空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

大失恋(53)・黒沢は鶏頭かも

 ……実はアズサとは、その後もラウンド2と言うかセカンド・コンタクトがあってさ。
 言葉一つ交わさぬまま中学を卒業して、もちろん音沙汰などある筈もなく一年半が過ぎたある晩のコト。家にかかってきた電話を何気なく取ると、受話器の向こうから忘れようにも忘れられない声が流れてきて。
「あの……ヨシダですけど」

 雷にでも打たれたように頭から足の先まで痺れて、黒沢は咄嗟に声も出せなかった。
 その沈黙をどうとらえたのか、受話器の向こうの人は少しおずおずと声をひそめて。
「えっと、アズサだけど、わかるかな?」
「あー、うんうん、わかるわかる!」
 慌てて答えた黒沢の声は、間違いなく一オクターブは跳ね上がってたと思う。

 ……ホントに怖いものだよねえ、惚れた弱み、ってやつは。
 あの失恋の痛みとか、そこから学んだ教訓とか、アズサの声を聞いた瞬間に全部頭から吹っ飛んじまってた。ハッキリ言うと同じ高校のマイコさんどころか、リホさんのことすら心から無くなってしまってたよ。
 自分でも呆れてる、黒沢ってホント鶏頭だねぇwww。

 ほら、鳥類にはインプリンティングってあるじゃん? 卵から孵って初めて見た動くモノを親と思って、ずっとついて回って……っての。
 もしかしたら初恋にもソレに近い効果があって、初めて好きになった相手には、どうしても逆らえない引力のようなものを感じてしまうのかも。
「で、どうしたの、何かあったの?」
 何気ない様子を装ってそう尋ねながらも、心が浮き立ってくるのを抑えられなかったよ。
「えー、別に用とかじゃないんだけど、ただどうしてるのかなぁ……って思って」
 電話の向こうのアズサは、微かにクスクス笑っているような感じだった。
 今考えてみればね、「チョロい! チョロ過ぎだよバーカ」って嗤ってたんだろうさ。

 けど当時の黒沢は、その含み笑いも「うわあ相変わらず可愛いらしいなあ」とニヤケてたんだよ。そして「まだオレのことを忘れずに電話してくれて嬉しい」なんて本気で思っててね。
 で、その後はフられてから二年近くの空白の時を一気に飛び越えて、同じ教室で机を並べていたあの時のように仲良く喋ったよ。
 会話はやはりまず互いの近況報告から始まって、と言っても黒沢の方は「S高に通ってるけど、大して面白くもないや」くらいしか喋ることも無くて。実際、いろいろ波瀾万丈だった大学時代と違って、高校生の頃はホントに田舎で何事もなく暮らしてたからね。
 でも同じ町に居ながらアズサの方は、どうやらそうでは無かったようで。

 中三の夏が終わりを告げるのと同時に別れた後は、目も合わさない仲になっていたけれど。それでもアズサが准看護師になる学校に進んだことだけは、ちゃんと知ってた。それも幼なじみのマキちゃんが行ったような高校の衛生看護科ではなく、二年制の専門学校の方ね。
 電話をくれた時、アズサは既にその専門学校を辞めていてさ。
「じゃ、今は……?」と尋ねると、アズサは笑いながら事も無げに「家にいるの」って。
 その時点で「ヤバいな」って気付くべきだった。
 けどどうしようもなく甘ちゃんだった黒沢は、後は何も聞かなかったよ。黒沢の周囲では退学とかまず考えられなかったし、それだけに「大変な思いをしたんだろうな、なのにいろいろ詮索しちゃ悪いな」みたいな感じでね。

 マツオとの仲はどうなってるのかも、あえて尋ねなかった。ヤツの名を口に出すだけで胸クソ悪いし、それにまだ続いてるなら、こうして電話などして来ないだろうし……みたいな感じで。
 って言うか、アズサが学校を辞めた事情もマツオとどうなったのかも、本当にどうでも良かったんだ。
 アズサがまだ黒沢のことを覚えていて連絡をくれて、昔と同じように仲良く出来ている。それだけでもう胸がいっぱいで、黒沢は充分に幸せだったんだ。
 もう何て言うかね、「恋をするのは正気を失うのとたいして変わらんよ」って、ホントにロバート・ゴダードが作品の中で書いた通りだと思うよ。

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 ただゴダードは続けて「まあ、それよりちょっと楽しいだけだ」とも言ったけれど、黒沢はそちらには同意しかねるな。
 だってそのアズサとのセカンド・コンタクトの結末は、マジで悪夢でしかなかったから。
 その後もちょくちょく連絡を取り合って、昔通りに仲良くなって「今度こそ!」と思った頃、コワいお兄さんから呼び出されましてね。
 ……ハイ、本職のその筋のお兄さん。
 大好きで新刊が出る毎に買って読んでいる『弁護士のくず』の井浦秀夫さんの表現を借りれば、アバレル産業の方ってやつデスね。

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 そんなワケでいろいろ支障がありまして、その後のコトは殆ど話すことが出来ないし、黒沢自身こうして語るのもイヤなのだけれど。
 掻い摘んで言えば、ウチの組の若い者も連れてどーのこーのという話を出されて、黒沢だけでなく家族までどうなるか知らねえぞみたいな脅し方をされたと思って下サイ。
 好きで好きでたまらなかった中学時代の初恋の相手が、その二年後には筋モンの情婦だよ。

 それだけにね、『_summer ##』や『つよきす!』のような「心から信じられる友や彼女に囲まれた、楽しい学生生活」を描いたゲームをプレイするとね、自分が失ったモノがいかに大きいか、痛いほど思い知らされてしまうよ。
 あの中三の頃に直面した数々の選択肢を選び間違えさえしなければ、黒沢もこんな高校生活を過ごせたのかも……ってね。
 だからその部分が無くてもストーリーの展開に何も支障が無いような「ダラダラな日常」を多く描いたゲームが、主に18禁の大人向けのギャルゲーに多い理由、黒沢にも何となくわかるような気がするんだ。
 ただその「ダラダラな日常」の部分が余りにも冗長で、友とのギャグ狙いの会話がスベり過ぎてると、いい加減ウンザリしちゃうんだけどね。

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