空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

大失恋(8)・恋をするのは正気を失うのと…

 それはともかくとして。
 ①班行動が原則の中で、何とかアズサと一緒になる機会を作る。
 ②そしてあわよくば、アズサの姿を持参のカメラにおさめる。
 この二つの事で頭が一杯だったからさ、ずっと天気が良くなかろうが、黒沢は全然気にならなかったし残念でも無かったよ。そしてそのアサッテの方向の頑張りが実も結んで、アズサともあちこちでいっぱい喋れちゃいまして、「え、修学旅行? いろいろ楽しかったし」くらいな感じでね。
 でさ、その後の修学旅行最後の晩に、ちょっとした出逢いも待っていたんだ。もうホント、「神様が黒沢に微笑んでくれたのかも」って感じの……ね。
 いや、結果から見ればそれは神様の微笑などではなくて、「地獄に突き落とす前の、悪魔の悪戯」ってトコだったんだけど。

 京都方面に修学旅行に行くとさ、最後の晩にたいてい、土産物を買いに新京極に行くよね。
 黒沢の中学でも二日目の晩に、新京極に行くことになっていてさ。
 何たって、夜の京都の町を歩くんだよ?
 そしてこちとら、頭ン中はあらぬ妄想で一杯になってる中坊の男子(チェリー)だよ?
 だからもう修学旅行の日程表を見た時から、旅先の夜の街での好きなあのコとのアレコレを、「ちょっとHな少年マンガ風」から「こっ恥ずかしくなるくらい甘々な少女マンガ風」まで、それこそいろんなバージョンで夢見てるワケでさ。

 ただマンガのキャラ達とは違って、現実の当人は丸刈りの頭に学帽を被った『昭和の中坊』なんだけど、そのあたりの不都合な真実wは、とりあえず脇に置いておいて。
 けど、まあ安全な場所とは言え、田舎から出て来た中学生を、都会の夜の街に放流しちゃうワケじゃん。だから先生らは「いいか、個人行動は厳禁だからな。絶対に班ごとに見て回るんだぞ!」って、皆に繰り返し言い聞かせてたよ。
 でもこちとら一番ヒドい時期の厨二病の妄想少年だしさ、鼻で嘲って「そんなん、知ったこっちゃね~よwww」って感じでさ。

 で、新京極に足を踏み入れて間もなく、黒沢は並んで歩いていた、同じ班で腐れ縁の悪友のマツオに囁いたよ。
「ハグレるぞ?」
「おう」
 交わした言葉は、ホントにただこれだけだった。
 これぞ以心伝心、ってやつだね。横目で一瞬視線を交わして頷き合うなり、観光客や他校の修学旅行の生徒らで賑わう新京極の雑踏の中、黒沢とマツオはスッと右と左に別れたよ。

 マツオもどうして瞬時に“ハグレる”気になったかは、黒沢には今もわからないけどさ。
 一方黒沢の方は頭の中はもう、アズサ、アズサ、アズサ……って、そのコトだけで頭が一杯だったよ。うん、脱法ドラッグか何かに酔ってイカれちゃってるような、マジでヤバい感じだったよ。
 黒沢の班はもちろんマツオと二人だけじゃないし、一緒に行動しなきゃならない仲間は他にも何人もいたよ。でもそこはもう、「シラネ、みんな好きにしてくれや」って感じでね。

 考えてみればただ無責任ってだけじゃなく、後先ナシにホントに無茶なことをしたと思う。だって新京極は広いし、観光客はイヤになるほど大勢いるし。時間ギリギリまで捜したって、アズサと出合えない可能性も充分あったよね。
 事実、黒沢が新京極を歩いていた間に顔を合わせた同じクラスの奴らも十人もいるかいないかで、一度も合わなかった奴の方がずっと多かったんだ。例の“ハグレた”班の仲間と合流できたのだって、「制限時間の後に、指定された集合地点で」だったし。
 あの時黒沢がしようとしていたのは、無理があるのを承知であえて例えれば、「上野のアメ横の雑踏の中で、目当ての人を捜し出そうとするようなもの」って言うか。

 と・こ・ろ・が! そんな状況の中でも、黒沢の例の妖……じゃなくて美少女アンテナは、しっかりと働いてくれちゃったのだ。
 夜の新京極を一人で歩き出してものの数分も経たないうちに、黒沢は一軒の小さなお店の奥で、商品を手に取っていたアズサの姿を見つけたよ。
 声をかけると、アズサは大きな黒い瞳で黒沢を見つめて、花が咲くように微笑んでくれて。
「この後さ、一緒に見て回ろう?」
 お土産にはどれが良さそうだとか、他愛もないことをしばらく喋った後でそう誘うと、アズサもすぐに頷いてくれてさ。
 修学旅行の日程表を見た時から脳内で思い描いていた「夜の京都の街を、大好きなコと二人で肩を並べて歩く」って妄想が、何とホントに実現してしまったのだよ。

 神様ってマジで居て、黒沢に微笑んでくれているのかも。
 根っからの宗教ギライで無神論者の黒沢が一瞬そう思いかけてしまったのは、その時でありマシタよ。
 いや、もしその時黒沢に微笑んでくれていたのは実は神様ではなく、メフィストと言うか悪魔だったんだけどね。

 夜の京都の街を、大好きなアズサと二人で肩を並べて歩いて……と言いはしたけれど、実はそれは正確な話ではなくて。
 実は黒沢と出合った時、アズサも一緒に行動する筈の女子の班からナゼかハグレていてさ。ただ黒沢のように一人ではぐれたのではなくて、学校では「いつ見ても二人一緒」って感じの親友のミカワさんと、そこでもまた二人一緒だったんだよね。
 アズサが黒沢の誘いに頷いた後、黒沢は当然アズサのすぐ横に並んでさ。
 で、残るミカワさんはと言うと、アズサを挟んで反対側の、少し後ろを遅れ気味について来ていたよ。

 まーね、黒沢の普段の態度を見ていればさ、「アズサに気がある」って丸わかりだったと思う。しかもいつもアズサとセットみたいな親友のミカワさんが、それに気づかない筈が無いよね。
 実際、一緒に歩きながら喋るのも殆ど黒沢とアズサで、ミカワさんは二人に話を振られた時だけそれに答えて……って感じで。だからもうね、実質二人だけで歩いてるようなものだったよ。
 今になって考えてみればさ、「ミカワさんには悪い事をしたナ」ってすごく思うよ。だって黒沢はあからさまにアズサ狙いだし、アズサも満更ではない様子だったし。

 その場の空気としてどう見たってミカワさんはお邪魔虫で、もう「ワタシ、何でここに居るんだろ」って感じだったと思うよ。
 まあね、「そーゆー時は気を利かせてそっとその場を離れて、二人だけにしてあげれば良いんだよ」って思う人もいるかも知れないけど。
 でもそうしたらミカワさんは、新京極でマジで一人だけになっちゃうし。そもそも黒沢が出合った時、アズサはミカワさんと二人だけだったからね。
 それでミカワさんなりにすごく気を使って、出来るだけ黒沢とアズサの邪魔をしないようにして、そっと後をついて来てくれたんだと思う。

 ホント超迷惑な話だよね、コレ。ミカワさんだって親友と新京極のお店を見て歩くのを楽しみにしていただろうに、フラっと現れた黒沢が、全部ぶち壊しにしてしまったワケでさ。
 なのに当時の黒沢はただ自分と好きなコの事しか考えられなくて、少し後ろを遠慮がちについて来ているミカワさんの気持ちとか、気付きもしなかったし、考えようともしなかったんだ。
 まあそのミカワさんの尊いギセイのもとに、アズサとずっと一緒に歩いたあの夜の事は、修学旅行の最高の想い出として記憶に残ったのだけどね。

 と言っても、別にそのムードの中で告ったわけでもないし、手を握りさえしなかったよ。
 だって第一、盛り場の雑踏の中だよ。告白だの手を握るだの、そんなコトできるワケないじゃん。同じ学校の誰に見られてるかわからないし、現にすぐ後ろにはミカワさんも居たしさ。

 NHKの朝の連ドラ『梅ちゃん先生』などを見ているとね、何か「プライバシーは水臭い事で、親しい仲では立ち聞きや盗み聞きも悪くナイ」って言いたいのかと思いたくなっちゃうよ。告白とかプロポーズとか別れ話とかの大事なことも、みな友達や家族の前で公開でするのがデフォ……って感じでさ。
 でも現実には、人って皆そんな“距離ナシさん”ばかりじゃないんだからさ。少なくとも黒沢は「親しい仲にもプライバシーは必要」って思ってるし、告白とかの大事なコトは、他人を交えずにまず二人だけの場でしたいと思うよ。
 だから新京極でのアズサとのことも、実際にはただ肩を並べて歩いただけなんだ。けどそこはまだ「彼女いない歴=実年齢」の中坊だったし、好きでたまらないあのコと旅先で夜の街を歩けただけで、もう胸がいっぱい……って感じでさ。

 その時、黒沢自身は幸せ気分にドップリ浸かりきってたけど、引率の先生に見つかりでもしたら間違いなく大目玉だったろうね。同じ中学の生徒で班行動を無視して女のコと歩いてたヤツなんて、他にもいたかも知れないけど黒沢自身はまるで見て無いし。
 ま、当時の黒沢にしてみれば「アズサと一緒に歩けるなら、担任に怒られるくらい何でもない」って感じでもあったんだけどね。
 でも「運良く」と言うべきか、新京極ではウチの中学の先生を不思議なくらい見かけなくてさ。もうね、「見回りするのは早々に止めて、どっかで休んでお茶でも飲んでたんじゃねーの?」ってくらいに。

 ただ、その班から離れてアズサと歩いていた間に、ある意味、担任の教師よりマズい相手に見つかっちゃってさ。
 ……リホさん。
 いろいろ見て回った中のあるお店を出た時、もう手を伸ばせば届くくらいの距離で、リホさんとその女子グループと出くわしちゃってさ。
「あっ、何やってんの!」
 黒沢とアズサの顔を交互に見て、リホさんはマジで怒ってたよ。

 考えてみればさ、リホさんってこんなひねくれた困り者の黒沢に、前からずっと良くしてくれていたんだよね。いつも話し相手になってくれて、まるで親友みたいに一緒に遊んでもくれて。
 いや、リホさんも女のコなんだって、頭ではちゃんとわかっていたさ。ワザとじゃないけれど着替えも見ちゃったし、ブラとか脚とか触らせてもらったコトもあったし。それだけでなく、顔立ちだって整っていてキレイな方だったしね。

 後になって振り返ってみると、リホさんとの想い出って案外あるんだ。
 黒沢が住んでいた地区の、ある年の夏祭りの夜に、黒沢はリホさんとバッタリ出合ってさ。
 その時黒沢は男の友達と一緒で、リホさんも女子のグループと一緒だったよ。けどごく自然に、黒沢はリホさんと並んで歩いていろいろ喋ったよ。
 ちょうど修学旅行の夜に、アズサとそうしたようにね。
 その夏祭りの夜の、別れ際のこと。
「これ、あげる!」
 言いながらスッと手を差し伸べて、リホさんは金魚すくいでゲットしたミドリガメを、黒沢に譲ってくれてさ。

 そう言えばこの修学旅行の前の晩だって、「部屋に遊びにおいでよ」ってリホさんは、わざわざ黒沢に声をかけてくれていたんだよね。
 ハッキリ言って、黒沢はリホさんのことが大好きだったよ。
 けどその好きって気持ちは、アズサに対する感情とは別の種類のものだったんだ。
 例えて言うならリホさんへの気持ちは、ずっと前から仲の良かった従姉妹や異性の幼なじみに対するみたいな、性別を越えた“好き”って感じかな。
 もう、普段から平気でどつき合いをしてたし、マジで箒を振り上げたリホさんに追いかけ回されたコトまであって。
 それだけにアズサに抱いたような恋愛感情を持つには、何と言うか距離が近過ぎたんだろうね。

 修学旅行の晩にアズサと歩いているのを、リホさんに見つかってしまってさ。
 その後の黒沢の選択肢としては、「リホさんにおとなしく叱られて謝って、アズサとはそこで別れる」ってのもあったと思う。
 なのに黒沢が選んだ行動は、「笑ってゴマ化しながら、アズサを連れて逃げてしまう」だったのだ。
 もうね、『To Heart 2』の姫百合珊瑚ちゃんの表現を借りるなら、当時の黒沢はそれくらいアズサのことが「好き好き好きー」やったんや。
 うん、レベル1のただの「好き」でもその上の「好き好き」でもなく、最高レベルの「好き好き好きー」ってヤツさ。

ToHeart2 DX PLUS(通常版)ToHeart2 DX PLUS(通常版)
(2011/09/22)
PlayStation 3

商品詳細を見る

 ギャルゲーのヒロイン達って、舞台が「とある地方の小都市」や離れ島であっても、ナゼか殆どみな標準語を喋るんだよね。
 けど『To Heart 2』を作ったアクアプラスは、会社の所在地が大阪のせいか、作品に大阪弁を喋るヒロインが出てきたりするのだ。
 で、『To Heart 2』での大阪弁担当のヒロインが、姫百合珊瑚と瑠璃の双子の姉妹なのだけれど、「大阪弁を喋る女のコの可愛さ」を、黒沢はこの珊瑚ちゃんに初めて教えられたよ。
 大阪弁の女の子と言うとさ、何か吉本の芸人さんみたいにポンポンまくし立てるのを、つい想像しちゃうじゃん? だから「大阪弁の女のドコが可愛いんだよ、ボケ」って思う人もいるかも知れないけど。
 でも実際は、女の子が大阪弁を優しく柔らかに喋った時の可愛さと破壊力ときたら、標準語の何倍、いやもう何十倍ってくらいスゴいよ。

 ギャルゲーに出てくる関西弁のヒロインって、日本の人口比から考えればかなり少ないけれど、それなりにいるよね。例えばセガサターンの名作『サクラ大戦』の李紅蘭や、少し遅れてプレステで出た一番初めの『To Heart』の保科智子とか。
 でも黒沢としてはただ騒々しいだけだったり、「こんなんがリアルに居たら、ただ近寄らずにスルーでいいんじゃね?」って感じの愛想の無さだったりで、どちらも攻略する気にさえなれなかったんだよね。
 その黒沢が、『To Heart 2』の大阪弁のヒロイン姫百合珊瑚には、ハッキリ言って萌えてしまいマシタ。そしてプレイしていて「うわぁ、珊瑚ちゃんマジ可愛いゾ!」って気持ちが行き過ぎて、誰にも渡すまいと独り占めしようとした挙げ句に、見事にバッドエンドを引き当ててしまったのデシタ。

 まあその「黒沢が姫百合珊瑚で初めて知った、大阪弁の女の子の可愛らしさ」や、その珊瑚ちゃんの言うレベル3の「好き好き好きー」の意味合いは、皆さん自身に『To Heart 2』の姫百合姉妹ルートをプレイして確かめて貰うとして。
 あの頃の黒沢は、とにかくアズサが「好き好き好きー」で、リホさんの気持ちだの、ましてや班長の責任だの団体行動だの、他のことには殆ど気が回らなかったんだよね。
 だから修学旅行から帰ると、頭の中はもうアズサでいっぱいで、目にもアズサの姿しか入らないみたいな、殆どビョーキみたいな有り様で……。

一瞬の光のなかで〈上〉 (扶桑社ミステリー)一瞬の光のなかで〈上〉 (扶桑社ミステリー)
(2002/03)
ロバート ゴダード

商品詳細を見る

一瞬の光のなかで〈下〉 (扶桑社ミステリー)一瞬の光のなかで〈下〉 (扶桑社ミステリー)
(2002/03)
ロバート ゴダード

商品詳細を見る

 イギリスのミステリー小説の名手、ロバート・ゴダードは、『一瞬の光のなかで』って作品の中で、恋についてこう書いているけれど。

 恋をするのは正気を失うのとたいして変わらんよ。まあ、それよりちょっと楽しいだけだ。

 ……後から冷静に振り返ってみると、確かにその通りだと思う。アズサに恋していた時の黒沢は間違いなく正気を失っていて、しかも楽しいどころか、想像もしないような苦しみがその後に待ち構えていたんだよね。

スポンサーサイト

PageTop

コメント


管理者にだけ表示を許可する