空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

『ワカコ酒』に見る、日本でのウイスキーの扱い

 アニメやテレビドラマにもなった、新久千映さんの『ワカコ酒』というコミックスを、皆さんはご存じだろうか。
 酒呑みの舌を持って生まれたがゆえに、今宵も居場所を求めて(もっぱらお酒を飲めるお店を)さすらい一人酒をする、村崎ワカコという26歳の女性の話なのだが。
 実は筆者はこの『ワカコ酒』を、コミックスの一巻が出た直後から買って読み続けている。

ワカコ酒P1090399

 主人公がフラリと立ち寄った店で、その晩の気分や店のお品書きから選んだ食べ物に合った酒を飲む……という、ストーリーらしいストーリーもない、他愛もないお話だけれど、なかなか悪くないデス。
美味しんぼ』などの、主に男性が描くグルメマンガのように、妙に凝ってこだわっていちいち講釈をたれるような事は全く無くて。
 イカリングや板わさやもずく酢やしらすおろしなどの普通の料理を、ビールや麦焼酎や日本酒などで普通に呑んで「おいしーっ」って満足してホッコリした気分になるという、毎回それだけの話なのだけれどね。
 でもその“こだわり”が無い分だけ、読み手も「勉強させられる」ような気分を強いられることなく、ただ「これ、おいしそうだなー」と思いながら気楽に読む事ができる。
 性格の悪い筆者のように「副原料入りのものはビールではない!」とか、「焼酎は常圧蒸留で甕貯蔵したものに限る」とか、あるいは「純米でなければ、日本酒とは認めない!」などといったような小うるさい事は、ワカコさんは決して言わないのでアリマス。

 このワカコさんは、お酒に本当にこだわらないのだ。料理に合わせて、日本酒も燗をつけたり冷やだったりするし、焼酎もロックだったり水割りだったりお湯割りだったり、麦だったり米だったり芋だったりするけれど、銘柄にも製法(アルコールを添加するかとか、蒸留や貯蔵の方法とか)にも全くこだわっていないんだよね。
 時にはあえて安い酒場に行って安酒も飲むし、発泡酒だって飲む。
 それも仕方なく我慢して飲んだり、「やっぱり安酒はコレだから……」と怒ったりするのではなく、その場の空気と一緒に楽しんでいる。
 日頃から何事にもこだわりが強くて、このブログでもウイスキーやビールや日本酒について「こうでなければいけない、こんな偽物が出回っているのは間違っている」と小うるさく講釈ばかりたれている筆者としては、『ワカコ酒』を読んで「このこだわり無く素直に何でも楽しむ姿勢も必要だな」と考えさせられたよ。

 とは言うものの、こだわりの強い筆者として、『ワカコ酒』に一つだけ注文をつけたい事がある。
 ワカコさんは日本酒は燗でも冷やでも飲むし、焼酎もロックでも水割りでもお湯割りでも飲む。
 しかしウイスキーについては、いつもハイボールでしか飲まないのだ。

 例えば『ワカコ酒』の5巻では、メンチカツと一緒に注文して、熱々のメンチカツをほおばる為の「すっきりアルコール」として、「つめたー」とか言いながら飲んでいるし。
 そして6巻でも、カニクリームコロッケを「炭酸でシュワッと食べたくて、ビールよりも洋食寄りでハイボール」と。そして「時間が経ってもいつまでも熱いクリーム、冷ますハイボール。キンとしたお酒で次の一口がもっととろける」と続くのだ。

 ……うーん。
 ウイスキーを「冷たいキンとした、すっきりアルコール」と言われてしまうと、ウイスキー好きとしてはすごく、すごーく不本意なのだけれど。
 酒齢の若い安いので作ったハイボールはともかくとして、良いウイスキーは香りは芳醇で味も深く豊かで、ストレートや濃いめで飲んでもその度数の高さを決して感じさせないよ。
 飲んでまずアルコールの刺激がキンと来るようなウイスキーはろくでもない安物だし、ましてや炭酸で何倍にも薄く割ってもまだアルコールの刺激を感じるようなシロモノなど、ウイスキーの名に値しないと筆者は考えている。

 それにハイボールを「ビールよりも洋食寄り」という『ワカコ酒』という解釈にも、どうにも納得が行かない。
 だってそもそも、アメリカはともかくヨーロッパには蒸留酒を割って飲むという習慣が無く、イギリスのパブでもハイボールは「客に頼まれたら作るけれど、積極的には出さない」というものだからね。
 だからビールを飲みながら食事をする事はよくあるけれど、ハイボールを飲みながら食事をするという光景は、まずヨーロッパでは考えられないのだ。
 ゆえにハイボールが「ビールよりも洋食寄り」というのは、ワカコさんの脳内と主観ではそうなのかも知れないけれど、現実にはあり得ない事なのだ。

 ワカコさんはウイスキーはいつもハイボールを注文し、そのハイボールには必ず氷が入っていてキンキンに冷たい状態のようだけれど。
 実はビールも、キンキンに冷やしてそれをゴクゴク飲むのは、日本だけなのだそうだ。気候が蒸し暑いせいで冷えたビールが好まれ、同じようにウイスキーもハイボールが好まれるのだろう。
 しかしビールの本場の欧州では、ビールはあまり冷やし込まず、そしてゆっくり、じっくり味わいながら飲むものなのだ。
 ビールでさえそうなのだから、それより遙かに度数の高いウイスキーは、もっとゆっくり、じっくり味わってほしいものだと思う。

 とは言うものの、欧米ではどうあれ日本では「ウイスキー=ハイボール」というイメージが強いのは事実だ。
 けれど主人公が料理に合わせて日本酒なら燗酒も冷酒も、そして焼酎は麦も芋も米もそして栗まで飲み、さらにロックでも水割りでもお湯割りでも飲んでいるというのに、ウイスキーに限ってはハイボールでしか飲んでくれないのが、筆者の『ワカコ酒』に対する唯一の、そしてとても大きな不満だ。

 ただ『ワカコ酒』は「酒呑みの舌を持って生まれた」村崎ワカコの話と言いつつ、メインは酒に合う食べ物の話で、酒はその食を進ませる為の添え物というような扱いだ。
 そういう意味で、食べながら飲むウイスキーというと、自然にハイボールや日本流の薄い水割りになってしまうのかも知れないが。
 それでも「ウイスキー=ハイボール」という日本のみの風潮を助長するのではなく、長期熟成されアルコールの刺激の弱まった芳醇で深い味と香りを持つ良いウイスキーをお飲みになって、そしてストレートやロックやトワイスアップなどの濃いめのウイスキーに合う食も紹介して貰いたいものだと、『ワカコ酒』の新久千映さんと出版社の編集部の皆さんに切にお願いしたい。

 それにしても『ワカコ酒』は、面白いけれど危険なコミックスだ。
 何しろ『美味しんぼ』などと違って、紹介されている食べ物はごく普通に手に入る、比較的よくある食べ物が多い。
 紅しょうが天とか、梅干しとか、味付きメンマとか、岩のりとか、磯辺揚げか、水餃子とか、そうした特に高価でも無いありふれた食べ物を、実に美味そうに描いているのだ。
 だから体重が気になっている方は、悪いことは言わない、読まない方がいい。まず間違いなく、描かれているあれもこれも食べたくなるから。
 タイトルは『ワカコ酒』で主人公は「酒呑みの舌を持って生まれた」女だけれど、勘違いしてはいけない。これは酒の話などではなく、酒のアテになる食べ物の話だ。

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コメント


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ハイボールオンリー。

ハイボールオンリー。

女性がこうなるのは、致し方ないかと。

理由も非常に単純でワカコ女史が行くようなお店ではストレートで呑めるようなクオリティのウイスキーは皆無。

せいぜいが「あの」角瓶ですもん。うん。そうなればハイボール、になったとしても悪印象を持たないだけヨシとしないと。

て、黒澤氏。

こういう女性に「ホンモノ」をエスコートすることこそ、黒澤氏のような紳士たる男性の出番ですよ!

ogotch | URL | 2016-02-03(Wed)21:01 [編集]


Re: ハイボールオンリー。

> ハイボールオンリー。
>
> 女性がこうなるのは、致し方ないかと。
>
> 理由も非常に単純でワカコ女史が行くようなお店ではストレートで呑めるようなクオリティのウイスキーは皆無。
>
> せいぜいが「あの」角瓶ですもん。うん。そうなればハイボール、になったとしても悪印象を持たないだけヨシとしないと。
>
> て、黒澤氏。
>
> こういう女性に「ホンモノ」をエスコートすることこそ、黒澤氏のような紳士たる男性の出番ですよ!

 あの『ワカコ酒』でヒロインが立ち寄っている店は、確かに大衆的なお店が多いですからねえ……。
「まともなウイスキーを飲め!」と求める方が無理だったかも知れません。

 そうそう、角瓶と言えば、角瓶<黒43°>という、それはもうオソロシイものを最近飲んでしまいました。
 ろくでもない物だとわかってはいたのですが、「飲まずに批判してはならない」と思って、つい……。
 コレが何とも、他の角瓶が「まとも」に思えてしまうほど強烈なシロモノでありました。
 それについては、今月の14日あたりに詳しく書くつもりでいます。

 でも14日と言えば、バレンタインの日ではありませんか。
 義理でしかチョコレートを戴けなくなって、もう何年が経つでしょうか……、

黒沢一樹 | URL | 2016-02-04(Thu)15:56 [編集]


黒角、、、

はじめまして!いつもお酒の記事について参考にさせてもらっています!
黒角、終売になると聞いて、一度は飲もうと思ったのですが、14日まで楽しみに待つことにいたします。


ニッカネン | URL | 2016-02-05(Fri)15:12 [編集]


Re: 黒角、、、

> はじめまして!いつもお酒の記事について参考にさせてもらっています!
> 黒角、終売になると聞いて、一度は飲もうと思ったのですが、14日まで楽しみに待つことにいたします。

 こんなささやかなブログに目を留めて下さり、ありがとうございます。
 黒角を買って飲むのは、ちょいと勇気が要るかも知れませんよ~。
 何しろ、アルコールの刺激がかなりキツく感じますので……。
 でも単に「まずい!」と切り捨てられない何かがあります。
 メーカーが勧めるロックの他、ハイボールやお湯割り等、いろいろ試してみましたので、よろしかったら14日に詳細を読んでやって下さい。

黒沢一樹 | URL | 2016-02-11(Thu)15:40 [編集]