空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

看護師さんの機嫌を損ねたら怖い入院生活

 先週は、筆者が出合った良い医師の話をした。
 それで今回は、看護師の話をしようと思う。

 日本の社会が高齢化し病気にかかる人が増えたせいか、よく『名医がいる病院』などという本や雑誌を目にする。
 しかし間違えてはならない。
 手術などを担当するのは確かに医師だ。しかし患者が入院生活をおくる病棟を支配するのは、現実には看護師たちである。
 そして男の看護師も増えてはいるものの、看護師の大半は今も女性だ。
 その看護師さんに気に入られるかどうかで、貴方の入院生活は天国にも地獄にもなる。

 先週も書いたが筆者はいろいろな病気をしてきて、入院生活も何度も体験している。
 だからこそ言おう、看護師さんが横柄で当たりのキツい病院に入院するのは辛いぞ。
 無論、手術を担当する主治医がヤブでは困る。
 しかし医師の腕と同じくらいに、入院する病院の看護師さん達が親切かどうかも大切なのだ。

 筆者は以前、腸の奥に大きな腫瘍が出来てしまい、某大学病院でその摘出手術をした事がある。
 その腫瘍が2キロ以上と大きかった上に、臓器と癒着してもいた為、地元の病院では手に負えず、他県の大学病院で手術する事になった。
 その大学病院で、五人の医師で七時間以上もかけて腫瘍を切除したのだが、予後も良くなかった。まず感染症にかかり高熱を出して寝たきりになり、さらにその為に大静脈血栓を起こしてしまい、そのせいで今も左足に障害を残している。
 で、その大学病院にも二ヶ月以上入院することになってしまった。

 その大学病院はかなり大きく、入院患者は全部で千二百人を越えていた。
 だから病棟にも大勢の看護師さんが居て、二ヶ月を越えて入院する間に多くの看護師さんのお世話になった。
 で、その中でまだ若かった筆者が真っ先に親しくなったのが、Aさんという看護師(もちろん女性)だった。Aさんは目立つほど綺麗というわけではないが、整った顔立ちでとても優しく親切で、さらに仕事もよく出来た。
 同じ病室の入院患者の、四十代以上の酸いも甘いも噛み分けたオジサンには、「Aさんが“優しい”のはさ、プロ意識からだよ。本当はキツい人だから気をつけな」と、そっと忠告されたりしたのだが。
 まだ若かった筆者はそれを右の耳から左の耳へと軽く聞き流し、例のAさんにすっかりなついてしまったのだ。

 するとなぜか数人の看護師さん(すべて女性)から、筆者は急に冷たくされるようになった。
 Aさんより年上や、または新人の看護師さん達は以前と変わらぬ態度で接してくれたのだが。Aさんと同世代の二十代半ばくらいの看護師さん達には、嫌味を言われるなどの言葉や態度での意地悪をされるようになった。
 特に手術して間もない頃に、「身の回りが汚い、だらしないわね。もっと整理整頓しなさい」と叱られたのは辛かった。

 その時、筆者は病状が良くなくて、体をろくに動かす事も出来なかった。そして他県から入院しに来ていて、未婚だから身の回りの世話をしてくれる妻もなく、親(父は既に亡くなっていて母一人だけ)も忙しく働いていたから、見舞いも月に二度か三度くらいしか来られなかった。
 そしてその事は、看護師さん達もちゃんとわかっていた筈だ。
 それだけに、「汚い、だらしない」と叱られたのは本当に悔しかった。
 出来れば言い返して怒るくらいしたかった。しかし病状が悪かった筆者には、その気力も体力も無かった。

 で、鬱屈した入院生活を送っていたのだが。
 筆者のように病状の重い患者は、毎朝採血をされたりする。そして病棟の起床時間は朝6時なのだが、仕事の都合か看護師さんは、6時前のまだ寝ているうちにやって来ては、そっと患者を揺り起こして血を採って行くのだ。

 採血されるのが好きな人は、まずいないだろうと思う。
 しかも筆者のように毎日採血されていると、その箇所の皮膚が固くなって、注射針が刺さりにくくなってくる。
 その状態であえて針を刺すわけだから、もちろん痛い。
 だから毎朝揺り起こされては採血されるのが、とても憂鬱だった。

 ただ毎朝採血されるうちに、採血の痛さが看護師さんによってかなり差があることに気付いた。
 決まった量を採る同じ採血なのに、それがとても痛い看護師さんと、あまり痛くない看護師さんが、本当に間違いなくいるのだ。
 それで気軽に離せるアラサーの看護師さんに尋ねてみたのだ、「同じ採血で、痛い看護師さんとそうでない看護師さんがいるのは何故?」と。

「ああ、それはね──」と解説してくれた、その看護師さんの答えは、実に意外で、かつ納得できるものだった。
 その看護師さんによると、採血にかかわらず注射というものは、迷わず躊躇わずにブスッと刺してスッと抜くのが一番痛くないのだそうだ。で、「痛いかな、可哀想だな、ごめんね」なんて思いながらおずおず刺すと、逆により痛くなるのだそうだ。

「なるほど!」と、心から納得したね。
 確かに仕事と割り切ってやっている男性の医師や看護師、そして大病院の採血専門で慣れきっている女性看護師の注射は上手いし痛くない。
 相手の腕を人の体でなく大根か何かのように思って、変な情を抱かずに針を刺すのが、結果的に痛くない注射や採血になるようである。

 確かに筆者が入院していた病棟でも、一番優しい看護師さんの採血は、新人でもないのにかなり痛かった。
 で、その病棟で採血が最も上手で痛くないのは、筆者をイジメてくれた看護師グループのリーダー的なBさんだった。
 Bさんというのは、筆者がなついてしまったAさんと同じ二十代半ばで、そしてまるでフランス人形のような顔立ちと雰囲気の、病棟でもピカイチの美人看護師だった。
 このBさんは筆者には意地悪だったけれど、採血は本当に上手くて殆ど痛くないのだ。
「そうか、性格が悪いからBさんの採血は痛くないのか」って、心から納得したね。

 だから筆者は、次にBさんが朝の採血に来た時に、心を込めてこう言ったのだ。
「朝の採血は憂鬱だけど、Bさんは本当に採血が上手くて痛くないから、Bさんが採血に来てくれるとすごくホッとするよ」
 ハイ、実は心の中では「オメーは鬼で冷たいから注射が上手いんだよ」と呟きながらね。
 そしたらBさん、筆者のその褒め言葉に頬を赤らめて大喜びしてくれちゃったよ。
 で、それからBさん達一部の看護師さん達からの筆者への意地悪は、ピタリと無くなったのでアリマス。

 無論Bさんの筆者への感情が変わったのは、その褒め言葉一つのせいだけでは無いのだけれどね。
 実はその少し前に、Aさんと筆者の間にちょっとした気持ちの行き違いがあって、筆者は以前ほどAさんと仲良くなくなっていたのだ。
 で、間もなくBさんを褒めたら、Bさんの筆者への感情が劇的に変わったらしいデス。

 そして筆者の体調も徐々に回復して、病棟内を不通に歩け回れるようになって。
 そんなある日、Bさんが一人で、患者を乗せたベッドを他の階に移動させようと悪戦苦闘している場面に出くわしたのだ。
 黙ってサッと手伝ってしまいマシタよ、筆者は。
 ベッドを押すのに手を貸し、エレベーターが来たら“開”のボタンを押しながら中に入れるのを手伝って……と。
 その間、Bさんは本当に気まずそうな顔をして、小声で「ありがとう、ありがとう」って言い続けていたよ。
 イジメた相手に逆に親切にされてBさんが困り切っている様子が、本当に面白かったデス。

 それ以後も、何かBさんを“手助け”できる事があればな……って思って、時々病棟内を散歩がてらBさんの姿を捜したのだけれど。
 そしたらBさん、筆者を見るときまり悪げな顔をしてササーッと逃げるようにどこかに行ってしまってさ。
 これは面白い、って思ったね。
 で、「何か親切に出来ないか捜す→気まずい顔して逃げるBさん」というのを何度か繰り返すうちに、筆者は退院の日を迎えたというわけさ。

 この「ある看護師さんと仲良くしたら、他の看護師さん達に意地悪されて……」という体験を、現役の看護師さん(若い女性)に話したら、「あー、わかるわかる」と頷いていたよ。
 今になればわかるのだけれど、Aさんって仕事は出来るし患者には優しいのだけれど、実は気が強くて、しかも裏と表で顔が違うタイプの人だったようで……。
 そんなAさんにコロッとなついてしまった若い筆者は一部の看護師さん達に睨まれて、特に病棟でも飛びきりの美女だったBさんにイジメられてしまったようデス。「あんなオンナにコロッと騙されてなつくなんてムカつく!」ってね。

 でもイジメられたり意地悪された時、「対抗して仕返しするのでなく、褒め殺しに加えて親切を返すと効果がある場合がある」って、そのBさんのおかげで学べたよ。
 想像してみてほしい。
 もし貴方が「ムカつく!」とかの八つ当たりに近い不当な理由で誰かをイジメたとして。そしてその相手に親切や褒め言葉で応じられたら、罪の意識を抱いてかなり気まずく思うのではないだろうか。

 筆者に辛く当たってくれたBさんだけど、美人でプライドが高かったにせよ、芯から悪い人では無かったのだと思う。
「気に食わないというだけで、患者をイジメた」と自覚していて、だから筆者に恨まれるのではなく褒め言葉をかけられ手助けもされ、罪の意識にかられて随分と後悔したのではないだろうか。
 イジメに親切で応じられて気まずい顔をするBさんを見るのは、とても面白かったデス。

 ただこの「イジメや意地悪に親切や褒め言葉で応じる」と言うのは、Bさんのように自分の行為を恥じるだけの良心が残っている人が相手でないと効果は無いデスけれどね。
 イジメや意地悪が快感でしかない心の底からの悪人とは、徹底的に戦うか、あるいは極力避けて逃げるしか無いよ。

 それにしても、看護師さんの世界は今もまだ女性が多いから。
 だから女の世界の難しさや面倒くささは、どの病院でも間違いなくあると思う。
 貴方が男性で入院する事があると、つい可愛い看護師さんに目が行ってしまうだろうけれど。
 だがその看護師さん達の人間関係や人柄を見極めないうちに、「ちょっと親切にされたから」と舞い上がって特定の看護師さんと仲良くなってしまうと、筆者のように辛い目に遭う事になりかねないから、ご注意を。

 何か病気や怪我で入院する場合、大事なのはやはり主治医の腕と人柄ではあるだろう。
 しかし入院患者と最も身近に接するのは、間違いなく看護師だ。
 その看護師の教育が行き届いて人柄も良ければ、気持ち良く入院生活が送れるのは間違いなしだが。もし看護師の質があまり良くなかったり、看護師と感情的に行き違う事があったりすると、想像以上に辛い目に遭う事になる。
 寝たきりで体も心も弱っている時に看護師さんに意地悪をされると、たとえ些細な事でもかなりダメージを受けるよ。

 だからもし貴方が入院を余儀なくされるような事になったら、医師の技量だけでなく、看護師の質についても事前に調べておいた方が良い。
 そして入院した後は、必要以上に卑屈な態度を取る必要はないが、くれぐれも看護師さんの機嫌を損ねるような事はしない方が良い。

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