空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

幼なじみ⑭・カナコちゃんとの微妙な距離

 ところが三年生になって、あるコトをきっかけに黒沢と元幼なじみのカナコちゃんの距離が、いきなり近くなっちゃってさ。
 勉強も出来て音楽のセンスもあって、しかも人望もあるカナコちゃんは、当時生徒会の役員をしていたんだよ。で、その生徒会の先生に臨時の仕事を押しつけられて、黒沢もお手伝いみたいな形で、柄にもなく生徒会の端っこに加わることになっちゃってさ。

 生徒会室って、どこの学校でも狭いよね。その狭い部屋で、七年ぶりにカナコちゃんと間近に顔を合わせた時には、本当にもうドキドキしたよ。
 と言うより、正確に言えば怖かった。

 黒沢ってさ、良い所もダメな部分も全部開けっ広げだったから。黒沢が「謙譲の美徳」なんてモノを身につけるのは、二十歳をかなり過ぎてからのことで、当時は空気もまるで読まずに言いたいことは平気で言って、自分の意見は譲らないようなヤツだったから、周りの皆には「自信家で威張った、イヤなヤツ」って思われていたよ。
 だって何しろ“厨二病のムスカ大佐”だし。
 けど同時に、ダメな部分も隠さないでバカもやってたから、少なくとも同じクラスの人間は「アイツ、案外アホだし笑えるヤツだよ」みたいなコトも知ってたし、だから黒沢の厨二病的なイタい部分も大目に見られてたワケ。

 でもそれはクラスの中だけの話で、よそのクラスの連中に見えるのはムスカ大佐みたいな黒い部分だけだからさ。だから他のクラスのヤツらには、黒沢はかなりキラわれてたと思う。
 何しろ黒沢は、中学生の分際でかの総統閣下の『我が闘争』を読み耽って、「人を支配し政治を動かす方法」を真剣に考えていたような、とってもイタい子だったからね。
 ナチスから世の中を動かす術を学ばなきゃ……って、当時の黒沢ってあのアソーさんレベルのイタさだよね。

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 だから「人なんて、どうせ皆バカばかり」って思ってたし、その“バカたち”に何て思われようが、別に気にもしてなかったよ。
 ただ昔よく一緒に遊んで大好きだったカナコちゃんにイヤな目で見られるのだけは、ホントに心から怖かったんだ。

 けど狭い生徒会室で久しぶりに会った時、カナコちゃんは曇り一つない笑顔を黒沢に向けてくれてさ。その後はもう一気に打ち解けて仲良くなって、何年も会わずにいたブランクをまるで感じさせないくらい、本当にいろいろ喋ったよ。

 先生から押しつけられて、断り切れずに嫌々始めた生徒会の仕事だったけど。カナコちゃんの笑顔を見たら、授業の後に生徒会室に行くのが、もう何よりの楽しみになっちゃってさ。
 ……中学生の男子って、どうしようもなくバカだからね。可愛い女の子に笑顔で頼まれでもしたら、マジで火の中、水の中にだって飛び込んでしまうんじゃないかと思うよ。

 厨二病でアイタタなオレ様男の黒沢だったけど、そこは可愛い女の子の為なら、例え火の中、水の中でも飛び込みかねないアホな男子の一人でありまして。
 生徒会室では、黒沢とカナコちゃんは会議用の机を挟んでいつも向かい合わせに座って、ずっと喋ってばかりだったよ。もちろん仕事の話もあったけれど、大半は他愛もない雑談ばかり……って感じで。
 ただカナコちゃんは笑顔で喋りながらも手は休めないで、いろいろ書き物をしたり表を作ったりしていてさ。この時代にはPCなんてモノはまだ一般には出回って無くて、学校でも記録や資料は全部手書きだったんだよ。

 でさ、黒沢の中学の女子の制服って、今や少数派になりつつあるセーラー服で。
 わかる人にはわかると思うけど、セーラー服って少し屈んだだけでも胸元がかなり覗けちゃうんだよ。
 小さい頃は背が高かったカナコちゃんだけれど、再会した彼女の身長は、それほど高い方ではなくなってたよ。女子の平均よりちょっと高いかナ、といった感じで。
 ただ背が伸びる代わりに、何と言ったら良いか、女の子らしい方面で局部的に成長していてさ。
 だから向かい合わせに座る黒沢の目は、少し屈んで書き物をする胸元にもう釘付けになっちゃって。

 カナコちゃんって、何しろ生まれつき色素が薄い人だから。チラリと見える胸元なんか、それはもう抜けるような白さなんだよ。そしてその大きな白桃のような豊かな胸を包むブラも、レース付きの大人用って感じで。
 今の黒沢ならさ、小娘の胸元ごときに何とも思ったりしないけど。でも当時はいくら偉そうにしていても、ただの田舎のチェリーな中学生だったからね。もう頭はクラクラで夢心地で、魂が体から抜け出て天国まで飛んでっちゃってさ。

 ただね、笑顔を絶やさずどんなに仲良く喋ってくれても、カナコちゃんは昔のことには一切触れなくてさ。
 話すことと言えば「クラスでこんなコトがあって」みたいな、いつも“今”の事ばかりなんだよね。
「そう言えば、よく一緒に遊んだよねー」とか「前に住んでた家の辺りとか、今どうなってる?」とか、マキちゃんは昔を懐かしむようなことを手紙にしばしば書いて来てさ。けどそういった昔の思い出を辿るような話は、カナコちゃんはホントに全くしなかった。

 生徒会室で何年ぶりかで言葉を交わした時、カナコちゃんは黒沢の顔も名前もちゃんと知ってたし、すぐに前みたいに打ち解けて喋ってくれてさ。
 だから「昔すごく仲良くしてた、幼なじみのあの子だ」って、カナコちゃんだって絶対わかっていた筈なんだ。
 そしてカナコちゃんが何故“今”の話しかしないのか、黒沢にも何となくわかるような気がしたよ。
 ズバリ「昔は昔で、今は今」ってコトだよ。

 今のカナコちゃんにとって、再会した黒沢は「一緒に仕事を進める仲間A」でしか無いんだな……って、言外の空気で何か微妙に感じちゃってさ。
 だから黒沢もあえて自分から幼なじみだった昔のことまで持ち出して、カナコちゃんとの距離を縮めようとはしなかった。
 少なくともカナコちゃんは、タカギさんのように露骨にイヤな顔して「あたし、昔こんなヤツと仲良かったんだよね」とか言ったりしなかった。そして学校ではムスカ大佐みたいな存在だった黒沢にも、仲間として何のこだわり無くいつも笑顔で接してくれた。
 黒沢としては、ただそれだけで十分……って感じでさ。
 生徒会で再会後の二人の空気をギャルゲーで例えてみれば、まあ「友好度は高めで、けど恋愛フラグはまるで立っていない状況」って感じかな。

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