空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

若いが良心的な良い医師に出会った

 全く自慢にならないが、筆者は幼い頃から病弱で、いろいろな病気を経験してきた。
 だから当然、大勢の医師とも接してきた。

 中には、「ん?」と思うような対応や治療をする医師もいた。
 しかし幸いにも、筆者を診てくれた医師の大部分は良心的で優秀なドクターだった。
 そして今日は、その中でも特に心に残った若い医師について話したいと思う。

 十年以上も前、筆者はヘルペスによる脳炎で総合病院に入院した事がある。
 その時の主治医は、内科のかなり若い先生だった。小太りで見かけは冴えないが威張った所が全く無く、人柄の良さが中からにじみ出て来るような優しい先生だった。

 その先生に特に好感を持てたのは、何か不確かな事があると患者の目の前で、躊躇う事なくデスクの上の厚い医学に手を伸ばして調べた事だ。
「俺はお医者さまなのだ」というプライドにこだわらず、わからないものはわからないとちゃんと認めて調べ直す姿勢に、筆者は頼りなさではなく誠実さを感じた。
 疑問があるのに知ったかぶりをして妙な治療をする医師より、少しでも疑問があるなら調べ直して確認する医師の方がずっと信頼出来ると、少なくとも筆者は思う。

 そしてその医師の手で、随液の検査をする事になったのだが。
 これは腰椎の間に針を刺し込み、硬膜とくも膜を通してくも膜下腔に届かせ、その中にある随液を採取するのだから、なかなか難しい。
 ただ難しいだけでなく、脊髄に針を刺し込むのだから、危険でもある。

 だからその若い主治医の検査は、なかなか上手く行かなかった。
 刺し込んだ針が腰椎の間に入らず、骨に当たったり。
 腰椎の間に入っても、変に神経を刺激したのか、背に針を刺している筈なのに足の先に変な痺れが走ったり。

 で、その事を言うと、先生は決して無理をせずにすぐ針を抜いてやり直した。
 だがやり直しても、なかなか上手く行かない。
 そして十数分ほど格闘した後、主治医の若い先生は「ちょっと待って下さい」と言って検査室を出て行った。

 やがて帰って来た主治医の先生は、中年の別の医師を伴っていた。
 その痩せて長身の医師は、無表情のまま黙って検査器具を取ると、一言も無いまま筆者の背に針を刺した。
 一発だった。
 ピリッとした痛みが走った後すぐに針が腰椎の間に通り、あっと言う間に随液を採取した。
 頭を下げて礼を言う主治医の先生には見向きもせず、その中年の医師は無言のまま立ち去った。

 その事で、筆者は若い主治医の先生に対しさらに「偉いなあ」と思った。
 自分には難しくて、下手をすれば患者を傷つけかねない時には無理をせず、先輩の医師に頭を下げて代わってくれるよう頼み込んだのだろう。
 代わりに随液を取ってくれた中年の医師は、腕は間違いなく確かだった。
 しかしその時の愛想の欠片も無い態度からしても、若い主治医の先生に尊大な態度を取り、嫌味の一つも言ったのではないかと思われる。
 それでもその主治医の先生は、己のプライドを守る為に検査を自分の手で強行しようとはしなかった。患者の為に、先輩医師に頭を下げて頼み込んで検査を代わって貰ってくれた。

 医師と言えば「先生」と呼ばれる職業の中でもかなり偉い方だし、学歴だけでなくプライドもかなり高いだろうと思われる。
 だが筆者が出合ったその若い医師は、ためらう事なくプライドより患者の為を優先した。
 不確かな事は、患者の目の前で辞典で調べる。
 危険な検査は、先輩医師に頭を下げて代わってもらう。
 当たり前の事かも知れない。
 しかし己のプライドを守りたくてそれが出来ない医師が、現実にはかなりいるのではないだろうか。

 医師だけではない。
 不確かな事は「わからない」と認めてちゃんと調べ直す事や、出来そうにもない事はそう認めて他の誰かに頭を下げて頼る事が出来ない者は、実際にはかなりいる筈だ。
 そして無理に自分でやった揚げ句に失敗をして、周囲の者に迷惑をかける事になる。

 筆者が出合ったその若い医師は、知識もまだ足りず、腕もまだ未熟だったかも知れない。
 しかし少なくともプライドを殺して、わからないものはわからないと認め、出来ないものは出来ないと認める事はできた。
 その先生の治療を受けてから、既に十年以上経つが。
 己の力量をわきまえ、迷わずプライドより患者の為を優先できる先生だったから、医師としての経験を積んだ今頃は、心と技量を兼ね備えたさぞ良い先生になっている事だろうと思う。

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