新旧両方のティーチャーズの飲み比べ

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 近年、筆者のお気に入りのスタンダード・スコッチが二種、リニューアルされた。
 ホワイトホースと、ティーチャーズである。
 リニューアルした後、どちらも店頭での小売り価格が安くなったのは結構なことだが、同時にどちらも味が落ちたような気がしてならず、とても残念に思っていた。

 そんな時、オゴ-ログogotchさんから、新旧両方のティーチャーズを頂いてしまった。
 で、早速比べて飲んでみることにした。
 以前は、かつて飲んだ旧いタイプのティーチャーズの味と香りの記憶をもとに、リニューアルされたティーチャーズの記事を書いた。
 しかし今回はogotchさんのご厚意により、同時に飲み比べてみることが出来たので、より正確な比較ができる。
 ちなみに、写真の右の方が以前のティーチャーズで、左が現在売られているリニューアル後のティーチャーズである。

ティーチャーズ新旧P1120543

 リニューアル前のティーチャーズには、裏のラベルに小さな文字で「高いパーセントでハイランドのピーテッド・モルトを使用している」という趣旨のことを書いてあった。
 しかしリニューアルされたものは、表のラベルに比較的大きな字で“HIGH IN PEATED MALT”と明記してある。
 その通り、キャップを開けると確かなスモーキー・フレーバーが漂う。
 スタンダード・スコッチでこれほどスモーキーさを前面に出したのは、ジョニ赤くらいではないだろうか。
 そしてただスモーキーなだけでなく、甘い香りも感じる。
 しかし同時に、若い熟成の足りないアルコールの刺激的な匂いも強く感じる。

 飲んでみると味も甘いが、同時に若いアルコールの刺激を舌にツンツン感じる。
 これは原酒がとても若い。
 曲がりなりにもスコッチだから、国産の安いウイスキーのように、若すぎるベビーモルトや殆ど樽熟成していないグレーンを使ったりはしていないだろうが。
 スコットランド産のスコッチだから、現地の法に従って、最低三年は樽貯蔵しているのは確かだ。
 しかしその三年ギリギリしか樽貯蔵していないのではないかと疑わせる、原酒の若さを感じる。

 ただ近所の酒屋で本体価格898円という安さを考えれば、決して悪いウイスキーではない。
 余韻にもちゃんとピート香が残る。
 とは言うものの、ストレートで飲むとやはり若いアルコールの刺激がキツい。
 胃に食べ物が残っていない状態でうかつに飲むと、胃がカーッと熱くなるのがわかるし、喉も焼けやすい。
 このウイスキーの正式な名前は“ティーチャーズ・ハイランドクリーム”だが、リニューアル後のティーチャーズは若いアルコールの刺激がキツ過ぎて、ハイランドのモルトによるクリーミーさを全く感じられない。
 なめらかさやクリーミーさの点では、ジョニ赤はもちろん、少し前に飲んだカティーサークとも比較にならない。

 このリニューアル後のティーチャーズ、ストレートでも飲もうと思えば飲める。
 しかし味の面でも香りの面でも若いアルコールの刺激がツンツンし過ぎていて、ストレートで飲むより割ってハイボールにでもした方が美味しく飲めるのではないか。
 少なくとも本体で1238円はするサントリーの角瓶でハイボールを飲むよりは、898円で伝統ある本物のスコッチのティーチャーズのハイボールを飲んだ方がマシだし、お代も安く済む。

 さて、以前のティーチャーズだが、リニューアル後の現行タイプのものと比べて飲んでみると、なめらかさが明らかに違う!
 以前のティーチャーズはただスモーキーフレーバーがあるだけでなく、若いアルコールのツンツンした嫌な感じが殆ど無く、“ハイランドクリーム”と名乗る資格が充分にある。
 そして飲み比べてみると、今の新しいティーチャーズは味に深みがなく、ピート香ははっきり感じるものの味が単調な印象を受けた。
 価格で言えば、以前のティーチャーズの方が少し高かった。
 しかし以前のティーチャーズはストレートでも充分に美味しく飲める、お値段以上のスコッチだった。
 それに比べて今のティーチャーズは、安いが割ってハイボールにするしか飲みようが無い、どうと言うことの無い安物スコッチという感じだ。

 ちなみにかつてのティーチャーズは、いろんな輸入会社が取り扱っていた。
 しかしリニューアル後のティーチャーズは、ほぼサントリーが一手に取り扱っている。
 これは筆者の邪推だが、サントリーはティーチャーズを傘下におさめ、日本のハイボール・ブームに合うよう、割って飲むのを前提にした新しいティーチャーズを、WM.TEACHER & SONS社に作らせたのではないだろうか。
 より若い原酒を使わせ、より低価格のものを。
 安くなったのは消費者にとっては結構なことだが、その分だけ原酒も若いものを使い、アルコール臭くて刺激も強く少しもクリーミーでない駄作にしてしまったのでは、まるで意味がないではないか。

 筆者がティーチャーズを知ったのは、良酒しか置かないこだわりの強いリバティという酒店で、「良心的なスタンダード・スコッチ三種のうちの一つ」として紹介されていたからだ。
 ちなみに、その店が勧める良心的なスタンダード・スコッチ三種は、かつてのティーチャーズ、それにホワイト&マッカイベルだ。
 その頃のティーチャーズは裏のラベルの説明文がもっと長く、「通常のブレンデッド・スコッチはモルトを30%くらいしか使わないが、このティーチャーズは45%使用している」とも書いてあった。
 その頃の、リニューアル以前のティーチャーズは、本当に美味しかった。
 そのティーチャーズをリニューアルの名のもとに台無しにしてしまったサントリーが、筆者はとても憎い。

 サントリーはおそらく、「ウイスキーをストレートで飲むなら山崎を、それ以下のものはハイボールにして割って飲め」と言いたいのだろう。
 そしてストレートでも美味しく飲めた伝統ある銘酒ティーチャーズを、より若い原酒を使わせ価格を下げさせ、割らねば飲みにくいハイボール用の安酒にしてしまった。

 ティーチャーズ本来の味を知りたい方は、是非リニューアルされる前のものを探してみて頂きたい。
 筆者の住む家の近くのドラッグストアのお酒コーナーに、これもリニューアルされ安くなったが不味くなってしまったホワイトホースの、以前のものが薄く埃をかぶってまだ何本も残っている。
 だから旧いティーチャーズも、地方の酒屋やドラッグストア等のお酒コーナーの片隅に、まだ残っているかも知れない。

 新旧のティーチャーズを見分けるポイントだが、旧いものはラベルの中央にWM.TEACHER & SONS社のTとWの文字を組み合わせたマークがあり、瓶にもそれが大きく刻印されている。
 そして新しい方は瓶がスリムになり、刻印されているのも社名から麦(?)の絵柄に変えられている。
 このスリムな瓶で麦の絵柄が刻印されているティーチャーズは、「より安いスコッチをハイボールで飲みたい」という人以外は、買っては駄目だ。

ティーチャーズ旧ボトルP1120551

ティーチャーズ新ボトルP1120552

 それにしても、良質で知られた伝統あるスタンダード・スコッチの味と香りまで悪い方に変えて、ハイボールにして割って飲む用の安酒にしてしまうとは。
「良い酒を造っていたメーカーも、サントリーに買収されるとこうなる」という見本を、ティーチャーズが実にわかりやすく教えてくれた。

 だからこそ、ogotchさんから頂いたリニューアル以前のティーチャーズは、「心して大切に飲まねば」と強く思った。

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