空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

自由よりも大切なもの

 今から半世紀ほど前、中国で文化大革命が起きた。
 端折って短く言えば、毛沢東に煽動された若者らが右寄りと見なした人々を吊し上げ、リンチや殺害などに及んだ極左原理主義運動だ。
 この文化大革命により、間接的な被害者も含めれば約二千万人が死んだと言われ、中国の発展は大きく停滞した。

 この文化大革命について、毎日新聞が『文革50年の中国』という連載記事を書いているのだが、文革に加わった加害者とその被害者の双方に取材していて、なかなか読みごたえがある。
 中でもこの9月18日に掲載された、張宇徳さん(64歳)の記事には、いろいろ考えさせられた。

 その張さんの父は、共産党が中国の政権を取る以前に皮革工房を経営していた。
 それゆえ一家は資本家として睨まれ、文革が始まると迫害を受け、張さんも農場で荒れ地の開墾などの重労働をさせられた。
 それで張さんは、当時まだイギリス領(正しくは租借地)で自由の地であった香港に密航を企てた。しかし失敗し、捕らえられて激しい暴行を受けた。
 だがその為に張さんの怒りは高まり、香港に脱出する決意はさらに高まった。
 そして何度も密航を試みた末に、張さんはようやく香港にたどり着いた。その後は工場作業や小売業をして少しずつ地位と財産を築き、現在はホテル等を経営する実業家になっている。

 しかしその張さんは、ビジネスなどで香港から中国本土に帰る度に、複雑な感情になるという。
 1976年に毛沢東が死ぬと文革も終わり、中国は共産党の一党独裁ながら経済発展を重視する政策に変わり、国だけでなく国民も豊かになった。
 張さんの故郷に残った友人にも、張さんより裕福になった者も、安定した年金生活を送っている者もいる。
 一方、今の張さんが住む香港は建前は自由で民主主義だが資本主義だから、老後の生活は自己責任で不安が大きい。
 だから張さんは、「命がけの密航で得たものは何だったのか」と自分に問うことがあるという。

 文革に苦しめられ、命がけで香港に亡命した張さんだが。
 逃げずとも中国で辛抱していれば文革も程なく終わり、香港に行ったのと同じかそれ以上に豊かになれ、安定した老後の暮らしも得られただろう。
 結果論だがその現実を見れば、「自分の苦労は何だったのか」と虚しくなってくるだろう。

 独裁政治と言うと、一般には悪いイメージがあるが。
 ところが中東の産油国には、多くの国民に支持されている独裁の王国が複数あるのだ。
 それら中東の産油国の王家には、石油による莫大な財力がある。そして中東の王家は、その石油売却で得た利益を国民にも惜しげもなく分配している。
 国民の多くは公務員で、しかも勤務時間は四時間(つまり半日)で給料もたっぷり。住居も広いマンションを格安で貸してくれる。そんな優雅な生活を国と王家から与えられていて、誰が反体制の思想に共鳴するだろうか。

 自由は大事で民主主義は素晴らしいと、今の日本の殆どの者は思っているだろう。
 だが現実には、自由や民主主義よりもっと大切なものがあるのだ。
 それはズバリ、安定した日々の暮らしだ。

 一党独裁か王家の独裁で言論の自由は無いが、仕事と生活が安定していて老後の年金も保証されている国と。
 自由だが何でも自己責任の競争社会で、仕事もいつ首になるかわからず、老後の年金も自己責任という国と。
 果たして貴方は、どちらの国で暮らしたいと思うだろうか。
「とにかく何より自由が一番大事!」と思う者ばかりではない筈だと、少なくとも筆者は思う。

 実は筆者の母は公務員だが、父は何かと事業をしたがる人だった。
 よく女優や女子アナなどが、いわゆる“青年実業家”と結婚して、世の人に羨ましがられたりするが。
 実業家というものは、皆が思っているほど良いものではないぞ。
 手がけた商売が上手く行っているうちは良いが、躓いたら後はどん底だ。
 筆者も幼い頃は父にあちこち連れて行って貰い、金持ちとは言えないまでも水準より良い暮らしをしていた。
 ところが、だ。筆者が小学生だった頃に、父が手がけていた会社が多額の負債を抱えて倒産してしまったのである。
 そこからは絵に描いたような貧乏暮らしで、以後は何年も古ぼけた狭い長屋で暮らした。たった二間の本物の棟割り長屋で、トイレすら水洗でなく汲み取り式だった。
 そしてその貧乏長屋にまで、借金取りが押し掛けてきた。
 だから筆者は貧乏の辛さと怖さを、肌身に染みて知っている。
 父はまた再起して、以前ほどでは無いにしろお金を稼ぐようになって借金も精算したが。我が家がその後マイホームも持て、筆者も大学まで行かせて貰えたのは、母が公務員という安定した仕事に就いていたからだと思っている。

 筆者はこのブログでも度々アベ政治を批判しているし、安倍政権は大嫌いだ。
 だがもしトリクルダウンとか言う、「まず大企業優先で、庶民どもはそのオコボレを待て」的な経済政策を改め、もっと国民一人一人に温かい方針でのぞんでくれたとしたら。
 王族が支配する某産油国のように、「国民の大半を公務員として高給で雇い、勤務時間も半日にしろ!」などと言うつもりはない。
 せめてやる気があり真面目に働く者には正規雇用の職を与え、残業は原則禁止で老後の年金も心配ないようにしてくれたら、筆者は「政権批判を止めろ!」と言われたら従ってしまうかも知れない。

 言論の自由も大事だが、それより暮らしの安定の方がもっと大事。
 それが親が事業に失敗して多額の借金を抱え、幼い頃に貧乏暮らしをした者の実感だ。

 自民党の改憲草案を見ても、安保法制などに対する安倍政権の姿勢を見ても、安倍氏が率いる今の自民党は戦前のような日本に戻したいという意志が感じられる。
 そして安倍首相は長期政権を望んでいて、明治維新百五十年目の2018年も長州出身の自分が首相を務め、さらには2020年の東京オリンピックも自分の任期中に開催したい意欲があるらしい。

 その安倍首相に、今のアベ政治に批判的な筆者からアドバイスを送りたい。
 今の安倍首相は大企業と外国にばかり目を向けているが、長期政権を目指すならばもっと自国の国民一人一人の暮らしを直接的に良くすることだ。
 正規雇用を増やし、残業を減らして、国民が安心して子供を産み育てられる環境を作る。そして年金制度も充実させる。
 それだけで、たとえ一党独裁的で強権的な政治をしようとも、多くの国民の支持が得られるだろうと筆者は考える。

 共産党に虐められ、命がけで中国から香港に逃れて実業家になった張宇徳さんが、今もまだ共産党が支配する言論の自由も無い故郷の中国で、自分以上に裕福になり安定した年金生活を送っている友人たちを見て、「自分の苦労は何だったのか」と複雑な気持ちになった。
 人間など、そんなものだ。
「思想と言論の自由が何より大事」と言える立派な人も、「世の中は競争で、落ちこぼれた人はホームレスになって餓死しても仕方ない」と言い切れる心の冷たい強者も、全体から見ればかなり少ないはずだ。

 筆者は、小泉政権以前の20世紀の自民党と、小泉政権以後の21世紀の自民党は、名前は同じでも中身はまるで別物だと感じている。
 小泉政権以前の自民党にあって、今の自民党に無いもの。
 それはズバリ、名もない庶民一人一人に対する優しさだ。
 現政権も含め、小泉政権以降の自民党はグローバリズムの名の元に新自由主義を押し進め、人々に競争と自己責任を強いている。
 そんな今の自民党を、筆者は嫌悪に近い気持ちで見ている。

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コメント


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前自民党には。

前自民党には。

黒澤氏の言う庶民目線がありました。

実は「田中角栄」ブームというのは、
前自民党へのノスタルジーではないか。

個人的には そのように考えています。

前自民党のマネをするだけで、
政権与党を奪取できる可能性は
相当高いのではないでしょうか。

ogotch | URL | 2016-09-24(Sat)11:51 [編集]


Re: 前自民党には。

 田中角栄氏は、政治資金の入手方法に問題があったかも知れません。

 ですが角栄氏には、間違いなく庶民目線と庶民に対する優しさがありました。
 角栄氏ほどではありませんが、かつての自民党には庶民に優しい政治家が幾人もいました。
 しかしそうした庶民に対する優しさのある自民党の政治家は、みな引退するか亡くなってしまいました。

 新自由主義に舵を切る以前の、庶民に思いやりのあった自民党が懐かしくてなりません。

黒沢一樹 | URL | 2016-09-29(Thu)14:40 [編集]