングルモルトに、「個人的に好みに合わない物」はあっても、「客観的に不味いもの」はまず無いと言っても良い。
特にブレンデッドで長期熟成したものは、スコッチであろうと国産品であろうと、味の当たり外れは本当に少ないと思う。
シングルモルトは個性の違いが大きいから、「これは自分の好みとは違うな」という場合もあるだろうが、それでも「不味い」というのとは違う筈だ。
だがスタンダード・スコッチは違う。同じ価格帯で、同じスコットランド産で三年以上樽貯蔵したものでありながら、本当にあるんだよね、「何コレ、味も香りも薄い上にアルコールの刺激だけ強くて、色付きの甲種焼酎とどう違うの?」というモノが。
そしてそれと反対に、豊かな味と香りを堪能させてくれる、まさに「お値段以上」のものもある。
長期熟成した高いものと違って、スタンダード・スコッチやその価格帯のウイスキーって、味と香りの差と言うか、出来不出来の差が本当に大きいよ。
長期熟成したブレンデッドやシングルモルトでは、「これは自分の好みとは違うな」というものもあっても、その封を切った一瓶を最後まで飲み切るのに苦労した事は無かった。
だが千円から千五百円くらいのウイスキーは、不味いものは本当に不味いから。飲み切るのに我慢と辛抱が必要だったモノも複数あったし、ちゃんとしたスコッチなのにどうしても飲む気になれず、さりとてせっかく船で遙々海を渡って来たのに下水に流してしまう気になれなくて、梅酒を作るのに使ってしまったものもあった。
だがそれだけ味と香りに差があるだけに、スタンダード・スコッチは「より面白い」と言える。
はっきり不味いものがあるだけに、初めての銘柄を飲む時のドキドキ感はたまらないし、お値段以上に出来の良い物に出逢えた時の嬉しさは格段だ。
千円ちょっとで手に入る、出来の良いウイスキーは本当に良いよ。まず値段がお財布に優しいから、テレビを見たりお喋りしたり本を読んだりしてくつろぎながら、気軽に飲める。そしてそれでいて、じっくり味わう気になれば複雑な味と香りも楽しめるしね。
黒沢の経験で言えば、ホワイト&マッカイ、ベル、ティーチャーズ、ジョン・バー、インバー・ハウス、グランツ・ファミリー・リザーブ、フェイマス・グラウス、ブラックニッカSPあたりが、そうした「気軽に飲める、良いウイスキー」だな。
ああそうだ、定番のジョニ赤とホワイトホースも、その間違いなく安心して飲める良いウイスキーの中に入れ忘れてはいけないよね。
バーボンについては……実はスコッチほど好みではないもので、詳しい事は言えないのだけれど。味や香りにそれぞれ差はあるものの、千円くらいで買えるものも、どれもまろやかで飲みやすかったよ。
飲みやすさ、って事で言えば、バーボンはウイスキーの中で一番だと思う。
飲みやすいと言えば、カナディアンも安いものでも飲みやすいと思う。ただライトなタイプが好みな人には良いけれど、味と香りに自己主張のあるものを求める人には向かないかな。
で、アイリッシュなら個人的に“ブッシュミルズ”がイチ推しデス。
長期熟成したブレンデッドやシングルモルトもいろいろ種類はあるけれど、千円ちょっとの輸入ウイスキーとなると、本当にいろいろあるからね。大きな酒の量販店などに行くと、名も殆ど知られていない安い輸入ウイスキーが幾つも並んでいたりする。
そしてまだ味見していない千円台のウイスキーを見つけると、つい手を伸ばしてしまう黒沢なのだ。
もちろん、高くて良いウイスキーの良さはよくわかっている。10年以上樽貯蔵したシングルモルトだけでも三十種類以上飲んできた黒沢だが、長期熟成したブレンデッドやシングルモルトの味と香りは本当にウットリするほど素敵だよ。
それでも根っからの中流以下の育ちで貧乏性の黒沢の興味が一番向いてしまうのは、衝動買いしてもお財布に優しい千円台のウイスキーなのだ。
で、気取らず気軽に飲め、それでいてちゃんと堪能できる味と香りもある安いウイスキーを探して、今ではシングルモルトより千円ちょっとのスタンダード品の探求に熱中している黒沢なのデス。