空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

あのマッサンが愛飲した“ハイニッカ”を飲んでみた

 それにしても、テレビの力とは凄いものである。
 去年の9月から今年の3月まで放送されたNHKの連続テレビ小説『マッサン』は、言うまでもなくニッカの創業者竹鶴政孝氏をモデルにしていたが。
 その『マッサン』の放送が始まってから、特に今年に入りドラマの中で主人公のマッサンが北海道でウイスキー造りを本格的に始めてから、筆者の住む市内の酒屋の洋酒コーナーに、ニッカのウイスキーが俄然増えたのには驚かされた。

 酒屋にしてもスーパーの酒類売場にしても、その面積は限られているから、店頭に置かれる酒の種類は当然限られる事になる。で、各メーカーは自社の商品を店頭に置いて貰う為に、熾烈な売り込み競争を繰り広げている。
 言うまでもなく、最も広告に資金を投入して消費者を情動し、また多くのバックマージンを出すなどして小売店に最も強力な営業攻勢をかけているのはサントリーだ。
 だからウイスキーでも、サントリーの製品で「近所の酒屋やスーパーを何軒も回っても見つからない」という商品は、まず無いのではないだろうか。
 実際、筆者の住む街でも、市内の酒屋を二軒か三軒回れば、サントリーレッドもトリスブラックもトリスエクストラもホワイトも角瓶もオールドもスペシャル・リザープもローヤルも、まず間違いなく全て買い揃えられる。あの角瓶に至っては、普通の角瓶だけでなく白角に黒43°の3種に加え、プレミアム角瓶まで全て並べている店さえ少なくない。
 響や山崎や白州も、どの年代も全てとは言わないまでも、それなりの種類は手に入るだろう。

 しかしサントリー以外のメーカーのウイスキーとなると、なかなかそうは行かないのが現状だ。
 例えばニッカで言えば、ブラックニッカ・クリアとブラックニッカ・リッチブレンドとブラックニッカ8年とスーパーニッカ、それにノンエイジのピュアモルト竹鶴とシングルモルト余市と宮城峡は比較的手に入りやすいが、ハイニッカとニッカG&Gが置いてある店などまず存在せず、ほぼ通販でしか手に入らないというのが現状だ。
 ウイスキー好きに定評あるブラックニッカ・スペシャルも、現物を店頭に置いてある店は実に稀で、手に入れるには通販を利用した方が確実である場合が多い。

 ところが、だ。『マッサン』が放送され、そしてドラマの中で間違いなくニッカがモデルの余市の蒸留所でウイスキー造りが始まった今年になって、近所の酒屋(比較的大規模なチェーン店)に突如並びだしたのだ、ブラックニッカ・スペシャルだけでなく、ハイニッカやニッカG&Gが。
 筆者は長いこと、安くて良いウイスキーを求めてあちこちの酒屋に足を運んで来たが。ハイニッカとニッカG&Gの現物を店頭で見たのは、生まれて初めての事だった。
 しかもその代わりにニッカの他の製品が店頭から消えるということはなく、そのチェーン店の国産ウイスキーコーナーでは、以前とは違いニッカがサントリーを圧倒する勢いになっていた。
 ……視聴率の高いテレビドラマの力って、本当に凄いなあと、改めて思わされた筆者であった。

 以前にも繰り返し書いてきたが、筆者はサントリーが嫌いである。「サントリーのウイスキーが」と言うより、「サントリーという会社の体質そのものが」嫌いなのである。
 しかし、だ。
 そのサントリー嫌いの筆者でも、国民の受信料で作られた『マッサン』でニッカが勢いを伸ばし、これまで店頭に並ばなかった商品まで売られるようになっているのを見ると、サントリーのウイスキーのファンが「公共放送なのにフェアではない!」と怒る気持ちも、わからなくもないような気がする。

 とは言うものの、『マッサン』が放送された為に、ニッカだけでなく国産ウイスキー全体に関心が高まった事も確かであろう。
『マッサン』の放送で最も得をしたのはニッカである事実は間違いないが、他のメーカーのウイスキーの売り上げが落ちたわけではあるまい。

 実際、ドラマ『マッサン』では、サントリーの創業者鳥井信治郎氏をモデルにした“鴨居の大将”は「主人公のマッサンより魅力的」との評もよく聞かれたし、ドラマの中の“太陽ワイン”のモデルである赤玉スイートワインを始めとする、サントリーの製品の売り上げも伸びたと聞く。
 静岡県御殿場市にあるキリンのウイスキー蒸留所にも、ウイスキーがブームという事でテレビ局の情報番組のレポーターが取材に行った。そして番組内で蒸留所の責任者がイチ押しの銘柄として富士山麓を勧め、試飲したレポーターが「美味しい!」と手放しで誉めているのを筆者は見た。
 さらに「マッサンのウイスキーの恩師が造った蒸留所」という事で、本坊酒造のマルス3&7マルス・ツインアルプスが、近所の酒屋やスーパーの洋酒コーナーに並ぶようになった。
 同様に江井ヶ嶋酒造のホワイトオークが普通に店頭に並ぶようになったのも、少なくとも筆者の周辺では『マッサン』の放送開始以後だ。
 だから『マッサン』はニッカにとても有利に働いたのは事実だが、他のメーカーも含め日本のウイスキー全体に関心を集めた事も否定出来ないだろう。

 しかしその『マッサン』も、スピンオフ編は作られているものの、本編の方は3月の末に放送が終了してしまった。
 筆者としては個人的に「筋書きもパターンで演出もわざとらしく、我慢できないほどつまらない」と感じて見ていないのだが、連続テレビ小説も今ではすっかり『まれ』が定着し、視聴率も20%を越えている。
 で、『マッサン』効果によるウイスキーへの興味も一段落し、店頭に並べられる商品も「近いうちに元のようにサントリー中心の品揃えに戻るのではないか」と危惧して、筆者はニッカG&Gハイニッカ、それにブラックニッカ・スペシャルを、「まだ店頭にあるうちに」と軽い財布をはたいてまとめ買いしている最中だ。

ハイニッカLUMIX FX9 393

 その『マッサン』効果のおかげで手に入れることの出来た、普段は滅多に店頭に並ぶ事のないニッカのウイスキーのうち、今回はハイニッカの印象についてご報告したい。
 ハイニッカはかつての二級酒で、ブラックニッカ・クリアブレンドが発売されるまでは、ニッカで最も安いウイスキーだった。
 が、それでも当時の酒税法の級別による規定いっぱいまでモルト原酒を使って良心的に造られたことと、マッサンこと竹鶴政孝氏が日々愛飲したことでも知られている。
 それだけに、筆者もかなりわくわくしながらハイニッカを飲んでみた。

 ズバリ言って、税込みで千円ちょっとという値段から見れば、ハイニッカはかなり良いウイスキーと言えると思う。
 まず封を切った瞬間からウイスキーらしい良い香りが立ち上るし、そのままストレートで口に含んでみてもアルコールのきつい刺激を感じることも無く、抵抗無く飲める。
 そしてトワイスアップにすれば、ウイスキーらしい味わいはそのままに、もっと飲みやすくなる。
 ストレートやトワイスアップでもアルコールの刺々しさを感じないのだから、もっと薄く水やソーダで割る人達にとっては、かなり飲みやすいウイスキーだろう。

 思うに、このハイニッカはモルト原酒だけでなく、グレーンウイスキーの方もしっかり樽熟成したものを使っているのだろう。千円程度で買えるウイスキーであるにもかかわらず、かなり滑らかで口当たり良くスッと飲める。
 味わいの印象としては、ブラックニッカ・スペシャルの弟分と言うか、ブラックニッカ・スペシャルの個性を抑えてマイルドにした感じだ。
 ラベルにも“MILD BLENDED WHISKY”と書かれているが、確かに滑らかで穏やかな酒質のウイスキーという印象を受ける。

 と言ってもブラックニッカ・クリアやモルトクラブのような、麦焼酎に近いあっさりした味と香りのウイスキーとは違う。心地良い自然な甘い香りの中に、控えめながらスモーキーフレーバーも確かにあり、ウイスキーらしい味わいもしっかりとある。
 ウイスキーらしい味わいの点で言えば、華やかな香りがウリのブラックニッカ・リッチブレンドより奥行きと力強さを感じるくらいだ。
 但しブラックニッカ・スペシャルのように個性が強いウイスキーと比べてしまうと、やや物足りなさを感じてしまう事もまた事実だ。

 筆者は酒は食事の後に、その味と香りをゆっくり味わって飲む事が多い。
 しかし世の中には、食事をしながら酒を飲む人も少なからずいる。そしてそうした人達にとっては、日本酒の吟醸香も、ウイスキーの強い香りも逆に食事の邪魔になるのだ。
 日本酒の吟醸香でさえ、料理によっては食事の邪魔になるのだから、強い味と香りのウイスキーが食事と、特に和食と合わない事は容易に想像できる。
 中でもスモーキーフレーバーが強く、アフターノートもかなり残るタイプのウイスキーを濃いめで飲みながら寿司などの和食を食べる事など、ピート香の強いアイラ島のウイスキーが大好きな筆者ですら、想像しただけでもゾッとする。

 だからサントリーが「日本人の味覚に合うウイスキー」とやらにこだわり、さらに“二本箸作戦”といって、ウイスキーを薄く水で割り本来の味と香りを弱めることで、食中酒として飲むよう日本人たちに宣伝してきたのだが。
 同じくサントリーが仕掛けた今のハイボールのブームも、おそらくウイスキーをビールのように食中酒としてゴクゴク飲ませようと考えたものだろう。

 それはともかくとして、個性の強いウイスキーは食中酒に向かないのは事実だ。だから日本人の中には、本格麦焼酎に近いようなライトな、食事の邪魔にならないように味と香りを抑えたウイスキーを好む人達が確かに存在する。
 そういう意味で、ハイニッカはとてもバランスの良いウイスキーだと言える。
 ウイスキーらしい良い香りは確かにあるが、ブラックニッカ・リッチブレンドのような派手さや、ブラックニッカ・スペシャルのような強さはない。あくまでも穏やかで自然な香りで、食事の邪魔になるような種類のものではない。
 ウイスキーらしい味わいもちゃんとあるが、これも穏やかで何か突出した部分は無く、水やソーダで割って薄めにすれば、決して食事の邪魔にはならない。
 さらに食事とは別に、ストレートやロックや濃いめの水割りにすれば、ウイスキーらしさもちゃんと楽しむ事ができる。

 どう飲んでも楽しめるのだ、このハイニッカというウイスキーは
 水やソーダで割って、食事をしながら飲んでも良し。
 そして食後に、ストレートやロックやトワイスアップでじっくり味わっても良しなのだ。
 そういう意味で、ハイニッカは気楽かつ自由に飲める、実に良く出来た“晩酌ウイスキー”と言える。

 ただこのどう飲んでも良い“万能ウイスキー”にも、弱点が一つある。
 味も香りもあるが程々で、濃いめでじっくり味わっても、薄く割って食中酒にしても良いというバランスの取れたタイプであるだけに、個性とインパクトがやや弱いように思えるのだ。
 ウイスキーに強い味と香りを求める方には穏やか過ぎて物足りなく、逆に食中酒として気軽に飲めるものを求めている方には、穏やかでも確かに感じられるウイスキーらしい味と香りがまだ気になるということになりかねない。

 実際、力強くスモーキーなウイスキーが好きな方にとっては、ハイニッカの穏やかさがやや物足りなく感じられ、「ブラックニッカ・スペシャルの方が良い」という感想を持つだろう。
 同じように甘く華やかな香りの立つウイスキーを好む方は、ブラックニッカ・リッチブレンドの方を好むだろうし。
 そして食中酒として飲む為のライトなタイプを求めている方は、ブラックニッカ・クリアやモルトクラブの方をより好ましく思うのではないだろうか。
 要するにそのバランスの良さが自己主張の弱さにつながり、「俺はハイニッカが一番だと思う!」という熱心な固定ファンを掴みにくい結果になっているのではないかと思う。

 しかしそれでも、ハイニッカは間違いなく良いウイスキーだと思う。
「最高のウイスキーだ!」とは言わないが、気のおけない旧い友のような感じで肩肘を張らずに楽しんで飲める為、つい杯を重ねて飲み過ぎてしまう事が少なくない。
 酒屋やスーパーのウイスキー売場に置かれる手頃な価格のニッカの商品と言えば、まずブラックニッカ・クリアかブラックニッカ・リッチブレンドばかりで、ハイニッカのような良質なウイスキーが何故めったにしか店頭に置かれないのか、筆者は不思議でならない。

 まあ、その最大の原因は酒屋やスーパーの売場が限られていて、ハイニッカまで置くスペースが無いというところだろうが。
 しかしネット上の何の根拠もない不確かな情報ではあるが、「ハイニッカはコストがかかり過ぎるから、ニッカとしてもあまり売りたくないのだ」という説もあちこちで聞いた。
 事実ハイニッカはブラックニッカ・クリアやブラックニッカ・リッチブレンドよりウイスキーらしい味わいがあり、飲む度に「丁寧に造っているな」と感じさせられる。

ハイニッカLUMIX FX9 022

 中身のウイスキーそのものの味や品質とはまるで関係ないが、ただ瓶のキャップを見ただけでも、ハイニッカが丁寧に造られている事がわかる。
 ウイスキーの瓶のキャップと言えば、高いシングルモルトなどはコルクの栓だが、手頃な価格のものは金属製のスクリューキャップが一般的だ。そしてそのスクリューキャップ上の文字も、プリントであるのが普通だ。
 実際、ブラックニッカ・クリアやブラックニッカ・リッチブレンドの文字は普通のプリントだ。
 しかしハイニッカのキャップの文字は、何と浮き彫りになっているのだ。ちなみに同じように店頭に並ぶことの少ないブラックニッカ・スペシャルのキャップもまた、文字が浮き彫りになっている。

 ただ品質が良い上だけでなく、こうした部分にも手をかけて造られているだけに、ハイニッカについて「コストがかかり過ぎるから、ニッカとしてもあまり売りたくないのだ」というネット上の流説も、あながち否定できないような気がしてくる。
 この際立った特徴こそ無いが実にバランス良く造られた、マッサンこと竹鶴政孝氏も愛飲したというハイニッカ、もし貴方のお宅の近くの酒屋の店頭にあったなら、ぜひ一度味見をしてみていただきたい。
 千円程度で買えるウイスキーの中で「最高だ!」とは言わないが、それでも竹鶴政孝氏のウイスキー造りに対する精神とニッカの良心を感じさせる逸品だと、筆者は確信している。
 ブラックニッカ・クリアなどではなく、このハイニッカこそニッカの中核商品として全国の酒屋やスーパーのウイスキー売場に並べるべきだと、筆者は強く思っている。

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