空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

サントリーのトラックが横転し、積み荷のサツマイモが名神を止めた事故を考える。

 日本消費者連盟が編集著作して三一書房から出された『続ほんものの酒を!』という本のコラムに、今から半世紀近くも前の、ちょっとした、しかしウイスキー好きにとっては興味深い事故の話が載っていた。
 その事故の話を要約すると、大体こんなところである。

 1967年のある日の早朝、名神高速道路で大型トラックがスリップして横転し、その積み荷が路上に散乱して、名神高速が一時通行止めとなる事故が起きた。
 問題のトラックは、サントリーの山崎蒸留所に通う定期便のトラックであった。

 横転したのはサントリーの山崎蒸留所に日々通っていた大型トラックとなると、路上に散乱して高速道路を通行止めにした積み荷は、いったい何だと思うだろうか?
 ウイスキーの原料という事を考えると、まず麦を連想するだろうが、実は違う。
 ではグレーン・ウイスキーの原料になるトウモロコシか? それともウイスキーを仕込む樽か?
 いや、そのどちらでもなく、サントリーの山崎蒸留所に向かう大型トラックに満載されていたのは、何とサツマイモだったのだ。

 おーい、サントリーはいつから焼酎メーカーになったんだよ……って笑ったね、そのコラムを読んだ時には。
 しかしサントリーを笑った筆者は、実はまだ認識が甘かったのだ。

 今のNHK連続テレビ小説『まれ』は、コメディーとしては馬鹿馬鹿し過ぎ、パティシエを真剣に目指して頑張る女性の物語としては業界をナメ過ぎていて、時計代わりにテレビをつけているだけでも苦痛になってくる。
 その『まれ』に比べて、『マッサン』は本当に良かったと改めて痛感させられている。
『マッサン』はストーリーが面白かっただけでなく、ウイスキー造りと業界についての描き方にもリアリティーがあり、嘘やご都合主義を感じさせる所が無かった。

 で、その『マッサン』も終盤に近い、3月21日に放送された話のある部分を見て、筆者はギクリとさせられた。
 その部分とは、マッサンがずっと製造を渋ってきた廉価な三級ウイスキーが苦心の末に完成し、その試飲会での、マッサンと洋酒に詳しいある百貨店の澤田社長との会話である。

 澤田「希釈用のアルコールは、何を使いはったんや?」
 マッサン「大麦で作った、醸造用アルコールを使いました」
 澤田「大麦か」
 マッサン「はい、廃糖蜜やサツマイモも試しましたが、三年物の若い原酒をキーモルトにした場合、大麦で作ったもんが最も香りが良うなり、自然な甘みも加わる。そう判断しました」


「ウイスキーにサツマイモなんて」と、例のサントリーのトラック横転事件を笑っていた筆者だが。
 実はマッサンもウイスキーに使う事を検討していたんだよね、サツマイモを

 確かにモルト・ウイスキーは、大麦の麦芽を糖化させて蒸留し、それを樽で貯蔵したものだが。
 しかしグレーン・ウイスキーは「麦芽の酵素によって糖化させた穀物の糖化液を連続蒸留し、それを樽貯蔵したもの」であって、原料がサツマイモでも別に構わないのである。
 グレーン・ウイスキーと言うと、普通はトウモロコシが原料と思いがちだが、そうでなくとも穀物であれば何でも構わないのだ。
 だから例えばニッカの“オールモルト”や“モルトクラブ”は、モルト・ウイスキーに麦を連続蒸留したグレーン・ウイスキーをブレンドしている。
 但し廃糖蜜は穀物ではないので、樽貯蔵しようがどうしようがグレーン・ウイスキーとは言えず、醸造用アルコールまたはスピリッツと表記しなければならないのだ。

 だからサントリーがウイスキーの原料にサツマイモを使おうが、別に何の問題も無いのだ。
 問題なのは、サントリーがそのトラック横転事故を隠蔽しようとした事だ。
 例の『続ほんものの酒を!』によると、例の事故はNHKの朝6時のニュースで「サントリー名神をとめる」と報じられた。
 ところが続く朝7時のニュースからはただの「トラック事故」になり、正午のニュースからはこの事故そのものが報じられなくなった。
 実はNHK京都支局にサントリーのお偉方がオールドを一箱持って駆けつけ、「何とかご内密に」と要請して、その結果このサントリー芋トラック事故が闇に葬られたそうである。

 サントリーはよく、「日本人の味覚に合った、日本のウイスキー」という言葉を宣伝文句に使っているが。
 マッサンが自社の三級ウイスキーには大麦が最も合うと判断したように、もしサントリーが「自社のウイスキーには、サツマイモが最も合う」と自信を持って判断したならば、隠さず堂々とサツマイモを使えば良いのである。
 何しろグレーン・ウイスキーは「麦芽の酵素によって糖化させた穀物の糖化液を連続蒸留し、樽貯蔵したもの」だから、その穀物はトウモロコシに限らず、麦を使ってもサツマイモを使っても全く問題ないのだ。

 筆者は本格芋焼酎の旨さも、一応知っているつもりだ。甘く口当たりが良く、とても飲みやすいと思う。
 それだけに、サツマイモを丁寧に蒸留して、樽なり甕なりで年単位できちんと保存したグレーン・ウイスキーを使ったら、それこそスコットランドのただの模倣ではない、本物の「日本人の味覚に合う、日本のウイスキー」が出来るのではないかと考える。
 ただ筆者もさすがに、手持ちの大事に飲んでいるシングルモルト・ウイスキーに、芋焼酎を我流で“ブレンド”してみるだけの勇気はまだ持てないでいるが。

 ウイスキーの原材料表示を見ると、どのウイスキーにも「モルト」あるいは「モルト、グレーン」などとしか書かれておらず、使われている穀物が大麦かトウモロコシか、それともサツマイモかどうかは表示されていない。
 ここに日本洋酒業界の、故意に消費者の誤解を招くような、インチキに近い原材料表示の問題がある。

 このブログでは以前も何度か取り上げてきた事だが、日本洋酒業界の規定では「モルトは麦芽を意味し、グレーンは穀物を意味する」事になっている
 少しウイスキーに知識のある者なら、原材料表示に「モルト、グレーン」とあれば、「モルト・ウイスキーとグレーン・ウイスキーのことか」と思うのが普通だ。
 しかし日本洋酒業界の規定では違うのである。
 麦やトウモロコシやサツマイモなどの穀物をただ連続蒸留しただけの、樽貯蔵ナシのアルコールが、グレーンと表示される事が許されているのである。そのただの穀物アルコールが、あたかもグレーン・ウイスキーであると消費者に誤認させたいかのように。
 ちなみにサントリーは、その樽貯蔵ナシの穀物アルコールを“グレーン・アルコール”と呼び、一級酒のホワイトだけでなく、特級の角瓶にも複数のリキュールと合わせて使用していた
 それも終戦後の焼け跡闇市の時代ではなく、1980年代のバブル経済の時代になってもまだ……である。

 某巨大掲示板のウイスキーに関するスレッドに目を通すと、「アル添のウイスキーは駄目だ」という声がよく上がっている。
 しかし彼らが“アル添ウイスキー”と非難しているのは、原材料表示に「醸造用アルコール」とか「スピリッツ」などと書かれた製品だけだ。

 よく考えてもらいたい。
 日本洋酒業界の規定では、モルトは麦芽を、グレーンは穀物を意味するのであって、モルト・ウイスキーとグレーン・ウイスキーの事ではないのである。
 大麦やトウモロコシやサツマイモなどの穀物をただ連続蒸留しただけの、樽貯蔵ナシの穀物アルコールが、日本の原材料表示では堂々と“グレーン”と書く事が認められているのである。

 繰り返すが、原材料表示の「モルト、グレーン」は、モルト・ウイスキーとグレーン・ウイスキーの事ではないのである。
 ただ原料に穀物さえ使っていれば、グレーン・ウイスキーでなく樽貯蔵ナシのアルコールでモルト原酒を希釈しても、原材料表示に「グレーン」と書いて良い事になっているのである、この国の洋酒業界の規定では。
 某巨大掲示板のウイスキーのスレッドの住人たちが嫌う、原材料に「醸造用アルコール」や「スピリッツ」などと表示される“アル添”のウイスキーとは、原料に穀物のアルコールでなく、廃糖蜜のアルコールを使ったものだけなのである。

 某大メーカーから売り出されている、4リットルのペットボトルで2380円くらいで売り出されている“ウイスキー”がある。
 サントリー・レッドやブラックニッカ・クリアですら、同じ4リットルのペットボトル入りの製品が3180円くらいする。
 で、同じ4リットルのペットボトル入り焼酎甲類が1748円くらいだから、その某大メーカーの“ウイスキー”の価格はむしろ甲類の焼酎に近い。
 それでいて原材料表示を見ると、「モルト、グレーン」となっているのだから驚く。
 ちゃんと樽で寝かせたウイスキーが、どうして甲類の焼酎に近い値段で売り出せるのか、筆者には不思議でならない。
 その価格から考えても、「穀物から作った樽熟成ナシのアルコールに、香り付け程度にモルト原酒を垂らしただけのまがい物ウイスキーではないか」と推察している筆者だが、それは邪推であろうか。

 話は3月21日に放送された『マッサン』に戻る。
 先程も引用した、澤田社長とマッサンの会話を思い出していただきたい。

 澤田「希釈用のアルコールは、何を使いはったんや?」
 マッサン「大麦で作った、醸造用アルコールを使いました」
 澤田「大麦か」
 マッサン「はい、廃蜜糖やサツマイモも試しましたが、三年物の若い原酒をキーモルトにした場合、大麦で作ったもんが最も香りが良うなり、自然な甘みも加わる。そう判断しました」


 おわかりだろうか。
 あのマッサンでさえ、かつては安価なウイスキーには樽で寝かせたグレーン・ウイスキーでなく、ただの穀物アルコールでモルト原酒を希釈(ブレンドに非ず)したものを“ウイスキー”として売っていたのだ。
 で、このマッサンが大麦のアルコールで希釈して売り出した三級ウイスキーだが、日本の洋酒業界の規定によれば、原材料表示は今でも「モルト、グレーン」で構わない事になるのである。
 樽熟成ナシのアルコールでモルト原酒を希釈した、いわゆる“アル添ウイスキー”でも、アルコールが穀物の大麦で作られているゆえにそういう事になるのである。
 そしてサントリーは、特級酒だった角瓶にも樽熟成ナシのグレーン・アルコールを使い続けていた。

 ニッカだって、決して良いとは言い切れない。
 これを引用するだけでイチャモンを付けられるのだが、それを承知の上であえてまた『美味しんぼ70巻・スコッチウイスキーの真価』を引用したい。
「日本にも良心的な会社はある」として、『美味しんぼ』のその巻では明らかにニッカ製品とわかる絵を描き、「その会社は、酒に級別があった頃、廉価な二級酒にも酒税法の限度ぎりぎりの原酒を入れていたし。主力製品の特級酒には廃糖蜜から作ったアルコールではなく、ちゃんと作った、グレーン・ウイスキーを使っていた」と書いている。

 と言うことは、だ。
 ニッカも一級や二級のウイスキーには、ちゃんと作ったグレーン・ウイスキーではなく、廃糖蜜などから作った樽熟成ナシのアルコールを使っていた……という事だろう。
 それでも廃糖蜜ではなく、大麦やサツマイモなどの穀物から作ったアルコールを使えば、例の原材料表示では「モルト、グレーン」となるのだから呆れる。

 ニッカについては、もう一つ不満がある。
 ニッカには麦芽のみで造った、“モルトクラブ”と“オールモルト”という製品があるが。
 商品名だけでなく、原材料表示も「モルト」のみとなっているし、うっかりすると「ピュアモルトかシングルモルトか?」と誤解してしまいそうだが、この二つの製品はどちらも、「モルト・ウイスキーとグレーン・ウイスキーで造った、ブレンデッド・ウイスキー」なのである。
 ただ連続蒸留したグレーン・ウイスキーの穀物にも麦芽のみを使ったというだけで、商品名や原材料表示であたかもピュアモルト・ウイスキーか何かのようなイメージを演出するのは、いかがなものかと思う。
「モルト=麦芽だ」という理屈で、モルトウイスキーとグレーン・ウイスキーのブレンデッドの原材料表示がモルトだけになるのは、やはりどう見てもおかしいと思う。
 モルトクラブはともかく、オールモルトは良い製品だけに、その消費者の誤認を招くようなネーミングと原材料表示には疑問がある。

 とにかく日本の洋酒業界の「モルト=麦芽、グレーン=穀物」という原材料表示は、消費者の誤解を故意に招く不当表示としか思えない。
 ウイスキー好きの常識では間違いなく「モルトとはモルト・ウイスキーで、グレーンはグレーン・ウイスキー」だし、樽熟成していないアルコールを加えたならちゃんと「アルコール」と表示すべきだ。
 その原料が穀物だから、樽熟成ナシのアルコールでも原材料表示ではグレーンだ……などと、屁理屈や詭弁にも程があると思うが。
 そしてモルトクラブとオールモルトも、原材料表示は「モルト、グレーン」もしくは「麦芽」とすべきだ。

 トウモロコシだけでなく、大麦でもサツマイモでも何でも良いのだ、モルト原酒に加えられるのが樽熟成ナシのアルコールではなく、年単位で樽貯蔵された本物のグレーン・ウイスキーならば。
 いや、サツマイモの甘みと口当たりの良さを生かしたグレーン・ウイスキーなど、日本らしくて面白いかも知れないと思う。
 ただ原料が穀物であれ、廃糖蜜であれ、樽熟成ナシのアルコールをモルト原酒に混ぜてはいけない

 例えば江井ヶ嶋酒造の“ホワイトオーク・レッド”など、原材料はモルトとスピリッツのみの“アル添ウイスキー”だが、モルト原酒が良いのか、HPの売り文句通りに意外に旨い。
 しかしそれでも、樽熟成ナシの若いアルコールの刺激が舌に障ってどうにも不快なのだ。
 ホワイトオーク・レッドはモルト原酒の良さを感じる部分があるだけに、その折角の原酒をアルコールで希釈してしまっている事が残念でならない。

 ハイボールにするか、1:2以上に薄く水で割りでもしない限り、樽熟成ナシのアルコールを加えた“ウイスキー”を飲むのは辛い。
 それは原材料にハッキリ「ブレンド用アルコール」や「スピリッツ」などと書かれる廃糖蜜から作られたアルコールであろうが、「グレーン」と表示される穀物から作られたアルコールであろうが、同じ事だ。

 まあ、逆に言えば「ハイボールや薄い水割りで飲むなら、安い“アル添ウイスキー”でも関係ない」という事でもあるのだが。
 実際、ホワイトオーク・レッドもストレートやトワイスアップではアルコールの刺激がキツ過ぎるが、割る水を二倍にまで増やすとアラ不思議、アルコールの刺激がスッと消えて「意外にイケるじゃん」と感じるし、ハイボールでも問題なく飲める。

 しかしストレートやロックやトワイスアップなどの濃いめでじっくり味わいたい者には、モルト原酒だけでなくグレーンも樽で熟成した本物のウイスキーである事が必要なのだ。
 モルト原酒をアルコールで希釈した、イギリスでもアメリカでもカナダでもウイスキーと認められないようなまがい物は、日本からも追放すべきだと筆者は強く思う。

 問題は、横転したサントリーの山崎蒸留所に通う大型トラックの積み荷が、サツマイモだった事ではない。
 サツマイモを原料にしたウイスキーも、大いに結構だ。
 ただウイスキーを名乗る以上、そして原材料に「モルト、グレーン」と表記する以上、そのサツマイモは蒸留後に年単位で樽貯蔵すべきだと、筆者は強く言いたい。

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