空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

純米酒(奥飛騨)と特別本醸造酒(立山)を飲み比べてみた

 近年、日本酒は若い人や女性にも飲まれるようになってきた。
 だが日本酒には、種別がいろいろある。
 本醸造に純米、それに吟醸など、そのどちらがクラスが上なのか、迷う人も少なくなかろう。
 実は筆者も、時々迷う。

 行きつけの近所のスーパーのお酒コーナーに、ほぼ同じ価格の日本酒があった。
 一方は純米酒だが、精米歩合は70%で。
 そしてもう一方は醸造用アルコールを加えている特別本醸造酒だが、精米歩合は麹米が57%で掛米が59%だ。
 どちらが良い酒なのか、本当にわからない。
 それで試しに、両方買って飲み比べてみた。

奥飛騨純米P1110525

 さて、まずは下呂市の純米奥飛騨だ。
 良くも悪くも、香り(匂い)が殆ど無い。
 よく嗅ぐと、米の穏やかな香りは感じる。
 ただ吟醸酒と違って良い香りも殆ど無い代わりに、嫌な臭いも全く無い。

 味は、基本的に辛口だ。
 しかし飲んでいると甘味、そして渋味も感じる。
 精米歩合が70%でしかないだけに、酒質に僅かだがスッキリしない部分を感じる。
 筆者の好きな山梨銘醸の七賢という山梨県の日本酒は、本醸造酒ですらない、最も安い普通酒ですら精米歩合は68%だ。
 それを考えると、この精米歩合は少しいただけない。
 純米を名乗るならせめて60%、最低でも65%にしてもらいたいものだ。

 とは言うものの、色は比較的黄色味を帯びていて、大手メーカーの安価なカップ酒によくあるような、活性炭を多く使用した濾過で旨味と共に雑味を取ってごまかしているような駄目な酒とは違う。
 精米歩合は70%と控え目でも、ごまかしが無いので米の旨味がしっかり伝わってくる。
 雑味は少しあるが嫌な味では無く、大手メーカーのカップ酒よりずっと日本酒らしい味わいがある。
 これはこれで、丁寧に造られた良い酒だと思う。

 旨味がありつつ雑味の無い澄んだ味でさらにフルーティーな香りもある純米吟醸酒が好きな筆者の好みのタイプの酒ではない。
 しかし男性的で力強いしっかりした味わいで、昔ながらの日本酒という印象だ。
 こういう日本酒も好きな人もいるだろうと、間違いなく思う。

 14%という度数や70%という精米歩合は物足りないが、水っぽさは全く無く濃い味で、「酒を飲んだ」という満足感はある。
 ただ味に澄んだ感じは無く、舌に僅かな雑味を感じる。
 辛口だが、純米だけに後から加えられたアルコールのツンツンした刺激は全く無く、味は丸い。
 量販されている大手メーカーの酒と違い、安易に活性炭を多用せずに米の旨味を保った、これはこれで価格なりに良い飛騨の地酒だと思った。

立山P1110419

 続いて富山県の立山特別本醸造だが、飲んだ最初の瞬間には甘さを感じるものの、すぐに辛さが追いかけてくる。
 近年、妙にもてはやされている水のような酒ではなく、米の旨さを感じさせる旨口の酒だ。
 大手メーカーの日本酒と違い活性炭で濾過され過ぎていないのも、澄んだ淡い金に近い色を見ればわかる。

 活性炭は便利なもので、あまりコストをかけずに造った酒の雑味を取り去ってくれ、スッキリした味にしてくれる。
 で、あちこちの蔵(工場?)で造った大量の酒を同じ味にして、同じラベルを貼り同じ銘柄の酒として出荷することも出来る。
 ただ活性炭は雑味だけ選んで取り去ってくれるわけではなく、酒の旨味も同時に消してしまうのだ。
 だから大手メーカーの酒には無色透明に近い、一見スッキリしているように感じられるが旨味や味の奥行きが足りない酒が多いのだ。
 その点、この立山は活性炭で誤魔化さず、良心的に造った酒だと言える。

 ただ麹米57%・掛米59%と言えば吟醸酒と言っても良いレベルの筈だが、この立山は吟醸香を殆ど感じない。
 わかるのは、穏やかな米の香りだけだ。
 しかしだからこそ、食事と合わせ何かを食べながら飲むのに良い酒だと思った。
 今時のフルーティーでスッキリした酒ではなく、香りは穏やかでしっかりした味わいの酒だ。
 良くも悪くも、昔ながらの酒という印象。

 あと、立山特別本醸造は冷蔵庫で冷たくすると辛さを強く感じ硬い印象も受けるが、常温に近くなるにつれて甘く丸く滑らかな味になってくる。
 今は日本酒を冷やしてワイングラスで飲む人が増えているが、この酒は冷やし過ぎない方が良い。

 さて、この立山特別本醸造を、ほぼ同じ値段の精米歩合70%の純米酒(奥飛騨)と飲み比べてみた結論だが。
 どちらが良いかは、本当に微妙だ。
 あえて言えば立山特別本醸造の方が僅かに雑味が少なく澄んだ味で、奥飛騨純米の方が僅かに濃い味で腰が強いという印象か。

 一方は精米歩合70%だが純米で、もう一方は醸造用アルコールを加えてはいるものの精米歩合は60%未満で、造り方はかなり違う。
 それだけに、どちらもほぼ似通った味であったのが意外だった。
 純米とかアル添とか吟醸とか、さらに精米歩合とか、近年では製法を詳しく書いた酒が増えている。
 しかしそうして種別や数字だけではわからないものだなと、今回つくづくと思った。
 種別やデータも参考になるが、実際は「飲んでみなければわからない」というのが本当のところだった。

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富士山麓

 キリンのウイスキー、富士山麓の売り上げが好調である。
 それで輸出も見据えて国際的に一般的な容量である一瓶700mlに変更され、同時に味もリニューアルされた富士山麓が発売された。
 で、遅まきながらその新しい富士山麓を買って味見してみた。

富士山麓P1120337

 キャップを開けると、チョコレートのような豊かな甘い香りが広がる。
 しかし度数50%だけに、同時にアルコールの刺激臭も感じる。
 ただ度数50%でかつ税込みで千五百円しない価格を考えれば、飲んでみると味わいは意外なほど滑らかだ。
 チョコレートやキャラメルコーンを思わせる甘い味が主体で、そして焦がした樽のスモークな味わいも少し感じる。

富士山麓・付録P1120340

 瓶に付いていたマスターブレンダーにより書かれた小冊子では、まずストレートで味わい、そして水を一匙だけ加え、さらにもう一匙水を加えて味と香りの変化を楽しむように勧められていた。
 そのガイドに従って水を一匙加えると、それだけでアルコールの刺激が、味でも香りでもグンと減る。
 そのせいか、味わいのコクと樽香がより良くわかるようになる。
 もう一匙水を加えると、より飲みやすくなる。
 味の深みと香りは少し薄まった気がしないでもないが、甘さがより明確にわかるようになる。
 一匙、二匙の水でこれほど味と香りが変わるとは、少し驚かされた。

 個人的には、50度そのままのストレートより、水を二匙加えた時の味が好きだ。
 アルコールのキツさを感じることなく、本来の味を存分に堪能できるからだ。
 水を二匙加えた富士山麓は、下手な度数40%前後の同価格帯のウイスキーよりずっと味わい深くコクがある上に、滑らかで飲みやすい。
「ウイスキーを飲んだ!」という満足感があり、余韻も長く心地良い。

 この富士山麓、「度数50%で、しかも税込みで千五百円もしない」という事を考えれば、味も良いし飲みやすい。
 しかし50%という度数をナメてはいけない。
 迂闊に飲むと、喉と胃が焼ける。
 また、体調が良くない日にストレートで飲むと、度数の強さが突出して感じられて、美味しく思えない。
 その日の体調によって、味の感じ方がかなり変わる。
 これをストレートで美味しく飲むには、それなりの体力が必要だ。

 さて、試しにこれも、流行りのハイボールにしてみたが。
 炭酸の力で樽香と甘い味が際立って飲みやすいし、ハイボールは好きではない筆者でもかなりイケた。
 ただ飲みやすいとは言え、元の度数が50%だから。
 度数40%の普通のウイスキーと同じ割合で炭酸で割ってグイグイ飲むと、胃の辺りが熱くなる。
 飲み比べなければわからない事だが、良質なスタンダード・スコッチで作ったハイボールと比べると、アルコールの荒々しさを感じる。

 付いていた小冊子から察するに、新しい富士山麓を造ったマスターブレンダーは、ストレートかそれに近い濃い状態で味わって飲んでもらいたいようだ。
 そのマスターブレンダーさんには申し訳ないが、ハイボールに続いて水割りも試してみた。
 1:1のトワイスアップでは味も香りも大幅に薄まって美味しくない上に、アルコールのピリピリした刺激がまだ残る。
 それはそうだ。度数50%の富士山麓のトワイスアップは度数25%で、焼酎を水や湯で割らずにそのまま飲むのと同じことになる。
 水割りとして飲むにはキツ過ぎ、味わって飲むには薄過ぎるというのが、この富士山麓のトワイスアップだ。
 ところがニッカの創業者の竹鶴政孝氏が好んだという1:2の水割りにしてみると、これがなかなか悪くない。
 ストレートでウイスキーを飲み慣れている者には、もちろん薄い。
 しかしトワイスアップでは気になったアルコールの刺激が、1:2の水割りでは嘘のように消え、日本酒や割った焼酎のようにスイスイ飲めるようになる。
 そしてその割合で割っても、甘い味やウイスキーらしい深みやコクが感じられる。
 こうして水割りにしてもそれらしい味わいが残るのだから、腰の強い良いウイスキーなのだと思う。
 小さな樽で熟成させた良さが、ストレートだけでなくハイボールや水割りにしてもよくわかる。

 ただ惜しいと思うのは、原酒の若さだ。
 筆者は度数46%で「舌の上で爆発するような」とたとえられるほどスパイシーなタリスカー10年もストレートで飲むが、この富士山麓にはタリスカー10年のような熟成感が足りない。
 ウイスキーらしいコクと味の深みを感じるのと同時に、原酒の若さによるアルコールのキツさも強く感じてしまう。
 まあ、税込みで千五百円もしない製品に、10年モノのシングルモルトと同じ熟成感を求める方が、そもそも間違っているのだが。
 しかしそれでも、心から「惜しい!」と思う。
 ウイスキーらしい味と深みが、その価格帯の製品としては驚くほどあるだけに、「三千円かそれ以上の価格になっても良いから、12年か、それが無理なら10年モノの富士山麓も出してほしい」と思ってしまう。
 三千円で富士山麓10年という製品が出たら、筆者は間違いなく買う。

 それはともあれ、味にも香りにも若い原酒の荒っぽさを感じてしまうものの、値段を考えれば良いウイスキーだと思った。
 あと、キリンのウイスキーにはバーボン風の味わいが明確な製品が少なくなく、以前の富士山麓もそうだった。
 しかしリニューアルされた今の富士山麓は、そのバーボン風味が少し薄らいだように感じられた。
 とは言えスコッチよりバーボン寄りの味わいで、チョコレートやキャラメルコーンの味がする。

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グランドキリン ひこうき雲と私

 筆者はビールは喉越しでゴクゴク流し込むのではなく、ゆっくり、じっくり味わって飲むのを好む。
 だから日本でよく売れているスーパードライのようなビールは、基本的に好まない。
 で、その筆者が心から「美味しい!」と思えたビールを、また一つ見つけた。
 グランドキリンの、ひこうき雲と私である。

グランドキリン・ひこうき雲と私P1110549

 そのひこうき雲と私は、「ベルギーやフランスの一部で冬に仕込み夏の農作業の合間に飲まれていた」セゾンビールなのだと言うが。
 栓を開けた途端に、柑橘系のフルーティーな香りが辺りに漂ってくる。
 飲むとほろ苦いが、同時に甘酸っぱさも感じる。
 苦味も甘味も酸味もどれも突出したものは無く、とても良くバランスの取れた味わいだ。

 決して重いビールではなく、気持ち良くスッと飲める。
 しかし味に深みとそれなりのコクがあり、スーパードライのように喉の渇きを癒す為に、あるいは頬張った食べ物を胃に流し込む為にゴクゴク鯨飲しては勿体な過ぎる良質なビールだ。
 食後に美味しいつまみを食べながら、良き友と語らい、あるいは好きな音楽をBGMにするなどして、リラックスして飲みたい、とても素晴らしいビール。
 グランドキリンはそれぞれどれも美味しくてハズレが無いが、これは個人的に特に良い出来と思った。

 軽やかさもあるので、日本人がよくするように喉越しでゴクゴク一気に飲み干してしまっても、かなり美味しい。
 しかしそれでは、このビールの価値と味わいはわからない。
 良質なホップを使用した上品な苦味や、麦のほのかな甘味や、柑橘を思わせるフルーティーな酸味が、喉越し一気飲みでは全く感じられなくなってしまう。
 ひこうき雲と私の複雑で奥深い本当の味は、ゆっくり、じっくり味わって飲まねばわからない。

 このひこうき雲と私だけでなく、グランドキリンはどれも安いものではない。
 税込みでは、三百円を越える値段だったりする。
 それをよく味わうことなくゴクゴク飲み干してしまうのでは、あまりにも勿体なすぎる。
 喉越しで一気飲みするなら、スーパードライや発泡酒や新ジャンル酒で充分だ。
 ところで、「スーパードライの味は、発泡酒や新ジャンル酒と似ている」と思うのは、筆者だけであろうか。

 ホップの苦味は強すぎることなく上質で、麦の甘味も心地良い。
 しかし最後に口の中に残るのは、柑橘の香りとサッパリとした酸味だ。
 軽やかでありながら味に深みもあり、後味も良いとても素晴らしいビールだ。

 確かにグランドキリンは、安いビールではない。
 しかし酔う為に安いビール類をたくさん飲むより、こうした良いビールを一本だけ飲む方がずっと楽しめるし、体の為にも良いのではないかと、泥酔し醜態をさらすまで大酒を飲みたがるバカ者が大嫌いな筆者は心から思う。

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かみなり三代(あえて最底辺の安酒を飲んでみた)

 この新年には、一ノ蔵無鑑査本醸造辛口という良い酒を飲んだ。
 で、今度は試しに安酒を飲んでみようと、馬鹿なことを思い立った。
 紙パックの一合で本体百円という、最底辺の日本酒である。
 値段で言えば、紙パックで2リットル898円という恐ろしい安酒もあるが、その種の安酒を2リットルも飲む自信も体力もとても無いので、最底辺の安酒は一合の紙パックの中から選んでみた。

 この種の最底辺の日本酒は、実は以前にも飲んだことがあるが、そのクラスの安酒というと、醸造用アルコールと称する、廃糖蜜の絞りカスから作った原価の恐ろしく安いアルコールの他に、糖類や酸味料も加えられているものが殆どだ。
 だがその中から選び出してみた、京都市伏見区の京姫酒造の、かみなり三代という酒は違う。
 糖類も酸味料も使わず、原材料は米(国産)と米麹(国産米)、それに醸造用アルコールのみである。
 また、このクラスの安酒は度数12~13%のものが多くを占めるが、これは15度以上16度未満という、一般の日本酒と同じ度数を保っている。
 普通ならば糖類や酸味料で味をごまかし、さらに度数も12~13%に抑えてやっと達成している一合で百円の酒を、アル添だけでどうやって造ったのか、そしてそれはまともに飲めるだけの味なのか、そこに興味をひかれ、半ば怖いもの見たさの気持ちで買って飲んでみた。

かみなり三代P1110285

 その京姫酒造のかみなり三代を冷蔵庫で冷やしておき、いつものようにグラスに注いでみたが。
 香りだが、これが意外に悪くない。
 安酒というと、最初から酔っ払いのゲロのような嫌な臭いのものも少なくない。
 しかしこのかみなり三代には、安酒特有の不快な臭いが全く無い。
 そして僅かにだが、日本酒らしい好ましい香りがある。

 飲んでみるとスッキリしていて、安酒にしては驚くほど雑味が少ない。
 同価格帯の、糖類や酸味料を加えた安酒には、一口飲んだだけでペッと吐き出さざるを得ないほど、信じられないほど不味い酒が少なくない。
 しかしこのかみなり三代はそれとは違い、雑味と嫌味が少なく普通に飲めてしまう。
 最初は辛い印象が強く、そして渋味や苦味もある。
 しかし少しぬるくなってくると甘さや米の味を感じられるようになってくる。
 ただ、醸造用アルコールを多く使っているのだろう、飲んだ後でアルコールの刺激で口の中がピリピリする。
 飲んでいる時は(値段を考えれば)悪くないのだが、後味はあまりよろしくない。

 とは言うものの、この価格の最底辺の安酒にしては驚くほど味にも匂いにも嫌味が無い。
 安酒にしてはとても雑味が少なく、しかも水っぽすぎるわけでもなくそれなりに味や旨味もあり、百円とは思えない良い出来だ。
 同価格帯の酒は糖類や酸味料も加えているのが当たり前で、口に含んだ最初の一口ですら吐き出してしまいたくなるほどの、飲むに耐えないクズ酒が多い中、これは出色の良く出来た酒だ。
 とりあえず普通に飲めるレベルの酒を、この価格帯で、糖類や酸味料も使わず、しかも15度以上16度未満でよく造ったものだと感心する。

 もちろんこれも最底辺の安酒には違いないし、筆者が喜んでいつも晩酌に飲みたいと思うような酒ではない。
 ただお酒を飲む際に価格を最優先する人には、とてもありがたい最良の酒ではないかと思う。
 これを造った京姫酒造は、まず「紙パック一合で百円」という価格ありきで造ったのだろうが、そのコストの縛りの中で、メーカーや蔵人らはベストを尽くして良い酒を造ったと思う。
 容器に「旨し酒は15度也」、「旨し酒は代々飲み継ぐなり」と書くだけの、メーカーの心意気を感じる酒だ。

 糖類を使わずに15度以上16度未満を実現しただけに、添加された醸造用アルコールのツンツンした感じはあるが。
 しかしその他は何の問題も無い、飲みやすい酒だ。
 糖類無添加だから、飲んでいてベチャベチャ嫌な感じが残らず、スッキリしている。
 それは筆者が普段飲んでいる純米酒などに比べてしまったら、雑味もそれなりにあるし旨味も少ないし、アルコールの刺激もキツいが。
 しかしこの価格の安酒でこれほどまともに飲める酒は、個人的にはこれ以外に知らない。
 これはこれで伏見の銘酒と言えようし、筆者は少なくともワンカップ大関や菊正ピンなどの大メーカーの安い酒より、こちらの方が良く出来ていると思うし好きだ。

 筆者のように良い酒を少量だけ味わって飲むのではなく、価格を最優先してたくさん飲みたい人にはお勧めの、安酒の隠れた銘酒だ。
 一合で百円の紙パックの安酒は、飲むに耐えない酷いものばかりだが。
 少なくともこのかみなり三代は、人がちゃんと「飲める」酒だ。

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一ノ蔵無鑑査本醸造辛口

 筆者は以前から、日本酒にアルコールを添加することについて批判的である。
 確かに日本酒には、江戸時代から日本酒に焼酎を混ぜる柱焼酎という手法があった。
 だからソムリエの田崎真也氏のような著名人まで、「アル添は昔からあった伝統的な手法なのだ」と言い、アル添を擁護している

 馬鹿を言ってはいけない。
 江戸時代の柱焼酎に使われていたのは、本格焼酎である。
 今のアル添に多く使われているような、サトウキビの搾り滓の廃糖蜜から作られた、ただの安物のアルコールとは違う。
 田崎真也氏などのように、「アル添は昔からあった伝統的な手法」と言うならば、少なくともその添加するアルコールには、米から造ったアルコールを使用すべきである。
 そうでなくては、「アル添は伝統的な手法」などと胸を張れない。
 以前紹介した吉田蔵大吟醸のようなごく一部のもの以外のアル添酒は、嵩増しとコストカットの為に安い廃糖蜜から作った味も素っ気もない安物アルコールで薄めただけの、純米より格の落ちる安酒ばかりだ。

 で、本当に味の調整と香りを引き出す為にアルコールを使用した銘酒として吉田蔵大吟醸を紹介したところ、その拙文を目にしたKS34さんからアルコールに米から製造したものを使用したお酒として、一ノ蔵無鑑査本醸造辛口を紹介して頂いた。
 一ノ蔵は良い酒だという噂は聞いていたが、無鑑査本醸造についてはアル添だからと敬遠してきた。
 しかしアルコールに米から造ったものを使用していると聞き、早速買ってこの年末年始に飲んでみた。

一ノ蔵本醸造P1120535

 飲む前にラベルに書いてある細かい文字の説明文をよく読んでみると、なるほど、「味を調整する目的で、ごく少量使用する醸造用アルコールも米から製造されたアルコールのみを使用しております」と書いてある
 で、いつものように冷蔵庫で冷やしたものを、ワイングラスに注いで飲もうとしてみたのだが。
 控え目にだが、フルーティーな吟醸香をまず感じた。
 下手な純米酒よりフルーティーなくらいである。
 これも、少量加えた良質なアルコールの力によるものだろうか。

 飲んでみると基本的には辛口で、僅かに苦味と渋味も感じる。
 薄いのではなくスッキリした味で、ただ水のようになめらかというのではなく、味に深みや広がりもしっかり感じる。

 この酒は、エール系のビールと同じであまり冷やし過ぎない方が良い。
 冷蔵庫から出して間もないうちは、「スッキリ辛口」という印象が強いのだが。
 ゆっくり味わって飲んでいるうちにぬるくなるにつれ、甘さと米の旨味をしっかり感じるようになる。
 美味しく飲みやすいのでついスイスイ飲んでしまうが、冷やで飲む場合は、冷蔵庫から出したら少し待った方がより美味しく飲めるし、この一ノ蔵無鑑査本醸造の本当の味わいがよくわかる。

 で、「もしやこれは、燗酒にしてもイケるのでは?」と思い、本来ならば銚子に入れ沸かした湯につけるべきであるが、既にグラスに三杯ほど飲んで酔っぱらっていた筆者は、横着にも電子レンジで温めてしまった。
 それでも美味しかったデスよ、一ノ蔵無鑑査本醸造の燗酒は。
 筆者のやり方(電子レンジ使用)が悪かったのか、温めると香りは無くなってしまうが。
 しかし冷やで飲んだ時とは比べものにならないほど、丸く柔らかで優しい口当たりになる。
 冷やでもとても飲みやすいが、燗酒にするとものすごーく飲みやすくなりマスよ、このお酒。

 とにかくすごく良い酒だ、この一ノ蔵無鑑査本醸造は。
 下戸で、清酒なら「一合でもう充分」という筆者が、ワイングラスで三杯飲んでもまだ飲み足りず、グイ飲みで燗酒にして更にもう一杯飲んでしまったくらいだ。

 よくあるアル添の日本酒には、添加された安物のアルコールの刺激がツンツンするものが少なくない。
 そして図々しいメーカーは、そのアルコールの刺激を「辛口」と称する。
 嵩増しの為にアルコールを使用し、その結果水っぽく薄味になりアルコールの刺激だけがピリピリするのを「淡麗辛口」と強弁するメーカーが多いのだから嘆かわしい。
 日本酒離れが進むわけだと、悪い意味で納得してしまう。

 しかしこの一ノ蔵無鑑査本醸造は違う。
 アルコールのツンツンピリピリする不快な刺激は全く感じず、滑らかで飲みやすい。
 純米酒に比べて薄く水っぽいという事も無く、スッキリしている上に味に深みや奥行きがある。
 それでいて本体価格は八百円台で、税込みでも千円でお釣りが来る。
 四合で税込み千円未満でこれほど美味しく飲みやすく上質な日本酒を、筆者はこれまでに飲んだ事がない。
 これを飲んだ筆者の親戚は、「純米酒より美味しい、大好き!」と言った。
 そして純米酒びいきの筆者も、「下手な純米酒より間違いなく美味しい」と認める。

 ラベルには「伝統的な手造りによる製造法のもとに醸造される高品質の本醸造清酒です」とあるが、まさにその通りの良心的なお酒だ。
 しかもそれが税込み千円せず、肩肘張らずに普段の晩酌酒として飲めるのだから嬉しい。
 まさに株式会社一ノ蔵が「良質の清酒をお求めやすく」と言う通りの、飲み飽きしない、何杯でも飲めてしまう銘酒だ。

 誤解しないでほしいが、これより旨い酒は幾つもある。
 但しそれらは皆、大吟醸だの何だのと言う、これの何倍もの値段の高級酒だ。
 そしてそれらの酒が、その値段の差に比例するほど、この一ノ蔵無鑑査本醸造より何倍も美味しいとは思えない。
 値段と品質とのコスパで考えれば、驚くほど美味しい良酒だと断言できる。

 この一ノ蔵無鑑査本醸造のおかげで、筆者はこの年末年始、良い意味で酒浸りの良い気分の日々を過ごすことが出来た。
 一ノ蔵無鑑査本醸造、また買って飲みたいと思うし、親しい人にも飲ませてみたいと心から思った。

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新旧両方のティーチャーズの飲み比べ

 近年、筆者のお気に入りのスタンダード・スコッチが二種、リニューアルされた。
 ホワイトホースと、ティーチャーズである。
 リニューアルした後、どちらも店頭での小売り価格が安くなったのは結構なことだが、同時にどちらも味が落ちたような気がしてならず、とても残念に思っていた。

 そんな時、オゴ-ログogotchさんから、新旧両方のティーチャーズを頂いてしまった。
 で、早速比べて飲んでみることにした。
 以前は、かつて飲んだ旧いタイプのティーチャーズの味と香りの記憶をもとに、リニューアルされたティーチャーズの記事を書いた。
 しかし今回はogotchさんのご厚意により、同時に飲み比べてみることが出来たので、より正確な比較ができる。
 ちなみに、写真の右の方が以前のティーチャーズで、左が現在売られているリニューアル後のティーチャーズである。

ティーチャーズ新旧P1120543

 リニューアル前のティーチャーズには、裏のラベルに小さな文字で「高いパーセントでハイランドのピーテッド・モルトを使用している」という趣旨のことを書いてあった。
 しかしリニューアルされたものは、表のラベルに比較的大きな字で“HIGH IN PEATED MALT”と明記してある。
 その通り、キャップを開けると確かなスモーキー・フレーバーが漂う。
 スタンダード・スコッチでこれほどスモーキーさを前面に出したのは、ジョニ赤くらいではないだろうか。
 そしてただスモーキーなだけでなく、甘い香りも感じる。
 しかし同時に、若い熟成の足りないアルコールの刺激的な匂いも強く感じる。

 飲んでみると味も甘いが、同時に若いアルコールの刺激を舌にツンツン感じる。
 これは原酒がとても若い。
 曲がりなりにもスコッチだから、国産の安いウイスキーのように、若すぎるベビーモルトや殆ど樽熟成していないグレーンを使ったりはしていないだろうが。
 スコットランド産のスコッチだから、現地の法に従って、最低三年は樽貯蔵しているのは確かだ。
 しかしその三年ギリギリしか樽貯蔵していないのではないかと疑わせる、原酒の若さを感じる。

 ただ近所の酒屋で本体価格898円という安さを考えれば、決して悪いウイスキーではない。
 余韻にもちゃんとピート香が残る。
 とは言うものの、ストレートで飲むとやはり若いアルコールの刺激がキツい。
 胃に食べ物が残っていない状態でうかつに飲むと、胃がカーッと熱くなるのがわかるし、喉も焼けやすい。
 このウイスキーの正式な名前は“ティーチャーズ・ハイランドクリーム”だが、リニューアル後のティーチャーズは若いアルコールの刺激がキツ過ぎて、ハイランドのモルトによるクリーミーさを全く感じられない。
 なめらかさやクリーミーさの点では、ジョニ赤はもちろん、少し前に飲んだカティーサークとも比較にならない。

 このリニューアル後のティーチャーズ、ストレートでも飲もうと思えば飲める。
 しかし味の面でも香りの面でも若いアルコールの刺激がツンツンし過ぎていて、ストレートで飲むより割ってハイボールにでもした方が美味しく飲めるのではないか。
 少なくとも本体で1238円はするサントリーの角瓶でハイボールを飲むよりは、898円で伝統ある本物のスコッチのティーチャーズのハイボールを飲んだ方がマシだし、お代も安く済む。

 さて、以前のティーチャーズだが、リニューアル後の現行タイプのものと比べて飲んでみると、なめらかさが明らかに違う!
 以前のティーチャーズはただスモーキーフレーバーがあるだけでなく、若いアルコールのツンツンした嫌な感じが殆ど無く、“ハイランドクリーム”と名乗る資格が充分にある。
 そして飲み比べてみると、今の新しいティーチャーズは味に深みがなく、ピート香ははっきり感じるものの味が単調な印象を受けた。
 価格で言えば、以前のティーチャーズの方が少し高かった。
 しかし以前のティーチャーズはストレートでも充分に美味しく飲める、お値段以上のスコッチだった。
 それに比べて今のティーチャーズは、安いが割ってハイボールにするしか飲みようが無い、どうと言うことの無い安物スコッチという感じだ。

 ちなみにかつてのティーチャーズは、いろんな輸入会社が取り扱っていた。
 しかしリニューアル後のティーチャーズは、ほぼサントリーが一手に取り扱っている。
 これは筆者の邪推だが、サントリーはティーチャーズを傘下におさめ、日本のハイボール・ブームに合うよう、割って飲むのを前提にした新しいティーチャーズを、WM.TEACHER & SONS社に作らせたのではないだろうか。
 より若い原酒を使わせ、より低価格のものを。
 安くなったのは消費者にとっては結構なことだが、その分だけ原酒も若いものを使い、アルコール臭くて刺激も強く少しもクリーミーでない駄作にしてしまったのでは、まるで意味がないではないか。

 筆者がティーチャーズを知ったのは、良酒しか置かないこだわりの強いリバティという酒店で、「良心的なスタンダード・スコッチ三種のうちの一つ」として紹介されていたからだ。
 ちなみに、その店が勧める良心的なスタンダード・スコッチ三種は、かつてのティーチャーズ、それにホワイト&マッカイベルだ。
 その頃のティーチャーズは裏のラベルの説明文がもっと長く、「通常のブレンデッド・スコッチはモルトを30%くらいしか使わないが、このティーチャーズは45%使用している」とも書いてあった。
 その頃の、リニューアル以前のティーチャーズは、本当に美味しかった。
 そのティーチャーズをリニューアルの名のもとに台無しにしてしまったサントリーが、筆者はとても憎い。

 サントリーはおそらく、「ウイスキーをストレートで飲むなら山崎を、それ以下のものはハイボールにして割って飲め」と言いたいのだろう。
 そしてストレートでも美味しく飲めた伝統ある銘酒ティーチャーズを、より若い原酒を使わせ価格を下げさせ、割らねば飲みにくいハイボール用の安酒にしてしまった。

 ティーチャーズ本来の味を知りたい方は、是非リニューアルされる前のものを探してみて頂きたい。
 筆者の住む家の近くのドラッグストアのお酒コーナーに、これもリニューアルされ安くなったが不味くなってしまったホワイトホースの、以前のものが薄く埃をかぶってまだ何本も残っている。
 だから旧いティーチャーズも、地方の酒屋やドラッグストア等のお酒コーナーの片隅に、まだ残っているかも知れない。

 新旧のティーチャーズを見分けるポイントだが、旧いものはラベルの中央にWM.TEACHER & SONS社のTとWの文字を組み合わせたマークがあり、瓶にもそれが大きく刻印されている。
 そして新しい方は瓶がスリムになり、刻印されているのも社名から麦(?)の絵柄に変えられている。
 このスリムな瓶で麦の絵柄が刻印されているティーチャーズは、「より安いスコッチをハイボールで飲みたい」という人以外は、買っては駄目だ。

ティーチャーズ旧ボトルP1120551

ティーチャーズ新ボトルP1120552

 それにしても、良質で知られた伝統あるスタンダード・スコッチの味と香りまで悪い方に変えて、ハイボールにして割って飲む用の安酒にしてしまうとは。
「良い酒を造っていたメーカーも、サントリーに買収されるとこうなる」という見本を、ティーチャーズが実にわかりやすく教えてくれた。

 だからこそ、ogotchさんから頂いたリニューアル以前のティーチャーズは、「心して大切に飲まねば」と強く思った。

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ブラックニッカ・アロマティック(ブラックニッカ限定三種を味わう)

 この秋、ニッカがまたブラックニッカの限定ウイスキー、ブラックニッカ・アロマティックを出したことは新聞の経済欄のニュースで見て知っていた。
 だが生来のものぐさで「急ぐことはない、また後で買えば良いかな」と思っていたところ、自分で買う前に敬愛するogotchさんから頂いてしまった。
 おかげで、ニッカのこの秋の限定品をじっしり味わうことができた。

ニッカ・ブラックニッカ・アロマティックP1120422

 さて、封を開けてみると、途端に果実のような甘い香りが漂う。ハニーでも花でもキャラメルコーンでもなく、間違いなく果実の香りだ。
 あと、それに加えてごく僅かだが、チョコレートの香りも感じる。
 スタンダード・スコッチや千円台の安価な国産ウイスキーは、グラスを揺するとアルコールの匂いがツンと鼻孔を突き刺すものが少なくない。
 しかしこのブラックニッカ・アロマティック(以下BNアロマティック)はグラスを揺すると心地良い香りだけが優しく、かつ華やかに広がり、若いアルコールの刺激的な匂いは無いと言っても良い。
 これは良いウイスキーだと、香りを嗅いだだけで感じる。

 味も優しい上品な甘さが主体で、まろやかで角が無く、ストレートで気持ち良く美味しく飲める。
 ただ甘いだけではなく、樽の心地良い香りが後に残り、さらに僅かなビターさが味を引き締めている。
 香りは華やかだ、しかし決して自己主張が強すぎるということは無い。
 アクの強さやいやみのない、華やかでかつ品の良い美人、といったところだ。
 そして飲み口も優しく、ストレートを飲み慣れている人ならチェイサー無しでどんどん飲めてしまうまろやかなウイスキーだ。

 スモーキーさは、最初は全くと言っていいほど感じない。
 それが開封して空気に触れさせ数日経つと、ほんの僅かにだがスモーキーさらしきものも感じる。
 余韻は優しく心地良く、アイラ系のスコッチのように強いものが残るわけではないが、持ち味の果実香が控えめに、しかし比較的長く続く。

 これはとても繊細で上品なウイスキーだ。
 本当は、ビターさもスモーキー香も僅かながらあり、余韻も強くはないが長く続く。
 しかし優しく飲みやすいので、グイグイ飲んでしまうと「果実香のある、甘いウイスキー」という印象しか残りにくい。
 そしてこのウイスキー、割って飲むのに全く適していないのだ。

 水と1:1で割ったトワイスアップでも、甘さは残るが飲みやすくなる以上に薄味になり、そして何よりもこのBNアロマティックの持ち味である筈のアロマ、魅惑的な香りが消え失せてしまう。
 だからそれ以上に薄く割ったら、もっと酷いことになる。

 日本人は、ウイスキーと言うとすぐオン・ザ・ロックを連想しがちだが。
 水割りやハイボールも含めて、筆者はウイスキーに安易に氷を入れることを勧めたくない。
 何故なら、冷やすと飲食物は香りが沈み込み、そして甘さを感じにくくなるからだ。
 ウイスキーもそれと同じで、氷で冷やし込むと折角の香りが台無しになってしまう
 だから真夏でも、ワインに氷を入れて飲む人など滅多にいないのだ。
 そしてさらに、氷は甘みも感じにくくさせる。
 特に果実の華やかな香りと甘い味が持ち味のこのBNアロマティックに氷など入れたら、香りも味も本当に台無しになってしまう。
 だから筆者はオン・ザ・ロックは好まないし、特にこのBNアロマティックに氷を入れてはならないと、心から思う。
 特に水で割ってさらに氷を入れるなど、冒涜に近い行為だと個人的に思う。

 今の日本では、ウイスキーと言えばハイボールで飲みたがる人が多いが。
 ハイボールにするとただ軽く(正確には薄く)飲みやすくなるだけでなく、炭酸の力で若いウイスキーから香りをより引き出せる場合もある。
 しかしこのBNアロマティックのハイボールは駄目だ。
 飲みやすい。
 ただそれだけになってしまう。
 軽いというより薄味になりコクも深みも無くなり、さらに香りも殆ど無くなってしまうからだ。
 決して不味くはないし、あの角瓶のハイボールよりは上品で繊細な味にはなるが。
 しかし「飲みやすい」というより、「持ち味が台無しになった」という印象の方がずっと強い。
 先にストレートで味わってしまってからハイボールを飲むと、「良さが無くなり、味も香りも腰砕けになった」としか思えなくなる。

 このBNアロマティック、良いウイスキーだが、その良さを堪能するのはなかなかに難しい。
 ストレートでは飲みやすく、しかも香りも味も存分に堪能できるのだが。
 何しろ氷を入れてロックにしても、水で割っても、炭酸で割ってハイボールにしても駄目なのだ。
 駄目と言うのは極論かも知れないが、本来の繊細かつ華やかな香りと味を堪能するにはストレートしか無い。

 先週、カティーサークについて書いた時、「ウイスキーは、本来ストレートで飲むのが一番」と私見を述べた。
 しかし筆者も実感しているが、ビールやせいぜい日本酒程度の軽い酒を日頃飲んでいる日本人には、度数40%かそれ以上のウイスキーやブランデーをストレートで飲むのは、なかなか難しい。
 何度か失敗して喉と舌が焼けるような辛い思いをしながら、経験をつみコツを掴まなければ、強い蒸留酒をストレートでは味わえない。
 だから日本人は、ウイスキーと言えば昔は水割り、そして今はハイボールにして、ビールや日本酒のようにゴクゴク飲んでいる。
 欧米人のように時間をかけ、じっくり、ゆっくり味わうのではなく。

 で、この私見では「ストレートでなければ美味しくない」BNアロマティックだが、ウイスキーをストレートで飲んでみる練習に最適であるように思えた。
 例えばサントリーの角瓶など、アレは薄く割ってハイボールにでもしなければ飲めないシロモノで、ウイスキーはストレートで飲みたい筆者でも、何かで割らねばとても飲めない。
 筆者の大好きなスコッチの銘酒タリスカー10年も、「舌の上で爆発するような」と評されるほどスパイシーで、筆者はストレートで平気で飲むが、「苦手な人もいるだろうな」というのはわかる。
 しかしこのBNアロマティックは口当たり良くまろやかで優しく、ストレートでとても飲みやすいのだ。
 日本酒やワインのようにゴクンと飲むのではなく、唇を浸すようにして、香りと味と余韻を楽しみながらワンショット(30ml)を30分くらいかけて飲むというセオリーを守りさえすれば、このBNアロマティック、ウイスキー初心者でもストレートで美味しく飲める。
 ストレート以外の飲み方では美味しくなくなるが、優しい味わいでストレートで飲みやすく、初心者がストレートで飲むのにものすごく適している。
 しかも価格は、これで二千円程度ときている。
 試しに、これと五百円くらいしか違わないあの角瓶と、ストレートで飲み比べてみてもらいたい
 特に、「ウイスキーはサントリー!」と信じて疑わない方々に。

 さて、このBNアロマティックで、バランスの取れたブレンダーズ・スピリットと、余市のモルトを主体にしたクロスオーバーと、宮城峡のモルトを主体にしたこのアロマティックで、ブラックニッカの限定品が三種揃ったわけだが。
 で、この機会にBNアロマティックを、ブレンダーズ・スピリットおよびクロスオーバーと飲み比べてみた。

 まずBNブレンダーズ・スピリットと飲み比べてみると、ブレンダーズ・スピリットの香りも充分好ましいが、アロマティックの香りの方が更に華やかだ。
 だがブレンダーズ・スピリットにも、穏やかなスモーキー香の他にアロマティックの果実に似た香りもある。
 飲んでみると、アロマティックの方がより甘い。そしてアロマティックの方が、良くも悪くもライトだ。
「良くも」というのはアロマティックの方が軽快で飲みやすく、「悪くも」というのはコクや深みはブレンダーズ・スピリットの方が明らかに上、という意味だ。
 が、ブレンダーズ・スピリットのような力強さこそ無いものの、BNアロマティックの飲み飽きしない優しいまろやかさも魅力だ。
 BNアロマティックは、心地良い甘さと樽香が後まで口の中に残る。

 さて、続いてBNクロスオーバーだが、これは口当たりこそまろやかだが、甘さのすぐ後にスモーキー香とヨード香がガツンと来る。
 それでいてただピーティーなだけでなく、シェリー樽の華やかな香りもあるし、コクも深みも充分で飲みごたえがある。
 だが香りの華やかさと飲みやすさは、BNアロマティックがこの限定三種の中で一番だ。

 この限定三種のうちで、BNブレンダーズ・スピリットは本当にバランスの取れた良いウイスキーだ。
 華やかな香りもあり、穏やかなピート香もあり、甘くコクと深みがあって、余市と宮城峡のモルトの良いところを寄せ集めたようなウイスキーだ。
 2500円という価格を考えれば、非の打ち所のない逸品と言えるだろう。
 このBNブレンダーズ・スピリットを飲んでしまうと、スーパーニッカなど飲む気になれなくなってしまう。スーパーニッカも、決して悪いウイスキーではないのだが……。
 BNクロスオーバーはそのブレンダーズ・スピリットのバランスをあえて崩し、ピート香とシェリー樽の香りを突出させた個性的なウイスキーだ。
 好き嫌いがはっきり分かれるであろうウイスキーで、筆者はこの個性が大好きである。
 良い意味でその対極にあるのが、今回紹介したBNアロマティックだ。
 香りが華やかで味も甘くまろやかな、誰にでも好かれるストレートの入門用に良いウイスキーと筆者は思った。
 BNアロマティック、飲んだのはogotchさんから頂いたものだが、気に入って更に追加を酒屋に買いに走ったのは、言うまでもないことである。

 このブラックニッカ限定三種、どれを取っても良い出来だが。
 お気に入りのどれか一種類だけに絞るのではなく、三種揃えてその晩の気分に合わせて違うものを選んで飲むのは、とても楽しい。

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カティーサーク

 カティーサークと言えば、有名なスコッチだが。
 筆者はウイスキーを飲み始めた頃にこのスコッチを飲んで、正直「何てマズいウイスキーだろう」と思った。
 何故こんなものが有名でよく売れているのか、全く理解できなかった。
 同じカティーサークでスペインのワインを貯蔵していた樽を使用した、限定仕様のスパニッシュ・バレルのものも飲んでみたが、これもマズいと思った。

 ウイスキーと言えば、筆者は基本的に甘くスモーキーで力強いスコッチが好きだ。
 で、カティーサークは「国内の地元民に愛されるスコッチらしいスコッチ」というのではなく、輸出することを念頭に置いて造られたライトなスコッチだ。
 だから筆者は長いこと、カティーサークも含め「ライトなスコッチは美味しくない」と思ってきた。

 ところがインバーハウスというスコッチを飲んで、その印象がガラリと変わった。
 ライト系だと言うのに、そのインバーハウスは繊細で優しい上に味わい深く、とても美味しかった。
 それを飲んで、筆者の心の中に「カティーサークも、実は美味しいのでは」という思いが芽生えた。
 で、「カティーサークをいつか飲み直してみたい」と、ずっと思っていた。

 その思いが通じたのか、敬愛する酒と人生の師とも言える方に、カティーサークをいただいてしまった。
 カティーサークだけでなく、新旧のティーチャーズとグランツ・ファミリー・リザーブも含めた四本セットで。
 それでその先輩に感謝しつつ、早速カティーサークから味見をさせていただいた。

カティーサークP1120344

 キャップを開けると、フワリと花の香りが漂う。
 そして続いて、若いアルコールの匂いも僅かに感じた。
 それに加え、樽のウッディな香りも感じる。

 飲んでみるとハニーな甘さが第一印象で、スタンダード・スコッチとしてはかなりまろやかな部類だ。
 香りにはアルコールの匂いもあったが、味の方はアルコールの刺激は少なくとても優しい印象。
 値上げしてコレより高価になったサントリーの角瓶の方が、ずっと荒々しくトゲのある味わいだ。
 角瓶はハイボールにするのが前提と言うか、割ってハイボールにでもしなければとても飲めないシロモノだが。
 このカティーサークは、割ることなくストレートで気持ち良く美味しく飲める。

 カティーサークはライトなスコッチの代表格だが、確かにコクと深みはそれほどでもないし、スコッチらしいスモーキーさは全くといっても良いほど感じない。
 良く言えば優しく飲みやすく、あえて悪く言えば軽く物足りなさも感じる。
 だがクリーミーで甘く花のような、心地良い軽快な味わいは、ジョニー・ウォーカーの赤のような本格スコッチとはまた違った魅力がある。
 ジョニ赤とは対極に位置するスコッチと思うが、これもスコッチとして「あり」だと思った。
 ジョニ赤のようなスモーキーさのあるスコッチは好き嫌いが分かれるが、そのスモーキーさが無く優しく花のようなカティーサークは誰にも薦められる魅力的なスコッチだ。
 あえてスモーキーさを抑え、全世界の人々を視野に入れて造られた良いウイスキーだと思う。

 ただ水で割ると、1:1のトワイスアップでも薄く水っぽくなり、とても物足りなく感じる。
 そして香りも飛んで薄まるように思えた。
 水で割ったものを飲むと、まるで有名な麦焼酎(テレビ等でよく宣伝しているやつ)を飲んでいるかのようだ。
 薄い甘さがあって飲みやすいのだが、ストレートで飲んだ時の香りや味わいが殆ど感じられなくなってしまう。

 恥ずかしい話だが、ウイスキーを飲み始めた頃、筆者はストレートではなかなか飲めなかった。
 アルコール度数で言えばビールは5度くらいで、日本酒は15~16度くらいだ。
 そして焼酎なども、25~30度のものを割って飲んでいる。
 そうした酒を飲んでいる日本人には、40度かそれ以上のウイスキーをストレートで飲むのはなかなかツラいし、飲むにはコツと慣れが必要なのだ。
 さらに筆者はウイスキーを飲み始めた頃、ある有名グルメ漫画で「ウイスキーはトワイスアップで飲むもの」と書いてあるのを読み、それを信じ込んだ。
 それで筆者は初めてカティーサークを飲んだ昔、ストレートを試すことなくトワイスアップでのみ飲んだ。
 そして「カティーサークは不味い」と思い込んだ。

 その後も、筆者はウイスキーについて勉強を続けたのだが。
 ウイスキーをどう飲むべきかについては、その本によって様々だ。
「ロックでも、水割りでも、ハイボールでも、ミストでも、好きに飲めばよい」と書いてある本もあり。
「モルトウイスキーや長期熟成の長いものはストレートかトワイスアップ、熟成年数の短いものやブレンデッドはロックやミストや水割りで、熟成年数の短い安価なものはハイボールで飲め」と書いてある本もあり。
 さらには「ウイスキーは舌を馴らしてでも、絶対にスレートで飲むべきだ!」と書いてある本もある。
 そして書いているのは、それぞれ洋酒やウイスキーの専門家だ。
 で、どれが正しいかわからなかったから、筆者はそれぞれ自分で試してみた。

 試してみた結論だが、筆者は「ウイスキーを飲むなら、基本はストレート」と思う。
 日本のお酒を飲むようにグイッと飲んでしまうのではなく、30mlのワンショットを飲むのに30分かけるくらいのつもりで、時々チェイサーの水を飲みながら唇を浸す程度にしてゆっくり、香りと味と余韻を味わうようにして飲むのが一番美味いし、そのウイスキーの本質がわかると今は思っている。
 しかし中には、特に安価なウイスキーの中には、若いアルコールがキツ過ぎて、ストレートではとても飲めないし、無理して飲んでも美味しくないものもある。
 そういうストレートで美味しく飲めないものは、竹鶴政孝氏が好んだという1:2の水割りか、ハイボールにして飲んでいる。

 トワイスアップで飲むと、確かにウイスキーも日本人にも飲みやすくなる。
 ただ一度ストレートで飲むことに慣れてしまうと、トワイスアップは「水っぽい」と感じることが少なくない。
 トワイスアップにすると、味と香りをそれなりに保ちつつ、アルコールの刺激が消えて美味しく飲めるようになるものもある。
 しかし水で割ると、ただトワイスアップにするだけで味と香りがとても薄まり、本来の美味しさが半減どころか台無しになってしまうものがあるのだ。
 カティーサークが、まさにそれだった。

 カティーサークは、水で割ってはならない。
 かつて筆者はそれをしてしまったから、カティーサークを不味いと思いこんでいたのだ。
 冷えると香りと甘い味が薄まってしまうから、筆者はカティーサークのロックやミストも勧めたくない。

 あとい、筆者はカティーサークのハイボールも試してみた。
 悪くないデス、これ。
 ジョニ赤のハイボールのように個性が強く出ないし、個人的には香りもそれほど立たず、少し薄いようにも感じてしまった。
 しかし香りも味も甘やかで樽香もよくわかり、スッキリしていて飲みやすい上にウイスキーらしい味わいもちゃんと感じられて、なかなかイケる。
 ハイボールと言えばサントリーの角瓶ばかり飲んでいる人達に、是非この甘く優しいカティーサークのハイボールも試してみてもらいたいと思った。

 このカティーサーク、スタンダード・スコッチとしてはかなり上物だと筆者は感じた。
 個人的にはジョニ赤やバランタイン・ファイネストの方が好きだが、時々こんな優しいハニーなスコッチも飲みたいものだと、心から思った。
 個人的にはストレートで飲みたいが、「ストレートはキツい」という方は、どうぞハイボールでお飲みください。

 昔、カティーサークを飲んで「まずい」と思って。
 本当に不味いのかどうか飲み直してみたいと思っていたところ、タイミング良くその機会をくださった方に、本当に感謝している。

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吉田蔵大吟醸と薫風の金鍔(筆者、二つの固定観念を改める)

 このブログを以前からご覧下さっている方なら、「そんな事よくわかってるよ!」とおっしゃるだろうが。
 筆者は酒については、かなりタチの悪い“原理主義者”である。

 まずビールについては、麦芽とホップだけで造ったものこそ“ビール”だと思っている。
 副原料にオレンジピールやコリアンダーシードを加えたものは美味いと思うし好きだが、日本の製品に多い、米やコーンやスターチなどの糖質副原料を使った、喉越し最優先の薄くて妙な味のするやつは嫌いだ。
 焼酎についても常圧蒸留で、さらに出来れば甕貯蔵したものこそ本物の本格焼酎だと思っている。
 だからテレビのCMや雑誌の広告で派手に宣伝されている、減圧蒸留でしかもイオン樹脂濾過までした有名メーカーの製品は、本格焼酎と名乗る資格は無いと考えている。
 こんな人間だから、日本酒についても純米こそが本当の日本酒だと思っていたりする。
 この通り、筆者は本当にイヤな酒の飲み手なのである。

 それでも一応は大人だから、宴会などで出された酒に文句をつけたり、「本物の酒とは……」などと要らぬ講釈をたれたりするような真似はしない。
 しかし職場などのごく当たり前の宴会で出される、大手メーカーのビールや日本酒を筆者がどんな目つきで眺めているかは、ご想像の通りだ。
 で、酒に弱い体質であることを口実に、形だけ口をつけて殆ど飲まずにいたりする。

 そんな筆者ではあるが、酒屋の主や酒に詳しい先輩などの言葉は、素直に聞いている。
 筆者は酒の専門家ではないし、酒について知らないことも沢山あるし、飲んだことの無い酒もたくさんある。
 だから自分の知識と経験の浅さもちゃんと自覚して、自分のそれまでの常識と違うことでも、先輩や専門家に勧められたものは頭から拒んだりせず、まずは自分の舌で味を確かめてみている。

 その筆者が「この人の言うことなら信用できる、まずは従ってみよう」と考えている先輩の一人が、オゴ-ログのogotchさんだ。
 ogotchさんに連れられて銀座のバーに行きバランタインの“縦飲み”をしたことについては、先週の記事に書いたが。
 実は当日、バーに行く前の昼間にも、ogotchさんに想像を超える体験をさせていただいた。

 皆さんの中で、和菓子などの甘いものを食べながら日本酒を飲む方が、どれだけいるだろうか。
 実は筆者も、「お菓子を食べながら酒を飲むなど、あり得ない」と思っていた。
 その筆者を、ogotchさんは東京都文京区千駄木の薫風という和菓子カフェに案内してくれた。
 何とその店ではお酒と和菓子マリアージュを提案していて、和菓子に日本酒を添えて出してくれるのだ。

吉田蔵IMG_0296

 店内の席に着いた筆者の目の前に、金鍔と、白山を源流とする手取川の水で醸した石川県の吉田酒造の銘酒、吉田蔵大吟醸が並ぶ。
 その時、「日本酒は純米であるべき」という純米原理主義者の筆者は、その吉田蔵が大吟醸であって、純米大吟醸では無いことを見逃さなかった。
 だから筆者は、飲んでみるのが逆に余計に楽しみになった。

 純米原理主義者の筆者でも、「良い酒に少量の醸造用アルコールを加えると、吟醸香がより華やかになる」ということは、話に聞いて知ってはいた。
 アル添はただ嵩増しの為にするのではない、という説もよく聞く。
 しかし残念ながら筆者は、純米大吟醸を越えるアル添の大吟醸酒を飲んだことが無かった。
 筆者は以前、同じ有名メーカーのアル添大吟醸と、純米吟醸酒(純米大吟醸ではなく)を飲み比べてみたが。
 確かに香りは、アル添大吟醸の方が華やかだった。しかし味の深みやコクは、純米吟醸の方が圧倒的に上回っていた。
 だから筆者は、「純米大吟醸を越えるアル添大吟醸は無い」と考えてきた。

 しかし千駄木の薫風はogotchさんお勧めの店で、お酒もオーナーのつくださちこさんが選んでくれたものだ。
 だから「今度こそコストダウンと嵩増しの為ではない、吟醸香をより引き出す為にアルコールを使った日本酒に出会えるかも」と、「いざ、勝負!」くらいの気持ちでワクワクしながら吉田蔵大吟醸を飲んでみた。

 ……凄い。
 とにかくフルーティーな吟醸香が凄い。
 青リンゴと梨のようなフルーティーな香りが、グラスを顔に近付けると鼻孔一杯に豊かに広がる。
 筆者がこれまで飲んだ日本酒の中で一番感動的だったのは、山梨銘醸の大中屋純米大吟醸だ。
 この大中屋純米大吟醸は四合で五千円を越える価格だが、味と香りは充分それに値する素晴らしい日本酒だ。
 吉田蔵大吟醸は、香りについて言えばその大中屋純米大吟醸を上回っていた。
 こんなに香りの素晴らしい日本酒を、筆者はこれまで飲んだことが無かった。
「なるほど、これが少量のアルコールで吟醸香をより引き出すということか」
 吉田蔵大吟醸を飲んで、その事を初めて体感した。

 しかし少量なりともアルコールと水を余計に加えることになるわけだから、アル添の吟醸酒や大吟醸酒は、純米の吟醸酒や大吟醸酒より薄く辛い味になりがちだ。
 だが吉田蔵の大吟醸は、「薄い」のではなく「スッキリした」という、とても良い感じに仕上がっていた。
 そして白山を源流としているという仕込み水の良さだけでなく、造りの良さがよくわかる雑味の全く無い澄んだ味で、まるで高山の源流水を飲んでいるかのような心地良さがあった。
 但し旨味はあるが辛口で、渋味も感じる。

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 それがだ、薫風で出された金鍔を食べながら飲むと、金鍔の上品な甘さが、吉田蔵大吟醸のキリッとした辛さと渋味ととても良く合うのだ。
 吉田蔵大吟醸の辛さと渋味を、薫風の金鍔の品の良い甘さが癒してくれる。
 そして吉田蔵の澄んだ辛さと僅かな渋味が、金鍔の甘さを洗い流してくれる。
 で、吉田蔵を飲んでは金鍔を食べ、金鍔を食べては吉田蔵を飲み……と繰り返し、目の前のグラスと皿はたちまち空になってしまった。
 これはいけない、と筆者は思った。
 薫風の和菓子とお店にある日本酒があれば、酔い潰れるまで飲んで食ってしまう。
 酒に弱い筆者にそう思わせるくらい、薫風の和菓子と日本酒は相性が良く美味しかった。

 同調圧力が強く、空気を読んで周りの皆に合わせて生きている人が多い。
 そんな日本だからこそ、周囲や空気に流されない自己主張も必要だとは思う。
 だからこそ、筆者は偏屈を通して生きてきているのだが。
 しかし一人の人間の知識や体験には限りがある。
 周囲に流されてばかりで己というものが無いのも、自分の主義主張を盲信して人の言葉に耳を傾けないのも、同じくらい愚かだ。
 少なくとも筆者は、専門家や尊敬できる先輩の言葉には素直に耳を傾ける。

 嵩増しの為ではない、吟醸香をより素晴らしく引き立てる為のアルコール添加は、本当にあった。
 日本酒、特に雑味の無いやや辛口で渋味もある酒は、和菓子にとても良く合う。
 それを知ることができたのも、ogotchさんという酒と人生の先輩がいてくれたおかげだ。

 薫風で吉田蔵大吟醸と金鍔を堪能した後、ほろ酔いでogotchさんと谷根千の街をそぞろ歩いた。
 休日の日の高いうちに良いお酒を飲み美味しいものを食べて東京の古い街を散策するのは、本当に良い気分だった。

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無粋な筆者が“天国”で考えたこと

 先月の休日に、天国を垣間見た。
 主に良酒とスイーツについてのブログを書かれている、オゴ-ログのogotchさんが銀座のバーに連れて行って下さり、そこで筆者はバランタインの“縦飲み”を体験した。

 静岡県の田舎で家飲みばかりしている筆者には、それはもう想像を絶する世界だった。
 静かで落ち着いたバーのカウンターに座ると、目の前にパランタインが5本、左からファイネスト、12年、17年、21年、30年とズラリと並ぶ
 それを若い方から、一杯ずつ順に飲み比べて行くわけだが。

バランタイン縦飲み①IMG_0352

 バーの長岡さんも心得たもので、今のグラスを飲み切る少し前に次の一杯を出してくれる。
 だから目の前の一杯を味わい、残り少なくなったら次の一杯と飲み比べ、そしてその一杯を堪能し……というのを、5回繰り返せたわけだ。
 いや、実はバランタイン30年は続けて2杯飲んだし、発売まだ間もないブラックニッカ・アロマティックの試し飲みなどもしたから、実際に飲んだ量は5杯よりも多い。
 もちろんその合間に、バランタインに合うつまみも出て来る。
 こんな贅沢な飲み方をしたのは、正直に言って生まれて初めてだ。

 で、ざっと感想を語ってみよう。
 バランタイン・ファイネストは普通に美味い。
 筆者など、平日の夜などにテレビを見たり家族と話したり膝の猫を撫でたりしながら晩酌として飲むなら、これで充分に楽しめる。
 しかし続いて12年を出され、その香りを嗅いだ瞬間に背筋が伸びた。
 これは明らかに違う。
 そう思った。
 香りの華やかさと優しさと言い、味のまろやかさと繊細さと言い、ファイネストとは段違いだった。

 ものの値段とは、なかなか面白いもので。
 値段に比例して美味しくなるのは当たり前なのだが、その味の差が値段に正比例しているかと言うと、そうではない。
 まあある程度までは、正比例に近い部分もあるのだが。
 あるレベルを越えると、ちょっと良いものを手に入れる為に、かなりの差額を払わなければならなくなる。

 その事は、例えばオーディオ・ファンの方ならよくご存知だろう。
 千円やそこらのお手頃価格のイヤホンと、三千円から五千円クラスのイヤホンは、音質の差が段違いだ。
 しかしそのクラスと一万円以上のものとの音質の差も、段違いだという。
 が、さらにまたその上があり、上を見たら値段に限界が無いらしい。
 そして価格の差と音質の差は正比例しているわけでなく、より良いものを求めたら本当にきりが無い。
 だから「このクラスのものでいい」という限度は、自分で決めるしかないのだが。

 そこで話はバランタインのファイネストと12年に戻るが、ファイネストは安い酒屋では税抜き千円未満で売っている。
 その価格としては、同価格帯の国産ウイスキーや凡百のスタンダード・スコッチやバーボンなどより美味い。
 しかし酒屋では2千円程度で売られている12年は、価格の差と品質の差が正比例していると言い切れる。
 バランタインの12年は、ファイネストより確かに“倍”美味いのだ。
 12年を飲んでしまうとね、「出来れば家でも、普段からこれを飲みたい」と思ってしまう。

 人の価値観は様々だが、ウイスキー一本で2千円は高いだろうか?
 いや、筆者はそうは思わない。
 ウイスキーは、たいてい1ショット30mlで飲まれている。
 そして通常のウイスキーは一瓶で700mlだから、ウイスキー一本で23杯は飲めることになる。
 だからバランタイン12年やジョニ黒やシーバスリーガル12年など、税込みで2千円を少し越えるウイスキーを買っても、家飲みならば1ショット百円にもならない計算になる。

 で、例えば新ジャンル酒だが、24本の1ケースで買えば、安い店でも税抜きで2380円くらいだ。
 つまりバランタイン12年の1ショットは、新ジャンル酒1缶と同じか少し安いくらいの計算になる。
 だとしたら貴方はバランタイン12年(あるいはジョニ黒やシーバスリーガル12年)と新ジャンル酒と、どちらを選ぶだろうか?
 好みや価値観は人さまざまだが、筆者なら間違いなく、躊躇なくバランタイン12年を選ぶ。
 新ジャンル酒をゴクゴク一気に飲み干すより、バランタイン12年をゆっくり味わう方が、筆者にとってははるかに満足感が大きい。

 ウイスキーは一瓶で値段を考えるから、割高に感じるのだ。
 一本買えば、23ショット飲める。
 そしてビール類の1ケース24缶と比較して考えれば、「ウイスキーは決して高くない」とわかるだろう。
 まあ、味と香りを堪能することなく、酒を酔う為に鯨飲する人にとっては、話はまた別だろうが。

 さて、話をまたバランタインの“縦飲み”に戻す。
 12年でも筆者には充分美味かったが、続いて出て来た17年は衝撃的だった。
 凄い。
 香りが12年より明らかに華やかで、しかも味も力強い。
 品の無いたとえ方をすれば、12年は華奢で繊細な美女で、17年は肉感的な美女という感じだ。
 12年には無いボディの強さと、12年より明らかに鮮烈な華やかさを、17年には感じる。
 日頃、気楽に飲んで良いような酒ではないことは、筆者にもよくわかる。
 しかし出来れば、時折で良いから家でも飲みたいものだ。
 そう思った筆者は、案内して下さったogotchさんに、無粋かつ失礼ながら17年の値段をそっと尋ねてしまった。

 5千円くらい、ということだが。
 正直、「気軽には手を出せないかな」と思ってしまった。
 ファイネストと12年の味と香りの差は、間違いなく値段の差と同じくらいあった。
 しかし12年と17年の味や香りの差が、値段と同じだけの2倍半あるとまでは、思えなかった。

 だがウイスキーは、一本買えば23ショット飲めるではないか。
 5千円のウイスキーでも、1ショットに換算すれば220円に過ぎない。
 220円と言えば、一番搾りやモルツやヱビスなどの、麦芽とホップだけで造ったビールとほぼ同じだ。
 その種のビールを24缶入りのケースで買えば、確かに五千円くらいする。
 ならばバランタイン17年と言ったって、一番搾りやモルツやヱビスをケースで買うのと同じようなものだ。
 そう思えば、バランタイン17年と言っても「手が届かないものではないし、高いものではない」と気付いた。
 少なくとも筆者には、同価格帯のビールよりバランタイン17年の方が美味いし、飲んだ後の満足感が間違いなくある。

 考えてみれば、一番搾りやモルツやヱビスのようなビールを、私達は特に構えることなく案外普通に飲んでいないだろうか。
「一番搾りやモルツやヱビスのようなもの」
 そう思えば、バランタイン17年も普通の人でもそう構えずに、少し贅沢する程度の気持ちで飲めるのではないかと思った。

 続いて21年だが、熟成感は間違いなく17年より上だ。
 ウイスキーとしての質は、17年より上だと断言できる。
 しかし筆者は、個人的には香りに華やかさのある17年の方が、21年よりも好きだ。
 お手頃価格のお酒はたいてい値段と味が正比例しているが、あるレベルを超えた良い酒になると、こういう事もある。
 ただ華やかな香りより円熟した味を評価する方は、17年より21年の方を好きになるだろう。

「空気が読めない」のではなく「読めている空気もあえて無視する」筆者でも、バーで出されたお酒の、酒屋での小売価格をいちいち尋ねるほど無礼ではない。
 で、そのバランタイン21年の価格は、帰宅した翌日にネットで調べた。
 およそ8千円というところだった。
 例によって1ショットに換算すると、320円というところ。
 瓶で売っている、グランドキリンやサントリーのマスターズ・ドリームのような、ちょっと贅沢なビールを飲むようなものだろうか。
 そう思えば、普通の勤め人にも手が届きそうなウイスキーと言えそうだ。

 さて、いよいよバランタイン30年の登場だ。
 ……王様、デシタ。
 香りはただ華やかというのではなく17年より明らかに豊かで、味も21年より遙かに円熟味があって丸い。
 味に本当に角がなく、体に良くないことだが、チェイサー無しで平気で飲めてしまう。
 あまりに味がまろやかなので、「飲もう」と意識しないと、チェイサーを飲むことを忘れてしまう。
 もう、それまでの12年と17年と21年の比較など吹っ飛んでしまうほど、他のものが問題にならないほど30年は凄い。

 まあそれは、その分だけ一本のお値段もそれなりデスヨ。
 ネットで見た相場は、2万7千円からというところだった。
 例によって1ショットで換算すると、およそ1200円というところ。
 つまり「1ショットで、スタンダード・スコッチ1本分の値段」ということだ。
 当然、普通のサラリーマンが容易に手を出せるウイスキーではない。
 しかし「それなりのお金を出して、バーなどで試し飲みしてみる価値はあるか?」と問われたら、筆者は躊躇わずに「ある!」と答える。
 飲んでみれば、「本当に良いウイスキーがどんなものか?」が、心からよくわかる。
 こんな良いウイスキーに触れる機会を与えてくれたogotchさんに、心から感謝する。

 ところで、ogotchさんは飲んだ後のグラスを、バーテンダーさんに返していたが。
 筆者は一番隅の人目につきにくい席にいたのを良いことに、空になったグラスをすべて自分の前に残しておいた。
 良いウイスキーは、飲み干した後もグラスに香りが残る。
 それで筆者は、飲んだ後のグラスを五つも並べ、何度も嗅ぎ比べてみた。
 お店にとっては迷惑な客だったかも知れないが、これがまた楽しかった。
 ファイネストのグラスは、いつの間にか香りが消えていた。
 しかし他の12年と17年と21年、それに30年のグラスには、香りが長くしっかり残り続けた。
 その香りも、もちろん30年が別格に素晴らしかったが。
 しかし12年と17年と21年も、「やはり同じバランタインの兄弟だなあ」と思わせる香りが残っていて魅惑的だった。

 あと、おつまみにはまずナッツ、続いて椎茸の串焼き、そして燻製のチーズと豆腐が出た。
 ナッツもチーズも美味しかったが、豆腐の燻製がまた美味しかった。
 おつまみはogotchさんと分け合って食べたのだが、豆腐の燻製の最後の一切れをogotchさんに「どうぞ」と譲られた時、遠慮も何もなく、躊躇わずに箸を出していただいてしまった。

 あと、絶品だったのが、椎茸の串焼きだ。
 正しい名前は知らず、見た目から「椎茸の串焼き」と筆者が勝手に名付けてしまっているのだが、ただ香ばしく焼けているだけでなく、うまみの素がギュッと凝縮されたような素晴らしい味だった。
 また、切って捨ててしまう人も少なくないが、本当は美味しい石突きも無駄にせずに焼いて出してくれていたのが嬉しかった。

バランタイン縦飲み②IMG_0351

 実は筆者は、「良い椎茸を焼いて、醤油を垂らして食べると美味しい」と、ogotchさんに以前から教えられていた。
 幸いにも筆者が住んでいる市の山間部は椎茸の産地で、農協系のスーパーでは地元産の新鮮な椎茸を安く売っている。
 それで教えていただいた後すぐに試してみて、「うん、これは美味しい」と納得していた。
 しかし連れて行っていただいたバーの椎茸の串焼きの美味さは、本当に別次元だった。
 もちろん椎茸の質も違うのだろうし、プロの方の料理に筆者ごときの料理が近付ける筈も無いが。
 しかし焼き方や味付けをもっと工夫してみなければと、改めて思わされた。
 かなう筈もないのは重々承知しているが、それでも少しは近い味を自宅で再現してみたいと思わされる逸品だった。

 最後に、バーのまかないをいただいたが、これもまた美味すぎて、日頃は食事はゆっくりとっている筆者が、少しみっともないくらい早く完食してしまった。

バランタイン縦飲み③IMG_0357

 このように、ogotchさんには本当に素晴らしい体験をさせていただいたのだが。
 筆者の品性の問題で、この記事の話題がついウイスキーの価格の方に偏ってしまったことを、ogotchさんに本当に申し訳なく思う。
 ただ「ウイスキーは酔う為だけにガブ飲みするのではなく、少量を楽しんで飲むなら、決して値段も敷居も高いものではない」ということを、皆さんにも是非わかっていただきたいと、強く思った。
 バランタイン12年だけでなくジョニ黒もシーバスリーガル12年も、1ショットと1缶で比べれば、実は新ジャンル酒より安いくらいなのだ。

 酒を酔っぱらう為に量を飲みたいなら、話はまた別だが。
 しかし出来ればほろ酔い程度に抑えて、良い酒を少量、じっくり味わいながら楽しんで飲んで欲しいと、父が酒乱で家族みなが苦しんだ筆者は心から思う。

 それにしても、いかにウイスキーがブームとは言え、日本の良いウイスキーは高すぎはしないか。
 ネットで調べてみたら、バランタイン30年は2万7千円だが、響30年は30万円弱だ。
 同じ30年モノのブレンデッドなのに、響はバランタインの十倍も美味いのか?
 たとえバランタインより多少なりとも美味いにしても、その差に十倍のお金を出す価値があるのか?
 30万円と言えば、立派な中堅のサラリーマンの一ヶ月の給料に相当する。
 いや、安倍政権で増えている非正規雇用の人達の手取りで言えば、二ヶ月分に相当しないか。
 勝ち組でお金持ちなら話は別だが、とても普通の人が手を出して良いような酒ではない。

 そもそも日本のウイスキーが世界で評価されるようになったのは、今世紀に入ってからだ。
 だから人気が出ても、そもそも古い原酒の絶対量が少ない。
 それだけ味が良いからと言うより、モノが少ないから高いというのが、ちょっと良いクラス以上の日本のウイスキーの現実だろう。
 だからすぐコストパフォーマンスを考える金コマwwwwの筆者は、ニッカの二千円台の良質なウイスキー(フロム・ザ・バレルや、ブラックニッカのブレンダーズスピリットやクロスオーバーやアロマティックなど)は除いて、国産の高すぎるウイスキーを買う気にはなれずにいる。

 ウイスキーがブームと言われ、雑誌でもよく特集記事にされている。
 しかし原酒不足で国産のウイスキーが高すぎる今、メーカーの宣伝や雑誌に踊らされることなく、海外の良質なウイスキーにもっと目を向けるべきだと強く言いたい。

 さて、最後に今回筆者に素晴らしい体験をさせてくださったオゴ-ログのogotchさんは、実は政治や社会問題にも高い見識を持つ、素晴らしい方である。
 しかし筆者のように浅学を恥じずに偉そうな事を上から目線で語るような真似は全くなさらず、ブログでも良酒や美味しいスイーツについて楽しく書いてらっしゃる。
 この記事に目を留めてどのような方かと関心を持たれたなら、是非検索してオゴ-ログもご覧下さい。

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