
現在日本で売られているウイスキーの中で最も安いものと言えば、おそらくイオンのトップバリュのウイスキーであろう。
何しろ720mlで税込598円なのだ。
ブラックニッカ・クリアやトリス・クラシックより百数十円も安いのだから、その安さはかなりのものである。
しかしその味に興味はあっても、どうしても手が出ない。
何しろ原材料表示を見てみると、モルトとグレーンに加えてスピリッツと書いてある。
スピリッツやブレンド用アルコールなどと表示される、廃糖蜜から作られたアルコールであろうと。
あるいは穀物から作られた、サントリーがかつてグレーン・アルコールと称していたものであろうと。
筆者は樽熟成していないものをブレンドした製品をウイスキーと認めるのには抵抗がある。
何年もの樽熟成を経たものこそウイスキーであって、ただ連続蒸留しただけのものを混ぜたものなど、まがい物としか言いようがない。
とは言うものの、江井ヶ嶋酒造のホワイトオーク・レッドのように、スピリッツを混ぜていても意外にウイスキーらしい味わいがあって、「値段の割にイケる」と思わせるものもある。
ホワイトオーク・レッドは大胆だ。トップバリュのウイスキーも含めて他のアルコールを加えたウイスキーは、モルトとグレーンに希釈用のアルコール(スピリッツまたはブレンド用アルコール)を加えているものが殆どだ。
だがホワイトオーク・レッドはグレーンを使わず、モルト原酒をスピリッツだけで希釈しているのである。
しかしそれでも、モルト原酒が良いのか案外に飲めるのである。
とは言え、ウイスキーらしい味と香りがあるのと同時に、アルコールの刺激がツンツン来てキツいのも事実だが。
ただトップバリュのウイスキーは、販売こそイオンでされているものの、製造元はエチルアルコールや甲類焼酎などを作っている合同酒精なのである。
江井ヶ嶋酒造にはちゃんと自社のウイスキー蒸留所があって、自社で造ったモルト原酒をアルコールで希釈している。
しかし合同酒精にウイスキー蒸留所があるなどという話は聞いた事も無く、こちらの方はどこぞから仕入れて来た他社製のモルトやグレーンを自社製のアルコールで希釈しているのであろう。
同じ“アル添”のウイスキーでも、モルト原酒とアルコールのどちらを自社で生産しているかが、全く逆なのである。
となると、「甲類焼酎にウイスキーの色と香りを付けたレベルのものではないか」と邪推もしたくなってしまう。
それで飛び抜けて安いのは重々わかってはいたが、トップバリュのウイスキーだけは、どうにも手を出す気になれずにいた。
もし720mlも入ったものを買って、飲んでみてどうしようもなく不味かったら処置に困ってしまう。いくら不味いものでも、一瓶の殆どを下水に流してしまうというのも、何か気が引けるし……。
そんな時に、同じイオンのトップバリュ・ブランドのハイボール缶を見つけてしまった。
その名も“芳醇な香りハイボール”と言って、値段も128円と、他のハイボール缶よりかなり安い。
で、製造元も例のトップバリュ・ウイスキーと同じ合同酒精とあれば、ウイスキーも合同酒精ものを使っているに違いないだろう。
そう考えて、トップバリュ・ウイスキーの味を見るつもりも兼ねて、トップバリュの“芳醇な香りハイボール”を買ってみた。
……感想、デスか。
ズバリ、想像を超えて不味かった。
商品名では“芳醇な香り”を謳っているけれど、確かに缶からグラスに注ぐとウイスキーらしい匂いはする。
しかしそれはあくまでも「らしい」というレベルであって、どこか作り物のような感じで不自然なのだ。日頃飲んでいる普通のウイスキーとは違う、人工的な匂いを感じるのだ。
そして飲んでみても、変に甘い。
ウイスキーの原料の穀物からくる自然な甘味ではなく、後から人工的に付けた甘さという感じだ。
さらに僅かな苦みもあるが、これも自然なビターな味というよりも「変な苦さ」という感じだ。
いかにも「糖類・酸味料・カラメル色素・香料入り」の製品だという印象が強い。
また糖類に加えて酸味料も入っていると言うが、角ハイボール缶のようなレモン風味ではなく、糖類の甘味と同時に変な苦みを感じるから不思議だ。
そしてウイスキーらしい味わいは、とても薄い。
このトップバリュの“芳醇な香りハイボール”はアルコール度数8%だが、同じハイボール缶でも度数6%でしかもスピリッツも混ぜられている、サントリーのジムビームシトラスハイボール缶の方がウイスキーらしい味わいをずっとハッキリ感じられる。
と言うことは、このトップバリュの“芳醇な香りハイボール”に使われているウイスキーは、ろくな香りも味も無い「ウイスキー風味の甲類焼酎のようなもの」と見てまず間違いないと思われる。
で、このトップバリュの“芳醇な香りハイボール”を飲んでみて、同じ合同酒精製造でトップバリュブランドのウイスキーについても、「飲んでも後悔するだけに違いないから、絶対に買わずにいよう」と心から思った。
同じスピリッツ入りのウイスキーでも、江井ヶ嶋酒造のホワイトオーク・レッドで作ったハイボールは、ちゃんとそれなりに楽しんで飲めた。
しかしトップバリュの“芳醇な香りハイボール”は飲んでいて気分が悪くなるほど不味かった。
断言するが、このトップバリュの“芳醇な香りハイボール”は駄目だ。ウイスキーを使用したハイボール缶の中でも、まず最低と言っても良い味と香りだ。
値段が安い上に、筆者の行った店(マックスバリュの某店)でも自社ブランド製品として目立つ所に陳列されている為、つい手を伸ばしてしまうかも知れないが、後で飲んでみて後悔する事間違いなしと断言してしまいたい。
こんなシロモノに128円も出すくらいだったら、新ジャンル酒でも飲んだ方がずっとマシだと筆者は思った。
ただ「ビール類の苦みがどうしても苦手だ」という方は、新ジャンル酒や発泡酒よりこちらの方を選びたくなってしまうかも知れない。
しかしベースになっているウイスキーの質が悪い上に、それを補う為に加えられている糖類や酸味料や香料などが生み出している不気味で人工的な匂い(香りなどと言うものではない)と味は、本当に酷いとしか言いようがない。
こんなハイボール缶を飲むくらいなら、数十円余計に出して角ハイボール缶〈濃いめ〉でも買った方が、ずっとまともなものか飲める。
さもなければ、いっそ缶チューハイという選択肢もある。
筆者はタカラの焼酎ハイボール〈ドライ〉というものも以前飲んでみたが、変なウイスキー風味が加えられていない分だけこちらの方がスッキリしていて「よりマシ」に思えた。
しかもタカラの焼酎ハイボール缶は百円以下で買え、トップバリュの“芳醇な香りハイボール”などよりお買い得だった。
ただ甲類焼酎に糖類と酸味料を加えたシロモノだけに、飲んだ後で悪酔いして頭痛に悩まされたが。
ちなみにトップバリュの“芳醇な香りハイボール”だが、飲んだ後で頭痛こそしなかったものの、他のまともなウイスキーを使ったハイボールより酔い心地が悪く、アルコールが体から抜けるのも遅いように感じた。
やはり日本酒などを薄める為のエチルアルコールや甲類焼酎を製造しているメーカーの製品だけあって、ベースになっているウイスキーに混ぜられているスピリッツ(廃糖蜜から作った工業アルコール)の割合がかなり高いのではないかと思われる。
筆者が体で感じた印象で言えば、このトップバリュの“芳醇な香りハイボール”は「まともなウイスキーを使ったハイボールと、焼酎ハイボールの中間あたりの品質」という感じだ。
ハイボールがお好きな方に警告する。
トップバリュの“芳醇な香りハイボール”だけは、絶対に飲まないことだ。
恐いモノ見たさの肝試しのつもりで味見をしてみるにしても、1缶だけしか買ってはいけない。
ネットで「トップバリュウイスキー」と入力して検索してみれば、「まずい」とかマイナスの評価が幾らでも出て来るが。
このトップバリュの“芳醇な香りハイボール”は、間違いなくその悪評高いトップバリュのウイスキーから作られたものだ。
そのスピリッツで薄められた不味いウイスキーの味と香りを補う為にブチ込まれた糖類やら酸味料やら香料のせいで、何とも言えぬ不快な人工的な味と匂いを持つ妙なシロモノに仕上がっている。
コレを「美味い」と思い、自社ブランド製品として売り出したイオンの担当者の味覚を疑いたくなってくるし、こんなシロモノがトップバリュのブランドとして売られているとなると、他のトップバリュ商品の味と品質まで疑いたくなってしまう。
同じ金を出すなら新ジャンル酒か、さもなければ焼酎ハイボールでも飲んだ方がずっとマシだと、筆者は断言したい。


