空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

新海誠監督の若き日の隠れた名作を、格安で手に入れてみよう!

 新海誠監督の『君の名は。』と言えば、今は日本で知らぬ人は殆どいないであろう。
 8月26日に公開されてから大ヒットを続け、邦画の興行ランキングで『ハウルの動く城』を抜き、とうとう国内第二位に躍り出たという。

 観客は、初めは十代や二十代の若い層が中心だった。
 しかし次第に観客層が広がり、今では中年世代のみならず、六十代以上の人まで映画館に足を運んでいるそうだ。
 で、新海監督は時の人となり絶賛されているが、ずっと以前からの監督のファンであった筆者は、「何を今さら」と複雑な気持ちでいる。

『君の名は。』の大ヒットについては、先日NHKクローズアップ現代プラスでも取り上げられ、「今まで無名に近かった監督の作品が、何故突然の大ヒット?」というような切り口で語られていた。

 そのクローズアップ現代プラスで分析されていた「新海監督の『君の名は。』がブレイクした理由」について、要旨をまとめて書いてみよう。

 REDWIMPSによる、主題歌の力。

 音楽と映像のコンビネーション。

 映像の圧倒的なリアルさ。

 今までのアニメでも実写でもない、アニメに新時代を切り開いた現実よりカッコ良い美しく精緻な映像。

 一つのシーンが平均3.9秒というカット数の多さが、スピード感を生んだ。

 ジブリの宮崎駿監督に育てられた安藤雅司作画監督によるキャラクターのコミカルな動きが親しみやすかった。

 男女の入れ替わりという、『とりかえばや物語』以来の日本伝統のモチーフを取り上げたこと。

 作中で取り上げられている組み紐が、過去の出逢いや別れを思い出させる運命の象徴となっている。


 筆者はその放送を見ながら、大きく溜息をついた。
 ……つまらぬ事を言う、NHKともあろうものが。本当に何もわかってない。

 新海誠監督はかつて、minoriというゲーム会社に属し、そこでゲームのオープニングなどのムービーを制作していた。
 実は筆者は、そのゲームのムービーで新海誠監督の名を知った。

 筆者はゲームは、家でプレステ2などの据え置き型のゲーム機でプレイしている。
 筆者はゲームはやり込みたいので、携帯型のゲーム機やスマホで外でやったりしない。
 また、パソコンで家族に隠れてやるような18禁のエッチなゲームもしたいとは思わない。
 いや、別に真面目ぶっているわけではない。筆者はプレステ2では、プリンセスソフトやキッドなどのギャルゲーもそれなりにプレイしている。
 ただ実際に恋愛もしてきた非童貞の男としては、18禁のエロゲにありがちな、男にのみ都合の良いエッチな展開が馬鹿馬鹿しく見えて全く楽しめないだけの話だ。

 で、かなり以前にプレイしたプレステ2のゲームに、『Wind -a breath of heart-』という作品があった。
 ……これがまた、プレイし続けるのが途中で嫌になってしまうような、いわゆるクソゲーだった。
 とにかくストーリーが冗長で、意味も伏線も殆ど無いような主人公のつまらない学園生活を延々と見せられ続ける。
 途中で、何度プレイするのを止めてしまおうと思ったかわからないほどだ。
 だが「せっかくお金を出して買ったのだから」と、耐えて我慢してプレイし続けたのだが、その前半が終わると同時に始まったムービーの美しさに、筆者は息を呑んだ。
 だらけた姿勢で欠伸をかみ殺しながら見ていたのだが、電気に打たれたような衝撃を受け、姿勢を正して食い入るように画面を見つめた。
 そのムービーは、そのくらい素晴らしかった。
 そしてそのムービーの監督が、新海誠だった。

 まず暗い夜空に、麦わら帽子が風に舞う。
 そしてそれは夕暮れ時から夜に変わる頃の、町の夜景に変わる。
 ブランコに公園、そして手前から一つずつ点いてゆく街灯。
 踏切に下りる遮断機に、通る電車。
 その走る電車の中に差し込む落ちかける夕日と、車内に一人座る少女……。
 短いカットで繋がれるその映像は、それまでに見たどのアニメ映画よりも美しかった。

 プレステ2の『Wind』のムービーは全部で4本あるが、新海誠監督が手がけたものは、そのうちの2本だ。
 そしてどちらも、甲乙つけがたいほど素晴らしかった。

 その『Wind』をプレイした後、筆者は『はるのあしおと -Step of Spring-』というゲームもプレイした。
 これも元の製作会社はminoriで、アルケミストという会社がプレステ2用に手直ししたものだ。
 そしてこの『はるのあしおと』のオープニング・ムービーも、新海誠監督が作ったものだった。

 田舎の小さな学校の木造の校舎に、昇る朝日が次第に当たって行く。
 次に画面は二分割され、片側に東京から失意を抱えて田舎に帰ろうとする主人公が、そしてもう片側にその田舎で登校する、いずれ知り合うのだが、今はまだ出逢っていないヒロインの姿が映る。
 そして帰る途中の主人公や、高校生活を送るヒロインの姿が、交互に、あるいは二分割された画面で映し出される。
 教室で授業中のヒロインがホッと息を吐くと、その手の指から赤い糸が吐息に乗って主人公の方に流れて行く。
 さらに故郷に帰り着いた主人公とヒロインは、その運命の糸に結びつけられているとも気付かずに、言葉も交わさず目も合わさずにすれ違って行く……。

 映像の美しさは今の新海監督の作品と殆ど変わらず、そして短いカットで繋がれた台詞の無い3分程度の動画の中に凝縮されたドラマ性に、本当に感動させられた。

 だから筆者は、あの大NHKがクローズアップ現代プラスで『君の名は。』の大ヒットの理由を分析して、あれこれ理屈付けしていたのがチャンチャラおかしかった。
 音楽と映像のコンビネーションも。
 映像の圧倒的なリアルさも。
 今までのアニメでも実写でもない、現実よりカッコ良い美しく精緻な映像も。
 短いカットで繋いで行く手法も。
 それらはすべて、新海監督は十数年以上前からずっと変わらずにやってきていた事で、『君の名は。』で作風等が新しく変わったわけではないのだ。

 画面を二分割して、まだ出逢っていない二人の様子を同時に映すのも、新海監督がまだゲーム会社に勤めていた頃に、『はるのあしおと』のオープニング・ムービーで既にやっていた。
 そしてクローズアップ現代プラスが、作中で取り上げた組み紐を「過去の出逢いや別れを思い出させる運命の象徴となっている」と取り上げたが、『はるのあしおと』でヒロインが吐息で流した赤い糸が主人公に向かって行くのと似ているように思えてならない。

 また、クローズアップ現代プラスでは、『君の名は。』で取り上げた男女の入れ替わりが、日本伝統のモチーフであることもヒットの理由に数えていた。
 しかし男女の入れ替わりは、テーマとしてはむしろ今や「ありきたりで古くさい」のではないか。
 ウケたのは入れ替わりの面白さより、むしろ「逢えない、逢いたい」という二人の想いの方ではないだろうか。

 クローズアップ現代では、「ジブリの安藤雅司作画監督によるキャラクターのコミカルな動きが親しみやすかった」とも言っていたが、筆者はむしろそのキャラクターの動きや表情や所作に「親しめなかった」。
 映画の公開以前に『君の名は。』の映像の断片を宣伝等で見る度に、筆者は実は「これまでの新海監督の作品とキャラの動きや表情が違うな、悪い意味でアニメっぽいな」と感じていた。
 で、クローズアップ現代プラスで「作画監督がジブリの安藤雅司氏」と聞いて、「なるほどな」と納得した。
 実は筆者はジブリのアニメは嫌いという訳ではないが、キャラクターの動きが時々気になるのだ。どこか大袈裟でわざとらしく、昔のディズニーのアニメを思わせる部分を感じてしまう。
 だから筆者は、『君の名は。』の風景や背景は大好きだが、キャラの動きや表情や所作は今ひとつ好きになれずにいる。

 日本のアニメは世界に進出しているが、世間ではアニメに対する偏見はいまだに強い。
 中高年のみならず、若い世代でさえ「アニメ? そんなの好きで観てるのオタクだろwww」という空気がある。
 だから親世代では、「アニメが好き=オタク=性犯罪者になりかねない」という偏見を持つ者がいる。
 しかし子供の教育に厳しい、アニメに偏見を持つ親たちでさえ、子供に安心して見せているのがジブリのアニメだ。
「アニメは駄目だが、ジブリのならいい」
 そう言う親が、現実に存在するのだ。
「アニメは(オタクのだから)見ないが、ジブリのは観る」
 そう言う若い層もまた、確かに存在するのだ。

 だからキャラクターをジブリっぽくしたのは、結果的に大成功だったかも知れない。
 主人公たちのどこかジブリのアニメを思わせるキャラが、アニメに偏見のある人達にも安心感を持たせ、そして背景や風景が圧倒的に綺麗なのだから、それでヒットしない筈がない。

 改めて『Wind』や『はるのあしおと』の短いムービーを見直してみると、新海監督はゲーム会社でゲーム用のムービーを作っていた十数年前と殆ど変わっていないように思える。
 空や風景や列車や光の美しさや、短く印象的なカットを繋いで行く手法は今も昔も変わらない。
 予算や時間の限られたゲーム用のムービーとして、新海監督は本当に精一杯素晴らしい動画を作っていた。
 だからクローズアップ現代プラスのインタビューで、『君の名は。』の大ヒットの理由を聞かれた新海監督自身が「わからない」と答えた気持ちが、筆者にもとてもよくわかる。
 新海監督は何も変わっておらず、変わったのは世間の方なのだ。
 世間がようやく新海監督を認知して、その映像の素晴らしさに気付いたのだろう。

 この大ヒットの理由を筆者なりにあえて言えば、ズバリ「宣伝の力」であろう。
 新海監督の作品は、これまでは一部の人には「素晴らしい!」と絶賛されながら、事前に世間に広く知らされる事はなかった。
 しかし今回は安藤雅司氏を作画監督に迎えキャラにジブリっぽい味付けをし、主題歌にREDWIMPSを起用して、「これでヒット間違いなし」と踏んだ上で事前の宣伝も積極的にして、それがヒットに繋がったのだろうと筆者は思う。

 新海監督の名とその映像の素晴らしさが世間に認知された事は、昔からのファンとしてとても嬉しく思う。
 ただ新海監督の才能は『君の名は。』で開花したのではなく、まだゲーム会社に勤めていた十数年も前から今と変わらず素晴らしい映像を作っていたことを知ってほしいと思う。

 試しにパソコンの動画サイトで、『Wind』と『はるのあしおと』を検索してみてほしい。低予算やゲーム用のムービーという制約の中でも輝く、その才能が見て取れる筈だから。
 そしてもし気に入ったなら、中古のゲームを扱う店に行くかネット通販で、プレステ2の『Wind』と『はるのあしおと』を買えば、若き日の新海監督の隠れた名作を貴方のものに出来マス。
 値段も数百円、おそらく五百円以下で手に入れられると思う。

 その『Wind』と『はるのあしおと』は、パソコン用の18禁ゲームでもありマスけれど。と言うか、むしろこちらの方がminori社の作った本家だ。
 ただ18禁ゲームだけに、男にのみ都合の良い胸クソ悪いシーンもあったりするので、同じ買うならアルケミスト社がエロ要素を省いて作り直したプレステ2用の方を手に入れた方が、純粋に恋愛ゲームとしても楽しめると筆者は思う。
 え、「プレステ2みたいな古いゲーム機なんて、もう処分してしまった」って?
 その時は、パソコンにエミュ何ちゃらを……と言ってしまうのは、もしかしたら違法なのだろうか。

 それにしても。
 二十年近く前から、ずっと同じ良いものを作り続けてきて。
 別に質や中身が良くなったわけでもなく、ただ少し一般ウケするようにして宣伝もしただけで大ブレイクするのだから、「世の中とは、わからないものだなあ」とつくづく思った。

 今、大ヒット中で、おそらく日本のアニメ史にその名が残るだろう『君の名は。』と。
 殆ど知る人もない、新海監督が二十年近く前に作ったゲーム用の短いムービーと。
 本質的には同じで殆ど変わっていない
事を、できればその目で確かめてみてほしい。

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