空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

やはり納得できないニッカの値上げ

 危惧していた事がついに現実になった。
 今年4月のサントリーの値上げに続き、ニッカの親会社で販売会社であるアサヒビールもまた、国産ウイスキーやブランデーや輸入ワインやテキーラやウオッカなど計201品目を、この9月出荷分から値上げすると発表した

 筆者はサントリーがウイスキーの値上げを発表した時、その値上げがいかに理に合わず不当であるかを、このブログで散々書いた。
 そしてその駄文の締めくくりに、「サントリーに追随して、ブラックニッカ・クリアの価格を据え置いたまま竹鶴や余市や宮城峡を値上げするようであれば、今度はニッカも軽蔑しなければならなくなる」と書いたのだが、悲しいかな、その時の不安がほぼ現実になろうとしている。

 何しろ“竹鶴21年ピュアモルト”が44%の値上げで、10410円が15000円になるんだよ?
 同じく“竹鶴17年ピュアモルト”が、5170円から7000円に。
 ノンエイジの“竹鶴ピュアモルト”も、2290円から3000円になるのだと言う。
 またブレンデッドの高級品“ザ・ニッカ”も、5000円から6000円になるのだそうだ。

 値上げの理由として、ニッカは原料の輸入価格の高騰などを挙げていた。
 ニッカ(アサヒビール)はその具体的な数値は挙げなかったが、サントリーは昨年の末に値上げを発表した際に、「トウモロコシや麦芽の輸入価格は2009年比で60~70%上昇した」と説明した。

 原料の輸入価格の高騰は、確かに真実であろう。現在、ウイスキーの消費は世界的に伸びていて、特にインドなどでウイスキーの輸入や生産が盛んに行われている。
 だからサントリーが値上げの理由の一つに挙げていた、樽の価格の上昇というのも本当の事なのだろう。
 そしてまた、例のアベノミクスによる円安誘導によって、原料の輸入価格の上昇に拍車がかかっているであろう事も理解できる。

 では何が理解できず納得が行かないかと言うと、「原料の輸入価格が高騰する以前に造られている筈の、長期熟成のウイスキーの価格がなぜ上がるのか?」という事である。
 それも既に仕込まれて樽の中で眠っていた酒が、千円単位で大幅に値上げされているのだ。
「トウモロコシや麦芽の輸入価格は2009年比で60~70%上昇した」と言うが、その2009年以降に製造された、若い原酒とグレーンを使った比較的安価なウイスキーの値を上げるなら理解もできる。
 しかしサントリーに加えてニッカも、主力商品であり、そして原材料価格の高騰の影響を大いに受けているであろう角瓶やトリス、それにブラックニッカなどの価格は据え置いて、竹鶴その他の定評ある製品ばかり値上げしようというのだ。
 そして原料の輸入価格にも円安にも全く関係のない筈の、「長期熟成された良いウイスキーの値段を、大幅に上げてやれ!」と言うのである。
 商売のやり方としては“正しい”のかも知れないが、公平公正という面ではどうにも納得が行かないのは筆者だけであろうか。

 ウイスキー業界の事情に詳しい方は、10年くらい前に原料となるスコットランド産の大麦が不作で価格も高騰し、さらにその頃にはハイボールのブームと『マッサン』の効果でこれほどウイスキーの需要が伸びるとは予想もしておらず、日本で原酒の生産量がかなり少なかった事などを挙げ、古い原酒は今の需要より少なく、長期熟成のウイスキーの値が上がるのも仕方がないのだと説明していた。
 しかし10年や12年もののウイスキーならともかく、17年とか21年とかいうウイスキーは、生産量がとても少なかったという日本の業界の事情にも、スコットランドの大麦の不作にも全く関係ない筈だ。

 にもかかわらずニッカ(アサヒビール)は、その竹鶴ピュアモルトの17年や21年を、千円単位で大幅に値上げしようという。
 これはどう考えても「値上げの先取り」または「ボッタクリ」と言うべきで、到底納得の行くものではない。
 これはサントリーのウイスキーの値上げが発表された時にも言ったことだが。
 もしも値上げをするならば、17年モノのウイスキーなら17年後、21年モノなら21年後でなければおかしい
 現在の高騰した原材料費で新たなウイスキーを造る為に、過去の安い原材料費で造られたウイスキーの値を上げよう(しかも大幅に)というのが、一消費者としてどうにも納得できないのだ。

 ただ幸いな事に、発表されたニッカの製品の値上げはこの9月出荷分からだ。
 それまで、あと三ヶ月ちょっとある。
 だから値上げが決まった製品のうちで欲しい物は、従来の値段の今のうちにまとめ買いをして、9月に値上げされた後は、この不当な値上げに対する怒りが収まるまでずっと買わずにいようと思っている。
 これが納得出来ない値上げに対する、一消費者の出来る唯一の、そしてささやかな抵抗だ。

 このサントリーとニッカの値上げは、中身や性質はほぼ同じだが、細部は微妙に違う。
 良い悪いは別にして、サントリーの値上げは、消費者にとっても実にわかりやすかった。響や山崎や白州や輸入物のシングルモルト・スコッチなどの、主にお金持ちかヘビーな愛好家が飲む高くて良いものだけを値上げして、トリスレッドからローヤルまでの庶民に馴染みのある製品の価格は据え置いた。
 だってあの“角瓶”も以前と同じ値段で、同じように大量に店頭に並び続けているのだもの。特にウイスキーにこだわりがあるわけではなく、「一番CMも流してる、一番有名な会社だから」と普通にサントリーのウイスキーを買って、普通にハイボールとかにして飲んでいる一般の人達は、ウイスキーが値上げされた事にすら気付かなかったのではないだろうか。

 だがニッカの値上げが発表された製品をよく見てみると、竹鶴ピュアモルトや“ザ・ニッカ”、それに輸入ブランデーの“カミュ”のような高価なものだけでなく、“スーパーニッカ”や“フロム・ザ・バレル”のようなお馴染みのものや、“ハイニッカ”のような普及品まで含まれていた。
 具体的にはスーパーニッカが2230円から2500円に。
 フロム・ザ・バレルが1900円から2400円に。
 そしてハイニッカも990円から1200円に上がるという。
 さらにどれだけ値上がりするかはまだ発表されていないが、“オールモルト”の価格も上げられるという。
 スーパーニッカとフロム・ザ・バレルの値上げだが、この影響はニッカにとっても少なくないと思われる。

 サントリーのウイスキーと違って、ニッカのウイスキーには店頭には殆ど置かれておらず、手に入れるにはネット通販を頼らねばならない製品が幾つもある。ニッカG&Gブラックニッカ・スペシャル、それにハイニッカがそれだ。
 しかしあのスイングボトルでお馴染みのスーパーニッカは、通常の酒屋さんでも比較的手に入りやすい。そしてフロム・ザ・バレルも複数軒回ればどこかの店には置いてあり、味の面でもウイスキー好きの間でかなり評価が高い。

 そのスーパーニッカとフロム・ザ・バレルの希望小売り価格が、2500円と2400円に上がってしまうのである。
 これは痛い。
 なぜならそうなれば、どちらも実売価格でもおそらく12年モノのスコッチ(ジョニ黒やシーバスリーガルやバランタイン・ブルーラベルなど)を上回ってしまうからである。
 味と香りの好みは人それぞれだ。
 しかしノンエイジのスーパーニッカとフロム・ザ・バレルが「12年モノの定番スコッチより間違いなく旨い!」と自信を持って言い切れる人が、どれだけいるだろうか。

 ライバルとなるのは、そうしたスコッチだけではない。
 例えば筆者の住む市内のある酒の量販店では、現在スーパーニッカを(税抜きで)1800円、フロム・ザ・バレルを1790円、そしてサントリーのスペシャルリザーブを1886円で売っている。
 つまりウイスキーの格としては、スーパーニッカは「スペシャルリザーブとほぼ同格で、12年モノのスコッチより少し下」という事になる。
 まあ、フロム・ザ・バレルは一瓶の容量が500mlで、アルコール度数は51.4度という少し変わった規格ゆえ、値段や格を簡単に比較するわけには行かないが。
 で、もしスーパーニッカとフロム・ザ・バレルがそれぞれ2500円と2400円に値上げされると、店頭での小売り価格はおそらく現在2200円程度で売られている、サントリーのローヤルスリムとほぼ同じかやや高いくらいになるのではないだろうか。

 スーパーニッカは、筆者もかなり好きである。初めて飲んだ瞬間から、「良いなあ、旨いなあ」と思った。
 しかしある時から、そのスーパーニッカを買うのをずっと止めてしまっている。
 何故かと言うと、ニッカから“竹鶴12年ピュアモルト”が出されたからだ。
 スーパーニッカが旨い事に変わりはない、しかしあと200~400円ほど出せば「とても旨い」竹鶴12年ピュアモルトが手に入れられるというのに、スーパーニッカをあえて選ぶ意味を感じられなくなってしまったからだ。
「スーパーニッカも2千円近くするのだから、どうせならあとちょっと足して竹鶴12年を買おう」というわけだ。

 竹鶴12年は、去年で終売になってしまったが。
 その竹鶴12年ピュアモルトは、小売店にもよるが税抜きで1980~2180円くらいで買えた。
 旨いとは言えノンエイジでブレンデッドのスーパーニッカやフロム・ザ・バレルの実売価格は、この9月の値上げ以降はおそらくかつての竹鶴12年を上回るものになるであろうと思われる。
「ニッカよ、この値上げでそれまでのファンが離れないとでも思っているのか?」と言いたい。

 まあ、ニッカは同時にノンエイジの竹鶴ピュアモルトも2290円から3000円に値上げすると言うから。スーパーニッカが2500円というのも、ニッカとしては妥当と考えているのだろう。
 しかしそれはあくまでもメーカー側の理屈であって、消費者の側の気持ちは違う。
 2千円前後のウイスキーというのは、決してスタンダードな“晩酌ウイスキー”ではないが、さりとて長期熟成のシングルモルトやピュアモルトなどのような高級品でもない。
 12年モノの定番スコッチや、サントリーのスペシャルリザーブやローヤルスリムなど、ライバルも少なくない価格帯での値上げは、「これはヤバいだろ」と言いたくなる。

 まあ、スーパーニッカの値上げはメーカー希望小売り価格で270円だから、固定ファンはそう迷わず今後も買い続けるかも知れない。
 しかしフロム・ザ・バレルの500円もの値上げはかなり大きいと思われる。
 小売り価格でなら2千円でお釣りが来たものが、税込みで多分2500円近いものになるのだろう。それでも12年モノのスコッチやワイルドターキー8年などでなく、あえて「フロム・ザ・バレルを買い続けるゾ!」というファンがどれだけ残るだろうか。

 もし自分の好きなモノに自由に使えるお金が沢山あるなら、値上げしようがどうしようが関係なく竹鶴や余市や宮城峡や響や山崎や白州の10年以上のもの、それに年代モノの高級スコッチを買いまくるさ。
 だが残念ながら筆者を含めてこの世の大多数の者は、自分の自由に使えるカネには限りがある。
 だからこそコストパフォーマンスを考えて、ウイスキーも「この値段にしては旨い」というものを必死に探して買っている。

 その点、ニッカは値段と味のバランスが実に良く取れていた。
 ブラックニッカ・スペシャルは筆者のお気に入りのお手頃価格のウイスキーだが、それにちょっと足せばブラックニッカ8年が買え、更にもう少し足せばスーパーニッカが買え、もう少し頑張れば竹鶴12年ピュアモルトが買えた。
 だから「百円玉をもうちょっと足せば、もう少し良い物が買えるのだが、どうしよう」と、店頭で何を買おうか財布の中身と相談しながら迷った事も度々あった。
 で、同じ竹鶴ピュアモルトでも12年と17年では格段に価格が違い、17年の方を買うには違う種類のお札が必要になるから、筆者自身は竹鶴12年より高いものは日々飲む普段用のウイスキーとは別枠として考えていた。
 そしてそのバランスの取れた価格設定の中で、筆者は「晩酌用にはブラックニッカ・スペシャル、味と香りをゆっくり楽しんでくつろぎたい時には竹鶴12年」と飲み分けていた。

 が、竹鶴12年が終売になった上にこの度の値上げで、そのブラックニッカ・スペシャルから竹鶴12年(またはノンエイジの竹鶴ピュアモルト)までの絶妙な味と価格のバランスが、間違いなく崩れる事になるだろう。
 ニッカによれば、ブラックニッカは値上げしないのだという。
 その“ブラックニッカ”とは、お馴染みのクリアだけでなく、リッチブレンドやスペシャルや8年まですべて含めての事かどうかは定かではないが。
 もし“ブラックニッカ”と名の付く製品すべてを値上げしないのだとすれば、ブラックニッカ8年とスーパーニッカの間にかなり価格の差が開くことになる。
 さらに筆者が愛飲してきた竹鶴12年ピュアモルトに代わるノンエイジの竹鶴ピュアモルトなど、2290円から一気に3000円にまで価格が引き上げられるのだ。
 これまでブラックニッカのスペシャルや8年からちょっと贅沢するつもりで買えたスーパーニッカや竹鶴ピュアモルトが、間違いなく遠いものになってしまうだろう。

竹鶴12年P1080151

 このレシートの写真を見ていただきたい。
 少なくとも去年の6月までは、竹鶴12年ピュアモルトが筆者の家の近くの酒屋で、税込みで2138円で買えたのだ。
 税抜きの本体価格では1980円と、何と2千円を切っていたのだぞ!
 それがこの9月からは、12年モノですらないノンエイジの製品でも、実売価格でおそらく税込みで3千円近くになってしまうだろう。
 これは筆者がビンボーだからそう思うのかも知れないが。
 今度の値上げで、「スーパーニッカとフロム・ザ・バレルと竹鶴ピュアモルトが、庶民からちょっと遠い酒になってしまった」と感じた。

 何しろサントリーのスペシャルリザーブは税抜きでは2千円しないし、ローヤルスリムも、そして12年モノのスコッチも2千円ちょっとで買える。
 その中であえて値上げすれば、スーパーニッカとフロム・ザ・バレルと竹鶴ピュアモルトの売り上げは間違いなく落ちる筈だ。
 その売り上げの落ち込みを、今回値上げした分で補えると思っているのだとしたら、ニッカ(アサヒビール)は甘いと筆者は思っている。

 筆者はこれまで、ニッカにはかなり好意的だった。
 しかし値上げしたスーパーニッカを買うくらいなら、筆者は間違いなくジョニ黒やシーバスリーガル12年の方を選ぶ
 同様に、3千円近くも出してノンエイジの竹鶴ピュアモルトを買うくらいなら、店を選べばそれに近い値段で買える“グレンリヴェット12年”や“グレンフィディック12年”などのシングルモルトのスコッチを選ぶ
 悪いが値上げしたスーパーニッカや竹鶴ピュアモルトは、筆者はまず買うことは無いだろうと今から確信している。

 この価格帯での値上げはヤバいと言えば、ハイニッカの値上げも筆者は気に入らない。
 1000円で買えるウイスキーとして、ハイニッカはとても良く出来た製品で、筆者も大好きだ。「お値段以上!」と、心から思っている。
 この希望小売り価格990円のハイニッカが、この9月から1200円になるという。
 ハイニッカは(その価格帯の製品にしては)かなり旨い。
 しかしだ、ハイニッカはそもそも旧二級酒の普及品でアルコール度も39%だ。
 そして筆者の家の近くの量販店では、明らかに格上のブラックニッカ・スペシャルが1250円で売っているんだよ。
 このブラックニッカ・スペシャルは、1965年に発売された元祖ブラックニッカの直系の旧一級品だ。容量もハイニッカと同じ720mlで、アルコール度は42度と、ハイニッカとは明らかに格が違う。

 だからこそハイニッカとブラックニッカ・スペシャルは、実売価格でも現在3百円程度の差がある。
 しかしこの9月に予定されているハイニッカの値上げで、値段の差が百円程度かそれ以下になってしまったら、あえてハイニッカを選ぶ意味など無くなってしまうではないか。
 断言するが、もしブラックニッカ・スペシャルの価格はそのままで、ハイニッカの値段だけ上がったとしたら、筆者は間違いなくブラックニッカ・スペシャルだけを買う

 1200円って、そうなればハイニッカは、ブラックニッカ・リッチブレンドの実売価格よりも間違いなく高くなるわけだよね。
 そしてブラックニッカ・クリアより、4百円くらい高くなる事になる。
 ニッカ(と言うかアサヒビール)は「ブラックニッカの価格は据え置く」と明言しているわけで。
 そしてブラックニッカ・クリアの実売価格から考えると、ハイニッカはブラックニッカ・リッチブレンドより高く、ブラックニッカ・スペシャルとほぼ同等で、ブラックニッカ・クリアの1.5倍の値段になるわけだ。

 凄いよね、ブラックニッカ・クリアの1.5倍の値段って。
 これまでは、「ブラックニッカ・クリアより2百円程度高いだけで、こけだれの味と香りのウイスキーを買える!」ってトコに、驚くほどのコストパフォーマンスの良さがあったのに。
 他社の製品と比べても、サントリーのあの“角瓶”やキリンの“富士山麓”より高くなるわけで。
 
「あの味と香りで、税抜きの希望小売り価格では千円を切っている」ってところに、ハイニッカの存在価値があったのに。
 ただでさえ店頭に置かれることの少ないハイニッカが、これで今以上に売れなくなるのはまず間違いない事と筆者は予想している。

 まあ「千円ちょっとのサントリー角瓶と1200円のハイニッカと、さあどちらを選ぶ?」と尋ねられたら、筆者なら迷わず「1200円のハイニッカを」と答えるけれどね。
 それでもこの値上げでますます売り上げが落ち、ついにはこの竹鶴政孝氏も愛飲した伝統ある晩酌ウイスキーのハイニッカが終売になってしまう事を、筆者は心から恐れる。
 原料費の高騰の中でブラックニッカ(特にクリア)の価格を抑える為に、ハイニッカやフロム・ザ・バレルやスーパーニッカのような良いウイスキーが犠牲になっているような気がしてならないのは、筆者だけだろうか。

 円安と原材料価格の高騰を理由に、ウイスキーだけでなく小麦製品や乳製品など、近年いろいろなものが値上げされている。
 しかし庶民がそれに大きな抗議をせずに耐えているのは、「現に出荷されている製品そのものの原材料費が上がっている」からだ。メーカーがその値上げで利益を貪っているのではない事は、消費者達もわかっている。
 だがウイスキーは違う。
 ウイスキーは樽の中で何年も貯蔵されてから出荷されるもので、高騰している今の原材料で造られたウイスキーが実際に店頭に並ぶのは、数年後か十数年後の筈なのだ。
 にもかかわらずサントリーに続いてニッカも、今の原料の高騰にまるで関係のない時期に造られた良い製品を中心に、大幅に値上げしようとしている。
 それがどうにも納得行かないし、「他の製品の値上げと違って、ウイスキーの偏った値上げは悪辣だ!」と声を大にして言いたい。

 結局、サントリーもニッカ(アサヒビール)も「良いものを買う為にはカネを惜しまない金持ちからボッタクって、原料の高騰分をカバーしよう」という方針のようだ。
 で、他の製品(とそれをこよなく愛する固定ファン)を犠牲にしてでも、角瓶やブラックニッカなどの主力商品の価格は据え置くつもりらしいが、そこにどうにも割り切れない「フェアではない感じ」を抱くのは筆者だけではあるまい。

 そのサントリーとニッカの方針で、この度の原料の高騰による値上げは、普段トリスや角瓶やブラックニッカなどを飲んでいる一般の人達には、殆ど影響しない事になったが。
 しかし響や山崎や白州や竹鶴のような本当に良いウイスキーが、一般の人間からより遠い存在になった事は確かだ。
 ウイスキーの味と香りに興味を持ち「ちょっと思い切って、良いウイスキーにも手を出してみようかな」と考えて、響や山崎や白州や竹鶴を買う気になりかけていた人達が、この度の値上げで今後は「うんと思い切って買う」か「自分には縁の無いものと思って諦める」しかなくなるだろう。

 この値上げで、サントリーとニッカのウイスキーが「一般の普及品」と「高くて良いもの」にハッキリ分かれてしまったのは事実だ。
 その間を繋ぐような製品が少なくなり、ウイスキーの味に目覚めた人がより良いものを求めて少しずつステップアップして行く道がひどく細くなってしまう事は、メーカーにとっても決して良い事ではないと思うのだが。
 本当に良いウイスキーが「ちょっと贅沢して買うもの」から「金持ちだけのもの」になってしまいかけている事を、筆者は業界全体の発展の為にも憂う。
 響や山崎や白州や竹鶴などの味と香りをまるで知らず、角瓶やブラックニッカしか飲んだ事の無い人が増えるのは、ウイスキーメーカーにとっても自らの首を絞めるのと同じ事と筆者は考える。

 それでも、サントリーやニッカは主力商品の価格をあえて据え置いて、現在の原料費の高騰分をお金持ち&熱心なファン用の高い製品に転嫁する事が出来るからまだ良いが。
 それ以外のカネに糸目をつけない消費者用の高級品をあまり造っていないメーカーは、サントリーやニッカの言う原料の高騰にさぞ苦慮しているだろう。
 例えばキリンなども高いものは“富士山麓シングルモルト18年”しか無いし、江井ヶ嶋酒造も3000円の“あかしシングルモルト”しか無く、それも限定生産品で現在は売り切れ中だ。本坊酒造も“シングルモルト駒ヶ岳”などは既に生産終了し、店頭に普通にあるものと言えば“マルス・ツインアルプス”と“マルス3&7”くらいで、どちらも値段は千円台だ。
 こうしたメーカーは、いずれ通常売っている主力商品を値上げせざるを得なくなるだろう。例えばキリンで言えば“富士山麓”のような。
 ニッカはたとえ値上げでハイニッカなどの売れ行きが落ちようが、どうと言う事もないだろうが。
 しかしキリンやその他のメーカーは、「原料費の高騰分を転嫁できる名の通った高級品も無く、さりとて主力商品を値上げすればサントリーやニッカにさらにシェアを奪われる」というジレンマで、この原料の高騰の中、さぞ困っているだろうと思う。
 これで日本のウイスキー業界はまずサントリー、そしてニッカだけになるのかも知れないと思うと、ウイスキー好きの一人として暗澹たる気持ちになる。

 まあ、高級品のみ少量手作りしているイチローズ・モルトは残るだろうが。
 しかしキリンや本坊酒造や江井ヶ嶋酒造などが原料の高騰に喘ぐウイスキー部門をどうするか、本当に心配でならない。
 この「お金持ち用の高級品と熱心な固定ファンがいるものを値上げして、主力商品の値段は据え置く」というサントリーとニッカのやり方は、日本のウイスキー業界にもウイスキーの愛好者にもマイナスの影響しか与えないと筆者は考える。
 値上げをするなら、やはり高騰した原料で造った酒齢の若い主力商品からであるべきだ。ここ数年の原材料の高騰に関係のない長期熟成した良い酒に値上げを転嫁するのは絶対にフェアではないし、消費者だけでなく業界も含めて誰の為にもならないと筆者は思うが、どうだろうか。

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コメント


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考え方と結論。

もう、仰る考え方には殆ど100%。

私も同じです。

値上するということは、当然ながら
その価格帯の他社ウィスキーと
真っ向勝負になるということです。

その価格帯なら、私も貴兄と同様に
海外の優良品を購入します。

理由もシンプルで、費用対効果が
明らかに落ちるから、です。

唯一、貴兄と違うのは結論。

私は、シンプルに これを機会に
ニッカが潰れても構わないと
考えているという部分。

ニッカがニッカの精神を捨てた以上、
存在そのものを問われて然るべき。

そういう部分です。

ogotch | URL | 2015-05-25(Mon)00:56 [編集]


管理人のみ閲覧できます

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| | 2015-05-26(Tue)18:23 [編集]


ブログ拝読いたしました。

余市、宮城峡の値上げが無いことへの考察はいかがでしょう?

そのことの方が会社の姿勢としてどうかと思いました。

| URL | 2015-05-27(Wed)21:01 [編集]


Re: タイトルなし

> 黒沢 様
>
> いつも大変興味深く拝見させて頂いております。
>
> さて、サントリーに続くアサヒビール㈱の今回の値上げの発表に大変お嘆きのようですが…さて?本当に「原材料の輸入価格の高騰」だけが値上げの理由でしょうか?
> なんか誰もが分かり易い、余りにも取って付けたような理由だと思いませんか?
> ホントに原材料の高騰が理由なのなら、同じく大量の麦芽やトウモロコシを使うビールや発泡酒だって値上げしないと辻褄が合わないですよね?こちらの方が出荷サイクルも短いでしょうし。
>
> 私には今回の値上げの理由は他にあるのだと考えています。
> アサヒビール(ニッカウヰスキー)の苦肉の策なのではないか?とも思えるのですが、如何でしょうか?

 コメント有難うございます。
 確かにその通りですね。原料の高騰を理由にウイスキーを値上げするなら、同じ麦芽などを使用しているビールも値上げしなければおかしいですよね。好きなウイスキーの値上げにだけ目が行っていて、ご指摘を受けるまでその事に気付きませんでした。
 そう言えばアサヒビールだけでなくサントリーも、ビールを造っていましたね。
 さて、同じようにビールもウイスキーも造っているキリンはどう出るでしょうか? これも気になるところです。

黒沢一樹 | URL | 2015-05-29(Fri)23:46 [編集]


Re: 考え方と結論。

> もう、仰る考え方には殆ど100%。
>
> 私も同じです。
>
> 値上するということは、当然ながら
> その価格帯の他社ウィスキーと
> 真っ向勝負になるということです。
>
> その価格帯なら、私も貴兄と同様に
> 海外の優良品を購入します。
>
> 理由もシンプルで、費用対効果が
> 明らかに落ちるから、です。
>
> 唯一、貴兄と違うのは結論。
>
> 私は、シンプルに これを機会に
> ニッカが潰れても構わないと
> 考えているという部分。
>
> ニッカがニッカの精神を捨てた以上、
> 存在そのものを問われて然るべき。
>
> そういう部分です。

 コメント有難うございます。
 実は私も、「アサヒビールの完全子会社になって、ニッカは以前のニッカでは無くなったのではないか?」という疑念を抱き続けています。
 ニッカの精神は、竹鶴政孝氏と共になくなってしまったのでしょうか。
 確かにこのままでは、ニッカも潰れてもかまわない……かも知れませんね。

黒沢一樹 | URL | 2015-05-29(Fri)23:52 [編集]


Re: タイトルなし

> ブログ拝読いたしました。
>
> 余市、宮城峡の値上げが無いことへの考察はいかがでしょう?
>
> そのことの方が会社の姿勢としてどうかと思いました。

 そう、その事が私もよくわからないのです。
 ニッカ(アサヒビール)は201品目の値上げを発表しましたが、どれを上げ、どれの価格を据え置くのか全部を発表していません。
 竹鶴とザ・ニッカとフロム・ザ・バレルとスーパーニッカとハイニッカとオールモルトとカフェモルトとカフェグレーンを値上げし、「ブラックニッカの価格は据え置く」とは言っていますが、それ以外の製品については値上げするともしないとも言っていません。
 竹鶴は、余市と宮城峡のモルトで造られている筈です。
 その竹鶴を大幅に値上げする一方、もし余市と宮城峡の方は価格を据え置くとすれば腑に落ちない妙な話だと思っていました。
 ニッカのHPを見ても余市と宮城峡の価格を据え置くとは明言していなかったので、気になりつつブログには書けずにいました。
 余市と宮城峡の価格を本当に据え置くのか、9月以降にしっかり見ていようと思っています。

黒沢一樹 | URL | 2015-05-30(Sat)00:10 [編集]


間をつなぐウィスキー。

おっしゃる通り、高くて良いものと
安くて……なものと。

二分されたウィスキーの中で
個人的には竹鶴12年、17年が
ジャパニーズウィスキーで
「間をつなぐもの」と思ってました。

そこで、御質問です。

これらが無くなった後。

貴兄の考える「間をつなぐ」ウィスキーは
なんでしょうか??

私は、ジョニーウォーカー黒あたりかと。

予想しております。(笑)

ogotch | URL | 2015-06-03(Wed)13:10 [編集]


Re: 間をつなぐウィスキー。

> おっしゃる通り、高くて良いものと
> 安くて……なものと。
>
> 二分されたウィスキーの中で
> 個人的には竹鶴12年、17年が
> ジャパニーズウィスキーで
> 「間をつなぐもの」と思ってました。
>
> そこで、御質問です。
>
> これらが無くなった後。
>
> 貴兄の考える「間をつなぐ」ウィスキーは
> なんでしょうか??
>
> 私は、ジョニーウォーカー黒あたりかと。
>
> 予想しております。(笑)

 コメント有難うございます。
 全く同感です。ジョニ黒ではないかと思います。
 あと、シーバスリーガルもなかなかイケますよ。
 竹鶴12年が無くなり、ノンエイジの竹鶴と竹鶴17年も大幅値上げされたら、12年モノのプレンデッド・スコッチを代わりに飲むしかないだろうと思っています。

黒沢一樹 | URL | 2015-06-05(Fri)22:50 [編集]