空と虹と恋と

 大好きな写真のこと、そしてゲームやコミックスの話から歴史&時事問題まで、思いつくまま雑多に語ってみたいと思っております。さらに筆者の度重なるイタい失恋話についても、どうぞ憫笑しつつお読み下さいまし。

ザ・フェイマス・グラウス

 新星出版社から出されている橋口孝司氏の『ウイスキー銘酒事典』によれば、ザ・フェイマス・グラウスは「その品質の高さから英国王室御用達の名誉を与えられています」と書かれている。
 実際、ザ・フェイマス・グラウスは他のスタンダード・スコッチより明らかに割高である。
 各種のウイスキーを取り揃えている酒店で、およそ千五百円くらいで売られている。

 スコッチと言えば、イギリスのスコットランドのみで生産されている酒だが。
 その本場のスコットランドで最も愛飲されているのが、このザ・フェイマス・グラウスだと言う。

ザ・フェイマス・グラウスP1110395

 確かにこのザ・フェイマス・グラウスは、他のスタンダード・スコッチとはモノが違う。
 キャップを開けただけで、花のような華やかな香りが辺りに漂う。
 飲んでみてもなめらかでクリーミーで、かつコクがあり、他のスタンダード・スコッチより明らかに上質だ。
 濃い甘い花の香りが魅惑的な上、コクがあり味わい深く余韻も長い。
 スモーキーさは、飲んでいる時には殆ど感じない。しかし飲んだ後に余韻の中に僅かにスモーキー香を感じる。

 スタンダード・スコッチとしては、間違いなく、飛び抜けて良いウイスキーだ。ここまで香り高く味わい深いスタンダード・スコッチは、筆者は他に知らない。
 ただジョニ黒やシーバスリーガルなどの、12年モノのスコッチと比べてしまうと、アルコールの刺激のキツさが気になってしまうし、味の奥深さや余韻の長さも少し劣るのがわかる。

 スタンダード・スコッチは安い物なら量販店では千円程度で、ジョニ黒などの12年モノのブレンデッド・スコッチは二千円程度だ。
 そしてこのザ・フェイマス・グラウスは千五百円程度だが、その価格が全てを物語っている。
 他のスタンダード・スコッチより飛び抜けて良いが、ジョニ黒など12年モノの定番のスコッチには及ばない。
 まさに市場価格相応の味と香りと言えよう。

 ザ・フェイマス・グラウスは、間違いなく良いウイスキーだと思う。
 ただ「惜しいな」と思うのが、アルコールの刺激の強さだ。
 シングルモルトや12年モノのブレンデッド・スコッチなら、ストレートで美味しく飲める。
 しかしザ・フェイマス・グラウスは、その点が少し微妙なのだ。
 体調の良い日はストレートで飲めるが、日によってはアルコールの刺激の強さが気になる時がある。

 ザ・フェイマス・グラウスはもちろん、他のスタンダード・スコッチよりなめらかで、アルコールの刺激は少ない方だ。
 しかし12年モノのスコッチと比べると、飲んだ時に舌を刺すアルコールの刺激が間違いなく強い。
 そしてそこに12年モノとノンエイジ、二千円の品物と千五百円の品物の差を感じてしまう。

 で、ストレートではキツく感じられた日に、ザ・フェイマス・グラウスを試しにトワイスアップにして飲んでみた。
 これがイケるのだ、なかなかに。
 水で割っても、このザ・フェイマス・グラウスは味と香りを保ち、水っぽさをあまり感じさせない。
 トワイスアップにするとアルコールの刺々しさが見事に消え、味と香りも伸びやかになる。
 トワイスアップにすると水っぽく物足りなくなるウイスキーが多くなる中、水で割っても味も香りも薄まらないのは、よほど良い原酒を巧みにブレンドしている証拠と思われる。
 それで筆者はこのザ・フェイマス・グラウス、その日の気分によってストレートかトワイスアップで飲んでいる。

 試しにこのザ・フェイマス・グラウス、ハイボールでも飲んでみたが。
 ハイボールにしても、味にコクはあるし香りも損なわれない。
 ただ味のバランスが崩れ、甘さが失われビターさが妙に突出するように感じられて、正直に言って美味くない。
 一言で表現すれば、重くて苦いハイボールになってしまう。
 例えばジョニ赤のハイボールは、本来の甘さやスモーキーさを保ったまま爽やかな味のハイボールになるが、ザ・フェイマス・グラウスは本来の味の良さが損なわれてしまうように感じられる。

 ジョニ赤は、「ジョニーウォーカーの中で唯一、割って飲む事も考慮してブレンドされている」という。
 それに対しザ・フェイマス・グラウスは、割ってハイボールなどにして飲む事を考慮されていないのではないかと思われる。
 何しろ英国のパブやバーでは、ハイボールは「頼まれれば作るが、頼む人はまずいない」といわれる。
 その英国のスコットランドで一番人気のザ・フェイマス・グラウスだけに、炭酸で割られてハイボールで飲まれる事など考慮せずにブレンドしてあるのだろう。

 ザ・フェイマス・グラウスは良いウイスキーだと思うが、同時にとても惜しく感じる。
 他のスタンダード・スコッチより華やかで香り高く、コクもあり味わい深いだけに、どうしても12年モノの定番スコッチ達と比べたくなってしまう。
 そしてジョニ黒やシーバスリーガルなどと比べてしまうと、アルコールの刺激の強さなどの粗が気になってしまうのだ。
 ここまで味も香りも良いスコッチなのだ、どうせならジョニ黒と同じくらいにまで値段を上げてでも、もう少し熟成年数の長い原酒を使ったなら本当に美味しい、文句の無いスコッチになっただろうと思われる。
 その事が、とても残念でならない。

PageTop

純米白川郷にごり酒

 一部の酒造メーカーが、日本酒を“清酒”と呼び換えようと動いた。
 日本酒と言えば、日本で、日本の原材料を使って作らなければならないが。
 だから人件費の安い海外で、コストの安い中国産米や米国産米を使って安い酒を大量生産したいメーカーが、「日本酒でなく、清酒と呼ぶようにしよう!」と企んだのである。
 清酒ならば、別に海外産でも構わないからね。

 しかしこの一部の腹黒いメーカーの、「日本酒を清酒と呼び換えれば、日本酒を海外で安く作れる」という魂胆には無理がある。
 それはそもそも、清酒は日本酒の一種だからである。

 日本酒は、元は砂糖を入れないあまり甘くない甘酒のような、白濁した濁り酒だった。
 が、室町時代になってからそのもろみの状態の濁った酒を濾過して澄んだものも作られるようになり、それが清酒と呼ばれるようになったのである。
 だから濁り酒(どぶろく)と清酒を併せて日本酒と言うのであり、「清酒なら、海外産でも問題ないよね?」と言い張りたい一部メーカーの言い抜けは、とんでもない屁理屈なのだ。

 話は戻るが、日本酒は元は白濁した濁り酒だった。今のような透明な酒(清酒)が当たり前に飲まれるようになったのは、江戸時代になってからである。
 五世紀頃に大陸から醸造技術が伝わって以来、日本では酒と言えば古代から中世までずっと濁り酒のことであった。
 で、日本人はその濁り酒を愛飲してきて、奈良時代の歌人として有名な大伴旅人も、酒を讃むる歌を十三首も詠んでいる。
 ウイスキーも好きだが日本酒にも興味のある筆者としては、その日本酒の原点とも言える濁り酒を、是非飲んでみたいものだと以前から思っていた。

 濁り酒は、今も捜せば売っている。
 しかし店頭で見つかる“濁り酒”と称するものの多くは、いわゆるアル添で、さらに糖類や酸味料まで入れたまがいものばかりである。
 そうした醸造用アルコールと糖類と酸味料で嵩増しした“濁り酒”は、はっきり言って不味すぎて飲むに耐えない。添加されたアルコールの刺激がキツい上に、ベッチャリとした不自然な甘さと妙な酸味が何とも言えない作りモノっぽい嫌な味を生み出している。

純米白川郷にごり酒P1110276

 で、そうしたまがいものの不味い“濁り酒”にうんざりしている時に、ようやく見つけたのだ、混ぜモノの無い本物の濁り酒を。
 それが今回紹介する、純米白川郷にごり酒である。
 純米だから、醸造用アルコールはもちろん糖類も酸味料も全く入っておらず、原材料は米と米麹だけである。

 表示されているマイナス25という日本酒度の通り、飲んでみるととても甘い。どんな甘口の清酒より、かなり甘い。
 しかし米と米麹だけによる甘さだから、その甘みにしつこさやくどさは全く無い。まるで、甘さを抑えた良質な甘酒のようだ。
 そしてただ甘いだけでなく、甘さの中にほのかな酸味も感じる。
 その甘味も酸味もどちらも自然なサラリとした味で、糖類や酸味料を後から加えた作りモノの“濁り酒”のそれとは全くの別物だ。

 また、アル添の自称“濁り酒”と違い、純米だからアルコールのピリピリした刺激が無く、飲み口も優しく滑らかだ。
 そして醸造用アルコールと水で嵩増ししていない為、ただ飲みやすいだけでなくコクがあり味わい深い。
 さすがに純米の濁り酒だ。アル添で糖類と酸味料も加えている自称“濁り酒”と飲み比べれば、本物とまがい物の違いが明らかにわかる。
 アル添で糖類と酸味料も加えられている、市場によく出回っている“濁り酒”は、甘さも酸味も人工的な上に味も薄っぺらい。
 しかしこの純米の濁り酒には、自然な甘さと酸味に食えて奥深い酒の旨味がある。
 コレを飲んでしまうと、アル添で糖類&酸味料入りのニセモノの濁り酒はもちろん、下手な甘酒も飲めなくなってしまう。

 古代には酒を造るのに麹は使わず、米を人が口で噛み、そして米も今のような白米でなく玄米を使っていた。
 だからこの純米白川郷にごり酒も、大伴旅人らが古代に飲んだ濁り酒とは、全く同じものというわけではないのだが。
 それでも純米白川郷にごり酒を味わいながらゆっくり飲むと、酒を愛した古代の歌人の気持ちも伝わってくるような気がする。

 ここで、大伴旅人が詠んだ「酒を讃むる歌」を幾つか紹介しよう。

 験なき 物を思はずは 一坏の 濁れる酒を 飲むべくあるらし


「思っても甲斐の無いことをくよくよ悩むより、一杯の酒を飲んだ方が良さそうだ」って、共感する方は現代も多くいるのではないだろうか。

 その「酒を讃むる歌」には、他にもこんなものがある。

 賢しみと 物いふよりは 酒飲みて 酔ひ泣きするし まさりたるらし


「偉そうな事を言うより酒を飲み、酔って泣く方がましだ」って、大伴旅人さんがいかに酒が好きだったか、よく伝わって来る。
 酔ひ泣きする……という事は、大伴旅人さんは泣き上戸だったのだろうか。
 相手をするのも面倒だろうが、まあ良いデスよ、酔っても絡んだり暴れたりしさえしなければ。

 あな醜 賢しらをすと 酒飲まぬ 人をよく見れば 猿にかも似る


 この酒好きの大伴旅人さんに言わせれば、「酒を飲まずに偉そうなことを言う人は醜くて、よく見れば猿に似ている」のだとか。
 猿に似ているのは、むしろ真っ赤な顔をして酔っぱらっている酒飲みの方ではないかと、言いたくなるのは、筆者だけだろうか。

 この酒飲み歌人の大伴旅人さんは、実は宮廷貴族で中務卿、中納言と歴任し、そして太宰帥にまで昇進するのだが。
 で、赴任した先の九州の太宰府に着くと、何かと理由をつけて酒宴を開いた。
 今で言えば、困ったアルハラ上司といったところだろうか。

 で、度々招かれた歌人で筑前守の山上憶良などは、こんな歌を詠んで大伴旅人の宴席から逃げている。

 憶良らは 今は罷らむ 子泣くらむ 其を負ふ母も 吾を待つらむそ


 こんな酒にまつわる古歌に思いを馳せながら、純米白川郷にごり酒を筆者は心から堪能した。
 アル添で糖類と酸味料を加えたまがいものの濁り酒は全くダメでカスとしか言いようが無いが、米と米麹だけで造った本物の濁り酒は本当に美味しい。

 そのまがいものの濁り酒と本物の濁り酒の見分け方について、最後にふれておこう。
 まがいものの自称“濁り酒”は、アルコールと水で嵩増ししているから薄く、店頭に置いておくと酒と酒粕がすぐに分離してしまう。
 だからまがいものの濁り酒は、瓶の中で殆ど清酒に近い状態になっていて、酒粕は瓶の底に薄く積もった状態になっている。
 で、ラベルにも「よく振ってお飲みください」と注意書きがされている。

桃川にごり酒P1100046

 しかし薄めて嵩増ししていない本物の濁り酒は、酒粕がいっぱい入っているので、わざわざ振らなくても瓶の上までしっかり白濁している。
 自家製の甘酒のように濃いから、もちろん「よく振ってお飲みください」などという注意書きも無い。
 もし本当の濁り酒に関心があるのなら、是非そのような見た目が甘酒に近い、瓶の上まで白濁した濃いものを選んでいただきたい。
 くれぐれも、瓶の中で酒と酒粕が分離して、酒粕が底に溜まってしまっているようなニセモノは買わないでいただきたい。
 濁り酒を称しながら、瓶の中で既に「清酒と酒粕」に分かれてしまっているのは、アルコールと水で嵩増し、味も糖類と酸味料で人工的に付けてある証拠だ。

PageTop

割っても良いけれど、ウイスキーはまずはストレートで!

 ウイスキーを飲んでいて、時々疑問に思うことがある。
 日本人は、ウイスキーと言うと何故「割って飲むもの」と思い込んでいるのだろうか。

 一昔前までは、ウイスキーと言えば日本では水割りが当たり前だった。
 筆者が大学生だった頃、サークルの飲み会で先輩にウイスキーの水割りを作らされ、そして「濃い!」と叱られた事がある。
 ウイスキーの何倍もの水で割った上に更に氷を入れて、ほんの少しだけ味と香りのするとても薄くしたものをゴクンと飲むのが、かつての日本人のウイスキーの飲み方だった。
 そして今ではサントリーの宣伝攻勢で、「ウイスキーはハイボールにして、ビールのようにゴクゴク飲むもの」というイメージが定着している。

 だから酒と肴をテーマにした、酒飲みが主人公が漫画でも、ウイスキーと言えばハイボールで飲むのが当たり前になっている。
 例えば新久千映さんの『ワカコ酒』では、主人公のワカコは日本酒など他の酒については「この料理には、コレ」といろいろこだわるのに、ウイスキーはハイボールでしか飲まない。
 後藤羽矢子さんの『うわばみ彼女』でも、主人公は日本酒なら「吟醸酒より山廃が好き」と言い、30度の泡盛も割らずにそのまま飲んでしまうほどの酒豪なのだが、ウイスキーに関してはやはりまずハイボールなのだ。

 で、その『うわばみ彼女』の主人公が、スキットル(ウイスキー等を入れる金属製の小型の容器)のカッコ良さに憧れて、3巻に収録された第33話でようやくウイスキーをストレートで飲むのだ。
 が、スキットルで飲むべきウイスキーは何故か「アメリカの!! ちょっと安めの!!」と決めつけ、その安めのバーボンを空腹な状態で「グッグッ、プハ~ッ」と飲んだ揚げ句にお腹を痛くしてしまうのだ。
 そして彼氏が買ってきてくれたツマミを食べて一息つき、さらにウイスキーを水割りにして飲んで、主人公は彼氏にこう言うのだ。
「粋とかにこだわりすぎて、あたしたち背のびしすぎてたのかも…。あたしたちの身の丈にあった呑み方がいいのかも…」

 つまり日本では、ウイスキーは“うわばみ”といわれるような酒飲みでも割って飲むもので、ウイスキーをストレートで飲むような人間は、うわばみを越えたひどい酒乱という扱いになるようだ。
 そして筆者は、良いウイスキーはストレートで飲むのが一番好きだ。

 断っておくが、筆者は酒豪どころか自他共に認める下戸である。
 酒は日本酒なら盃一杯で顔が赤くなり、限度は一合だ。それ以上飲むと、本当に頭が痛くなる。
 ビールも350mlの缶一本が適量で、それ以上飲みたいとは思わない。
 そんなひどい下戸だが、それでも良いウイスキーはストレートで飲みたい。

 と言っても、ウイスキーをハイボールや水割りで飲む事まで否定するつもりは無い。
 ハイボールや水割りには、それなりの飲み易さがある。
 ニッカの創業者である竹鶴政孝氏も、普段はハイニッカを1:2の水割りで飲んでいたという。
 そしてハイボールにすると、酒齢の比較的若い手頃な値段のウイスキーでも、香りが立って良い感じになるのも確かだ。

 だが良いウイスキーをストレートで味わうことを覚えてしまうと、水や炭酸で割るとせっかくの味が薄まり水っぽくなってしまうように思われてならないのだ。
 それはもちろん、良いウイスキーは水で割ってもハイボールにしても美味い。
 しかし良いウイスキーはストレートの方がもっと美味いと、筆者は思う。
 酒齢の若い安価なウイスキーは、アルコールの刺激がキツ過ぎるから、水割りやハイボールにしなければ飲みにくい。
 だが良いウイスキーについては、割ってしまう前にまずストレートで味わってみて欲しいと思う。
 お得意の宣伝攻勢で日本人を「ウイスキーはハイボールで飲むもの」と洗脳したサントリーでさえ、山崎のシングルモルトの良いものについては「まずはストレートで」と言っている。

 日本人は、何故ウイスキーをストレートで飲めないか。
 それはズバリ、日本人は「酒はゴクゴク飲むもの」と思い込んでいるからだ。
 日本酒はアルコール度数16%くらいで、25%の焼酎ですら割って飲むことが多い。そして日本人に最も親しまれているビールとなれば、度数5%前後だ。
 つまり日本人は軽い酒をゴクゴク飲むことに慣れ過ぎていて、強い蒸留酒を味わいながらゆっくりチビチビ飲むことができないのだ。
 例の『うわばみ彼女』ではないが、度数40%かそれ以上のウイスキーをストレートのまま「グッグッ、プハ~ッ」と飲めば、かなりの酒豪でも喉を焼き腹を痛くしてしまって当然だ。
 で、ウイスキーも水で割って日本酒以下の度数にして飲むか、ハイボールにしてビールのように飲むかのどちらかにしてしまうのだろう。

 日本人は度数25%の芋焼酎や麦焼酎や米焼酎でさえ、割って薄めて飲んでいる。
 そんな日本人がウイスキーをストレートで飲むには、それなりのコツがあるのだ。
 度数40%のウイスキーは、長年樽熟成した高価なものでもアルコールの刺激はかなりキツい。
 だから日本酒やビールのように、ウイスキーをストレートでゴクリと飲んだら痛い目に遭う。高価なシングルモルトや長期熟成したブレンデッドでも、だ。

 日本人がウイスキーをストレートで飲む場合、まず「飲む」という意識を捨てた方が良いと、筆者は思う。
 飲むと言うより、唇を浸すという感じて味わうのがストレートで飲むコツだ。
 まずグラスに鼻を近づけて香りを楽しみ、唇をそっと浸し、僅かに口中に入った液体を舌の上で転がし、飲み下したら息をして残り香を楽しむ。
 そのようにして、30mlのワンショットを30分くらいかけるつもりで飲むのがベストだ。
 その一杯を飲む間に、時折チェイサーの水も飲んでアルコールの刺激で痺れた舌の感覚を戻すことも忘れないと、もっと良い。

 日本酒や、特にビールをゴクゴク飲むのに慣れた人には、イライラするくらい面倒に感じてしまうかも知れないが。
 一度これを身につけ、良いウイスキーのコクと深い味わいを知ってしまうと、割ったウイスキーは薄く水っぽくて物足りなく感じるようになってしまう。
 水割りの飲みやすさも、ハイボールが若くて安価なウイスキーの香りを引き出すことも理解はしているのだが。
 しかし筆者は、良いウイスキーはやはりストレートで味わいたいと思ってしまう。

 繰り返すが、筆者はかなりの下戸だ。
 それでもウイスキーは、良いものはまずストレートで飲みたいと思う。
 日本人は酒をゴクンと飲んでしまい、ゆっくりチビチビ味わうことを知っている人がとても少ない。
 ゴクゴクと飲むのではなく、一杯を30分くらいかけてゆっくりじっくり味わう飲み方を知る人がもっと増えれば、ウイスキーの本当の味わいを理解してくれる人も増えるだろうにと、とても残念に思う。

 ウイスキーをストレートで飲もうがロックで飲もうが、水割りにしようがハイボールにしようが、それは好みの問題だし個人の自由なのだが。
 ただウイスキーが度数40~50%で出されているのは、出荷する側が「その度数で飲むのが一番美味い」と思っているからであろうし、最初から割って飲むものと決めつけてしまうのではなく、ストレートの味も一度は試してみて貰えたらと思う。

 ストレートの濃い味と長い余韻を知ってしまうと、割ったものは薄く水っぽくて余韻も残らず、飲みやすいけれど物足りなさも感じさせられてしまう。
 とは言え、安いウイスキーは味と香りが足りない上に若いアルコールの刺激が強いから、水で割るなり、ハイボールにするなりした方が良い現実は否定シマセン。
 サントリーが「ウイスキー=ハイボール」と日本人を洗脳して角瓶を売りつつ、シングルモルト山崎の良いものについては「まずはストレートで」と勧めている現実が、ウイスキーの飲み方を如実に語っているように思える。

PageTop

やはり美味しい、いちばん桜

 この春も出ました、オリオンビールの“いちばん桜”。
 オリオンビールの製品は、普通は沖縄で売られている。しかし毎春、アサヒビールがこのいちばん桜を季節限定で売り出している。

オリオンいちばん桜2017年P1110309

 日本の大手メーカーのビール類は、麦芽の他にたいてい糖質副原料(米やコーンやスターチなど)が使われている。
 そうしたビール類は、よく言えば軽く喉越しが良く感じるが、はっきり言えばコクも香りも薄い、飲みごたえの無いものになりがちだ。
 しかしこのオリオンいちばん桜は、副原料を使わず麦芽とホップだけで造った、「贅沢なコクと香り」を謳った麦芽100%のビールである。

 プルタブを開けると、フルーティーで華やかな香りが広がる。
 グラスに注いで味わってみると、スッキリしていて飲みやすく、嫌味が全く無い。そして軽やかな味でありながら、コクはしっかりとある。
 ホップの苦味も軽やかで、「ビールは苦いから好きじゃない」と言う方にも美味しく飲んでもらえると思う。
 そして最初に感じた適度な苦味は、次第にフルーティーな甘さに変わってくる。
 ビールと言うと「苦い」というイメージがあるが、このいちばん桜には、苦さの他に僅かだが甘みが確かにある。
 嫌み無く本当にスッキリしている上に、麦の旨さと甘さを感じられる良いビールだ。
 後味もとても良く、アロマホップを使用しているというだけあって、飲んだ後にホップの良い香りが口の中に残る。

 ビールは、暑い国とそうでない国とで味わいがかなり違う。
 暑い国のビールは、暑さをしのぎ喉の渇きを癒す為に飲むものになりがちで、だからどうしても喉越しでゴクゴク飲みやすい軽いビールが多くなる。
 一方、ドイツやベルギーやイギリスなどの、夏でもそう暑くない国ではビールをゴクゴク一気飲みする必要もないので、ゆっくり味わって飲むのに向いた、コクのある香り高いビールが好まれる。

 で、暑い国でゴクゴク飲んで「美味しい!」と思ったビールを日本の暑くない時期に飲むと、現地で飲んだ印象と違って「何でこんなモノを美味しいと思ったのだろう?」と不思議に思う事がある。
 一方、暑くない欧州のビールは、味わってゆっくり飲む人には良いが、喉越しでゴクゴク飲む人には旨味もよくわからず、ただ重いビールに思えてしまうようだ。

 つまり喉越しで「ゴクゴク、プハーッ」と一気に飲む人には、スーパードライのようなコクも味も香りも薄い糖質副原料入りのビールが向いていて、ゆっくりじっくり味わって飲みたい人には麦芽と良いホップで造った欧州系のビールが向いているということだろう。

 実は筆者はスーパードライのような糖質副原料入りのビールは好きでなく、ビールもゆっくり味わって飲まなければ勿体ないと思ってしまう種類の人間だ。
 香り高くコクのあり味わい深いビールを、筆者は好む。

 で、ビールは喉越しで飲むのに向いたものはコクも香りももの足りず、コクがあり香り高いものは、喉越しで飲む人はただ重く感じてしまう傾向にあるが。
 しかしこのオリオンビールのいちばん桜は、軽やかで一気に飲んでも美味しく、ゆっくり味わって飲めばコクと香りを楽しめる。
 喉越し派の人にも、ゆっくりじっくり飲む人にも向いた、とても良いビールだと筆者は思っている。

 アサヒビールは、このいちばん桜を季節限定で販売している他に、オリオンビールも通年販売している。
 正直に言うが、副原料入りの通常のオリオンビールは筆者はあまり好きではない。いちばん桜のようなコクも香りも無く、ただスッキリ飲める喉越し派だけの為のビールという印象だ。
 もしもオリオンビールを本土で通年売るのならば、副原料入りの通常のオリオンでなく、いちばん桜の方にするべきだと心から思う。
 通常のオリオンより、麦芽100%のいちばん桜の方が間違いなく美味しい。

 筆者は毎年、春にこのいちばん桜を飲むのを楽しみにしている。
 今年のいちばん桜も、期待通りに美味かった。
 この美味しいビールを春だけでなくいつも売ってくれるよう、アサヒビールに望みたい。

PageTop

いつも傍らに置いておきたいジョニ黒

 ジョニ黒ことジョニーウォーカー・ブラックラベル12年は、筆者が生まれて初めて「ウイスキーって凄いな、良いな」と思った製品である。
 以来、筆者はジョニ黒をウイスキーの善し悪しを判断する一つの基準にしている。
 で、今回改めて、そのジョニ黒をじっくり味わってみた。

ジョニ黒P1110433

 他の12年モノのブレンデッド・スコッチより個性がはっきりしていて、一言で言えば甘くスモーキーで力強い。
 トップノートはチョコレートに似た甘い香りで、スモーキー香もしっかりと感じる。
 口に含むと甘さもあるが、ビターさやスパイシーさも感じる。しかし滑らかで、チェイサー無しでもストレートで飲める。
 12年間樽熟成したウイスキーらしく、余韻も長く続く。

 同じジョニーウォーカーのレッドラベルと比べると、意外にもジョニ赤の方が甘さやスモーキーさがはっきりしている。
 が、その分だけジョニ赤はシンプルで味と香り共に深みに欠ける。ジョニ黒の方がずっと滑らかで、ジョニ赤には若いウイスキーの荒っぽさがある事も言うまでもない。
 個性がはっきりしていて気軽に飲める赤と、味わい深くより複雑な黒といったところか。

 同じ12年モノのブレンデッド・スコッチと比べると、香りの点ではシーバスリーガルの方が明らかに華やかだが、ジョニ黒の方が味わいが力強く、そしてよりスモーキーだ。
 バランタイン・ゴールドラベルはジョニ黒のような力強さも、シーバスリーガルのような華やかさも無いが、とても端正で優しくバランスが最も良く取れている印象。
 最もスコッチらしい個性が強く甘くスモーキーなジョニ黒に、華やかな香りで余韻も最も長く続くシーバスリーガル、そして端正でバランスの最も良く取れたバランタイン・ゴールドラベル、といったところか。

 国産の同価格帯のウイスキーでは、ニッカのスーパーニッカがなかなか悪くないと思っているが。
 比べて飲んでしまうと、スーパーニッカよりジョニ黒の方が明らかに滑らかな上、スモーキーさでも力強さでも上回っている。
 ただ、去年の秋にブラックニッカ発売60周年を記念して限定発売されたブラックニッカ・ブレンダーズスピリットと比べると、「良い勝負だな」と思ってしまった。
 どちらも甘くスモーキーで、なかなか似ているのだ。
 あえて言うならばジョニ黒の方が個性が強く、ブラックニッカ・ブレンダーズスピリットの方がマイルドで穏やかといったところか。

 ブラックニッカ・ブレンダーズスピリットはなかなか評判が良く、わりと早いうちに店頭から無くなってしまったが。
 ところがこの4月になって、筆者の住む町のある酒屋の店頭にまとめて10本ほど出て来た。
 もし今どこかの店頭でブラックニッカ・ブレンダーズスピリットが残っているのを見つけたら、是非買ってみて、ジョニ黒と飲み比べてみていただきたい。
 優劣については個人の好みの問題もあると思うが、ジョニ黒に匹敵する同価格帯の国産のブレンデッド・ウイスキーと言ったら、ブラックニッカ・ブレンダーズスピリットしか無いと、筆者は思う。

 千円ちょっとで買えるスタンダード・スコッチは、味も出来もいろいろだ。
「意外に良いじゃないか!」と思えるものもある反面、あまり感心できないものも少なくないのもまた事実だ。
 しかし12年モノのブレンデッド・スコッチに不味いものはまず無いと、筆者は思っている。そこにあるのは、ただ個人の好みの問題だろうと、筆者は思う。

 で、もし筆者が他人に12年モノのブレンデッド・スコッチを勧めるとしたら、まずスコッチのすべての要素をバランス良く取り入れたバランタイン・ゴールドラベルを、華やかな香りを好む人にはシーバスリーガルを勧めるだろう。
 しかし筆者個人が飲むとしたら、やはり最もスモーキーで個性の強いジョニ黒を一番に選んでしまう。
 他にもっと良いウイスキーがある事もわかっているのだが、筆者にウイスキーの素晴らしさを初めて教えてくれたこの一本が常に傍らに無いと、どうも落ち着かないのだ。

PageTop

なかなか美味しい、琥珀エビス

 サッポロのエビスにもいろいろありマスが、先日、行きつけの酒屋で限定販売の“琥珀エビス”を見つけまして、早速買って飲んでみまシタ。

サッポロ・琥珀P1110247

 プルタブを開けた途端に、多分麦によるものであろう甘い香りが辺りに漂う。
 グラスに注ぐと、その名の通り普通のビールよりやや色の濃い、美しい琥珀色。
 泡も白でなく、クリーム色という感じだ。

 メーカーは「コク深く、まろやかに」と謳っているが、意外にスッキリして飲みやすい。
 確かにコクはあり、決して軽めの薄いビールというわけではない。しかし比べてみると、通常のエビスの方が重たく感じる。
 ただスッキリしているだけでなく嫌味も全くなく、喉越しでスッと飲めてしまう。
 しかし飲みやすくてもコクはちゃんとあり、飲みごたえも充分にある。
 ホップの苦味は、程々といったところ。
 飲んでいる時にはほろ苦さを感じるが、後味には麦の甘さが残る。

 スーパードライに代表される喉越しで飲むタイプのビールは、コクが弱い上に味に何か嫌味があり、だからキンキンに冷やして一気に飲まないと美味くない傾向がある。
 日本の大手メーカーが作る“喉越し系”のビールの殆どは、ぬるくなったものを少しずつ味わって飲むとどうしようもなく不味い。
 しかしこの琥珀エビスは違う。
 冷やしてゴクゴク飲んでも美味いだけでなく、少しぬるくなったものをチビチビ味わって飲んでも充分に美味いのだ。

 国産のビールの中で「特に美味いビール」とまでは言わないが。
 コクや程良い苦味がある上に、スッキリして嫌味が全く無い、かなり出来の良いビールと言えよう。
 とにかく驚くほど嫌味が無く飲みやすい、それでいて飲みごたえもそれなりにあるビールだった。

 筆者はエビスは好きだが。
 その通常のエビスより、今回取り上げた琥珀エビスの方が好きだし、良く出来ていると思う。
 これが限定販売というのが、少しもったいないような気がする。
 出来れば限定でなく、今後もずっと販売して貰いたいと思ったビールだった。

PageTop

サントリー期間限定“春いちご”と“桜さくらんぼ”

 この春、サントリーから期間限定のチューハイが出た。
 栃木産とちおとめ使用の春いちごと、山形産佐藤錦使用の桜さくらんぼである。
 どちらも缶の絵が春らしく、とても綺麗である。
 そして百円ちょっとと、値段も手頃である。

サントリー・春いちご等P1110299

 で、主に缶の絵に惹かれて買ってみたようなものだが、まず春いちごの方から飲んでみた。
 グラスに注ぐと、実に美しい桜色に驚かされる。
 とは言え、それはいちごそのものの色ではなく、野菜色素と紅花色素によるものだが。
 ただ作りモノの色とは言え、合成の着色料によるものではない事だけは評価しても良かろう。

 さて、味だが最初の一口は甘すぎず、そして確かにいちごの味も感じる。
 ただ続けてゴクゴク飲んでいると少し甘すぎるように感じてきて、そして味もどこか作りモノっぽい部分も感じてくる。
 それもその筈、これにはいちごとスピリッツの他、甘味料(アセスルファムKおよびスクラロース)と酸味料と香料がバッチリ入れられている。
 だからいちごの味はするものの、それは香料や甘味料や酸味料によって作られた部分が多く、「なるほど栃木産とちおめの味だ!」と感じる部分はまず無い。
 はっきり言って、栃木産とちおとめで無く、他のどの苺を使用しても同じ味になったと思う。
 それでもあえて栃木産とちおとめを使ったのは、ブランド効果を狙ったと言うか、まあ飲み手の気分を盛り上げる為のものだろう。
 ついでに意地悪な事を言わせてもらえば、この春いちご、別に「栃木産とちおとめ百パーセント使用」と書いてあるわけでは無いから。
 他のいちごの中に、ちょこっと栃木産とちおとめを混ぜただけでも、「栃木産とちおとめ使用」と表示できるのである。
 だから「○○使用」と「○○のみ使用」は別だと見極める目が、消費者にも必要なのである。

 とは言うものの、この春いちご、果物の味のチューハイとしては決して悪くない。
 おなじみの「香料と糖類と酸味料で作ったチューハイ」の味だが、決して不味くはないし、とりあえず苺の味はするし、そして何よりも色がとても綺麗だ。
 お花見でもしながらこれを飲んだら、とても春らしい気分になれるだろう。
 取り立てて誉めるほど美味くはないが、百円ちょっとで買えるチューハイとしては悪くないと思う。

 そう、特に良くもないが缶チューハイとしては「悪くない」と言うのが、この春いちごの評価だ。
 限定出荷という事だが、これならラベルの絵を変え名称もただの“いちごチューハイ”として通年あっても悪くないと思う。

 とは言うものの、ウイスキーやビールや日本酒など普通の酒をいつも飲んでいる者には、このチューハイもやはり甘ったる過ぎる。
 最初の一口は良い。
 しかし飲み続けるうちに甘さが重くなってきて、飲み終えた後に残るのもやはり甘ったるさだ。

 逆に言えば、ウイスキーやビールや日本酒などを「苦い」とか「辛い」とか「キツい」とか感じて敬遠している、お酒を飲み慣れていない若い人達にはちょうど良いのかも知れない。
 アルコール度数も4%と控え目で、「ジュース気分で飲める軽いお酒」といったところだ。

 さて、もう一本の桜さくらんぼだが、グラスに注ぐとこちらも綺麗な桜色だ。そしてこちらも野菜色素と紅花色素で作った色だが、この桜さくらんぼの方が春いちごよりほんの少し色が淡い。

 ただ気になるのは、グラスに注いだ時から何か人工的な、塗料を思わせるような癖のある匂いがすることだ。
 筆者は以前、産地の知人に佐藤錦を一箱いただいてたくさん食べた事があるが。
 さくらんぼというものは、果物としては基本的に香りは少ない方だ。味もそれほど強くない。
 なのにさくらんぼらしい味と香りを、例の香料等で出そうとするから、何か妙な味と香りになってしまっているような気がする。
 甘さも、最初の一口からこちらの方が強く感じる。
 栄養成分の表示を見ると、エネルギーはどちらも100mlあたり50kcalで、桜さくらんぼの方が多く糖類を使用しているわけでは無いのだが。
 結局それだけ、さくらんぼの方がいちごよりそれらしい味と香りを出すのが難しかった、という事なのだろう。
 これはあくまでも、個人的な好みなのだが。
 日本酒やビールは苦手だけれどほろ酔い気分を楽しみたい人に、春いちごの方はお勧めできる。
 ただ桜さくらんぼの方は味と香りに癖があるので、ちょっとお勧めしたくない。

 ちなみに、このサントリーの期間限定の“春いちご”と“桜さくらんぼ”は、どちらも原材料名に「いちご」および「さくらんぼ」と書かれているが、果汁の使用割合が表示されていない。
 そしてその代わりに「-196℃」、「いちご浸漬酒使用」または「佐藤錦浸漬酒使用・桜リキュール使用」と書いてある。
 どちらも-196℃で粉砕した果実を漬けたスピリッツを使用したようで、だから果汁の使用割合は表示できなかったらしい。ただ、普通に果汁を混ぜたチューハイとの味や香りの違いは、残念ながら筆者にはわからなかった。

 何しろ筆者は、ホップをたくさん使った苦いインディア・ペールエールビールを美味しく飲めてしまうような人間だから。
 そのせいで、どんなチューハイも糖類を使用していると、「甘すぎる」と感じてしまう。
 だが「ビールは苦いから好きじゃない」という人達も確実に存在するし、そんな人達の為に、この春いちごのような甘いチューハイがあっても良いと思う。

 で、思ったのが。
 筆者自身はウイスキーはストレートで飲みたい人間で、日本で人気のハイボールは好きになれない。
 しかし「ビールは苦くて厭だが、甘ったるいチューハイも苦手」という人に、ハイボールはぴったりなのかも知れない。
 甘くも苦くもなく、食事と一緒にゴクゴク飲める。
 そういう意味でハイボールは好まれるのだなと、甘いチューハイを飲んでふと思った。

PageTop

意外に面白い味の、ジムビーム・アップル

 ジンやウォッカなどに比べ、ウイスキーを使ったカクテルはそう多くない。
 実際、筆者はサントリーの角ハイボール缶を飲んで、「何と不味いんだ!」と驚愕したものである。
 いや、同じ角ハイボール缶でも、ウイスキーをただ炭酸水で割っただけの“濃いめ”の方は、筆者の好みからすればまだ薄めだが、まあ普通に飲める。
 しかしレモンスピリッツと食物繊維と酸味料を加えたレギュラーの角ハイボール缶の方は、個人的にひどく不味いものとしか思えない。
 ハイボールにレモンを添える店も少なくないし、それを「サッパリして、美味しい!」と誉める人がいる事もまた、筆者は知っている。
 だが筆者には、ウイスキーにレモンの味は全く合わないように思えてならない。

 で、そのレモン味を加えた角ハイボール缶を飲んだ経験から、筆者は「ウイスキーに果物の味は、基本的に合わないのではないだろうか」と思うようになった。
 だから行きつけの酒屋で、ジムビームにアップル味のリキュールを混ぜたジムビーム・アップルを見た時も、「とんでもないゲテモノ」と思ってしまった。
 ちなみにメーカーも、ラベルにはBEAM SUNTORYと描いてある。

ジムビーム・アップルP1110157

 値段も通常のジムビームより高いくらいだし、長いこと買わずに放置してきた。
 しかしそのくせ、何故かその存在がずっと気になり続けていた。
 で、「そんなに気になるなら、どれほど不味いか一度試しに飲んでみようじゃないか」という気になってしまった。

 そのようやく買った、ジムビーム・アップルだが。正確にはウイスキーではなくリキュール扱いで、度数も35%と、ジムビームや他の標準的なウイスキーより僅かに度数が低くなっている。
 封を切った途端に、林檎の香りが広がる。
 が、残念ながらこれは無果汁で、林檎のフレーバーは香料によるものだ。そして香料の他に、酸味料とカラメル色素も加えられている。
 しかし恐ろしいもので、知らずに飲めば「林檎をたくさん使っている」と思ってしまうだろう。
 ただ香料入りなのだと知って飲めば、どこか作り物っぽい味だと後知恵で言いたくなってしまうかも知れない。
 まあ、よくある香料入りのアップル・ジュースに似た香りだということだ。
 ただストレートのままだと香りはかなり濃厚で、そしてその林檎の香りの底に、僅かながらバーボンの香りもある。

 さて、ストレートのまま実際に飲んでみると、これが意外に悪くない味なのだ。
 角ハイボール缶はウイスキーらしさが薄い上に変な酸っぱさが加わって、この上もなく不味く感じられたが。
 しかしこのジムビーム・アップルは、バーボンのコクや濃い甘さと林檎の味と酸味が良い具合にマッチしている。
 度数は35%だから、オリジナルのジムビームとあまり変わらない筈なのだが。
 しかしこのジムビーム・アップルは、アルコールのツンとした刺激が少し気になったジムビームと違って、ストレートのまま気持ち良く、美味しく飲めてしまう。

 角ハイボール缶のレモン味はとても不味かったが、このジムビーム・アップルはなかなかイケる味だ。程良い甘さと林檎の味と香り、そしてその奥に感じられるバーボンの味わいとコクが非常によくマッチしている。
 思うに、これはバーボンがベースだからこそ良かったのではないだろうか。強い甘さと個性を持つバーボンだからこそ、アップル・リキュールの味と香りに負けずに良い味になったのだと、筆者は思う。
 もしこれがバーボンでなくスコッチやジャパニーズ・ウイスキーやカナディアン等だったら、アップル・リキュールの味と香りにウイスキーの風味が負けてしまっただろう。

 さて、このジムビーム・アップルの瓶には、トニックで割るかオン・ザ・ロックで飲むように書いてある。
 で、わざわざトニック・ウォーターを探すのが面倒だったので、近くのスーパーで炭酸水を買い、まずはハイボールにして飲んでみた。
 このジムビーム・アップル、ストレートでも意外に味わい深いが、ストレートではやや甘ったるく感じてしまう傾向もある。
 が、炭酸水で割るとその濃い甘さが無くなり、スッキリとした甘さになって美味しい。炭酸の力で香りも立つし、バーボンの味わいも残る。で、つい何杯もグイグイ飲んでしまう。

 この林檎味のジムビームのハイボールと、果物の味のチューハイとどう違うものか、試しに飲み比べてみた。
 はっきり言うが、果物味のチューハイは、ただ果物味のジュースにアルコールを加えただけだ。何しろアルコール分として加えられているスピリッツ(または焼酎)は無味無臭だから、酒としてのコクも味わいもない。
 しかしこのジムビーム・アップルのハイボールには、ウイスキーのコクと味わいがしっかりあり、チューハイとはまるで別物と断言できる。
 ジムビーム・アップルのハイボールは酒として美味いが、果物味のチューハイはただ「酔えるジュース」としか言いようがない。

 さらにこのジムビーム・アップルを、ロックでも飲んでみた。
 ロックにすると、氷で冷やされた分だけ香りが薄くなるが、それでもそれらしい香りは感じる。
 ストレートのままだと味も香りも濃厚なのが、氷が少し溶けてから飲むとちょうど良い感じになり、スッキリ爽やかだ。

 個人的には、ハイボールよりロックの方が好きだが。しかし日本人には、ハイボールが一番好まれるかも。
 断言するが、果物味のチューハイよりこのジムビーム・アップルのハイボールの方が、酒としてずっと美味しい。
 もちろん角ハイボール缶などより、こちらの方がずっと美味しいのも言うまでもない。

 ただ筆者個人は、このジムビーム・アップルをストレートのまま、嘗めるようにして濃い味と香りを少しずつ楽しむのが一番好きだ。
 しかしハイボールでもロックでも、人それぞれ好きなように楽しめば良いと思う。
 炭酸で割って良し、ロックで良し、ストレートで良しと、なかなか飲みやすいリキュール・ウイスキーだ。
 ウイスキーはキツいと敬遠している女性にも、是非お勧めしたい製品だ。

 しかし水割りだけは、あまりお勧めしたくない。
 甘く飲みやすい事に変わりはないが、香りもかなり薄まり、ウイスキーらしい味わいも殆ど無くなってしまうので。

 ウイスキーが大好きな筆者に言わせれば、この人工的に造った林檎味のウイスキーは毎日飲むようなウイスキーではないと思う。
 ただこのジムビーム・アップルは、普通のウイスキーを飲み続けた後で時折飲むと、味覚を良い意味で変えてくれるとても良い“変化球”になるのだ。
 正統派のウイスキーでは無いが、ちゃんとバーボンの風味も残っているし、それが林檎の味ととても良く合っている。
 いつも飲みたいとは思わないが、時々飲みたくなる面白いウイスキーもどきだと、筆者は思った。

PageTop

クラフトラベル柑橘香るペールエール

 缶に大きな字で[Craft Label]と書いてある、不思議なビールが店頭にあった。
 その文字の下に“柑橘香るペールエール”とは書いてあるものの、メーカー名は見当たらない。

クラフトラベルP1100592

 で、缶の裏面には、こう書いてある。

ビールのある日々に、
新鮮な驚きと楽しさを。
そんな思いを込めた、ちょっと前向きで
ハレやかな気分になれるビールです。
フレーバーホップが織りなす
柑橘の香りと、
個性的なのに親しみやすい
味わいをお楽しみください。


 ……なかなか旨そうじゃないか。

 で、缶の横をよく見てみると、小さな目立たない字で「販売者:ジャパンプレミアムブリュー株式会社、製造者:サッポロビール株式会社」と書いてある。
 奇妙な事に、この販売者のジャパンプレミアムブリューと製造者のサッポロビールは、どちらも会社の所在地が「東京都渋谷区恵比寿4-20-1」になっている。
 ついでに言えば、製品についてのお問い合わせ先は販売者のジャパンプレミアムブリューでなく、製造元のサッポロビールお客様センターになっている。

 会社の所在地は同じなのに、なぜ販売元と製造元を分けなければならないのか、なぜ堂々とサッポロビールと大きく書いて売り出さないのか、そのあたりの事情はよくわからない。
 だがとりあえず、クラフトラベルとして売られているこのビールは、サッポロビールの製品である事は間違いないようだ。

 実は筆者は、缶の裏面の宣伝文句を見て「買って飲んでみよう!」と思った。
 これがサッポロビールの製品だと気付いたのは、家に買って帰って、缶の横の細かい字までとっくりと見てからの事である。

 このクラフトラベル柑橘香るペールエールのプルタブを開けた途端に、柑橘の華やかな香りがあたりに広がる。
 グラスに注ぐと、色はウイスキーのような美しい琥珀色だ。
 口をつけると、しっかりとした、しかし心地良いホップの苦味と香りを感じる。しかしただそれだけでなく、麦の甘味も感じる。
 コクがあり、ホップがただ苦いだけでなく魅惑的な香りと深い味わいを楽しめる。そして後味もとても爽やかだ。

 実はこの製造者がサッポロビールで販売者がジャパンプレミアムブリューのCraft Labelには、他にHello! ヴァイツェンというビールもあって、これもなかなかに旨い。個人的には、サントリーのプレミアムモルツ・香るエールより好きなくらいだ。
 で、この同じCraft Labelの柑橘香るペールエールとHello! ヴァイツェンを比べてみると、Hello! ヴァイツェンは苦味がほのかで甘く軽やかで、かつ香りも華やかで飲みやすい。それに対し柑橘香るペールエールの方がホップが効いていて正統派のビールにより近く、飲みごたえもこちらの方がある。
 しかしどちらにしろ、Craft Labelの柑橘香るペールエールとHello! ヴァイツェンはどちらもかなり出来が良く、ビールはゆっくり、じっくり味わって飲みたい筆者などは、「同じサッポロのヱビスより間違いなくこちらの方が旨いし、好きだ!」と思ってしまう。

 誤解しないでほしいが、ヱビスは国産の大手メーカーのビールとしてはかなり好きだ。
 しかしそのヱビスより、このCraft Labelの柑橘香るペールエールとHello! ヴァイツェンの方が美味しくて出来が良いと、筆者は個人的に思う。

 日本は蒸し暑いから仕方のない事なのかも知れないが、日本には「ビールは暑さをしのぎ喉の渇きを癒す為に、キンキンに冷やして喉越しでゴクゴク、プハーッと飲むもの」と信じている人が多すぎる。
 確かに暑い時には、筆者も軽めで安い新ジャンル酒をゴクゴク飲む事もある。
 しかし日本も熱帯ではないのだから、キンキンに冷やしたビールを喉越しで飲んで美味しいのは、夏から秋の初めまでのせいぜい四ヶ月くらいではないだろうか。
 冬には、この日本だって氷点下になるし、雪も降る。そんな時期に凍えながらキンキンに冷やしたビールを喉越しで飲んで、本当に旨いのかと筆者は疑問に思う。

 はっきり言うが、筆者は下戸だ。
 本当の話だが、日本酒を杯に一杯飲んだだけで顔が赤くなってしまう。
 よく、「健康に良い酒の適量は、ビールなら500mlで日本酒は一合、ウイスキーはダブル(60ml)で焼酎は120ml」と言われるが。
 筆者はそれだけ飲めばもう顔が真っ赤になり、足元も怪しくなってくる。そしてそれ以上飲むと、すぐ頭が痛くなってくる。
 その適量を超えて飲めば二日酔いになるし、二日酔いはとても苦しい。
 酒飲みの中には、「酒は飲んで吐いて強くなるものだ」という馬鹿がいるが。
 ほろ酔いの気持ち良さは、筆者にもよくわかる。
 しかし吐いて酷い頭痛に苦しんでまで酔っぱらいたい酒飲みの気持ちが、筆者には全くわからない。
 二日酔いに苦しみつつまだ飲む人を見ると、「オマエはマゾか?」と言いたくなる。

 そのくらい酒に弱いせいか、筆者は酒をゴクゴク一気に飲むのを好まない。
 だから大好きなウイスキーもストレートなどの濃い状態でチビチビ飲む事が多く、日本で流行っているハイボールはどうしても好きになれない。

 そういう人間だから、筆者は付き合いの飲み会で喉越しで飲むように作られた国産の大手メーカーのビールばかり飲まされて、ビールがずっと好きになれずにきた。
 特に国産の大手メーカーの、米やらコーンやらスターチなどの糖質副原料を混ぜ込んだビールなど、暑くて喉が渇いている時にキンキンに冷やして一気飲みするのでなければ、とても飲めないシロモノだ。
 喉越しが売りの副原料入りのビールを、少しぬるくなった状態で飲んでみてごらん。本当に不味いから。

 それが海外や日本の小さな会社が造ったエールビールを飲んで、「ビールって、こんなに香り高く味わい深くて美味しいものなのか!」と驚かされた。
 本当に良いビールは、キンキンに冷やすのではなく程良く冷たい程度で飲むと本当に美味い。
 ビールも含めて酒というものは、冷やし過ぎると香りが薄くなってしまうのだ。だから不味いビールはキンキンに冷やさないと厭な臭いと変な味が出て来てしまうし、本当に旨いビールは10~13℃くらいで香りが豊かになり、キンキンに冷やし過ぎるとせっかくの香りが台無しになってしまうのだ。

 筆者は酒に弱いから、後で苦しむとわかっていながら酔っ払うまで酒を飲むのは嫌いだ。
 良い酒を、ゆっくり、じっくり味と香りを楽しみながら、ほろ酔い程度に飲むのが筆者の流儀だ。
 だから日本の大手メーカーが作る喉越し重視の、味も香りも薄いビールをガブガブ飲むのも大嫌いだ。
 それだけに、このCraft Labelのように香り高く味わい深い、ゆっくり、じっくり飲んでこそ美味しいビールが、サッポロビールのような大手メーカーからも出された事を、とても嬉しく思う。

 まだ飲んでいないが、サントリーもプレモル香るエールの他に、CRAFT SELECTペールエールというのを出している。
 サッポロビールのCraft Label柑橘香るペールエールと同じで、これも「柑橘を思わせる爽やかな香りと心地よい苦味」が売りだと言う。

 暑い夏に喉が渇いた時の為に、喉越しで飲む従来の日本のビールがあっても良いとは思う。
 しかし日本もいつも暑いわけではないし、飲む人もいつも喉が渇いているわけではない。
 日本ではスーパードライのようなビールが人気だが、ビールの通にスーパードライは「最初の一杯こそ美味いが、二杯、三杯と飲むにつれて不味くなる」とも言われているわけを、日本のビール飲みにも少し考えてもらいたいものだ。
 いくら暑い夏でも、キンキンに冷えていないと不味くなるスッキリ系の薄いビールを、そう何杯も美味しく喉越しで飲み続けられるものではない。
 日本人もそろそろ「ビールは喉越しで、ゴクゴク、プハーッ飲むもの」という思い込みは捨てて、適度に冷やしたビールを、ゆっくり、じっくり味わって飲むことも知ってほしいと思う。

 ぬるめのビールというと、不味そうだと思う日本人は多いだろう。
 で、そのぬるめのビールを喉越しでなくゆっくり飲むなど、想像するだけでゾッとするというビール飲みが、日本には少なからずいるのではないだろうか。
 だが実は、本当に旨いビールはややぬるいくらいでより香り高く味わい深くなるのだ。
 暑くてしかも喉が渇いていれば、キンキンに冷やしてありさえすれば新ジャンル酒だって美味しく感じる。
 そのビールが本当に旨いかどうかは、ややぬるくなった時点で、喉も渇いていない状態でじっくり味わって飲んで初めてわかるのだと、筆者は思う。

 これは好みの問題だろうが、筆者は日本の大手メーカーの副原料入りのビールは「本当に不味い!」と思っている。
 だからサッポロやサントリーが、副原料を使わない香り高くて味わい深いビールを出してくれようとしている事を、心から歓迎したい。

 日本の夏は蒸し暑いとは言え、秋の半ばから春の終わり頃まではそう暑くはない筈だ。
 何故そんな時期にもビールはキンキンに冷やして喉越しで飲まねばならないのか、皆さんは不思議に思ったことは無いだろうか。
 麦芽とホップだけで造ったクラフト系のビールの多くは、喉越しで飲むには確かにやや重い。
 しかし喉越しで飲むには苦くて重いビールも、キンキンに冷やすのでなく程良く冷やせば香りも立つし、ゆっくり、じっくり飲めばまた違う豊かな味わいが感じられる筈だ。

 暑い夏はともかく、せめて秋の半ばから春の終わり頃までは、ビールをキンキンに冷やして喉越しで一気に飲むのは控えたらどうだろうか。
 あまり冷やし込まずに、ゆっくり、じっくり飲んで美味しいビールの存在を知ると、「ビールは暑い時に喉越しで飲んでこそ美味しいよね」などと言えなくなる。
 筆者は香り高く味の濃いエールビールを、真冬にも楽しんで飲んでいる。
 と言うより、「暑い時に喉の渇きを癒す為に喉越しで飲むなら、麦茶で充分」と思っている。

 それはともかく、販売者がジャパンプレミアムブリューで製造者がサッポロビールのCraft Labelは、ヤッホーブルーイングのエールビールにも負けない、なかなか良いビールだ。
 出来ればこれをうっかりキンキンに冷やして喉越しで一気に飲んだりせず、ゆっくり、じっくり味わって飲んでみてほしいデス。

 繰り返すけれど、「ビールはみなキンキンに冷やすもの」というのは間違いだから。
 キンキンに冷やすべきビールは、大手メーカーのビールに多いラガー系で副原料入りの、味も香りもライトなやつだけだ。
 香りの良さが特徴のビールをキンキンに冷やすと、その香りの良さが半減してしまいマス。
 エールビールなど、程々に冷やしゆっくりじっくり飲んでこそ美味しいビールもあるのだという事を、もっと多くの日本の人に知ってもらいたいと、切に願う。

PageTop

バランタイン12年

 諸事情があって、東京にはたまにしか行けないのだが。
 その数年前に東京に行った時、帰る直前に妙にウイスキーが飲みたくなった。
 で、乗る高速バスの時間も迫っていたので、東京駅の売店でウイスキーの小瓶を買った。
 50ml入りのミニチュアボトルなのに、とても高かった。
 何年も前の事だから正確な値段は覚えていないが、一本(繰り返すが50ml)で千円近くした。
 それが、バランタイン12年ことブルーラベルとの初めての出逢いだった。

 何しろ疲れていたし、乗り心地も良いとは言えない高速バスに揺られながらだから、ゆっくり、じっくり味わうゆとりも無かったが。
 それでもとても美味しく飲みやすくて、50mlの小瓶などすぐに飲み干してしまった。

 で、そのバランタイン12年を、700ml入りの通常の瓶を買ってじっくり飲み直してみた。

バランタイン12年P1110138

 キャップを開けると、甘く豊かな、そして僅かにスモーキーな香りが漂う。
 口に含むと、滑らかで優しい味わい。
 甘くクリーミーで、舌の上で転がすと花の蜜を吸っているような上品な甘さを感じる。
 そしてそのハニーな甘さは、次第に清涼感のある心地良いスパイシーさに変わる。
 飲み下した後の余韻は、それなりに長く続く。アフターフレーバーは品の良い甘さと、そして僅かなスモーキーさだ。
 飲んでいる間はスモーキーさを感じないのだが、飲み干した後の息にスモーキー香が絶妙な残り香として残る。

 男性で、香水の匂いをプンプンさせた女性が好きな人はそう多くないだろう。
 実は筆者も、化粧の濃い香水臭い女性は好まない。
 しかし近付いても全く化粧臭くなく、なのに通り過ぎた瞬間に良い香りがほのかに残る女性にはドキッとして、思わず振り向いてしまう。
 このバランタイン12年のスモーキー香は、ちょうどそんな感じの魅惑的なスモーキーさだ。

 このバランタイン12年は、トワイスアップでもそれなりに飲める。甘さがより引き立つし、アルコールの刺激も全くなくなり、まろやかでとても飲みやすくなる。
 が、トワイスアップにすると同時にビターさも出てくる感じだ。そして味も香りも薄くなり、アフターフレーバーも長く続かなくなる。
 個人的には、ストレートで飲むのが一番ではないかと思う。その方が、味も香りもずっとギュッと凝縮された感じで魅力的だ。

 シーバスリーガル12年ジョニーウォーカーの黒とも飲み比べてみたが、このバランタイン12年が味も香りも最も繊細な感じだ。
 シーバスリーガルの方がよりフルーティーで香りが華やかだが、「匂いがキツ過ぎ」と言う人もいる。
 確かにシーバスリーガルは「色っぽい大人の女性」と言う感じで、筆者も含めて好きな人は好きになるのだが、清楚で控え目な女性が好みの方には、少々色気過剰で派手過ぎに思えるだろう。

 そう、バランタイン12年は清楚で控え目な美人そのものなのだ。
 例えばジョニ黒も良い味と香りだが、ピート香がはっきりしていて、いかにも「スコッチです!」という自己主張がある。
 好きな人は大好きになるのだが、スモーキーさが苦手な人はあまり好きになれないかも知れない。
 甘さもバランタイン12年はハニーで上品なのだが、ジョニ黒はしっかりとした甘さを感じる。

 バランタイン12年は、バランスが本当に良く取れている優しいスコッチだ。
 初めは柔らかに甘く、そしてビターさやスパイシーさも続いて適度に出てくる。そして最後のアフターフレーバーにほのかにスモーキー香が残る。
 スコッチのいろいろな味わいが、最良のバランスの上にすべて備えられているという感じだ。

 筆者は10年以上貯蔵したシングルモルトと12年以上貯蔵したブレンデッドに不味いものはほぼ無いと思っている。
 そこにあるのは、まあ大体は個人的な好き嫌いであろう。
 で、シーバスリーガル12年とジョニ黒については、「好き嫌いが、それなりに分かれるだろうな」と思った。
 事実、筆者の知人にもシーバスリーガルの長く続く濃い香りを「しつこい、好きじゃない」と言った人がいた。
 そしてジョニ黒についても、その骨太で男性的な味わいをキツいと感じる人もいるだろう。
 その点で、このバランタイン12年については「嫌いとか苦手だとか言う人は、まずいないだろうな」と感じた。

 筆者自身は、シーバスリーガル12年もジョニ黒も大好きだし、喜んで飲むが。
 しかしもし他人に12年モノのブレンデッド・ウイスキーを贈るとしたら、筆者なら間違いなくこのバランタイン12年を選ぶ。

 氷で冷やすと香りが弱くなるし、バランタイン12年は繊細だからロックで飲む気にはなれず、またトワイスアップですら薄く感じたので、ハイボールも試してみることなく、筆者はひたすらストレートでこれを飲んでいる。
 滑らかで優しい味のウイスキーなので、チェイサーも少ししか要らず、ストレートで気持ち良く飲めてしまう。
 しかし強いクセも無くバランスも良く取れているので、日本人が大好きなハイボールにしたらグイグイ飲め過ぎてしまうのではないだろうか。

 結論としては、ストレートで気持ち良く飲める、バランスの取れたとても良いスコッチだ。
 ただ一つ文句を付けるとしたら、バランタイン・ファイネストとの質の差だ。
 ジョニーウォーカーの場合、赤と黒には味や香りに似通った部分がはっきりあって、ジョニ赤は「ジョニ黒の廉価版」という感じが強くある。
 しかしバランタイン・ファイネストには、12年の弟分と言えるような似通った部分があまり感じられないのだ。

 いや、バランタイン・ファイネストも、スタンダード・スコッチとしてはかなり良く出来たウイスキーだ。
 しかし一度12年をしっかり味わって飲んでしまうと、「ファイネストはもう飲まなくても良いかな、12年があれば充分だし」という気持ちになってしまうのだ。
 ジョニ赤には、ジョニ黒の血を引いた廉価版の弟分という存在価値があるのだが、バランタイン・ファイネストはその“12年の弟分としての血”が少し薄いように感じられる。

 そう言えば、ディスカウント系の大型酒店では、バランタイン・ファイネストはジョニ赤など他のスタンダード・スコッチより少し安い値段で売られていることが少なくない。
 少しでも安くする為に味を落とすより、他のスタンダード・スコッチと同じか少し高いくらいの値段にしてでも味を良くした方が、結局はバランタインの為になると思うのだが、どうだろうか。

PageTop